Archive for the ‘企業犯罪’ Category

産地偽装による不正競争防止法違反の事例

2024-04-12

産地偽装による不正競争防止法違反で会社が家宅捜索を受けた場合の対応についてあいち刑事事件総合法律事務所が解説します。

【事例】

愛知県にあるうなぎ店が中国や台湾産などのうなぎを三河産と偽って提供したとして、警察の家宅捜索を受けたことがわかりました。店主は産地偽装を認めています。
不正競争防止法違反の疑いで12月20日に警察の家宅捜索を受けたのは、愛知県にあるうなぎ料理店Aです。
警察や店主らによりますとAは店の看板に「三河産」と表示しているにもかかわらず、3年前から一部の料理に中国や台湾産などを使うようになったということです。
店主は、中京テレビの取材に対し偽装を認めた上で、「冬の時期は、出荷量が減るので三河産だけでは追い付かなくなった」などとしその後、三河産以外のものを使っているという掲示をするなどの対応をとったということです。 
(令和5年12月26日 中京テレビニュース「うなぎ店“産地偽装”で家宅捜索 中国や台湾産などのうなぎを三河産と偽って提供」より引用)

同様の報道についてこちら

産地偽装をした場合に成立する犯罪について

食品の産地偽装と言われる行為には、報道にあるような外食メニューに使用されている食材の産地を偽装するケース、生鮮食品の産地を偽装するケース、加工食品の原材料の産地を偽装するケースがあります。
そして、問題となるケースによって、不正競争防止法不当景品類及び不当表示防止法食品表示法の各違反行為が問題になります。
今回紹介している事例は不正競争防止法違反が問題になっていますので、以下では今回の事例に沿って不正競争防止法違反で問題になる条文の解説していきます。

今回の事例で問題になっているのは、不正競争防止法2条1項20号であると考えられます。
以下に条文をあげます。

不正競争防止法2条1項20号
商品若しくは役務若しくはその広告若しくは取引に用いる書類若しくは通信にその商品の原産地、品質、内容、製造方法、用途若しくは数量若しくはその役務の質、内容、用途若しくは数量について誤認させるような表示をし、又はその表示をした商品を譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸出し、輸入し、若しくは電気通信回線を通じて提供し、若しくはその表示をして役務を提供する行為

不正競争防止法では上記の行為を「不正競争」として規定しており、これをした者について罰則等の定めがあります。
具体的に事例のような産地偽装行為は、条文上の「商品」の「原産地」について「誤認させる表示をする」場合にあたると考えられます。
実際には外国産のうなぎを使用していたにもかかわらず、うなぎ店の看板に「三河産」と表記すれば当然ながら、お店の利用客は店内のうなぎ料理にはすべて「三河産」のうなぎが使用されていると誤解してしまうためです。

産地偽装による不正競争防止法違反が発覚した場合の手続きの流れ

では次に事例のような食品の産地偽装が発覚した場合に予想される手続きの流れについて解説していきます。
不正競争防止法違反が発覚した場合には民事上の請求と刑事訴追の双方を受ける可能性があります。

民事上の請求

民事上の請求としては①差し止め請求と②損害賠償請求の2通りの可能性があります。
具体的には、差し止め請求については原産地を誤認させる産地偽装という「不正競争」によって、営業上の利益を侵害された・侵害されるおそれがある者は、侵害した・侵害するおそれがある者に対し、その侵害の停止・予防を請求でき(不正競争防止法3条1項)、侵害の行為を組成した物(侵害の行為により生じた物を含む)の廃棄、侵害の行為に供した設備の除却その他の侵害の停止・予防に必要な行為を請求できるとされています(同条2項)。
損害賠償請求については、故意・過失により原産地を誤認させる産地偽装というという「不正競争」を行って他人の営業上の利益を侵害した者の損害賠償責任が定められています(同法4条1項)。
そして、被侵害者が故意・過失のある侵害者に対し損害賠償請求をする場合に、侵害者が侵害行為により利益を受けているときは、その利益の額は、被侵害者が受けた損害の額と推定するとされています(同法5条2項)。

刑事訴追を受ける場合

被害が大きい、偽装の悪質性が高いと思われた場合には事例の場合のように、企業に捜索が入るなど刑事手続きが開始されます。
場合によっては産地偽装を主導した経営者らが逮捕される場合もあります。
逮捕された場合については、早期に弁護士が検察官や裁判官と交渉し釈放を目指す必要があります。
不正競争防止法違反の刑事罰については、5年以下の懲役もしくは500万円以下の罰金、またはその併科に処すると定められています(同法21条2項1号)。
また、法人については、両罰規定で3億円以下の罰金に処すると定められています(同法22条1項3号)。
起訴された場合については、事実を争う(産地偽装が故意ではなかった等)、ないしはより量刑が軽くなるような弁護活動が求められます。

産地偽装が発覚した場合の対応について

当然ですが企業としては産地偽装の問題が生じないように原材料の管理体制などを整えておくなどの事前の対策が重要です。
しかし産地偽装の問題が明らかになった場合については、原因を明らかにしてしかるべき再発防止策を立てる必要があります。
産地偽装は国民の生活の重要な一部である食に関する問題ですので紹介した事例のように大々的に報道されることもあります。
発覚後の報道対応、刑事訴追される場合の対応など弁護士に依頼するべき必要性は高いといえます。

あいち刑事事件総合法律事務所は刑事事件に精通した事務所です。不正競争防止法が問題になった案件も多数扱ってきました。
産地偽装などの不正競争防止法違反が発覚してしまった方や、自社で産地偽装問題がないか調査をされたい方、産地偽装がないように事前の対策を講じたい方は是非一度ご相談ください。
お電話の方は0120-631-881まで,HPからのお問い合わせはこちらからどうぞ。

風俗営業の名義貸しの捜査のポイント解説

2024-03-22

(事例)なお上の事例はフィクションです。
Aさんは、キャバクラの経営者です。ある日、Aさんの店の元従業員BさんがAさんのお店から独立して似たようなお店を作りました。AさんとBさんは、仲が悪くて離反したというわけではなく、お互い独立して営業をしていました。
しかし、ある日、AさんとBさんは、名義貸しで風俗営業を営んだものとして逮捕されてしまいました。
どうすれば良いでしょうか、またどうしておけば良かったでしょうか。
今回は、どうすれば良いかという点を解説していきます。

参考事例:無許可営業、風営法違反容疑で男2人逮捕 栃木県警

風俗営業法の違反とは?

一般的に風俗営業法といわれている法律がありますが、その内容はとてもボヤっとしています。例えば客引きが規制されていますが、皆さんが繁華街を歩いていると声をかけてくるキャッチの人は、普通に考えると客引きでしょう。

先ほどの事例でAさんが逮捕された名義貸しも難しい話です。AさんとBさんの関係でいう名義貸しとは、風俗営業の許可を受けた者が自ら風俗営業等を営むことなく他人にこれを営ませることです。
Aさんとは異なり、例えば、風俗営業法違反で前科があるCさんは自分では風俗営業の許可をとれないので代わりにDさん名義で許可を取らせて、実際の運営はCさんがしていたというような事案であれば、明らかな名義貸しとして摘発されても仕方ないでしょう。

今回のAさんやBさんが名義貸しとして逮捕された理由としては、「Bさんの名前で風俗営業の許可が取られているけど、Bさんは名ばかりで、Aさんが実質的な経営者なのではないか」と警察に疑われたからだと考えられます。

そして風俗営業法の名義貸し事案でメインとなる捜査事項は、だいたい決まっています。先にあげたCさんの事例のような風俗営業法違反の前科の有無というのはとても大きいです。そのほかにも、Bさんの店との関係で営業方針の決定をしていたのはAさんかBさんか、AさんやBさんはBさんの店で仕事をしていたのか否か、お金の管理をしていたのは誰か、AさんやBさんは普段何と呼ばれていたか、取引先と商談をしていたのはどちらか、といった事項が調べられていきます。

したがって、AさんやBさんの弁護士として,実質的に誰が店舗の経営者,責任者なのかという点を明確にして供述するようアドバイスすること想定されます。
もちろん口裏を合わせて嘘を言うことはできないので、AさんもBさんも自分の弁護士としっかり打合せをして、最良の結果を得られるよう動いていくことになります。

弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所では、風俗営業法違反という難しい事案でも弁護の経験を豊富に有しております。名義貸し含め風俗営業法違反で捜査を受けた場合には、ぜひご相談ください。

営業秘密の侵害とは何か②

2024-03-01

(事例はフィクションです)
Aさんは食品製造を業とするX社の開発部門に勤めていました。
ある時,Aさんは他の食品製造会社であるY社に転職したのち,「Y社がX社の商品とうり二つの製品を販売している」という噂が流れるようになりました。
X社の担当者が確認したところ,AさんがX社からの退職時に製品のレシピを不正に持ち出したという疑いが強まりました。
X社の担当者は,AさんやY社への対応をどうするべきか,弁護士に相談することにしました。

営業秘密の侵害とは何か

以前にも当サイトにて「営業秘密とは何か」について取り上げました。

法律上,①秘密に管理されている,②事業のための有益な情報であって,③誰でも知っているようなものではない情報は,「営業秘密」として保護されることになります。
しかし,営業秘密として保護されるということと,独占的に使用できることは若干意味合いが異なります。
少しわかりにくいので,具体例で説明しましょう。
上記の事例で,X社が開発した商品の製造方法,食品の種類やその配合の割合と言った情報は,「営業秘密」に該当する可能性があります。その情報を無断で持ち出したり,正当な権限がないのに使用したりすることは,不正競争の違反になることがあります。
例えば,X社が作っているカップラーメンの粉末スープには,塩:胡椒:山椒が2:2:1の割合で入っていたとします。このような割合でカップラーメンの粉末スープを作る方法は営業秘密に当たる可能性があります。
しかし,同業の他社が研究を行った結果,同様に「塩:胡椒:山椒が2:2:1の割合でカップラーメンの粉末スープを作るとおいしい!」と気づき,製品を作るということがあり得ます。
このように,「営業秘密を不正に取得したり使用したりしていなくても,結果として同じものが出来上がるということは理論上あり得るのです。その場合には,営業秘密の侵害行為がないのですから,「同じ方法で製品を作るな!営業秘密の侵害だ!」とは言えないことになります。
不正競争防止法は,営業秘密を守る,つまり不正に外部に流出されたり利用されたりすることを防止しています。一方で,営業秘密と同じ情報を独占的に利用させる,ということまでは認めていないのです。

以前の記事でも取り上げた,令和5年5月31日に東京地方裁判所で判決が言い渡された民事裁判では,営業秘密の侵害が認められないとして原告(訴えた側の企業)の請求が認められませんでした。この事例も,ある食品製造会社が他の会社の製品について,レシピなどを盗用されたと主張していた事案です。
その裁判においては,食材の配合の割合について似ている部分はあるけれども,レシピを盗用した,つまり営業秘密を使用されたとまでは言えないと判断して,原告の請求を認めませんでした。
単に似ている,というだけでは営業秘密の侵害とまでは認めなかった事案です。

会社としての対応は?

上記の事例でも,まずは「どのような営業秘密があるのか」と「その営業秘密が侵害されたと言えるのか」という二段階での検討が必要です。
そして営業秘密の侵害なのか,営業・研究結果の一致にすぎないのかは,当該情報の性質や業界の常識なども含めて検討しなければならないものです。
X社としても,Y社製品との類似性やAさんの言動についてよく調査を行った上で,その後の対応を検討しなければなりません。
また,第三者によって利用されることを制限したい,独占的に使用したいという場合には,むしろ特許を出願するということも考えられます。
不正競争防止法は,特許のように届出をしていない情報であっても保護の対象としていますが,「侵害」と言えるかどうかについては一定の制限を設けています。
「塩:胡椒:山椒が2:2:1の割合による粉末スープ」というだけでは特許として認められる可能性は低いでしょうが,企業における門外不出の技術や長年の研究の成果のように「他人に絶対に使わせたくない製法」なのであれば,特許法による保護も検討に値するでしょう。
特許を取得してしていたのであれば,独占的な使用が可能なのです。

風営法違反をきっかけとした捜査

2024-02-23

事例

(取り上げる事例はフィクションです)

某県某市で、店舗を構えて複数の個室を設けて性的なサービスを行うお店を夫婦で経営していた夫のAさんと妻のBさんがいました。このように店舗などの個室で性的サービスを行う営業は、善良な一般国民の道義観念に反し、社会に悪影響を及ぼしたり、青少年の健全な育成に障害をもたらすおそれがあることから、「風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律」、いわゆる「風営法」によって様々な規制がなされています。

Aさん達の経営する風俗店は、風俗営業の中でも「店舗型性風俗特殊営業」と言われる営業形態であり、風俗営業の中でも、特に社会への様々な悪影響がもたらされるおそれがあり、官公庁や学校などがある場所から一定距離の地域では、この店舗型性風俗特殊営業をすること自体が禁止されています。

AさんとBさんは、禁止地域で店舗型性風俗特殊営業を営んでいたことから、ある日、突然、多数の警察官がお店に乗り込んできて、いきなり「『風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律違反』により、裁判所から捜索差押許可状が発付されています。これから、お店の中を捜索します!」と言われ、裁判所から発付された令状を示されて、怒涛の如く捜索が開始されました。お店の受付には妻のBさんだけがいて、もうどうすることもできません。捜索開始から10分ほどしたところで、夫のAさんが受付の交代のためにやってきたところ、警察の捜索が入っていたことを知りビックリです。

その後、AさんとBさんは逮捕されました。弁護を受任したC先生は、直ちに初回接見に行き、Aさんの話を聞いたところ、AさんもBさんも初犯であったこと、営業を始めて3か月程度と期間が比較的短かったこと、禁止地域であることの認識がやや希薄であったこと、事実を認めて、もう廃業するとしていたことなどから、略式起訴による罰金で終結するだろうとの見通しを持ちました。
一方、他方で、共犯者にBさんがいること、事件関係者が多数であることから、勾留が認められ、接見禁止がつくであろうこと、勾留延長はやむを得ないが延長満期で罰金の処分となり釈放されるであろう見込みなどを説明しました。
ところが・・・

風営法違反事件についてはこちらのページでも解説しています。

禁止地域営業は、ただの入り口事件・・・?

C先生は、本件の延長満期2日前に、担当検事に処分見込みを確認したところ、担当検事は「本件については処分保留で再逮捕します。」というではありませんか。
再逮捕のネタはいわゆる「バテイ」でした。「バテイ」というのは、馬の蹄(ひづめ)のことではなく、業界用語で、売春防止法違反の「売春を行う場()所を提供(テイ)することを業とすること」です。
風営法の禁止地域営業は、法定刑が2年以下の懲役又は200万円以下の罰金又はその併科ですが、売春防止法違反としての場所提供罪の法定刑は、7年以下の懲役及び30万円以下の罰金と各段に重くなります(罰金が30万円と軽く見えますが、刑の重さの比較は懲役の長さが基準になります。)。

警察の本当の狙いはバテイにあったのであり、禁止地域営業は入口事件に過ぎなかったのです。
入口事件というのは、捜査を始めるきっかけとなる事件のことです。警察は、捜査をする当たって、必要に応じて検事に事前相談をして、入念な捜査計画を立てて動きだしますが、まずは、証拠の明白な手堅い事件で捜索差押えをかけるとともに被疑者らの身柄を拘束し、本丸の捜査のためのお膳立てをするのであり、そのお膳立てが入口事件なわけです。

この種の事件での警察の捜査は、まず、風営法違反の疑いで捜査を始めます。
具体的には、店舗周辺で張込をし、店舗から出てきた一般客に声をかけて店舗内でどにような性的サービスを受けたのかを聞き取りします。通常、こうした客は、警察だと聞いてとても驚きます、そして、このようなお店に行っていることが家族や職場にバレはしないかと心配するなどしていることから、これらの狼狽した状態に乗じて警察はうまく聴き取りをするわけです。この聴き取りの早い段階で店舗の女性従業員と客との間に性交渉があったことが情報として出てくることもあります。これらの客の聴き取りを何人か行い、営業実態がある程度把握できたところで、本件店舗と関係場所など複数の捜索差押許可状のほか、被疑者らの逮捕状の発付を得て、私服刑事が乗り込み「令状執行、逮捕」となるわけです。

rf: 各種業法の違反に対する罰則

この事件の顛末は・・・?

この事件では、結局、売春防止法違反(場所の提供)で再逮捕・再勾留となりましたが、弁護士Cがバテイの勾留状謄本の交付を受けたところ、ある事実に気が付きました。

なんと、禁止地域営業の逮捕勾留の日時場所と、バテイの日時場所が全く同じだったのです。逮捕勾留というのは、身柄拘束の期間が法律で厳しく制限されています。同じ事実で何度も再逮捕・再勾留ができたのでは、身柄拘束は永遠に続き、法律が身柄拘束期間を厳しく制限していることに意味がなくなります。

もっとも、この事件では、性的サービスと性交渉という行為に違いはありますが、やっていることにほとんど変わりがない上に日時場所が同じというのは、やはりおかしいと考えたC弁護士、直ちに勾留に対する準抗告の準備をするとともに、担当検事に抗議をしました。すると、準抗告の判断が出る前に、検事が被疑者らを釈放したのです。本件の実態としても、店舗で働いていた女性達が自分達の小遣い稼ぎに、AさんやBさんの認識が薄いところで勝手に売春をしていたことが判明し、その後、在宅事件となったバテイに関しては、嫌疑不十分で不起訴となり、風営法違反のみで罰金の処分でおわりました。

このように個人事業主として風俗営業に携わると刑事事件としてもさまざまなリスクを負うことがあります。こうしたリスクが現実化した場合は、この事例でもわかるように、事業に関する法規制のみならず、刑事手続にも精通した弁護士の関与を欠かすことはできません。こうした事態に陥った場合には、少しでも早く刑事事件を専門とする弁護士に相談した方がよいでしょう。

従業員と会社が連帯責任?「両罰規定」を解説

2024-02-13

役員や従業員が罪を犯した場合の企業の責任について,弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が解説します。

一般論として、企業の役員や重要な従業員であったとしても、罪を犯したのであれば、それはその人個人の責任にとどまります。しかしながら、それが企業の業務として行い、企業にも利益をもたらしているのであれば、企業にも責任を負わせる必要があります。ここでは、役員や従業員が罪を犯した場合の企業の責任について解説します。

両罰規定とは

法人の代表者や使用人が違反行為をしたときは、その行為者を罰するだけでなく、その法人にも罰金刑を科するという規定が見られます。これを「両罰規定」といいます。
例えば、「独占禁止法(私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律)」では次のように定めています。

独占禁止法

(私的独占、不当な取引制限、事業者団体による競争の実質的制限の罪)
第八十九条
次の各号のいずれかに該当するものは、五年以下の懲役又は五百万円以下の罰金に処する。
一 第三条の規定に違反して私的独占又は不当な取引制限をした者

(両罰規定)
第九十五条
法人の代表者又は法人若しくは人の代理人、使用人その他の従業者が、その法人又は人の業務又は財産に関して、次の各号に掲げる規定の違反行為をしたときは、行為者を罰するほか、その法人又は人に対しても、当該各号に定める罰金刑を科する。
一 第八十九条 五億円以下の罰金刑

このような規定は、独占禁止法のほか、「外国為替及び外国貿易法」のような規制法や「宅地建物取引業法」のような業法など、各種の法律で見られます。

両罰規定はなぜ認められるのか

現代社会の基本である個人主義によれば、個人が罪を犯したのに、その所属する企業まで責任を負わなければならないというのはおかしいと思うかもしれません。
しかしながら、個人が罪を犯したとしても、その個人が企業の役員や従業員で、その企業の業務として行ったのであれば、その犯罪による利益はその企業に入ってくることになります。このような場合に、実際に罪を犯した個人を罰しただけで終わりとなれば、犯罪により利益の帰属した企業を野放しにすることになり、犯罪によって得た利益の回収や刑罰による犯罪の抑止効果は無意味となりかねません。

また、企業は役員や従業員を用いて活動を広げ利益を得ているのですから、これらの者を監督し、第三者に損害を与えないようにする必要があります。したがって、仮に企業から行為者に対し具体的な犯罪の指示がなかったとしても、企業のために役員や従業員が罪を犯したのであれば、企業もその責任の一端を負うべきこととなります。

判例も、企業のこの責任は無過失責任ではなく、両罰規定は過失を推定するものだとしています。

昭和40年3月26日最高裁第二小法廷判決は、「事業主が人である場合の両罰規定については、その代理人、使用人その他の従業者の違反行為に対し、事業主に右行為者らの選任、監督その他違反行為を防止するために必要な注意を尽さなかつた過失の存在を推定したものであつて、事業主において右に関する注意を尽したことの証明がなされない限り、事業主もまた刑責を免れ得ないとする法意と解するを相当とすることは、すでに当裁判所屡次の判例(・・・)の説示するところであり、右法意は、本件のように事業主が法人(株式会社)で、行為者が、その代表者でない、従業者である場合にも、当然推及されるべきである」として、憲法に違反するものではないとしました。

役員や従業員が罪を犯したときの対応は

上記の通り、両罰規定は過失を推定するものですから、企業がこの推定を覆せば刑事責任を問われることを防ぐことができます。もっとも、企業に過失がないといえるためには、企業が行為者の選任、監督その他の違反行為を防止するために必要な注意を尽くしたことを証明する必要があります。
日頃から不正をしないよう役員・従業員に言ってきた等では到底注意を尽くしたとはいえません。コンプライアンス体制を整備し、これに従って経営が行われてきたこと、実質のある内部通報制度を構築し運用してきたなど、不正防止に必要な体制を整備しその通りに運用してきたことを示さなければなりません。

企業内の不祥事についてはこちらでも解説をしています。

おわりに

法人が役員や従業員の行った犯罪行為の責任を負わされないようにするには、不正防止に必要な体制を整備し、この体制に従って運用されなければなりません。
不正防止のためのコンプライアンス整備、内部通報窓口の設置・運用など、企業の不正防止にお悩みの方は、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所へご相談ください。刑事事件について東京支部でのご相談はこちらからもお問い合わせいただけます

談合を疑われた場合の弁護活動

2024-01-30

談合をしたと疑われ捜査された場合を解説

リニア談合事件や、東京オリンピックの談合事件など、大企業までもがかかわる談合事件が大きな問題となっています。
ここでは、企業のかかわる談合事件や、談合事件をしたと疑われた時の対応について解説します。

談合とは

「談合」という言葉は、法律上は刑法の公契約関係競売等妨害(刑法第96条の6第2項)や入札談合等関与行為防止法等、公契約の競売等で問題となります。民間企業同士の談合は、独占禁止法(私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律)の「不当な取引制限」が該当し、カルテルともいわれます。

独占禁止法は「私的独占、不当な取引制限及び不公正な取引方法を禁止し、事業支配力の過度の集中を防止して、結合、協定等の方法による生産、販売、価格、技術等の不当な制限その他一切の事業活動の不当な拘束を排除することにより、公正且つ自由な競争を促進し、事業者の創意を発揮させ、事業活動を盛んにし、雇傭及び国民実所得の水準を高め、以て、一般消費者の利益を確保するとともに、国民経済の民主的で健全な発達を促進することを目的」としています(独占禁止法第1条)。
「不当な取引制限」とは、「事業者が、契約、協定その他何らの名義をもつてするかを問わず、他の事業者と共同して対価を決定し、維持し、若しくは引き上げ、又は数量、技術、製品、設備若しくは取引の相手方を制限する等相互にその事業活動を拘束し、又は遂行することにより、公共の利益に反して、一定の取引分野における競争を実質的に制限すること」をいいます(独占禁止法第2条第6号)。
複数の企業が同種の商品について一定以上の価格にすることを示し合わせることなどがこれにあたります。
独占禁止法はこのような不当な取引制限を禁止しています(独占禁止法第3条)。
これに反して不当な取引制限をしたものは、5年以下の懲役又は500万円以下の罰金に処されます(独占禁止法第89条第1項第1号)。

また、法人の代表者又や従業員等が、その法人の業務や財産等に関して、不当な取引制限を行えば、実際に行為に及んだ行為者が罰されるだけでなく、法人も5億円以下の罰金刑に処されます(独占禁止法第95条第1項第1号・第89条)。

公正取引委員会も入札談合のような不公正な取引については厳しい目を向けて監視しています。

談合をしたと疑われた場合

談合事件は公正かつ自由な競争を阻害するもので、国民経済の民主性・健全性を損ねるものであり、厳しく処罰される必要があります。また、複数の企業がかかわり、その方法も複雑なもののため、金の流れ、人の流れを徹底的に追及する必要があります。このため、東京地検等の特捜部が主導で捜査が行われます。実際の行為者などを逮捕する際にも、特捜部の検察官が逮捕します。

談合の方法は、企業の幹部同士が集まって価格はいくら以上にするとか、次の競売はどこの会社に受注させるなど決めるようなものだけではありません。
見積表をお互いに見せて、どの会社に受注するのか了解させる形で対価を決定するような方法も取られます。また、こうした資料も、会合で見せるのではなく、担当者が他社に持って行って、関係企業間で情報を共有することも行われます。
こうした談合事件の特殊性から、検察官は、誰がいつどのような資料をどこに持って行ったのか、など実際の行為者の行動や認識を、防犯カメラや出張記録などの客観的資料だけでなく、関係者の取り調べを行い聞き出します。

取り調べにどう対応するか

談合の取り調べは何回も行われ、一日でも長時間行われることが多々あります。
誰の指示で持って行ったのか、持って行く際に資料についてどう説明されていたか、中身を見たことがあるか、誰に渡したか、など、詳細に取り調べが行われます。
役員や幹部級の従業員だと逮捕される可能性もあります。

被疑者には黙秘権が保証されます(憲法第38条第1項・刑事訴訟法第198条第2項)。また、供述調書を作成される場合は、閲覧又は読み聞かせを受け、増減変更の申立てをすることができます(刑事訴訟法第198条第4項)。また、署名押印は拒否することができます(刑事訴訟法第198条第5項)。
参考人だと黙秘権などの権利はありませんが、任意の捜査ですので取り調べを受けることや供述調書に署名押印することを強制させることはできません。
このような規制に反して取り調べが行われて、供述調書が作成されても、証拠能力が認められなかったり、仮に認められたとしても信用性が低いと裁判官に判断される可能性があります。

強制的に取り調べが行われたり、自分や関係者の言動や自分の認識が実際のものとは異なる供述調書が作成された場合、しっかりと正していく必要があります。もし応じてもらえない場合、弁護士に相談して対処してもらいましょう。

独占禁止法についてはこちらのページでも解説をしています。

営業秘密の侵害とは何か

2024-01-26

(事例はフィクションです)
Aさんは食品製造会社の開発部門に勤めていました。
Aさんはキャリアアップのために同じ業界内で何度か転職し,食品開発の研究に勤しんでいました。
ある時,Aさんは警視庁三田警察署の警察官から「不正競争防止法違反」の容疑で取り調べを受けることになりました。
過去にAさんが勤めていた会社から「営業秘密を侵害している」と告訴されてしまったのです。
Aさんとその上司は,今後の対応をどうすべきか,専門の弁護士に相談することにしました。

営業秘密とは何か

不正競争防止法は,企業の成長と市場の健全な発展を目的として,各企業が保有している情報を営業秘密として保護しています。
不正競争防止法は,営業秘密を次のように定義しています。
 「営業秘密」とは、秘密として管理されている生産方法、販売方法その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であって、公然と知られていないものをいう。
大きく分けて,営業秘密とは
①「秘密」として管理されている情報であること(秘密性)
②事業活動のために有益な情報であること(有益性)
③誰でも知っているような情報ではないこと(非公知性)
を満たす情報を言います。
秘密性があるというのは,企業においてどのように管理されているかによって判断されます。典型的なのは,「極秘資料」や「機密資料」と印字されているものや,金庫の中で保管されているような情報,電子データベース上でパスワード保護がかけられているような情報です。もちろん,企業体の大きさによって,厳重に管理することが難しい場合もありますから,秘密性を満たすかどうかは企業規模も考慮されます。
有益性があるとは文字通り,事業にとって活用できる情報であるかどうかという点です。事業内容によって,どのような情報が活用できるものなのか変わってくるでしょう。
非公知性は,一般的には入手できないような情報であることを言います。たとえば,化学法則として知れ渡っているものや業界雑誌,研究雑誌に掲載されている情報は営業秘密とは言えません。

なお,営業秘密の保護については経済産業省がガイドラインを策定しています。こちらのページからも確認できます。

営業秘密の侵害になるのか?

営業秘密の侵害になるかどうかの判断では,「そもそも営業秘密が何にあたるのか」をよく見なければなりません。
Aさんの事例だと,過去に勤務していた会社から告訴をされているようですが,どのような情報について告訴がなされているのかを慎重に判断しなければなりません。
一般の方が考えるような「営業秘密」と,不正競争防止法上の「営業秘密」には,少なからず隔たりもあります。
実際,令和5年5月31日に東京地方裁判所で判決が言い渡された民事裁判では,営業秘密の侵害が認められないとして請求の一部が却下された事案もあります。
不正競争防止法の営業秘密の侵害に対しては,10年以下の懲役又は1000万円以下の罰金,場合によってはその両方が課されてしまいます。不正競争防止法の営業秘密侵害として取調べを受けている,呼び出しを受けている,という方は,早期に弁護士に相談された方が良いでしょう。

会社としての対応は?

不正競争防止法は,個人だけでなく,法人に対しても罰則を定めています。
法人による秘密の侵害に対しては,最大5億円の罰金が課されてしまいます。
Aさんの事例についても,Aさんが勤めている会社も他社の営業秘密を使っていたとなると,会社も起訴されたり巨額の罰金を課されたりする可能性があります。
また,取調べを受けて刑事責任を問われるのみならず,会社間での民事訴訟も提起される可能性もあります。
外部から営業秘密の侵害を指摘されたり疑われたりしている事案については,直ちに弁護士と相談をして社内調査等の対応方針を打ち合わせる必要があるでしょう。
裁判の結果によっては,金銭的な賠償のみならず,製品の製造の差し止め等のように,営業活動そのものが差し止められてしまう可能性まであります。
自社内での対応の前から,弁護士とよく相談しておく必要があります。

不正競争防止法の事例については,こちらのページでも解説をしています。

インサイダー取引とは?どのようなきっかけで発覚する可能性があるのか

2024-01-24

(事例はフィクションです)
Xさんは,元勤め先である一部上場株式会社Y社の元同僚から,同社が株式分割を決定した旨や株式分割に先立つ時期の通期個別決算における売上実績が好調である旨の各重要事実について事前に聞き,これを株式取引に利用しようと考えました。Aさんは,両事実が発表される5日前に,同社株式3000株を単価5000円で指値買注文をし,その15日後に同株式1500株を単価1万円で成行売注文をして,1500万円の利益を出しました。
Xさんは,自分の取引行為がインサイダー取引に該当するのではないかと不安に思うようになりました。

インサイダー取引とは?

インサイダー取引とは,金融商品取引法166条に違反する会社関係者による取引で,行為者に対しては5年以下の懲役もしくは500万円以下の罰金,又はその両方が科せられます(同法197条の2)。金融商品取引法166条は,会社関係者が企業の業務に関する重要事実を知って取引することを禁止しています。
関係者の取引を無制限に許していると,内部事情を知っている人が不公正な取引による不正な利益を得てしまうため,規制されています。

「重要事実」の内容についても法令によって列挙されています。その中には,株式の分割も含まれています。
株式分割は,増資を伴わず,発行済みの株式を分割するだけなので,各株主の分割株式数×株価の財産的価値は,分割前のそれと何ら変わりません。業績好調時に,分割前の配当が維持されたままの分割であれば,株式数の増加により実質増配になりますし,株価の単価が下がるため流動性が増すことになります。また,業績好調時に出来高が上がれば,結果として株価を引き上げる重要な結果となり得るので,こうした事実を重要事実として,「株式分割する予定であること」を公表前に知った者の取引が規制されており,まさにインサイダー取引規制の構成要件としては,格となる要素ということができます。

どのようなに発覚するのか

さて、このようなケースは、どのような経緯で発覚するものなのでしょうか。
例えば,冒頭の事例とは異なりますが,犯則嫌疑者が,10年前にY社の株を1000株持っており,この約10年間全く動きがなかったにもかかわらず,Y社において上場廃止基準に抵触する見込みが生じ,その公表の数日前に,証券口座を保有している証券会社に電話をかけ,全ての持ち株を値下がり前に売りつけたような場合,これ自体,実行行為たる取引行為であるとともに,重要事実の知情性がうかがわれせる事実となります。

冒頭の事例でも,結局,株式分割に加え,業績好調の事実の公表直前に,これまで動きのなかった持ち株について突然,1500万円の大金で買い注文を出し,公表後まもなく,取得株式の半分を売りつけて倍額の利益を得ているわけですから,同じことが言えます。
株価急変の原因となる事実の発生と取引の多寡や頻度の関係を調整して曖昧にすれば、より巧妙な取引になりうるわけですが、実際には、重要事実を知ってから判断にあまり時間に余裕がなかったり、安全パイだと思って集中投資をしていたため株価急落の情報に接して狼狽したりすることも少なくなくありません。

いすれにしても、証券取引等監視委員会は、こうした事実に常にアンテナをはっており、これらが調査の端緒となって、その後、取引行為の経緯,取引高,取引状況,利得の程度等が仔細に調査分析されて、最終的には、インサイダー取引の全容が明らかにされていくわけです。
なお,東京証券取引所グループおよび大阪証券取引所をまとめる日本取引所グループHPにも,インサイダー取引の概要が挙げられています。
監視委員会の調査が入った、質問顛末書をつくられた、あるいは強制調査を受けたなどというときは、一刻も早く弁護士に相談した方がいいでしょう。

インサイダー取引をはじめとした金融商品取引法違反についてはこちらのページでも解説をしています。

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