会社が被害者となる窃盗事件①~加害者が事実を認めている場合の対応~

【事例】
X社は金属加工業を営んでおり、会社内の倉庫には大量の銅線や鉄線を保管していました。
X社では3か月ほど前から倉庫内に保管している金属線の在庫の記録と実際にある金属線の数が合わないということがありました。
X社を経営するAさんは顧問弁護士であるあいち刑事事件総合法律事務所の弁護士に相談して、倉庫の出入り口に防犯カメラを設置しました。
そうすると、誰かが倉庫内に出入りしている様子が写っており、その日時とX社の勤務表を照らし合わせると社員であるBさんが怪しいのではないかという結論に至りました。
弁護士協力の下、X社が事実調査をしたところBさんは金属線を盗んでいたこと、それらを転売して利益を得ていたことを認めました。
Bさんは被害について何年もかけて賠償していくので警察にだけは言わないでほしいと頼んできました。
(事例はフィクションです)

参考プレスリリース NEXCO東日本 グループ会社元社員による着服について

1 窃盗事件が発生した場合の事実調査

会社の経営を行っていて、本件のように窃盗事件の被害者となることは珍しいことではありません。
本件のような事例では会社が扱う商品を転売目的で繰り返し、盗まれており会社に対する被害は甚大であったことが予想されます。
当然このような事件が発生すれば、すぐに調査を行うことが重要になります。
放っておけば、事件は繰り返されて会社の損害はさらに大きいものになりますし、犯人を特定し証拠を確保しておくことは、以下で解説する事後対応を検討する上でも非常に重要になります。

事例でもあるようにまずは犯人の特定が重要になります。
犯人の特定については事例のように防犯カメラを設置するなど社内で調査を行う方法と、警察に被害申告をして捜査を行ってもらう方法の2通りがあります。
事件の内容や緊急性によってどちらが適切かは場合によります。

当然捜査機関に頼んだ方が、指紋の採取など一般人では行えないような捜査を行うことも可能であり事案究明の可能性が高くなることがメリットになります。
その一方で事件をどのように進めていくかについて警察が主導することになる可能性があるので、社内に穏便に納める選択肢を残しておきたいというような場合には、社内で調査を行う必要があるでしょう。
いずれの選択肢を取るにせよ、早期に事件への対処をするためには事件発覚直後から調査を行い、対応を検討することが重要です。

2 加害者が事実を認めている場合の対応

では、事例のように窃盗事件の加害者が事実を認めている場合の対応について解説させていただきます。
加害者が自社の社員であると分かれば、今まで信用していたのに大変な裏切りをしてくれたなという気持ちになることでしょう。
経営者の方としては、加害者に対してなるべく厳しい社会的制裁を受けさせたいと考えられる方もいるでしょう。
そのような状況で加害者が事実を認めて、被害弁償を申し出ている場合にはこれを受け取ってよいものかと悩まれる方もいるでしょう。

窃盗事件において被害弁償を受け取ることはどのような意味があるでしょうか。
当然ですが、盗まれたことにより会社には損害が発生しているので加害者から被害弁償をしてもらうことは当然です。
被害弁償を受けることで影響がある可能性があるのは、窃盗事件を警察に被害届を出すなどして刑事事件として扱ってもらう場合です。 被害弁償を受けていることは、刑事事件において加害者が受ける刑事罰を軽くする方向の事情になります。

例えば、被害額からして加害者が実刑判決を受けるようなケース(一般的に被害額が100万円を超えるようなケース)でも被害弁償がなされていることや、将来被害弁償をしていくことで当事者間で合意が成立している場合には、執行猶予付きの判決が出されることもあります。

会社はあくまで営利(もうけ)を求めますので、加害者が被害弁償を申し出ている場合には損害の填補をするために賠償を受け取る選択肢が一般的かと思います。
もちろん、被害弁償受けることと警察に被害申告を行うことは両立できますので被害弁償を受けた上で警察に被害申告を行うことは可能です。

事例のように被害弁償をする代わりに警察への被害申告をやめてほしいというような場合には、回収の見込みや本人の今後の処遇、会社の経営への影響などを考慮して方針を決めることになると思います。
この判断はまさに、事件の内容や会社の状況、加害者の資力などの返済見込みなどを総合的に考慮した専門的な判断が求められます。
弁護士などこのようなケースに精通した者のアドバイスを受けながら対応されることが安心かと思います。
X社では刑事事件に精通した弁護士に顧問を依頼していたので早期に対応することができました。

今回の記事では会社が窃盗被害を受けた事例において、加害者が事実を認め賠償を希望しているケースの対応について解説しました。
次回は加害者と目される人物が事実を認めていない場合の対応について解説します。

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