捜査関係事項照会が届いたら

(事例)
Aさんは、名古屋市で古物関係のお店を経営しています。ある日、Aさんのお店に、警察署から封筒が届きました。その封筒には「捜査関係事項照会書」と書いてある書類が入っており、Aさんのお店でBさんという人と取引をしたことがあるならば、その取引の履歴が解る書類を郵送して欲しいということが書いています。
さて、Aさんは、どう対応したものでしょうか。

今回は、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が「捜査関係事項照会」について解説します。

「捜査関係事項照会」とはなにか

 まず捜査関係事項照会とは何でしょうか。

 捜査関係事項照会は、噛み砕いていうと、警察署や検察庁のような捜査機関が役所や企業に対して、捜査に必要な情報を提供してほしいとお願いすることです。刑事訴訟法上、「捜査については、公務所又は公私の団体に照会して必要な事項の報告を求めることができる。」とされています(刑事訴訟法197条2項)。

 今回のAさんとBさんの例で言うと、例えば、Bさんが何かを盗んでおり、その被害品がAさんのお店で売られた可能性があるため、Bさんの素性や取引履歴を教えて欲しいという理由から、捜査関係事項照会が送られてきた可能性があります。もっとも、古物商に対する照会であれば、警察は、書面で照会をかけるよりも、電話したり突然お店を訪れたりして尋ねることの方が多いかもしれません。

 捜査関係事項照会がそのような情報提供の依頼だと解った上で、受けた側の経営者や事務担当者にとって大切なのは、その情報提供に応じる必要があるのかどうかということでしょう。

実際にはどう対応すべきか?

 結論から言うと、捜査関係事項照会に対しては、原則として回答の義務を負うものの、回答しなかったからといって罰を受けるものではないということです。

 まず回答義務について、例えば「条解刑事訴訟法」4版(弘文堂)374頁に「報告を求められた公務所・団体は、原則として報告すべき義務を負う」とされています。

 しかし、正当な理由があれば回答を拒否することができます。例えば、当事務所は、愛知県内のとある警察署から捜査関係事項照会を受けたことがありますが、守秘義務を理由として拒否したことがあります。その後、警察署とはその件で何も問題を生じていません。

 そういった正当な理由がなく拒否したり無視したりした場合は、どうでしょう。まず前提として、拒否したり無視したりしたからといって、それだけで刑罰を受けるなど不利益を被ることはありません。ただ、警察としては、捜査関係事項照会に答えてくれないのであれば、裁判所から捜索差押令状を取得した上で、乗り込んでくるという手段をとるかもしれません。令状がある捜査は、極めて例外的なよほどの事情がないと拒否できません。

 また今回のAさんとBさんの例でいうと、例えば「えっ!Bさんって警察に疑われているの!!守ってあげないと。」などと思ったAさんがわざとBさんとの取引履歴を処分するようなことがあると、証拠隠滅などの犯罪で刑罰を受ける可能性があります。

 以上のとおり、捜査関係事項照会に対しては、正当な理由があれば拒否できますし、拒否したり無視したりしてもそれだけで不利益を被ることはないものの回答義務自体はどうもあるようだと思ってください。

参考:捜査関係事項照会に対する対応ガイドライン

  もう一点、意識しておいてもらいたいことがあります。それは、捜査関係事項照会に応じて、捜査機関に提供した書類は、捜査機関以外の人にもみられる可能性があるということです。

 具体的な例で説明をします。今回のAさんとBさんの例でいうと、Bさんが窃盗の罪で起訴された、つまり裁判にかけられたとします。刑事裁判では、捜査機関は、一定の証拠を弁護士や被告人(今回の例でいうとBさん)に開示する必要があります。そうすると、Aさんが捜査機関に提供した文書がBさんにも見られる可能性があるということです。

 実際問題として、Aさんが捜査機関に情報提供したからといって、AさんがBさんに対して損害賠償責任を負うリスクは低いと思われます。なぜなら、捜査関係事項照会は、法律に根拠のある手続だからです。居酒屋で偶然知り合った知らない人にお客さんの情報を漏洩してしまったというような話では個人情報の不適切管理が原因で責任追及をされても仕方ないでしょうが、捜査関係事項照会は、そういったものとは訳が違うのです。そのため、基本的には、捜査関係事項照会に応じたことを理由として責任を負う可能性は低いでしょう。

 ただ、捜査関係事項照会に応じて提供した情報は、捜査機関以外の人にもみられる可能性があることは、自分が提供した情報の使い道としてしっかり把握しておくようにしてください。

 当事務所に所属する弁護士(令和6年6月10日現在)の経験に次のようなものがあります。
検察官から開示された証拠の中に、愛知県内のとある金融機関が捜査機関に提供した書類が入っていました。その内容がよく解らなかったので、その金融機関に問い合わせをしました。すると、金融機関の担当者は、「なんでそんなもの持っているのですか!!」と尋ねてきました。そのような質問をされた弁護士は、「自分が提供した書類がどう使われるかも解らずに提供するなんて、この金融機関の個人情報に対する意識は大丈夫なのか?」と心配になったそうです。

捜査関係事項照会を受けて対応に困っている方は、ぜひ顧問弁護士にご相談ください。弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所では、企業の顧問業務を扱っております。

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