押収された会社所有のパソコンを返してもらえる? 押収物の還付請求について

事例

A社は派遣業を営んでいました。A社では社員に対してパソコンを貸与しており、その中には派遣先の企業や登録者のデータが保存されていました。
A社の社員であるBさんは、通勤中の電車内でスマホを使用して盗撮を行っており、撮影したデータをあろうことか会社で貸与していたパソコンに保存していました。
Bさんは、ある日盗撮をしていた現場で現行犯逮捕されてしまいました。
その後Bさんが盗撮していた動画を会社で貸与されたパソコンに保存していたことを自白したため、A社に捜索が入りBさんに貸与していたパソコンを盗撮事件の証拠品として押収していきました。
Bさんは、その後勾留されずに在宅捜査に切り替わりましたが、それから2か月たっても証拠品であるパソコンは返却されないままでした。
A社の代表は、このままパソコンが返されなければ業務に支障が出るとして、あいち刑事事件総合法律事務所の弁護士に対応を相談しました。
(事例はフィクションです)

証拠品の返還を求める手続について

刑事事件があった場合に、証拠として物品を押収(捜査機関の手元に置いておくこと)することについては刑事訴訟法に根拠が書かれています。
そして、押収された証拠品の返還を求める手続きについても刑事訴訟法に規定があります。
このような押収された証拠品の返還を求める請求のことを、証拠品の還付請求と言います。還付請求に関する根拠条文は以下の通りです。

刑事訴訟法第123条
1項 押収物で留置の必要がないものは、被告事件の終結を待たないで、決定でこれを還付しなければならない。
2項 押収物は、所有者、所持者、保管者又は差出人の請求により、決定で仮にこれを還付することができる。
3項 押収物が第110条の2の規定により電磁的記録を移転し、又は移転させた上差し押さえた記録媒体で留置の必要がないものである場合において、差押えを受けた者と当該記録媒体の所有者、所持者又は保管者とが異なるときは、被告事件の終結を待たないで、決定で、当該差押えを受けた者に対し、当該記録媒体を交付し、又は当該電磁的記録の複写を許さなければならない。
第222条
 …第118条から第124条までの規定は、検察官、検察事務官又は司法警察職員が…する押収又は捜索について…これを準用する。ただし、司法巡査は、第122条から第124条までに規定する処分をすることができない。

刑事訴訟法123条は被告事件すなわち起訴された件に関する証拠品の還付請求について定めた条文ですが、刑事訴訟法222条で押収または捜索について準用していますので、捜査中に押収された証拠品についても123条の規定は適用されます
そこで、還付請求が認められるかどうかにつき問題になるのが123条1項の「留置の必要がないもの」の解釈になります。
捜査機関は実際は捜査が進んで返せる状況にあるにもかかわらず、事件の処分が出た時に返せばいいやという感じで積極的に還付をしてくれない場合があります。
還付請求においては、留置の必要がないことについて説得的に主張することが重要になります。

事例における刑事弁護や物の押収に関する弁護人としての主張など、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所では刑事事件に精通した弁護士がアドバイス差し上げられます。
刑事事件に関連してお困りの方は、こちらからお問い合わせください

留置の必要があるかの判断について

本件のような捜査中の場合には、まだ刑事処分をどうするか決めていない状況なので、留置の必要がないことを主張することは容易ではありません
証拠品を当事者に返すことで証拠の隠滅や改ざんを行われ捜査に支障が出るおそれがあると考えられるためです。
たとえば本件のように、犯罪に関するデータを保存したパソコンについては、一定期間が経過したことでデータの確認作業や移動は終わっているはずであり、本人に返還したとしても改ざんや証拠隠滅の恐れはないと主張することが考えられます。
また今回のようなケースでは盗撮された被害者の保護の観点から警察が返還を渋る可能性もあるので、当該盗撮データについては、速やかに任意での削除に応じる代わりにパソコンの返却を求めるように交渉することも考えられます。

警察や検察が証拠品の還付を拒否した場合の対応について

警察や検察は還付請求に対して応じる義務はないので、「捜査中だから返せない」などと単純な回答により返還を拒否することがほとんどかと思います。
この場合には裁判所に対して申立てを行うことが考えられます。
具体的には、警察や検察が還付請求を拒否したこと(還付請求に対する却下処分)に対して準抗告を申し立てることになります。
今回の事例では被疑者ではないが、所有物の押収を受けたA社が準抗告を申し立てることができるか問題になり得ますが、これは最高裁で肯定されています(最高裁平成15年6月30日決定https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=50072)。
仮にこの申立てが認められれば、裁判所から捜査機関に対して還付するように命じられるので、証拠品はA社のもとに返還されることになります。
準抗告では留置の必要がなくなっていることを、捜査の経過などから丁寧に主張していく必要があります。

現代では事業の遂行においてパソコンやスマートフォンの使用は必須であり、これが一定期間返還されないことは会社経営の根幹を揺るがす事態になりかねません。
今回の事例のような状況に陥らないためにも、会社や会社の従業員らが刑事事件の当事者とならないように対策することは重要です。
ですがもし刑事事件に関与してしまい、会社のパソコンやスマートフォンが押収される事態になった場合には、捜査機関や裁判所に対し上記で解説したような適切な対応を早期に行っていく必要があります。
弊所では顧問契約を準備させていただいております。平時からの企業のコンプライアンス対策から、緊急時の捜査機関への対応まで、刑事事件に精通したあいち刑事事件に是非お任せください。

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