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マネーロンダリングと企業犯罪

2024-05-03

テロや国際犯罪に対応するため、マネーロンダリング(資金洗浄)の防止が私企業にとっても重要となっています。
ここでは、マネーロンダリングについて解説します。

マネーロンダリングとは

マネーロンダリングについては、「マネー・ロンダリング(Money Laundering:資金洗浄)とは、一般に、犯罪によって得た収益を、その出所や真の所有者が分からないようにして、捜査機関等による収益の発見や検挙等を逃れようとする行為を言います。このような行為を放置すると、犯罪による収益が、将来の犯罪活動や犯罪組織の維持・強化に使用され、組織的な犯罪を助長するとともに、これが移転して事業活動に用いられることにより健全な経済活動に重大な悪影響を与えることから、国民生活の安全と平穏を確保するとともに、経済活動の健全な発展に寄与するため、マネー・ロンダリングを防止することが重要です。」と説明されています。
参照
JAFIC「マネー・ロンダリング対策の沿革」

マネーロンダリングでよくみられる方法は、薬物取引や組織犯罪により得られた犯罪収益を、無関係のように思われる銀行口座に送金するなどして、犯罪収益と特定できなくすることです。
このようなことをされると、そもそも犯罪収益を発見できなくなりますし、たとえ見つけたとしても没収などで取り上げることが困難になります。
結果、次の組織犯罪やテロなどの資金源となってしまうのです。このような事態を防ぐために、マネーロンダリングそのものを防止することが重視されています。

特定事業者による措置

「犯罪による収益の移転防止に関する法律」(犯収法)では、銀行や保険会社などを「特定事業者」と定めています(犯収法第2条第2項)。
特定事業者は、犯収法の別表に定める特定業務のうち特定取引を行うに際しては、本人特定事項などを確認しなければなりません(犯収法第4条第1項)。
顧客等や代表者等は、特定事業者がこの取引時確認を行う場合、その特定事業者に対し、取引時確認事項を偽ってはなりません(同法第4条第6項)。特定事業者は、顧客等がこの取引時確認に応じなければ、応じるまでの間、その取引等に係る義務の履行を拒むことができます(同法第5条)。
そして、特定事業者は、特定業務に係る取引について、当該取引において収受した財産が犯罪による収益である疑いがあるかどうか、組織犯罪処罰法や麻薬特例法に定める犯罪収益の隠匿を行っている疑いがあるかどうかを判断し、これらの疑いがあると認められる場合には、行政庁に届け出なければなりません(同法第8条第1項)。

行政庁は、特定事業者がこれらの規定に違反していると認めるときは、当該特定事業者に対し、当該違反を是正するため必要な措置をとるべきことを命ずることができます(同法第18条:是正命令)。
なお、犯収法第2条第2項の「特定事業者」には弁護士も含まれます(同項第45号)が、取引時確認等や疑わしい取引の届出等の義務を負う者からは除かれています(犯収法第4条第1項)。

弁護士の職務は依頼人との信頼関係が根幹となっており、依頼人に犯罪があると思料したら通報せよなどという義務を課されては、信頼関係など築くことができず、弁護が成り立たなくなるためです。
一方で、社会正義の実現を使命とする弁護士としては、マネーロンダリングに利用されるような事態は防がなければなりません。そこで、「政府及び日本弁護士連合会は、犯罪による収益の移転防止に関し、相互に協力するものとし、」日弁連会則で定めるところにより、本人特定事項の確認等が行われます(同法第11条第1項)。各弁護士も「本人特定事項の確認」などを徹底し、犯罪収益からは弁護士費用の支払いを認めない旨を委任契約書に明記する、などの対策をとってマネーロンダリングに利用されないようにしています。

マネーロンダリングに対する処罰

犯罪収益等の取得若しくは処分につき事実を仮装し、又は犯罪収益等を隠匿した者は、10年以下の懲役若しくは500万円以下の罰金に処され、又はこれを併科されます(組織犯罪処罰法第10条第1項)。
また、情を知って、犯罪収益等を収受した者は、7年以下の懲役若しくは300万円以下の罰金に処され、又はこれを併科されます(同法第11条)。法人の代表者や使用人が法人の業務に関してこれらの罪を犯したときは、行為者だけでなく、法人もそれぞれの条項に定められた罰金刑を科されます(同法第17条)。

薬物犯罪に係る犯罪収益については「国際的な協力の下に規制薬物に係る不正行為を助長する行為等の防止を図るための麻薬及び向精神薬取締法等の特例等に関する法律」(麻薬特例法)により同様に処罰されます。薬物犯罪収益等の取得若しくは処分につき事実を仮装し、又は犯罪収益等を隠匿した者は、10年以下の懲役若しくは500万円以下の罰金に処され、又はこれを併科されます(同法第6条第1項)。
また、情を知って、薬物犯罪収益等を収受した者は、7年以下の懲役若しくは300万円以下の罰金に処され、又はこれを併科されます(同法第7条)。法人の代表者や使用人が法人の業務に関してこれらの罪を犯したときは、行為者だけでなく、法人もそれぞれの条項に定められた罰金刑を科されます(同法第15条)。


犯収法は、マネーロンダリングにつながる危険性の高い行為を処罰します。前述の是正命令に違反したときは、当該違反行為をした者は、2年以下の懲役若しくは300万円以下の罰金に処し、又はこれを併科します(犯収法第25条)。法人の代表者や使用人等が法人の業務に関してこの違反行為を行った場合、法人も3億円以下の罰金刑を科されます(同法第31条第1号)。
また、顧客等又は代表者当の本人特定事項を隠蔽する目的で、取引時確認に際し取引時確認事項を偽ったときは、当該違反行為をした者は、1年以下の懲役若しくは100万円以下の罰金に処し、又はこれを併科します(同法第27条)。法人の代表者や使用人等が法人の業務に関してこの違反行為を行った場合、法人も同じ罰金刑を科されます(同法第31条第3号)。

弁護を受けられなくなる?

上記のように、現在においては、弁護士には法律上本人特定事項等の確認や疑わしい取引の届出は義務づけられていませんが、日弁連の会則にのっとり、「本人特定事項の確認」などを徹底し、マネーロンダリングに利用されないようにしています。
そのため、マネーロンダリングの疑いがある状況では、弁護士への依頼も困難となってしまいます。

まとめ

このように、企業がマネーロンダリングに関わったとみなされると、重い刑罰を科されるなど大変な不利益をこうむります。そのため、このようなマネーロンダリングが行われないようにすることが大切です。
マネーロンダリング対策,防止にお悩み・お困りの方は、こちらから弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所までご相談ください。

【事件解説】同族会社の違法な乗っ取り事件について詳しく解説

2024-04-30

同族会社の違法な乗っ取り事件について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が具体例を交えながら詳しく解説します。

事件の概要

甲は、ある飲食店を経営する株式会社のα社(創業昭和60年)の代表取締役であり、長男Aと次男Bがそれぞれ同社の取締役を、Aの妻が監査役を務めていました。令和5年の春頃になると、甲が認知症と診断され施設に入所することとなり、実質的な経営は、AとBが共同で行うことになりました。なお、同社は資本金1000万円、持ち株比率は、甲が50パーセント、A、Bがそれぞれ25パーセントであり、株式について譲渡制限のある非公開の中小企業です。
最初の頃は、AとBが協力しあい経営も順調でしたが、同年秋頃から、AとBとの間で、α社の経営方針について激しく対立するようになっていきました。その後、甲の認知症はますます悪化し、もはや、A、Bが自分の実子らであることさえ認識できない状況に陥っていたのですが、年が明けた令和6年1月の小正月も終わったころ、突然、Bは、Aから「もうお前はうちの会社の役員でも何でもないし、仕事に来なくいていいから。」と言われたのです。寝耳に水のBは、これを聞いて大変に驚き、Aに説明を求めますが全く相手にしてくれません。
さて、Bはどうすればいいでしょうか(実在しないフィクションの事案です)。

解説

そもそも、Bの身には一体何が起きたのでしょうか。

α社は、資本金1000万円で、株主の甲、A、Bの3人の親族で同社の発行済株式の100パーセントを保有しています。法人税法上、会社の株主等の上位3株主グループが、その会社の発行済株式総数の50パーセントを超える株式を保有している場合、その会社を同族会社といいます。α社は、まさにこの同族会社に当たるわけです。この同族会社というのは法人税法上の分類ですが、こうした同族会社は、税法上の取り扱いとしてだけではなく、事実上も様々な特徴があります。そのうちの一つが、本事例で紹介したような親族間による違法な乗っ取りリスクです。

通常、定款に特別の定めがなければ、議決権の過半数を有する株主が出席する株主総会で、出席株主の議決権の過半数が、取締役の解任に賛成したときに、その取締役の解任が可能となります(会社法339条1項、341条)。

ご紹介した事案で、Bの取締役を解任するためには、α社の持ち株を25パーセントしか保有していないAの単独では、Bを適法に解任することは困難です。Bを解任するには、甲の50パーセントの持ち株をBの解任決議の議決権に加算する必要があるわけです。ところが、甲は認知症が悪化してAとBが自分の息子であることさえ認識できない精神状態になっていたわけですから、議決権行使などできるはずがありません。

結局、Aは、Bを経営から排除するために、勝手に臨時株主総会を開いたことにして、甲とAで、Bの取締役を解任する決議について賛成した議決権を行使した臨時株主総会議事録等を偽造し、Bの取締役の解任についての登記申請をしていたわけです。

Aに対する責任は

Aは、実在しない臨時株主総会議事録を勝手に作成し、その内容も、まともな意思表示さえできない甲が、Bの取締役解任決議について賛成する議決権を行使したとする虚偽の事実を記載しています。
このような書面等を作成し、これを登記申請のために法務局に提出する行為は、有印私文書偽造・同行使という犯罪に当たり、その法定刑は3月以上5年以下の懲役となります(刑法159条1項、161条1項)。また、さらに、これによって、法務局において真実と異なる商業登記の記録がなされるなどした場合は、公正証書原本等不実記録という罪に問われ、その法定刑は5年以下の懲役又は50万円以下の罰金となります(刑法157条1項)。

民事責任としても,Aは、Bに対し、上記犯罪行為について不法行為責任を問われ、損害賠償責任を負うことになります(民法709条)。

Bは、どのような対応をとるべきでしょうか

Bは、Aによる違法な会社の乗っ取り行為の兆候などに気付いたら、直ちに弁護士に相談し、適切な対応をとるべきです。
登記申請がされているとすれば、まずは登記手続を止める必要があります。そのためには、訴訟などという悠長なことはやっていられません。
真実と異なるとは言え、一旦、不実の登記がなされてしまえば、長期間に及ぶ訴訟で結果が出るまで、その登記はそのまま維持をされてしまいます。また、民事訴訟においては、原則として主張する側に立証責任があるため、そこに正義と真実があったとしても、仮に立証に失敗すれば負けてしまいます。

そんな憂き目をみないためにも、まずは仮処分です。仮処分とは、訴訟に先立ち短期間で裁判所の仮の判断を得て、登記手続を止める(却下など)ことができます。仮処分は裁判所の暫定的な判断ではありますが、極めて迅速かつ強力な効果を持っています。ただし、この仮処分は、被保全権利といって、守られるべき権利の特定や仮処分の必要性やその疎明資料(証拠資料となりうるもので裁判官に一応確からしいとの心証を与える資料)の収集など高度な法律的な判断や処理が必要となります。

また、他方で、この仮処分の手続と並行して、上述した刑事責任の追及という観点から、必要に応じて、刑事告訴・告発などの手続を進めていくことになります。

こうした法律的に高度な判断と処理をしていくためには、これらのことに精通した弁護士に依頼することが必要となります。
あいち刑事事件総合法律事務所には、これらのことに精通した弁護士が多数在籍しております。このような事態にいたったときは、是非、弊所にご相談ください。

HPのかたはこちらからお問い合わせいただけます。

法務問題へのコンプライアンス体制の構築①

2024-04-28

【事例】
Aさんは、佐賀県唐津市で水産加工業を営む会社であるⅩ社の従業員です。
Ⅹ社では、インターネットでの通販を利用して自社の水産加工品を日本全国に販売することを目指しています。しかし、Ⅹ社は、これまで自社の直売所での販売と地元の小売店への販売しかしていませんでした。そのため、インターネット通販のサイトを開設する必要もあると考えていますし、購入された水産加工品を安全に消費者に届けなければいけませんし、消費者への輸送手段も確保せねばなりません。
このような山積する課題に対応する一環として、Ⅹ社では法務部を新設することになり、Aさんがそこの責任者となりました。
Aさんが法務部の責任者として最初に会社から指示された仕事は、X社のコンプライアンス体制を構築することでした。しかし、Aさんは弁護士資格を有しているわけではありませんでした。また、X社にはこれまで顧問として付いてもらっていた弁護士もいません。
そこで、Aさんは、Ⅹ社のコンプライアンス体制を構築するにあたって、あいち刑事事件総合法律事務所に相談することにしました。

1 コンプライアンスとは

コンプライアンス体制を構築する大前提として、まずはコンプライアンスとは何かについて解説していきます。

コンプライアンス(compliance)とは、一般的に「法令遵守」と日本語訳されることが多いです。
「遵守」とは、決められたことを守ることです。

それでは、コンプライアンスとは、法令、つまり、法律を守ることだけを指すのでしょうか。
現在、コンプライアンスという言葉で求められているのは、単に法律を守ることだけではなく、社会規範や社会道徳などといったものまで含めて、そういったルールを守ることだと解されているように思われます。
より具体的には、民法労働基準法会社法刑法といった法律だけではなく、就業規則などといった会社内で定められているルールはもちろん、職務上守るべき企業倫理道徳規範をも守ることが求められているように思われます。

2 コンプライアンスが強く求められるようになった背景

コンプライアンスが強く求められるようになった背景としては、言葉自体が世間一般に浸透しているかは別として、企業の社会的責任(CSR)という考え方が浸透してきたことが挙げられるでしょう。

例えば、発展途上国の児童が、学校に行くこともできずに、コーヒー農園で働いていて、その商品を安価で購入している企業がいた場合に、その企業の姿勢に疑問を持つ人々も増えてきているのではないでしょうか。
フェアトレードをすべきだという問題としても知られてきています。

また、国内に目を移しても、長時間労働を強いる会社、いわゆるブラック企業に対する非難の目も強まってきているのではないでしょうか。

このような社会全体としての意識の積み重ねが、企業の社会的責任(CSR)を求める風潮に繋がり、そのような責任を果たしていない場合に、コンプライアンス違反であるとして社会から非難される事態を招いているのではないでしょうか。

もちろん、企業は、根本的には事業を通じて利益を追求する組織です。
利益を追求すること自体は問題があるわけではありません。
しかし、利益を得る、特に継続的に利益を得るためには、取引相手やその先にいる一般消費者の意思を無視するのは得策ではないのではないでしょうか。
その意味でも、コンプライアンスは重要だといえるでしょう。

今回は、コンプライアンス体制の構築に関して、コンプライアンスとは何かなどについて解説していきました。この続きは今後の記事で解説していきます。

弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所では、刑事事件に関わってきた経験を活かし、そもそも会社内で不祥事を起こさないための対応・アドバイスにも力を入れています。
コンプライアンス体制の構築などについてアドバイスをご希望の方は、一度、あいち刑事事件総合法律事務所にこちらからご相談ください

風俗営業の名義貸しを疑われないために

2024-04-26

事例

Aさんは、キャバクラの経営者です。
ある日、Aさんの店の元従業員BさんがAさんのお店から独立して似たようなお店を作りました。AさんとBさんは、仲が悪くて離反したというわけではなく、お互い独立して営業をしていました。
しかし、ある日、Aさんは、自分たちと同じように、従前のキャバクラから独立して新規店舗を作ったCさんとDさんが風俗営業法の名義貸し規制違反で逮捕されたことを知りました。自分たちも逮捕されるのではないかと不安なAさんとBさんは、どうすれば良いでしょうか。
なお上の事例はフィクションです。

風営法違反の名義貸しとは

今回Aさんが逮捕された名義貸しは、一般的に風営法風俗営業法と言われている法律で規制されている行為です。AさんとBさんの関係でいう名義貸しとは、風俗営業の許可を受けた者が自ら風俗営業等を営むことなく他人にこれを営ませることです。

報道などで耳にしたことがある方も多いのではないでしょうか。
参考:キャバクラ無許可営業、ユーチューバーの女逮捕…2年で8億円以上売り上げか

例えば、風俗営業法違反で前科があるXさんは自分では風俗営業の許可をとれないので代わりにYさん名義で許可を取らせて、実際の運営はXさんがしていたというような事案であれば、明らかな名義貸しとして摘発されても仕方ないでしょう。

今回のAさんやBさんが名義貸しとして逮捕されないためには、「Bさんの名前で風俗営業の許可が取られているけど、Bさんは名ばかりで、Aさんが実質的な経営者なのではないか」と警察に疑われないようにする必要があります。
そして風俗営業法の名義貸し事案でメインとなる主要な捜査事項は、だいたい決まっています。
先にあげたXさんの事例のような風俗営業法違反の前科の有無というのはとても大きいです。
そのほかにも、Bさんの店との関係で営業方針の決定をしていたのはAさんかBさんか、AさんやBさんはBさんの店で仕事をしていたのか否か、お金の管理をしていたのは誰か、AさんやBさんは普段何と呼ばれていたか、取引先と商談をしていたのはどちらか、といった事項が調べられていきます。
したがって、AさんやBさんとしては、Bさんの店の経営にはAさんがタッチしない客観的状況を作ることが大切です。Bさんの店の取引先とは、AさんではなくBさんが対応するべきです。またBさんの店で得られた利益は、AさんではなくBさんのものになるはずなので、Aさんにはお金が回らないようにするべきです。
もっとも、Bさんが店を作るために、Aさんがお金をBさんに貸してあげているような場合には、Bさんの店の利益が一部Aさんに還流されることもありうるでしょう。
このようにお金が流れる場合には、借用書や領収書のような書類やメールやラインといった履歴を残して、何のお金なのかしっかり説明できる状態にしておく必要があります。
ただし、風俗営業法は難しい法律なので、どこから違法で、どこまでなら違法でないか、どういう状況であれば名義貸しでないと説得的に言い張ることができるか、難しいところがあります。そこで、風俗営業法に精通した弁護士と顧問契約を締結して、日頃から何かあった際に打合せができるよう準備しておくことが大切です。

弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所では、風俗営業法違反という難しい事案でも弁護の経験を豊富に有しております。名義貸し含め風俗営業法違反で捜査を受けた場合には、ぜひこちらからご相談ください。お電話の方は0120-631-881か03-5989-0893までお問い合わせください。
弊所の顧問契約についてはこちらもご参考下さい。

押収された会社所有のパソコンを返してもらえる? 押収物の還付請求について

2024-04-23

事例

A社は派遣業を営んでいました。A社では社員に対してパソコンを貸与しており、その中には派遣先の企業や登録者のデータが保存されていました。
A社の社員であるBさんは、通勤中の電車内でスマホを使用して盗撮を行っており、撮影したデータをあろうことか会社で貸与していたパソコンに保存していました。
Bさんは、ある日盗撮をしていた現場で現行犯逮捕されてしまいました。
その後Bさんが盗撮していた動画を会社で貸与されたパソコンに保存していたことを自白したため、A社に捜索が入りBさんに貸与していたパソコンを盗撮事件の証拠品として押収していきました。
Bさんは、その後勾留されずに在宅捜査に切り替わりましたが、それから2か月たっても証拠品であるパソコンは返却されないままでした。
A社の代表は、このままパソコンが返されなければ業務に支障が出るとして、あいち刑事事件総合法律事務所の弁護士に対応を相談しました。
(事例はフィクションです)

証拠品の返還を求める手続について

刑事事件があった場合に、証拠として物品を押収(捜査機関の手元に置いておくこと)することについては刑事訴訟法に根拠が書かれています。
そして、押収された証拠品の返還を求める手続きについても刑事訴訟法に規定があります。
このような押収された証拠品の返還を求める請求のことを、証拠品の還付請求と言います。還付請求に関する根拠条文は以下の通りです。

刑事訴訟法第123条
1項 押収物で留置の必要がないものは、被告事件の終結を待たないで、決定でこれを還付しなければならない。
2項 押収物は、所有者、所持者、保管者又は差出人の請求により、決定で仮にこれを還付することができる。
3項 押収物が第110条の2の規定により電磁的記録を移転し、又は移転させた上差し押さえた記録媒体で留置の必要がないものである場合において、差押えを受けた者と当該記録媒体の所有者、所持者又は保管者とが異なるときは、被告事件の終結を待たないで、決定で、当該差押えを受けた者に対し、当該記録媒体を交付し、又は当該電磁的記録の複写を許さなければならない。
第222条
 …第118条から第124条までの規定は、検察官、検察事務官又は司法警察職員が…する押収又は捜索について…これを準用する。ただし、司法巡査は、第122条から第124条までに規定する処分をすることができない。

刑事訴訟法123条は被告事件すなわち起訴された件に関する証拠品の還付請求について定めた条文ですが、刑事訴訟法222条で押収または捜索について準用していますので、捜査中に押収された証拠品についても123条の規定は適用されます
そこで、還付請求が認められるかどうかにつき問題になるのが123条1項の「留置の必要がないもの」の解釈になります。
捜査機関は実際は捜査が進んで返せる状況にあるにもかかわらず、事件の処分が出た時に返せばいいやという感じで積極的に還付をしてくれない場合があります。
還付請求においては、留置の必要がないことについて説得的に主張することが重要になります。

事例における刑事弁護や物の押収に関する弁護人としての主張など、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所では刑事事件に精通した弁護士がアドバイス差し上げられます。
刑事事件に関連してお困りの方は、こちらからお問い合わせください

留置の必要があるかの判断について

本件のような捜査中の場合には、まだ刑事処分をどうするか決めていない状況なので、留置の必要がないことを主張することは容易ではありません
証拠品を当事者に返すことで証拠の隠滅や改ざんを行われ捜査に支障が出るおそれがあると考えられるためです。
たとえば本件のように、犯罪に関するデータを保存したパソコンについては、一定期間が経過したことでデータの確認作業や移動は終わっているはずであり、本人に返還したとしても改ざんや証拠隠滅の恐れはないと主張することが考えられます。
また今回のようなケースでは盗撮された被害者の保護の観点から警察が返還を渋る可能性もあるので、当該盗撮データについては、速やかに任意での削除に応じる代わりにパソコンの返却を求めるように交渉することも考えられます。

警察や検察が証拠品の還付を拒否した場合の対応について

警察や検察は還付請求に対して応じる義務はないので、「捜査中だから返せない」などと単純な回答により返還を拒否することがほとんどかと思います。
この場合には裁判所に対して申立てを行うことが考えられます。
具体的には、警察や検察が還付請求を拒否したこと(還付請求に対する却下処分)に対して準抗告を申し立てることになります。
今回の事例では被疑者ではないが、所有物の押収を受けたA社が準抗告を申し立てることができるか問題になり得ますが、これは最高裁で肯定されています(最高裁平成15年6月30日決定https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=50072)。
仮にこの申立てが認められれば、裁判所から捜査機関に対して還付するように命じられるので、証拠品はA社のもとに返還されることになります。
準抗告では留置の必要がなくなっていることを、捜査の経過などから丁寧に主張していく必要があります。

現代では事業の遂行においてパソコンやスマートフォンの使用は必須であり、これが一定期間返還されないことは会社経営の根幹を揺るがす事態になりかねません。
今回の事例のような状況に陥らないためにも、会社や会社の従業員らが刑事事件の当事者とならないように対策することは重要です。
ですがもし刑事事件に関与してしまい、会社のパソコンやスマートフォンが押収される事態になった場合には、捜査機関や裁判所に対し上記で解説したような適切な対応を早期に行っていく必要があります。
弊所では顧問契約を準備させていただいております。平時からの企業のコンプライアンス対策から、緊急時の捜査機関への対応まで、刑事事件に精通したあいち刑事事件に是非お任せください。

コンプライアンス意識の周知と教育の重要性

2024-04-19

現代社会において、企業犯罪や社員の不祥事が頻繁に発生しています。これらの問題を未然に防ぐためには、企業におけるコンプライアンス教育が極めて重要です。
コンプライアンスとは、法令遵守のみならず、倫理観や社会的規範に基づいた公正・公平な業務遂行を意味します。本記事では、コンプライアンス教育の重要性について、事例を交えながら解説します。

事例

コンプライアンス違反が企業に与える影響は甚大です。例えば、ある企業でのデータ漏洩事故は、顧客の信頼を大きく損ね、最終的には株価の大幅な下落につながりました。
コンプライアンス違反のリスクが単に法的な問題に留まらず、企業のブランド価値や経済的な損失に直結することが理解できます。また、社会的信用の失墜は、従業員のモラル低下や優秀な人材の流出を引き起こす可能性があり、企業の持続可能な成長を脅かす要因となり得ます。

この事例を踏まえ、次にコンプライアンス教育の必要性について詳しく解説していきます。

コンプラインス教育の必要性

現代社会では、情報の拡散速度が格段に速くなっています。
特にSNSの普及により、企業の不祥事や犯罪が発生した際、その情報が瞬時に広まり、企業の評判を大きく損なうことがあります。
このような背景から、コンプライアンス教育の重要性は年々高まっています。

企業が社会的責任を果たし、信頼を維持するためには、従業員一人ひとりが法令を遵守し、倫理的な判断ができるようになることが不可欠です。
そのためには、新入社員の初期研修から始まり、定期的な研修を通じて、コンプライアンスの知識と意識を高めることが求められます。
また、研修は単に法令やルールを暗記するのではなく、実際の事例をもとにしたディスカッションやワークショップを取り入れることで、より実践的な理解を深めることが重要です。

コンプライアンス教育を通じて、従業員が自らの行動が企業に与える影響を深く理解し、正しい判断ができるようになること。
これが、現代社会における企業が持続的に成長し、社会から信頼されるための基盤となります。

ご不安事やコンプライアンス体制についてご心配事のある方は,こちらからお問い合わせください。

コンプライアンス違反のリスク

コンプライアンス違反が企業に及ぼすリスクは計り知れません。
最も直接的な影響は、法的制裁や罰金などの財務的損失です。
しかし、それ以上に深刻なのが、企業の信用失墜による長期的な影響です。

一度失われた信頼を取り戻すことは非常に困難であり、不祥事が公になれば、顧客離れや不買運動に発展することもあります。
また、社内においても、不祥事によるモラルの低下や、優秀な人材の流出が起こる可能性があります。
これらはすべて、企業の持続可能な成長を著しく阻害する要因となり得ます。

さらに、コンプライアンス違反は、企業の社会的責任(CSR)に対する評価を下げることにも繋がります。
現代の消費者は、製品やサービスの品質だけでなく、企業が社会に対してどのような影響を与えているかにも敏感です。
そのため、コンプライアンス違反は、企業のブランドイメージに長期的な損害を与えることになります。

このように、コンプライアンス違反は、ただちに修復が困難な多方面にわたるリスクを企業にもたらします。
従って、企業はコンプライアンス教育を通じて、これらのリスクを最小限に抑える努力を怠ることができません。

コンプライアンス研修の実施方法

コンプライアンス研修の実施方法は、その対象となる従業員の役職や経験に応じて異なります。
新入社員には、社会人基礎としてのコンプライアンスの理解を深めるための研修が必要です。
一方で、役員や管理職には、リーダーとしての責任と役割に焦点を当てた研修が求められます。

研修の内容は、法令遵守だけに留まらず、企業倫理や社会的責任についてもカバーする必要があります。
また、実際の事例を用いたグループディスカッションやロールプレイングなど、参加者が積極的に関わることのできるプログラムを取り入れることが効果的です。

研修は、ただ情報を提供するだけではなく、参加者がコンプライアンスの重要性を自ら認識し、日常業務において正しい判断ができるようになることを目指すべきです。
そのためには、研修の内容を定期的に更新し、最新の法令や社会情勢に即した情報を提供することが重要です。

さらに、研修の効果を最大化するためには、研修後のフォローアップが欠かせません。
研修で学んだ内容を実務にどのように活かしているか、定期的なフィードバックや追加研修を通じて確認することで、コンプライアンス教育の持続的な改善を図ることができます。

コンプライアンス研修は、単なる義務遂行ではなく、企業文化の一部として根付かせることが最終的な目標です。従業員がコンプライアンスを自然と意識し、日々の業務に反映させることができるような研修プログラムの構築が求められます。

専門家によるアドバイスの重要性

コンプライアンス教育を成功させるためには、専門家によるアドバイスが不可欠です。
弁護士やコンプライアンス専門家は、法律の専門知識を持ち、企業が直面するリスクを正確に評価することができます。
彼らの知見を活用することで、企業は実効性のあるコンプライアンスプログラムを構築し、運用することが可能になります。

専門家によるリスク評価
専門家は、企業の業種や規模、過去の事例などを踏まえた上で、具体的なリスクを評価し、対策を提案します。
このプロセスを通じて、企業は潜在的な問題を事前に特定し、適切な予防策を講じることができます。

カスタマイズされた研修プログラムの開発
専門家は、企業の特定のニーズに応じた研修プログラムを開発することができます。
法律や規制の変更に迅速に対応し、最新の情報を研修に反映させることが可能です。

継続的なサポートとアップデート
コンプライアンスは一度きりの取り組みではなく、継続的な努力が必要です。
専門家は、定期的なレビューとアップデートを通じて、企業のコンプライアンスプログラムが常に最新の状態を保つようサポートします。

従業員への信頼性の高い情報提供
専門家による研修は、従業員に対して信頼性の高い情報を提供します。
法律や規制に関する正確な解釈を学ぶことで、従業員は自信を持って業務に取り組むことができます。

専門家によるアドバイスとサポートを受けることで、企業はコンプライアンス違反のリスクを最小限に抑え、社会的責任を果たすことができます。
コンプライアンス教育は、単に法律を遵守すること以上の意味を持ち、企業文化の根幹を形成するものです。
専門家の知見を活用することで、企業は持続可能な成長と社会からの信頼を築くことができます。

コンプライアンスの相談は弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所へ

コンプライアンスに関する課題は、企業運営において避けて通れない重要な要素です。
不確実な法的環境の中で、適切なコンプライアンス体制を構築・維持することは、企業にとって大きな挑戦となります。
このような状況において、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所は、刑事事件について豊富な経験と専門知識を持つ弁護士による確かなサポートを提供します。

私たちは、コンプライアンス違反によるリスクを最小限に抑えるための戦略的アドバイス、法律相談を通じて、企業の皆様を全面的にサポートいたします。
また、不祥事が発生した際の対応策や、事後のリスク管理に関しても、専門的な視点から具体的なソリューションを提案します。

コンプライアンスは、単に法律を遵守すること以上の価値を企業にもたらします。
企業文化としてのコンプライアンスを根付かせることで、社会からの信頼を獲得し、持続可能な成長を実現することができます。
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所は、その過程で企業の皆様を強力にバックアップします。

コンプライアンスに関するご相談がございましたら、ぜひ弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所までお気軽にお問い合わせください。
私たちは、企業の皆様が直面するあらゆる課題に対して、最適な解決策をご提案いたします。

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企業の贈収賄事件-東京オリンピックの贈収賄事件を基に

2024-04-16

企業が公務員に賄賂を贈ってしまった事件について解説。

東京オリンピックにおける贈収賄事件など、贈収賄が大きな問題となっています。
ここでは、企業のかかわる贈収賄事件について解説します。

贈賄
収賄、受託収賄および事前収賄(刑法第197条)、第三者供賄(同法第197条の2)、加重収賄および事後収賄(同法第197条の3)、あっせん収賄(同法第197条の4)の罪において規定する賄賂を供与し、又はその申込み若しくは約束をした者は、3年以下の懲役又は250万円以下の罰金に処されます(刑法第198条)。

賄賂とは

「賄賂」とは、公務員の職務行為と対価関係にある利益を言います。この対価関係は、職務行為に対するものであれば足り、個々の職務行為と賄賂との間に対価関係のあることは必要とされていません(昭和33年9月30日最高裁第三小法廷判決)。職務に関するものであれば、交付時期や利益の多寡にかかわらず、賄賂となります。
賄賂の内容は金銭に限られず、人の欲望や需要を満たす一切の利益が含まれます。判例では、芸妓の演芸や、酒食の饗応、異性間の情交、公私の職務等の有利な地位の保証、株式の取得の利益、など、様々なものが賄賂と認定されています。このような利益を公務員に提供すれば公務員の職務の公正は害され、あるいは公務員の職務の公正に対する社会の信頼は損なわれてしまうため、処罰する必要があります。

東京オリンピックの贈収賄事件においても、会社の代表取締役であった者が、みなし公務員である組織委員会の元理事に賄賂を供与したとして起訴され、有罪判決を受けています(東京地裁令和5年7月12日判決)が、この事件では、元理事が、被告人が代表取締役を勤める会社との間のコンサルティング契約に基づき毎月のコンサルティングフィーを支払うという形で賄賂の供与がされていたと認められました。

「職務に関し」たといえるか

前述のとおり、賄賂は職務行為と対価関係にある必要がありますので、職務とは無関係な利益の提供は賄賂には当たりません。東京オリンピックの汚職事件で参考人として聴取を受けた元総理大臣は贈賄で有罪判決を受けた被告人の属する会社から現金の提供を受けたという報道がありましたが、これは病気に対する見舞金の可能性もあると言われていました。
また、単なる社交儀礼上の贈答は「賄賂」にあたりません。
東京オリンピック組織委員会元理事は、コンサル契約に基づいてコンサル料が支払われたもので賄賂ではないと主張しているとのことですが、これまでの収支はどうであったか、コンサル依頼があったとしてもそれ自体職務に関係するものか、依頼があった後の活動実態はどうだったか、などを考慮して、賄賂かどうかが判断されるでしょう。

収賄罪の成立の可能性

これまで贈賄罪について解説してきましたが、公務員でない会社の役員・従業員だからといって、収賄罪が成立しないとは限りません。公務員と共謀して賄賂を収受したと認められれば、収賄の共犯者として、収賄罪により処罰されます。

例えば、贈賄側の企業と交渉をしたり、公務員の代わりに賄賂を受け取って公務員から分け前をもらうような場合です。この場合、公務員に協力した者自身には公務員という身分がなくても、共犯となります(刑法第60条第1項)。東京オリンピックの贈収賄事件においても、会社の代表取締役であった者が、元理事と共謀の上、元理事の職務に関し賄賂を収受したとして、有罪判決を受けています(東京地裁令和5年7月4日判決)。

企業の責任

以上は、実際に贈収賄に加担した個人に成立する犯罪の問題です。
贈賄罪は特別法のような両罰規定がないため、企業は責任を問われません。
一方で、こうした案件では、企業の経営者が状況を把握したうえで指示をしていたと認められるでしょう。そうすると、単に個人の暴走ではなく、企業として行ったものとみなされ、強い社会的非難にさらされるでしょう。
また、会社の代表役員等が贈賄の容疑により、逮捕され、又は逮捕を経ないで起訴される等した場合、官公庁から公共事業の入札等で指名停止措置を受けることがあります。各省庁や各地方公共団体が、指名停止について基準を定めています。
・参考
国土交通省「工事請負契約に係る指名停止等の措置要領」
https://www.mlit.go.jp/common/001067886.pdf

まとめ

このように、企業が公務員に対し利益を供与すると、贈収賄に該当し、重大な事態に陥る可能性があります。自社の行っていることが贈賄等に当たらないかお悩みの方は、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所へご相談ください。

お電話の方は0120-631-881から,HPの方はこちらからお問い合わせください。

産地偽装による不正競争防止法違反の事例

2024-04-12

産地偽装による不正競争防止法違反で会社が家宅捜索を受けた場合の対応についてあいち刑事事件総合法律事務所が解説します。

【事例】

愛知県にあるうなぎ店が中国や台湾産などのうなぎを三河産と偽って提供したとして、警察の家宅捜索を受けたことがわかりました。店主は産地偽装を認めています。
不正競争防止法違反の疑いで12月20日に警察の家宅捜索を受けたのは、愛知県にあるうなぎ料理店Aです。
警察や店主らによりますとAは店の看板に「三河産」と表示しているにもかかわらず、3年前から一部の料理に中国や台湾産などを使うようになったということです。
店主は、中京テレビの取材に対し偽装を認めた上で、「冬の時期は、出荷量が減るので三河産だけでは追い付かなくなった」などとしその後、三河産以外のものを使っているという掲示をするなどの対応をとったということです。 
(令和5年12月26日 中京テレビニュース「うなぎ店“産地偽装”で家宅捜索 中国や台湾産などのうなぎを三河産と偽って提供」より引用)

同様の報道についてこちら

産地偽装をした場合に成立する犯罪について

食品の産地偽装と言われる行為には、報道にあるような外食メニューに使用されている食材の産地を偽装するケース、生鮮食品の産地を偽装するケース、加工食品の原材料の産地を偽装するケースがあります。
そして、問題となるケースによって、不正競争防止法不当景品類及び不当表示防止法食品表示法の各違反行為が問題になります。
今回紹介している事例は不正競争防止法違反が問題になっていますので、以下では今回の事例に沿って不正競争防止法違反で問題になる条文の解説していきます。

今回の事例で問題になっているのは、不正競争防止法2条1項20号であると考えられます。
以下に条文をあげます。

不正競争防止法2条1項20号
商品若しくは役務若しくはその広告若しくは取引に用いる書類若しくは通信にその商品の原産地、品質、内容、製造方法、用途若しくは数量若しくはその役務の質、内容、用途若しくは数量について誤認させるような表示をし、又はその表示をした商品を譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸出し、輸入し、若しくは電気通信回線を通じて提供し、若しくはその表示をして役務を提供する行為

不正競争防止法では上記の行為を「不正競争」として規定しており、これをした者について罰則等の定めがあります。
具体的に事例のような産地偽装行為は、条文上の「商品」の「原産地」について「誤認させる表示をする」場合にあたると考えられます。
実際には外国産のうなぎを使用していたにもかかわらず、うなぎ店の看板に「三河産」と表記すれば当然ながら、お店の利用客は店内のうなぎ料理にはすべて「三河産」のうなぎが使用されていると誤解してしまうためです。

産地偽装による不正競争防止法違反が発覚した場合の手続きの流れ

では次に事例のような食品の産地偽装が発覚した場合に予想される手続きの流れについて解説していきます。
不正競争防止法違反が発覚した場合には民事上の請求と刑事訴追の双方を受ける可能性があります。

民事上の請求

民事上の請求としては①差し止め請求と②損害賠償請求の2通りの可能性があります。
具体的には、差し止め請求については原産地を誤認させる産地偽装という「不正競争」によって、営業上の利益を侵害された・侵害されるおそれがある者は、侵害した・侵害するおそれがある者に対し、その侵害の停止・予防を請求でき(不正競争防止法3条1項)、侵害の行為を組成した物(侵害の行為により生じた物を含む)の廃棄、侵害の行為に供した設備の除却その他の侵害の停止・予防に必要な行為を請求できるとされています(同条2項)。
損害賠償請求については、故意・過失により原産地を誤認させる産地偽装というという「不正競争」を行って他人の営業上の利益を侵害した者の損害賠償責任が定められています(同法4条1項)。
そして、被侵害者が故意・過失のある侵害者に対し損害賠償請求をする場合に、侵害者が侵害行為により利益を受けているときは、その利益の額は、被侵害者が受けた損害の額と推定するとされています(同法5条2項)。

刑事訴追を受ける場合

被害が大きい、偽装の悪質性が高いと思われた場合には事例の場合のように、企業に捜索が入るなど刑事手続きが開始されます。
場合によっては産地偽装を主導した経営者らが逮捕される場合もあります。
逮捕された場合については、早期に弁護士が検察官や裁判官と交渉し釈放を目指す必要があります。
不正競争防止法違反の刑事罰については、5年以下の懲役もしくは500万円以下の罰金、またはその併科に処すると定められています(同法21条2項1号)。
また、法人については、両罰規定で3億円以下の罰金に処すると定められています(同法22条1項3号)。
起訴された場合については、事実を争う(産地偽装が故意ではなかった等)、ないしはより量刑が軽くなるような弁護活動が求められます。

産地偽装が発覚した場合の対応について

当然ですが企業としては産地偽装の問題が生じないように原材料の管理体制などを整えておくなどの事前の対策が重要です。
しかし産地偽装の問題が明らかになった場合については、原因を明らかにしてしかるべき再発防止策を立てる必要があります。
産地偽装は国民の生活の重要な一部である食に関する問題ですので紹介した事例のように大々的に報道されることもあります。
発覚後の報道対応、刑事訴追される場合の対応など弁護士に依頼するべき必要性は高いといえます。

あいち刑事事件総合法律事務所は刑事事件に精通した事務所です。不正競争防止法が問題になった案件も多数扱ってきました。
産地偽装などの不正競争防止法違反が発覚してしまった方や、自社で産地偽装問題がないか調査をされたい方、産地偽装がないように事前の対策を講じたい方は是非一度ご相談ください。
お電話の方は0120-631-881まで,HPからのお問い合わせはこちらからどうぞ。

企業におけるメール監査の有用性について

2024-04-09

事例はフィクションです。

A社の従業員Bさんは、連日残業を行っているのに、残業代を支給されていないとして、A社に対し、残業代を請求してきました。Bさんは、長時間労働を行っていたことの証拠として、業務で自分が送受信したメールの内容を印刷した書面をA社に提出してきています。

メール監査について、あいち刑事事件総合法律事務所が解説します。
メール監査とは、企業が、従業員の電子メールに対する調査を行うことです。

平時からのメール監査の有用性

不祥事が発生した企業では、その事後対応として、従業員の電子メールに対する調査が行われることがあります。日々の業務の中で飛び交うメールの内容を分析することは、それによって行われた情報伝達の内容について明確に特定する形で立証できる重要な手段だからです。

事例のように、長時間労働が問題となった場面では、業務メールの送受信は、労働時間の重要な証拠であり、本当にそれだけ長い時間働いていたのかは、メールを見れば調査できます。

もっとも、こうしたメール調査が有効なのは、不祥事が行った後とは限りません。
企業秘密などの大切な情報の漏洩も、メールによって起こることが多いといえます。そのため、従業員のメールを平時から調査しておけば、情報漏洩を未然に防ぎ、いざ起こったときには速やかに事後対応をすることができます。

また、事例の場合には、平時からメールを調査していれば、長時間労働を行っている従業員を早期に発見でき、未然に対処することも可能となります。
そのほか、目的は各企業によって異なるものの、平時からメールを調査する目的としては、業務と無関係のメールのやりとりがないか、不適切な取引を行っていないか、などについて早期に発見し対処できるようにすることがあげられます。
実際に、不祥事の予防・早期発見にために、内部監査の一環としてメール監査を実施している企業も多くあります。

プレスリリース Gmail送信ガイドラインに対応!法人向けクラウドメール『CYBERMAIL Σ』が、2月29日より3種類のセキュリティ機能を強化

メール監査を行う場合の注意点

以上のように、企業が平時からメール監査を行うことは、不祥事を未然に防止する意味でも有用ですが、メール監査をおこなうことが従業員らのプライバシーの侵害にならないか、注意する必要があります。
従業員が個人的に使用している機器については、原則、本人の同意がない限り内容を確認することはできませんし、企業が貸与した機器についても、従業員には一定の範囲でプライバシーが認められますので、その必要性が認められるときに、相当な手段・態様で実施する必要があります(調査等の必要性を欠いたり、調査の態様等が社会的に許容しうる限度を超えていると認められる場合には不法行為を構成することがあるとした裁判例として、東京地判平成14・2・26労判825号50頁があります)。
そこで、電子メ―ルに対する調査を行うためには、就業規則等にあらかじめ企業が貸与した機器の調査の要件や手続等について規定しておき、周知しておくことが望ましいといえます。メール監査の存在を予め明記しておくことにより、従業員のプライバシーへの期待が減殺され、メール監査が許容されやすくなるからです。
メール監査を企業が行おうとする場合には、メール監査の必要性、その範囲・態様の相当性等について弁護士等専門家に相談しておくことが必要でしょう。
企業内のコンプライアンス体制の構築,設計についてご相談のある方は,こちらからお問い合わせください。刑事事件を専門に扱う弁護士が対応いたします。

企業と業務上過失致死傷事件

2024-04-05

企業は従業員を使用して活動を広げ、より多くの利益を得ることができます。
その活動の中には、人の生命・健康にかかわるものもあります。こうした状況下では、企業は従業員や企業の体制について監督し、被害が生じないようにする必要があります。
これを怠り、被害が生じた場合、その責任を負わなければなりません。
事業活動の中で従業員が怪我や死亡した場合に,企業が刑事責任を負う代表的な事例として,業務上過失致傷事件が挙げられます。

参考報道:日本経済新聞 東京・八重洲の作業事故、業過致死傷容疑視野に捜査

業務上過失致死傷

故意ではなく過失により人を死傷させた場合、過失傷害罪(刑法第209条)又は過失致死罪(刑法第210条)が成立します。
さらに、業務上必要な注意を怠り、よって、人を死傷させた場合は、業務上過失致死傷罪が成立します(刑法第211条前段)。法定刑は、5年以下の懲役若しくは禁錮又は100万円以下の罰金です。

過失とは、注意義務違反であり、法益侵害の結果の発生を予期し回避できたにもかかわらずこれを怠ったことをいいます。

業務上過失致死傷罪の「業務」とは、本来人が社会生活上の地位に基づき反復継続して行う行為であって、かつ、その行為は他人の生命身体等に危害を加えるおそれのあるものをいいます(最高裁第二小法廷昭和33年4月18日判決)。

なお、この判例では、この行為の目的がこれにより収入を得るものかその他の欲望を充たすためかどうかは問わないと判示されており、仕事の目的に限らず娯楽目的でも該当するとされています。
「業務上の過失」とは、この業務上の注意義務違反をいいます。

企業の責任

業務上過失致死傷罪には両罰規定がありません。業務上過失致傷罪は個人の犯罪で、店長等安全管理に責任を負っていた者が処罰を受けることになりますが、企業そのものは処罰されません。
また、現場が重大事故を起こしたとしても、会社役員が現場で生じる問題まで予見して対応するのは困難であり、その責任を負うことになるのは稀となります。

JR福知山線で列車が脱線転覆して乗客106名が死亡し、493名が負傷した事故において、工事やダイヤ改正により運転士が制限速度に近い速度で運転する危険性が高まり、運転士が適切な制動措置を取らないまま曲線に侵入し脱線転覆事故が発生する危険性を予見でき自動列車停止装置(ATS)を整備するよう指示するべき業務上の注意義務があったのにこれを怠り、事故が起きたとして、鉄道会社の歴代社長が強制的に起訴されました。

裁判は最高裁まで進みましたが、最高裁は、事故以前にはATSの整備は法令でも義務付けられておらず、他の鉄道会社も採用していなかったこと、曲線へのATSの整備は鉄道本部長の判断に委ねられており、代表取締役が個別の曲線の危険性に関する情報に接する機会は乏しかったこと、組織内において事故現場の事故発生の危険性が高いと認識されていた事情もうかがわれないなどとして、歴代社長らにおいて、鉄道本部長に対しATSを事故現場に整備するよう指示すべき業務上の注意義務があったということはできないとしました(最高裁第二小法廷平成29年6月12日決定)。

このように、重大事故が起きたからとって、直ちに社長などの役員が刑事責任を負うとまでは言い難いでしょう。

刑事以外の責任

しかしながら、このような重大な事故を招いたこと自体、組織としての安全配慮を怠っていたのではないかと非難されます。事故について社会に説明し、再発防止の手段を尽くさなければ、会社が社会的制裁を受けることになります。
また、従業員等の被用者がその事業の執行の執行に関して第三者に損害を与えた場合、使用者たる企業が賠償責任を負います(民法第715条第1項)。

まとめ

以上のように、業務上の過失により人を死傷させても、企業は刑事責任を負いませんし、役員が責任を負うことも稀です。

しかしながら、企業は社会的責任や民事責任を負うことになりますので、企業は人名や財産に危害を与えることがないように組織内体制を整備することが必要不可欠となります。
役員や従業員が業務上過失致死傷罪に問われた場合や、企業犯罪抑止のためにどのように体制を整備すればよいかお悩みの方は、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所へご相談ください。

弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所は,刑事事件を専門に扱う法律事務所です。業務上過失致傷事件についてご不安なことがある方,事業において従業員の安全について法的リスクにご懸念がある方は,弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所東京支部までご連絡ください。

お問い合わせについてHPの方はこちらのお問い合わせから,お電話の方は24時間365日受付中の弊所フリーダイヤル(0120-631-881)までご相談ください。

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