誤嚥事故の裁判例紹介

【事例】
A社は介護施設事業を行っており複数の老人介護施設を運営・管理していました。
A社が運営・管理を行っている施設の1つであるB園において、この度誤嚥事故が発生し、利用者の1人であるCさんが亡くなってしまいました。
A社が原因を調査したところ、B園では、被害者であるCさんの嚥下能力に問題があることを把握しながら漫然とのどに詰まりやすいお餅を出していたこと及び食事の際に職員がCさんの様子をよく確認していなかったことが明らかになりました。
またA社では、誤嚥のおそれのある場合の対応についてマニュアルなどが整備されておらず職員個人の判断に任せられていたことも明らかになりました。
事故後Cさんのご遺族からは責任の所在を明らかにしてしかるべき賠償をするように求められています。
A社の代表は今後の見通しについてあいち刑事事件総合法律事務所に相談しました。
(事例はフィクションです)

以前の記事では、誤嚥事故が発生した場合の刑事責任の可能性や、誤嚥事故が発生した場合の対処法について解説させていただきました。
以前の記事についてはこちらからご覧ください。
今回の記事では、施設側、施設を管理する事業者側の賠償責任について裁判例を紹介しながら詳しく解説させていただきます。

誤嚥事故により事業者が負う賠償責任

誤嚥事故によって事業者側が負う可能性のある責任としては、民事上の損害賠償支払い義務があります。
介護サービスを提供するにあたって、介護事業者は利用者に対する安全配慮義務を負い、事故の危険を予見できる状況において事故結果回避のための措置を取らなければこうした義務を尽くさなかったとされます。
そして、事故が安全配慮義務を尽くさなかったことが原因で起こったとき、介護事業者が利用者に生じた損害についての賠償責任を負います(民法第415条)。
また、安全配慮義務を怠った行為が介護を担当する従業員の過失と評価されて不法行為(民法第709条)が成立し、その使用者である事業者が使用者責任に基づく損害賠償責任を負うことにもあります(民法第715条)。
以下では、事業者に対する賠償義務が肯定された例と否定された例を紹介します。

誤嚥事故において事業者の賠償責任が肯定された裁判例(熊本地方裁判所平成30年2月19日判決)

事案の概要
AさんはB社が運営していた特別養護老人ホームを利用していた。
Aさんは施設作成の治療計画書に「誤嚥性肺炎に注意が必要」との記載があった。
Aさんは食事中にBの職員が目を離していた隙に誤嚥による肺炎を発症し、緊急搬送されたものの低酸素脳症を発症し後遺障害が残った。

裁判所の判断
裁判所では次のような事実を認定した上で、事業者側であるB社の損害賠償義務を肯定した。
すなわち、B社が運営していた事業所では本件事故当時、Aさんが誤嚥を起こしやすいという事実を把握していた。
そして食事中にAさんがしゃっくりをするなど誤嚥の危険があったことを認識しながら漫然と食事を継続させていた。
最終的には食事終了時にAさんの口の中に食物が残っていないことを確認することなく部屋に戻していた。
このような食事介助の態様は誤嚥を引き起こす危険の大きい不適切なものである。
したがって、B社の履行補助者である職員は上記義務を履行しなかったものといわざるを得ず、B社には、本件入所契約上の義務違反が認められる。

誤嚥事故において事業者の賠償責任が否定された裁判例(津地方裁判所令和3年9月1日判決)

事案の概要
Aさんは要介護認定1の認定を受けてB施設でデイサービスを利用していた。
Aさんは施設においてデイサービスを利用する15人と一緒に昼食を取っていたところ、口腔内に食物を含んだ状態で心肺停止状態になってしまった。
Aさんはすぐに緊急搬送されましたが低酸素脳症により死亡した。

裁判所の判断
裁判所は事業者側の過失の有無について次のような説明をし、過失を認定せず損害賠償義務を否定しました。
B施設側の体制は常時目を離さないような体制とはいえなかったが、食堂の状況等から利用客に異常がないかを定期的に確認することはできたといえ、もし明らかな異常があれば視覚的・聴覚的に察知できる体制は構築出来ていたといえる。
そして施設側には食事中に条一全体の見守りをするまでの体制の構築義務はない。
またAさんには誤嚥傷害の存在は認められず誤嚥のおそれが高いとまではいえなかった。
異常発見後の対応についても過失を認めるほどに遅れたとはいえない。
よってB施設側に過失は認められない。

まとめ

裁判例を2例あげさせていただきましたが、この判断が分かれた理由は何だったのでしょうか。
それぞれの裁判例は事例に対する判断ではありますがポイントとしては2点あったと思われます。
1点目は、被害者の方が誤嚥を起こす危険性が高いことを事前に予見できたかどうかです。
前者のケースでは治療計画書などから重度の障害があり誤嚥を起こしやすいことが明らかになっていました。
この場合では誤嚥事故が起こる危険性が高いと事前に認識できるので、食事中に求められる注意義務の程度が厳しく判断された可能性があります。
実際に利用される方が誤嚥事故を起こすリスクの高さや、それに応じた職員の配置や出す食事の内容については慎重に判断するべき点です。
担当医などと協議の上必要な措置を取っていく必要があります。

2点目は事故が起きた際の状況が誤嚥をしたと疑うべき状況であったかどうかです。
前者のケースでは、しゃっくりなど誤嚥の疑いのある症状があったにもかかわらず食事を続けさせ、口腔内の確認をしていないことを注意義務違反、すなわち過失であったと認定しています。
施設側としては、誤嚥の疑いがある場合の症状を事前に職員に対し周知させ、そのような疑いがある場合の対処を事前に研修する、マニュアル化しておくなどの対応が求められると考えられます。
参考 食品による窒息事故

あいち刑事事件総合法律事務所ではこれまで過失の認定について問題のある件も豊富に扱ってきました。過失の判断が問題になるケースに備えて、ひいては事例のような悲惨な事故が発生することがないように事前の対策は非常に重要になります。
誤嚥事故の発生防止、そして万が一誤嚥事故が発生してしまったとしても施設側に責任が追及されるリスクが低くなるような事前対応を是非ご相談ください。

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