事例はフィクションです。
A社の従業員Bさんは、連日残業を行っているのに、残業代を支給されていないとして、A社に対し、残業代を請求してきました。Bさんは、長時間労働を行っていたことの証拠として、業務で自分が送受信したメールの内容を印刷した書面をA社に提出してきています。
メール監査について、あいち刑事事件総合法律事務所が解説します。
メール監査とは、企業が、従業員の電子メールに対する調査を行うことです。
平時からのメール監査の有用性
不祥事が発生した企業では、その事後対応として、従業員の電子メールに対する調査が行われることがあります。日々の業務の中で飛び交うメールの内容を分析することは、それによって行われた情報伝達の内容について明確に特定する形で立証できる重要な手段だからです。
事例のように、長時間労働が問題となった場面では、業務メールの送受信は、労働時間の重要な証拠であり、本当にそれだけ長い時間働いていたのかは、メールを見れば調査できます。
もっとも、こうしたメール調査が有効なのは、不祥事が行った後とは限りません。
企業秘密などの大切な情報の漏洩も、メールによって起こることが多いといえます。そのため、従業員のメールを平時から調査しておけば、情報漏洩を未然に防ぎ、いざ起こったときには速やかに事後対応をすることができます。
また、事例の場合には、平時からメールを調査していれば、長時間労働を行っている従業員を早期に発見でき、未然に対処することも可能となります。
そのほか、目的は各企業によって異なるものの、平時からメールを調査する目的としては、業務と無関係のメールのやりとりがないか、不適切な取引を行っていないか、などについて早期に発見し対処できるようにすることがあげられます。
実際に、不祥事の予防・早期発見にために、内部監査の一環としてメール監査を実施している企業も多くあります。
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メール監査を行う場合の注意点
以上のように、企業が平時からメール監査を行うことは、不祥事を未然に防止する意味でも有用ですが、メール監査をおこなうことが従業員らのプライバシーの侵害にならないか、注意する必要があります。
従業員が個人的に使用している機器については、原則、本人の同意がない限り内容を確認することはできませんし、企業が貸与した機器についても、従業員には一定の範囲でプライバシーが認められますので、その必要性が認められるときに、相当な手段・態様で実施する必要があります(調査等の必要性を欠いたり、調査の態様等が社会的に許容しうる限度を超えていると認められる場合には不法行為を構成することがあるとした裁判例として、東京地判平成14・2・26労判825号50頁があります)。
そこで、電子メ―ルに対する調査を行うためには、就業規則等にあらかじめ企業が貸与した機器の調査の要件や手続等について規定しておき、周知しておくことが望ましいといえます。メール監査の存在を予め明記しておくことにより、従業員のプライバシーへの期待が減殺され、メール監査が許容されやすくなるからです。
メール監査を企業が行おうとする場合には、メール監査の必要性、その範囲・態様の相当性等について弁護士等専門家に相談しておくことが必要でしょう。
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