責任追及、内部処分・懲戒処分

責任追及、人事処分についての基本的な考え方

企業内で不祥事が発生した場合、事実関係の調査を終えた後は、企業としては、不正に関与した従業員・役員の責任の有無を判断し、それを踏まえた責任追及・人事処分を検討することになります。

不祥事に関する責任には、道義的・社会的責任といった法的責任ではないものもあります。

ここでは、刑事責任(刑事罰)や民事責任(損害賠償責任)といった法定されているものや、従業員に対する懲戒処分のように要件を法的に検討することが必要となる責任をとりあげることにします。

従業員・役員の刑事責任の追及(告訴・告発)

不祥事が発生したときに、それが犯罪に関わるような場合は、当該犯罪行為を行った従業員・役員について、捜査機関に対し、告訴・告発するか否かを検討する必要があります。

その場合、内部調査であれ、第三者委員会による調査であれ、企業の調査によって、従業員・役員の行為が犯罪と判明した場合、企業が刑事責任の追及にむけて告訴や告発をするか否かは、犯罪の重大性・悪質性、企業が受けた被害の大きさ、被害の回復の有無、懲戒等の処分の有無、取引先への影響等、当該犯罪に関する諸事情を総合的に考慮して事案ごとに判断することになります。

そして、告訴・告発がされる場合、複雑な事実関係の犯罪については、いかなる罪名の犯罪に該当すると判断するかも容易でない場合が多く、告訴状や告発状は、弁護士に依頼して作成するのが一般です。

また、弁護士が告訴・告発の代理を受ける場合は、なるべく証拠を揃えて警察署ないし検察庁に赴きますが、それでも通常、一度で受理されることは少なく、必要な補正等を行った上で受理してもらうことが多いのが実情です。

このように、告訴・告発は、犯罪の被害を受けた人などが自分で行うのはなかなか困難であり、専門家である弁護士に相談、依頼するのが望ましいといえます。

従業員・役員に対する損害賠償責任の追及

従業員が起こした不祥事によって企業が損害を受けた場合には、企業から従業員に対し、不法行為(民法709条)あるいは労働契約の債務不履行に基づく損害賠償請求を検討することになります。

また、取締役は会社法上、忠実義務のほか、競業避止義務や利益相反取引禁止義務も負っており、不祥事を起こした場合には、こうした義務に違反し、企業に対して損害賠償責任を負うことがあります(会社法423条から430条)。

そこで、企業としては、同規定に基づく損害賠償請求を検討することになります。

従業員に対する懲戒処分

次に、不正に関与した従業員に対する責任追及の方法として、就業規則に基づいた懲戒処分(内部処分)があります。

懲戒処分とはあくまでも企業秩序を維持するためのものです。

そこで、従業員の不祥事を、企業秩序に与える影響の大きさから分類しますと、

  1. 企業に対し、直接的に損害を与える場合
  2. 直接企業に対して損害を与えるものではないが、他の従業員等、企業の構成員に損害を与えるなどして、間接的に企業秩序を乱した場合、その他、
  3. 企業外の第三者に損害を与えた場合だが、結果的に企業に対して損害を与えるような場合に分類できます。

たとえば、企業から金銭を横領するような場合は、企業に直接損害を与えるものであり、重大な企業秩序違反といえます。

また、同僚と喧嘩をして暴行を加えた場合は、直接企業に対して損害を与えるものではありませんが、結果として企業秩序を乱すことになります。

さらに、企業と無関係の第三者にわいせつ行為をした場合、直ちに企業秩序に影響を与えるものではありませんが、インターネット等で所属企業が公になり、企業が批判されるような事態になれば、結果として企業秩序が乱されることになります。

次に、不祥事に対して課す懲戒処分については、就業規則において、懲戒処分の種別と、いかなる事由がその対象となるかが明記されているはずですから、それによって検討することになります。

一般によく見られる懲戒処分の種類について説明します。

  • 譴責・戒告:始末書の提出を命じて将来を戒める。
  • 減給:給与の一部を減額する。
  • 出勤停止(停職):一定期間出勤を停止し、その間の給与を支払わない。
  • 降級・降格:給与の等級あるいは役職を引き下げる
  • 諭旨解雇:退職を勧告し、拒否した場合には懲戒解雇とする。
  • 懲戒解雇:即時に解雇する。退職金も支給しない。

次に、懲戒に関する就業規則規定があり、懲戒事由該当性が肯定されても、さらに懲戒権の行使が権利濫用とならないかが吟味されます(労働契約法15条)。

懲戒権濫用の判断に際しては次の諸点が考慮されます。

  • 第1に、懲戒処分は、その違反行為の程度に照らして均衡のとれたものである必要があります(相当性の原則)。
  • 第2に、同等の義務違反(非違行為)については、同等の処分がなされるべき必要があります(平等取扱い原則)。
  • 第3に、懲戒を行うに際しては、本人に弁明の機会を与えることが、手続の適正の観点から、最低限必要である(適正手続の要請)。

最後に、具体的に、当該不祥事に対してどのような処分を下すかについては、不祥事によって生じた結果、従業員の不祥事の態様、不祥事を起こした動機、従業員の反省の程度、過去の処分歴、過去の事例との均衡などの諸事情を総合的に考慮して処分内容を決定することになります。

なお、背任・横領、セクハラ・パワハラなどの不祥事における事実関係の調査においては、調査の間、調査の対象となる従業員に対し企業に出社させない措置をとることがあり、これを自宅待機といいます。

自宅待機は、証拠の隠滅の防止(背任・横領など)や被害者への接触の防止(セクハラ・パワハラなど)の観点から命ずるものであり、この間の賃金を支給するのであれば、不当に長期間にわたらない限り、自宅待機は適法です。

総括

以上説明してきたとおり、企業内で不祥事が発生した場合、企業が、不正に関与した従業員・役員に対して責任追及・人事処分を検討する際には、法律ないし法的な検討が必要となる場面が多々あるため、弁護士のサポートがあるとスムーズに進みます。

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