中小ネット通販事業者のための特定商取引法ガイド:広告表示義務とクーリングオフ規定

ネット通販事業者に向けて、特定商取引法の規制、特にクーリングオフに関する規定を解説します。

はじめに

近年はECサイトの発展などで誰にでも簡単にネット通販事業を開始できる時代であるといえます。
しかしながら簡単に始められるといっても、法令に違反した営業をしてしまえば当然営業を継続できなくなる処分を受けるおそれがあり、最悪、刑事罰を受けるおそれもあります。
ネット通販事業においては、特定商取引法の法規制が問題になり、法令を遵守して事業を行うことが重要になります。
今回の記事では実務上問題になりやすい、通販事業者が押さえておくべき広告表示義務とクーリングオフ制度について、その概要と違反時のリスク、実例、そして法令順守のポイントを解説します。

通信販売における広告表示義務とは

通人販売の広告において、どのような事項を表示する義務があるかについて解説します。
特定商取引法では、通信販売(オンライン取引)を行う事業者は広告やウェブサイト上に一定の事項を表示する義務があります。

表示義務を課されている事項については特定商取引法11条に定めがあります。
これは消費者が購入前に必要な情報を得られるようにするためで、表示すべき項目には、商品やサービスの販売価格(送料を含む)、代金の支払時期・方法、商品の引渡時期申込み期間がある場合はその旨、契約の撤回・解除(返品特約)の条件事業者の氏名(名称)・住所・電話番号などが含まれます。
これらの情報が広告に不十分だったり不明確だったりすると後々トラブルになりやすいため、法律で明確に表示事項が定められているのです。

広告表示義務に違反した場合のリスク

では広告表示義務に違反した場合にはどのような罰則やリスクが想定されるのでしょうか。

もし広告表示義務を怠ると、特定商取引法違反となり行政上の処分刑事上の罰則の対象となります。
まず行政措置として、所管官庁(消費者庁や経済産業局等)から業務改善の指示業務停止命令等の処分を受ける可能性があります。
行政処分については特定商取引法14条1項や特定商取引法15条1項に規定があります。
実際に通信販売の規定に違反すると、事業者は業務の一部または全部の停止を命じられるケースもあります。

さらに一部の悪質な違反は刑事罰の対象となり得ます。
たとえば広告への必要表示を欠落させた場合(広告表示義務違反)は、法律上100万円以下の罰金刑に処される可能性があります。指示に従わず違反行為を継続したような場合には、経営者や担当者個人が6か月以下の懲役刑を科されるリスクも生じます(法人も同様に罰金対象)。

このように表示義務を軽視すると営業停止のみならず刑事罰という重大なリスクがあるため、遵守が欠かせません。

虚偽・誇大広告に関する法規制について

単に表示を怠るだけでなく、事実と異なる内容や誤解を招くような広告表示をすることも特定商取引法で禁止されています。

特定商取引法第12条では、広告に「著しく事実に相違する表示」や「実際のものよりも著しく優良・有利と人を誤認させる表示」を行うことを明確に禁じています。
これは消費者に実態以上に有利な印象を与える誇大な宣伝を防ぐための規定で、いわゆる「不当表示」にあたります。
事業者がこのような虚偽・誇大広告を行った場合、行政当局からの指示や業務停止命令等の処分対象となるほか、100万円以下の罰金が特定商取引法72条で定められており、刑事罰が科されることもあります。

注意

実際、2024年にはある健康食品通販会社が根拠のない「No.1」表示を広告に用いたことが特商法上の誇大広告禁止規定違反と認定され、業務停止命令を受けました。

このように誇大・虚偽な表示は景品表示法のみならず特定商取引法でも規制されており、中小事業者であっても注意が必要です。

クーリングオフ制度の概要(通信販売との関係)

クーリングオフとは、特定商取引法で定められた一定の取引類型において、契約後でも一定期間内であれば無条件で契約を解除できる消費者保護制度です。
典型的には訪問販売電話勧誘販売・特定継続的役務提供(エステや英会話教室など)・訪問購入では契約書面を受け取ってから8日以内、連鎖販売取引(マルチ商法)業務提供誘引販売取引では20日以内であれば、消費者は理由を問わず書面で契約解除を通知できます。

通信販売(通信契約)というだけではクーリングオフに関する規定がありません。
つまり、「インターネット通販で商品を購入した」というだけでは、法律上は原則として「冷静に考え直して返品・解約したい」という理由で一方的に契約を解除することはできないのです。
通販サイトで買い物をした後でのキャンセルや返品は、各店舗の定める返品特約や消費者契約法上の取消事由などに頼ることになり、訪問販売のような無条件解約制度は適用されません。

クーリングオフ妨害と刑事罰

もっとも、クーリングオフが認められる取引において、事業者が消費者のクーリングオフ行使を妨げる行為をすると厳しい罰則が科されます。
具体的には、事業者が嘘をついてクーリングオフはできないと思い込ませたり(不実の告知)、必要な情報をわざと伝えなかったり、威圧的な対応で消費者を困惑させたりしてクーリングオフを断念させる行為が該当します。
それ自体が特定商取引法違反であり、法律はこのようなクーリングオフ妨害行為を明確に禁止していて、違反した場合は2年以下の懲役または300万円以下の罰金という重い刑事罰の対象となります。

注意

実際に、「あなたは事業者扱いだからクーリングオフはできない」などと虚偽の説明をして消費者に解約をあきらめさせようとした悪質な業者が摘発され、業務停止命令を受けたケースがあります。

なお、一度でもこうした妨害行為があった場合、法律上はクーリングオフ可能期間が過ぎていても改めて解除できる救済措置(期間の延長)が認められるなど、消費者保護が図られています。
いずれにせよ、クーリングオフを妨げる行為は犯罪行為となり得ることを覚えておかなければなりません。
そのために事業者は、これから始めようとする取引の形態にクーリングオフが認められるかどうかについて、正確に判断する必要があります。

ネット通販事業者において問題になった実際の事例

行政処分、刑事罰が科された事例について紹介します。

「定期購入」について

例えば近年、いわゆる「定期購入商法」と呼ばれる手口(お試し商品から高額な継続課金に移行する通販形態)に対し、消費者庁が積極的に執行を行っています。
2023年9月から2024年4月までのわずか8か月間に、ダイエットコーヒーやサプリメント、電子タバコ等を販売していた複数の通販事業者に対し、最終確認画面での表示義務違反を理由に業務停止命令などの行政処分が合計3件出されました。
いずれも商品申込みの最終画面において分量や価格、支払時期等の必要情報を適切に表示せず、消費者を誤認させたことが問題視されました。

クーリングオフ関連の違反

前述のように電話勧誘で「クーリングオフはできない」と消費者に誤った説明をして契約解除を妨害した業者が摘発され、3か月間の業務停止(取引の一部禁止)処分を受けています。
仮に、ネット販売事業で販売している商品でも、電話勧誘を行っていれば通信販売ではなく電話勧誘販売に該当していると判断される可能性が高いので、この場合クーリングオフができることは適切に情報提供する必要があります。
これらのケースは中小事業者であっても法律違反があれば行政から厳しい措置がとられること、ひいては刑事罰のリスクに直面し得ることを示すものです。

法令順守のためのポイントと対策

最後に、特定商取引法を順守し刑事罰リスクを避けるための実務上のポイントをまとめます。

必要表示事項の徹底

販売価格や送料、支払方法、引渡時期、事業者情報(名称・住所・電話番号)、返品特約の有無など、法定の表示事項は漏れなく広告やサイト上に明記しましょう。
とくに自社サイトには「特定商取引法に基づく表示」ページを用意し、最新の情報を正確に掲載するようにしてください。

虚偽・誇大な宣伝の排除

広告内容は常に事実に基づき、合理的な根拠を確認した上で表示します。
実際よりも有利に見せかける誇大な表現は消費者庁のガイドライン等を参考に避け、誤認を招く表示は禁止されていることを社員にも周知し、自社の広告が誇大広告等にあたらないかは常に確認しましょう。

法改正ルールへの対応

近年の法改正にも注意が必要です。例えば2022年施行の改正特商法では、ECサイトの最終確認画面で「分量」「販売価格」「支払時期」など基本事項を表示することが義務化されました
定期購入サービスなど継続課金型の販売を行っている場合、これらの項目が購入手続き最終画面にきちんと表示されているか確認し、不足があれば早急に是正しましょう。

クーリングオフの明示と適切な対応

通信販売にはクーリングオフ制度が適用されない旨をサイト上で明記し、代わりに返品やキャンセルの条件を分かりやすく案内しておくことが大切です(例:「通信販売にはクーリングオフは適用されません。返品・解約は○日以内にご連絡いただいた場合に限り対応いたします」等)。
訪問販売や電話勧誘販売を行う場合は、契約書面への法定記載事項やクーリングオフの説明を確実に実施し、消費者に誤解を与えないようにしましょう。
万一クーリングオフに関する問い合わせがあった際にも、法律に沿った正しい対応を徹底する必要があります。

社内コンプライアンス体制の整備

特定商取引法や景品表示法など関連法令の改正情報や行政当局から公表されるガイドラインに常に目を配り、必要に応じて自社の表示や勧誘方法をアップデートしましょう。
定期的に自社サイトや広告表現を点検し、問題が見つかれば速やかに改善策を講じてください。
行政から指導や勧告を受けた場合には真摯に受け止め、従わないことで刑事事件化する事態は絶対に避けましょう。

以上のような対策を講じ、適正な広告表示と誠実な販売手続きを心がけることで、法律違反による刑事罰リスクを回避し、消費者からの信頼を高めることができるでしょう。
特定商取引法を順守した健全な通販サイト運営が、中小事業者の長期的なビジネスの発展につながります。

最後に

あいち刑事事件総合法律事務所では、普段から自社の法令遵守に関して確認しアドバイスをさせていただく顧問契約をご準備しています。また初回相談は無料で実施させていただきます。
自社の事業の法令遵守に関してご不安な事業者の方、経営者の方は是非一度あいち刑事事件総合法律事務所にご相談ください。

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