ファクタリング事業の法的リスクとは?貸金業法違反・行政処分の可能性を徹底解説

はじめに:ファクタリングとは何かと基本的な法的位置づけ

ファクタリングとは,企業などが保有する売掛債権(支払期日前の請求書債権など)をファクタリング業者が買い取ることで,早期に資金化するサービスです。法的には債権の売買(債権譲渡)契約にあたり,本来は金銭の貸し借りではありません。そのため,適法に行われるファクタリング取引については貸金業法(貸金業の規制等に関する法律)や利息制限法出資法による直接の規制対象とはならず,貸金業の登録も不要とされています。実際,民法も「債権は,譲り渡すことができる」と規定しており,債権譲渡(ファクタリング)は法的には想定された契約形態です。

しかし一方で,ファクタリング取引の実態によっては「偽装ファクタリング」と呼ばれる違法性を及びたスキームとなるケースもあり,近年社会問題化しています。以下では,BtoB(企業間)ファクタリングとBtoC(対個人)ファクタリングに関連する法的リスクについて,主要な論点ごとに整理します。

貸金業法違反となるリスク(偽装ファクタリングの問題)

貸金業法違反とは,本来貸金業登録が必要な「金銭の貸付け」を無登録で行うことや,法定の上限金利を超える金利(手数料)を徴収する行為などを指します。ファクタリングは形式上「債権の売買」ですが,その契約内容・経済実態によっては実質的に貸付と同様の機能を果たす場合があり,その場合は貸金業法上の「金銭の貸付け」に該当する可能性があります。貸金業法第2条第1項や出資法第7条は,手形の割引や売渡担保など形式上は貸付以外の方法による金銭の交付も広く「貸付け」に含めて規制すると定めており,形式ではなく実態で判断されます。

偽装ファクタリングと疑われる典型例として,以下のようなケースが挙げられます。

  • 償還請求権(買戻し特約)がある場合:債権譲渡契約でありながら,売主(債権譲渡人)が一定期限までに債権を買い戻す義務を負う契約になっているケースです。売主が自ら債権を買い戻すことが予定されている場合,ファクタリング業者は債権回収不能リスクを事実上負担せず,債権を担保とした貸付と同様の構造になります。特に二者間ファクタリング(売掛先に通知せず,債権者とファクタリング業者の二者だけで完結する取引)だと,買戻し条項を付され,債権者(債権の売主)は期限までに必ず債権を買い戻さざるを得ない立場となり,実質的な借入れと同視されやすくなります。
  • 債権回収を委託する形式だが実質的に元の債権者が返済する場合:売掛先への債権譲渡通知を行わずに,債権者自身が売掛金を回収して後日ファクタリング業者に支払う契約(回収委託型)も,結局は債権者が自ら資金を返還している構図です。債権者(債権の売主)が取引先にファクタリング利用を知られたくない事情(債権譲渡禁止特約や信用不安回避のため通知を留保)があるためにこうした形態になりますが,これも経済的には「債権を担保に資金を借りて後で返す」ことと同じであり,貸付とみなされ得ます。

上記のようにファクタリング業者がリスクを負わず,債権者が実質的返済義務を負う構造では,裁判例上もしばしば「金銭消費貸借に準じるもの」と評価されています。大阪地方裁判所平成29年3月3日判決(平成26年(ワ)11716号)では,ファクタリング業者が債権回収リスクをほとんど負担せず高額の手数料利益を得ており,債権者は買戻しせざるを得ない立場だったことから「本件取引では金銭消費貸借契約の要素たる返還合意があったものと同視できる」と判断されています。

その上で,このような実質的貸付には利息制限法が類推適用され,法定上限を超える手数料部分は不当利得(過払い金)として返還請求し得ると判示しています。つまり,偽装ファクタリングは無登録営業であれば貸金業法違反(無登録営業罪)となり得るだけでなく,手数料が高金利に該当すれば利息制限法違反(超過利息の無効)となり,過払い金返還義務が生じるリスクがあります。

金融庁も「経済的に貸付と同様の機能を有するものは貸金業に該当するおそれがある」と明言し,高金利の偽装ファクタリングへの注意喚起を行っています。

行政当局による処分・指導の事例

金融庁や消費者庁など行政当局も,偽装ファクタリングへの対策を強化しています。金融庁は公式サイト上で,中小企業向けの偽装ファクタリングや個人向けの「給与ファクタリング」が確認されているとして注意喚起を発出し,「形式的に債権売買でも実質が貸付なら貸金業法の規制対象となる」との見解を示しています。特に個人の給与債権を扱うケースは後述のとおり明確に違法とされており,「給与ファクタリングを業として行うことは貸金業に該当します(貸金業登録が必要)」とされています。

行政処分の具体例としては,高金利の違法な貸付け(偽装ファクタリング)を行っていたため,関東財務局から貸金業法に基づく業務停止命令を受けたケースがあります。この事例では,表面上はファクタリング契約を装いつつ法定利率を大幅に超える手数料を徴収していたことが問題視されました(金融庁公表資料によれば法令違反〔高金利〕が処分理由とされています)。このように,行政当局は無登録で実質的な貸付を行う業者に対し,営業停止や業務改善命令などの処分を下すことがあります。

加えて,悪質な場合には警察と連携して摘発する方針も取られており,実際に偽装ファクタリング業者が出資法違反(高金利)や貸金業法違反で逮捕・起訴された例も報じられています。

また,消費者庁も個人向け違法融資への対策として注意喚起を行っています。消費者庁は「違法な貸付(ファクタリング等)にご注意ください!」という公表資料の中で,給与ファクタリングは高額手数料により利用者の生活を破綻させるおそれがある違法なスキームであると警告しています。同資料では,新型コロナ禍で生活資金に困った消費者が標的にされている状況を踏まえ,無登録業者を利用しないよう呼びかけるとともに,金融庁・警察庁と連携した監視強化を表明しています。さらに国民生活センターや日本貸金業協会など関係機関とも協力し,被害防止のための情報発信や相談窓口の整備が進められています。

近年では,「後払い現金化」「商品券買取現金化」等,一見ファクタリングとは異なる形を装いつつ実質的に貸付けとなる新手の手口も登場しており,行政はこれらも含めた包括的な取締りを強化しています。

ファクタリング事業の違法となるスキーム:典型例と裁判例

上述の偽装ファクタリング以外にも,ファクタリング事業に関連して違法とされる典型的なスキームや争点があります。ここでは主な例と,それに関する裁判例・判例上の判断を紹介します。

  • 給与ファクタリング(BtoC型ファクタリング):個人が勤務先に対する将来の給与債権をファクタリング業者に「売却」し,業者から前払いの形で現金を得るスキームです。一見すると給与の債権譲渡ですが,労働基準法第24条第1項が「賃金は直接労働者に支払わなければならない」と定めているため,債権を譲り受けた業者であっても直接使用者(会社)から給与を受け取ることはできません。その結果,利用者(労働者)は勤務先への債権譲渡通知を避けるため自ら買戻し(実質的な返済)をせざるを得ない状況に置かれます。

最高裁も令和5年2月20日決定において,「『給与ファクタリング』と称する取引は顧客(労働者)からの返済を予定した貸付である」と明確に判示し,無登録でこれを業として行うことは貸金業法違反のヤミ金融にあたると司法判断を示しました。この事案では法定金利の約10倍もの手数料を徴収していた業者が出資法違反でも起訴されており,最高裁決定を受けて日本司法書士会連合会も「給与ファクタリングは利息・手数料の額にかかわらず違法」とする会長声明を発出しています。つまり給与ファクタリングは構造上,合法な取引形態として成り立たず常に違法(貸付)と評価されることが明確化されたと言えます。実際,行政も「通常,個人としてファクタリングを利用する機会はない」が「給与ファクタリングという手法で個人に貸付けを行うヤミ金融」が存在すると指摘しており,BtoC型の給与ファクタリングは違法な高利貸しとして認識されています。

  • 二者間ファクタリング(BtoB型の偽装貸付):前述したとおり,事業者向けのファクタリングで売掛先非通知型(二者間取引)のものは,売掛先への通知や承諾を得る通常の三者間ファクタリングに比べて取引条件が厳しくなる傾向があります。債権者である中小企業が資金難から二者間ファクタリングを利用するとき,買戻し特約付きや無償の回収委託契約を併用するケースでは,経済的に年利100%超の高コストとなることも珍しくなく,これは事実上違法金利の貸付を受けているのと同じ負担になります。こうしたスキームについて,近時の裁判例では公序良俗違反による契約無効が認定された例があります。札幌高等裁判所令和4年7月7日判決では,債権者(利用企業)の切迫した資金需要に乗じて短期間で高額の利益を得る手段として債権譲渡契約(買戻型)が締結されたものと認定し,「貸金関連各種規制を潜脱し…締結されたものであって公序良俗に反し無効である」と判断しました。同高裁判決は「形式上は債権譲渡でも,実質は譲渡債権を担保とする金銭消費貸借に近い機能を有していた」と取引の経済的実態を指摘しており,貸金業法・出資法の趣旨(実質貸付の広範な規制)に照らした判断枠組みを示唆しています。

他方で,真正な三者間ファクタリング(ノンリコース,売掛先にも通知・承諾を得た債権譲渡)については,裁判例上も「譲渡人に遡及義務(買戻し義務)がない純粋な債権売買であり,貸金業法が予定する貸付け等とは性質を異にする」として認められています。つまり,BtoBファクタリングであっても債権譲渡契約が実質的に金銭消費貸借に近づくほど違法リスクが高まる一方,ファクタリング会社が債権リスクを真正に負担する取引形態であれば違法とは評価されにくいといえます。

  • 架空債権のファクタリング:実在しない売掛債権や既に回収済みの債権を偽ってファクタリング会社に売却し,資金をだまし取る行為は明白な詐欺罪に該当します。このようなケースではファクタリング契約自体が初めから目的の実現が不可能な無効契約と言え,発覚すれば刑事事件化する可能性があります。例えば架空の売掛金債権を複数のファクタリング業者に売却して約1億円を詐取した事例では,関与者が詐欺容疑で逮捕・起訴されています。架空債権はもちろん違法ですが,次に述べる二重譲渡も実質的に同様の問題を孕みます。

二重譲渡のリスクと契約の無効・取消し

二重譲渡とは,同一の売掛債権を複数のファクタリング会社に重ねて譲渡する行為で,悪質な資金調達手段として問題になります。債権の法律関係としては,最初の譲渡で債権はファクタリング会社Aに移転していますから,二社目以降への「譲渡」は原債権者に処分権のない債権を売ることになり,法律上無効ないし取消し可能な行為となります。二重譲渡が故意に行われた場合,ファクタリング会社を欺いて金銭を詐取したものとして詐欺罪にあたります。実際,資金繰りに窮した事業者が同じ債権を複数業者に売却して発覚した事案では,債権者(事業者)が詐欺で逮捕・起訴され,会社も倒産に追い込まれるという深刻な結果を招いています。

法的には,二重譲渡が発覚した場合,後から譲り受けたファクタリング会社との契約は履行不能・目的違法のため無効となり,受領済みの売買代金は返還義務の対象となります。善意のファクタリング会社に残された債権が無価値となるため,原債権者に対する損害賠償請求(不法行為または債務不履行に基づく返還請求)に発展することが通常です。裁判になれば契約の詐欺取消しが主張されることも考えられますが,悪質な場合は民事責任を追及するまでもなく刑事事件化していくことも考えられます。このような事件種について判例集に顕著な蓄積はありませんが,二重譲渡は明白な不法行為であり契約も成立当初から無効となるという点に異論はなく,ファクタリング業界では最大のリスク要因の一つと認識されています。

このリスクを低減するため,日本では債権譲渡登記制度が整備されています。法人(会社)が金銭債権を譲渡する際,債務者への通知に代えて法務局への登記を行うことで譲渡の対抗要件を備える制度です(債権譲渡登記特例法)。ファクタリング会社は二者間ファクタリングの場合,この登記を利用しておけば他社への二重譲渡発覚時に優先権を主張できます。もっとも登記には費用がかかるため,中小の事業者では利用が徹底されておらず,結果として債権者が意図的に二重譲渡に及ぶ余地が残っているのが現状です。ファクタリングを提供する事業者は契約時に債権譲渡登記や債務者確認などの手続きを講じ,二重譲渡の未然防止に努めることが不可欠です。万一発覚すれば前述のように契約無効・損害賠償に加え,刑事罰のリスクまで生じる点を認識する必要があります。

BtoBとBtoCにおけるリスクの違いまとめ

最後に,企業間ファクタリング(BtoB)個人相手のファクタリング(BtoC)で異なる点がある主なリスク・留意点をまとめます。

  • 法規制・適法性:BtoBファクタリングは,中小企業の資金繰り支援手段としても利用されており,債権譲渡しての実態である限りは適法な金融です。適切に行われる限り,貸金業法の対象外であり利息制限法の制約も受けません。

一方,BtoCファクタリングは給与ファクタリングに代表されるように,基本的に合法な枠組みを構築しにくいと考えられます。労働者の給与債権は法律上第三者への譲渡が想定されておらず,事実上貸付以外の何物でもないからです。したがって,個人に対するファクタリングを標榜する業者に対しては監督官庁からの厳しい目が向けられることになるでしょう。

  • 利用者保護と監督当局の姿勢:個人を相手とする違法なファクタリング(実質高利貸し)は,消費者被害(多重債務や生活破綻)を生むため行政の目も極めて厳しく,近年は警察・金融庁・消費者庁が一体となって摘発・啓発に動いています。最高裁の判断も出たことで,給与ファクタリングは今後一層排除されていくでしょう。これに対しBtoBファクタリングについては,現時点で事業者に対する専用の許認可制は導入されておらず(※通常の売掛債権売買は自由),明確な業法上の監督対象にもなっていません。もっとも金融庁は事業者向け偽装ファクタリングの問題を認識しており,中小企業庁等とも連携して啓発資料を作成するなど実質的な監督・指導の強化を図っています。今後,業界の自主規制や新たな法規制の検討が進む可能性も指摘されています。
  • 契約トラブルの態様:BtoBの場合,債権譲渡禁止特約への対処(二重譲渡の予防を含む)や,債権額に対する手数料相当額(ディスカウント率)の妥当性などが主な論点となります。手数料が高すぎる場合でも直ちに違法とはならないものの,前述のように極端に高利な設定や形骸化した売買契約であれば法的無効リスクがあります。BtoCではそもそも契約自体が無効・違法となるケースがほとんどであり,発生するトラブルも違法業者による取り立て被害過払金返還請求といった,貸金・ヤミ金融問題の様相を呈します。個人が被害者となる分,救済措置(警察相談や消費生活センターへの通報など)も公的に用意されています。一方,企業が相手のファクタリング紛争では当事者が事業者同士となるため,裁判所も一律の判断基準を示すことを慎重に避ける傾向があると指摘されます(多くの事案が和解で解決している実情があります)。この点も,明白に違法と断じられるBtoC取引との違いと言えるでしょう。

おわりに:最近の動向

近年,ファクタリングを取り巻く法規制強化の機運が高まっています。令和5年(2023年)には最高裁が給与ファクタリングを違法と断じ,違法業者排除の流れを後押ししました。また,事業者向けファクタリングについても各地の裁判例が積み重なりつつあり,偽装ファクタリングの判断基準が少しずつ明確化されてきています。金融庁や消費者庁は引き続き悪質業者への監視を強める方針であり,利用者側も契約内容に少しでも不安があれば弁護士等の専門家に相談するよう呼びかけられています。

結論として,BtoBファクタリングとBtoCファクタリングでは法的リスクの質と深刻さが異なりますが,共通して重要なのは「形式ではなく実態」を見極めることです。ファクタリング契約が経済実態として貸付と同視される場合,たとえ契約書上は債権譲渡と書かれていても違法リスクを免れません。ファクタリング事業者は健全なスキームを遵守し,利用者(債権者)は契約条件を慎重に確認することで,違法な取引に巻き込まれないよう十分注意する必要があります。法律・ガイドライン・判例で示されたポイントを踏まえ,安全で適法なファクタリングの利用・運営に努めることが肝要です。

お問い合わせはこちらから。

keyboard_arrow_up

05058309572 問い合わせバナー 無料相談・初回接見の流れ