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横領の被害申告

2024-02-16

(事例はフィクションです)
雑貨店を経営しているAさんのお店では、レジのお金や商品の在庫の数を整理するための記録をつけておりますが、あまりに業務が多い場合にはついつい記録を忘れてしまったり、どこかで計算ミスが起きてしまったもののどこから間違っているのか解らなかったりする場合もあります。
従業員のBは、商品の売上金1万円を着服していることが解りました。着服の方法は、商品が返品されていないのに返品されたことにして、売上記録を勝手に抹消し、売上金1万円をお客さんに返したことにして実際には自分の財布に入れていたというものです。
 Aさんは、とりあえずその1万円は返してもらいましたが、実際にはもっと着服をしているのではないかと疑っています。しかし、レジのお金や商品の在庫の記録が不正確なこともあるので、どうやって過去の着服を突き止めることができるのか、全く解りません。そこで弁護士に相談することを考えています。
この事例をもとに、弁護士が、どのようなサポートをAさんにして差し上げられるか、解説します。

弁護活動の内容

今回の事例のような着服は、よくある方法です。同じような被害にあった経営者の方も少なくないのではないでしょうか。
参考:レジ金窃取事案における窃盗と業務上横領の違いについて


もし、このような相談を受けた場合の対応としては、まずAさんから会社の経理関係の書類を預かって、お金の流れを追っていくことになります。いつからの経理関係書類をお預かりするかは、弁護士とAさんで相談して決めることになるでしょう。
そして、余罪が疑われるポイントを探していくことになります。例えば、異常に返品の数が多いような場合です。また、少なくともこの時期の記録は正確だと言える根拠があれば、在庫の数とレジのお金が合わないと言いやすくなってきます。これら経理関係書類のチェックは、大変に根気のいる作業なので、会計に精通した弁護士と細かく根気強く打合せをしていくことが大事です。
そして一定の証拠が揃った段階で、警察に被害届や告訴状、つまりBさんに対する捜査や処罰を求める書類を提出することになります。一般の方が告訴状を準備するのは一苦労なので、書類の作成技術の高い弁護士に依頼するメリットも大きいです。

弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所の強み

弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所には、簿記の資格を有する弁護士はもちろん、会計検査院や検察庁で勤務した経験がある弁護士が在籍しています。また、犯人側の立場から、お金の流れを徹底的に追っていったことが決め手となって、無罪判決を獲得した弁護士も在籍しています。

こういった専門的な弁護士や実績のある弁護士のサポートをご希望の場合には、ぜひ弊所に一度ご相談ください。

ご相談はこちらからも問い合わせ可能です。

従業員と会社が連帯責任?「両罰規定」を解説

2024-02-13

役員や従業員が罪を犯した場合の企業の責任について,弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が解説します。

一般論として、企業の役員や重要な従業員であったとしても、罪を犯したのであれば、それはその人個人の責任にとどまります。しかしながら、それが企業の業務として行い、企業にも利益をもたらしているのであれば、企業にも責任を負わせる必要があります。ここでは、役員や従業員が罪を犯した場合の企業の責任について解説します。

両罰規定とは

法人の代表者や使用人が違反行為をしたときは、その行為者を罰するだけでなく、その法人にも罰金刑を科するという規定が見られます。これを「両罰規定」といいます。
例えば、「独占禁止法(私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律)」では次のように定めています。

独占禁止法

(私的独占、不当な取引制限、事業者団体による競争の実質的制限の罪)
第八十九条
次の各号のいずれかに該当するものは、五年以下の懲役又は五百万円以下の罰金に処する。
一 第三条の規定に違反して私的独占又は不当な取引制限をした者

(両罰規定)
第九十五条
法人の代表者又は法人若しくは人の代理人、使用人その他の従業者が、その法人又は人の業務又は財産に関して、次の各号に掲げる規定の違反行為をしたときは、行為者を罰するほか、その法人又は人に対しても、当該各号に定める罰金刑を科する。
一 第八十九条 五億円以下の罰金刑

このような規定は、独占禁止法のほか、「外国為替及び外国貿易法」のような規制法や「宅地建物取引業法」のような業法など、各種の法律で見られます。

両罰規定はなぜ認められるのか

現代社会の基本である個人主義によれば、個人が罪を犯したのに、その所属する企業まで責任を負わなければならないというのはおかしいと思うかもしれません。
しかしながら、個人が罪を犯したとしても、その個人が企業の役員や従業員で、その企業の業務として行ったのであれば、その犯罪による利益はその企業に入ってくることになります。このような場合に、実際に罪を犯した個人を罰しただけで終わりとなれば、犯罪により利益の帰属した企業を野放しにすることになり、犯罪によって得た利益の回収や刑罰による犯罪の抑止効果は無意味となりかねません。

また、企業は役員や従業員を用いて活動を広げ利益を得ているのですから、これらの者を監督し、第三者に損害を与えないようにする必要があります。したがって、仮に企業から行為者に対し具体的な犯罪の指示がなかったとしても、企業のために役員や従業員が罪を犯したのであれば、企業もその責任の一端を負うべきこととなります。

判例も、企業のこの責任は無過失責任ではなく、両罰規定は過失を推定するものだとしています。

昭和40年3月26日最高裁第二小法廷判決は、「事業主が人である場合の両罰規定については、その代理人、使用人その他の従業者の違反行為に対し、事業主に右行為者らの選任、監督その他違反行為を防止するために必要な注意を尽さなかつた過失の存在を推定したものであつて、事業主において右に関する注意を尽したことの証明がなされない限り、事業主もまた刑責を免れ得ないとする法意と解するを相当とすることは、すでに当裁判所屡次の判例(・・・)の説示するところであり、右法意は、本件のように事業主が法人(株式会社)で、行為者が、その代表者でない、従業者である場合にも、当然推及されるべきである」として、憲法に違反するものではないとしました。

役員や従業員が罪を犯したときの対応は

上記の通り、両罰規定は過失を推定するものですから、企業がこの推定を覆せば刑事責任を問われることを防ぐことができます。もっとも、企業に過失がないといえるためには、企業が行為者の選任、監督その他の違反行為を防止するために必要な注意を尽くしたことを証明する必要があります。
日頃から不正をしないよう役員・従業員に言ってきた等では到底注意を尽くしたとはいえません。コンプライアンス体制を整備し、これに従って経営が行われてきたこと、実質のある内部通報制度を構築し運用してきたなど、不正防止に必要な体制を整備しその通りに運用してきたことを示さなければなりません。

企業内の不祥事についてはこちらでも解説をしています。

おわりに

法人が役員や従業員の行った犯罪行為の責任を負わされないようにするには、不正防止に必要な体制を整備し、この体制に従って運用されなければなりません。
不正防止のためのコンプライアンス整備、内部通報窓口の設置・運用など、企業の不正防止にお悩みの方は、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所へご相談ください。刑事事件について東京支部でのご相談はこちらからもお問い合わせいただけます

従業員の薬物所持が疑われる場合の誤った会社の対応

2024-02-09

【事例】
Aさんは、もともと警察官をしていましたが、現在は通信事業を営むX社のコンプライアンス部で課長の職に就いています。
ある日、Aさんは、Ⅹ社の従業員であるBさんが、日常的に違法薬物を使っているらしいという噂を耳にしました。
そこで、Aさんは、X社の規定に則り、Bさんに対して聴き取り調査を行うことにしました。
Bさんは聴き取りで、日常的に大麻を使用していた事実を認め、会社にあるBさんの机の引出しに隠して所持していた大麻をAさんに提出しました。
Aさんは、警察官をしていた経験から、Aさんが提出したのが実際に大麻の可能性が高いと考えました。
しかし、Aさんは、X社の株主総会が1月後と間近に迫っていたこともあり、警察に大麻を提出したらX社に捜索差押え(いわゆる家宅捜索)が入ったり、Bさんが逮捕されたりして、その事実が報道されてしまうのではないかということを心配しました。
そのため、警察への提出は株主総会後にし、それまでは自分が大麻を厳重に保管する方がいいのではないかと、Bさんから提出を受けた大麻を直ぐに警察に提出することを躊躇してしまいました。
Aさんは、X社の上司とも相談して、どのように対応すべきかをあいち刑事事件総合法律事務所に相談することにしました。
(事例はフィクションです)

Bさんに成立する犯罪

Aさんの見立て通り、Bさんが提出したのが違法な大麻だったとします。
違法な大麻を所持していたBさんは、「大麻を、みだりに、所持」したということになりますから、大麻取締法違反となり、「営利の目的」などがなく、有罪となれば5年以下の懲役という刑罰を受ける可能性があります(大麻取締法24条の2第1項)。

また、一般論としては、大麻取締法違反のように薬物事件が疑われる場合、被疑者(いわゆる容疑者)の捜査は、逮捕などをしてされることが多いといえます。そして、薬物を隠していた場所に対しては、捜索差押え(いわゆる家宅捜索)が行われる可能性が高いといえます。

そのため、Aさんが懸念していたとおり、警察がBさんに大麻取締法違反の疑いがあるとして捜査を開始した場合、Bさんが逮捕されたり、X社のBさんの机について捜索差押え(いわゆる家宅捜索)が行われたりする可能性は充分にあるでしょう。

どの対応が間違えていたのか?

しかし、Bさんが提出した大麻を、Aさんが保管することには大きな問題があります。
場合によっては、Aさん自身が罪に問われる可能性もあります。

⑴ 大麻取締法違反
まず、元警察官とはいえ、X社の株主総会が終わるまでの期間中、AさんがBさんから提出を受けた大麻を保管・所持して良い理由はありません。そうすると、Bさんから大麻の提出を受けてから、株主総会が終わって警察に提出するまでの約1カ月間、これは大麻の可能性が高いと思いながら、大麻を所持していたわけですから、保管していたAさん自身が大麻取締法違反として捜査を受け、処罰される可能性があります。

大麻の単純所持事案については,弊所解説記事もご覧ください。

⑵ 証拠隠滅罪
少し事情が変わって、Bさんに大麻を売ったCさんが警察に逮捕され、その捜査の過程で大麻を買った人物としてBさんが浮上し、警察からX社に問い合わせがあったとします。
それにもかかわらず、Aさんが何かと理由をつけて、Bさんから提出を受けた大麻を提出しなかったり、隠したりしたとします。

この場合のAさんの行為は、Bさんという「他人の刑事事件に関する」大麻という「証拠を隠滅」したといえますから、証拠隠滅罪に問われる可能性があります(刑法104条)。

従業員が犯罪行為によって逮捕,検挙されてしまった場合の対応についてはこちらもご覧ください。

このように、従業員が不祥事を行い、会社のためと思ってした行為であっても、許されない行為はありますし、場合によっては犯罪に当たってしまう可能性もあります。
そのような事態を回避するためには、刑事事件の視点から対応を考えることも重要です。
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所では、刑事事件に関わってきた経験を活かし、会社内で不祥事が起こった場合の対応・アドバイスにも力を入れています。
会社としての不祥事対応へのアドバイスをご希望の方は、一度、あいち刑事事件総合法律事務所にご相談ください。

会社内で発生した業務上横領事件への対応 加害者を刑事告訴をするべきですか?

2024-02-06

【事例】
X社は製造業を営んでいる会社です。
X社の製造部の部長であるAさんは1年前から、管理を任されていた社内の物品を勝手に持ち出してフリマサイトで売却し金銭を得ていました。
最近になって物品の在庫と実際の数が合わないことに気付いたX社が調査をしたところ、Aさんの横領が発覚しました。
Aさんはこれまで転売により300万円の利益を得たこと、遊興費などでそのお金は費消してしまったこと、被害金額についてはこれから何とか分割して返していくから「刑事告訴だけはやめてほしい」と懇願してきました。
X社の担当者は、今後どのように対応するべきかあいち刑事事件総合法律事務所の弁護士に相談しました。
(事例はフィクションです)

今回は、上記の事例を用いて、自社で業務上横領事件が発生したことが明らかになった場合の対応についてあいち刑事事件総合法律事務所が解説します。

刑事告訴について

刑事告訴とは、警察や検察などの捜査機関に対して、刑事事件が発生したことを申告し、事件を捜査し、犯人を処罰することを求めることをいいます。
本件の事例において、刑事告訴をする場合には、「告訴状」をX社の所在する地域を管轄する警察署に提出することが通常です。
告訴状には、犯罪を構成する事実を記載する必要があります。
例えば事例のような業務上横領事件であれば、「いつ」「誰が」「どこで」「何を(時価総額もあれば望ましい)」「どのように横領した」という事実を特定して行うことが通常です。
また告訴の際には後述するように、犯罪が成立したことを立証するための証拠を可能な限り添付することで警察が告訴を受理し動いてくれる可能性が格段に高くなるといえます。

ポイント

告訴を受理してもらい捜査を円滑に行うためには,事前の調査が重要

刑事告訴が受理された後は、取調べなどの捜査が行われることになります。
事件の内容や証拠の内容によっては加害者が逮捕されるリスクもあります。
事例のケースでは業務上横領による被害金額が100万円を超えているため実刑となる可能性もあるので、被害を立証するだけの証拠があれば逮捕される可能性の高い事件であるといえます。
そして捜査が進んで、最終的には検察官が証拠や加害者の言い分なども確認した上で起訴するか不起訴が決められます。
起訴された事件については裁判所で審理され、判決が出されて、判決が確定すれば刑事事件としては終了になります。

横領事件において刑事告訴をする場合のポイントは何か

個人的な利益の着服や物品の横流しといった横領事件は,企業内での不祥事として最たるものです。
刑事事件のうち,知能犯の中で見ても,詐欺・偽造につぐ認知件数があります。
参考:警察庁令和4年度版統計

①客観的な証拠の収集を行う
刑事告訴して実際に警察が動くためには、被害や犯行を裏付ける客観的な証拠が必要になります。
本件の事例であれば、
・保管していた物品の管理に関する記録
・Aさんが横領したこと及びその日時を裏付ける社内の防犯カメラ映像
・Aさんが被害品を転売したことを示す販売履歴等の記録や入出金履歴
・被害金額の使用に関する履歴
などが客観証拠として考えられます。
実際の被害事例において犯行を基礎づける証拠の判断には,専門的な知識と刑事事件に対する豊富な経験が必要になります。
また証拠は早期に確保しなければ、加害者による隠滅の恐れもあります。
したがって被害が発覚した場合にはなるべく早く、刑事事件に強い弁護士に相談されることをおすすめします。

②加害者本人に対する聴き取りを丁寧に行い、書面化しておく
加害者本人からの聴き取りも証拠収集の一環として重要な意味を持ちます。
客観的な証拠だけで立証が不十分な場合には、加害者が認めていることをもって証拠を補完する場合があります。
また事実を認めている場合や、賠償に関して応じる旨の話をしている場合には、それを上申書や誓約書といった形で残しておくことも重要になります。
この場合に、会社の担当者のみで聴き取りや書面の作成の指示を行えば、後から圧力をかけられて、無理やり誤った内容の書面を作成させられたと言われ、トラブルが複雑化する可能性もあります。
第三者の立場である弁護士などの専門家を入れて聴き取り調査を行うことが、トラブルの円満な解決には必要であるといえます。

社内調査活動についてはこちらのページでも解説をしています。

③警察の担当者と綿密に連携する
刑事告訴が受理されたと言ってもそれだけで安心してはいけません。
証拠の収集が不十分であったり、警察の方で優先順位が低くなったりすれば捜査が遅々として進まないこともあります。
弁護士が会社の窓口になって証拠の収集状況や取調べ状況についてこまめに確認し、必要であれば証拠の提出や作成などに協力することで捜査がスムーズに進むことにつながります。

刑事告訴を行うかどうかの判断

刑事告訴を行うことによるメリットには次のようなものが挙げられます。
・加害者に対し捜査機関による厳しい捜査が行われ、証拠の収集も容易になる
・会社の他の従業員に対し示しがつく
・警察が介入したことが加害者に対する圧力になり、賠償をする動機付けになる

その反面刑事告訴を行うことによるデメリットには次のようなものがあります。
・捜査協力をするために、会社が捜索の対象になるなど負担がかかる場合がある
・他の従業員にも事件が知れて話が大きくなるおそれがある
・加害者が逮捕された際に会社の名前が出る可能性がある
・逮捕や実刑判決により加害者の収入の当てがなくなり、却って賠償に支障が出る場合がある

刑事告訴を行うか、加害者への聴取を行った上で当事者間の賠償だけの問題とするのかについては社の方針も含め、以上のメリットとデメリットを慎重に検討し判断する必要があるかと思います。
当然、その判断の前提には証拠を収集し、関係者からの聴き取りを行って被害の全容の把握をすることも重要になります。
刑事事件に精通した弁護士であれば、豊富な経験を基に綿密に調査を行い、会社にとってどのようにすることが最善なのかアドバイスさせていただくことができます。
業務上横領が発覚した際の対応や事件の調査、またその後の刑事告訴に関する相談は、刑事事件に精通し、企業で起きた刑事事件の対応にも強いあいち刑事事件総合法律事務所に是非ご相談ください。

企業役員の私生活上の犯罪

2024-02-02

(事例はフィクションです)

大阪に本社を置くZ社の取締役Aさんは、深夜、旅行先の京都市内の路上で、酒に酔って、タクシー運転手Bさんに暴行を加え、怪我を負わせるとともに、タクシーのドアを蹴って凹ませ、臨場した警察官に傷害・器物損壊罪で現行犯逮捕されました。既に、複数のメディアが報道しています。

このような場合、企業としては、どのように対応すべきでしょうか。

私生活上の行為の影響

従業員・役員による不正として、企業活動と関係なく、従業員・役員が私生活上の行為について不正を起こすことがあります。

この場合、必ずしも企業に影響があるとはいえません。
ただし、私生活上の行為であっても、特に企業の幹部従業員や役員による犯罪行為であれば、マスコミも注目し、報道される可能性があります。そして、私生活上の行為といえども、犯罪行為をするような者が重要な役職にいたという事実が明らかになれば、企業の社会的信用が損なわれることは免れず、これを防止するため様々な対応を検討する必要があります。
ここで難しい問題は、従業員・役員が私生活において犯罪行為をした場合には、企業がそれを認識するのは、事例のように逮捕等の捜査活動が端緒となることが通常です。しかも、企業が警察等捜査機関に事実関係の詳細や本人の供述状況等を尋ねたとしても、捜査機関は、捜査上の理由から、これに応じないのが通常であることです。
このように、企業外の犯罪ですから、企業としてできることは限られていますが、その場合でも、企業として適切な対応をとるためには、まずは、できる限り迅速に事実関係を把握する必要があります。本人が身柄を拘束されている場合、情報を入手する手段としては、当該従業員・役員の弁護人、家族等から事情を聞くことが考えられます。

役員や従業員が逮捕された場合についてはこちらのページでも解説しています。

企業側としての対応

マスコミ対応、役職や人事に対する検討はどうすべきでしょうか。

事例のような企業の役員が逮捕された場合、とりわけ上場企業であればマスコミ報道がされる可能性は極めて大きくなります。特に、事例のように、現行犯逮捕された場合には、報道の直後から、複数のマスコミから一斉に取材攻勢に遭うことが予想されます。この場合、企業としては、想定されるマスコミからの質問に対する回答を準備しておく必要があります。基本的には、事件の内容に関する質問に対しては、「捜査中であり、弊社からのコメントは差し控える。」などと回答することになります。

次に、事例のAさんについては、Aさんが、社長、副社長、専務、常務等の役付取締役や代表取締役である場合、これらの役職を解いたり、代表権を剥奪する必要があるかについて検討する必要があります。
また、事例と異なり、Aさんが従業員であった場合には、懲戒等の人事処分を検討する必要があります。仮に、Aさんが、代表権を有する唯一の取締役であり,Aさんが、逮捕のみならず勾留され身体拘束が続いた場合、身体を拘束されている間,Z社の業務執行が事実上停止してしまうことになりかねず、そのような場合、早期に取締役会を開催して、他の取締役に代表権を付与することも検討する必要があるでしょう。

従業員・役員による私生活上の不正行為が発覚した場合、弁護士のサポートがあればスムーズに進みます。マスコミ対応や、不正を行った従業員・役員に対し、責任を追及したい場合等、早期に弁護士に相談した方がよいでしょう。

談合を疑われた場合の弁護活動

2024-01-30

談合をしたと疑われ捜査された場合を解説

リニア談合事件や、東京オリンピックの談合事件など、大企業までもがかかわる談合事件が大きな問題となっています。
ここでは、企業のかかわる談合事件や、談合事件をしたと疑われた時の対応について解説します。

談合とは

「談合」という言葉は、法律上は刑法の公契約関係競売等妨害(刑法第96条の6第2項)や入札談合等関与行為防止法等、公契約の競売等で問題となります。民間企業同士の談合は、独占禁止法(私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律)の「不当な取引制限」が該当し、カルテルともいわれます。

独占禁止法は「私的独占、不当な取引制限及び不公正な取引方法を禁止し、事業支配力の過度の集中を防止して、結合、協定等の方法による生産、販売、価格、技術等の不当な制限その他一切の事業活動の不当な拘束を排除することにより、公正且つ自由な競争を促進し、事業者の創意を発揮させ、事業活動を盛んにし、雇傭及び国民実所得の水準を高め、以て、一般消費者の利益を確保するとともに、国民経済の民主的で健全な発達を促進することを目的」としています(独占禁止法第1条)。
「不当な取引制限」とは、「事業者が、契約、協定その他何らの名義をもつてするかを問わず、他の事業者と共同して対価を決定し、維持し、若しくは引き上げ、又は数量、技術、製品、設備若しくは取引の相手方を制限する等相互にその事業活動を拘束し、又は遂行することにより、公共の利益に反して、一定の取引分野における競争を実質的に制限すること」をいいます(独占禁止法第2条第6号)。
複数の企業が同種の商品について一定以上の価格にすることを示し合わせることなどがこれにあたります。
独占禁止法はこのような不当な取引制限を禁止しています(独占禁止法第3条)。
これに反して不当な取引制限をしたものは、5年以下の懲役又は500万円以下の罰金に処されます(独占禁止法第89条第1項第1号)。

また、法人の代表者又や従業員等が、その法人の業務や財産等に関して、不当な取引制限を行えば、実際に行為に及んだ行為者が罰されるだけでなく、法人も5億円以下の罰金刑に処されます(独占禁止法第95条第1項第1号・第89条)。

公正取引委員会も入札談合のような不公正な取引については厳しい目を向けて監視しています。

談合をしたと疑われた場合

談合事件は公正かつ自由な競争を阻害するもので、国民経済の民主性・健全性を損ねるものであり、厳しく処罰される必要があります。また、複数の企業がかかわり、その方法も複雑なもののため、金の流れ、人の流れを徹底的に追及する必要があります。このため、東京地検等の特捜部が主導で捜査が行われます。実際の行為者などを逮捕する際にも、特捜部の検察官が逮捕します。

談合の方法は、企業の幹部同士が集まって価格はいくら以上にするとか、次の競売はどこの会社に受注させるなど決めるようなものだけではありません。
見積表をお互いに見せて、どの会社に受注するのか了解させる形で対価を決定するような方法も取られます。また、こうした資料も、会合で見せるのではなく、担当者が他社に持って行って、関係企業間で情報を共有することも行われます。
こうした談合事件の特殊性から、検察官は、誰がいつどのような資料をどこに持って行ったのか、など実際の行為者の行動や認識を、防犯カメラや出張記録などの客観的資料だけでなく、関係者の取り調べを行い聞き出します。

取り調べにどう対応するか

談合の取り調べは何回も行われ、一日でも長時間行われることが多々あります。
誰の指示で持って行ったのか、持って行く際に資料についてどう説明されていたか、中身を見たことがあるか、誰に渡したか、など、詳細に取り調べが行われます。
役員や幹部級の従業員だと逮捕される可能性もあります。

被疑者には黙秘権が保証されます(憲法第38条第1項・刑事訴訟法第198条第2項)。また、供述調書を作成される場合は、閲覧又は読み聞かせを受け、増減変更の申立てをすることができます(刑事訴訟法第198条第4項)。また、署名押印は拒否することができます(刑事訴訟法第198条第5項)。
参考人だと黙秘権などの権利はありませんが、任意の捜査ですので取り調べを受けることや供述調書に署名押印することを強制させることはできません。
このような規制に反して取り調べが行われて、供述調書が作成されても、証拠能力が認められなかったり、仮に認められたとしても信用性が低いと裁判官に判断される可能性があります。

強制的に取り調べが行われたり、自分や関係者の言動や自分の認識が実際のものとは異なる供述調書が作成された場合、しっかりと正していく必要があります。もし応じてもらえない場合、弁護士に相談して対処してもらいましょう。

独占禁止法についてはこちらのページでも解説をしています。

営業秘密の侵害とは何か

2024-01-26

(事例はフィクションです)
Aさんは食品製造会社の開発部門に勤めていました。
Aさんはキャリアアップのために同じ業界内で何度か転職し,食品開発の研究に勤しんでいました。
ある時,Aさんは警視庁三田警察署の警察官から「不正競争防止法違反」の容疑で取り調べを受けることになりました。
過去にAさんが勤めていた会社から「営業秘密を侵害している」と告訴されてしまったのです。
Aさんとその上司は,今後の対応をどうすべきか,専門の弁護士に相談することにしました。

営業秘密とは何か

不正競争防止法は,企業の成長と市場の健全な発展を目的として,各企業が保有している情報を営業秘密として保護しています。
不正競争防止法は,営業秘密を次のように定義しています。
 「営業秘密」とは、秘密として管理されている生産方法、販売方法その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であって、公然と知られていないものをいう。
大きく分けて,営業秘密とは
①「秘密」として管理されている情報であること(秘密性)
②事業活動のために有益な情報であること(有益性)
③誰でも知っているような情報ではないこと(非公知性)
を満たす情報を言います。
秘密性があるというのは,企業においてどのように管理されているかによって判断されます。典型的なのは,「極秘資料」や「機密資料」と印字されているものや,金庫の中で保管されているような情報,電子データベース上でパスワード保護がかけられているような情報です。もちろん,企業体の大きさによって,厳重に管理することが難しい場合もありますから,秘密性を満たすかどうかは企業規模も考慮されます。
有益性があるとは文字通り,事業にとって活用できる情報であるかどうかという点です。事業内容によって,どのような情報が活用できるものなのか変わってくるでしょう。
非公知性は,一般的には入手できないような情報であることを言います。たとえば,化学法則として知れ渡っているものや業界雑誌,研究雑誌に掲載されている情報は営業秘密とは言えません。

なお,営業秘密の保護については経済産業省がガイドラインを策定しています。こちらのページからも確認できます。

営業秘密の侵害になるのか?

営業秘密の侵害になるかどうかの判断では,「そもそも営業秘密が何にあたるのか」をよく見なければなりません。
Aさんの事例だと,過去に勤務していた会社から告訴をされているようですが,どのような情報について告訴がなされているのかを慎重に判断しなければなりません。
一般の方が考えるような「営業秘密」と,不正競争防止法上の「営業秘密」には,少なからず隔たりもあります。
実際,令和5年5月31日に東京地方裁判所で判決が言い渡された民事裁判では,営業秘密の侵害が認められないとして請求の一部が却下された事案もあります。
不正競争防止法の営業秘密の侵害に対しては,10年以下の懲役又は1000万円以下の罰金,場合によってはその両方が課されてしまいます。不正競争防止法の営業秘密侵害として取調べを受けている,呼び出しを受けている,という方は,早期に弁護士に相談された方が良いでしょう。

会社としての対応は?

不正競争防止法は,個人だけでなく,法人に対しても罰則を定めています。
法人による秘密の侵害に対しては,最大5億円の罰金が課されてしまいます。
Aさんの事例についても,Aさんが勤めている会社も他社の営業秘密を使っていたとなると,会社も起訴されたり巨額の罰金を課されたりする可能性があります。
また,取調べを受けて刑事責任を問われるのみならず,会社間での民事訴訟も提起される可能性もあります。
外部から営業秘密の侵害を指摘されたり疑われたりしている事案については,直ちに弁護士と相談をして社内調査等の対応方針を打ち合わせる必要があるでしょう。
裁判の結果によっては,金銭的な賠償のみならず,製品の製造の差し止め等のように,営業活動そのものが差し止められてしまう可能性まであります。
自社内での対応の前から,弁護士とよく相談しておく必要があります。

不正競争防止法の事例については,こちらのページでも解説をしています。

インサイダー取引とは?どのようなきっかけで発覚する可能性があるのか

2024-01-24

(事例はフィクションです)
Xさんは,元勤め先である一部上場株式会社Y社の元同僚から,同社が株式分割を決定した旨や株式分割に先立つ時期の通期個別決算における売上実績が好調である旨の各重要事実について事前に聞き,これを株式取引に利用しようと考えました。Aさんは,両事実が発表される5日前に,同社株式3000株を単価5000円で指値買注文をし,その15日後に同株式1500株を単価1万円で成行売注文をして,1500万円の利益を出しました。
Xさんは,自分の取引行為がインサイダー取引に該当するのではないかと不安に思うようになりました。

インサイダー取引とは?

インサイダー取引とは,金融商品取引法166条に違反する会社関係者による取引で,行為者に対しては5年以下の懲役もしくは500万円以下の罰金,又はその両方が科せられます(同法197条の2)。金融商品取引法166条は,会社関係者が企業の業務に関する重要事実を知って取引することを禁止しています。
関係者の取引を無制限に許していると,内部事情を知っている人が不公正な取引による不正な利益を得てしまうため,規制されています。

「重要事実」の内容についても法令によって列挙されています。その中には,株式の分割も含まれています。
株式分割は,増資を伴わず,発行済みの株式を分割するだけなので,各株主の分割株式数×株価の財産的価値は,分割前のそれと何ら変わりません。業績好調時に,分割前の配当が維持されたままの分割であれば,株式数の増加により実質増配になりますし,株価の単価が下がるため流動性が増すことになります。また,業績好調時に出来高が上がれば,結果として株価を引き上げる重要な結果となり得るので,こうした事実を重要事実として,「株式分割する予定であること」を公表前に知った者の取引が規制されており,まさにインサイダー取引規制の構成要件としては,格となる要素ということができます。

どのようなに発覚するのか

さて、このようなケースは、どのような経緯で発覚するものなのでしょうか。
例えば,冒頭の事例とは異なりますが,犯則嫌疑者が,10年前にY社の株を1000株持っており,この約10年間全く動きがなかったにもかかわらず,Y社において上場廃止基準に抵触する見込みが生じ,その公表の数日前に,証券口座を保有している証券会社に電話をかけ,全ての持ち株を値下がり前に売りつけたような場合,これ自体,実行行為たる取引行為であるとともに,重要事実の知情性がうかがわれせる事実となります。

冒頭の事例でも,結局,株式分割に加え,業績好調の事実の公表直前に,これまで動きのなかった持ち株について突然,1500万円の大金で買い注文を出し,公表後まもなく,取得株式の半分を売りつけて倍額の利益を得ているわけですから,同じことが言えます。
株価急変の原因となる事実の発生と取引の多寡や頻度の関係を調整して曖昧にすれば、より巧妙な取引になりうるわけですが、実際には、重要事実を知ってから判断にあまり時間に余裕がなかったり、安全パイだと思って集中投資をしていたため株価急落の情報に接して狼狽したりすることも少なくなくありません。

いすれにしても、証券取引等監視委員会は、こうした事実に常にアンテナをはっており、これらが調査の端緒となって、その後、取引行為の経緯,取引高,取引状況,利得の程度等が仔細に調査分析されて、最終的には、インサイダー取引の全容が明らかにされていくわけです。
なお,東京証券取引所グループおよび大阪証券取引所をまとめる日本取引所グループHPにも,インサイダー取引の概要が挙げられています。
監視委員会の調査が入った、質問顛末書をつくられた、あるいは強制調査を受けたなどというときは、一刻も早く弁護士に相談した方がいいでしょう。

インサイダー取引をはじめとした金融商品取引法違反についてはこちらのページでも解説をしています。

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