ステルスマーケティング規制と行政指導・行政処分②

【事例】

Xさんはスポーツジムやエステサロンを展開するA社の代表取締役を務めていました。
AさんはSNSを通じた顧客獲得に関心を持っていました。
そして令和6年頃からSNS上のインフルエンサーに依頼して自社のスポーツジムやエステサロンをおすすめする記事を投稿してもらっていました。
そのうちXさんは、PR案件であることを明示すれば顧客が信じないと考え、投稿された記事についてPR案件という表示を行わずに自社のサイトでお客様の声として自社のサイトにアップしていました。
この投稿が問題ではないかという声が社内であがり、Xさんは刑事事件や行政処分の対応に詳しいあいち刑事事件総合法律事務所の弁護士に相談しました。
(事例はフィクションです)

1 ステルスマーケティング規制の要件について

今回の記事ではステルスマーケティング規制の要件について詳しく解説します。
先述した内閣府からの告示によれば規制されるのは、「事業者が自己の供給する商品又は役務の取引について行う表示であって、一般消費者が当該表示であることを判別することが困難であると認められるもの 」と説明しました。
この規制内容について要件に分ければ

①事業者が自己の供給する商品または役務の取引について行う表示であること
②一般消費者が①の表示であることを判別することが困難であると認められること

①の要件は事業者が表示しているといえる場合で、「事業者の表示」の要件と言い換えることができます。
②の要件は消費者から見て事業者が表示していると判別することが困難といえる場合で、「判別困難性」の要件と言い換える事ができます。

2 「事業者の表示」要件について

当然ですが事業者(経営者)が第三者を装って口コミなどを書けば当然にこの要件を満たします。
実際に問題になるのは口コミなどを書いているのはインフルエンサーや従業員などの第三者(事業者以外の者)であるが「事業者の表示」であるとみなされる場合です。
これについて消費者庁はホームページで運用基準を示しています(https://www.caa.go.jp/policies/policy/representation/fair_labeling/stealth_marketing/)。
自社の従業員による表示については「事業者と一定の関係性を有し、事業者と一体と認められる従業員による表示」といえる場合には事業者の表示とみなされます。
具体例としては本社の販促担当者や子会社のマーケティング担当者が投稿などを行う場合には、仮に当該従業員が自主的な判断で表示していた場合でも「事業者の表示」にあたるとしています。
インフルエンサー等の第三者であっても、事業者が当該インフルエンサー等の第三者に依頼して自社の商品を宣伝してもらう場合には「事業者の表示」にあたるとしています。

3 「判別困難性」要件について

一般の消費者にとって、事業者が表示している明白である場合や、社会通念上明らかである場合には、消費者がそのことを割り引いて評判などの考えるのでステルスマーケティングの問題が生じません。
代表的な表示としては企業自身が広告をする場合や、インフルエンサーなどが「PR案件」などの表示を行う場合です。

注意が必要な場合としては、仮に形式的には「PR」などの表示がある場合でも外形的に第三者の表示と認識されるような場合には、判別困難性の要件を満たしてしまうということでっす。

例えば、自社サイトに記載しているが「お客様の声」などのように第三者からの感想のように記載している場合や、「PR」の記載が一般消費者が認識できないほどの時間やサイズでしか表示していない場合も「判別困難性」の要件を満たすことになります。
判別困難性についても、上述した消費者庁が公表している運用基準(https://www.caa.go.jp/notice/entry/032672/)に詳しく規定がありますので参考にしてください。
個別の事例について判別困難性の要件を満たしているか不安な方は是非、広告規制に精通した弁護士に一度ご相談ください。

事例1の検討

ここまで「事業者の表示」の要件、「判別困難性」の要件について解説してきました。
ではA社の事例についてはステマ規制に抵触するのか検討していきたいと思います。

A社が行っている広報活動については令和6年以降しているものなので、改正後のステルスマーケティング規制に違反しているかが問題になります。

まず①の要件については、A社はインフルエンサーの方に直接依頼して作成してもらっているので、「事業者の表示」の要件は満たします。
次に②の要件についてですが、一見すると自社サイト内での表示なので問題にないように思われます。
しかしインフルエンサーの方の投稿を自社のサイト内で「お客様の声」として第三者からの評判のように紹介しており、元の投稿に付いていた「PR案件」の表示も敢えて削除していることから、消費者からA社の表示と判断することは困難であると判断される可能性が高いと思われます。
したがって②の要件についても満たす可能性が高いといえます。

以上から、事例1についてはステルスマーケティング規制に抵触する可能性が高い広報活動であるといえます。

次回の記事では、ステルスマーケティング規制に違反した場合にどのような手続きが予定されているかについて解説します。

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