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「営業秘密」の裁判例解説②

本記事では、横浜地裁平成26年(わ)1529号平成28年10月31日判決について解説します。この判決については、控訴上告されていますが、有罪無罪の結論自体に変更はありません。
本件は、被告人が不正競争防止法で禁止されている営業秘密の領得を犯したものとして起訴されたものの、一部について有罪、一部について無罪となった事件です。このような結論が出ている判決をよく読むと、なぜ一部については有罪になるのに他は無罪となるのかが解ります。それが解ると、営業秘密を守るためには企業がどうするべきなのかも解ります。
本件を簡単にいうと、自動車会社A社で働いていた被告人は、サーバーコンピューターに保存された営業秘密データを複製して持ち出したというデータ領得行為と営業秘密が含まれた教本を持ち出した複製して持ち出したという教本領得行為で起訴されました。
データ領得行為については、営業秘密であるデータを不正の目的で持ち出したものだと認定されて有罪となっています。一方、教本領得行為については、秘密として管理されていたとはいえないとして無罪となりました。
では、なぜデータは営業秘密なのに、教本は営業秘密と認められなかったのでしょうか?
前回の記事では、データ領得行為について有罪となった過程について説明しました。その記事は以下のリンクから確認できます。
今回は、教本領得行為が無罪となった理由を確認します。
結論からいうと、領得された教本が営業秘密に該当するとはいえないという理由から無罪となりました。
では、なぜ営業秘密と認定されなかったのでしょうか。確認していきます。
(1)裁判所の認定によると、教本は次のような管理の仕方で保管されていました。
・教本は、閲覧コーナーに、他の本と共に、表紙の全部又は一部が見えるように展示されていた。
・閲覧コーナーには監視員はおらず、周囲に監視をすることが可能な職員もいなかった。
・教本を紐や鎖でオープンラックとつなげるような措置もなく、閲覧するために氏名等を記載するなどの手続もなく、館内に入った人は誰でも自由に手に取って閲覧することができ、メモをすることも禁止されていなかった。
・教本は若手従業員の育成講座のテキストとして使用され、受講者には終了後に教本が配布され、持ち帰りも許されていた。
(2)本件教本には、社外秘であることを表す文字のスタンプが押されていた。
(3)(1)の事情を踏まえると、(2)があっても営業秘密として合理的な方法で管理されていたとはいえない。
以上の理由から、教本についてはそもそも営業秘密と認めるだけの管理がされていないことから営業秘密として認められなかったのです。
データ領得行為と教本領得行為とで結論が異なった理由から、営業秘密として保護を得るための管理体制について一定の方向性を考えることができます。
まず当然のことながら、社外秘であることを示すマークなりスタンプなりは最低限必要なのでしょうが、それだけで営業秘密と取り扱ってもらえるわけではないようです。
誰がそれを見てよいのか明確に示すこと、誰が確認したのか記録を残すことができるようにすること、他の秘密でないものと適切に分けて管理すること、こういった事情が必要になってくるといえます。
具体的な事件や営業秘密の保護・整理について担当部門の方はこちらからお問い合わせください。
取締役等に対する贈賄罪、収賄罪について

取締役等に対する贈賄罪、収賄罪で自社の取締役が金銭を受け取っていた際の対応を弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が解説します。
参考報道:東京女子医大を家宅捜索 特別背任容疑、同窓会が実態ない職員に給与
【事例】
A社の取締役であるXさんは、下請け業者のB社のYさんから、自分を優遇してもらうことをお願いされて100万円の金銭を受け取りました。
そしてXさんはYさんが自宅を購入するための資金に困った際に、A社名義でYさんにとって非常に有利な条件で多額の融資をしていました。
以前の記事では取締役が職務に関し金銭を受け取った場合に成立する罪や、成立する要件について解説しました。
今回の記事では、事例のようなケースが発覚した場合の対応について解説します。
1 事実の調査について
事例のようなケースが発覚するのは、事情を知った者からの内部または外部通報によることが多いと思われます。
そのような通報があった場合はまずは当事者に事情を確認して、事実関係を詳細にかつ正確に把握することが重要になります。
以前の記事で解説したように、会社役員の収賄罪については、公務員の収賄罪とは要件が一部異なります。
受け取った金銭が何か職務上の請託を受けてされたものなのか、受け取った利益に関する証拠があるのかなど、当事者の証言や客観的証拠を踏まえて会社法に違反するような事実があるのかについて確認をする必要があります。
会社法に違反するのは以前の記事で説明した収賄だけではありません。
本件事例においては、Yさんに対してXさんが不正な融資を行ったことについて特別背任にあたる可能性があります。
特別背任については会社法960条に規定があります。
会社法第960条
次に掲げる者が、自己若しくは第三者の利益を図り又は株式会社に損害を加える目的で、その任務に背く行為をし、当該株式会社に財産上の損害を加えたときは、10年以下の懲役若しくは1,000万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
一 発起人
二 設立時取締役又は設立時監査役
三 取締役、会計参与、監査役又は執行役
四 民事保全法第56条に規定する仮処分命令により選任された取締役、監査役又は執行役の職務を代行する者
五 第346条第2項、第351条第2項又は第401条第3項(第403条第3項及び第420条第3項において準用する場合を含む。)の規定により選任された一時取締役(監査等委員会設置会社にあっては、監査等委員である取締役又はそれ以外の取締役)、会計参与、監査役、代表取締役、委員(指名委員会、監査委員会又は報酬委員会の委員をいう。)、執行役又は代表執行役の職務を行うべき者
六 支配人
七 事業に関するある種類又は特定の事項の委任を受けた使用人
八 検査役
明らかに会社の損害にあたるような不正融資(例:返済原資のないものへの無担保での貸し付け)については、事前に金銭の収受などがなくとも特別背任にあたり刑事責任を負う可能性があります。
収賄という形で通報があったとしても、特別背任などほかの罪に当たる可能性はないかなど多角的な視点で調査することが重要になります。
そのような調査を行うためには、法的知識に詳しいものも含めた調査チームを作ることが重要になります。
2 当事者への責任追及
仮に会社法違反であることが明らかになった場合には当事者に対しての責任追及について考える必要があります。
収賄や特別背任については刑罰が予定されているので警察に届け出ることが適当かとは思いますが問題は単純ではありません。
事件の内容的に会社の評判や株主の利益にも関わる事態なのでどのように対処するかは様々な視点から考える必要があります。
会社法にも会社から取締役への責任追及(例:取締役の解任請求)や、株主から取締役への責任追及(例:損害賠償請求)など様々な規定が置かれていますので会社としても当該事例にや会社の置かれている状況などに応じて適切な対処をする必要があります。
対処方法の選択や対処の進め方についても専門家である弁護士に相談しながら進めることをおすすめします
3 再発防止策の策定
事件の処理が終了したとしても、今後事例のような事態が発生しないように再発防止策を策定することは、会社の信頼回復や今後の会社経営において重要な課題になります。
内部通報制度の充実や、取締役等の会社役員のコンプライアンス体制の確立などを検討する必要があります。
不祥事対応,企業犯罪についてお困りの方は弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所にご相談ください。お問い合わせはこちらからどうぞ。
「営業秘密」の裁判例解説

本記事では、横浜地裁平成26年(わ)1529号平成28年10月31日判決について解説します。この判決については、控訴上告されていますが、有罪無罪の結論自体に変更はありません。
本件は、被告人が不正競争防止法で禁止されている営業秘密の領得を犯したものとして起訴されたものの、一部について有罪、一部について無罪となった事件です。このような結論が出ている判決をよく読むと、なぜ一部については有罪になるのに他は無罪となるのかが解ります。それが解ると、営業秘密を守るためには企業がどうするべきなのかも解ります。
参考報道 「ギャラ」「NG」芸能人の営業秘密持ち出し疑い 会社員の男を逮捕 朝日新聞
本件を簡単にいうと、自動車会社A社で働いていた被告人は、サーバーコンピューターに保存された営業秘密データを複製して持ち出したというデータ領得行為と,営業秘密が含まれた教本を複製して持ち出したという教本領得行為で起訴されました。
データ領得行為については、営業秘密であるデータを不正の目的で持ち出したものだと認定されて有罪となっています。一方、教本領得行為については、秘密として管理されていたとはいえないとして無罪となりました。
では、なぜデータは営業秘密なのに、教本は営業秘密と認められなかったのでしょうか?
データが営業秘密と認定された根拠
判決文「第3 本件各データファイルの営業秘密該当性及びその点に関する被告人の認識について」に詳しい説明がありますので、裁判所が根拠として挙げた事項を確認します。
- データファイルの内容が会社の事業活動にとって有用であったこと。例えば、未発表の製品の仕様が入力されていたり、独自に開発された販売台数を予測するためのシステムツールの使用マニュアルなどが含まれていたようです。
- データファイルに秘匿性が認められること。(1)のデータの有用性を踏まえると、これらデータが漏出した場合、会社の競争力等に影響が生じることから、秘匿性も認められています。
- データファイルへのアクセス制限が行われていたこと。例えば会社の中でも業務に必要なものにしかアクセスすることができないようになっていたことや従業員に対する指導が行われていたことなどが挙げられています。
- 弁護人は、営業秘密と解るようなラベリングがされていないものがあることや宴会の写真など明らかに営業秘密と関係のないものもデータファイルに入っていたことを指摘して、営業秘密該当性を争いましたが、(1)~(3)の状況を踏まえると、必ずしも管理が徹底されていない部分もあったが、営業秘密該当性が否定されることはありませんでした。
以上が、今回の判決のうち、データ領得行為が有罪となった簡単な理由です。
次回、教本領得行為が無罪となった理由を説明しますので、次の記事をご覧ください。
具体的な事件や営業秘密の保護・整理について担当部門の方はこちらからお問い合わせください。
建設業法に違反して行政指導を受けた場合の対応②

【事例】
X社はY県から建設業の許可を得て住宅の工事等を行う会社です。
X社では多くの仕事を受注するために下請けに対して、非常に厳しい工期を定めて工事を任せるということを常習的に行っていました。
そのことが内部告発により、Y県の担当者に知れることになり建設業法違反により立ち入り調査が行われました。
立ち入り調査の結果著しく短い工期を強いていたとしてX社は、工期の設定に関し是正するように行政指導を受けました。
突然行政指導を受けたことに驚いたX社のA社長は今後の対応に関してあいち刑事事件総合法律事務所の弁護士に相談しました
前回の事例では行政指導やその後に続く行政処分の意義について解説しました。
今回の記事では事例のような事態が生じた場合における対応について解説します。
1 立入検査への対応
立入検査は建設業法違反が行政機関側に発覚した場合に行われる場合があります。
立入検査が行われる場合には建設業法に基づく立ち入り検査を行う旨の通知が届くことがあります。
立ち入り検査が実施されると、国土交通省の検査職員が事業所に来ますので、検査当日に関係資料を確認できるよう事前に準備をしておく必要があります。
対応についても注意が必要です。
まず虚偽の説明は決してするべきではありません。発覚した場合に悪質性が高いとして直ちに行政処分を受ける場合があるからです。
また書類の偽造などは刑事罰が科される可能性が高いので決してしてはいけません。
その上で、立入検査時の質問対応が重要になります。
建設業法違反の疑いがかかっているといっても、疑われている事実に誤りがある場合や法令解釈に誤りがある場合もあります。
その場合は適切に反論することで疑いが晴れて行政指導や行政処分をを受けずに済む場合もあります。
法律や事実認定のプロである弁護士に立会いを依頼して、検査時の質問に適切に対応できる体制を整えておくことをおすすめします。
2 行政指導に対する報告書の作成
立入検査があった後に建設業法違反の事実が明らかになった場合には、違反の有無や程度により異なりますが、国土交通省から再発防止に向けた勧告や改善措置の内容を書面で報告するように言われることがあります。
これを行政上の勧告と言います。これに対しても適切な対応が求められます。
行政側との担当者とも協議しながら必要十分な内容で改善状況報告書が作成できるように、また必要な資料を準備できるように経験豊富な弁護士が対応することが望ましいでしょう。
3 再発防止策の策定のサポート
再発防止策のサポートについては今後同じような法令違反がないようにすることはもちろん、典型的な事例で法令違反がないように対策することが望ましいといえます。
その際に参考になるのが国土交通省が公開している、建設業法令順守ガイドライン(https://www.mlit.go.jp/totikensangyo/const/1_6_bt_000188.html)です。
これを基に会社の法令チェック体制や従業員への指導マニュアルを改訂することで再発防止につながるといえます。
法令を扱うということで法律の専門家にアドバイスしてほしい、指導マニュアル等の作成を依頼したいという場合は是非一度弁護士にご相談ください。
4 処分に対する審査請求
行政指導を受けてもその内容に問題があると考える場合には、敢えて行政指導に従わない場合もあるかもしれません。
その上で行政処分を受けてしまった場合には、その処分に対して争うことになります。
処分内容に納得がいかない場合には、再調査請求を検討したり、審査請求という形で不服申し立てをすることが考えられます。
審査請求をする場合には、当該処分内容がどのような理由で(法律解釈に問題があるのか、事実認定に問題があるのか、処分が重すぎるのかなど)不当であるかを法的根拠を持って主張する必要があります。
この場合も法律のプロである弁護士に相談することが望ましいといえます。
このように行政指導を受けた場合、建設業法違反が指摘された場合に必要な対応は非常に多岐にわたります。
このような事態になってお困りの方、行政指導を受けることがないように会社の体制を見直したい方は是一度ご相談ください。
建設業法違反の事例も多く扱ってきたあいち刑事事件総合法律事務所の弁護士が初回無料で対応させていただきます。
継続的な対応をご希望の方には顧問契約も準備しております。
お問い合わせはこちらからどうぞ。
外国人の不法就労について

外国人が適正に就労できるよう、外国人の雇用についても厳格な規制が設けられています。就労資格のない外国人を日本の企業が雇用した場合、その外国人だけでなく雇用した個人や企業も処罰を受けます。ここでは、外国人を不法就労した場合の処罰について解説します。
外国人の不法就労活動
本邦に在留する外国人は、その在留資格により認められた活動や許可の範囲を越えて活動することはできません(出入国管理及び難民認定法(入管法)第19条第1項)。
別表第一の一、第一の二、第一の五
外交、公用、教授、芸術、宗教、報道、高度専門職、経営・管理、法律・会計業務、医療、研究、教育、技術・人文知識・国際業務、企業内転勤、興行、技能、特定技能、技能実習、特定活動(ワーキングホリデー等)
その在留資格に定められた範囲でのみ就労が可能(入管法第19条第1項第1号)。
別表第一の三、第一の四
文化活動、短期滞在、留学、研修、家族滞在
資格外活動の許可を受けることが必要(入管法第19条第1項第2号・第2項)。
その在留資格により活動できない活動をして報酬やその他の収入を得た場合、不法就労となります。
資格外の活動のほか、旅券や上陸許可なく本邦に上陸した者や在留資格を失った者、在留期間を経過した者等、在留資格が無い者が活動をして報酬やその他の収入を得た場合も不法就労となります。(出入国管理及び難民認定法(入管法)第24条第3の4号イ)。
不法就労助長罪
このような外国人に不法就労活動をさせた場合、不法就労助長罪となります。
入管法では、次のいずれかに該当する者について、3年以下の懲役若しくは300万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する、と定めています(入管法第73条の2第1項)。
① 事業活動に関し、外国人に不法就労活動をさせた者
② 外国人に不法就労活動をさせるためにこれを自己の支配下に置いた者
③ 業として、外国人に不法就労活動をさせる行為又は前号の行為に関しあつせんした者
この行為をした者は、次のいずれかに該当することを知らないことを理由として処罰を免れることはできません。ただし、知らなかったことについて過失がなかったときは、処罰されません(入管法第73条の2第2項)。
① 当該外国人の活動が当該外国人の在留資格に応じた活動に属しない収入を伴う事業を運営する活動又は報酬を受ける活動であること。
② 当該外国人が当該外国人の活動を行うに当たり許可(入管法第19条第2項)を受けていないこと。
③ 当該外国人が在留資格のない者(入管法第70条第1項第1号、第2号、第3号から第3号の3まで、第5号、第7号から第7号の3まで又は第8号の2から第8号の4)であること
法人の代表者又は法人若しくは人の代理人、使用人その他の従業者が、その法人又は人の業務に関してこの罪を犯したときは、行為者だけでなく、その法人又は人に対しても、300万円以下の罰金刑が科されます(入管法第76条の2)。
事業主は、外国人の氏名や在留資格、在留期間などの事項を、在留カードや旅券・在留資格証明書などにより確認しなければなりません(労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律施行規則第11条第1項)。こうしたことを怠っていると、知らなかったことについて過失がなかったとすることは困難になります。
まとめ
このように、不法就労者を雇うようなことをしてしまうと、採用担当者だけでなく企業自身も重い刑罰を科されることになります。不法就労をさせないことはもちろん、雇用の際に、外国人の在留資格などについてもしっかりと確認する必要があります。
外国人の雇用についてお悩みの方は、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所へご相談ください。
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会社内で起きた事件・犯罪への対応

企業内部での犯罪は、被害者が実害・被害感情を被るだけでなく、従業員の安心感も損ない、職場への帰属意識を失い、不信感を抱くことになりかねません。また、事件が報道され、被疑者の実名だけでなく所属企業名まで出されてしまうと、起業まで信用を失いかねません。ここでは、企業内で起きうる犯罪について解説します。
窃盗
企業の備品だけでなく、従業員個人の荷物が被害品となることもあります。
窃盗罪が成立すると、10年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処されます(刑法第235条)。
更衣室内のロッカーや共有スペースなどで起きると、犯人の特定が困難となります。また、これが取り締まられずにいると、やっても問題ない、バレないと思われ、他の者までこうした行為を行いかねません。これは職場内全体のモラルの低下を招き、従業員の安心感や企業への帰属意識を崩壊させかねません。
盗撮
社内のトイレの個室や、更衣室のロッカーで行われることが多いですが、皆がいる執務室でデスクの下にカメラを仕掛けている場合などもあります。スマートフォンなどで直接撮影するほか、スマートフォンやカメラを仕掛けて撮影する場合もあります。
盗撮は、多くが「性的な姿態を撮影する行為等の処罰及び押収物に記録された性的な姿態の影像に係る電磁的記録の消去等に関する法律(性的姿態撮影等処罰法)」の性的姿態等撮影罪(同法第2条第1項)に該当し、3年以下の懲役又は300万円以下の罰金に処されます。スマートフォンを差し向けたりカメラを仕掛けたが撮影できなかった場合は、未遂罪となります(同条第2項)。この法律違反には該当しなかったとしても、都道府県の迷惑防止条例違反に該当する可能性があります。東京都の迷惑防止条例違反となった場合、1年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処されます(東京都公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例第8条第2項第1号第5条第1項第2号)。他の道府県の迷惑防止条例でも同様の規定が設けられています。
更衣室内のロッカーやトイレなどで行われた場合、建造物侵入となり、その建物の管理者(店長などがあたります)も被害者となります。建造物侵入罪が成立した場合、3年以下の懲役又は10万円以下の罰金に処されます(刑法第130条)。この場合、建造物侵入罪が犯罪の手段となり性的姿態等撮影罪等が結果となる関係にある場合が多く、このような場合は牽連犯といって、重い刑により処断されます(刑法第54条第1項)。
盗撮が発覚したときには既に被害者が複数にのぼっていることも多々あります。逮捕した直近の事件では被害者が特定されていることが多いでしょうが、それ以前のものとなると画像があっても被害者が特定できず、立件できない場合もあります。
横領
企業の金銭を勝手に費消することが考えられます。金銭を占有、つまり金銭を管理する権限がある場合は業務上横領罪(刑法第253条)が成立しますが、権限がない場合は窃盗(刑法第235条)など別の種類の犯罪に該当します。
発覚した段階では、被害金額が数千万円に達している場合もあります。また、横領は決算書類の改ざんなどにより行われますが、他の従業員が気付ける状況にもかかわらず放置されている様を見て、他の従業員も手を付け始めることも多々あります。このような状況が放置されれば、横領が蔓延し、職場のモラルは崩壊してしまいます。
被害が莫大だと報道され、企業内統治が崩壊しているとみなされ、企業の社会的信用が低下するおそれもあります。
まとめ
上記の違法行為を完全に防ぐことは容易ではありません。しかし、各項で述べたように、このような犯罪が行われることを放置していれば、更なる犯罪を招き、経済的損失だけでなく、従業員のモラルや企業への帰属感も損なわれ、企業統治が崩壊しかねません。
企業内部でも監視カメラの導入を検討するほか、書類チェックなどを厳として行い、コンプライアンスを高めていく必要があります。
企業内の犯罪防止、コンプライアンス向上についてお悩みの方は、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所へご相談ください。
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会社が被害者となる窃盗事件② 加害者が事実を認めない場合の対応

【事例】
X社は金属加工業を営んでおり、会社内の倉庫には大量の銅線や鉄線を保管していました。
X社では3か月ほど前から倉庫内に保管している金属線の在庫の記録と実際にある金属線の数が合わないということがありました。
X社を経営するAさんは顧問弁護士である,あいち刑事事件総合法律事務所の弁護士に相談して、倉庫の出入り口に防犯カメラを設置しました。
そうすると、誰かが倉庫内に出入りしている様子が写っており、その日時とX社の勤務表を照らし合わせると社員であるBさんが怪しいのではないかという結論に至りました。
弁護士協力の下、X社が事実調査をしたところBさんは自分はそのような犯行はしていないと事実を認めませんでした。
(事例はフィクションです)
参考プレスリリース NEXCO東日本 グループ会社元社員による着服について
1 捜査機関に協力してもらうことを検討しましょう
以前の記事でも本事例と同様の窃盗事件への対応について解説しましたが、本事例では犯人と目される人物が事件への関与を否認している点が異なります。
刑事事件でもそうなのですが、容疑者が事実を認めない場合には調査(捜査)を行うことがより困難になります。
本人が事実を認めない限りは、犯人が本人に間違いないことを本人の話以外で裏付ける必要があるためです。
今回の事例でもまずは弁護士など事件調査に精通した専門家に相談して証拠の収集を行う、関係者からの話を聞くといった対応が求められることになります。
その上で、証拠上は犯人と目される人物が事実を一向に認めない場合や証拠上犯人が絞り切れないというような場合には、警察に被害を届け出て捜査を行ってもらうことを検討するべきです。
2 捜査機関への協力を依頼するメリットとデメリット
しかしながら捜査機関に被害を訴えるとなれば何となく抵抗を感じる方も多いのではないのでしょうか。
次に捜査機関に協力を依頼すること、具体的には被害を訴えて捜査を行ってもらうことのメリットとデメリットについて解説させていただきます。
メリットの1つ目は、警察が介入することでより専門的な捜査手法を用いた捜査が可能になり事案の究明の可能性が高くなることです。
警察は一般人では行えないような指紋の採取及び鑑定や防犯カメラ映像を分析し人物の同一性の鑑定をするなど専門的捜査を行うことが可能になります。
そのため会社や弁護士の調査力だけでは行えなかった捜査も行うことができ、より決定的な証拠を収集できる場合があります。
メリットの2つ目は実際に犯行をしていた犯人に対して自白をするようにプレッシャーをかけることができる点です。
警察が介入した場合よりしっかりと捜査が行えることに加え、犯人が発覚した場合に逮捕される可能性があります。
事例の場合でも仮に社内に犯人がいて、警察による捜査が開始されたことを知れば犯人の特定や逮捕される可能性が高くなったとして正直に事実を認めようとする可能性が高くなるといえます。
少なくとも警察が介入したと知ってさらに罪を重ねる犯人はいないでしょう。
反対にデメリットとしては警察の動きを社内でコントロールすることが難しいことです。
当然ですが警察の使命は事案の究明です。
犯人が分かれば警察の都合で逮捕するかを決める場合が多いですし、捜査手法について会社内で事件がばれないように配慮してほしいと要望してもおそらく聞き入れてはくれないでしょう。
事案の内容によっては社内に広まることが事件の被害よりも経営に与える影響が大きくなることもあるでしょう。
また犯人が誰かによっては逮捕されてしまえば会社の経営に打撃があり、内内の処分で済ませた方が傷が浅くなるケースもあるでしょう。
このような場合には警察に協力してもらうことがかえって会社の不利益につながることもあるのです。
捜査機関に協力を求めるかどうかは以上のメリットとデメリットを慎重に考慮して判断するべき問題なのです。
3 まとめ
会社が被害者となる事件が発生した場合の対応、特に事例のように犯人が社内いる可能性が高いケースでの対応は一筋縄ではいきません。
事件の解決に加えて将来の会社への影響も考慮しながらの対応が求められます。
あいち刑事事件総合法律事務所は調査会社とも連携しながら刑事事件に精通した弁護士が事案に対する最良の解決に向けてお手伝いさせていただきます。
また事件が発生する前の予防法務についても顧問契約にて対応させていただいております。
初回相談は無料ですので、まずは一度ご相談してみてください。
お問い合わせはこちらからどうぞ。
企業経営者が知っておくべき「司法取引」について②

前回の記事では、司法取引の概要と対象となる犯罪について解説させていただきました。
会社経営を行う上で密接に関連する法令のほとんどが司法取引の対象犯罪になることをご理解いただけたかと思います。
そのため刑事事件の当事者となった場合には、司法取引を実施するかについて検討しなければならないことも予想されます。
今回の記事では、司法取引の手続きの流れやその対応について解説させていただきます。
1 司法取引の流れ
日本で導入される司法取引の概要については前回の記事で解説させていただいた通りです。
改めて説明しますと、被疑者・被告人と検察官が、一定の犯罪について、弁護人の同意があることを条件として、被疑者・被告人が他人の刑事事件の解明に協力するのと引き換えに、検察官が被疑者・被告人の事件について有利な取扱いをすることなどを合意する制度です。
前提として対象者に対して弁護人が選任されていて、弁護人の同意があることが条件になっています。
司法取引の流れは大まかにいえば,
①弁護人(被疑者・被告人)または検察官からの協議の申し入れ
②三者による協議
③司法取引(合意)の成立
というものになります。
最も重要なのは、言わずもがなですが②でどのような内容の協議をして、どのような内容の合意をするかになります。
2 協議の内容
協議の内容についてはすべてが法律上規定されているわけではありません。
協議の内容には、たとえば、被疑者・被告人による協力行為の内容の提示、検察官による被疑者・被告人からの聴取、検察官による処分の軽減等の内容の提示などが行われるものと考えられます 。
具体的には、当該事件での取り調べを受けている際に、捜査機関としてこの事件の主犯を起訴したいから証言に協力してほしいというような打診があった場合に、どの範囲で供述の協力をするのかその見返りとしてどの程度の刑の軽減を求めるかなどが協議の内容になります。
会社の経営者から公務員に対して賄賂を渡していたという贈収賄事件を例にしてその対応について解説をさせていただきます。
仮にこの容疑が事実であるとして、双方が黙秘しているというケースでは、会社への悪影響を最小限にとどめるために、経営者の弁護人として罪を積極的に認め、司法取引の打診をすることが考えられます。
賄賂を贈った事実を認め公判での供述に協力することを約束する代わりに、経営者側は起訴しないように求める協議を持ち掛けることが協議の申し入れの一例です。
仮に合意が成立すれば、会社の経営者が起訴されて会社の名誉が毀損されるリスクを避けることができるかもしれません。
3 司法取引が問題になるケースについては
司法取引が問題になるケースについては刑事事件に精通した弁護士に依頼することをお勧めします
当該事案について司法取引の打診を被疑者側からするのかどうか、協力するとしてもどの範囲で協力し、見返りの内容をどうするかについては極めて難しい判断になります。
その判断においては、当該事案の事実関係からして問題となっている事案の証拠構造はどのようになっているのか、当事者の供述や証拠が捜査に与える影響の大きさ、量刑の見通しなどを正確に見通して判断する必要があります。
あいち刑事事件総合法律事務所はこれまで多数の刑事事件の弁護活動を経験してきた実績があり、事件の見通しや証拠構造の分析には自信があります。
司法取引を検討している、検察官から司法取引の打診があったというケースでは是非一度あいち刑事事件総合法律事務所にご相談ください。
次回は司法取引が導入されたことに対して、会社経営者は平時からどのような対応を検討すべきかについて解説させていただきます。
お問い合わせはこちらからどうぞ。
【事例解説】インサイダー取引について② インサイダー取引の主体

【事例】
子会社に関する未公表情報を基に太陽光パネル製造会社X社の株をインサイダー取引したとして、金融商品取引法違反容疑でX社の元執行役員のAさんが逮捕された事件で、情報が公表された直後に同社株が急激に上昇していたことが16日、分かった。
関係者への取材で、Aさんが以前勤務していた金融サービス会社の株式でもインサイダー取引をしたとして、金融庁から課徴金納付命令を受けていたことも判明した。
東京地検特捜部は、Aさんが株価上昇を見越して買い付けを進め、公表後に売却して利益を得た可能性があるとみて捜査している。
(共同通信令和6年5月16日 「子会社の情報公表後、株価急上昇 インサイダー取引、特捜部捜査」より一部引用)
参考報道 インサイダー疑いの東証元社員を告発 監視委、裁判官も
1 インサイダー取引規制の趣旨について
前回の記事ではインサイダー取引で社員が逮捕された場合の会社への不利益や、インサイダー取引にあたる行為の要件について解説しました。
今回の記事ではまずインサイダー取引の要件のうち、インサイダー取引の主体となる「会社関係者」の範囲について説明します。
その説明の前にインサイダー取引が禁止されている趣旨について解説させていただきます。
非公表の重要事実を知っている「会社関係者」などは、重要事実が公表された場合に、株価が上昇するか下落するかについてある程度予想することができます。
したがって重要事実の公表によって一般の投資家が知る前に会社の株式を売買した場合には確実に儲けることができることになります。
このような取引は一般の投資家に比べて内部者に特別に有利となりますので、投資家の間で不平等が生じ、証券市場への信頼を害することになり、市場の公正を守るためにインサイダー取引が規制されているのです。
2 インサイダー取引の主体について
インサイダー取引の主体にとなるものについては3種類の規定があります。
①会社関係者(金融商品取引法166条1項)、②公開買付者等関係者(同法第167条第1項)、③第一次情報受領者(同法第166条第3項、第167条第3項)の3種類です。
以下それぞれの類型に関して詳しく解説させていただきます。
「会社関係者」に当該上場会社の会社役員や管理借についている者だけでなく、役職のない従業員も含まれます。問題となる事実を知っていた場合には役職の有無は問いません。
すなわち重要な秘密情報が社内で漏洩してそれをたまたま知ってしまった従業員もインサイダー取引の主体になり得ます。
その他に「会社関係者」に該当する者については、
・役員、代理人、使用人その他の従業員で、重要な事実を知っている者
・帳簿閲覧権(議決権の3%以上の株式)を有する株主で、その未公表の重要事実を知っていた者
・上場会社等に対して法令に基づく権限を有し(許認可権を有する官庁の公務員等)、その未公表の重要事実を知っていた者
・取引先やその役員などで、その未公表の重要事実を知っていた者
・上記のいずれかに該当しなくなってから、1年以内の者
という規程があります。
②公開買付者等関係者に該当する者とは簡単に言えば、株式の公開買い付けを予定している場合にその情報を知り得る立場にいる者を指します。
具体的には公開買付者等と次のような関係にあるものが該当します。その関係性は上記の「会社関係者」と同一です。
・役員、代理人、使用人その他の従業員で、重要な事実を知っている者
・帳簿閲覧権(議決権の3%以上の株式)を有する株主で、その未公表の重要事実を知っていた者
公開買付者等に対する法令に基づく権限を有し、その未公表の重要事実を知っていた者
取引先やその役員などで、その未公表の重要事実を知っていた者
公開買付を受ける会社(被公開買付会社)やその役員等で、公開買付者等からの伝達でその事実を知った者
上記のいずれかに該当しなくなってから、6か月以内の者
③第1次情報受領者とは、①または②に該当する者から情報を受け取った者を指します。
ここで注意が必要なのは、この第1次情報受領者から情報を受け取った者については、「第2次情報受領者」と呼ばれ、インサイダー取引規制の対象ではなくなります。
なぜならば、受け取った情報の情報源がインサイダー取引の規制対象になる者からの情報であることを認識していないからです。
上記事案のAさんは以前勤務していたの株式でとあるので、①のうち従業員として「会社関係者」にあたるとされたのでしょう。
仮に子会社の情報について知っており、株式の取引をしたのが退職してから1年以内であれば、金融商品取引法166条1項の「上記のいずれかに該当しなくなってから、1年以内の者」に該当しインサイダー取引の規制対象となります。
このように,金融商品取引法は特に複雑な規定であり,一般の方にはとても分かりにくいものになっています。不安なことがある方は一度,弁護士にご相談ください。
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【事例解説】インサイダー取引に対する規制について①

【事例】
子会社に関する未公表情報を基に太陽光パネル製造会社X社の株をインサイダー取引したとして、金融商品取引法違反容疑でX社の元執行役員のAさんが逮捕された事件で、情報が公表された直後に同社株が急激に上昇していたことが16日、分かった。
関係者への取材で、Aさんが以前勤務していた金融サービス会社の株式でもインサイダー取引をしたとして、金融庁から課徴金納付命令を受けていたことも判明した。
東京地検特捜部は、Aさんが株価上昇を見越して買い付けを進め、公表後に売却して利益を得た可能性があるとみて捜査している。
(共同通信令和6年5月16日 「子会社の情報公表後、株価急上昇 インサイダー取引、特捜部捜査」より一部引用)
1 インサイダー取引について正しく理解していますか?
インサイダー取引という言葉については報道機関やテレビドラマなどで一度は耳にしたことがある方が多いのではないでしょうか。
そして、インサイダー取引について自分が知った内部情報を利用して不正に金儲けをしたという程度では理解できている方が多いと思います。
しかしながらインサイダー取引の具体的な規制内容や規制範囲について明確に理解されている企業の経営者の方や役員の方は多くないでしょう。
例えば、インサイダー取引で問題となる内部情報はどのような情報を指すのか、どのような不正行為がインサイダー取引として刑事罰の対象になるのか、処罰対象になるのは誰かなど法律の規制についてご相談を受けることが多いです。
事例では自社の子会社の未公開情報を基に株の売買をして逮捕されたケースです。
実際の報道では社名も明らかになっていましたから報道により、会社の情報管理が甘かった、社員のコンプラ教育が不十分だったという印象を世間から受けてしまうかもしれません。
そのため特に株式を上場している企業の方は、このような事態が起こらないように情報管理、社員へのコンプラ教育を徹底するためにも規制について正しく理解することが必要になります。
経営者の方ご自身や会社役員の方、従業員の方がインサイダー取引をしてしまわないように、あいち刑事事件総合法律事務所がインサイダー取引について詳しく解説させていただきます。
2 インサイダー取引とは
今回の記事ではまずインサイダー取引の内容について解説させていただきます。
一般的にインサイダー取引と呼ばれる取引に対する規制については、金融商品取引法という法律に定めがあります。
インサイダー取引の定義については、「上場会社の役職員など会社関係者が、その会社における業務等に関する重要事実を自身の職務等に関して知った場合、重要事実が公表される前に、当該上場会社の株式を売買すること」とされています。
これを要件に分解するとすれば
①上場会社の役職員など「会社関係者」が
②上場会社における業務等に関する「重要事実」を
③自身の「職務に関し」て知って
④重要事実が「公表」される前に
⑤当該上場会社の株式を売買すること
と分解できます。特に「」で示した文言の意味や犯意が重要になります。
これからの記事ではそれぞれの要件について、具体的なケースもあげながら詳しく解説させていただきます。
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