社内調査

⑴ 社内調査の目的

企業において不祥事が発生した場合、その原因等を企業自身が主体となって究明することを「社内調査」と呼ぶと思われます。

次に述べる「第三者委員会」等が、企業外部の人材による調査であることと異なり、社内調査はあくまでも企業内部の人員による調査です。

もっとも、この社内調査に、外部の弁護士を加える等の方法で、一定の外部性を確保することも考えられます。

社内調査の目的は、企業内の不祥事に対して

  1. 再発防止のための原因究明や
  2. 関係者の処分
  3. 株主等会社外部の関係者への説明のために行われます。

あくまでも会社が主体となって行う調査ですから、関係した従業員等に対して懲戒処分を行うための前提としての調査の意味合いも兼ねられています。

⑵ 社内調査の担当者

社内調査を行うにあたり、どのような方法で行うかは、各企業の判断となります。

元々企業に監査部門があるような会社の場合には、その監査部門の従業員による調査を行うことも考えられますし、監査部門がない場合には従業員の中から複数名を選んだうえで調査業務に当たらせるということも考えられます。

不祥事の規模により、役員直轄とするのか、代表取締役直轄とするのか、役員がメンバーに入るのか等はバリエーションがあると思われます。

⑶ 社内調査の方法

社内調査のためには、事案に関連する資料を当該部署から取り寄せ、確認をするほか、最も重要なものとして担当した職員への聞き取り等が不可欠であると思われます。

ところで、この従業員は、社内調査の聞き取りに対して応じる義務があるのでしょうか。

これについては、最高裁昭和53年12月13日民集31巻7号1037頁は以下の様に判示しています。

「そもそも、企業秩序は、企業の存立と事業の円滑な運営の維持のために必要不可欠なものであり、企業は、この企業秩序を維持確保するため、これに必要な諸事項を規則をもつて一般的に定め、あるいは具体的に労働者に指示、命令することができ、また、企業秩序に違反する行為があつた場合には、その違反行為の内容、態様、程度等を明らかにして、乱された企業秩序の回復に必要な業務上の指示、命令を発し、又は違反者に対し制裁として懲戒処分を行うため、事実関係の調査をすることができることは、当然のことといわなければならない。しかしながら、企業が右のように企業秩序違反事件について調査をすることができるということから直ちに、労働者が、これに対応して、いつ、いかなる場合にも、当然に、企業の行う右調査に協力すべき義務を負つているものと解することはできない。けだし、労働者は、労働契約を締結して企業に雇用されることによつて、企業に対し、労務提供義務を負うとともに、これに付随して、企業秩序遵守義務その他の義務を負うが、企業の一般的な支配に服するものということはできないからである。そして、右の観点に立つて考えれば、当該労働者が他の労働者に対する指導、監督ないし企業秩序の維持などを職責とする者であつて、右調査に協力することがその職務の内容となつている場合には、右調査に協力することは労働契約上の基本的義務である労務提供義務の履行そのものであるから、右調査に協力すべき義務を負うものといわなければならないが、右以外の場合には、調査対象である違反行為の性質、内容、当該労働者の右違反行為見聞の機会と職務執行との関連性、より適切な調査方法の有無等諸般の事情から総合的に判断して、右調査に協力することが労務提供義務を履行する上で必要かつ合理的であると認められない限り、右調査協力義務を負うことはないものと解するのが、相当である。」

この事案は、休憩時間内に社内で政治活動(と評価するかは争いがありますが、一応そのように考えます)を行った者を調査する際、聞き取り調査を拒否したことを理由に命令に従わなかったとして懲戒処分を行ったものです。

高等裁判所は、聞き取りに応じる義務があったことを認めて懲戒処分を有効と判断しましたが、一転して最高裁判所は聞き取りに応じる義務があったとは認められないとして懲戒処分の無効を言い渡しました。

企業内不祥事が、まさしく企業の職務に関連して行われるような場合には、従業員に対して義務的に調査に応じるよう命じることができると可能性が高いと言えますが、そうでない場合にはどこまで義務付けられるかについては慎重に見極める必要があります。

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