企業は労働者に対する安全配慮義務を負っています。一方で、企業と労働者の力関係の差を解消するため、憲法は労働者の権利を保障しており、労働基準法などでも労働者の権利を保障しています。この違反が甚だしい場合、犯罪となることもあります。
参考:パワハラや長時間労働など、働く上での悩みについて、無料で相談を受け付ける「全国一斉集中労働相談ホットライン」を実施https://news.yahoo.co.jp/articles/f185669740bb357a4787d8f32c39666a49ed912d
ここでは、企業が労働者の権利を保障しなかった場合に成立する犯罪について解説します。
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長時間労働
使用者は、労働者に、休憩時間を除き一週間について40時間を超えて、労働させてはなりません(労働基準法第32条第1項)。また、使用者は、一週間の各日については、労働者に、休憩時間を除き一日について8時間を超えて労働させてはなりません(同条第2項)。休憩についても、使用者は、労働時間が6時間を超える場合においては少くとも45分、8時間を超える場合においては少くとも1時間の休憩時間を労働時間の途中に与えなければなりません(同法第34条第1項)。また、使用者は、労働者に対して、毎週少くとも一回の休日を与えなければなりません(同法第35条第1項)。これらに違反した場合、6月以下の懲役又は30万円以下の罰金に処されます(労働基準法第119条第1号・第32条)。もっとも、労働時間と休日に関しては、労働組合や労働者の代表と書面により協定(36協定)を交わし届け出すれば、その協定で定める範囲内であれば労働時間を延長し、又は休日に労働させることができます(同法第36条第1項)。この協定で定める範囲内であれば法律違反ではなく、刑罰も課されません。
これらの労働基準法などに違反した代理人や従業者が罪に問われた場合、事業主も同様の罰金刑を科されます(労働基準法第121条第1項)。
パワハラ
労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する(パワハラ防止法)では、「労働に関し、その政策全般にわたり、必要な施策を総合的に講ずることにより、労働市場の機能が適切に発揮され、労働者の多様な事情に応じた雇用の安定及び職業生活の充実並びに労働生産性の向上を促進して、労働者がその有する能力を有効に発揮することができるようにし、これを通じて、労働者の職業の安定と経済的社会的地位の向上とを図るとともに、経済及び社会の発展並びに完全雇用の達成に資することを目的」としています(第1条第1項)。この法律の「第9章 職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して事業主の講ずべき措置等」において、雇用管理上の措置等について定めています(第30条の2)。同条第1項では「事業主は、職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であつて、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものによりその雇用する労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。」と定めています。
この違反そのものについては、罰則は定められていません。
しかしながら、企業はこのような措置義務を負っているのですから、悪質なパワハラを放置していて、結果従業員が死亡した場合は、業務上過失致死罪(刑法第211条)に問われる可能性があります。
そもそも労働者か
以上のように、労働者に対しては労働時間や休日の確保、労働環境保護のための措置が必要であり、企業がこれに反すれば、最悪刑罰を科されます。
一方で、これらは労働者に対するもので、業務委託契約の受託者など、企業の外部の者には適用されません。
しかしながら、形式的には「業務委託」であっても、その実態が「労働者」であれば、その者は「労働者」として保護され、長時間労働などがあれば企業が責任を負うことになります。労働者であるかどうかは、指揮監督のもとで労務の提供をしていたかどうかを重視して判断されます(平成17年6月3日最高裁第二小法廷判決等)。
おわりに
以上のように、労働者の労働環境について、企業は注意する必要があります。
労働法違反防止のためのコンプライアンス整備、内部通報窓口の設置・運用など、企業の不正防止にお悩みの方は、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所へご相談ください。
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