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取締役等に対する贈賄罪、収賄罪について賄賂が問題になるのは公務員だけではないの?

2024-08-02

【事例】

A社の取締役であるXさんは、下請け業者のB社のYさんから、自分を優遇してもらうことをお願いされて100万円の金銭を受け取りました。
そしてXさんはYさんが自宅を購入するための資金に困った際に、A社名義でYさんにとって非常に有利な条件で多額の融資をしていました。

取締役がお金を受け取っても収賄罪が成立するの?

以前の記事では公務員に対する贈収賄罪や官製談合防止法違反の対応について解説しました。
しかし、取締役などの会社役員であっても職務に関して金品を受け取るなどした場合に刑事責任を負う可能性があることはあまり知られていないかもしれません。

確かに刑法上の贈賄罪や、収賄罪は主体や客体が公務員に限定されています。
したがって事例のようなケースでも刑法上の収賄罪は成立しません。
但し会社法には、取締役などの会社役員について贈収賄の規定があり刑事罰も規定されています。以下に条文を紹介します。

会社法第967条(取締役の贈収賄)

1 次に掲げる者が、その職務に関し、不正の請託を受けて、財産上の利益を収受し、又はその要求若しくは約束をしたときは、5年以下の懲役又は500万円以下の罰金に処する。
一 第960条第1項各号又は第2項各号に掲げる者
二 第961条に規定する者
三 会計監査人又は第346条第4項の規定により選任された一時会計監査人の職務を行うべき者
2 前項の利益を供与し、又はその申込み若しくは約束をした者は、3年以下の懲役又は300万円以下の罰金に処する。

この条文にある会社法960条、961条に掲げる者には取締役や監査役などの会社役員が含まれます(詳しくは会社法960条、961条をご確認ください)。

ではこの条文の規定する内容について、刑法上の贈収賄罪との違いはあるでしょうか。

会社法の贈収賄と刑法上の贈収賄との比較

では比較するために刑法上の収賄罪の条文を以下にあげます。

刑法第197条 
公務員が、その職務に関し、賄賂を収受し、又はその要求若しくは約束をしたときは、五年以下の懲役に処する。
この場合において、請託を受けたときは、七年以下の懲役に処する。

まず、公務員を規定する刑法の場合は「その職務に関し」とのみ規定があります。
請託、すなわち何か具体的なお願いをされた場合については罪を重くする事情であり(この場合より法定刑の重い受託収賄罪が成立します)、請託をされていなくて収賄罪は成立します。

これに対して、会社法の規定では、「その職務に関し、不正の請託を受けて」というように規定されています。
すなわち取締役に収賄罪が成立するのは、不正な請託、本件でいえば不正な条件でお金を貸してほしいなどというお願いがあった場合になります。

また渡すものについても規定が異なっています。
刑法上の収賄罪については「賄賂」と規定されているのに対して、会社法上の収賄罪については「財産上の利益」と規定されています。
刑法上の「賄賂」については、判例上「賄賂の目的物は、有形無形を問わず、人の需要・欲望を満たすに足りる一切の利益を含む」とされており、財産上の利益に限定していません。
したがって、会社法上の「財産上の利益」とは刑法上の「賄賂」より対象を限定しているといえます。

以上のように刑法上の贈収賄と会社法上の贈収賄では成立する範囲について違いがあります。

今回の記事では取締役が会社の職務に関して金品を受け取った場合にも収賄罪が成立する場合があること、刑法上の収賄罪との成立範囲の違いについて解説しました。

次回の記事では事例のようなケースが明らかになった場合に、会社が取るべき対応について解説させていただきます。

社内調査におけるヒヤリングの留意点③

2024-07-30

社内調査におけるヒヤリングの留意点について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が解説します。

そもそも社内調査とは何か

社内調査とは、一般に、企業内で業務に関し、社員による違法行為や不適切な行為(以下、まとめて「不正行為」と呼びます。)が行われた場合、あるいはその疑いが生じた場合に、企業が主催者となって実施する調査のことをいいます。

社内調査におけるヒヤリングの意味

社内調査のためには、事案に関連する資料を当該部署から収集し、確認をするほか、最も重要なものとして、社員に対するヒヤリングの実施があります。

企業で不正行為が行われ、またその疑いがある場合に、事実関係を解明するため、事情を知っている関係者のヒヤリングを実施することは必要不可欠です。

今回は、企業が、不正行為を行った疑いのある社員(嫌疑者)に対するヒヤリングを実施する際の留意点について解説します。

嫌疑者に対するヒヤリングの持つ意味

社内調査は、不正行為の事実関係を解明し、不正を行った者を突き止め、この者に対する各種処分等を通じて、企業が自浄能力を発揮し、新たな体制を整える基礎をつくるために実施されるものです。

したがって、事案に関連する資料の分析や関係者に対するヒヤリング等から不正行為を行った疑いのある社員(嫌疑者)が特定された場合、嫌疑者が最終的に不正を行ったことを自白してくれれば、社内調査の目的はほぼ達成されたといえます。

しかし、前々回でお話ししたように、企業による社内調査では、刑事事件の捜査で認められているような強制的な調査権限が与えられているわけではありませんし、時間的な制約がある場合もありますから、社内調査にはそもそも限界があります。この点が社内調査の難しいところです。

嫌疑者に対するヒヤリングを行う際の留意点

まず最初に、嫌疑者に対するヒヤリングでは、最初は、手の内を見せずに、相手の言うことを否定せずに自由に話をさせることが効果的な場合が多いといえます。
この方法であれば、嫌疑者が真相を語っていない場合、証言に矛盾が出てくることも多く、事後に客観的な証拠と照らし合わせて追及することで自白に導けることがあります。

また、ヒヤリングをする側も結論ありきで話をしないこと、すなわち、思い込みは禁物です。他の証拠から不正行為の事実関係を推測し解明していくことは重要ですが、ヒヤリングの最初から結論ありきで質問した場合、せっかく嫌疑者が正直に真相を語ろうとしているのに、反発心が生じてかえって口を閉ざしてしまうなど、弊害が起きる場合があります。
思い込みが強すぎますと、それに合致する都合のよい証拠しか目に入らなくなるおそれがあり、真相を見誤ることにもなりかねません。

次に、嫌疑者は精神的に非常に不安定になっている場合も多く、嫌疑者を精神的に威圧するなど、精神的に追い込むことはNGです。あくまで冷静に証拠に基づき論理的に自白を導くことが基本です。「素直に認めないとクビにするぞ(あるいは、刑事告訴するぞ)。」などと圧力をかけて供述を引き出すことは企業の社内調査として行ってはいけないことであり、そのような手法によって嫌疑者が仮に自白したとしても証言の信用性に疑義が生じることになります。他方、嫌疑者が虚偽の弁解を繰り返し続ける場合には、虚偽の弁解を続けることは情状が悪くなること、事実関係を正直に話せば懲戒解雇は免れる可能性があることなどを指摘し、正直に供述し事実を認めるよう促すことは必要かつ有効です。

最後に

社内調査をする際には、人証(関係者へのヒアリングなど)と物証(事案に関連する資料)の両方を調べることが必要となり、必要に応じて外部の専門家を利用することも考えられます。

事実を明らかにするためには、どれだけ証拠を集められるかが重要です。調査に慣れている弁護士に依頼して、社内の担当者と一緒に進めていくのがベストといえるでしょう。

コンプライアンス体制の構築⑦

2024-07-26

【事例】

Aさんは、佐賀県唐津市で水産加工業を営む会社であるⅩ社の従業員です。
Ⅹ社では、インターネットでの通販を利用して自社の水産加工品を日本全国に販売することを目指しています。
しかし、Ⅹ社は、これまで自社の直売所での販売と地元の小売店への販売しかしていませんでした。
そのため、インターネット通販のサイトを開設する必要もあると考えていますし、購入された水産加工品を安全に消費者に届けなければいけませんし、消費者への輸送手段も確保せねばなりません。
また、事業拡大のために、銀行から融資も受けなければなりません。
このような山積する課題に対応する一環として、Ⅹ社では法務部を新設することになり、Aさんがそこの責任者となりました。
Aさんが法務部の責任者として最初に会社から指示された仕事は、X社のコンプライアンス体制を構築することでした。
しかし、Aさんは弁護士資格を有しているわけではありませんでした。
また、X社にはこれまで顧問として付いてもらっていた弁護士もいません。
そこで、Aさんは、Ⅹ社のコンプライアンス体制を構築するにあたって、あいち刑事事件総合法律事務所に相談することにしました。※解説事例についてはこちらの記事と同様です。

1 はじめに

以前の記事で、不祥事を予防するために必要なことについて解説してきました。

今回は、不祥事の予防策や対策を講じるのにどのような弁護士に力を借りるのがよいかについて考えていきます。

2 弁護士の種類

昨今、弁護士資格を有する方を雇用される企業も増えてきています(いわゆるインハウスローヤー)。
そのような企業であれば外部の弁護士に頼る必要が一切ないかといえば、そうとは限りません。
そのようなインハウスローヤーをはじめとする企業内の法務担当者と外部の弁護士の役割の違いについて見ていきましょう。

3 法務担当者の役割

法務担当者の一番の特徴は、その会社の事情に精通しているという点です。
企業の経営戦略やその会社内の事情、例えば、複数の事業のうちどの事業を重視しているのか、これからどの事業を伸ばしていこうと考えているのか、各事業については誰がどの程度精通しているのかなどといったことは、会社の外部の弁護士が一朝一夕で理解できることではありません。そのため、このような社内の事情に基づいた法律的なアドバイスができるというのが法務担当者の特徴、役割になります。

その一方で、企業が日常的に接する法分野以外の知識や経験は不足している場合がありますし、日常的に接する法分野であっても、裁判になった場合にどうなるのか、最新の判例はどうなっているのかなどといったより深い専門知識については不足している場合もあります。
このような場合には外部の弁護士を頼ることが考えられます。

もっとも、外部の弁護士に頼る場合でも、法務担当者が窓口になることで、弁護士が必要としている情報を的確に伝えたり、アドバイスの内容を十全に理解したり、場合によっては弁護士のアドバイスをチェックしたりするなど、外部の弁護士をより活かす役割が期待できます。

4 外部の弁護士の役割

先ほど述べたことの裏返しで、外部弁護士には法務担当者がカバーしきれない分野や専門性に基づいた役割を求めることが考えられます。

また、法務担当者が会社内の事情に精通しているということは、裏を返せば会社内の風土に影響を受けているということでもあります。
しかし、外部の弁護士はあくまで企業外部の人物ですから、中立的な役割を期待することもできます。

参考:告発文書疑惑の兵庫県、公益通報の窓口を外部に設置へ 外部弁護士が対応、匿名性高める 産経新聞

今回は、不祥事の予防策・対策に関して、どのような弁護士の力を借りるかについて解説していきました。この続きは今後の記事で解説していきます。

弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所では、刑事事件に関わってきた経験を活かし、そもそも会社内で不祥事を起こさないための対応・アドバイスにも力を入れています。
コンプライアンス体制の構築などについてアドバイスをご希望の方は、一度、あいち刑事事件総合法律事務所にご相談ください。

お問い合わせはこちらからどうぞ。

コンプライアンス体制の構築⑥

2024-07-23

【事例】
Aさんは、佐賀県唐津市で水産加工業を営む会社であるⅩ社の従業員です。
Ⅹ社では、インターネットでの通販を利用して自社の水産加工品を日本全国に販売することを目指しています。
しかし、Ⅹ社は、これまで自社の直売所での販売と地元の小売店への販売しかしていませんでした。
そのため、インターネット通販のサイトを開設する必要もあると考えていますし、購入された水産加工品を安全に消費者に届けなければいけませんし、消費者への輸送手段も確保せねばなりません。
また、事業拡大のために、銀行から融資も受けなければなりません。
このような山積する課題に対応する一環として、Ⅹ社では法務部を新設することになり、Aさんがそこの責任者となりました。
Aさんが法務部の責任者として最初に会社から指示された仕事は、X社のコンプライアンス体制を構築することでした。
しかし、Aさんは弁護士資格を有しているわけではありませんでした。
また、X社にはこれまで顧問として付いてもらっていた弁護士もいません。
そこで、Aさんは、Ⅹ社のコンプライアンス体制を構築するにあたって、あいち刑事事件総合法律事務所に相談することにしました。

1 はじめに

以前の記事で、法的リスクを細分化して分類することの必要性や、仮にリスクと考えていた自体が実際に起きてしまった場合に、どのように責任を取る必要が生じるのかについて解説してきました。

今回は、不祥事を予防するために必要なことについて考えていきます。

2 組織が変わる必要があること

以前の記事で、コンプライアンス違反の陥りやすい状況について解説していますが、そこからも分かるように、企業風土に根ざしている場合も少なくありません。
不祥事を予防するためには、一部門に任せきりにするのではなく、自社の組織体制を様々な角度から見直し、企業が全体として取り組んでいくことが必要です。

3 予防策のポイント

必要なことの1つ目は、原因の究明です。

これは、事態を起こした個人を特定したり、その個人の責任を追及したりするということではありません。
人の責任を追及するだけでは、どうしても場当たり的な対応になってしまい、適切な予防策を見出すことは難しくなります。
不祥事の再発を防止するという視点からは、個人に注目するのではなく、起きた出来事に注目することが必要です。

2つ目は、企業風土の見直しです。
いわばソフト面を整えるということです。

例えば、企業内の常識と一般常識が乖離している場合、その乖離を是正していくことが必要です。

東洋オンライン 日本の大問題「風土が劣化した、重い組織」5大症状

また、不祥事の隠蔽は最悪の対策の1つです。不祥事を隠すと、発覚した場合の被害は大きくなるばかりですし、改善の機会もなくなってしまいます。責任を問われることをおそれて不祥事を隠すことがないようにしなければなりません。
このような点からすると、組織外に対しても、組織内に対しても、組織は開かれたものに見直す必要があります。

組織外という意味では、組織の行動指針などを社会に公表できるようなものにすれば、それは企業内の常識と一般常識の乖離がない状態でしょう。
また、組織内という意味では、不祥事が起きた場合に現場から経営層に報告が上がるようにする必要があります。

3つ目は、再発防止体制の構築です。
これはいわばハード面を整えるということです。
企業内部の監査体制を構築して不祥事に繋がる事態を察知したり、不祥事が発覚した場合の報告窓口を整備したりすることなどが重要になっていきます。

今回は、不祥事の予防策について解説していきました。この続きは今後の記事で解説していきます。

弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所では、刑事事件に関わってきた経験を活かし、そもそも会社内で不祥事を起こさないための対応・アドバイスにも力を入れています。
コンプライアンス体制の構築などについてアドバイスをご希望の方は、一度、あいち刑事事件総合法律事務所にご相談ください。

コンプライアンス体制の構築⑤

2024-07-19

【事例】

Aさんは、佐賀県唐津市で水産加工業を営む会社であるⅩ社の従業員です。
Ⅹ社では、インターネットでの通販を利用して自社の水産加工品を日本全国に販売することを目指しています。
しかし、Ⅹ社は、これまで自社の直売所での販売と地元の小売店への販売しかしていませんでした。
そのため、インターネット通販のサイトを開設する必要もあると考えていますし、購入された水産加工品を安全に消費者に届けなければいけませんし、消費者への輸送手段も確保せねばなりません。
また、事業拡大のために、銀行から融資も受けなければなりません。
このような山積する課題に対応する一環として、Ⅹ社では法務部を新設することになり、Aさんがそこの責任者となりました。
Aさんが法務部の責任者として最初に会社から指示された仕事は、X社のコンプライアンス体制を構築することでした。
しかし、Aさんは弁護士資格を有しているわけではありませんでした。
また、X社にはこれまで顧問として付いてもらっていた弁護士もいません。
そこで、Aさんは、Ⅹ社のコンプライアンス体制を構築するにあたって、あいち刑事事件総合法律事務所に相談することにしました。

1 はじめに

以前の記事で、法的リスクを細分化し、Ⓐ絶対に取ってはいけないリスクなのか、Ⓑ取ってもいいリスクなのかを判断する必要があるという解説をしてきました。

今回の記事では、仮にリスクと考えていた自体が実際に起きてしまった場合に、どのように責任を取る必要が生じるのかについてみていきます。

2 企業が問われる責任

企業が問われる責任は、大きく分けて4つに分類することができます。

1つ目は民事責任です。
典型的には、契約の内容どおりに行動しなかった場合の債務不履行に基づく損害賠償責任や、契約がなくても、自社の行為によって他者に損害を被らせてしまった場合の損害賠償責任などといった金銭的な支払いが思いつくでしょう。
しかし、それだけにとどまらず、契約の内容どおりに仕事を完遂させる、謝罪広告を掲載するなどといった金銭的な支払い以外もあり得ます。

2つ目は刑事責任です。
個人ではなく企業であっても、犯罪行為をしてしまった場合には処罰されることがあります。
例えば、事業で生じた廃棄物を不法投棄した場合、いわゆる廃棄物処理法違反に該当する場合があります。
また、いわゆる産業スパイなど不正な方法で他社の営業秘密を入手したら不正競争防止法違反に問われる可能性があります。

3つ目は行政責任です。
企業が行う事業は、法律に基づいて官公庁の規制を受けている場合があります。
例えば、建設業を行う場合には、建設業法という法律に基づいて国土交通大臣や都道府県知事から建設業の許可を受けることなどといった規制を受けることになります。

参考:建設業の許可を受けていた会社が廃棄物処理法違反により産廃収集許可を取り消された事例

そのような規制に反してしまった場合、規制に適合するようにという勧告や命令を受ける場合がありますし、場合によっては業務停止などといった処分を受けたり、その事業を行う許可などが取り消されたりする場合があります。

4つ目は社会的責任です。
企業が違反行為をした場合、法律に基づいて官公庁からその内容を公表されてしまうことがあります。
そうでなくても、個人からインターネットで発信されてしまうこともあります。
そのような場合に、企業の評判が下がるなどといった形で責任を負うことがあります。

3 個人が問われる責任

個人であっても、責任を負う場合があります。
こちらも大きく分けると民事責任、刑事責任、労務責任、社会的責任といったものがあります。

民事責任については、例えば会社の備品を盗んだ場合など、企業に対して賠償責任を負う場合もある点に注意が必要です。

労務責任とは、個人は企業と雇用契約を締結し、その企業の就業規則などといった社内のルールに従う必要があります。
そのようなルールに違反した場合、会社内の人事評価が下がることがありますし、場合によっては懲戒解雇などといった懲戒処分を受ける可能性もあります。

今回は、企業や個人が問われる責任について解説していきました。この続きは今後の記事で解説していきます。

弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所では、刑事事件に関わってきた経験を活かし、そもそも会社内で不祥事を起こさないための対応・アドバイスにも力を入れています。
コンプライアンス体制の構築などについてアドバイスをご希望の方は、一度、あいち刑事事件総合法律事務所にご相談ください。

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社内調査におけるヒヤリングの留意点について②

2024-07-16

社内調査におけるヒヤリングの留意点について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が解説します。

そもそも社内調査とは何か

社内調査とは、一般に、企業内で業務に関し、社員による違法行為や不適切な行為(以下、まとめて「不正行為」と呼びます。)が行われた場合、あるいはその疑いが生じた場合に、企業が主催者となって実施する調査のことをいいます。

社内調査におけるヒヤリングの意味

社内調査のためには、事案に関連する資料を当該部署から収集し、確認をするほか、最も重要なものとして、社員に対するヒヤリングの実施があります。
企業で不正行為が行われ、またその疑いがある場合に、事実関係を解明するため、事情を知っている関係者のヒヤリングを実施することは必要不可欠です。
前回は、「企業が社員に対してヒヤリングに応じるよう命じることができるか」について解説しましたが、今回は、企業がヒヤリングを実際に行う際の留意点について解説します。

対象者の選定

まず、社内調査のきっかけとなった申告や初期段階で収集した客観的な証拠などから、ヒヤリングの対象者を選定する必要があります。
ヒヤリングの対象者としては、不正行為を行った疑いのある者(嫌疑者)、不正行為に関係する役員、従業員が中心となりますが、場合によっては、退職者や取引先の担当者等に協力を求めてヒヤリングを実施することもあり得ます。

ヒヤリングを実際に行う際の留意点

まず第1に、社内調査が行われる端緒として、日頃の内部監査、内部通報、外部からの情報提供などがありますが、ヒヤリングの対象者の中に内部通報者等の協力者がいる場合には、この者の保護を図る必要があります。社内において、あたかもその協力者が悪いかのように協力者探しが始まり、その者が社内にいられない事態となれば、今後、内部通報等する者はいなくなってしまいます。そのようなことが起きないよう、協力者の氏名等、協力者が誰であるか特定できるような情報は絶対に秘匿する必要があります。

次に、ヒヤリングにおいては、不正行為の申告者がいればその者から開始し、次いで目撃者等中立的な立場の者、利害関係者の順番で行い、最後に不正行為を行った疑いのある者に対して行うのが通常のパターンといえます。
ヒヤリングを実施することにより、社内調査を行っていることが、ヒヤリングの対象には知られますので、早い段階で不正行為を行った疑いのある者についてヒヤリングを行うと、その者による関係者への働きかけなど、証拠隠滅工作が行われてしまうリスクが大きくなります。
また、既に不正行為の案件が大きく報道されているような事案は別ですが、ヒヤリングは密行的に、かつ、短期間に集中して行う必要があります。ヒヤリングが社内で表立って実施されれば、会社内部で、不正行為の犯人捜しが始まるなど相互不信が生じ、関係者の協力が得られなくなる可能性があります。
実施する期間が長引くほど、不正行為の実行者による罪証隠滅工作が行われるリスクが大きくなってしまいます。

参考報道:NTT西日本子会社の顧客情報900万件流出、社内調査後も対策せず…個人情報を自由に持ち出し

次回は、不正行為を行った疑いのある者(嫌疑者)に対するヒヤリングについて、別個に取り上げて解説します。

最後に

社内調査をする際には、人証(関係者へのヒアリングなど)と物証(事案に関連する資料)の両方を調べることが必要となり、必要に応じて外部の専門家を利用することも考えられます。
事実を明らかにするためには、どれだけ証拠を集められるかが重要です。
調査に慣れている弁護士に依頼して、社内の担当者と一緒に進めていくのがベストといえるでしょう。

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会社内でのパワハラ事案から刑事事件へ?

2024-07-12

会社内でのパワハラ行為が刑事事件に発展する場合はどのような場合か,弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が解説します。

事例

A社ではBさん、Cさんを雇用していて、Bさんが製造課の課長、Cさんが同課の平社員でした。
BさんはCさんに対して、以下のような行為をしていたとして会社に告発がありました。
①BさんはCさんを叱責する際に、Cさんの顔面を殴り全治2週間の打撲傷を負わせました
②BさんはCさんに対して、再三にわたって大声で怒鳴る行為を繰り返しており、Cさんは心療内科でPTSDであると診断されました。
A社の代表取締役はあいち刑事事件総合法律事務所に対して、Bさんの行為が刑事事件になる可能性があるのか、どのように対処するのが良いか相談しました。

今回の記事では上記の事例を用いてパワハラ事案への対応についてあいち刑事事件総合法律事務所の弁護士が解説します。
まずはそれぞれの事例について、どのような犯罪が成立しうるのかという点について解説します。

事例で成立する犯罪について

まず①の事例では、傷害罪(刑法204条)が成立します。顔面を殴るという暴行をして傷害結果を生じせしめていますので傷害罪が成立する典型例になります。
それでは、②の事例ではどのような犯罪が成立するのでしょうか。
結論から言いますと、②の事例についても傷害罪が成立する可能性があります。
傷害罪については刑法204条に定めがあり、「人の身体を傷害した者は、15年以下の懲役刑(2025年より拘禁刑に改正されます)又は50万円以下の罰金に処する」と定められています。

まず②の事例では殴る、蹴るなどのいわゆる暴力をふるっていないので傷害罪にあたらないのではと疑問に思われるかもしれません。
しかしながら、判例では殴る、蹴るなどの被害者に対する暴行がなくても、極端な話をすれば相手に触れていないとしても傷害罪を肯定する場合があるとしています。
例えば、隣家の住人に対してわざと騒音を鳴らして、慢性頭痛を引き起こさせたケースで傷害罪の成立を肯定しています(最決平成17年3月29日,判決の全文は裁判所HPに掲載)。
また判例では、PTSDの発症が、傷害結果の発生にあたるかについても肯定しています(最決平成24年7月24日)
したがって②の事例でも、CさんがPTSDを発症した原因が、Bさんの度重なる怒声が原因であると認められた場合には、傷害罪が成立すると判断される可能性があります。
その他にも、叱責の内容によっては脅迫罪や強要罪などの罪が成立する可能性もあります。
まずは、被害者や加害者、それを目撃した者らから事情を詳細に聴き取る必要があるでしょう。

パワハラの事例に関する対応について

①事実調査

罪の成立に関するところでも解説しましたが、まずは事情や今後の見通しを判断するために関係者らから丁寧に事実の聴き取りを行う必要があります。
その際には会社の関係者であると利害関係が対立してしまうこともあるので弁護士など外部の人間に調査を依頼することが、無用なトラブルを避けるためにも重要であるといえます。

②当事者間での話し合いについて

傷害罪が成立しうるケースでは、被害者は当然刑事告訴をすることも選択肢に入れることが考えられます。
当然被害者の意向が優先されるので刑事告訴をやめさせることはできませんが、刑事告訴された場合には加害者が逮捕される、パワハラ被害が会社内で出たことが報道されるなど会社にとって不利益が生じる可能性が高まります。
ですので当時須夜間の話し合いや、賠償によって解決できるのであれば刑事事件化することなく解決できることが会社にとっては望ましいといえます。
しかしながら当然被害者としては身体的、精神的に傷ついているわけですから、刑事事件の被害者に対応する場合と同様に慎重に対応することが求められます。

③再発防止策

同じようなパワハラ事案が発生しないため、仮に発生してしまったとしても早期に会社に通報が入るようにするために再発防止策の策定が求められます。
これは新たなパワハラ事案の発生防止のためでもありますが、被害者が安心して職場にいれると考え、穏便な解決に納得してもらうためのポイントになる場合もあります。
この対応については内部通報システムや監視システムなどの構築に長けた専門家への依頼をおすすめします。

パワハラ事案への対応はあいち刑事事件総合法律事務所へ

あいち刑事事件総合法律事務所では、これまで数多くの刑事事件・少年事件を扱って参りました。
ですので有事の際の当事者への対応、刑事事件化した場合も見据えた丁寧な聴き取り調査については豊富な経験がございます。
また元検察官、元警察官など様々なバックグラウンドを有する弁護士、専門スタッフがチームで有事の際の対応にあたらせていただきます。
パワハラ事案が発生しその対応にお困りの経営者の方、将来のパワハラ事案発生を防止するための方策にお困りの経営者の方は是非一度ご相談ください。

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【捜査解説】建設仮勘定を利用した不正事案の捜査

2024-07-09

建設仮勘定を利用した不正事案について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が具体例を交えながら詳しく解説します。

建設仮勘定とは、自社で使用する工場などの建物等の建設のために支払った工事費、材料費、労務費などの支出を、その建物等が完成して資産計上されるまでの間、仮に資産として計上するための勘定科目です。

参考:弥生会計 建設仮勘定とは

この建設仮勘定は、あくまで自社で使用する建物等の建設のための支出に計上される勘定科目ですが、これを悪用すると、費用としてではなく、流動資産として計上できる上、建物等の建設であることから金額が高額となるため、建設仮勘定を不正会計の手段として使用することがよくあります。

例えば、ある不動産会社では、実績をあげるために無理に値引きをした受注や手直し工事等による原価率の悪化を隠ぺいするために、それらの物件を建設仮勘定に振り返るなどの不正経理がなされていたり、ある製造会社では、既に完成して使用されていた倉庫について建設仮勘定から本勘定に振替がなされないまま減価償却がされずにいた、あるいは、土地の購入のための手付金として支出していた金額を仮勘定として計上していたものの、土地購入の相手方は実在せずに書類が偽造されていたものなどの様々な事案があります。

こうしたことから、捜査官としては、建設仮勘定の特性を踏まえ、この勘定科目による不自然な振替などの帳簿操作に目を光らせます。

捜査官は、帳簿捜査により、建設仮勘定の計上に気付くと、まずはその計上についての内訳をよく検討し、自社のものではなく顧客から受注を受けるなどしたものが混入して計上されていないか、自社のものであるとして既に完成して引き渡しを受けているのにこれを本勘定に振り替えず、減価償却費の計上を先送りして資産を過大に計上していないか、そもそも建設仮勘定に計上することが相当でない支出はないか、建物等の建設の工事は実際に存在しているのか、建設仮勘定に係る契約書類等は偽造されたものではないかなどの様々な観点から検討し、証拠を収集保全してきます。

こうした不正経理に関する事案に対応するためには、企業法務のみならず会計等についても高度な専門性・技術性を要し、これらのことに精通した弁護士に依頼することが必要となります。

あいち刑事事件総合法律事務所には、これらのことに精通した弁護士が多数在籍しております。このような事態にいたったときは、是非、弊所にご相談ください。

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不祥事発生時における広報対応の留意点について①

2024-07-05

企業内部で不祥事が発生した場合における広報対応の留意点について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が解説します。

そもそも広報とは

広報とは、企業が社会の人々に向けて企業の情報を発信することです。

不祥事が発生した場合の広報対応

企業内で不祥事が発生したとき、特にそれが犯罪に関わるときには、新聞報道されたり、インターネット上で掲載されるなどして、不特定多数の人々に知られてしまう場合があります。
その際、企業側に取材がなされ、時には、記者会見を実施する必要が生じるかもしれません。メディアからの取材依頼は基本的に広報が担当します。
今回は、企業内部で不祥事が発生した場合における広報対応(危機管理広報)の重要性について解説します。

不祥事発生時における広報対応(危機管理広報)の重要性

企業内の不祥事について、その情報がいったん世に出てしまえば、出回った情報の全てを削除することは不可能です。とくに、現在では、SNSの普及等により、企業内部で起きた不祥事であっても、企業外部に漏れるリスクは従前よりも格段に高まっているといえます。
それゆえ、昨今、不祥事発生時における広報対応(危機管理広報)の重要性が増しています。ひとたび、企業の評価や評判を毀損する重大な不祥事が発生し、これに対する対応を誤れば、大変な事態に陥る可能性があります。
広報対応を誤ったがゆえに、社会的非難を増幅させ、問題を不必要に大きくしてしまった事例は枚挙に暇がありません。

参考:2023年評判を落とした不祥事ランキング 月刊『広報会議』調べ

不祥事に関する情報は企業の価値を低下させますが、消費者を始めとしたステークホルダー(日本語で「利害関係者」を意味します。)は当然のことながら企業に不信の目を向けるようになります。また、場合によっては、不買運動に発展し、多大な経済的損失を被ってしまうことになります。そればかりか、その企業自体の社員の士気低下、優秀な人材の流出などが生じ得ます。対応を誤れば企業の死命をも決しかねず、企業倒産まであり得ることを強く意識する必要があります。

そこで、企業としては、不祥事が企業外部に発覚してしまったことによる企業の信用失墜のリスクをどのようにして防ぐか、あるいはどのようにして最小限度にとどめるか、検討する必要があります。
信用を築くには、長い時間をかけて大変な努力、労力が必要ですが、信用を失うのは一瞬で足ります。企業は、評価や評判が低下することを食い止め、速やかに信用回復を実現させる必要があります。そのために、迅速かつ適切な対応が必要になるのです。
次回からは、不祥事発生時における広報対応(危機管理広報)についてその具体的な手順等について解説していきます。

最後に

あいち刑事事件総合法律事務所には刑事弁護・加害者弁護に強いバックグラウンドを持つ,企業法務の経験豊富な弁護士が多数在籍しています。企業不祥事を防ぎたい場合や体制を見直したい場合、あるいは、企業不祥事が発生してお困りの際は、あいち刑事事件総合法律事務所までご相談ください。

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企業と下請法違反

2024-07-04

自動車会社が下請けの会社に不当に価格引き下げを迫っていたことがニュースとなり、問題となっています。この事案は下請法違反とされています。ここでは、下請法について解説します。

下請法の正式名称は下請代金支払遅延等防止法(下請法)といい,「下請代金の支払遅延等を防止することによつて、親事業者の下請事業者に対する取引を公正ならしめるとともに、下請事業者の利益を保護し、もつて国民経済の健全な発達に寄与することを目的」としています(第1条)。

下請法上の定義・適用範囲

下請法の対象となる下請事業は、製造委託、修理委託、情報成果物作成委託及び役務提供委託です(第2条第1項から第4項。これらをまとめて「製造委託等」といいます。第2条第5項)。

下請法の「親事業者」は以下の事業者に該当する者です(第2条第8項)。

一 資本金の額又は出資の総額が三億円を超える法人たる事業者(政府契約の支払遅延防止等に関する法律(昭和二十四年法律第二百五十六号)第十四条に規定する者を除く。)であつて、個人又は資本金の額若しくは出資の総額が三億円以下の法人たる事業者に対し製造委託等(情報成果物作成委託及び役務提供委託にあつては、それぞれ政令で定める情報成果物及び役務に係るものに限る。次号並びに次項第一号及び第二号において同じ。)をするもの
二 資本金の額又は出資の総額が千万円を超え三億円以下の法人たる事業者(政府契約の支払遅延防止等に関する法律第十四条に規定する者を除く。)であつて、個人又は資本金の額若しくは出資の総額が千万円以下の法人たる事業者に対し製造委託等をするもの
三 資本金の額又は出資の総額が五千万円を超える法人たる事業者(政府契約の支払遅延防止等に関する法律第十四条に規定する者を除く。)であつて、個人又は資本金の額若しくは出資の総額が五千万円以下の法人たる事業者に対し情報成果物作成委託又は役務提供委託(それぞれ第一号の政令で定める情報成果物又は役務に係るものを除く。次号並びに次項第三号及び第四号において同じ。)をするもの
四 資本金の額又は出資の総額が千万円を超え五千万円以下の法人たる事業者(政府契約の支払遅延防止等に関する法律第十四条に規定する者を除く。)であつて、個人又は資本金の額若しくは出資の総額が千万円以下の法人たる事業者に対し情報成果物作成委託又は役務提供委託をするもの
また、下請法の「下請事業者」は、次のいずれかに該当する者です。
一 個人又は資本金の額若しくは出資の総額が三億円以下の法人たる事業者であつて、前項第一号に規定する親事業者から製造委託等を受けるもの
二 個人又は資本金の額若しくは出資の総額が千万円以下の法人たる事業者であつて、前項第二号に規定する親事業者から製造委託等を受けるもの
三 個人又は資本金の額若しくは出資の総額が五千万円以下の法人たる事業者であつて、前項第三号に規定する親事業者から情報成果物作成委託又は役務提供委託を受けるもの
四 個人又は資本金の額若しくは出資の総額が千万円以下の法人たる事業者であつて、前項第四号に規定する親事業者から情報成果物作成委託又は役務提供委託を受けるもの

情報成果物作成委託及び役務提供委託の一部については、下請代金支払遅延等防止法施行令(下請法施行令)において下請法の適用対象となる資本金の規模について異なる定めがなされています。
情報成果物ではプログラム(下請法施行令第1条第1項)、役務では①運送、②物品の倉庫における保管、③情報処理、です(下請法施行令第1条第2項)。

まとめますと、下請法が適用されるのは、以下の場合です。

⑴情報成果物がプログラム、役務が運送、物品の倉庫における保管又は情報処理である情報成果物作成委託又は役務提供委託契約については、
①資本金の額又は出資の総額が五千万円を超える法人である事業者が、個人又は資本金の額若しくは出資の総額が五千万円以下の法人である事業者に対し委託する場合
②資本金の額又は出資の総額が千万円を超え五千万円以下の法人である事業者が、個人又は資本金の額若しくは出資の総額が千万円以下の法人たる事業者に対し委託する場合
⑵⑴以外の製造委託、修理委託、情報成果物作成委託及び役務提供委託契約については、
①資本金の額又は出資の総額が三億円を超える法人である事業者が、個人又は資本金の額若しくは出資の総額が三億円以下の法人である事業者に対し委託する場合
②資本金の額又は出資の総額が千万円を超え三億円以下の法人である事業者が、個人又は資本金の額若しくは出資の総額が千万円以下の法人たる事業者に対し委託する場合

下請法上の義務

親事業者は、下請事業者に対し製造委託等をした場合は、直ちに、公正取引委員会規則で定めるところにより下請事業者の給付の内容、下請代金の額、支払期日及び支払方法その他の事項を記載した書面を下請事業者に交付しなければなりません(下請法第3条第1項)。これらの事項のうちその内容が定められないことにつき正当な理由があるものについては、この書面には記載しないこともできますが、親事業者は、当該事項の内容が定められた後直ちに、当該事項を記載した書面を下請事業者に交付しなければなりません(同項但し書き)。
この書面は「3条書面」と呼ばれています。
また、親事業者は、下請事業者に対し製造等委託をした場合は、次の行為をしてはならないとされています(下請法第4条第1項。役務を提供したら委託業務が終了する役務提供委託の場合は、①と④は除きます)。

① 下請事業者の責に帰すべき理由がないのに、下請事業者の給付の受領を拒むこと。
② 下請代金をその支払期日の経過後なお支払わないこと。
③ 下請事業者の責に帰すべき理由がないのに、下請代金の額を減ずること。
④ 下請事業者の責に帰すべき理由がないのに、下請事業者の給付を受領した後、下請事業者にその給付に係る物を引き取らせること。
⑤ 下請事業者の給付の内容と同種又は類似の内容の給付に対し通常支払われる対価に比し著しく低い下請代金の額を不当に定めること。
⑥ 下請事業者の給付の内容を均質にし又はその改善を図るため必要がある場合その他正当な理由がある場合を除き、自己の指定する物を強制して購入させ、又は役務を強制して利用させること。
⑦ 親事業者が第一号若しくは第二号に掲げる行為をしている場合若しくは第三号から前号までに掲げる行為をした場合又は親事業者について次項各号の一に該当する事実があると認められる場合に下請事業者が公正取引委員会又は中小企業庁長官に対しその事実を知らせたことを理由として、取引の数量を減じ、取引を停止し、その他不利益な取扱いをすること。

親事業者は、下請事業者に対し製造委託等をした場合は、「下請代金支払遅延等防止法第5条の書類又は電磁的記録の作成及び保存に関する規則」で定めるところにより、下請事業者の給付、給付の受領(役務提供委託の場合は、下請事業者がした役務を提供する行為の実施)、下請代金の支払その他の事項について記載し又は記録した書類又は電磁的記録を作成し、これを保存しなければなりません(下請法第5条)。
記載又は記録しなければならないのは、商号などの下請事業者を識別できる情報、給付の内容及びその給付を受領する期日、など多岐にわたります。

中小企業庁長官の調査及び請求

中小企業庁長官は、親事業者が第4条に掲げる行為をしたり該当する事実があるかを調査し、その事実があると認めるときは、公正取引委員会に対し、この法律の規定に従い適当な措置をとるべきことを求めることができます(下請法第6条)。

公正取引委員会の勧告

公正取引委員会は、親事業者が第四条に掲げる行為をしていると認めるときは、それぞれの行為に応じて、給付受領や減額した代金額の支払い、等の必要な是正措置をとるべきことを勧告するものとされています(下請法第7条第1項から第3項)。
また、公正取引委員会は、原則として、企業名を出して、違反事実の概要やこの勧告の概要を公表します。

公正取引委員会による下請法勧告一覧

報告及び検査

公正取引委員会は、親事業者の下請事業者に対する製造委託等に関する取引(以下単に「取引」という。)を公正ならしめるため必要があると認めるときは、親事業者若しくは下請事業者に対しその取引に関する報告をさせ、又はその職員に親事業者若しくは下請事業者の事務所若しくは事業所に立ち入り、帳簿書類その他の物件を検査させることができます(下請法第9条第1項)。
中小企業庁長官は、利益を保護するため特に必要があると認めるときは、親事業者若しくは下請事業者に対しその取引に関する報告をさせ、又はその職員に親事業者若しくは下請事業者の事務所若しくは事業所に立ち入り、帳簿書類その他の物件を検査させることができます(同条第2項)。
親事業者又は下請事業者の営む事業を所管する主務大臣は、中小企業庁長官の第六条の規定による調査に協力するため特に必要があると認めるときは、所管事業を営む親事業者若しくは下請事業者に対しその取引に関する報告をさせ、又はその職員にこれらの者の事務所若しくは事業所に立ち入り、帳簿書類その他の物件を検査させることができます(同条第3項)。

下請法違反の罰則

以上のように、下請法では親事業者がしてはいけないことが定められていますが、違反をした場合にすべて刑罰を科されるわけではありません。
3条書面を交付しなかった場合(下請法第10条第1号)、5条に規定する書類若しくは電磁的記録を作成せず、若しくは保存せず、又は虚偽の書類若しくは電磁的記録を作成した場合(第10条第2号)、その違反行為をした親事業者の代表者、代理人、使用人その他の従業者は、50万円以下の罰金に処されます(第10条柱書)。
また、第9条第1項から第3項までの規定による報告をせず、若しくは虚偽の報告をし、又は検査を拒み、妨げ、若しくは忌避した者は、50万円以下の罰金に処されます(第11条)。
法人の代表者などがこれらの違反行為をしたときは、行為者を罰するだけでなく、法人も同じく罰金刑に処されます(第12条)。

社会的制裁

以上のように、受領拒否や代金の減額があったからといって刑事罰を科されるわけではありません。
しかしながら、冒頭の事例のように、下請法違反の行為があったと認定されれば勧告を受けるだけでなくその事実が公表されます。さらにその後報道されて、厳しい社会的批判を受けることになるでしょう。

まとめ

以上のように、下請法には様々な規制があり、違反があれば法的にも社会的にも厳しい制裁があります。下請法についてお悩みの方は、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所へご相談ください。

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