訪問販売で特定商取引法違反した場合の刑罰リスク徹底解説 -前編


○はじめに

訪問販売は消費者に直接アプローチできる有効な販売手法ですが、その反面、不適切な勧誘行為によるトラブルも起こりやすいため法律で厳しく規制されています。
とりわけ特定商取引法は、訪問販売での悪質な勧誘を禁止し、違反した事業者には行政処分や刑事罰が科される仕組みを整えています。万一法令に違反すれば、業務停止命令などで事業の継続自体が困難になるリスクだけでなく、罰金や懲役刑といった刑罰もあります。

本記事では、中小企業経営者や訪問販売事業者の方々に向けて、特定商取引法における訪問販売の定義から禁止行為の具体例、違反時の刑事責任と行政処分、実際の摘発事例、経営への影響、そしてコンプライアンスの対策までを総合的に解説します。最後に、違反リスクへの対応策として弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所のサポート内容も紹介しますので、リスク管理にお役立てください。

○特定商取引法における訪問販売の定義と対象範囲

まず「訪問販売」とは何かを確認しましょう。特定商取引法第2条1項で定義が定められており、訪問販売を事業者(販売業者や役務提供事業者)が、自らの営業所以外の場所(例:消費者の自宅)で契約の申込みや契約締結を行う取引などをいいます。

典型的にはセールススタッフが家庭を戸別訪問して商品やサービスの契約を結ぶケースですが、それだけではありません。
特定商取引法上の訪問販売にはキャッチセールスやアポイントメントセールスと呼ばれる手法も含まれます。
例えば、街頭で通行人に声をかけ営業所等に同行させて契約させる行為(キャッチセールス)や、電話・SNS等で「景品が当たりました」「特別に選ばれました」などと宣伝して店舗に呼び出し契約させる行為(アポイントメントセールス)も、契約自体は店舗で結んだとしても訪問販売に該当します。

また、一時的に借りたホテルの一室や喫茶店で商品を展示・販売する場合でも、その会場の状況が常設店舗に準じないようなものであれば訪問販売に該当します。このように消費者にとって不意打ち性の高い勧誘は広く「訪問販売」として法律の規制対象となります。
要するに、店舗や事務所から離れた場所で行われる対面勧誘販売が訪問販売に該当します。

特定商取引法の訪問販売規制は、原則としてすべての商品・サービスおよび特定権利(会員権など一定の権利)に適用されます。
したがって、住宅リフォームから健康食品の販売、さらには権利性商品(例:クラブの会員権や塾の受講権)まで、業として反復継続的に消費者に対して行う勧誘販売であれば基本的に特定商取引法のルールに従わねばなりません。事業者は「自分の販売形態が訪問販売に該当するか」慎重に見極め、該当する場合は同法の規制を遵守する必要があります。

○訪問販売で禁止されている行為の具体例

次に、特定商取引法が訪問販売でどのような勧誘行為を禁止しているかを具体的に見ていきます。同法第6条では、消費者に不当な契約をさせたり契約解除を妨げたりする以下のような行為を明確に禁止しています。
代表的な禁止行為の例は以下のとおりです。

不実告知(虚偽・誇大な説明): 商品・サービスの内容や価格など重要な事実について、事実と異なることを告げる行為。たとえば「この浄水器をつければ病気にならない」など根拠のない効果をうたったり、「本日限り半額」などとウソの割引情報を伝えて契約を急がせることが該当します。事実に反する説明で消費者を誤認させ契約させることは厳禁です。

重要事項の不告知: 消費者に契約させる際に、本来知らせるべき重要な事実を意図的に告げない行為。典型例は、契約後でも一定期間内なら無条件で解約できる「クーリング・オフ」の制度をわざと説明しないケースです。他にも、追加料金や解約制限など不利な条件を隠して契約させる行為が該当しえます。重要なポイントを黙っているのも違法な勧誘に該当しうるのです。

威迫・困惑(脅しや執拗な勧誘): 契約をさせるため、あるいは消費者による申込み撤回や契約解除(クーリング・オフ)を妨げるために、相手を威圧したり心理的に追い詰めたりする行為です。大声で怒鳴って契約を迫る、長時間居座って消費者を疲弊させ判断力を鈍らせる、契約を断ろうとする相手に「違約金を支払え」などと脅す――こうした威嚇的・困惑的な勧誘は法律で禁止されています。消費者が不安や恐怖で正しい判断ができない状況を意図的に作り出す行為は違法です。

再勧誘・迷惑勧誘: 消費者が一度「契約しません」「申し込みを撤回します」と意思表示したにもかかわらず、執拗に勧誘を続ける行為も禁止されています。特定商取引法第3条の2第2項により、訪問販売業者は相手方が契約しない意思を示したら、それ以上その契約の勧誘をしてはならないと定められています。例えば「もう結構です」と断られたのに別の日に再訪問したり、電話を繰り返し掛けたりするのは再勧誘の禁止規定に抵触します。また、相手から退出要請があったのに居座り続ける(不退去)ことも問題です。消費者の意思に反するしつこい勧誘は違法です。

目的隠匿の誘引(キャッチセールス・アポ電勧誘): 販売目的を告げずに人を誘い出し、公共の場所以外で契約を勧誘する行為も禁止されています。例えば「アンケート調査です」「無料でプレゼントを配っています」などと営業目的を隠して人を呼び止め、営業所ではない場所に連れて行ってから商品を売り込む手口がこれに当たります。前述したキャッチセールスやアポイントメントセールスで、誘い出した消費者を密室や人目につかない場所で勧誘するような場合が典型例です。正体を隠しておびき出し、その場で初めて契約を迫るようなやり方は法律違反となります。

以上が主な禁止行為の例となります。
これら以外にも、訪問販売では契約時に事業者情報や契約条件を書面で交付する義務(第4条・第5条)や、契約後一定期間の無条件解約を認めるクーリング・オフ制度(第9条)など消費者保護のルールがあります。これらの義務を怠ること自体も違法行為です。たとえば契約書面を渡さない、書面に虚偽の内容を記載する、といった行為も処罰の対象になります。事業者は法律で何が禁じられているかを正確に理解し、絶対にそれらの不適切な勧誘を行わないよう社内で徹底する必要があります。

○違反行為に科される刑事罰と行政処分

特定商取引法に違反した場合、事業者や関係者には行政上の処分と刑事上の罰則の双方が科される可能性があります。ここでは訪問販売で禁止行為等に違反した際の主な処分と刑罰を解説します。

  1. 行政処分: 特定商取引法に基づく行政処分には段階があり、違反の程度に応じて次のような措置がとられます。
    業務改善の指示(指示処分): 主務大臣は、違反を確認した事業者に対してまず違反行為をやめ、再発防止策を講じること等の是正指示を出すことができます(第7条1項)。これは行政上の是正勧告にあたり、法的拘束力があります。改善指示を受けた事業者は速やかに社内体制を見直し、違反を解消しなければなりません。
    業務停止命令: 違反が重大または悪質な場合、あるいは指示に従わない場合には、一定期間その業務の全部または一部の停止を命じられます(第8条)。例えば「令和○年○月○日から○月○日までの間、訪問販売業務のうち●●に関する事項を停止すること」といった内容です。業務停止命令を受けると、その間は指定された営業活動を一切行えなくなるため、事業継続に深刻な影響が生じます。行政処分としては重い部類で、違反行為が反復継続され消費者被害が拡大しているようなケースなどで発動されます。
    業務禁止命令(役員の関与禁止命令): さらに悪質な場合、法人の代表者や担当役員個人に対し、一定期間その訪問販売業務を新たに開始することを禁ずる業務禁止命令が発令されることもあります(第8条の2)。これは業務停止命令を出された法人の代表者などが、別名義で同じ事業を行って業務停止命令が無意味なものにならないように行う処分です。
    また、こうした行政処分が下された場合、主務官庁のホームページやプレスリリースで社名や違反内容が公表されます。公的に名前が公表されることで社会的信用失墜というさらなるペナルティも科される仕組みです。
  2. 刑事罰: 行政処分にとどまらず、特定商取引法違反行為の一部は刑事罰(懲役刑・罰金刑)の対象にもなっています。警察などの捜査機関が悪質な事件と判断すれば、関係者が逮捕・送検され刑事裁判で裁かれる可能性があります。主な刑事罰の規定は以下のとおりです。
    禁止行為違反に対する罰則: 第6条に定められた上記のような禁止行為(虚偽説明、威迫困惑、目的隠し勧誘等)に違反した者は、3年以下の懲役または300万円以下の罰金(もしくはその両方)が科されます。
    たとえば訪問販売で嘘の説明をして契約させた営業員や、そのような手法を指示した経営者は、この規定により刑事罰を受ける可能性があります。
    書面交付義務違反に対する罰則: 契約時の書面交付義務(第4条1項・第5条1項、2項)を怠ったり、交付書面に虚偽の記載をした場合も処罰対象です。
    これに違反した者には6月以下の懲役または100万円以下の罰金(または両方)が科されます。実際、クーリングオフの書面を渡さなかったリフォーム業者の社長がこの容疑で逮捕されたと報道された例があります。書面を出さないと「手続きミス」程度に思われがちですが、立派な犯罪行為なのです。
    行政処分違反に対する罰則: 発令された業務停止命令や禁止命令に違反して営業を続けた場合も、極めて悪質とみなされ厳罰に処されます。
    具体的には、主務大臣の命令に違反した者は3年以下の懲役または300万円以下の罰金(または両方)に処せられます(第70条第3号)。例えば業務停止中にも関わらず密かに勧誘を続けていたような場合、刑事事件として逮捕された事例もあります。行政処分に背く行為は非常に悪質だとみられ、特に重い罰則が用意されています。

 以上のように個人に科される刑罰だけでなく、事業主体である法人自体も処罰の対象となり得ます。特定商取引法には両罰規定があり、違反行為を行った従業員や代表者本人の処罰に加えて、その使用者である法人にも罰金刑が科されます。たとえば社員が訪問販売で違法な勧誘を行った場合、企業には1億円以下の罰金が科される可能性があります。

また、業務停止命令違反のようなより重大なケースでは法人に対し最大3億円以下の罰金という非常に高額な制裁が科されます。中小企業にとって数億円の罰金は経営を揺るがしかねない巨額であり、法人としての刑事責任も極めて重いことがわかります。

さらに、訪問販売での悪質商法は場合によって詐欺罪(刑法246条)や強要罪(刑法223条)といった一般刑法で裁かれることもあります。たとえば嘘を並べ立てて高齢者に高額な契約を結ばせ巨額の代金を騙し取った場合には、特商法違反のみならず詐欺罪が適用されてより重い刑罰(10年以下の懲役など)に問われる可能性もあります。

このように特定商取引法違反は刑事事件化しやすく、企業経営者や社員にとって逮捕・起訴や前科といったリスクをはらんでいることを肝に銘じる必要があります。

○実際の違反事例(企業や経営者の摘発ケース)

特定商取引法違反で訪問販売業者や経営者が摘発された実例は後を絶ちません。ここではいくつか具体的なケースを紹介します。いずれも法律違反により逮捕や処分に至った事例であり、読者の皆様の教訓としてください。
•住宅リフォーム「点検商法」でクーリングオフ不告知の摘発: 2024年から2025年にかけ、関西地方で屋根修理の訪問点検で消費者の不安をあおり、屋根工事契約の訪問販売を行っていたリフォーム会社の社長や社員、アルバイト4名が、契約時にクーリングオフが可能なことを説明しなかったなどの疑いで逮捕されたという報道がされています。この事件では、アルバイト50人以上をSNSで集めて戸別訪問させる大がかりな手口であったとも報道されています。

•高齢者に対するアポイントメントセールスの摘発: 古典的な手口ですが、高齢者を狙った訪問販売の違法勧誘も各地で摘発されています。たとえば2009年には神奈川県の訪問販売会社の実質経営者ら6人が、「店のオープン記念で商品を無料配布します」と嘘を言って74歳の女性を民家に呼び出し、実際には家庭用温熱治療器を約26万円で売りつけた容疑で逮捕されたと報道されています。この事件では、商品は仕入れ値3万3千円ほどのもので、12月から翌9月までの間に約1000人の高齢者に同様の手口で販売し、総額2億4千万円もの売上を上げていたとも報道されています。これは典型的なアポイントメントセールス(目的隠匿勧誘)の悪質事例で、消費者の善意(無料配布にあやかりたい気持ち)につけ込んだものです。


•業務停止命令に違反して勧誘を続けた摘発: 違反を繰り返した業者には行政処分が下されますが、それを無視すれば刑事事件となります。2023年には、過去に特商法違反で業務禁止命令を受けていた訪問販売会社の関係者2名が、業務禁止命令中にもかかわらずセミナーで勧誘を続けていたとして逮捕されたと報道されています。この事件では、全国で1000億円以上を集めていたとみられるとも報道されていて、行政処分を無視した悪質業者に対する摘発の典型例といえます。

これらの事例からも分かるとおり、特定商取引法違反は実名報道を伴う摘発案件となり得ます。一度このように摘発されてしまうと、経営者個人はもちろん会社の名前も報道で広く知られてしまい、信用失墜は避けられません。違法な勧誘は「自分だけは大丈夫」と思わず、社会の監視の目に晒されているという自覚を持つことが肝要です。

○弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所によるサポート

特定商取引法に関するリスク対応について不安がある企業や、残念ながら違反行為を指摘されてしまった事業者の方は、早めに法律の専門家である弁護士へ相談することをおすすめします。

弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所は、企業の刑事事件やコンプライアンス支援を扱う法律事務所であり、特定商取引法を含めた特別法違反の刑事事件に関する豊富な知見と実績を有しています。
当事務所では、訪問販売や通信販売など特定商取引法が関係するビジネスを営む企業に対し、法令遵守のためのアドバイスや社内体制整備のサポートを提供しています。具体的には、貴社の契約書類や勧誘マニュアルが法律の要件を満たしているかをチェックし、必要な修正点を提案いたします。また、営業担当者向けのコンプライアンス研修の実施、万が一トラブルが発生した際の社内調査の支援なども可能です。顧問契約による継続サポートによって、定期的に取引内容の適法性を確認しリスクを未然に防ぐ体制構築をお手伝いいたします。


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以上、特定商取引法が規制する範囲や具体的な事例などについて解説しました。健全な事業運営のためには法律遵守が不可欠であり、違反した際の代償は企業にとってあまりにも大きいものです。本記事の内容を踏まえ、ぜひ適切なコンプライアンス体制を整えていただければ幸いです。万一トラブルに直面した際には早めに専門家に相談し、被害の拡大を防ぐようにしてください。法を守った誠実な訪問販売で、消費者から信頼される健全なビジネスを築いていきましょう。

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