社内調査におけるヒヤリングの留意点①

社内調査におけるヒヤリングの留意点について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が解説します。

そもそも社内調査とは何か

社内調査とは、一般に、企業内で業務に関し、社員による違法行為や不適切な行為(以下、まとめて「不正行為」と呼びます。)が行われた場合、あるいはその疑いが生じた場合に、企業が主催者となって実施する調査のことをいいます。

社内調査の方法

社内調査のためには、事案に関連する資料を当該部署から収集し、確認をするほか、最も重要なものとして、社員に対するヒヤリングの実施があります。
もっとも、社内調査では、当然のことながら、刑事事件の捜査で認められる捜索差押えといった強制的な証拠物の収集手続きはありませんし、社員の身柄を拘束してヒヤリングを実施することもできません。
このように、社内調査にはそもそも限界があることにまず留意すべきです。

業務命令として、ヒヤリングはできるか

この点は、判例があり、最高裁昭和52年3月13日民集31巻7号1037頁に以下のような判断が下されています。

「そもそも、企業秩序は、企業の存立と事業の円滑な運営の維持のために必要不可欠なものであり、企業は、この企業秩序を維持確保するため、これに必要な諸事項を規則をもつて一般的に定め、あるいは具体的に労働者に指示、命令することができ、また、企業秩序に違反する行為があつた場合には、その違反行為の内容、態様、程度等を明らかにして、乱された企業秩序の回復に必要な業務上の指示、命令を発し、又は違反者に対し制裁として懲戒処分を行うため、事実関係の調査をすることができることは、当然のことといわなければならない。しかしながら、企業が右のように企業秩序違反事件について調査をすることができるということから直ちに、労働者が、これに対応して、いつ、いかなる場合にも、当然に、企業の行う右調査に協力すべき義務を負つているものと解することはできない。けだし、労働者は、労働契約を締結して企業に雇用されることによつて、企業に対し、労務提供義務を負うとともに、これに付随して、企業秩序遵守義務その他の義務を負うが、企業の一般的な支配に服するものということはできないからである。そして、右の観点に立つて考えれば、当該労働者が他の労働者に対する指導、監督ないし企業秩序の維持などを職責とするものであって、右調査に協力することがその職務の内容となつている場合には、右調査に協力することは労働契約上の基本的義務である労務提供義務の履行そのものであるから、右調査に協力すべき義務を負うものといわなければならないが、右以外の場合には、調査対象である違反行為の性質、内容、当該労働者の右違反行為見聞の機会と職務執行との関連性、より適切な調査方法の有無等諸般の事情から総合的に判断して、右調査に協力することが労務提供義務を履行する上で必要かつ合理的であると認められない限り、右調査協力義務を負うことはないものと解するのが、相当である。」と判示しています。

この判示からすると、企業内の不正行為が、まさしく企業の職務に関連して行われたような場合には、当該社員に対して義務的にヒヤリングに応じるよう命じることができる可能性が高いといえます。しかし、そうでない場合には、どこまで義務付けられるかについては慎重に見極める必要があるといえるでしょう。

また、前述のように、当該社員がヒヤリングに応じようとしない場合に、物理的な強制をともなうような方法でヒヤリングを実施したり、社員に対し威迫的な言動でヒヤリングに応じるよう申し向けることは、企業の不法行為になりかねないことにも留意が必要です。

次回は、社内調査においてヒヤリングを実際に行う際の留意点について解説します。

最後に

社内調査をする際には、人証(関係者へのヒアリングなど)と物証(事案に関連する資料)の両方を調べることが必要となり、必要に応じて外部の専門家を利用することも考えられます。
事実を明らかにするためには、どれだけ証拠を集められるかが重要です。調査に慣れている弁護士に依頼して、社内の担当者と一緒に進めていくのがベストといえるでしょう。

社内調査の進め方についてご心配なことがある方やご不安なことがある方は,弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所までご相談ください。お問い合わせはこちらからどうぞ。

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