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産業廃棄物処理業における環境犯罪リスクと違反発覚時の対応策

2025-08-19

産業廃棄物処理業(廃棄物処理・リサイクル業界)は、法律によって厳しく規制された業界です。
不法投棄や無許可営業などの法令違反は環境犯罪となり、重大な刑事責任が問われます。
万一、社内で違法な廃棄物処理が行われていた場合、経営陣や従業員にも刑事処分が科される可能性があります。
実際に廃棄物処理法違反は積極的に刑事告発されていると言われており、事態が発覚すれば企業の存続にも関わる深刻な問題となります。
こうしたリスクに備え、法令遵守の体制を整え、違反発覚時は速やかに弁護士へ相談することが不可欠です。

事例

典型的な廃棄物処理法違反としては、不法投棄、無許可での廃棄物処理業営業(無許可営業)、不適正処理などが挙げられます。
例えば産廃処理業者が許可なく廃棄物を収集・運搬・処分をすれば5年以下の拘禁もしくは1,000万円以下の罰金、またはその両方(法人は3億円以下の罰金)に処せられます。
実際に、不法投棄事件では企業に5,000万円の罰金刑、関与した取締役に実刑判決が下された例もあります。
また産廃業者が自社で処理せず無許可の第三者に廃棄物を再委託し、マニフェストに虚偽記載をした事例も発覚しています。
これらの違法行為は近隣住民からの通報や行政の立入検査で明るみになるケースも多く、隠匿は困難です。

違反発覚時の初動対応と弁護士の役割

万が一、自社や社員の違法行為が発覚した場合、まず速やかに違法行為を中止し、事実関係を把握する必要があります。
同時に、警察・環境省・自治体など行政や捜査機関からの調査には適切に対応することが重要です。
行政は不法投棄等を発見すると関連企業に立入検査を行い、書類を徹底精査して他の違反も見つけようとします。
こうした調査段階では、刑事事件に精通した弁護士の助言が重要です。
早期に弁護士を付ければ、取調べ対応の適切なアドバイスを受けられ、虚偽の供述や不利益な対応を避けることに繋がります。
捜査機関への説明方法や対応方針についても弁護士と相談し、企業として誠実に協力しつつ自社の権利を守る初動対応が求められます。

法令遵守のチェック体制とその運用

日常的に法令遵守(コンプライアンス)を徹底する社内体制を構築しておくことが、リスクを未然に防ぐ鍵です。
具体的には、産廃処理業の許可証の範囲内で事業を行っているか、事業範囲の変更時には速やかに許可申請しているかを定期的に確認します。
廃棄物の収集運搬や処分を外部に委託する際は、必ず許可を持つ業者に委託し、書面による契約書と産廃マニフェストを正しく交付・保存しているかチェックする体制を整えます。
専門コンサルタントによる監査では1拠点から100件近い改善事項が見つかることもあり、企業自らは問題に気付いていないケースも少なくありません。
定期的な内部監査や点検を行い、許可手続きや契約書の整備状況、マニフェスト管理など法定事項を漏れなく確認する運用が重要です。

社員教育と内部告発への備え

従業員教育(コンプライアンス研修)の徹底は、環境犯罪リスクを防ぐ基本です。
企業自体に違反の意図がなくても、従業員の誤った判断や知識不足により違法行為が起きる可能性があります。
例えば、法律知識が不十分な社員が無許可の業者に廃棄物処理を依頼してしまったり、本来必要な契約書を作成せず口頭で進めてしまったりすると、結果的に法違反となり得ます。
社員個人が独断で違法行為を行った場合でも、両罰規定により会社も責任を問われ罰金刑を受ける可能性があります。
こうした事態を防ぐため、新入社員研修や定期研修で廃棄物処理法のルール・リスクを周知徹底し、現場でのヒヤリハット事例も共有します。
また、社内には内部通報制度(内部告発窓口)を整備し、不正の兆候を社員が安心して報告できる体制を作ります。
内部通報制度を導入すれば、企業自らが内部の不正を早期発見・対処する自浄作用が働き、コンプライアンス経営の実現につながります。
仮に社員から不正の告発があった場合は、隠蔽せず迅速に事実調査を行い、必要に応じて行政機関へ報告するとともに、再発防止策を講じることが大切です。

弁護士に相談するメリットと実務支援の内容

環境犯罪リスクに直面した際、弁護士に相談することには多くのメリットがあります。
まず刑事事件に強い弁護士であれば、捜査段階から適切な対応策をアドバイスができます。
廃棄物処理法違反で起訴・処罰を避けたい場合、検察官や裁判官に対し違反を深く反省し、更生に努める姿勢を示すことが重要ですが、弁護士はその伝え方を指導したり、代弁したりすることが考えられます。
また、違反再発を防ぐための社内環境整備(再発防止策)についても弁護士と一緒に検討できます。
さらに、企業の平時の取り組みとして、弁護士は社内コンプライアンス体制の強化支援も行うことができます。
例えば、社内規程の整備や契約書のリーガルチェック、適法な産廃処理委託契約書の作成支援なども可能です。
社員向けのコンプライアンス研修の講師を弁護士に依頼し、法律の専門家から直接指導を受けることで社員の法令理解を深めることも効果的です。
このように弁護士を活用することで、違法行為の未然防止から発覚後の危機対応まで包括的なサポートを得ることができます。

事務所紹介

弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所は、環境犯罪を含む刑事事件を中心に扱う法律事務所です。
当事務所には刑事弁護に特化した経験豊富な弁護士が多数在籍しており、廃棄物処理法違反などの案件でも集中的かつ的確な対応が可能です。
初回の法律相談は無料で、平日夜間や土日祝日でもご予約・ご相談を受け付けています。
ご依頼があれば、弁護士が迅速に初動対応にあたり、逮捕前後を問わず捜査機関対応や釈放・不起訴に向けた活動をサポートいたします。
企業からのご相談の場合には、違反発覚時の捜査対応はもちろん、社内のコンプライアンス体制整備や再発防止策の策定、従業員研修の実施、契約書のチェック・作成など幅広い法務サービスをご提供いたします。
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所は全国対応可能で、企業の皆様の安心と法令遵守経営を全力で支援いたします。

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宗教法人・NPO法人の不祥事対応:刑事事件発生時に弁護士へ相談する重要性

2025-08-12


宗教法人やNPO法人の運営に携わる幹部・代表者にとって、組織の信用を揺るがす不祥事や刑事事件は決して他人事ではありません。寄付金の不正流用や幹部による詐欺、反社会的勢力の介入などの事件は各所で報道されており、ひとたび発覚すれば信者や支援者からの信頼失墜は避けられません。最悪の場合、所轄庁による調査や宗教法人格の剥奪(解散命令)に発展するリスクもあります。こうしたリスクに備え、不祥事発生時には早期に弁護士へ相談し、適切な対処策を講じることが組織存続の鍵となります。

1. 不祥事発生が宗教法人・NPO法人に与える影響

寄付者や信者の善意によって成り立つ宗教法人・NPO法人において、不祥事や刑事事件が発生すると甚大な影響が生じます。まず 社会的信用の喪失 により、寄付金や支援の減少、信者・会員離れが起こります。加えて、法的な制裁行政処分 の可能性も高まります。例えば、教団内で刑事事件に発展する重大な不正が認められた場合、行政庁が宗教法人法に基づき調査に乗り出し、場合によっては 解散命令 を裁判所に請求することも想定されます。現に、過去にはオウム真理教事件や霊視商法の明覚寺事件で解散命令が出され、最近では刑事事件が認定されないケース(旧統一教会)にも同様の措置が検討されています。このように、不祥事が発覚した際の影響は組織の存続に関わる深刻なものとなるため、迅速かつ適切な対応が不可欠です。

2. 事例

過去に宗教法人やNPO法人で問題となった典型的な不祥事の例をいくつか挙げます。

  • 不透明な資金流用: 組織の資金が本来の宗教活動や公益活動に使われず、幹部の私的流用に充てられるケース。例えば信者からの寄付金やお布施が代表者個人の生活費に充当されていた事例があります。
  • 寄付金の不正利用: 名目と異なる用途に寄付金を使う、または架空の募金活動で集めた資金を裏金化するケース。会計担当者による組織資金の横領事件も各地で発生しています。
  • 宗教法人格の悪用(マネーロンダリング・脱税): 宗教法人は非課税措置など特別な優遇を受けるため、その法人格が犯罪収益の洗浄や脱税に悪用される事件が後を絶ちません。実際に暴力団が休眠状態の宗教法人を買収し、犯罪収益を流す手段として利用した例も報告されています。また、海外の不正資金を国内宗教法人を通じて移動させるマネーロンダリング手法も確認されています。
  • 幹部による詐欺事件(高額な祓い料詐取など): カルト的手法で高額な祈祷料や除霊料を信者に支払わせ、実態のない「救済」を装って金銭をだまし取る事件。こうした詐欺的商法は刑事事件となりうるばかりか、被害者の告発次第で組織全体の信用問題に発展します。
  • 会計不正: 帳簿の改ざんや二重帳簿の作成、収支報告の虚偽記載などにより、組織の財務状況を不透明にする行為。内部牽制や監査体制が弱い団体では不正を見逃しやすく、不祥事の温床となります。
  • 反社会的勢力の介入・ダミー宗教法人の利用: 暴力団などが宗教法人やNPO法人を隠れ蓑に使い、不正な活動や資金洗浄を行うケース。架空の信者名簿で設立認証を受けたと疑われる宗教法人がヤミ金融業を営んで摘発された事件もあります。こうしたケースでは組織自体が犯罪インフラと見なされ、厳しい処分の対象となりえます。
  • セクハラ・パワハラ等のスキャンダル隠蔽: 教団内での性的嫌がらせや権力乱用といったハラスメント問題を内部で揉み消そうとした結果、被害者の告発により対外的な大事件に発展することがあります。近年、宗教界でもセクハラ・パワハラの訴訟が相次いでおり、ある宗教法人では資金不正の問題に加えて性被害訴訟やパワハラ問題が同時発生する例も報告されています。不祥事を隠蔽しようとすれば一層世間の批判を招き、組織の存続が危ぶまれる結果となります。

3. 弁護士に相談することの重要性

上述のような問題が発覚した際、速やかに弁護士へ相談することは極めて重要 です。その理由は大きく分けて二つあります。

第一に、法的に的確な初動対応を取るためです。不正や犯罪の疑いが出た場合、証拠保全や被害拡大防止、関係者への聞き取りなど初期対応を誤れば後の責任追及や再発防止策に支障が出ます。弁護士であれば客観的な立場から法律に則った適切なアドバイスが可能であり、早期に相談することで事態の悪化を防げます。

第二に、外部への説明責任と信用回復という観点です。不祥事対応では、被害者や信者への謝罪・補償、所轄官庁や捜査機関への報告など様々な場面で専門知識が求められます。弁護士に相談しながら進めることで法令に沿った誠実な対応が担保され、組織の透明性を示すことができます。特に宗教法人やNPO法人に詳しい弁護士であれば、宗教法人法や特定非営利活動促進法(NPO法)等の規制に精通しており、事態収拾と再発防止に向けた総合的な支援が受けられるでしょう。

4. 内部調査と是正措置の立案

不祥事が起きた際には、まず 内部調査 を徹底して行い事実関係を明らかにする必要があります。弁護士はこの内部調査の過程で中立的な調査者として関与し、調査の精度や信憑性を高めるうえで大いに役立ちます。例えば資金流用事件であれば、弁護士が関連資料の精査や関係者ヒアリングを主導し、不正の全容解明と証拠の確保を行います。

また、セクハラ問題などデリケートな事案では、被害申告者・加害者双方から適正に事実を聴取し、公平な判断を下すためにも弁護士の同席や助言が有効です。調査結果が判明した後は、是正措置(改善策)の立案に移ります。不正があった場合の責任者の処分、被害者への補償、組織のガバナンス改革など、再発防止と信頼回復のための具体策を弁護士とともに検討します。

法令に違反する行為があれば然るべき届出や是正報告を行政機関へ行う必要がありますし、場合によっては被害者との示談交渉や刑事告発の判断も迫られます。これら一連の対応を専門家の助言なしに適切に進めることは難しく、弁護士の関与が組織防衛の要となります。

5. 法令順守体制の強化と会計透明性の確保

宗教法人法やNPO法といった関係法令の順守は、平時から整備しておくべき組織運営の基本です。不祥事を機に組織のコンプライアンス体制を見直すことも重要でしょう。弁護士はこれら特殊法人に関する法律やガイドラインを踏まえ、規程類の整備や役員の法的責任範囲の確認など法令順守体制強化をサポートします。

また、多くの宗教法人では法律上、営利企業のような厳格な監査義務がないため、内部牽制が働きにくい面があります。弁護士や公認会計士と連携し会計の透明性を確保する仕組みづくり(複数人による出納チェック、定期的な外部監査導入など)を講じれば、不正の抑止効果が高まります。実際、内部統制が不十分で「性善説」に頼った運営では不正の温床になりやすいことが指摘されており、健全な内部牽制は関係者自身を守る手段でもあります。弁護士の助言のもと、法律に沿った適正な会計管理と情報開示を徹底することで、信者・支援者からの信頼回復につなげることができます。

6. ハラスメント対策と当局調査への対応

昨今、宗教法人や公益法人におけるハラスメント問題も社会的に大きな関心を集めています。教団内部でセクハラ・パワハラが発生した場合、その対応を誤ると深刻なスキャンダルに発展しかねません。弁護士はハラスメントの防止規程策定や相談窓口の設置運営について助言し、万一問題が起きた場合には第三者調査委員会の設置など適切な対処をサポートします。

被害者対応においてはプライバシー保護や人権尊重の観点が不可欠であり、法律の専門家による慎重な進行管理が望まれます。内部での隠蔽は禁物であり、弁護士の関与のもと事実関係を公正に調査し再発防止策を講じることが、ひいては組織の名誉を守ることにつながるでしょう。

さらに、不祥事の程度によっては 所轄庁や捜査当局から調査を受ける局面 も考えられます。宗教法人の場合、文化庁や都道府県からの「質問権」に基づく調査や、悪質な違法行為に対する解散命令請求が現実に起こりえます。こうした当局対応に際しても、弁護士のサポートは不可欠です。当局への報告書作成やヒアリングへの同席、提出書類の精査など、法令に沿った適切な手続きを踏むことで、最悪の事態(法人格剥奪や刑事処分)を回避できる可能性があります。行政との交渉や是正計画の提出も、専門知識なしでは太刀打ちできません。弁護士とともに誠意ある対応策を講じることで、当局からの信頼を得て事態の沈静化を図ることが重要です。

7. 事務所紹介

当事務所では、宗教法人やNPO法人における不祥事対応やコンプライアンス支援に豊富な実績を有する弁護士チームが皆様の相談を承っております。内部調査の実施から是正措置の立案、宗教法人法・NPO法に基づく法令順守体制の整備、さらにはハラスメント防止策の導入支援や所轄庁対応まで、ワンストップで専門的なリーガルサービスをご提供可能です。組織の理念と社会的信用を守るためには、問題が起きてからの対応はもちろん、平時からの予防法務も欠かせません。当事務所の弁護士は顧問契約による継続的なサポートにも対応しており、日常的なご相談から緊急時の対応まで伴走いたします。宗教法人・NPO法人特有の事情に精通した専門家の力をぜひお役立てください。不祥事や刑事事件への適切な対応にお困りの際は、どうぞお気軽に当事務所へご相談ください。

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インボイス制度導入後の価格交渉と下請法リスク:公取委の監視強化に備える

2025-08-05


インボイス制度開始後,価格交渉の現場では公正な転嫁が課題となり,公正取引委員会(公取委)が監視を強化しています。

令和5年度の独占禁止法違反事件の処理状況 公正取引委員会

中小企業にとって新制度下での不当な取引慣行は法的リスクを伴うため,十分な注意と対応策が必要です。

本稿ではインボイス制度の導入と下請法の関係について解説をします。

1. インボイス制度と価格転嫁問題の関係

令和5年10月に開始されたインボイス制度(適格請求書等保存方式)は,消費税の仕入税額控除に適格請求書の保存が必要となる新ルールです。
これにより,従来免税事業者だった小規模事業者が課税事業者となるか否かで取引条件(特に価格)に影響が生じ,取引先との価格交渉が発生するケースが増えました。例えば,仕入先がインボイス未登録のまま取引を続ける場合,買い手企業は仕入税額控除が制限されるため,その分のコスト負担の振り分けが問題になりえます。
インボイス制度を理由に一方的に価格据え置きや値引きを強要すれば,優越的地位の濫用として独占禁止法下請法上問題となる可能性があります。
適正な価格転嫁が行われない取引慣行は,中小事業者に不当な不利益を与える行為として法的リスクをはらむことに留意すべきです。

2. モデル事例(インボイスを理由にした価格据置・値下げが下請法違反となるケース)

インボイス制度への対応を巡り,中小企業庁は親事業者(発注側)が下請事業者に対して不当な価格条件を押し付けた具体的な事例を例示しています。
 例えば,継続取引中の免税事業者であった下請が課税事業者(インボイス発行事業者)に転換したにもかかわらず,発注側が次回以降の単価引上げ交渉に一切応じず従来価格に据え置くというケースについて,中小企業庁は,下請法第4条第1項第5号が禁じる「買いたたき」に該当し得ると指摘しています。
 また,取引完了後の請求段階で下請事業者がインボイス未登録(免税事業者)と判明した途端,あらかじめ合意していた消費税相当額の支払いを一方的に差し引いたケースでは,下請法第4条第1項第3号が禁じる「下請代金の減額」に当たる違法行為になると指摘しています。
 公取委は令和5年5月,注意事例を公表し,このようなインボイスを理由とした不当な価格据置・値下げを行っていた発注事業者に対し注意を行ったと公表しており,実際にイラスト制作や農産品販売,人材派遣,電子出版など複数の業種で問題行為が発覚している。

3. 下請法における「優越的地位の濫用」とは

「優越的地位の濫用」とは,取引上の立場が相手より優位な事業者が,その地位を利用して相手方に通常の商慣習に照らし不当に不利益を与える行為を指します。
 独占禁止法でこのような「優越的地位の乱用」は不公正な取引方法の一類型として禁止されており,大企業が取引先の中小企業に対し一方的な要求を押し付ける行為が該当します。
 下請取引の場面ではこうした行為が起こりやすいため,独占禁止法を補完する形で「下請代金支払遅延等防止法」(下請法)が定められ,親事業者による”下請いじめ”を防止すべく細かく規制しています。
 具体的には,下請法により親事業者による受領拒否,代金支払遅延・拒否,代金の減額,返品の強要,購入強制,不当な役務提供強要などが禁止されており,違反すれば公取委からの是正勧告や公表等の措置を受ける可能性があります。
 インボイス制度を理由とした前記のような価格据置・値下げの強要は,優越的地位の濫用として独占禁止法違反となり得るだけでなく,取引関係によっては下請法違反(下請代金の減額や買いたたき等)として直接規制される点に注意が必要でしょう。

4. 公正取引委員会の方針と最近の監視事例

公取委は中小事業者への不当な価格押し付けを防止するため,インボイス制度導入に関連する取引実態の監視を強化している。
 令和4年に関係省庁と公表したインボイスQ&Aでは,免税事業者に対し「課税事業者にならなければ取引価格を下げる」「応じなければ取引打ち切り」と一方的に通告する行為が独占禁止法・下請法上問題になり得ると明示しています。
 その後も公取委は相談窓口への情報をもとに調査を進め,令和5年5月にはインボイス制度開始を目前にして優越的地位の濫用につながるおそれのある事案として約10社に「注意」を発出したことを明らかにしています。注意を受けたのはイラストレーターや漫画家,農家,ハンドメイド作家,通訳者など免税事業者(いずれも小規模の事業主であると思われます)と取引のある発注事業者で,前述のように「免税のままなら消費税分を差し引く」と通告する不当な行為が確認されています。
 さらに,公取委は違反行為の未然防止に向けた情報収集にも積極的であり,令和5年には発注側・受注側計11万事業者に書面調査を行いインボイス制度関連の質問項目を設けるなど,問題となり得る行為の把握に努めています。
 こうした監視の結果,公取委はインボイス制度開始後の優越的地位濫用につながる恐れのある事案に対して迅速に対処していますから,企業側としては「見られている」という意識を持って取引に臨む必要があるでしょう。

5. インボイス制度下で企業に求められる価格交渉の実務対応

新たなインボイス制度の下では,発注側企業は下請事業者との価格交渉において一層公正な対応が求められます。仕入先が免税事業者の場合,まずはインボイス発行事業者への転換を要請すること自体は問題ありませんが,その際に「登録しなければ消費税分は支払わない」「取引をやめる」といった一方的な通告を行うことは厳に慎むべきです。
 実際に下請事業者が課税事業者となった場合には,消費税の納税義務が新たに生じる点を踏まえ,従来価格にその分を反映させるべく誠実に交渉する必要があります。
 課税転換に応じさせておきながら,明示的な協議もなく以前と同じ単価で発注し続けるような行為は,買手側の都合で下請に過度な負担を強いるものであり優越的地位の濫用に該当し得ます。
 反対に,消費税の取り扱いによるコスト増加分について発注者・受注者双方で十分話し合い,免税事業者側の負担も考慮した上で合意の上で価格設定を行えば,結果的に価格を調整したとしても独占禁止法上問題とはなりません。
 ポイントは形式的でない実質的な協議を行うことであり,インボイス制度に伴う消費税分の転嫁については「双方納得の上」で価格を決定する姿勢が肝要です。

6. 法務部門・経営者がとるべき社内体制整備と通報対応

企業の法務担当者や経営層は,インボイス制度施行に伴う下請法リスクに対処するため社内体制の整備を急ぐべきです。まず,調達・営業担当者に対する研修を実施し,インボイス制度下での独禁法・下請法の留意点を周知徹底することが重要です。
 自社が「優越的地位」にある取引では,消費税転嫁のルールと禁止行為(減額や買いたたき等)を社内ガイドラインに明文化し,現場が迷わず適切な交渉を行えるようにしておく必要があります。
 あわせて,契約書や発注書のひな型を見直し,消費税額の取扱いを明確に規定するとともに,一方的な不利変更が行われないチェック体制を構築することも望ましいです。
 さらに,社内外からの通報や相談に迅速に対応できる窓口を整備します。社内の通報制度(内部通報制度)を充実させ,従業員が取引上の不適切な要求に気づいた際に報告しやすい環境を作ることがリスクの早期発見につながります。
 実際,公取委にはインボイス制度に関連した相談が既に増加傾向にあり,国税庁は令和5年7月末時点で約2000件もの相談が寄せられていると報じています。
 取引先の下請事業者から直接,公取委や中小企業庁に情報提供がなされる可能性も高まっているため,自社内の問題は外部通報される前に自主的に発見し是正する姿勢が求められています。
 万が一違反が疑われる事案が発生した場合には,速やかに事実関係を調査して被害を回復し,必要に応じて公取委への報告や是正措置を講じることに努めましょう。事後の対応によっては行政からの勧告・措置を回避または軽減できる可能性があります。

7.お困りの方はご相談ください

インボイス制度施行後の価格交渉トラブルや下請法違反リスクへの対応についてお困りの際は,弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所にご相談ください
当事務所は中小企業の法律リスク対策に精通した弁護士チームを有しており,インボイス制度に絡む独占禁止法・下請法の問題についても適切なアドバイスと実務対応を提供いたします。具体的には,取引契約の事前チェックによるリスク予防策の立案,社内コンプライアンス体制整備の支援,そして万一トラブルが発生した場合の公取委対応や被害最小化の交渉など,幅広いサポートが可能です。
 特に下請法分野では,行政手続や是正措置への対応経験も豊富に有しており,クライアント企業の立場で迅速かつ適切な解決を図ります。
 インボイス制度対応に伴う価格交渉上の不安や疑問がございましたら,ぜひ当事務所までお気軽にお問い合わせいただき,法務のプロの力をお役立てください。

生成AI悪用による企業の刑事リスクと対応策を法務視点で解説

2025-07-29

生成AIは画像や文章を巧妙に作り出せるため、各種書類の偽造に悪用される恐れがあります。例えば、画像生成AIを使えば運転免許証やマイナンバーカード等の本人確認書類の精巧な偽造が可能と指摘されており、それによってオンライン契約時の本人確認をすり抜けるケースが懸念されています。実際に2025年には、中高生が違法入手したID情報をもとにChatGPTでログインプログラムを作成し、他人名義で携帯回線を契約して転売する不正が発覚しました。

生成AI悪用し楽天モバイルに不正アクセス、1000件以上の回線入手し転売か…容疑で中高生3人逮捕 : 読売新聞

この事件でも「AI生成の偽造身分証で本人確認を突破した可能性」が報じられており、生成AIが犯罪の手口に利用された一例と言えます。また、社内不正の場面でも、従業員がAIで架空の請求書や会計データを作成して経費を詐取するといった内部犯罪も起こり得ます。

AIを利用した事件に対して成立しうる犯罪

こうした行為は明確に刑法犯罪に該当します。契約や取引で他人をだます行為は詐欺罪(刑法246条)となり得ますし、公的な身分証や社印付き文書を偽造すれば公文書偽造罪・私文書偽造罪などの重い罪に問われます。電子データの改ざんによる不正取得は電子計算機使用詐欺罪が適用される場合もあります。不正な書類で契約を結べば取引先にも損害を与え、企業として信用失墜は避けられません。特に金融・証券分野ではAIを用いた巧妙な詐欺が今後増えるとの予測もあり、欧州では2027年までにAI詐欺による被害額が数百億ドルに達する可能性が指摘されています。

どのように防止するか?実務での対応策

不正な書類やデータの偽造を防ぐために、企業法務・コンプライアンス部門は以下のような対応策を講じる必要があります。

  • 本人確認プロセスの強化: オンライン上の顧客確認(eKYC)ではAI偽造に備えた追加確認を導入します。提出書類の真正性をチェックするソフトの活用や、必要に応じて対面確認や電話での二段階認証を併用し、画像データだけで承認しない体制を整備するべきです。
  • 社内承認フローの厳格化: 経費精算や支払手続において、一人の担当者だけで完結させず複数人・部署でのダブルチェックを制度化します。AI生成の巧妙な偽造請求書であっても、人の目による確認や不正検知システムの導入で発見できる仕組みにします。
  • ログ管理と証拠保全: 社内で生成AIを使って作成した文書等のログを可能な範囲で記録・保存し、不審な出力物の出所を追跡できるようにします。万一、不正が疑われる場合は速やかにログを解析し、関与者の特定と証拠保全を行えるように備えましょう。
  • 早期の法的対応: 社内の調査で犯罪行為が判明した場合、隠蔽せず直ちに法務部主導で必要な措置を取ります。加害社員への懲戒処分はもちろん、被害が社外に及ぶ場合は被害者への連絡と謝罪、そして警察への被害届提出を検討します。企業自らが犯罪の舞台とならないよう、毅然とした姿勢で臨むことが重要です。

実務上のポイント

社内規程で「生成AIの利用禁止事項(ガイドライン)」を定め、他人の個人情報や他社機密を無断で入力・生成しないこと、違法行為に繋がり得る用途は禁止する旨を明記しましょう。
また、経理・財務部門に対してはAIによる不正の兆候(不自然な文書様式や不審なファイル名など)に注意を払うよう教育します。万一、取引先から受領した書類に疑義が生じた場合も、安易に受け入れず真偽を確認する慎重さが求められます。企業風土として誠実性を重視し、不正を見逃さない内部統制が最大の防御策となります。

ChatGPT悪用による脅迫・ブラックメール

文章生成AIを使えば、巧みに人を脅す脅迫文やブラックメール(恐喝目的のメール)を大量に作成することも容易です。従来、犯罪者の送る脅迫メールは文面に不自然さがあり発覚しやすい側面もありました。しかし生成AIの文章は文法的に洗練されており、あたかも本物のビジネス文書のような体裁で恐怖を与える内容を作り出せます。例えば「社内の秘密を握った。公表されたくなければ金銭を支払え」といったメールが役員宛に送りつけられた場合、そこに実在しない情報であってもAIがもっともらしく細部を創作するため、受け手は真偽を判断しづらくなります。

また近年では、AIで生成した偽の裸画像をネタに個人を脅迫するケースも海外で問題化しています。ディープフェイクと呼ばれることもあります。実際アメリカ・カリフォルニア州では、AIが作った偽のヌード画像を生成したり拡散したりする行為を禁じる法律が2024年に成立しました。このようにディープフェイクを用いた新手の恐喝も登場しており、企業やその従業員が標的となる恐れがあります。

想定される法的リスク

他人を脅して金品を要求すれば恐喝罪(刑法249条)に該当し、害を加える趣旨のメールを送ればたとえ要求がなくとも脅迫罪(刑法222条)に問われます。生成AIの活用によって犯行が巧妙化・大量化すると、企業の経営陣や従業員に対するリスクは無視できません。特に役員クラスは個人情報や資産情報が公開されている場合も多く、犯罪者に狙われやすい傾向があります。海外では「役員への脅迫」がディープフェイク悪用の一形態として報告されており、日本企業にとっても無関係でいられません。
被害に遭うだけでなく,万一、社員が業務中にAIを使って取引先を脅すような行為を行った場合、その社員個人が刑事責任を負うのはもちろん、企業も監督責任を問われ社会的信用を失うリスクがあります。

実務上の対応策

脅迫・恐喝への対策として、企業は被害防止と事件発生時の適切対応の両面から準備しておきます。

  • 社内外への注意喚起: 社員に対し、AI由来と思われる不審な脅迫メールやSNSメッセージを受け取った場合の対応を周知します。具体的には「連絡を安易に信用しない」「身代金要求に応じない」「すぐ上司や法務部に報告する」ことを徹底させます。取引先や顧客にも、当社社員を名乗る不審メール等があれば真偽確認してもらえるよう事前にアナウンスするなど、情報共有体制を築きます。
  • 緊急時の対応フロー策定: 脅迫事案が発生した場合に備え、社内の危機管理フローを決めておきます。法務・コンプライアンス部門を中心に、広報やITセキュリティ部門とも連携した対応チームを編成し、初動対応手順(証拠保全、警察への通報、取引先への説明など)をマニュアル化します。
  • 法執行機関との連携: 悪質な恐喝を受けた際は企業判断で内々に処理しようとせず、速やかに警察に相談します。昨今,サイバー犯罪に対して,各都道府県警も特別捜査室を設置していることが多く、専門部署がディープフェイク画像の解析や犯人特定を支援してくれます。被害届の提出にあたっては必要に応じ顧問弁護士の助言を仰ぎ、刑事告訴も視野に入れた法的措置を検討します。
  • メールフィルタリング強化: 技術的対策として、脅迫や詐欺の兆候があるメールを自動検知するフィルタを導入します。「送金要求」「機密漏洩」等のキーワードをトリガーに管理部門へアラートが飛ぶ仕組みを設けることで、社員個別の判断に頼らず組織として怪しい連絡を察知できます。

実務上のポイント

脅迫への対応で最も重要なのは「冷静さ」と「報告体制」です。
脅し文句に動揺して単独判断で金銭を支払ってしまうと、さらなる要求をエスカレートさせる危険があります。社員には「脅迫メールは決して一人で抱え込まず、必ず上長や法務に共有する」文化を根付かせましょう。また万一フェイク情報を拡散するとの予告があった場合に備え、広報部門と協力して公式声明を速やかに出せる準備も欠かせません。被害を未然に防ぐだけでなく、発生後の被害拡大を最小限に抑える危機管理体制を平時から構築しておくことが肝要です。

ディープフェイク悪用による風評・業務被害

画像や音声を自由自在に操るディープフェイク技術も、企業に新たな脅威をもたらしています。AIが作り出す偽の映像・音声によって、企業や経営者になりすましたり虚偽情報を流布したりする手口です。海外では既に、Zoom会議上でAI生成の架空役員が社員を騙し、極秘資金の送金を指示するといった巧妙な詐欺事件が発生しました。この事件では多国籍企業が約37億円もの被害を受けており、AI偽装と社内手続の盲点を突いた犯行として注目されています。また別の事例では、イギリス企業のCEOが上司になりすましたAI音声に騙され約24万ドルを送金してしまいました。これらは典型的な詐欺型の被害ですが、ディープフェイクはさらに企業の信用失墜を狙った虚偽風評の拡散にも使われかねません。たとえば競合他社が当社の製品不良を捏造した動画をネットに流したり、経営トップの不適切発言を偽造音声ででっち上げたりすれば、瞬く間に株価下落や顧客離れを招くでしょう。事実、AIによる情報操作で株式市場に影響を与えるリスクは多く指摘されており、日本国内でも十分起こり得るシナリオです。

こうした場合、企業は業務妨害罪(刑法233条・234条)や名誉毀損罪(刑法230条)などで加害者を刑事告訴できる可能性がありますが、一度流布したデマを完全に回収することは難しく、被害の深刻さは計り知れません。

想定される法的リスク

ディープフェイクによる攻撃は,いくつものリスクを抱えます。社内手続の不備を突かれれば前述のように巨額の金銭被害(詐欺罪)が生じますし、虚偽情報の拡散によって取引先や消費者からの信用を失えば営業上の損失は甚大です。

不当なデマ拡散は刑事上も信用毀損罪・業務妨害罪(刑法233条・234条)が成立し得る違法行為ですが、犯人を突き止めて刑事責任を問うまでに時間がかかるのが実情です。また、ディープフェイク生成物そのものについて,日本の現行法では明確な規制がなく(※2025年7月時点)、被害を受けても直ちに削除や差し止めを強制できない可能性があり,既存の法的枠組みを活用するしかありません。

企業法務としては、「攻撃を事前に防ぐこと」と「万一被害に遭った後の被害拡大抑止」の両面で迅速に対応することが求められます。

実務上の対応策

ディープフェイク起因の被害を防止・軽減するため、以下の対策を講じましょう。

  • 重要プロセスの多要素確認: 社内で金銭振込や機密情報開示など重大なプロセスを実行する際、複数の確認手段を組み合わせるルールを設定します。例えば経営幹部からの支払指示はメールや音声だけでなく、必ず直接対面もしくは電話で再確認する運用とします(なりすまし詐欺の防止)。実際、一部企業では敢えてITに頼らず人間の対話を重視したアナログの確認方法(例:二要素認証の徹底)を導入し、ディープフェイク詐欺への備えをしています。
  • 風評被害へのモニタリング: SNSや動画サイト等で自社に関する不審な情報拡散がないか、日頃からモニタリングを行う体制を整えます。自社名や経営者名を定期的にエゴサーチしたり、専用の監視サービスを利用したりして、早期にフェイク情報を発見することが重要です。万一、虚偽の投稿を確認した場合は速やかに証拠を保存しつつ、プラットフォーム運営会社へ通報して削除要請を行います。
  • 法的措置と広報対応の準備: 悪質なデマ拡散やなりすまし被害が発生した場合に備え、平時から顧問弁護士と協議して刑事告訴や民事差止請求の方針を決めておきます。被害発生時には所轄警察や専門機関と連携しつつ、必要なら発信者情報開示請求など法的手段も駆使して早期解決を図ります。同時に、広報部門が中心となり事実無根である旨の公式声明を迅速に公表し、取引先や顧客の不安を和らげることも大切です。
  • 従業員教育と情報共有: ディープフェイク映像や音声に社員が騙されないよう、定期的にセキュリティ教育を行います。巧妙な偽動画の実例を見せ、どんな点で違和感に気づけるか討議するといった訓練も有効です。また万一社内で不審な指示や情報を受け取った場合にすぐ相談し合えるよう、部署横断の連絡網を普段から機能させておきます。

実務上のポイント

ディープフェイク被害は一度起これば甚大ですが、「発生を前提」とした危機対応力を養うことが重要です。技術的検知が追いつかない現状では、人間の注意力と組織的対応が最後の砦となります。社内ルールで「高額送金の指示は必ず複数人確認」「重要発表は広報を通じて行う(社員個人のSNS発信は禁止)」などと定め、フェイク情報に乗じた混乱を未然に防ぎましょう。また、取引先や顧客にも平時から「万が一当社関係者の怪しい情報を見聞きしたらお知らせください」と伝えておけば、社外からの早期通報に繋がる可能性があります。社内外で協力し、不審な情報はまず疑って確認する風土を作ることが最大の防御策となります。

おわりに

生成AIの発展は企業活動に多大な恩恵をもたらす一方、その悪用による犯罪リスクも現実のものとなりつつあります。書類偽造による詐欺巧妙化する脅迫・恐喝ディープフェイクによる業務妨害――これらは従来別個のリスクでしたが、生成AIという強力なツールによって誰もが手軽に実行できる時代になりました。企業の法務担当者は、自社がそうした新手の犯罪被害に遭う可能性を常に念頭に置き、社内規程の整備や従業員教育、そして事件発生時の対応フロー策定に取り組む必要があります。幸い、日本でも警察や関係省庁がAI悪用犯罪への対策を強化し始めており、また有識者によるガイドライン策定も進んでいます。企業としても顧問弁護士等と連携し最新動向をキャッチアップしながら、技術と法制度の両面から「備えあれば憂いなし」の体制を築きましょう。生成AIを“有用な道具”として安全に使いこなすために、法務の果たすべき役割は今後ますます重要になると言えます。

生成AIに関連する法整備やガイドラインについては日々アップデートが行われているため、企業法務担当者の方は最新情報をウォッチしつつ、自社の実情に即した対策を講じてください。本記事が、皆様の企業におけるリスク管理と安全なAI利活用の一助になれば幸いです。

スニーカー販売と必要になる許可①

2025-07-22

【事例】
Aさんは、福井県敦賀市に住む会社員ですが、大学生の頃からの趣味でスニーカーの蒐集をしていました。
ただ、結婚を機に蒐集していたスニーカーを手放そうと考えて、オークションサイトやフリーマーケットアプリで売却をしたところ、思ったよりも高値で売却することができました。
その経験をきっかけに、Aさんは、会社員の傍ら、副業としてスニーカーの転売をしようと考えました。
Aさんとしては、オークションサイトやフリーマーケットアプリ、中古販売店などから、相場よりも安く希少なスニーカーを見つけてきて購入し、オークションサイトで転売しようと考えています。
また、事業が軌道に乗れば会社を作って転売をしていこうとも考えています。
しかし、Aさんは、初めて副業をすることから、許可など法律的に必要になる手続きがあるのか不安になりました。
もしも許可などの必要な手続きを怠った場合、本業の方にも影響があるのではないかと心配で、あいち刑事事件総合法律事務所に相談することにしました。
(事例はフィクションです。)

古物営業法違反の刑事事件についてはこちら

1 はじめに

ある事業を行うときには、法律によって様々な規制を受けることになります。
そのような規制のうち大きなものでいえば、その事業を行うには許可を受けなければならないというものや、その事業を行うという届出をしておかなければならないというものもあります。

今回のAさんのように、中古品の転売をするという事業も、このような規制を受ける事業の1つです。
具体的には、古物営業法という法律の規制を受けることになります。
これは、会社(法人)として行う場合であっても、個人として行う場合であっても変わりません。

2 「古物」とは

そもそも古物営業法が規定している古物とはどのようなものでしょうか。
古物営業法によると「古物」とは、「一度使用された物品(鑑賞的美術品及び商品券、乗車券、郵便切手その他政令で定めるこれらに類する証票その他の物を含み、大型機械類(船舶、航空機、工作機械その他これらに類する物をいう。)で政令で定めるものを除く。以下同じ。)若しくは使用されない物品で使用のために取引されたもの又はこれらの物品に幾分の手入れをしたもの」とされています(古物営業法2条1項)。
つまり、①「一度使用された物品」、②「使用されない物品で使用のために取引されたもの」、③「これらの物品に幾分の手入れをしたもの」の3つに分けることができます。

ポイントは、「古物」に当たるのは、いわゆる中古品、リサイクル品(①)だけではないということです。
壊れたものを修理して売る場合(③)はもちろん、新品を購入して転売する場合(②)でも、その売る物は「古物」に当たることになるのです。

今回は、古物営業法の許可を解説するにあたり、規制を受ける対象のうち、「古物」について解説していきました。
このような規定からすると、Aさんが売ろうとしているスニーカーが、履いたことのあるものであっても、一度も履いたことのないスニーカーであっても、古物営業法の規制を受ける可能性がありそうですよね。
ただ、古物営業法は、「古物」に関する取引の全てを許可が必要なものとして規制しているわけではありません。
規制の対象としている取引を限定しています。

3 「古物営業」とは

古物営業法は、「古物営業」のうちで一定のものを営もうとする場合は、都道府県の公安委員会で許可を受けなければならないと定めています(古物営業法3条)。
それでは、「古物営業」とはどのようなものでしょうか。

「古物営業」としては、次の3つが規定されています。

①「古物を売買し、若しくは交換し、又は委託を受けて売買し、若しくは交換する営業であつて、古物を売却すること又は自己が売却した物品を当該売却の相手方から買い受けることのみを行うもの以外のもの」(古物営業法2条2項1号)
②古物市場(古物商間の古物の売買又は交換のための市場)を経営する営業(同2号)
③古物競りあっせん業(古物の売買をしようとする者のあっせんを一定の競りの方法により行う営業)(同3号)

このうち、①か②の営業を営もうとする場合には、古物営業の許可を受けなければなりません(古物営業法3条)。

Aさんが営もうとしている事業は、②古物市場を経営する営業(古物営業法2条2項2号)ではなく、スニーカーの転売に関する事業です。
そのため、Aさんが営む事業が、①「古物を売買し、若しくは交換し、又は委託を受けて売買し、若しくは交換する営業であつて、古物を売却すること又は自己が売却した物品を当該売却の相手方から買い受けることのみを行うもの以外のもの」(古物営業法2条2項1号)に該当するとなれば、Aさんは古物営業の許可を受ける必要が出てきます。

結論から先に言うと、Aさんの行おうとしている取引を例にとっても、その全てが古物営業の許可が必要な取引ではありませんが、一部、許可が必要な取引が含まれる可能性があります。
そのため、Aさんの場合でも、古物営業の許可を受けておく必要が出てきえます。
その具体的な内容については、次回以降の記事で解説していきます。

弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所では、刑事事件に関わってきた経験を活かし、そもそも法律に違反しないための対応・アドバイスにも力を入れています。
許認可申請についてアドバイスがほしい、継続的に弁護士からアドバイスを受けたいなどといったご要望の方も、一度、あいち刑事事件総合法律事務所にご相談ください。

お問い合わせはこちらからどうぞ。

ステルスマーケティング規制と行政指導・行政処分②

2025-07-15

【事例】

Xさんはスポーツジムやエステサロンを展開するA社の代表取締役を務めていました。
AさんはSNSを通じた顧客獲得に関心を持っていました。
そして令和6年頃からSNS上のインフルエンサーに依頼して自社のスポーツジムやエステサロンをおすすめする記事を投稿してもらっていました。
そのうちXさんは、PR案件であることを明示すれば顧客が信じないと考え、投稿された記事についてPR案件という表示を行わずに自社のサイトでお客様の声として自社のサイトにアップしていました。
この投稿が問題ではないかという声が社内であがり、Xさんは刑事事件や行政処分の対応に詳しいあいち刑事事件総合法律事務所の弁護士に相談しました。
(事例はフィクションです)

1 ステルスマーケティング規制の要件について

今回の記事ではステルスマーケティング規制の要件について詳しく解説します。
先述した内閣府からの告示によれば規制されるのは、「事業者が自己の供給する商品又は役務の取引について行う表示であって、一般消費者が当該表示であることを判別することが困難であると認められるもの 」と説明しました。
この規制内容について要件に分ければ

①事業者が自己の供給する商品または役務の取引について行う表示であること
②一般消費者が①の表示であることを判別することが困難であると認められること

①の要件は事業者が表示しているといえる場合で、「事業者の表示」の要件と言い換えることができます。
②の要件は消費者から見て事業者が表示していると判別することが困難といえる場合で、「判別困難性」の要件と言い換える事ができます。

2 「事業者の表示」要件について

当然ですが事業者(経営者)が第三者を装って口コミなどを書けば当然にこの要件を満たします。
実際に問題になるのは口コミなどを書いているのはインフルエンサーや従業員などの第三者(事業者以外の者)であるが「事業者の表示」であるとみなされる場合です。
これについて消費者庁はホームページで運用基準を示しています(https://www.caa.go.jp/policies/policy/representation/fair_labeling/stealth_marketing/)。
自社の従業員による表示については「事業者と一定の関係性を有し、事業者と一体と認められる従業員による表示」といえる場合には事業者の表示とみなされます。
具体例としては本社の販促担当者や子会社のマーケティング担当者が投稿などを行う場合には、仮に当該従業員が自主的な判断で表示していた場合でも「事業者の表示」にあたるとしています。
インフルエンサー等の第三者であっても、事業者が当該インフルエンサー等の第三者に依頼して自社の商品を宣伝してもらう場合には「事業者の表示」にあたるとしています。

3 「判別困難性」要件について

一般の消費者にとって、事業者が表示している明白である場合や、社会通念上明らかである場合には、消費者がそのことを割り引いて評判などの考えるのでステルスマーケティングの問題が生じません。
代表的な表示としては企業自身が広告をする場合や、インフルエンサーなどが「PR案件」などの表示を行う場合です。

注意が必要な場合としては、仮に形式的には「PR」などの表示がある場合でも外形的に第三者の表示と認識されるような場合には、判別困難性の要件を満たしてしまうということでっす。

例えば、自社サイトに記載しているが「お客様の声」などのように第三者からの感想のように記載している場合や、「PR」の記載が一般消費者が認識できないほどの時間やサイズでしか表示していない場合も「判別困難性」の要件を満たすことになります。
判別困難性についても、上述した消費者庁が公表している運用基準(https://www.caa.go.jp/notice/entry/032672/)に詳しく規定がありますので参考にしてください。
個別の事例について判別困難性の要件を満たしているか不安な方は是非、広告規制に精通した弁護士に一度ご相談ください。

事例1の検討

ここまで「事業者の表示」の要件、「判別困難性」の要件について解説してきました。
ではA社の事例についてはステマ規制に抵触するのか検討していきたいと思います。

A社が行っている広報活動については令和6年以降しているものなので、改正後のステルスマーケティング規制に違反しているかが問題になります。

まず①の要件については、A社はインフルエンサーの方に直接依頼して作成してもらっているので、「事業者の表示」の要件は満たします。
次に②の要件についてですが、一見すると自社サイト内での表示なので問題にないように思われます。
しかしインフルエンサーの方の投稿を自社のサイト内で「お客様の声」として第三者からの評判のように紹介しており、元の投稿に付いていた「PR案件」の表示も敢えて削除していることから、消費者からA社の表示と判断することは困難であると判断される可能性が高いと思われます。
したがって②の要件についても満たす可能性が高いといえます。

以上から、事例1についてはステルスマーケティング規制に抵触する可能性が高い広報活動であるといえます。

次回の記事では、ステルスマーケティング規制に違反した場合にどのような手続きが予定されているかについて解説します。

お問い合わせはこちらからどうぞ。

楽天・Amazonの違反事例から学ぶ景品表示法のポイント

2025-07-08

近年、景品表示法に基づいた規制,取締は厳しさを増しています。2024年度には消費者庁による調査件数が前年度の約2倍、指導件数は約4倍に急増しました。特に2024年には、根拠のない「No.1」表示に対する行政処分が次々に行われ、虚偽・誇大な広告表示への取り締まりが一段と強化されています。こうした摘発強化は企業経営に大きな影響を及ぼし、違反が判明すれば措置命令や課徴金といった行政処分だけでなく、社名公表による信用失墜や売上減少など重大なリスクを招きます。本記事では、中小企業の経営者や法務担当者の方々に向けて、楽天市場やAmazonといったECプラットフォーム上での表示に関して、2024年に行政処分を受けた具体的な事例を踏まえながら、企業が遵守すべき景品表示法の要点を解説します。

1. 景品表示法とは

景品表示法(正式名称:不当景品類及び不当表示防止法)は、消費者に誤認を与える表示や過大な景品提供を禁止し、消費者の正しい選択と公正な競争を守るための法律です。具体的には、商品の品質・性能などを実際以上に良いと誤認させる表示(優良誤認)や、価格や取引条件を実際より有利だと誤認させる表示(有利誤認)を不当表示として禁じています。また、違反した事業者には消費者庁が措置命令や課徴金納付命令を発出する権限を有します。

2. 事例(2024年の行政処分例)

2024年にはECサイト上での表示に関し景品表示法違反による措置命令を受けた事例がいくつも報告されています。例えば2024年12月、楽天市場上で海外安全基準適合をうたう自転車用ヘルメットを販売していた3社が、実際には基準未達の製品に「CE認証済み」と表示した優良誤認表示により措置命令を受けました(景表法5条1号違反)。

引用 自転車用ヘルメットの安全性で不当表示

また、通販サイト上で架空の高値を「通常価格」と見せかけて割引率を誇張する二重価格表示も問題となっており、過去にはAmazonで「参考価格9720円(90%オフ)」と表示した事例が実態なき価格設定として景表法違反に認定されています。こうした虚偽・誇大な表示に対し、消費者庁は積極的に行政処分を行っています。

3. 優良誤認表示とは

優良誤認表示とは、商品やサービスの品質・規格・性能などについて、実際よりも著しく優れていると誤認させる表示をいいます。根拠のない効能を謳った健康食品の広告や、自社製品が競合品より優秀だと事実と反して宣伝する行為が典型例です。なお、客観的な裏付けなく「No.1」と称する表示も優良誤認に当たり得る表現として注意が必要で、2024年にはこうした表示への措置命令が相次ぎました。

優良誤認表示は景品表示法第5条第1号で禁止されており、このような表示を行えば措置命令や課徴金納付命令の対象となります。

4. 有利誤認表示とは

有利誤認表示とは、商品の価格や取引条件などについて、実際よりも著しく有利であると誤認させる表示をいいます。たとえば実態のない割引率を謳ったセール広告、常態化しているのに「期間限定」と銘打つキャンペーン、付かない特典をあるように見せる宣伝などが該当します。消費者に過大な「お得感」を抱かせる不当表示であり、景品表示法第5条第2号で明確に禁止されています。これも違反すれば優良誤認の場合と同様、措置命令や課徴金納付命令の対象となります。

5. 二重価格表示の違法性と実例

二重価格表示とは、商品に現在の販売価格と比較対象となる別の価格を併記し、値引きの大きさを訴求する表示手法です。しかし比較対象として示す「通常価格」等に実態がない場合、一般消費者に販売価格が安いと誤認させる有利誤認表示に該当し、行政処分の対象となります。

例えば、ある家具通販サイトでは「通常価格:¥25,190」を取り消し線付きで掲示し、その下に「¥18,590」とセール価格を表示していましたが、実際にはその「通常価格」で直近販売された実績がなく、あたかも大幅値下げしているように見せていたため有利誤認と判断されています。このような不当な二重価格表示に対しては、消費者庁は措置命令や課徴金納付命令を発令し、厳正に対処しています。

6. 企業がとるべきコンプライアンス対応

企業は以下のポイントを徹底し、景品表示法違反のリスクを防止しましょう。

  • 表示内容の事前チェック:広告表示の事実関係や根拠を十分に確認し、誇張や曖昧な表現を避けます。「No.1」など最上級表現は根拠なく使わず、用いる場合もデータや出典を明示します。
  • 適正な価格表示:セールや割引の宣伝では比較対象価格の販売実績を確認し、適正な二重価格表示を行います。「期間限定」「○名様限定」などの宣伝文句も実態に即した期間・数量で用い、終了後は表示を直ちに改めましょう。
  • ステルスマーケティングの禁止:SNSや口コミを利用した宣伝では、必ず「PR」「広告」など広告であることを明示し、広告であることを隠す行為は禁止です。
  • プラットフォーム規約の遵守:Amazonなど主要ECでも景表法順守の規約が強化されています。各プラットフォームのガイドラインを確認し、遵守しましょう。

参考 インフルエンサー広告についての解説

7. 事務所紹介

弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所は、企業の不祥事対応に特化したコンプライアンス専門チームを有し、景品表示法案件にも豊富な知見と対応実績があります。違反が疑われる段階での早期相談から、消費者庁への報告対応、再発防止策の策定、社内研修の実施まで、企業側に寄り添った法的支援を一貫して提供いたします。万一、悪質な事案で刑事責任が問われる場合でも、刑事事件に強い当事務所のノウハウを活かし、リスクを最小限に抑える対応が可能です。景品表示法に関するお悩みは、ぜひ当事務所までご相談ください。

お問い合わせはこちらからどうぞ。

景品表示法,医事法違反で制裁も?インフルエンサー広告の落とし穴

2025-07-01

※生成AIによるイメージ

はじめに

近年、SNS上のインフルエンサー広告を取り巻く法規制が急速に強化されています。2023年10月には「ステルスマーケティング規制」が施行され、広告であることを隠した宣伝行為が正式に行政処分の対象となりました。実際に2024年には美容サプリやスキンケア商品の広告で違法な効能をうたったケースが報道され、企業が炎上・摘発される事例が相次いでいます。広告担当者にとって、これまで以上に法的リスクへの備えが不可欠な時代となっています。

1. 薬機法と景品表示法が規制する広告表現とは

薬機法(医薬品医療機器等法)は、医薬品や化粧品などの広告において、効果・効能に関する虚偽や誇大な表現を禁止しています。例えば、医薬品でないサプリメントを「あたかも病気の予防や治療ができる」かのように宣伝することは薬機法違反となります。一方、景品表示法は商品の品質や効果について消費者を誤認させる表示を禁止する法律です。根拠のない「世界一」「絶対○○できる」といった断定的な表現や、実際以上に優良に見せかける広告表示は景品表示法の規制対象となります。これらの法律は、消費者が正しい情報に基づいて商品を選択できるよう、企業に対し適切な広告表現を求めています。

2. 事例(2024年のインフルエンサー広告炎上・摘発事例)

2024年にはインフルエンサー広告に関連した違反事例が次々と明るみに出ました。例えば、大手製薬会社がアンチエイジング効果をうたうサプリメントの宣伝でインフルエンサーを起用し、投稿を自社サイトに転載する際に「PR」明記を怠ったため、消費者庁から景品表示法違反で再発防止の措置命令を受けています。
参考 消費者庁の公告
このケースでは、広告であることを隠したステルスマーケティングが問題視され、健康食品分野では新規制後初のステマ認定となりました。

また、医療機関では来院者に対し「Googleレビューで星5投稿」を条件に治療費を割引する行為が発覚し、2024年6月にステマ規制違反で措置命令が下されています。
参考 消費者庁の公告 
これらの事例は、企業にとってインフルエンサーやSNSを利用した宣伝に潜む法的リスクの現実を突きつけています。

3. ステルスマーケティング規制の要点と広告主の義務

ステルスマーケティング規制とは、企業が関与した宣伝であるにもかかわらず広告であると分からないように見せかける表示を、不当表示として取り締まるもの。日本では2023年10月1日から景品表示法の運用基準が見直され、ステマが正式に規制対象に位置付けられました。

具体的には、「事業者による広告であるにも関わらず第三者の中立的意見と誤認される表示」が違法とされ、行政処分の対象となります。広告主には、自社が依頼したインフルエンサー投稿やレビュー記事に「#PR」「広告」等の表示を明示させる義務があります。規制開始後は、既存の投稿も表示が残っていれば対象となるため、過去の宣伝についても広告主は点検と是正が求められます。

広告表示の透明性確保は企業の責務であり、「広告であることを隠さない」ことが信頼維持の前提条件になったといえます。

4. インフルエンサー・広告代理店・企業の法的責任の所在

インフルエンサー広告における法的責任は、広告主・制作者から発信者まで幅広い関係者に及びます。薬機法では「何人も」違反広告をしてはならないと規定されており、広告に関与した個人も処罰対象です。実際、2021年には個人アフィリエイターが自身のサイトで違法な効能をうたい書類送検された例もあり、この事案は商品が数個しか売れていなくとも摘発され得ることを示唆しています。

景品表示法についても2023年改正により、違法表示に広告主と共同で関与した広告代理店やインフルエンサーも罰則対象となりました。つまり、企業が依頼したインスタグラムPR投稿であっても、違反表現があれば投稿者本人も含め広告主も法的責任を問われる可能性があります。このため広告主はインフルエンサーや代理店任せにせず、事前に表現内容をチェックし指導を徹底する必要があります。法規違反があれば企業・代理店・起用したインフルエンサー全てが社会的・法的な責任を負う時代となったのです。

5. よくある違反表現とそのリスク解説

美容・健康商材の広告では、効果を強調するあまり違反となる表現を使ってしまいがちです。

典型例として、

・「このサプリを飲めば必ず痩せる

・「このクリームを塗ればニキビが治る

といった断定的・万能感のある謳い文句はNG表現です。

こうした表現は薬機法・景品表示法に抵触し、行政から措置命令(違法表示の停止や再発防止の命令)を受けるリスクがあります。

措置命令を受けると企業名公表や広告差し止めが行われ、従わない場合は2年以下の懲役や3百万円以下の罰金(法人は最大3億円)といった刑事罰に発展しかねません。

また、法律違反まではいかなくとも「嘘っぽい宣伝」と受け取られればSNSで批判が拡散し炎上しやすく、ブランドイメージの毀損や販売停止に追い込まれる危険もあります。Amazonや楽天などのECサイトでは,虚偽広告をした事業主に対する制裁として出品や出店の停止の措置をとることもあります。

根拠のない誇張表現は一時的な集客効果よりも大きな損失を招くリスクがあることを肝に銘じる必要があります。

6. 法的チェック体制の構築と広告審査のポイント

企業がインフルエンサーやSNSでのPR施策を安全に運用するには、万全の内部チェック体制を築くことが重要です。まず、社内で薬機法・景表法に関するガイドラインを策定し、どんな表現がNGかをマーケティング担当者やインフルエンサーに周知徹底しましょう。

投稿内容やLP(ランディングページ)は事前に法務担当者や専門家によるチェックを行い、根拠のない表現や誤認のおそれがないか確認します。自社で対応が難しい場合は、薬機法に詳しい弁護士やコンサルタントに定期的に監修を依頼するのも有効です。

また、アフィリエイト広告やインフルエンサー投稿については媒体管理を徹底し、報酬目当ての過剰表現が行われていないかモニタリングする必要があります。報酬提供時には「PR表示を必須にする」「禁句リストを共有する」などのルールを契約書に明記し、遵守状況を確認しましょう。

さらに、万一問題が発覚した際の対応フローも決めておくことで、迅速な投稿削除や再発防止策の実施が可能になります。法律知識のアップデートと社内教育の継続により、違法表現の未然防止と万全なリスク管理体制を構築することができます。

インフルエンサー広告の法令遵守に不安がある企業様は、ぜひ専門家への相談をご検討ください。当事務所(弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所)は刑事事件を専門とし、薬機法違反や景表法違反などの特別法違反事件にも対応実績があります。

広告表現の事前チェックや表示改善のアドバイスはもちろん、万が一行政から調査や措置命令を受けた際には法的対応を全面サポートいたします。また、インフルエンサー契約や広告代理店との取引に関するリーガルチェック、社内研修によるコンプライアンス体制強化支援なども行っています。

不安や疑問がございましたら一人で抱え込まず、違反の未然防止からトラブル対応まで経験豊富な弁護士にご相談ください。企業が安心してマーケティングに取り組めるよう、法的側面から全力で支援いたします。

お問い合わせはこちらからどうぞ。

民泊サービスを始める場合の法律上の注意点⑦

2025-06-24

民泊サービスを始める場合の法律上の注意点に関し弁護士が解説します⑦

【相談】

不動産事業を営むX社の社長であるAさんから次のような相談を受けました
実は自社の顧客から
「自分が住む一軒家や持っている別荘を利用して民泊サービスを始めようと考えているがどうすればよいのか」
と相談されているのだがどのように対応すればよいのか。
最近住宅宿泊事業法という法律が施行されたと聞くがそれは旅館業法とは何が違うのか。
(相談はフィクションです)

前回までの記事では住宅宿泊業法の「住宅」の要件について解説しました。
実際に民泊サービスとして使用する「住宅」が決まれば、次は開業するための手続きになります。
今回の記事では、住宅宿泊事業法に基づいて民泊サービスを始める場合の手続きの概説について解説します。

1 届出方法について

住宅宿泊事業を始めるためには、住宅の所在地を管轄する都道府県知事等に届け出る必要があります(住宅宿泊事業法第3条1項)。
ここでのポイントは、旅館業法の場合は「許可」を申請する必要があったのに対して、住宅宿泊事業法では「届出」で手続きが足りるということです。
許可と届出の違いの説明はここでは省略しますが、旅館業法に基づくよりも手続きが簡便になっています。
届出をする際の記載事項に関しては住宅宿泊事業法第3条2項に定めがあります。
住宅宿泊事業法第3条
2 前項の届出をしようとする者は、国土交通省令・厚生労働省令で定めるところにより、住宅宿泊事業を営もうとする住宅ごとに、次に掲げる事項を記載した届出書を都道府県知事に提出しなければならない。
一 商号、名称又は氏名及び住所
二 法人である場合においては、その役員の氏名
三 未成年者である場合においては、その法定代理人の氏名及び住所(法定代理人が法人である場合にあっては、その商号又は名称及び住所並びにその役員の氏名)
四 住宅の所在地
五 営業所又は事務所を設ける場合においては、その名称及び所在地
六 第十一条第一項の規定による住宅宿泊管理業務の委託(以下単に「住宅宿泊管理業務の委託」という。)をする場合においては、その相手方である住宅宿泊管理業者の商号、名称又は氏名その他の国土交通省令・厚生労働省令で定める事項
七 その他国土交通省令・厚生労働省令で定める事項

7号の「その他国土交通省令・厚生労働省令」は前回の記事でも出てきた住宅宿泊業法施行規則になります。
上記にあげた事項の他に記載すべき事項については詳しくはこちらの法令を確認いただくか信頼できる弁護士にご相談ください。

2 住宅宿泊事業の管理について

先ほど挙げた届出事項の中に「住宅宿泊管理業務の委託をする場合」という文言がありました(住宅宿泊業法第3条2項6号)。
住宅で「民泊サービス」を提供する場合には、その住宅に誰か民泊を管理する人間が必要になります。その業務の事を住宅宿泊管理業務というのです。
住宅宿泊事業者が行うべき管理業務の内容については住宅宿泊事業法第5条から第10条に規定があります。
例えば住宅の清掃等の衛生の確保や、宿泊者の安全の確保などが規定されています。

もちろんこれは住宅宿泊業を営む者が、その「住宅」に常駐して行うのであれば問題ありませんが、それができないのであれば管理業務を第三者に責任をもって委託しなければなりません。
委託をする場合には、その委託された者が「住宅宿泊管理業者」となるのです。

3 旅館営業と民泊サービスの違い

民泊サービスを始める施設に関する基準

旅館業法として住宅宿泊業法に基づいて民泊サービスを始める場合のメリットとして、施設に対する基準の要件が緩いところです。
民泊サービスを始める場合の初期投資として最も大きなものは施設に関する費用であることがほとんどです。
記事でも住宅宿泊業法の「住宅」の要件について解説しましたが、要するに今住んでいる家の一室を利用しても開業することが可能な場合が多いです。
その点で開業のためのハードルが低いといえるでしょう。

手続きの違い

始める際の手続きについては許可制と届出制の違いがあります。
旅館業法では許可制とされており、住宅宿泊業法では届出制となっています。
許可制の場合は本来禁止されている行為を法令で特別に許可を与える制度ですので、仮に要件を満たしていても不許可となり開業が認められない場合があります。
そのために事前の行政側との面談が重要であることは以前の記事で解説した通りです。
これに対して届出制の場合は要件を満たしていれば、届出をした時点で効力が発生します。
この手続きの違いから届出制を取っている住宅宿泊業法による方が手続き面でもハードルが低いといえるでしょう。

営業日に関する基準

ここまで説明すると旅館業法の方がよいかもしれませんが住宅宿泊業法に基づいて民泊サービスを始める場合には日数制限があります。
具体的には1年の約半分である180日を超えて営業してはならないと定められています。
この日数を超えて営業すれば違法な営業となっています。
日数制限があるということは、その限られた営業日数で施設にかかる費用や人件費などにかかる維持費と比較して採算がとれている必要があります。
したがって始めるための手続や設備についての要件が簡単だからという理由だけで安易に住宅宿泊業法に基づいて民泊サービスを始めることは避けた方がよいでしょう。

4 まとめ

このように民泊サービスを始めようとする場合には複数の選択肢があり、それぞれにメリットやデメリットがあります。
またうまく開業にこぎつけたとしても管理に関するトラブル、行政指導など行政側への対応、顧客対応など法的な対応が必要になるケースは珍しくありません。
弊所では法令に精通した弁護士のみならず、規制に関する問題に強い元検察官の弁護士、許認可関係に強い行政書士など多数の専門家が在籍しています。
民泊サービスを開業することをご検討の方は是非、許認可関係に精通したあいち刑事事件総合法律事務所にご相談ください。
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