特定商取引法違反

1 はじめに

特定商取引法は、訪問販売、通信販売及び電話勧誘販売に係る取引、連鎖販売取引、特定継続的役務提供に係る取引、業務提供誘引販売取引並びに訪問購入に係る取引について、取引の公正性や購入者の利益保護などを定めている法律です。

訪問販売は昨今ではかなり減ったようにも思いますが、一方で通信販売は誰もが当然に利用するほどになっています。それに合わせて、通信販売業を営む会社なども多くなっているでしょう。また、継続的なエステや語学教室なども特商法による規制対象です。

このように、特定商取引法の守備範囲は思っている以上に広範であるうえ、昨今の社会情勢なども鑑みれば、特定商取引を営む事業者もかなり多くなっていると考えられます。

一方で、特定商取引法違反で捜査機関から捜査を受けるようなことになってしまえば、事業にはとても大きな損害が生じかねません。

ここでは、特定商取引法違反の中でも重要な3つ(禁止行為違反(不実告知)、書面交付義務違反、誇大広告規制違反)について内容を確認していきましょう。

2 禁止行為違反(不実告知)

まずは禁止行為違反(不実告知)です。

ひとまずは条文を確認してみましょう。

第6条1項 販売業者又は役務提供事業者は、訪問販売に係る売買契約若しくは役務提供契約の締結について勧誘をするに際し、又は訪問販売に係る売買契約若しくは役務提供契約の申込みの撤回若しくは解除を妨げるため、次の事項につき、不実のことを告げる行為をしてはならない。

一 商品の種類及びその性能若しくは品質又は権利若しくは役務の種類及びこれらの内容その他これらに類するものとして主務省令で定める事項

二 商品若しくは権利の販売価格又は役務の対価

三 商品若しくは権利の代金又は役務の対価の支払の時期及び方法

四 商品の引渡時期若しくは権利の移転時期又は役務の提供時期

五 当該売買契約若しくは当該役務提供契約の申込みの撤回又は当該売買契約若しくは当該役務提供契約の解除に関する事項(第九条第一項から第七項までの規定に関する事項(第二十六条第二項、第四項又は第五項の規定の適用がある場合にあつては、当該各項の規定に関する事項を含む。)を含む。)

六 顧客が当該売買契約又は当該役務提供契約の締結を必要とする事情に関する事項

七 前各号に掲げるもののほか、当該売買契約又は当該役務提供契約に関する事項であつて、顧客又は購入者若しくは役務の提供を受ける者の判断に影響を及ぼすこととなる重要なもの

2 販売業者又は役務提供事業者は、訪問販売に係る売買契約又は役務提供契約の締結について勧誘をするに際し、前項第一号から第五号までに掲げる事項につき、故意に事実を告げない行為をしてはならない。

3 販売業者又は役務提供事業者は、訪問販売に係る売買契約若しくは役務提供契約を締結させ、又は訪問販売に係る売買契約若しくは役務提供契約の申込みの撤回若しくは解除を妨げるため、人を威迫して困惑させてはならない。

4 販売業者又は役務提供事業者は、訪問販売に係る売買契約又は役務提供契約の締結について勧誘をするためのものであることを告げずに営業所等以外の場所において呼び止めて同行させることその他政令で定める方法により誘引した者に対し、公衆の出入りする場所以外の場所において、当該売買契約又は当該役務提供契約の締結について勧誘をしてはならない。

非常に長い条文ですが、要は契約締結に向けての勧誘をするときや、契約解除などの際に、不実のこと(=真実ではないこと)を告げてはらないということです。

不実告知だけではなく、故意に事実を告げないことや、契約解除を防ぐために威迫困惑させることも禁止しています。

特定商取引法第6条は訪問販売に係る売買契約と役務提供契約についての規定ですが、他の特定商取引にも同様の規定があります(特定商取引法第13条の2(通信販売における不実告知の禁止)、21条(電話勧誘販売に係る売買契約若しくは役務提供契約における不実告知の禁止)、34条(連鎖販売業に係る連鎖販売取引についての契約における不実告知の禁止)、44条(特定継続的役務提供等契約における不実告知の禁止)、52条(業務提供誘引販売業に係る業務提供誘引販売取引についての契約における不実告知の禁止)、58条の10(訪問購入に係る売買契約における不実告知の禁止))。

そして、不実告知禁止違反があった場合には、3年以下の懲役又は300万円以下の罰金又はその併科という重い刑罰が科されます(特定商取引法第70条1項1号)。

さらに、特定商取引法には両罰規定もあります。

法人に対しては、1億円以下の罰金という非常に重い罰金刑が科されます(特定商取引法第74条1項2号)。

3 書面交付義務違反

次は、書面交付義務違反です。

こちらもまずは条文を確認してみましょう。

第4条1項 販売業者又は役務提供事業者は、営業所等以外の場所において商品若しくは特定権利につき売買契約の申込みを受け、若しくは役務につき役務提供契約の申込みを受けたとき又は営業所等において特定顧客から商品若しくは特定権利につき売買契約の申込みを受け、若しくは役務につき役務提供契約の申込みを受けたときは、直ちに、主務省令で定めるところにより、次の事項についてその申込みの内容を記載した書面をその申込みをした者に交付しなければならない。ただし、その申込みを受けた際その売買契約又は役務提供契約を締結した場合においては、この限りでない。

一 商品若しくは権利又は役務の種類

二 商品若しくは権利の販売価格又は役務の対価

三 商品若しくは権利の代金又は役務の対価の支払の時期及び方法

四 商品の引渡時期若しくは権利の移転時期又は役務の提供時期

五 第九条第一項の規定による売買契約若しくは役務提供契約の申込みの撤回又は売買契約若しくは役務提供契約の解除に関する事項(同条第二項から第七項までの規定に関する事項(第二十六条第二項、第四項又は第五項の規定の適用がある場合にあつては、当該各項の規定に関する事項を含む。)を含む。)

六 前各号に掲げるもののほか、主務省令で定める事項

2 販売業者又は役務提供事業者は、前項の規定による書面の交付に代えて、政令で定めるところにより、当該申込みをした者の承諾を得て、当該書面に記載すべき事項を電磁的方法(電子情報処理組織を使用する方法その他の情報通信の技術を利用する方法であつて主務省令で定めるものをいう。以下同じ。)により提供することができる。この場合において、当該販売業者又は当該役務提供事業者は、当該書面を交付したものとみなす。

3 前項前段の規定による書面に記載すべき事項の電磁的方法(主務省令で定める方法を除く。)による提供は、当該申込みをした者の使用に係る電子計算機に備えられたファイルへの記録がされた時に当該申込みをした者に到達したものとみなす。

こちらも非常に長い条文ですが、要は契約締結時等に第4条1項各号に規定されている事項を記載した書面を交付しなければならないということです。

ここで交付が義務付けられている書面は契約書本体ではないことに注意が必要です。

一般的には「重要事項説明書」などと呼ばれることもありますが、契約書とは別に、重要事項を抽出したものを交付しなければならないのです。

なお、近年の法改正により、紙媒体の書面だけではなく、購入者等の同意がある場合には電子データで交付することも認められました。

また、第4条1項は訪問販売における書面交付義務の規定ですが、他の特定商取引にも同様の規定があります(特定商取引法第18条(電話勧誘販売)、37条(連鎖販売取引)、42条(特定継続的役務提供)、55条(業務提供誘引販売取引)、58条の7(訪問購入))。

そして、書面交付義務違反があった場合には、6月以下の懲役又は100万円以下の罰金又はその併科という刑罰が科されます(特定商取引法第71条1号)。

さらに、法人に対しても100万円以下の罰金が科されます(特定商取引法第74条1項3号)。

4 誇大広告規制違反

最後は誇大広告に関する規制です。

第12条 販売業者又は役務提供事業者は、通信販売をする場合の商品若しくは特定権利の販売条件又は役務の提供条件について広告をするときは、当該商品の性能又は当該権利若しくは当該役務の内容、当該商品若しくは当該権利の売買契約又は当該役務の役務提供契約の申込みの撤回又は解除に関する事項(第15条の3第1項ただし書に規定する特約がある場合には、その内容を含む。)その他の主務省令で定める事項について、著しく事実に相違する表示をし、又は実際のものよりも著しく優良であり、若しくは有利であると人を誤認させるような表示をしてはならない。

広告では、著しく事実に相違する表示や、優良誤認表示が禁止されています。

どの程度の記載であれば「著しく事実に相違する」といえるのかは難しい問題ですが、一般的には「社会一般に許容される程度を超えている」といえれば、著しく事実に相違するといえます。

また、優良誤認表示については「社会一般に許容される誇張の程度を超えて、商品の性能、役務の効果、取引により得られる利益等が、実際のものよりも著しく優良等であると人を誤認させるような表示」のことを指すとされています。

第12条は通信販売における広告規制の規定ですが、他の一部の特定商取引にも同様の規定があります(特定商取引法第36条(連鎖販売取引)、43条(特定継続的役務提供)、54条(業務提供誘引販売))。

そして、誇大広告規制違反があった場合には、100万円以下の罰金という刑罰が科されます(特定商取引法第72条1項1号)。

さらに、法人に対しても100万円以下の罰金が科されます(特定商取引法第74条1項3号)。

5 特定商取引法違反と事業者の対応

特定商取引法違反があった場合、まずは直ちになぜそのような違反行為があったのかを調査する必要があるでしょう。

事業者として、禁止行為違反をしないことや書面交付義務を履行すべきことをきちんと指導監督していたのか、現場の担当者が違反をしてしまったのであればなぜ違反をしてしまったのか等をきちんと調査し、再発防止策を講じることが重要です。

また、そもそも、事業者としても、法令遵守をきちんと指示するとともに、現場の担当者が困らないように契約締結に際してのマニュアルなども整備しておくことも必要でしょう。

当然ですが、「このような規制があることは知らなかった」という言い訳は通用しません。

事業者が行っている事業が特定商取引法の規制を受ける事業なのかどうかをきちんと確認し、規制を受けるのであれば特定商取引法の規制内容を十分に理解し、各種対策を講じなければなりません。

しかし、特定商取引法は決して誰でも分かるような法律ではないので、きちんと弁護士を中心とした専門家からの指導を受ける必要性も非常に高いのです。

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