パワハラ行為による民事的,刑事的責任

事例はフィクションです。

A社の営業部長Bさんの部下であるCさんは最近元気がありません。そこで、社長がCさんに声をかけると、Cさんは、「B部長からは、いつも意地悪をされたり、暴言を吐かれ、ときには大声で怒鳴り散らされるなどのパワハラを受けている。A部長の下ではもう働きたくない。」と言ってきました。

パワハラとは

パワハラとは、2012年1月に公表された、政府の「職場いじめ・嫌がらせ問題に関する円卓会議ワーキング・グループ」の報告書によれば、「同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為をいう。」とされています。

パワハラについては、一般的には民事の損害賠償請求の形で落ち着くことが多いのですが、刑事事件に発展する場合もあります。

すなわち、相手に対して、殴る、蹴るなどの暴力行為を伴うものであれば、暴行罪に当たることは当然ですが、傷害罪における傷害行為は、人の生理的機能に対して障害を与えればよいとされています。人の生理的機能に対して障害を与えれば、それが肉体的なものではなく、精神的なものであっても、傷害罪が成立しうることになるのです。

例えば、何度も大きな声で怒鳴る、執拗にねちねちと小言を言うなどの行為により、部下が精神障害を起こして診断書が提出されれば、上司が傷害罪に問われるおそれもあります。

事例のBさんの行為も、Cさんから診断書が提出されれば傷害罪に問われる可能性がありますので注意が必要です。

パワハラ・セクハラについてはこちらでも解説をしています。

会社としてどう対処すべきか

加害者に対する処分

A社は、パワハラの事実が確認できた場合には、加害者に対する懲戒処分を検討することになります。懲戒処分を科す場合には就業規則に則って対応をしなければなりません。就業規則に沿わない処分や不当に重い処分をしてしまうと、裁判で無効と判断されることもあります。

会社に生じる責任について

パワハラは、あくまでも会社に所属する個人が行うものです。そこで、すでに説明したような刑事責任を、所属先であるA社が問われることはありません。

しかし、民事責任については、A社にも生ずる場合があります。

たとえば、事例のパワハラの事例で、Bさんが、会社における仕事を行うに際して(法律上は「事業の執行について」といいます。)、パワハラ行為を行っている場合、A社も、Cさんに生じた損害を賠償する責任(使用者責任といいます。)を負う場合があります。

また、A社でパワハラがあった場合において、事前に、相談できる職場環境を整えたり、事後的に、パワハラ被害の申告があったにもかかわらず、これを放置し、何ら調査を行わなければ、A社自身が民事責任を負うことになる可能性があります。

さらに、会社にてパワハラがあった場合において、たとえば、事例におけるBさんが傷害罪で逮捕され、Bさんの実名や、BさんがA社の従業員であることが報道されてしまうと、会社の信用にも関わり、取引先への影響などが生ずる可能性があります。

以上のように、会社内でパワハラ行為があったことが発覚した場合、様々な対応をする必要があり、適切に対応していくのであれば、弁護士のサポートが必要になってくることが考えられます。早期に弁護士に相談した方がよいでしょう。

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