【事件解説】同族会社の違法な乗っ取り事件について詳しく解説

同族会社の違法な乗っ取り事件について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が具体例を交えながら詳しく解説します。

事件の概要

甲は、ある飲食店を経営する株式会社のα社(創業昭和60年)の代表取締役であり、長男Aと次男Bがそれぞれ同社の取締役を、Aの妻が監査役を務めていました。令和5年の春頃になると、甲が認知症と診断され施設に入所することとなり、実質的な経営は、AとBが共同で行うことになりました。なお、同社は資本金1000万円、持ち株比率は、甲が50パーセント、A、Bがそれぞれ25パーセントであり、株式について譲渡制限のある非公開の中小企業です。
最初の頃は、AとBが協力しあい経営も順調でしたが、同年秋頃から、AとBとの間で、α社の経営方針について激しく対立するようになっていきました。その後、甲の認知症はますます悪化し、もはや、A、Bが自分の実子らであることさえ認識できない状況に陥っていたのですが、年が明けた令和6年1月の小正月も終わったころ、突然、Bは、Aから「もうお前はうちの会社の役員でも何でもないし、仕事に来なくいていいから。」と言われたのです。寝耳に水のBは、これを聞いて大変に驚き、Aに説明を求めますが全く相手にしてくれません。
さて、Bはどうすればいいでしょうか(実在しないフィクションの事案です)。

解説

そもそも、Bの身には一体何が起きたのでしょうか。

α社は、資本金1000万円で、株主の甲、A、Bの3人の親族で同社の発行済株式の100パーセントを保有しています。法人税法上、会社の株主等の上位3株主グループが、その会社の発行済株式総数の50パーセントを超える株式を保有している場合、その会社を同族会社といいます。α社は、まさにこの同族会社に当たるわけです。この同族会社というのは法人税法上の分類ですが、こうした同族会社は、税法上の取り扱いとしてだけではなく、事実上も様々な特徴があります。そのうちの一つが、本事例で紹介したような親族間による違法な乗っ取りリスクです。

通常、定款に特別の定めがなければ、議決権の過半数を有する株主が出席する株主総会で、出席株主の議決権の過半数が、取締役の解任に賛成したときに、その取締役の解任が可能となります(会社法339条1項、341条)。

ご紹介した事案で、Bの取締役を解任するためには、α社の持ち株を25パーセントしか保有していないAの単独では、Bを適法に解任することは困難です。Bを解任するには、甲の50パーセントの持ち株をBの解任決議の議決権に加算する必要があるわけです。ところが、甲は認知症が悪化してAとBが自分の息子であることさえ認識できない精神状態になっていたわけですから、議決権行使などできるはずがありません。

結局、Aは、Bを経営から排除するために、勝手に臨時株主総会を開いたことにして、甲とAで、Bの取締役を解任する決議について賛成した議決権を行使した臨時株主総会議事録等を偽造し、Bの取締役の解任についての登記申請をしていたわけです。

Aに対する責任は

Aは、実在しない臨時株主総会議事録を勝手に作成し、その内容も、まともな意思表示さえできない甲が、Bの取締役解任決議について賛成する議決権を行使したとする虚偽の事実を記載しています。
このような書面等を作成し、これを登記申請のために法務局に提出する行為は、有印私文書偽造・同行使という犯罪に当たり、その法定刑は3月以上5年以下の懲役となります(刑法159条1項、161条1項)。また、さらに、これによって、法務局において真実と異なる商業登記の記録がなされるなどした場合は、公正証書原本等不実記録という罪に問われ、その法定刑は5年以下の懲役又は50万円以下の罰金となります(刑法157条1項)。

民事責任としても,Aは、Bに対し、上記犯罪行為について不法行為責任を問われ、損害賠償責任を負うことになります(民法709条)。

Bは、どのような対応をとるべきでしょうか

Bは、Aによる違法な会社の乗っ取り行為の兆候などに気付いたら、直ちに弁護士に相談し、適切な対応をとるべきです。
登記申請がされているとすれば、まずは登記手続を止める必要があります。そのためには、訴訟などという悠長なことはやっていられません。
真実と異なるとは言え、一旦、不実の登記がなされてしまえば、長期間に及ぶ訴訟で結果が出るまで、その登記はそのまま維持をされてしまいます。また、民事訴訟においては、原則として主張する側に立証責任があるため、そこに正義と真実があったとしても、仮に立証に失敗すれば負けてしまいます。

そんな憂き目をみないためにも、まずは仮処分です。仮処分とは、訴訟に先立ち短期間で裁判所の仮の判断を得て、登記手続を止める(却下など)ことができます。仮処分は裁判所の暫定的な判断ではありますが、極めて迅速かつ強力な効果を持っています。ただし、この仮処分は、被保全権利といって、守られるべき権利の特定や仮処分の必要性やその疎明資料(証拠資料となりうるもので裁判官に一応確からしいとの心証を与える資料)の収集など高度な法律的な判断や処理が必要となります。

また、他方で、この仮処分の手続と並行して、上述した刑事責任の追及という観点から、必要に応じて、刑事告訴・告発などの手続を進めていくことになります。

こうした法律的に高度な判断と処理をしていくためには、これらのことに精通した弁護士に依頼することが必要となります。
あいち刑事事件総合法律事務所には、これらのことに精通した弁護士が多数在籍しております。このような事態にいたったときは、是非、弊所にご相談ください。

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