
このページの目次
はじめに
学校法人や教育機関では、教師による体罰、生徒や職員へのハラスメント、資金の不正流用、不正な入試操作、不祥事の隠蔽といった様々な問題が発生し得ます。これらの問題は放置すれば刑事事件に発展してしまい、組織の信用を大きく損ねるリスクがあります。初期対応の誤りが重大事態や訴訟リスクに直結する現代では、法的知見に基づいた組織的な危機管理の視点が不可欠です。実際、多くの学校法人が弁護士への相談を通じて予防法務の重要性を痛感しており、有事に迅速かつ的確に行動するための知識が現場で強く求められています。
本記事では、学校内で問題が刑事事件化する前に対処する「予防法務」の重要性について解説します。施設管理部、法務部、総務部など学校現場の職員の皆様を対象に、ガバナンス強化やハラスメント防止規程の整備、コンプライアンス研修、契約書チェック、内部通報制度など、弁護士の支援を得た実践的な予防策を具体的に紹介します。これらの取組みにより教育現場のリスクを未然に防ぎ、学校の信頼と安全を守ることが本記事の目的です。
予防法務の重要性
予防法務とは、問題が発生して刑事事件や訴訟になる前に、法的リスクを洗い出して対策を講じておく取り組みを指します。従来、学校現場では何か問題が起きた際に事後対応として法務に頼ることが多く、対症療法にとどまっていました。しかしそれでは本当の意味で組織の改善や再発防止にはつながりません。ハラスメント事案への対応一つ取っても、個別の解決だけでは同じ問題が繰り返されることが指摘されています。このため昨今では、学校法人のガバナンス(組織統治)を発展させるために、事前の法務を積極的に活用する姿勢が重要視されています。
実際、2023年の私立学校法改正により学校法人のガバナンス強化は待ったなしの課題となっており、受動的対応ではなく積極的に総合的施策を展開することが求められています。予防法務に取り組むことで、学校は不祥事の芽を早期に摘み、刑事事件化する事態を防ぐことができるのです。
事例
予防法務の必要性は、近年の教育現場の不祥事事例からも明らかです。例えば、教師による体罰が発生した場合、生徒側が被害届を出せば暴行罪や傷害罪などで刑事事件化する可能性があります。実際に体罰行為によって逮捕された教師も過去におり、「学校の中のことだから大事にならない」とは言えません。
また、学校法人の役員等による資金不正が発覚すれば業務上横領罪で告訴されるケースもあります。実際、ある学校法人で元理事が3億円以上の資金を不正に引き出し、法人が業務上横領容疑で告訴状を提出した事例も報じられています(実際の報道はこちら)。入試の不正操作に関しても、2018年の東京医科大学の事件では文部科学省幹部への贈賄の見返りに受験者の得点を操作したとして大学幹部らが有罪判決を受け、大きな社会問題となりました(実際の報道はこちら)。
さらに、校内でいじめや不祥事が起きた際に事実を隠蔽すると、被害者側から訴訟を提起され世間の厳しい批判を招く結果となります。あるいじめ事案では、学校が加害生徒への指導を怠り被害を軽視したためPTSDを負った生徒の保護者が提訴し、校長・教頭が辞職に追い込まれた例もあります。
このように予防策が不十分だったために刑事事件や訴訟に発展した事例は少なくありません。だからこそ事前に適切な対応策を講じ、問題の芽を摘んでおく予防法務が重要なのです。
学校内ガバナンス強化
学校法人におけるガバナンス強化とは、組織内の統制体制やチェック機能を高め、不正や不祥事を起こりにくくする仕組みづくりを指します。具体的には、理事会や監事による内部統制の充実、職務分掌の明確化や意思決定プロセスの透明化、そして法令遵守(コンプライアンス)を徹底する企業文化の醸成などが含まれます。
適切なガバナンス体制が整っていれば、仮に内部で不正の兆候があっても早期に発見・是正でき、問題が深刻化する前に手を打つことが可能です。またガバナンス強化には、外部の専門家である弁護士の知見を活用することも有効です。学校特有の問題(例えば教員の服務や学生対応)には専門知識と経験が必要であり、顧問弁護士として継続的に関与することで事前のリスク察知と体制整備に貢献できます。
近年の法改正や社会的要請もあり、学校法人すべてにとってガバナンス強化は避けて通れない大きな課題となっています。健全なガバナンスを確立することが、体罰や不正を未然に防ぎ学校への信頼を守る土台となるのです。
ハラスメント防止規程と危機管理マニュアルの整備
教育現場は他の組織に比べてもパワハラ(権力による嫌がらせ)やセクハラ、教員間のアカデミックハラスメント等が発生しやすいと言われます。そのため、学校法人にはハラスメント行為が起きないよう職場環境を整備し、明確なハラスメント防止規程を定めておくことが強く求められます。
具体的には、「何がハラスメントに該当するか」を定義し、禁止行為と処分規定、相談窓口や報告義務について規程に明記します。こうしたルールを事前に周知徹底しておくことで、教職員は互いに注意喚起し合い、万一問題が起きても被害申告や適切な対処がしやすくなります。
また危機管理マニュアルの整備も重要です。事故や不祥事が発生した際にどう対応するか、誰が責任者となり関係機関への連絡や記者発表を行うか、といった手順を定めておくことで初動対応の迷いを防げます。肝心なのは「速やかかつ誠実な対応」です。学校側が自己保身を優先して事実を隠したり対応を遅らせたりすれば、結果的に事態が悪化し被害が拡大することは多くの失敗事例が示す通りです。
逆に、マニュアルに沿って迅速な調査・被害者ケア・再発防止策を講じれば、警察沙汰や世間からの批判を防ぐことにつながります。弁護士は危機管理マニュアルの策定にも助言できるため、平時から専門家と協力してルール作りを進めておくことが有効です。
職員向けコンプライアンス研修
どれだけ立派な規程やマニュアルを作っても、現場の教職員一人ひとりがその内容を理解し実践できなければ意味がありません。そこで欠かせないのがコンプライアンス(法令遵守)研修です。職員向け研修では、具体的な事例を通じて学校現場で起こり得る法的トラブルと対応策を学びます。例えば「いじめが発覚したら学校としてどう動くべきか」「ハラスメントの兆候を見たときの報告義務」等、実践的なシミュレーションを行うことで、自分が当事者になった場合の適切な行動を身につけられます。
法律論だけでなく現場のケースに基づく研修により、教職員は抽象的な規則を自分事として捉え、日常業務で注意すべきポイントが明確になります。研修では弁護士など外部講師を招くことで、最新の法改正情報や他校の事例も共有できますし、「なぜそれが必要なのか」を法律面と実務面から説明してもらうことで理解が深まります。
近年はいじめ防止やハラスメント対策の研修が各地で行われており、初期対応の誤りが重大事態へ発展するのを防ぐ効果が出ています。定期的なコンプライアンス研修を実施することで、教職員全員の意識を高め、組織としてリスクに強い体質を築くことができるでしょう。
契約書チェックと内部通報制度
学校法人では物品購入や業務委託、雇用契約など様々な契約を締結します。契約書に不備があると、後々トラブルになったり法令違反が潜んでいたりする恐れがあります。例えば業者との契約で不利な条項を見落としていたために予算超過や債務トラブルが起きたり、職員との契約更新を適切に行わず雇止め紛争に発展したりといった事例があります。
こうしたリスクを避けるため、契約書の内容は事前に弁護士にリーガルチェックしてもらうことが有効です。法律の専門家が関与すれば、契約条項の不明確な点や法令違反の可能性を洗い出し、学校法人にとって公正かつ有利な内容となるよう修正提案を受けられます。あわせて、組織内の内部通報制度(公益通報制度)の整備も予防法務の重要な柱です。内部通報制度とは、職員等が組織内の不正や法令違反を見つけた際に、安心して報告できる窓口とルールを設ける仕組みです。早期に内部告発してもらえれば、不正やハラスメントを組織内で是正し、外部に発覚して刑事事件化・社会問題化する前に対処できます。内部通報窓口は社内に設置する方法もありますが、通報者の守秘や調査の中立性を担保するため、弁護士に外部窓口を委託する学校法人も増えています。
弁護士が窓口になれば、通報内容の法的評価や適切な調査手続きについても助言が得られるため、学校のコンプライアンス向上に非常に有効です。契約書チェックと内部通報制度、この両面からの対策によって、学校法人はトラブルの種を事前に発見・除去し、刑事事件化リスクを大幅に減らすことができるでしょう。
事務所紹介
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所は、刑事事件・少年事件を主要業務とする全国でも珍しい専門法律事務所です。名古屋を本部に東京や大阪など全国各地に支部を展開し、365日24時間体制で刑事事件に対応してきた実績があります。
こうした刑事弁護の豊富な経験から、教育現場でどのような行為が犯罪に該当し得るか、どの段階で法的トラブルに発展するかについて精通しています。実際に当事務所では教師による体罰事件や痴漢・盗撮事件、学校内での傷害・器物損壊事件など、教育機関に関連する数多くの刑事案件のご相談を受けてきました。さらに近年、当事務所は更生支援事業部を立ち上げ、犯罪の未然防止や再発防止にも力を入れています。
こうした活動を通じて教育機関の抱える課題に寄り添い、事前のリスク対策から万一の事件発生時の対応まで幅広くサポートできるのが当事務所の強みです。学校法人・教育機関の皆様は、体罰・資金不正・ハラスメント等のリスクに不安を感じたら、問題が表面化し刑事事件となる前にぜひ当事務所にご相談ください。経験豊富な弁護士が予防法務の観点から実践的なアドバイスを提供し、貴校の安全と信頼を守るお手伝いをいたします。
お問い合わせはこちらから。
元裁判官、元検察官、元会計検査院の官房審議官など企業案件の知識・経験の豊富な弁護士が、企業犯罪・不祥事対応等のコンプライアンス事案に対応します。
全国展開している事務所だからこそできるネットワークを生かした迅速な対応が可能です。
企業犯罪・不祥事に関するお問い合わせ、ご相談のご予約は24時間365日受け付けております。
企業犯罪・不祥事が起きてしまった場合の対応にお困りの方、予防法務も含めたコンプライアンス体制の構築・見直しをお考えの経営者の方は、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所に一度ご相談ください。
