取締役等に対する贈賄罪、収賄罪について賄賂が問題になるのは公務員だけではないの?

【事例】

A社の取締役であるXさんは、下請け業者のB社のYさんから、自分を優遇してもらうことをお願いされて100万円の金銭を受け取りました。
そしてXさんはYさんが自宅を購入するための資金に困った際に、A社名義でYさんにとって非常に有利な条件で多額の融資をしていました。

取締役がお金を受け取っても収賄罪が成立するの?

以前の記事では公務員に対する贈収賄罪や官製談合防止法違反の対応について解説しました。
しかし、取締役などの会社役員であっても職務に関して金品を受け取るなどした場合に刑事責任を負う可能性があることはあまり知られていないかもしれません。

確かに刑法上の贈賄罪や、収賄罪は主体や客体が公務員に限定されています。
したがって事例のようなケースでも刑法上の収賄罪は成立しません。
但し会社法には、取締役などの会社役員について贈収賄の規定があり刑事罰も規定されています。以下に条文を紹介します。

会社法第967条(取締役の贈収賄)

1 次に掲げる者が、その職務に関し、不正の請託を受けて、財産上の利益を収受し、又はその要求若しくは約束をしたときは、5年以下の懲役又は500万円以下の罰金に処する。
一 第960条第1項各号又は第2項各号に掲げる者
二 第961条に規定する者
三 会計監査人又は第346条第4項の規定により選任された一時会計監査人の職務を行うべき者
2 前項の利益を供与し、又はその申込み若しくは約束をした者は、3年以下の懲役又は300万円以下の罰金に処する。

この条文にある会社法960条、961条に掲げる者には取締役や監査役などの会社役員が含まれます(詳しくは会社法960条、961条をご確認ください)。

ではこの条文の規定する内容について、刑法上の贈収賄罪との違いはあるでしょうか。

会社法の贈収賄と刑法上の贈収賄との比較

では比較するために刑法上の収賄罪の条文を以下にあげます。

刑法第197条 
公務員が、その職務に関し、賄賂を収受し、又はその要求若しくは約束をしたときは、五年以下の懲役に処する。
この場合において、請託を受けたときは、七年以下の懲役に処する。

まず、公務員を規定する刑法の場合は「その職務に関し」とのみ規定があります。
請託、すなわち何か具体的なお願いをされた場合については罪を重くする事情であり(この場合より法定刑の重い受託収賄罪が成立します)、請託をされていなくて収賄罪は成立します。

これに対して、会社法の規定では、「その職務に関し、不正の請託を受けて」というように規定されています。
すなわち取締役に収賄罪が成立するのは、不正な請託、本件でいえば不正な条件でお金を貸してほしいなどというお願いがあった場合になります。

また渡すものについても規定が異なっています。
刑法上の収賄罪については「賄賂」と規定されているのに対して、会社法上の収賄罪については「財産上の利益」と規定されています。
刑法上の「賄賂」については、判例上「賄賂の目的物は、有形無形を問わず、人の需要・欲望を満たすに足りる一切の利益を含む」とされており、財産上の利益に限定していません。
したがって、会社法上の「財産上の利益」とは刑法上の「賄賂」より対象を限定しているといえます。

以上のように刑法上の贈収賄と会社法上の贈収賄では成立する範囲について違いがあります。

今回の記事では取締役が会社の職務に関して金品を受け取った場合にも収賄罪が成立する場合があること、刑法上の収賄罪との成立範囲の違いについて解説しました。

次回の記事では事例のようなケースが明らかになった場合に、会社が取るべき対応について解説させていただきます。

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