マネーロンダリングと企業犯罪

テロや国際犯罪に対応するため、マネーロンダリング(資金洗浄)の防止が私企業にとっても重要となっています。
ここでは、マネーロンダリングについて解説します。

マネーロンダリングとは

マネーロンダリングについては、「マネー・ロンダリング(Money Laundering:資金洗浄)とは、一般に、犯罪によって得た収益を、その出所や真の所有者が分からないようにして、捜査機関等による収益の発見や検挙等を逃れようとする行為を言います。このような行為を放置すると、犯罪による収益が、将来の犯罪活動や犯罪組織の維持・強化に使用され、組織的な犯罪を助長するとともに、これが移転して事業活動に用いられることにより健全な経済活動に重大な悪影響を与えることから、国民生活の安全と平穏を確保するとともに、経済活動の健全な発展に寄与するため、マネー・ロンダリングを防止することが重要です。」と説明されています。
参照
JAFIC「マネー・ロンダリング対策の沿革」

マネーロンダリングでよくみられる方法は、薬物取引や組織犯罪により得られた犯罪収益を、無関係のように思われる銀行口座に送金するなどして、犯罪収益と特定できなくすることです。
このようなことをされると、そもそも犯罪収益を発見できなくなりますし、たとえ見つけたとしても没収などで取り上げることが困難になります。
結果、次の組織犯罪やテロなどの資金源となってしまうのです。このような事態を防ぐために、マネーロンダリングそのものを防止することが重視されています。

特定事業者による措置

「犯罪による収益の移転防止に関する法律」(犯収法)では、銀行や保険会社などを「特定事業者」と定めています(犯収法第2条第2項)。
特定事業者は、犯収法の別表に定める特定業務のうち特定取引を行うに際しては、本人特定事項などを確認しなければなりません(犯収法第4条第1項)。
顧客等や代表者等は、特定事業者がこの取引時確認を行う場合、その特定事業者に対し、取引時確認事項を偽ってはなりません(同法第4条第6項)。特定事業者は、顧客等がこの取引時確認に応じなければ、応じるまでの間、その取引等に係る義務の履行を拒むことができます(同法第5条)。
そして、特定事業者は、特定業務に係る取引について、当該取引において収受した財産が犯罪による収益である疑いがあるかどうか、組織犯罪処罰法や麻薬特例法に定める犯罪収益の隠匿を行っている疑いがあるかどうかを判断し、これらの疑いがあると認められる場合には、行政庁に届け出なければなりません(同法第8条第1項)。

行政庁は、特定事業者がこれらの規定に違反していると認めるときは、当該特定事業者に対し、当該違反を是正するため必要な措置をとるべきことを命ずることができます(同法第18条:是正命令)。
なお、犯収法第2条第2項の「特定事業者」には弁護士も含まれます(同項第45号)が、取引時確認等や疑わしい取引の届出等の義務を負う者からは除かれています(犯収法第4条第1項)。

弁護士の職務は依頼人との信頼関係が根幹となっており、依頼人に犯罪があると思料したら通報せよなどという義務を課されては、信頼関係など築くことができず、弁護が成り立たなくなるためです。
一方で、社会正義の実現を使命とする弁護士としては、マネーロンダリングに利用されるような事態は防がなければなりません。そこで、「政府及び日本弁護士連合会は、犯罪による収益の移転防止に関し、相互に協力するものとし、」日弁連会則で定めるところにより、本人特定事項の確認等が行われます(同法第11条第1項)。各弁護士も「本人特定事項の確認」などを徹底し、犯罪収益からは弁護士費用の支払いを認めない旨を委任契約書に明記する、などの対策をとってマネーロンダリングに利用されないようにしています。

マネーロンダリングに対する処罰

犯罪収益等の取得若しくは処分につき事実を仮装し、又は犯罪収益等を隠匿した者は、10年以下の懲役若しくは500万円以下の罰金に処され、又はこれを併科されます(組織犯罪処罰法第10条第1項)。
また、情を知って、犯罪収益等を収受した者は、7年以下の懲役若しくは300万円以下の罰金に処され、又はこれを併科されます(同法第11条)。法人の代表者や使用人が法人の業務に関してこれらの罪を犯したときは、行為者だけでなく、法人もそれぞれの条項に定められた罰金刑を科されます(同法第17条)。

薬物犯罪に係る犯罪収益については「国際的な協力の下に規制薬物に係る不正行為を助長する行為等の防止を図るための麻薬及び向精神薬取締法等の特例等に関する法律」(麻薬特例法)により同様に処罰されます。薬物犯罪収益等の取得若しくは処分につき事実を仮装し、又は犯罪収益等を隠匿した者は、10年以下の懲役若しくは500万円以下の罰金に処され、又はこれを併科されます(同法第6条第1項)。
また、情を知って、薬物犯罪収益等を収受した者は、7年以下の懲役若しくは300万円以下の罰金に処され、又はこれを併科されます(同法第7条)。法人の代表者や使用人が法人の業務に関してこれらの罪を犯したときは、行為者だけでなく、法人もそれぞれの条項に定められた罰金刑を科されます(同法第15条)。


犯収法は、マネーロンダリングにつながる危険性の高い行為を処罰します。前述の是正命令に違反したときは、当該違反行為をした者は、2年以下の懲役若しくは300万円以下の罰金に処し、又はこれを併科します(犯収法第25条)。法人の代表者や使用人等が法人の業務に関してこの違反行為を行った場合、法人も3億円以下の罰金刑を科されます(同法第31条第1号)。
また、顧客等又は代表者当の本人特定事項を隠蔽する目的で、取引時確認に際し取引時確認事項を偽ったときは、当該違反行為をした者は、1年以下の懲役若しくは100万円以下の罰金に処し、又はこれを併科します(同法第27条)。法人の代表者や使用人等が法人の業務に関してこの違反行為を行った場合、法人も同じ罰金刑を科されます(同法第31条第3号)。

弁護を受けられなくなる?

上記のように、現在においては、弁護士には法律上本人特定事項等の確認や疑わしい取引の届出は義務づけられていませんが、日弁連の会則にのっとり、「本人特定事項の確認」などを徹底し、マネーロンダリングに利用されないようにしています。
そのため、マネーロンダリングの疑いがある状況では、弁護士への依頼も困難となってしまいます。

まとめ

このように、企業がマネーロンダリングに関わったとみなされると、重い刑罰を科されるなど大変な不利益をこうむります。そのため、このようなマネーロンダリングが行われないようにすることが大切です。
マネーロンダリング対策,防止にお悩み・お困りの方は、こちらから弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所までご相談ください。

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