従業員と会社が連帯責任?「両罰規定」を解説

役員や従業員が罪を犯した場合の企業の責任について,弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が解説します。

一般論として、企業の役員や重要な従業員であったとしても、罪を犯したのであれば、それはその人個人の責任にとどまります。しかしながら、それが企業の業務として行い、企業にも利益をもたらしているのであれば、企業にも責任を負わせる必要があります。ここでは、役員や従業員が罪を犯した場合の企業の責任について解説します。

両罰規定とは

法人の代表者や使用人が違反行為をしたときは、その行為者を罰するだけでなく、その法人にも罰金刑を科するという規定が見られます。これを「両罰規定」といいます。
例えば、「独占禁止法(私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律)」では次のように定めています。

独占禁止法

(私的独占、不当な取引制限、事業者団体による競争の実質的制限の罪)
第八十九条
次の各号のいずれかに該当するものは、五年以下の懲役又は五百万円以下の罰金に処する。
一 第三条の規定に違反して私的独占又は不当な取引制限をした者

(両罰規定)
第九十五条
法人の代表者又は法人若しくは人の代理人、使用人その他の従業者が、その法人又は人の業務又は財産に関して、次の各号に掲げる規定の違反行為をしたときは、行為者を罰するほか、その法人又は人に対しても、当該各号に定める罰金刑を科する。
一 第八十九条 五億円以下の罰金刑

このような規定は、独占禁止法のほか、「外国為替及び外国貿易法」のような規制法や「宅地建物取引業法」のような業法など、各種の法律で見られます。

両罰規定はなぜ認められるのか

現代社会の基本である個人主義によれば、個人が罪を犯したのに、その所属する企業まで責任を負わなければならないというのはおかしいと思うかもしれません。
しかしながら、個人が罪を犯したとしても、その個人が企業の役員や従業員で、その企業の業務として行ったのであれば、その犯罪による利益はその企業に入ってくることになります。このような場合に、実際に罪を犯した個人を罰しただけで終わりとなれば、犯罪により利益の帰属した企業を野放しにすることになり、犯罪によって得た利益の回収や刑罰による犯罪の抑止効果は無意味となりかねません。

また、企業は役員や従業員を用いて活動を広げ利益を得ているのですから、これらの者を監督し、第三者に損害を与えないようにする必要があります。したがって、仮に企業から行為者に対し具体的な犯罪の指示がなかったとしても、企業のために役員や従業員が罪を犯したのであれば、企業もその責任の一端を負うべきこととなります。

判例も、企業のこの責任は無過失責任ではなく、両罰規定は過失を推定するものだとしています。

昭和40年3月26日最高裁第二小法廷判決は、「事業主が人である場合の両罰規定については、その代理人、使用人その他の従業者の違反行為に対し、事業主に右行為者らの選任、監督その他違反行為を防止するために必要な注意を尽さなかつた過失の存在を推定したものであつて、事業主において右に関する注意を尽したことの証明がなされない限り、事業主もまた刑責を免れ得ないとする法意と解するを相当とすることは、すでに当裁判所屡次の判例(・・・)の説示するところであり、右法意は、本件のように事業主が法人(株式会社)で、行為者が、その代表者でない、従業者である場合にも、当然推及されるべきである」として、憲法に違反するものではないとしました。

役員や従業員が罪を犯したときの対応は

上記の通り、両罰規定は過失を推定するものですから、企業がこの推定を覆せば刑事責任を問われることを防ぐことができます。もっとも、企業に過失がないといえるためには、企業が行為者の選任、監督その他の違反行為を防止するために必要な注意を尽くしたことを証明する必要があります。
日頃から不正をしないよう役員・従業員に言ってきた等では到底注意を尽くしたとはいえません。コンプライアンス体制を整備し、これに従って経営が行われてきたこと、実質のある内部通報制度を構築し運用してきたなど、不正防止に必要な体制を整備しその通りに運用してきたことを示さなければなりません。

企業内の不祥事についてはこちらでも解説をしています。

おわりに

法人が役員や従業員の行った犯罪行為の責任を負わされないようにするには、不正防止に必要な体制を整備し、この体制に従って運用されなければなりません。
不正防止のためのコンプライアンス整備、内部通報窓口の設置・運用など、企業の不正防止にお悩みの方は、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所へご相談ください。刑事事件について東京支部でのご相談はこちらからもお問い合わせいただけます

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