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学校法人の不祥事を防ぐ「予防法務」とは?体罰・資金不正を刑事事件化させないための実践策

はじめに
学校法人や教育機関では、教師による体罰、生徒や職員へのハラスメント、資金の不正流用、不正な入試操作、不祥事の隠蔽といった様々な問題が発生し得ます。これらの問題は放置すれば刑事事件に発展してしまい、組織の信用を大きく損ねるリスクがあります。初期対応の誤りが重大事態や訴訟リスクに直結する現代では、法的知見に基づいた組織的な危機管理の視点が不可欠です。実際、多くの学校法人が弁護士への相談を通じて予防法務の重要性を痛感しており、有事に迅速かつ的確に行動するための知識が現場で強く求められています。
本記事では、学校内で問題が刑事事件化する前に対処する「予防法務」の重要性について解説します。施設管理部、法務部、総務部など学校現場の職員の皆様を対象に、ガバナンス強化やハラスメント防止規程の整備、コンプライアンス研修、契約書チェック、内部通報制度など、弁護士の支援を得た実践的な予防策を具体的に紹介します。これらの取組みにより教育現場のリスクを未然に防ぎ、学校の信頼と安全を守ることが本記事の目的です。
予防法務の重要性
予防法務とは、問題が発生して刑事事件や訴訟になる前に、法的リスクを洗い出して対策を講じておく取り組みを指します。従来、学校現場では何か問題が起きた際に事後対応として法務に頼ることが多く、対症療法にとどまっていました。しかしそれでは本当の意味で組織の改善や再発防止にはつながりません。ハラスメント事案への対応一つ取っても、個別の解決だけでは同じ問題が繰り返されることが指摘されています。このため昨今では、学校法人のガバナンス(組織統治)を発展させるために、事前の法務を積極的に活用する姿勢が重要視されています。
実際、2023年の私立学校法改正により学校法人のガバナンス強化は待ったなしの課題となっており、受動的対応ではなく積極的に総合的施策を展開することが求められています。予防法務に取り組むことで、学校は不祥事の芽を早期に摘み、刑事事件化する事態を防ぐことができるのです。
事例
予防法務の必要性は、近年の教育現場の不祥事事例からも明らかです。例えば、教師による体罰が発生した場合、生徒側が被害届を出せば暴行罪や傷害罪などで刑事事件化する可能性があります。実際に体罰行為によって逮捕された教師も過去におり、「学校の中のことだから大事にならない」とは言えません。
また、学校法人の役員等による資金不正が発覚すれば業務上横領罪で告訴されるケースもあります。実際、ある学校法人で元理事が3億円以上の資金を不正に引き出し、法人が業務上横領容疑で告訴状を提出した事例も報じられています(実際の報道はこちら)。入試の不正操作に関しても、2018年の東京医科大学の事件では文部科学省幹部への贈賄の見返りに受験者の得点を操作したとして大学幹部らが有罪判決を受け、大きな社会問題となりました(実際の報道はこちら)。
さらに、校内でいじめや不祥事が起きた際に事実を隠蔽すると、被害者側から訴訟を提起され世間の厳しい批判を招く結果となります。あるいじめ事案では、学校が加害生徒への指導を怠り被害を軽視したためPTSDを負った生徒の保護者が提訴し、校長・教頭が辞職に追い込まれた例もあります。
このように予防策が不十分だったために刑事事件や訴訟に発展した事例は少なくありません。だからこそ事前に適切な対応策を講じ、問題の芽を摘んでおく予防法務が重要なのです。
学校内ガバナンス強化
学校法人におけるガバナンス強化とは、組織内の統制体制やチェック機能を高め、不正や不祥事を起こりにくくする仕組みづくりを指します。具体的には、理事会や監事による内部統制の充実、職務分掌の明確化や意思決定プロセスの透明化、そして法令遵守(コンプライアンス)を徹底する企業文化の醸成などが含まれます。
適切なガバナンス体制が整っていれば、仮に内部で不正の兆候があっても早期に発見・是正でき、問題が深刻化する前に手を打つことが可能です。またガバナンス強化には、外部の専門家である弁護士の知見を活用することも有効です。学校特有の問題(例えば教員の服務や学生対応)には専門知識と経験が必要であり、顧問弁護士として継続的に関与することで事前のリスク察知と体制整備に貢献できます。
近年の法改正や社会的要請もあり、学校法人すべてにとってガバナンス強化は避けて通れない大きな課題となっています。健全なガバナンスを確立することが、体罰や不正を未然に防ぎ学校への信頼を守る土台となるのです。
ハラスメント防止規程と危機管理マニュアルの整備
教育現場は他の組織に比べてもパワハラ(権力による嫌がらせ)やセクハラ、教員間のアカデミックハラスメント等が発生しやすいと言われます。そのため、学校法人にはハラスメント行為が起きないよう職場環境を整備し、明確なハラスメント防止規程を定めておくことが強く求められます。
具体的には、「何がハラスメントに該当するか」を定義し、禁止行為と処分規定、相談窓口や報告義務について規程に明記します。こうしたルールを事前に周知徹底しておくことで、教職員は互いに注意喚起し合い、万一問題が起きても被害申告や適切な対処がしやすくなります。
また危機管理マニュアルの整備も重要です。事故や不祥事が発生した際にどう対応するか、誰が責任者となり関係機関への連絡や記者発表を行うか、といった手順を定めておくことで初動対応の迷いを防げます。肝心なのは「速やかかつ誠実な対応」です。学校側が自己保身を優先して事実を隠したり対応を遅らせたりすれば、結果的に事態が悪化し被害が拡大することは多くの失敗事例が示す通りです。
逆に、マニュアルに沿って迅速な調査・被害者ケア・再発防止策を講じれば、警察沙汰や世間からの批判を防ぐことにつながります。弁護士は危機管理マニュアルの策定にも助言できるため、平時から専門家と協力してルール作りを進めておくことが有効です。
職員向けコンプライアンス研修
どれだけ立派な規程やマニュアルを作っても、現場の教職員一人ひとりがその内容を理解し実践できなければ意味がありません。そこで欠かせないのがコンプライアンス(法令遵守)研修です。職員向け研修では、具体的な事例を通じて学校現場で起こり得る法的トラブルと対応策を学びます。例えば「いじめが発覚したら学校としてどう動くべきか」「ハラスメントの兆候を見たときの報告義務」等、実践的なシミュレーションを行うことで、自分が当事者になった場合の適切な行動を身につけられます。
法律論だけでなく現場のケースに基づく研修により、教職員は抽象的な規則を自分事として捉え、日常業務で注意すべきポイントが明確になります。研修では弁護士など外部講師を招くことで、最新の法改正情報や他校の事例も共有できますし、「なぜそれが必要なのか」を法律面と実務面から説明してもらうことで理解が深まります。
近年はいじめ防止やハラスメント対策の研修が各地で行われており、初期対応の誤りが重大事態へ発展するのを防ぐ効果が出ています。定期的なコンプライアンス研修を実施することで、教職員全員の意識を高め、組織としてリスクに強い体質を築くことができるでしょう。
契約書チェックと内部通報制度
学校法人では物品購入や業務委託、雇用契約など様々な契約を締結します。契約書に不備があると、後々トラブルになったり法令違反が潜んでいたりする恐れがあります。例えば業者との契約で不利な条項を見落としていたために予算超過や債務トラブルが起きたり、職員との契約更新を適切に行わず雇止め紛争に発展したりといった事例があります。
こうしたリスクを避けるため、契約書の内容は事前に弁護士にリーガルチェックしてもらうことが有効です。法律の専門家が関与すれば、契約条項の不明確な点や法令違反の可能性を洗い出し、学校法人にとって公正かつ有利な内容となるよう修正提案を受けられます。あわせて、組織内の内部通報制度(公益通報制度)の整備も予防法務の重要な柱です。内部通報制度とは、職員等が組織内の不正や法令違反を見つけた際に、安心して報告できる窓口とルールを設ける仕組みです。早期に内部告発してもらえれば、不正やハラスメントを組織内で是正し、外部に発覚して刑事事件化・社会問題化する前に対処できます。内部通報窓口は社内に設置する方法もありますが、通報者の守秘や調査の中立性を担保するため、弁護士に外部窓口を委託する学校法人も増えています。
弁護士が窓口になれば、通報内容の法的評価や適切な調査手続きについても助言が得られるため、学校のコンプライアンス向上に非常に有効です。契約書チェックと内部通報制度、この両面からの対策によって、学校法人はトラブルの種を事前に発見・除去し、刑事事件化リスクを大幅に減らすことができるでしょう。
事務所紹介
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所は、刑事事件・少年事件を主要業務とする全国でも珍しい専門法律事務所です。名古屋を本部に東京や大阪など全国各地に支部を展開し、365日24時間体制で刑事事件に対応してきた実績があります。
こうした刑事弁護の豊富な経験から、教育現場でどのような行為が犯罪に該当し得るか、どの段階で法的トラブルに発展するかについて精通しています。実際に当事務所では教師による体罰事件や痴漢・盗撮事件、学校内での傷害・器物損壊事件など、教育機関に関連する数多くの刑事案件のご相談を受けてきました。さらに近年、当事務所は更生支援事業部を立ち上げ、犯罪の未然防止や再発防止にも力を入れています。
こうした活動を通じて教育機関の抱える課題に寄り添い、事前のリスク対策から万一の事件発生時の対応まで幅広くサポートできるのが当事務所の強みです。学校法人・教育機関の皆様は、体罰・資金不正・ハラスメント等のリスクに不安を感じたら、問題が表面化し刑事事件となる前にぜひ当事務所にご相談ください。経験豊富な弁護士が予防法務の観点から実践的なアドバイスを提供し、貴校の安全と信頼を守るお手伝いをいたします。
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元裁判官、元検察官、元会計検査院の官房審議官など企業案件の知識・経験の豊富な弁護士が、企業犯罪・不祥事対応等のコンプライアンス事案に対応します。
全国展開している事務所だからこそできるネットワークを生かした迅速な対応が可能です。
企業犯罪・不祥事に関するお問い合わせ、ご相談のご予約は24時間365日受け付けております。
企業犯罪・不祥事が起きてしまった場合の対応にお困りの方、予防法務も含めたコンプライアンス体制の構築・見直しをお考えの経営者の方は、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所に一度ご相談ください。
eスポーツ事業者における税務リスクと法務課題 ~ 弁護士に相談する重要性とは?

事業者の税務リスク:賞金・報酬の課税と源泉徴収
eスポーツの大会主催会社やプロチーム運営企業にとって、賞金や出演報酬に関する税務処理は大きな課題です。まず大会で優勝者などに支払う高額賞金については、その支払い方によって課税関係が変わります。一般に、賞金そのものは対価性のない支払いとされ、消費税法上は課税対象外(不課税取引)です。したがって、賞金を渡す際に消費税の請求書(インボイス)を発行する必要はありません。しかし一方で、出演料や解説料など大会運営者がゲスト出演者等に支払う報酬は「役務提供の対価」にあたるため課税取引となり、国内の支払先であれば消費税や適格請求書の対応が求められます。例えば、国内在住の実況者・解説者に報酬を支払う場合、インボイス制度への対応として相手が登録事業者かを確認し、未登録なら消費税相当額の調整が必要になるなど煩雑です。
また、賞金や報酬を海外プレイヤーに支払う場合の源泉徴収にも注意が必要です。日本国内で大会賞金等を個人事業主(選手本人)に支払う際は、主催企業が所得税の源泉徴収を行い納付しなければなりません。具体的には、日本居住の選手への賞金支払いでは支払額の10.21%を源泉徴収し、非居住者(海外在住選手)の場合は20.42%を天引きして税務署に納付します。ただし非居住者については各国との租税条約で源泉税率が0~10%に軽減される場合もあるため、主催者側で事前に選手の居住区分や条約適用の有無を確認し、適切な税率で源泉徴収することが重要です。万一、この源泉徴収を怠ったり誤った税率で支払ったりしてしまうと、後から主催企業に不足分の納税と加算税(ペナルティ)が課されるリスクがあります。
さらに、大会賞金の提供方法によっては「それ自体が広告宣伝費や交際費に該当するか」といった会計処理上の論点も生じます。企業が自社主催で賞金を拠出する場合、スポンサーからの協賛金を受け取っているか否かで科目処理が異なり、税務上の取扱いも変わり得ます。例えば、スポンサーなしで自社資金だけで賞金を提供するケースでは、その大会の目的が自社ブランドのPRなのか、取引先招待の接待なのかによって「広告宣伝費」または「交際費」として計上すべきか判断が分かれます。どの科目で処理するかは社内の収益区分や契約内容によってケースバイケースとなるため、税理士や弁護士に確認の上で適切に会計処理を行うことが推奨されます。
以上のように、eスポーツ事業者にとって賞金・報酬周りの税務は複雑で専門知識を要する領域です。特に国際大会で海外プレイヤーを招へいする場合や、消費税のインボイス制度開始後の報酬支払いについては、新たな法対応が求められます。こうした税務リスクに対して、事前に弁護士や税務の専門家へ相談し、源泉徴収漏れや申告漏れが無いよう対策を講じることが非常に重要です。法務・税務のプロのサポートにより、結果として追徴課税や罰則といったトラブルを未然に防ぎ、安心して大会運営・事業継続ができるでしょう。
契約トラブルのリスク:選手・スポンサーとの契約不備
eスポーツ業界では、契約書の不備や未整備によるトラブルも頻発しています。例えば、プロチーム運営会社と所属選手の間で正式な契約書を交わさずに活動を開始し、後から報酬配分や活動内容を巡って紛争になるケースが見られます。賞金の分配割合、ストリーミング収入の帰属、肖像権の扱い、移籍の制限など、本来であれば事前に合意しておくべき重要事項が曖昧なままだと、関係悪化時に法的対立へ発展しかねません。
事業者側としては、たとえ相手が未成年の若い選手であっても親権者の同意を得て契約を締結し、将来に禍根を残さないようにすることが大切です(未成年と契約する際は法定代理人の同意が無いと契約自体が取り消されるリスクがあります)。
また、選手との契約形態にも注意が必要です。日本のeスポーツチームでは選手を業務委託(個人事業主)扱いすることが多いですが、実態によっては労働基準法上の「労働者」と認定される恐れがあります。例えば、主催者やチームが選手に対し練習内容・拘束時間・遠征先を細かく指示し、遅刻や欠勤にペナルティを科し、さらに生活費を賄うような固定月給を支払っているような場合、形式が業務委託契約でも実質は雇用に近いと判断され得ます。もし選手が労働者とみなされれば、企業側には最低賃金の保証、時間外手当の支払い、社会保険加入義務、解雇制限の適用などが生じます。現に、ある大会主催者がゲスト選手を「出演者」として委託契約したものの、指揮命令の強さゆえに労働者性を指摘され問題となった例も報告されています。このように契約の名目と実態が乖離していること自体が法的リスクとなるため、雇用か委託かの線引きを慎重に検討し、必要に応じて就業規則や契約内容を整備する必要があります。
さらにスポンサー企業との契約に関してもリスク管理が重要です。プロチームや大会運営会社にとってスポンサーからの協賛金は生命線ですが、その契約内容が曖昧だと後に「宣伝効果が約束と違う」「不祥事でブランドが毀損された」などのトラブルが起こり得ます。スポンサー契約では、ロゴ掲出の場所や頻度、他社競合スポンサーの扱い、契約期間と中途解約条項、選手・運営側の不適切行為があった場合の対応(契約解除や賠償請求の可否)などを明確に定めておく必要があります。例えば未成年選手がチーム在籍中に酒類メーカーがスポンサーに付く際、「未成年選手は酒類PRに関与させない」等の取り決めがないとコンプライアンス上の問題になりかねません。契約書の条項詰めが甘いと、いざ不祥事発生時にスポンサーから高額な損害賠償を請求されるリスクもあり得ます。事業者としてはスポンサー契約書を弁護士にレビューしてもらい、リスクシナリオに耐えうる内容にすることが安全策と言えるでしょう。
法令順守のリスク:景表法・賭博罪から風営法まで
eスポーツ事業には従来のビジネスには無い独特の法規制が絡みます。特に大会運営に関して注意すべきは刑法の賭博罪や景品表示法の景品規制です。日本では、参加者から集めた参加費を勝敗に応じて分配する形式(いわゆる賞金プール方式)は賭博に該当する恐れがあるため、基本的に採用できません。大会で参加料を徴収する場合は、その金額が運営経費相当額に留まるよう収支内訳で示し、賞金はスポンサー企業や主催者自身が別予算で拠出することが望ましいとされています。
また、賞品(物品)を提供する場合は景品表示法上の懸賞制限にも注意が必要です。具体的には「一般懸賞」に該当する場合、取引価額の20倍または10万円が景品類の最高額となるため、高価なゲームデバイスや車などを副賞にする際は上限額超過の違法にならないよう気を付けねばなりません。
風俗営業適正化法(風営法)も見落としがちなポイントです。大会会場にゲームセンター用のアーケード筐体を設置し、参加者が自由にプレイできるようにすると、それは風営法上の「5号営業(ゲームセンター営業)」とみなされ許可が必要となる場合があります。たとえ家庭用ゲーム機やPCを用いた大会でも、主催者側がプレイ設備を提供し料金を徴収する形態によっては無許可営業と捉えられる可能性があります。そのため、大会の形式を決める段階で所轄警察に相談し、必要な手続きを確認することが望ましいでしょう。さらに、大会を深夜に開催する場合は各自治体の青少年健全育成条例に抵触しないよう参加者の年齢制限や終了時間にも配慮しなければなりません。消防法や騒音規制などイベント開催一般に関わる法令も含め、複数の規制を総合的にチェックするコンプライアンス体制が求められます。
コンプライアンス面では、他にも知的財産権や公序良俗に関するリスクがあります。ゲームタイトルの著作権はメーカーに属するため、大会を開催したり試合映像を配信・アーカイブ化する際は各メーカーのガイドラインに沿った許諾を得る必要があります。人気タイトルによっては大会規模(賞金額や参加人数)ごとに許諾条件が異なる場合もあり、商業的な大規模大会ではメーカーと個別にライセンス契約を締結するケースもあります。また大会会場で流すBGMや映像についても、音楽著作権や肖像権への配慮が不可欠です。例えば、会場内で撮影した写真・映像を後日プロモーションに使いたい場合、事前に入場券やエントリーフォームで「広報目的で無償利用する可能性」を告知し同意を取っておくことが重要です。選手の顔写真やゲーマータグをグッズ販売などに利用する際も、事前に選手本人や所属チームと肖像権・パブリシティ権の許諾契約を締結しておかないと、後から「無断で利用された」として揉めるリスクがあります。実際に、ある大会で選手の写真を無断使用した結果、選手側から抗議を受け追加の肖像権料支払いに応じた例もあるため注意が必要です。
不正行為やハラスメント等の内部統制もコンプライアンス上の課題です。大会の規約には、チート行為や八百長、暴言などを禁じる条項を盛り込み、違反時の即時失格・賞金没収・賠償請求まで定めておくことが推奨されています。これらの規定がないと、仮に不正発覚後に失格処分としても選手から「出場継続の権利を侵害された」「賞金を不当に取り上げられた」と法的クレームを受ける可能性があります。さらに、不正を見逃した結果他の参加者の順位が下がった場合、「運営側の過失で機会を奪われた」として他の上位入賞者から損害賠償を求められるリスクすらあります。近年では海外同様にドーピング(禁止薬物使用)への対策や、選手・スタッフのハラスメント防止研修なども求められており、事業者は内部ルールの整備と周知徹底に力を入れる必要があります。コンプライアンス違反が表沙汰になるとスポンサー離れやブランドイメージ低下に直結するため、普段から弁護士等と相談しながら社内ガイドラインを策定し、問題発生時には速やかに適切な対応が取れる体制を構築しておくことが肝要です。
弁護士が果たす役割:リスク低減と事業促進のパートナー
以上のような多岐にわたるリスクに対応するため、法律の専門家である弁護士のサポートが不可欠です。弁護士はeスポーツ事業者向けに次のような支援を行っています。
- 税務・法務の総合アドバイス: 弁護士・税理士は、賞金支払い時の源泉徴収の正確な手続きや、消費税インボイス制度への対応について助言します。例えば「国内外どのプレイヤーに何%源泉税を引くべきか」「スポンサー料の会計処理は売上か雑収入か」など、具体的な場面で判断に迷う点を専門知識でクリアにしてくれます。また、賭博罪や景品表示法に抵触しない大会フォーマットの提案(参加費設定や賞金額の調整)も行い、必要に応じて所轄官庁との事前折衝をサポートします。法律面と税務面を踏まえた総合的なアドバイスにより、事業者は安心して収益モデルを設計・実行できます。
- 契約書の作成・チェック: 弁護士は選手とのマネジメント契約やスポンサー契約、放映権契約などあらゆる契約書のドラフト・レビューを担います。契約交渉の段階から関与し、自社に不利な条項を排除するとともに万一の紛争に備えた条項を盛り込みます。先述のとおり、選手契約では報酬や権利関係を詳細に定め、未成年選手の場合は親権者同意の取得条項も欠かしません。スポンサー契約ではロゴ露出の範囲や他社競合の扱い、不祥事時の対応を明文化し、スポンサー・チーム双方が納得できるバランスを追求します。契約は予防法務の要であり、弁護士のチェックを経た合意書があれば、後日のトラブル発生率を大幅に下げることができます。
- 知的財産・ライセンス対応: eスポーツではゲームメーカーの許諾取得や音楽著作権処理など複雑な権利調整が必要ですが、弁護士が窓口となり適法な利用を実現します。具体的には、ゲーム会社との包括ライセンス契約の交渉、大会ルールがメーカーのガイドラインを満たすかの確認、配信プラットフォームとの著作権処理交渉、JASRAC/NexToneとの音楽利用許諾契約などを代理します。さらに、チーム名やロゴの商標登録出願、第三者による無断使用への差止め警告など自社ブランドの保護も弁護士の重要な役割です。IP(知的財産)戦略を法律面から支えることで、安心してコンテンツ発信・事業展開ができる環境を整えます。
- 労務管理・内部統制支援: 弁護士は労働法規や内部統制の観点からも企業をサポートします。社員やアルバイトとしてスタッフを雇用する場合の労働契約書作成、36協定届出の有無チェック、深夜業務が必要な際の手続アドバイスなど、労基法順守に向けた指導を行います。大会運営でボランティアを募集する際は労働者性のリスクを診断し、必要なら傷害保険・労災特別加入の検討を促します。また、選手やストリーマーとの関係においても、業務委託と雇用の区分が適切かを助言し、万一労使トラブルになった場合には代理人として紛争解決(労働審判や訴訟)に当たります。人に関わるリスク管理全般で弁護士の知見が活かされるでしょう。
- 紛争対応・危機管理: 万一訴訟やクレームが発生した際、弁護士は企業の盾となって問題解決に臨みます。スポンサーや他社との法的紛争では交渉・訴訟を代理し、SNS炎上や不祥事対応では適切な謝罪文や再発防止策の立案をサポートします。昨今、eスポーツ界でも選手の不適切発言やハラスメント問題が報じられる中、弁護士の助言の下で迅速に火消しと再発防止策を講じることがブランド保全につながります。さらに、将来的にチーム運営会社が投資を受けたりM&Aを検討する際にも、法務デューデリジェンスや契約締結で弁護士が活躍します。平時の予防法務から有事の対応まで一貫して相談できる弁護士がいることは、事業者にとって大きな安心材料となるのです。
法律事務所への相談
eスポーツ事業に関わるなら法務リスクへの備えは不可欠です。税務処理のミスや契約の齟齬でせっかくのビジネスチャンスを逃したり、最悪の場合事業継続が困難になるリスクすらあります。本記事で見てきたように、課税・契約・コンプライアンスなど多方面に潜む落とし穴を回避し、業界の発展とともに安全な経営を続けるためには、ぜひ早い段階で弁護士に相談し専門的なサポートを受けることを強くお勧めします。法律専門家は、事業者の良きパートナーとしてリスクを最小化しつつ成長を後押ししてくれる存在なのです。
お問い合わせはこちらから。
元裁判官、元検察官、元会計検査院の官房審議官など企業案件の知識・経験の豊富な弁護士が、企業犯罪・不祥事対応等のコンプライアンス事案に対応します。
全国展開している事務所だからこそできるネットワークを生かした迅速な対応が可能です。
企業犯罪・不祥事に関するお問い合わせ、ご相談のご予約は24時間365日受け付けております。
企業犯罪・不祥事が起きてしまった場合の対応にお困りの方、予防法務も含めたコンプライアンス体制の構築・見直しをお考えの経営者の方は、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所に一度ご相談ください。
宗教法人の不祥事事例と予防法務の重要性

宗教法人やNPO法人では、寄付金の不正流用や幹部による詐欺、反社会的勢力の介入など様々な不祥事・刑事事件が発生し得ます。ひとたびこうした問題が明るみに出れば、信者や支援者からの信頼は大きく揺らぎ、寄付離れや組織離脱を招いてしまいます。最悪の場合、所轄庁(文化庁や都道府県)から調査を受け、宗教法人格の剥奪(解散命令)にまで発展するリスクもあります。
本記事では、宗教法人における主な不祥事の事例と、それらを未然に防ぐ予防法務の重要性について、法律の専門知識がない方にも分かりやすく解説します。宗教法人法やNPO法の基本ポイントにも触れ、弁護士と連携した予防策が信頼維持や刑事責任の回避、組織運営の安定にどのように寄与するかを見ていきましょう。
宗教法人で起こりやすい主な不祥事の事例
まずは、過去に宗教法人や非営利法人で問題となった典型的な不祥事の例をいくつか紹介します。
- 寄付金の不正流用・不透明な資金利用: 組織の資金が本来の宗教活動や公益目的に使われず、幹部の私的な目的に流用されるケースです。例えば、信者から集めた寄付金やお布施が代表者個人の生活費に充てられていた事例も報告されています。また、寄付金を名目と異なる用途に使用したり、架空の募金活動で集めた資金を裏金化するといった不正も各地で発生しています。このような資金の不正使用は発覚すれば信者の善意を裏切る行為となり、深刻な信用失墜を招きます。
- 宗教法人格の悪用(マネーロンダリング・脱税): 宗教法人は寄付金への非課税など特別な税制優遇を受けられるため、その法人格自体が犯罪収益の洗浄や脱税目的に悪用される事件が後を絶ちません。実際に、暴力団が休眠状態の宗教法人(活動実態のない不活動宗教法人)を買収し、闇資金の受け皿として利用したケースが報告されています。海外からの不正資金を国内の宗教法人経由で移動させるマネーロンダリング手法が確認された例もあり、行政当局も問題視しています。こうした法人格の悪用を防ぐため、文化庁は近年、不活動宗教法人の実態把握と整理(必要に応じた解散命令請求)を各都道府県に徹底するよう通知を出しています。法人格が犯罪インフラに利用されると、当該法人には厳しい処分が科されうるため注意が必要です。
- 幹部による詐欺行為: 教団幹部が信者に対し高額なお祓い料や除霊代を要求し、実態のない「救済」サービスで金銭をだまし取る詐欺事件も起こり得ます。例えば、僧侶に霊能力があると装って相談者から多額の金銭を詐取した明覚寺事件では、詐欺罪の成立に加え宗教法人法違反(公共の福祉を著しく害する行為)と認定され、その宗教法人に解散命令が出されています。このような詐欺的商法は被害者の告発次第で教団全体の信用問題に発展し、刑事事件となれば組織解散につながる重大リスクとなります。
- 会計不正(帳簿改ざん・虚偽報告): 帳簿の改ざんや二重帳簿の作成、収支報告書の虚偽記載といった行為により組織の財務状況を不透明にする不正も見られます。内部牽制や監査体制が弱い団体ではこうした不正を見逃しやすく、不祥事の温床となりがちです。実際、宗教法人の中には法律上営利企業のような厳格な監査義務がなく「性善説」に頼った運営を行っているところもあり、内部統制の不備が指摘されています。適切な会計管理と情報開示が欠如すると不正が発生しやすいため、後述するように複数人での出納チェックや定期的な外部監査の導入など透明性確保の仕組みづくりが重要です。
- 反社会的勢力の介入・ダミー宗教法人化: 暴力団など反社会的勢力が宗教法人やNPO法人を隠れ蓑にして不正活動や資金洗浄を行うケースもあります。架空の信者名簿を提出して認証を受けた疑いのある宗教法人が、実態はヤミ金融業(違法な高利貸し)を営んで摘発された事件も報告されています。このように組織自体が犯罪インフラとして利用されてしまうと、社会的非難は免れず、法人への解散命令や関係者の逮捕など厳しい措置につながります。宗教法人の設立要件は本来厳格ですが、不活動法人の乗っ取りや虚偽の申請によるダミー法人化を完全に防ぐことは難しく、日頃から反社会的勢力の接近を警戒し排除するガバナンス体制が求められます。
- セクシャルハラスメントや不祥事の隠蔽: 教団内部で起きた性的嫌がらせ(セクハラ)やパワハラ等のスキャンダルを組織ぐるみで揉み消そうとする対応も重大な問題です。近年は宗教界でもセクハラ・性被害に関する訴訟が相次いでおり、ある宗教法人では資金不正に加えて幹部による性的被害やパワハラの訴訟が同時発生した例も報じられています。内部で隠蔽を図れば被害者の二次被害を招くだけでなく、告発によりかえって世間の批判が強まりスキャンダルが拡大します。不祥事を隠す体質があると認識されれば組織存続に関わる深刻な打撃となるため、問題発覚時には適切な調査と公正な対応が不可欠です。
以上のような不祥事は、宗教法人に特有の立場を悪用したり管理体制の甘さに起因するものが少なくありません。実例としては、オウム真理教事件(地下鉄サリン事件など重大犯罪により法人格剥奪)や霊感商法による詐欺の明覚寺事件(前述の通り解散命令)などが挙げられます。また最近では、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)による信者への過剰な献金勧誘が社会問題化し、文部科学省が宗教法人法に基づく「質問権」を初めて発動して教団の運営実態や巨額献金について報告を求める事態に発展しました。政府は2023年に「法人等による寄附の不当な勧誘の防止等に関する法律」という新法を施行し、霊感商法まがいの悪質な寄付勧誘行為の禁止や被害者救済の強化にも乗り出しています(令和5年法律第81号)。このように宗教法人を巡る不祥事には世間の厳しい目が向けられており、一度問題が起これば刑事責任追及のみならず行政処分や法改正にまで及ぶ大きな影響を及ぼすのです。
宗教法人法とNPO法の基本ポイント
宗教法人やNPO法人の関係者が不祥事予防に取り組むには、まずそれぞれの法律上の立場や義務を正しく理解しておくことが大切です。ここでは専門家でない方にも分かるよう、宗教法人法とNPO法(特定非営利活動促進法)の基本ポイントを押さえておきましょう。
- 宗教法人法の概要: 宗教法人法は、信教の自由を尊重しつつ宗教団体に法人格を付与するための法律です。1951年に制定され、文化庁が所管しています。この法律に基づき、神社・寺院・教会など宗教の教義を広め儀式行事を行う団体(宗教団体)に法人格が与えられます。法人格を取得した宗教団体は、財産を法人名義で所有・管理できるようになり、対外的な契約や責任負担も法人として行えるようになります。一方で、公序良俗に反する活動をしないことや所轄庁への各種届出・報告義務など、自主性と公共性のバランスを図るための規律も定められています。例えば宗教法人法第81条では、「法令に違反し著しく公共の福祉を害する行為」を行った宗教法人に対し、所轄庁が裁判所に解散命令を請求できると規定しています。過去には地下鉄サリン事件を起こしたオウム真理教(1995年)や詐欺事件を起こした明覚寺(2002年)に対して、この規定に基づく解散命令が実際に発令されました。また1996年の法改正で導入された所轄官庁の質問権は、宗教法人の法令違反が疑われる場合に運営状況の報告や質問を行える制度で、2022~23年に旧統一教会への適用が初めて行われています。このように宗教法人法は、信教の自由を最大限保障しつつ、宗教法人のガバナンスや公共性の確保にも一定の役割を果たす法律です。
- NPO法の概要: 特定非営利活動促進法(NPO法)は、ボランティア団体など営利を目的としない民間団体に法人格を与え、その健全な発展と公益の増進を図るための法律です。1998年に制定され、所管は内閣府や各都道府県です。NPO法人は、不特定多数の利益に資する非営利活動(例えば福祉、教育、環境保全、地域安全など法定20分野)を主な目的とする団体がこの法律に基づき法人認証を受けて成立します。営利を目的としないこと、構成員へ利益配分をしないことが大前提であり、役員は3名以上の理事と1名以上の監事を置くなど一定のガバナンス体制も義務付けられています。また宗教上の儀式行事や政治活動を主目的とする団体はNPO法人にはなれない(法律の適用対象外)という点で、宗教法人とは制度上明確に区別されています。NPO法人は毎事業年度ごとに事業報告書や財産目録、会計書類を所轄庁へ提出し一般に縦覧(公開)させる義務があり、情報開示・説明責任が重視されているのも特徴です。以上のようにNPO法は市民による公益活動を支援する一方で、組織運営の適正さと透明性を保つ枠組みを提供しています。
※この法律解説は最低限のポイントを平易にまとめたものです。実際には宗教法人法とNPO法で設立手続や内部機関のルール、監督・処分の仕組みなど細かな違いがありますが、詳細は専門家に確認する必要があります。
不祥事を防ぐ予防法務の重要性
以上の事例や法制度を踏まえると、宗教法人にとって事前に不祥事リスクを減らす「予防法務」に取り組むことがいかに重要かがお分かりいただけるでしょう。予防法務とは、問題が発生してから対処するのではなく、平時から内部体制を整備し法律の専門家と連携して不正や違法行為を未然に防ぐ活動を指します。以下では、予防法務として宗教法人が講ずべき具体的な対策と、その効果について解説します。
内部調査の徹底と是正措置
万一、不祥事の兆候や疑いが生じた場合には、早期の段階で内部調査を行い事実関係を明らかにすることが肝要です。第三者性・中立性を担保するため、できれば弁護士など外部の専門家を調査に加えることが望ましいでしょう。例えば資金流用の疑いがある場合、弁護士が関係資料の精査や関係者へのヒアリングを主導することで、証拠の保全と不正の全容解明に大きく寄与します。セクハラなどデリケートな案件でも、被害申告者・加害者双方から公平に事情を聴取し適正な判断を下すには、弁護士が同席して助言することが有効です。内部調査の結果、不正や問題行為が確認できた場合は、隠蔽することなく速やかに是正措置(改善策)の実行に移ります。具体的には、発覚した不正に関与した責任者の処分、被害者への適切な補償、組織のガバナンス改革、再発防止策の策定などがあります。場合によっては所轄庁や捜査機関への違反事実の届出、被害者との示談交渉の検討、刑事告発の判断なども必要になるでしょう。これら一連の対応は専門知識なしに的確に進めるのは難しく、弁護士の関与が組織防衛の要となります。問題発生後の初動を誤らず誠実に対処することで、被害拡大の防止と組織の信頼回復につなげることが可能です。
ガバナンス体制の強化と研修・コンプライアンス対応
不祥事を起こさないための仕組み作りも予防法務の柱です。宗教法人やNPO法人は、その特質上どうしても内部統制が緩みがちであるため、平常時から法令順守のガバナンス体制を整備しておく必要があります。まず、宗教法人法やNPO法、関連ガイドラインに則した定款(規則)や諸規程を整備し、役員の権限と責任範囲を明確化します。次に、会計面では複数人によるチェック体制や定期的な外部監査の導入など、資金の流れを常に透明化する仕組みを取り入れましょう。法律上、宗教法人には営利企業のような強制的監査制度がないため、なおさら内部監査・外部監査を自主的に活用する意義は大きいです。内部統制が不十分で「うちの団体に限って不正は起きない」という性善説に頼った運営では、往々にして不正の温床になりやすいと指摘されています。そうした油断を排し、二人以上の目でチェックする仕組みやお金の流れを見える化する工夫を凝らすことが、結果的に関係者自身を守る手段にもなります。
さらに、人材・組織面での取り組みも欠かせません。教団職員や関係者に対するコンプライアンス研修や法令知識の啓発を定期的に実施し、寄付金の取扱ルールやハラスメント禁止など基本的な遵守事項を周知徹底することが重要です。ハラスメント防止のための相談窓口を設置し、万一相談があった場合は速やかに外部有識者を交えた第三者委員会で調査する仕組みを用意しておきます。最近は宗教法人や公益法人でもハラスメント問題が社会的注目を集めているため、ここに適切に対応できる体制整備はリスク管理上不可欠です。内部で問題を隠蔽することは厳禁であり、弁護士の助言のもと事実関係を公正に調査し再発防止策を講じることが、ひいては組織全体の名誉と信頼を守ることにつながります。
また、反社会的勢力排除の観点からも研修やチェック体制を敷きましょう。例えば寄付者や取引先の背後関係について必要に応じ調査を行い、暴力団等と関係が疑われる場合は毅然と契約を断ること、役員や職員自身が怪しげな活動に関与しないよう倫理規程を設けることなどが考えられます。これらは一見宗教活動とは無縁に思えるかもしれませんが、組織を守るためには重要な予防策です。
弁護士と連携するメリット
予防法務を推進する上で、弁護士を顧問に迎えておくメリットは非常に大きいと言えます。まず平時から専門家の視点で組織運営をチェックしてもらえるため、不備のある規程や法令違反の芽を早期に発見し修正できます。また万一トラブルが発生しても、初動で適切な対応を取るため迅速に相談できる体制が整っていれば安心です。証拠保全や被害拡大防止、当局報告など、何を優先しどう対処すべきかについて客観的なアドバイスが得られるため、事態の悪化を防ぐことができます。さらに対外的な説明や被害者対応においても、法的に妥当で誠実な対応を弁護士の助言を受けながら進めることで、組織の透明性と誠意を示すことができます。宗教法人法やNPO法といった特殊法人に関する規制にも精通した弁護士であれば、行政機関への報告書作成や是正計画の提出といった局面でも心強い支援が受けられるでしょう。
特に深刻な不祥事では所轄庁や警察などによる調査・聴取が行われる場面も想定されます。その際、弁護士のサポートなくして適切に対応するのは困難です。行政への説明や交渉、求められた資料の精査提出、捜査機関への協力など、一連の手続きを法律に沿って踏むことで、最悪の事態(法人格の剥奪や刑事処分)を回避できる可能性が高まります。実際、文化庁や都道府県からの質問権の行使や解散命令請求に直面した際、弁護士とともに誠意ある対応策を講じて当局の信頼を得ることが事態沈静化の鍵となります。
さらに、顧問弁護士がいることで日常的な些細な法務相談もしやすくなり、「これは法律的に問題ないか?」といった疑問をすぐ解決できる利点もあります。宗教法人の運営は株式会社の経営とは異なる公益性ゆえの難しさがありますが、その点に詳しい専門家の継続的サポートを受ければ、内部の役員も安心して本来の宗教活動や社会貢献に専念できるでしょう。このように弁護士と連携した予防法務は、組織の信頼維持に直結するのみならず、万一の際の刑事責任の回避や安定した組織運営にも不可欠な土台となるのです。
予防法務の効果とおわりに
適切な予防法務を導入することで得られる効果は計り知れません。
第一に、信者・支援者や社会からの信頼維持・信頼回復が期待できます。透明性の高い運営と迅速な問題対処により、「この法人はしっかりガバナンスが効いている」という安心感を与えられれば、寄付者の離反を防ぎ組織の名誉を守ることにつながります。
第二に、違法行為への関与を未然に防ぐことで結果的に刑事責任を回避し、役職員が逮捕・処罰される事態や法人自体が解散命令を受ける最悪のシナリオを避けることができます。
コンプライアンス遵守は「攻めの宗教活動」を続けるための安全装置であり、違法リスクが低ければこそ本来の布教や社会貢献活動に専念できるのです。
第三に、内部統制と危機管理が機能することで組織の安定的な運営が実現します。
スキャンダルによる突然のトップ更迭や信者大量離脱といった混乱を防ぐことで、教団の継続性が確保され教義の伝承や公益事業も途切れません。また、健全なガバナンスの下では若手人材も育ちやすく、将来世代への引き継ぎもうまくいくでしょう。
昨今の報道を見ると、宗教法人も一般企業や他の公益法人と同様に高い説明責任を求められる時代になっています。社会の信頼なくして布教の自由もままならないことは、多くの事件が物語る教訓です。不祥事対応は「起きてから考える」では手遅れになる場合もあります。ぜひ弁護士等の専門家と協力しながら予防法務に取り組み、日頃から組織の健康診断と体質改善を続けてください。それこそが信者の皆さんの善意を守り、宗教法人本来の使命を全うするための何より堅実な道と言えるでしょう。
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ファクタリング事業の法的リスクとは?貸金業法違反・行政処分の可能性を徹底解説

はじめに:ファクタリングとは何かと基本的な法的位置づけ
ファクタリングとは,企業などが保有する売掛債権(支払期日前の請求書債権など)をファクタリング業者が買い取ることで,早期に資金化するサービスです。法的には債権の売買(債権譲渡)契約にあたり,本来は金銭の貸し借りではありません。そのため,適法に行われるファクタリング取引については貸金業法(貸金業の規制等に関する法律)や利息制限法・出資法による直接の規制対象とはならず,貸金業の登録も不要とされています。実際,民法も「債権は,譲り渡すことができる」と規定しており,債権譲渡(ファクタリング)は法的には想定された契約形態です。
しかし一方で,ファクタリング取引の実態によっては「偽装ファクタリング」と呼ばれる違法性を及びたスキームとなるケースもあり,近年社会問題化しています。以下では,BtoB(企業間)ファクタリングとBtoC(対個人)ファクタリングに関連する法的リスクについて,主要な論点ごとに整理します。
貸金業法違反となるリスク(偽装ファクタリングの問題)
貸金業法違反とは,本来貸金業登録が必要な「金銭の貸付け」を無登録で行うことや,法定の上限金利を超える金利(手数料)を徴収する行為などを指します。ファクタリングは形式上「債権の売買」ですが,その契約内容・経済実態によっては実質的に貸付と同様の機能を果たす場合があり,その場合は貸金業法上の「金銭の貸付け」に該当する可能性があります。貸金業法第2条第1項や出資法第7条は,手形の割引や売渡担保など形式上は貸付以外の方法による金銭の交付も広く「貸付け」に含めて規制すると定めており,形式ではなく実態で判断されます。
偽装ファクタリングと疑われる典型例として,以下のようなケースが挙げられます。
- 償還請求権(買戻し特約)がある場合:債権譲渡契約でありながら,売主(債権譲渡人)が一定期限までに債権を買い戻す義務を負う契約になっているケースです。売主が自ら債権を買い戻すことが予定されている場合,ファクタリング業者は債権回収不能リスクを事実上負担せず,債権を担保とした貸付と同様の構造になります。特に二者間ファクタリング(売掛先に通知せず,債権者とファクタリング業者の二者だけで完結する取引)だと,買戻し条項を付され,債権者(債権の売主)は期限までに必ず債権を買い戻さざるを得ない立場となり,実質的な借入れと同視されやすくなります。
- 債権回収を委託する形式だが実質的に元の債権者が返済する場合:売掛先への債権譲渡通知を行わずに,債権者自身が売掛金を回収して後日ファクタリング業者に支払う契約(回収委託型)も,結局は債権者が自ら資金を返還している構図です。債権者(債権の売主)が取引先にファクタリング利用を知られたくない事情(債権譲渡禁止特約や信用不安回避のため通知を留保)があるためにこうした形態になりますが,これも経済的には「債権を担保に資金を借りて後で返す」ことと同じであり,貸付とみなされ得ます。
上記のようにファクタリング業者がリスクを負わず,債権者が実質的返済義務を負う構造では,裁判例上もしばしば「金銭消費貸借に準じるもの」と評価されています。大阪地方裁判所平成29年3月3日判決(平成26年(ワ)11716号)では,ファクタリング業者が債権回収リスクをほとんど負担せず高額の手数料利益を得ており,債権者は買戻しせざるを得ない立場だったことから「本件取引では金銭消費貸借契約の要素たる返還合意があったものと同視できる」と判断されています。
その上で,このような実質的貸付には利息制限法が類推適用され,法定上限を超える手数料部分は不当利得(過払い金)として返還請求し得ると判示しています。つまり,偽装ファクタリングは無登録営業であれば貸金業法違反(無登録営業罪)となり得るだけでなく,手数料が高金利に該当すれば利息制限法違反(超過利息の無効)となり,過払い金返還義務が生じるリスクがあります。
金融庁も「経済的に貸付と同様の機能を有するものは貸金業に該当するおそれがある」と明言し,高金利の偽装ファクタリングへの注意喚起を行っています。
行政当局による処分・指導の事例
金融庁や消費者庁など行政当局も,偽装ファクタリングへの対策を強化しています。金融庁は公式サイト上で,中小企業向けの偽装ファクタリングや個人向けの「給与ファクタリング」が確認されているとして注意喚起を発出し,「形式的に債権売買でも実質が貸付なら貸金業法の規制対象となる」との見解を示しています。特に個人の給与債権を扱うケースは後述のとおり明確に違法とされており,「給与ファクタリングを業として行うことは貸金業に該当します(貸金業登録が必要)」とされています。
行政処分の具体例としては,高金利の違法な貸付け(偽装ファクタリング)を行っていたため,関東財務局から貸金業法に基づく業務停止命令を受けたケースがあります。この事例では,表面上はファクタリング契約を装いつつ法定利率を大幅に超える手数料を徴収していたことが問題視されました(金融庁公表資料によれば法令違反〔高金利〕が処分理由とされています)。このように,行政当局は無登録で実質的な貸付を行う業者に対し,営業停止や業務改善命令などの処分を下すことがあります。
加えて,悪質な場合には警察と連携して摘発する方針も取られており,実際に偽装ファクタリング業者が出資法違反(高金利)や貸金業法違反で逮捕・起訴された例も報じられています。
また,消費者庁も個人向け違法融資への対策として注意喚起を行っています。消費者庁は「違法な貸付(ファクタリング等)にご注意ください!」という公表資料の中で,給与ファクタリングは高額手数料により利用者の生活を破綻させるおそれがある違法なスキームであると警告しています。同資料では,新型コロナ禍で生活資金に困った消費者が標的にされている状況を踏まえ,無登録業者を利用しないよう呼びかけるとともに,金融庁・警察庁と連携した監視強化を表明しています。さらに国民生活センターや日本貸金業協会など関係機関とも協力し,被害防止のための情報発信や相談窓口の整備が進められています。
近年では,「後払い現金化」「商品券買取現金化」等,一見ファクタリングとは異なる形を装いつつ実質的に貸付けとなる新手の手口も登場しており,行政はこれらも含めた包括的な取締りを強化しています。
ファクタリング事業の違法となるスキーム:典型例と裁判例
上述の偽装ファクタリング以外にも,ファクタリング事業に関連して違法とされる典型的なスキームや争点があります。ここでは主な例と,それに関する裁判例・判例上の判断を紹介します。
- 給与ファクタリング(BtoC型ファクタリング):個人が勤務先に対する将来の給与債権をファクタリング業者に「売却」し,業者から前払いの形で現金を得るスキームです。一見すると給与の債権譲渡ですが,労働基準法第24条第1項が「賃金は直接労働者に支払わなければならない」と定めているため,債権を譲り受けた業者であっても直接使用者(会社)から給与を受け取ることはできません。その結果,利用者(労働者)は勤務先への債権譲渡通知を避けるため自ら買戻し(実質的な返済)をせざるを得ない状況に置かれます。
最高裁も令和5年2月20日決定において,「『給与ファクタリング』と称する取引は顧客(労働者)からの返済を予定した貸付である」と明確に判示し,無登録でこれを業として行うことは貸金業法違反のヤミ金融にあたると司法判断を示しました。この事案では法定金利の約10倍もの手数料を徴収していた業者が出資法違反でも起訴されており,最高裁決定を受けて日本司法書士会連合会も「給与ファクタリングは利息・手数料の額にかかわらず違法」とする会長声明を発出しています。つまり給与ファクタリングは構造上,合法な取引形態として成り立たず常に違法(貸付)と評価されることが明確化されたと言えます。実際,行政も「通常,個人としてファクタリングを利用する機会はない」が「給与ファクタリングという手法で個人に貸付けを行うヤミ金融」が存在すると指摘しており,BtoC型の給与ファクタリングは違法な高利貸しとして認識されています。
- 二者間ファクタリング(BtoB型の偽装貸付):前述したとおり,事業者向けのファクタリングで売掛先非通知型(二者間取引)のものは,売掛先への通知や承諾を得る通常の三者間ファクタリングに比べて取引条件が厳しくなる傾向があります。債権者である中小企業が資金難から二者間ファクタリングを利用するとき,買戻し特約付きや無償の回収委託契約を併用するケースでは,経済的に年利100%超の高コストとなることも珍しくなく,これは事実上違法金利の貸付を受けているのと同じ負担になります。こうしたスキームについて,近時の裁判例では公序良俗違反による契約無効が認定された例があります。札幌高等裁判所令和4年7月7日判決では,債権者(利用企業)の切迫した資金需要に乗じて短期間で高額の利益を得る手段として債権譲渡契約(買戻型)が締結されたものと認定し,「貸金関連各種規制を潜脱し…締結されたものであって公序良俗に反し無効である」と判断しました。同高裁判決は「形式上は債権譲渡でも,実質は譲渡債権を担保とする金銭消費貸借に近い機能を有していた」と取引の経済的実態を指摘しており,貸金業法・出資法の趣旨(実質貸付の広範な規制)に照らした判断枠組みを示唆しています。
他方で,真正な三者間ファクタリング(ノンリコース,売掛先にも通知・承諾を得た債権譲渡)については,裁判例上も「譲渡人に遡及義務(買戻し義務)がない純粋な債権売買であり,貸金業法が予定する貸付け等とは性質を異にする」として認められています。つまり,BtoBファクタリングであっても債権譲渡契約が実質的に金銭消費貸借に近づくほど違法リスクが高まる一方,ファクタリング会社が債権リスクを真正に負担する取引形態であれば違法とは評価されにくいといえます。
- 架空債権のファクタリング:実在しない売掛債権や既に回収済みの債権を偽ってファクタリング会社に売却し,資金をだまし取る行為は明白な詐欺罪に該当します。このようなケースではファクタリング契約自体が初めから目的の実現が不可能な無効契約と言え,発覚すれば刑事事件化する可能性があります。例えば架空の売掛金債権を複数のファクタリング業者に売却して約1億円を詐取した事例では,関与者が詐欺容疑で逮捕・起訴されています。架空債権はもちろん違法ですが,次に述べる二重譲渡も実質的に同様の問題を孕みます。
二重譲渡のリスクと契約の無効・取消し
二重譲渡とは,同一の売掛債権を複数のファクタリング会社に重ねて譲渡する行為で,悪質な資金調達手段として問題になります。債権の法律関係としては,最初の譲渡で債権はファクタリング会社Aに移転していますから,二社目以降への「譲渡」は原債権者に処分権のない債権を売ることになり,法律上無効ないし取消し可能な行為となります。二重譲渡が故意に行われた場合,ファクタリング会社を欺いて金銭を詐取したものとして詐欺罪にあたります。実際,資金繰りに窮した事業者が同じ債権を複数業者に売却して発覚した事案では,債権者(事業者)が詐欺で逮捕・起訴され,会社も倒産に追い込まれるという深刻な結果を招いています。
法的には,二重譲渡が発覚した場合,後から譲り受けたファクタリング会社との契約は履行不能・目的違法のため無効となり,受領済みの売買代金は返還義務の対象となります。善意のファクタリング会社に残された債権が無価値となるため,原債権者に対する損害賠償請求(不法行為または債務不履行に基づく返還請求)に発展することが通常です。裁判になれば契約の詐欺取消しが主張されることも考えられますが,悪質な場合は民事責任を追及するまでもなく刑事事件化していくことも考えられます。このような事件種について判例集に顕著な蓄積はありませんが,二重譲渡は明白な不法行為であり契約も成立当初から無効となるという点に異論はなく,ファクタリング業界では最大のリスク要因の一つと認識されています。
このリスクを低減するため,日本では債権譲渡登記制度が整備されています。法人(会社)が金銭債権を譲渡する際,債務者への通知に代えて法務局への登記を行うことで譲渡の対抗要件を備える制度です(債権譲渡登記特例法)。ファクタリング会社は二者間ファクタリングの場合,この登記を利用しておけば他社への二重譲渡発覚時に優先権を主張できます。もっとも登記には費用がかかるため,中小の事業者では利用が徹底されておらず,結果として債権者が意図的に二重譲渡に及ぶ余地が残っているのが現状です。ファクタリングを提供する事業者は契約時に債権譲渡登記や債務者確認などの手続きを講じ,二重譲渡の未然防止に努めることが不可欠です。万一発覚すれば前述のように契約無効・損害賠償に加え,刑事罰のリスクまで生じる点を認識する必要があります。
BtoBとBtoCにおけるリスクの違いまとめ
最後に,企業間ファクタリング(BtoB)と個人相手のファクタリング(BtoC)で異なる点がある主なリスク・留意点をまとめます。
- 法規制・適法性:BtoBファクタリングは,中小企業の資金繰り支援手段としても利用されており,債権譲渡しての実態である限りは適法な金融です。適切に行われる限り,貸金業法の対象外であり利息制限法の制約も受けません。
一方,BtoCファクタリングは給与ファクタリングに代表されるように,基本的に合法な枠組みを構築しにくいと考えられます。労働者の給与債権は法律上第三者への譲渡が想定されておらず,事実上貸付以外の何物でもないからです。したがって,個人に対するファクタリングを標榜する業者に対しては監督官庁からの厳しい目が向けられることになるでしょう。
- 利用者保護と監督当局の姿勢:個人を相手とする違法なファクタリング(実質高利貸し)は,消費者被害(多重債務や生活破綻)を生むため行政の目も極めて厳しく,近年は警察・金融庁・消費者庁が一体となって摘発・啓発に動いています。最高裁の判断も出たことで,給与ファクタリングは今後一層排除されていくでしょう。これに対しBtoBファクタリングについては,現時点で事業者に対する専用の許認可制は導入されておらず(※通常の売掛債権売買は自由),明確な業法上の監督対象にもなっていません。もっとも金融庁は事業者向け偽装ファクタリングの問題を認識しており,中小企業庁等とも連携して啓発資料を作成するなど実質的な監督・指導の強化を図っています。今後,業界の自主規制や新たな法規制の検討が進む可能性も指摘されています。
- 契約トラブルの態様:BtoBの場合,債権譲渡禁止特約への対処(二重譲渡の予防を含む)や,債権額に対する手数料相当額(ディスカウント率)の妥当性などが主な論点となります。手数料が高すぎる場合でも直ちに違法とはならないものの,前述のように極端に高利な設定や形骸化した売買契約であれば法的無効リスクがあります。BtoCではそもそも契約自体が無効・違法となるケースがほとんどであり,発生するトラブルも違法業者による取り立て被害や過払金返還請求といった,貸金・ヤミ金融問題の様相を呈します。個人が被害者となる分,救済措置(警察相談や消費生活センターへの通報など)も公的に用意されています。一方,企業が相手のファクタリング紛争では当事者が事業者同士となるため,裁判所も一律の判断基準を示すことを慎重に避ける傾向があると指摘されます(多くの事案が和解で解決している実情があります)。この点も,明白に違法と断じられるBtoC取引との違いと言えるでしょう。
おわりに:最近の動向
近年,ファクタリングを取り巻く法規制強化の機運が高まっています。令和5年(2023年)には最高裁が給与ファクタリングを違法と断じ,違法業者排除の流れを後押ししました。また,事業者向けファクタリングについても各地の裁判例が積み重なりつつあり,偽装ファクタリングの判断基準が少しずつ明確化されてきています。金融庁や消費者庁は引き続き悪質業者への監視を強める方針であり,利用者側も契約内容に少しでも不安があれば弁護士等の専門家に相談するよう呼びかけられています。
結論として,BtoBファクタリングとBtoCファクタリングでは法的リスクの質と深刻さが異なりますが,共通して重要なのは「形式ではなく実態」を見極めることです。ファクタリング契約が経済実態として貸付と同視される場合,たとえ契約書上は債権譲渡と書かれていても違法リスクを免れません。ファクタリング事業者は健全なスキームを遵守し,利用者(債権者)は契約条件を慎重に確認することで,違法な取引に巻き込まれないよう十分注意する必要があります。法律・ガイドライン・判例で示されたポイントを踏まえ,安全で適法なファクタリングの利用・運営に努めることが肝要です。
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飲食店等で源泉徴収漏れが発覚した場合の法的リスクと刑事責任

はじめに
飲食店等の経営者にとって、従業員の給与やその他の報酬から所定の源泉所得税額を天引きして納税する「源泉徴収」(従業員等に対する給与等の支払に当たり所定の源泉所得税額を天引きした上、これを国に納付する所得税法上の義務:以下同じ)は、従業員等に対する給与等の支払事務の一環として行われている基本的な事業経理ないし税務上の事務処理です。
しかし、うっかり源泉徴収漏れが生じた場合、その影響はかなり深刻です。事業者等に課されている法律上の徴収義務であるだけに、単なる経理処理上のミスでは済まされず、追徴課税と延滞税の賦課が行われることはもちろん、税務当局から悪質だと見做された場合には刑事責任まで問われるリスクもあります。
本記事では、飲食業界等でまま見受けられる源泉徴収漏れの事態を基に、税務調査開始から刑事告発に至るまでの流れ、法人の代表者等の事業者(源泉徴収義務者)又はその命を受けた経理担当者等の刑事責任の概要、そして、刑事事件に強い弁護士に早期に相談・依頼する必要性について、専門的な見地から丁寧に解説します。
事態の深刻さについて正しく理解された上、万一にも源泉徴収漏れが生じている場合には迅速且つ適切な対応に努めるべく参考にしてください。
1.飲食業界等で頻発する源泉徴収漏れの事例
飲食店等では、アルバイト従業員等に対する給与等の支払について源泉所得税の徴収漏れが生じやすいと言われています。例えば、事業者1人又は家族経営の小規模飲食店でアルバイトに対する給与の支払に当たり手渡ししており、源泉所得税の天引きをしていないケース、また、「パート職員・学生アルバイトに対するパート代等の支払についてまで源泉徴収をする必要はない。」と誤解して源泉所得税が徴収漏れとなっているケースが多々見受けられます。
また、飲食店等で日払い・現金払いで従業員にパート賃金等を支払うこともありますが、その際に帳簿類の記帳が的確に行われておらず、その結果として源泉徴収漏れが生ずるケースも見受けられます。さらに、店舗で調理補助等を行うフリーランスや個人事業主に対する支払を外注費として経理処理している場合に、本来は雇用主として源泉徴収義務があるにもかかわらず、従業員に対する給与の支払ではないので源泉徴収義務はないとの誤解の下に源泉徴収漏れが生ずるケースも報告されています。
こうしたケースは、特に飲食業界等ではままあることのようですが、他の業種も含め、税務当局から源泉徴収漏れで所得税法違反(ないしは意図的な脱税)との指摘を受ければ「知らなかった」では済まされない重大な問題となります。
このほか、従業員に賄い(無料の食事)を提供する場合、その経済的価値が給与の一部(みなし給与)に該当するとされて課税対象となる場合もあります(注:税務上の取扱いの詳細については税理士又は税務当局に確認することが必要です。)。
このように、業界の慣行を背景に又は事業者等の認識の甘さなどから源泉徴収漏れが生ずる例は少なくありません。平素から日々的確な経理処理及び税務上の処理を心がけ、源泉徴収漏れが生じないように注意を払うことが必要であり且つ大切です。
2.源泉徴収漏れの発覚と税務調査の流れ
源泉徴収漏れが発覚する端緒としては、税務署の定期的な税務調査の外、従業員・取引先からの通報等により特別に実施された税務調査による場合もあります。
税務署は、法人及び個人事業者に対する税務調査の際には従業員等に対する給与等の支払につき源泉徴収漏れはないかどうかという観点からも帳簿類のチェックを行いますので、税務調査で源泉徴収漏れが見逃されることは殆どないと言って良いと思われます。
また、最近では、国税庁のウェブサイトに誰でも脱税や徴収漏れについて通報することができるフォームが公開されていますので、そのような通報を基に税務調査が行われる場合もあるようです。
税務調査で源泉徴収漏れを指摘された場合の一般的な流れについて説明します。
ア 指摘と追徴課税の通知
税務調査で源泉徴収漏れの指摘があった場合、源泉徴収の対象となる給与等の支払額を確定し、これに係る源泉所得税額を算出して納付するよう求められます。不納付となっていた源泉所得税額が確定すれば、これに伴い生ずる延滞税や各種の加算税の額も確定され、追徴課税されることになります。
イ 修正申告と納付
事業者(源泉徴収義務者)は、適正な源泉徴収税額について修正申告を行うとともに、速やかに本来の納税額(差額分)を納付します。
源泉徴収義務者は、法律上の源泉徴収・納付義務を負っている訳ですから、従業員等に対する給与等の支払に当たり実際に源泉徴収を行っていなかったという場合であっても、算定される本来の源泉徴収税額を納付する義務がありますので、事業者側で負担してでも不足分の源泉徴収税額を納付しなければなりません。
ただ、その際には、源泉徴収漏れとなっていた税額分を従業員から改めて徴収するのか否かについても検討事項となります。会社が後から従業員に負担を求める場合、所得税法第222条に基づきその後の支払給与から天引き控除することもできるものの、従業員との信頼関係に配慮して会社負担とするケースもあります。
しかし、会社負担とした場合、その追加納付に係る源泉徴収税額は従業員に対する手当とみなされますので、その分につき発生する源泉所得税についても再計算の上、再度、源泉所得税額の修正納付をする必要があります。
ウ 追徴課税(加算税・延滞税)の納付
源泉徴収漏れというのは、本来納付すべき税額に不足が生じている事態ですので、その不足税額分については延滞税及び加算税(不納付加算税)が課されます。
延滞税は納付遅延日数に応じて年利換算で算出される利息的な税金であり、本税の完納まで日々発生しますし、加えて、不適切な納税事務処理に対するペナルティである不納付加算税(原則として本税の額の10%)も課されるのです。
ただし、税務調査で税額が確定する前に自主的に不足分の税額を納付していれば、不納付加算税が5%に軽減される場合もあります。
エ 重加算税の賦課の可能性
仮に、税務調査の結果、源泉徴収漏れが故意による隠蔽(いんぺい)又は仮装工作によるものと判断された場合、通常の加算税に代えて重加算税が賦課されます。重加算税は、不納付加算税を賦課する代わりに、本来納めるべき税額の35%もの高率で賦課される懲罰的な税金です。
税務調査から是正指導・追徴課税までには、事案によって数ヶ月から1年程度の期間を要する場合もあります。そして、その過程では、源泉徴収義務者たる事業者等に多額の追徴税の賦課と追加的な経理・税務上の事務処理という大きな負担がのしかかります。
例えば、岡山県真庭市で発生した事案では、源泉徴収漏れとなっていた約535万円の税額について延滞税及び不納付加算税の計約68万8,100円(約税額の13%)が賦課されたと報じられていますが、実際には、これらの追加的な納税に係る事業者側の事務量の負担というのも相当なものとなっている筈です。
とはいえ、上記のように金銭的なペナルティ及び事務量の負担は相当重いものになるものの、税務当局の指摘に基づく一般的な納付税額の過少の事態は、本来の納税額の追加納付とこれに係る各種加算税の納付の手続を経て終結します。しかし、特に悪質な態様であると判断され且つ納付不足の税額が多額に上る場合には、税務調査とその結果に基づく(重加算税を含む)各種の加算税等の賦課という税務上の課税処分に止まらず、雑税事件としての刑事告発(脱税罪としての立件)という次のステージに進むことになります。
3.加算税・重加算税にとどまらない刑事告発の可能性
源泉徴収漏れが偶発的なミスではなく、意図的・継続的であり、不納付額も多額に上る悪質な脱税行為であると判断された場合、税務当局はその案件を検察庁に対し刑事告発することになります。
刑事告発の基準については、明確な形では公表されていませんが、実務的な感覚としては「隠蔽・仮装の意図があったか」、「補脱税額が多額に上るか」、「脱税期間が長期に亘るか」などが事態の悪質性を認定する上での判断要素とされます。
ですので、一般に、法人税や所得税で補脱税額1億円以上の所得隠しの事案の場合には刑事告発の対象となると言われていますが、補脱税額が数千万円程度であっても、悪質な所得隠しの事案に当たると判断されて刑事告発に至った例もあります。
飲食店等における源泉徴収漏れの場合、法人税等の巨額脱税事案(源泉徴収漏れを含む。)に比べれば補脱税額が比較的少額に止まる場合が多いものと思われますが、組織的・常習的な給与支払について秘匿するとか、源泉徴収を全く行わずに給与等の支払を行っていたような場合であって、補脱税額もある程度の金額に上る場合には、刑事事件に発展する可能性もないとは言えないでしょう。
刑事告発された場合、当該案件は国税局の査察部(マルサ)の調査を経た後に検察庁に送致され、事業者側(代表者ないし経営者、経理関係者等)は脱税事件の被疑者として取調べを受けることになります。
刑事告発された脱税事件については、起訴率及び有罪判決率が非常に高いと言われており、つまり、税務当局に刑事告発された場合には、代表者ないし経営者等に前科の付く可能性が極めて高いということになります。
なお、刑事事件化した場合の罪名としては、源泉徴収漏れの事態が生じた態様により、大きく分けて次の二つになるものと考えられます。
- 不納付犯(所得税法第240条)
事業者等が給与等の支払に当たり源泉徴収を行っていたものの、それを国に故意に納付していなかった場合に成立します。
例えば、事業者に於いて支払給与等から天引きしていた源泉所得税を納税せずに、他の用途に使い込んでしまった結果として滞納しているようなケースです。
この不納付犯の法定刑は、10年以下の懲役又は200万円以下の罰金(又は併科)という重いもので、刑法犯に匹敵する厳罰となっていますが、罪質の実態として一種の業務上横領に近いものであるとの評価に基づくものとも思われます。
- 不徴収犯(所得税法第242条 等)
本来源泉徴収すべき所得税額を最初から徴収していなかった場合に成立します。例えば、給与等の支払等を行いながら、一切の源泉徴収を行っていなかったケースなどが該当します。不徴収犯も刑事罰の対象で、場合によっては不納付犯と同様に拘禁刑が科される可能性もあります。不徴収それ自体は税の徴収を妨げる行為(租税秩序犯)ですが、特に悪質な脱税と判断されるような場合には刑事訴追される場合もあるということです。
事業者の責任としては、法人代表者のみならず、経理担当者の刑事責任についても注意が必要です。
源泉徴収漏れは、源泉徴収義務者(事業者・代表者等)の当該徴収義務違反ですので、例えば、社長自ら「バイトの給与は帳簿に載せるな」と指示していたような場合に社長個人が刑事責任を負うことになるのは当然ですが、2019年に発覚した「青汁王子」の脱税事件では、社長のみならず、脱税に関与した従業員や取引先の役員までが法人税法違反事件の幇助犯として逮捕されています。
また、両罰規定により事業者(法人)に対して罰金刑が科される場合もあります。このように、源泉徴収漏れが故意の脱税であって悪質な所得隠しであると判断される場合には、いわば会社ぐるみで刑事処分を受けるリスクが生じるのです。
4.過去の摘発事例から見る源泉徴収漏れの深刻さ
飲食業等における源泉徴収漏れそれ自体がクローズアップされた報道事例は多くないようですが、次のような事案に意図的・継続的な源泉徴収漏れなどが含まれる場合には、業種等の相違に拘わらず、事業者(経営者等)が源泉聴取漏れに係る所得税法違反としても刑事告発される恐れがあるように思われます。
- 乗馬クラブ運営会社の刑事告発の例(無申告): 2018年に乗馬クラブの運営会社が2年間にわたり確定申告を行わず、約2,673万円(金額は消費税等)を脱税したとして刑事告発された事例。
この事例では無申告の悪質性が問われ、千葉地検特別刑事部が強制捜査に動いたものですが、補脱税額が3,000万円に達していないような事案でも、意図的・組織的に納税義務を果たさない悪質性から刑事告発されたものと考えられます。
- 解体工事業者の脱税事件(8800万円の所得隠し): 2011年には茨城県の解体工事業者が2年間で約8,791万円の所得隠しを行い、悪質性が高い事案であると判断されて、刑事告発された事例。
このように、悪質な税逃れは業種や金額に関係なく刑事告発される可能性があります。飲食店等における源泉徴収漏れも、意図的・継続的に「従業員に払った給与を帳簿に記載していなかった」、「現金支給していた給与等に係る源泉徴収を行っていなかった」などの事例があれば、刑事事件に発展するリスクはあります。
刑事事件となれば、報道等により社会的信用は失墜し、営業継続も困難になるでしょう。税務当局も、従来、飲食業界の無申告ないし源泉徴収漏れ事案には注目しています。
国税庁の発表によれば、令和5年度中に全国で告発された脱税事件は総額89億円、1件あたり平均約0.88億円(8800万円)とされています。刑事告発された事件の逋脱税額は数千万円台から1億円前後のものが中心ですが、中小規模事業者の事件も少なくなく、また、逋脱税額だけの刑事告発の有無が定まっている訳でもありません。
中小規模の飲食店等においても、経営者(源泉徴収義務者)は危機感を以てリスク管理を徹底する必要があります。
5.刑事事件に強い弁護士の役割と対応例
万一源泉徴収漏れが税務当局から指摘を受け、刑事処分の可能性が出てきた場合、弁護士(特に、刑事事件に強い弁護士)はどのような役割を果たすのかについて解説します。
先ず強調したいのは、刑事事件化される芽を摘むべく、早い段階から弁護士が関与することが極めて重要だという点です。
具体的には、税務調査の段階で「これは悪質な事案だ」と判断されると国税局の査察部に引き継がれますが、この段階から弁護士が刑事告発の回避を意識して防御活動を行うことが可能であり大切です。
刑事事件に強い弁護士であれば、税務調査の段階でも査察官等との応対についても適時適切なアドバイスを行い、必要に応じて修正申告、追加納税等について迅速に対応することにより「刑事告発までは不要」と判断してもらえるよう働きかけることになります。
実際、刑事事件の経験豊富な刑事弁護士であれば、重加算税の賦課又は刑事告発の検討段階で税務当局と交渉しますので、相談者に有利な状況を作り出すことも期待できます。
また、税務当局が刑事告発し、検察による捜査に移行する場合には、刑事事件で弁護人を務める弁護士は大きな役割を果たすことができます。
主な対応例として次のとおりです。
- 任意の事情聴取への同行・対応指導
事業者等(代表者、経営者等)が検察から事情聴取(任意の取調べ)を求められた場合、刑事弁護士は適切な取調べ対応のために事前打合せを行います。また、必要に応じて弁護士が検察官の取調べに同行し、取調べ中の相談者(取調べを中断・中座した相談者から)随時の相談を受けることにより、不当な誘導その他の違法・不適切な取調べが行われないよう注意を払うとともに、適時のアドバイスをすることが可能です。
特に税務案件では複雑な事実関係についての詳細な説明が求められることから、何処までどのような説明をするのかなどについて戸惑うことが多い筈です。ですので、専門的な知識を有する刑事弁護士から適時のサポートを受けることは、孤立無援のような状況下に置かれる取調べにおいて心強い支えとなる筈です。
- 身柄拘束の回避
刑事告発された後、逮捕状が発布されることも考えられます。しかし、刑事弁護士が付いていれば、検察官に対し、在宅捜査で十分であることを主張し、逮捕の必要性が乏しいことを示す資料を提出するなどして、逮捕・勾留を回避する可能性を高めることも可能となります。実際に、弁護士の迅速な働きかけにより、脱税事件の被疑者とされる本人が自主的に出頭し、取調べにも誠実に対応することで逮捕が見送りとなったという例も報告されています。
- 不起訴処分・起訴猶予の獲得
刑事弁護士は、検察官に対し、依頼者が深く反省し、既に追徴税については完納していること、有効な再発防止策を講じている点などを詳細に説明することを通じて不起訴処分(正式な刑事裁判を求める「起訴」を行わないという処分)を求めます。
特に、初犯で補脱税額が比較的少額に止まるケースでは、不起訴処分(起訴猶予)となる可能性があることから、刑事弁護士の適切な弁護活動が起訴猶予という結果を招来する大きな要因となる場合が少なくない筈です。
- 起訴後の減刑・執行猶予獲得
仮に起訴され刑事裁判(公判)が行われる場合には、刑事弁護士は公判で情状酌量の余地を強く訴えます。例えば、脱税額については、全額修正申告の上で納付済みであること、家族や従業員の生活がかかっており事業を存続させる社会的な必要性があること、公判で再発防止について誓約していることなどを指摘し、執行猶予付き有罪判決(又は罰金刑の判決)に止めるよう尽力します。
法人の代表者等が脱税犯として起訴された場合、実刑判決を受けて服役することとなれば事業の継続が困難になることから、執行猶予月の有罪判決に止めてもらうことには大きな意義があります。
- 将来への助言と再発防止策
刑事弁護士は、その場しのぎ的に量刑の軽減のためだけに弁護活動をするのではではなく、発将来を見据えた再発防止のための弁護活動を行います。例えば、税理士とも連携しながら経理体制の改善(複数人によるチェック体制の構築、クラウド会計の導入等)について助言し、将来に亘り同様の事態の発生を防止するための態勢構築について提案し、サポートします。
以上のように、悪質な脱税事案であるとして刑事告発されて刑事事件化する可能性もあることを踏まえると、源泉徴収漏れを税務当局に指摘された場合、かかる事態を回避すべく早い段階で刑事弁護士の関与を求め、サポートを受けることが有効です。
6.弁護士に相談・依頼するタイミングとメリット
「自分の店で源泉徴収漏れがあったのかも知れない」、「税務調査が長引いており、所得隠し等の脱税を疑われているかも知れない」などと感じたら、迷わず刑事弁護士に早めに相談すべきでしょう。
刑事事件を専門的に取扱う弁護士(刑事弁護士)であれば、過去の経験値等を踏まえ、現在相談者が直面している状況について客観的に分析し、今後執り得る最善の対応策を提案してアドバイスすることになります。
ですので、相談のタイミングが早ければ早いほど、相談者の不安が減少するばかりでなく、選択肢も広がり、重大なリスクの発生(最悪の場合には有罪の実刑判決)を軽減させる余地も大きくなります。
具体的なメリットとしては、次のような点が挙げられます。
- 刑事告発又は強制捜査の回避
刑事弁護士が早期に活動することで、刑事告発等を回避することが期待できます。
即ち、「悪質性の程度は高くなく、修正申告と追加納税等も済ませ、経理及び税務の事務処理体制の改善・整備により事業自体の改善により将来の再犯防止も見込まれる」などと主張して当局の理解を得られれば、刑事告発又は逮捕等の強制捜査に発展することを回避することを期待できます。
令和5年度に刑事裁判に至った脱税事件189件中、無罪になったのはわずか7.6%(国側敗訴率)というデータがあり、そもそも刑事事件に発展させないことが何よりも重要であることが分かります。
また、③社会的信用の回復ということを期待することができます。
即ち、刑事弁護士が早期の問題解決に動くならば、その過程で「社長逮捕」、「脱税で起訴」といった報道が行われることを回避できる可能性も高まり、取引先や顧客の信用失墜を最小限にとどめることを期待することができます。
特に、飲食店等では地域の評判が大切でしょうから、社会的な耳目を集める前段階での解決を少しでも図る努力が大切です。
税務調査、査察、捜査等のプレッシャーで追い詰められ、孤立無援のような状況下に置かれている事業者にとって、刑事弁護士の存在は大きな精神的な支えともなります。深い反省の上での事業の立て直しにも注力しやすくなるでしょう。
- 税理士との連携支援
税務に強い弁護士の事務所は、税理士等と連携して対応することも可能です。実際、修正申告の手続、過去帳簿の記帳整理などは税理士の仕事になりますが、その段取りも含め刑事弁護士が調整します。
結果として、最悪の事態に発展することの回避を目指しつつ、税理士等とも連携し、指摘に係る税務上の不適切な事態の改善等を図ることができます。
税理士は税務の専門家ですが、刑事事件化の過程における弁護活動としての当局との交渉等は弁護士の職域です。
7.早めの相談が危機管理のリスク最小化の鍵
源泉徴収漏れはどの事業者の方にも起こり得るミスですが、源泉徴収漏れを指摘され、その納付漏れ又は逋脱税額が多額に上る場合には、その時から刑事事件化の回避という危機管理が始まります。
そして、対応が遅れれば遅れるほど、税務当局の態度も硬化するでしょうし、刑事告発のリスクも高まり、信用問題が生じて来る可能性もあります。
飲食店の経営者の方々その他従業員等に対する源泉徴収義務者である皆様には、日頃から的確で適切な経理事務及び税務処理を行うことはもとより、万一問題が生じた場合には信頼できる専門家に相談されることをお勧めします。
特に、刑事事件に強く、検察当局等との折衝経験等の豊富な弁護士(刑事弁護士)であれば、刑事告発され、逮捕・勾留等を伴う強制捜査が行われ、更には起訴されて刑事裁判が始まることの回避等に向けて全力でサポートします。
初動対応一つでその後の展開が大きく変わるというのが刑事事件の特徴であり、当初から迅速且つ適切に対応すれば重大なリスクも最小限に抑えることも可能です。
元裁判官、元検察官、元会計検査院の官房審議官など企業案件の知識・経験の豊富な弁護士が、企業犯罪・不祥事対応等のコンプライアンス事案に対応します。
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スニーカー販売をするために必要になる許可②
【事例】
Aさんは、福井県敦賀市に住む会社員ですが、大学生の頃からの趣味でスニーカーの蒐集をしていました。
ただ、結婚を機に蒐集していたスニーカーを手放そうと考えて、オークションサイトやフリーマーケットアプリで売却をしたところ、思ったよりも高値で売却することができました。
その経験をきっかけに、Aさんは、会社員の傍ら、副業としてスニーカーの転売をしようと考えました。
Aさんとしては、オークションサイトやフリーマーケットアプリ、中古販売店などから、相場よりも安く希少なスニーカーを見つけてきて購入し、オークションサイトで転売しようと考えています。
また、事業が軌道に乗れば会社を作って転売をしていこうとも考えています。
しかし、Aさんは、初めて副業をすることから、許可など法律的に必要になる手続きがあるのか不安になりました。
もしも許可などの必要な手続きを怠った場合、本業の方にも影響があるのではないかと心配で、あいち刑事事件総合法律事務所に相談することにしました。
(事例はフィクションです。)
1 はじめに
前回の記事では、Aさんがやろうとしている中古品の転売という事業は古物営業法の規制を受ける事業であること、そして、都道府県公安委員会の許可が必要となる一定の「古物営業」(古物営業法2条2項)とはどのようなものかをみてきました。
そして、Aさんの場合にも、一部の取引が古物営業法2条2項1号に該当する可能性があると解説してきました。
今回は、古物営業法2条2項1号に該当する具体的な内容について解説していきます。
2 許可が必要となる取引とは
許可が必要となる「古物営業」の1つとして、古物営業法は、「古物を売買し、若しくは交換し、又は委託を受けて売買し、若しくは交換する営業であつて、古物を売却すること又は自己が売却した物品を当該売却の相手方から買い受けることのみを行うもの以外のもの」(古物営業法2条1項1号)を挙げています。
この規定を読み解く場合、2つの要素があると考えると分かりやすいでしょう。
1つは、前半の「古物を売買し、若しくは交換し、又は委託を受けて売買し、若しくは交換する営業」である要素です。
もう1つは、後半の「古物を売却すること又は自己が売却した物品を当該売却の相手方から買い受けることのみを行うもの以外のもの」だという要素です。
分かりにくいのは後者の要素でしょう。
まず、「自己が売却した物品を当該売却の相手方から買い受けることのみを行うもの」、つまり、自分の売ったものを買い戻す場合は許可が必要な「古物営業」には該当しないということです。
そして、「古物を売却すること」「のみを行うもの」も該当しません。
つまり、“古物を買って、古物を売る”のは該当しますが、“新品を買って、(買ったことによって古物になった)古物を売る”場合や、“(買わずに)無償で貰った古物を売る”場合は、該当しないのです。
Aさんの場合には、元々蒐集していたスニーカーを売却する場合や、新品のスニーカーをメーカーや小売店から購入して転売する場合は、古物営業法2条2項1号に該当せず、「古物営業」とはいえないでしょう。
しかし、オークションサイトやフリーマーケットアプリ、中古販売店などで仕入れて転売するのは、「古物」(古物営業法2条1項)を購入してから売却することになりますから、「古物営業」に該当しますので、許可を受けておく必要があります。
これはそのスニーカーが未使用品であっても変わりません。
次回以降の記事では、許可を得る手続などについて解説していきます。
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所では、刑事事件に関わってきた経験を活かし、そもそも法律に違反しないための対応・アドバイスにも力を入れています。
許認可申請についてアドバイスがほしい、継続的に弁護士からアドバイスを受けたいなどといったご要望の方も、一度、あいち刑事事件総合法律事務所にご相談ください。
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学校法人における刑事リスクと初動対応の重要性
学校法人や教育機関では,体罰や資金不正,ハラスメントなど,刑事事件に発展し得る不祥事やコンプライアンス違反が発生する可能性があります。
こうした問題が起これば,学校の信用失墜や法的責任の追及に直結するため,一般職員であっても危機意識を持ち,適切な対応策を理解しておくことが重要です。特に,問題発生直後の初動対応の巧拙がその後の展開を大きく左右すると指摘されています。
本記事では,学校法人で実際に起こりうる具体的な刑事リスクの例を挙げ,初動対応の重要性を確認します。
さらに,早期に弁護士に相談することのメリットとして,事実調査や証拠保全,記者会見対応,被害者・加害者への対応,危機管理マニュアル整備支援といった観点から,専門家が果たす役割を詳しく解説します。
最後に,刑事事件対応に特化し,教育機関への対応実績も豊富な弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所の体制と強みをご紹介します。

学校法人で起こりうる事件・リスク
学校法人が直面し得る刑事・リスクにはどのようなものがあるでしょうか。
例えば,教師による体罰・暴行,生徒への性的な不適切行為,管理職による資金の私的流用(背任罪),学校への架空請求等の詐欺が考えられます。
また,教職員間のパワーハラスメントやセクシュアルハラスメント,大学入試の不正操作,問題発覚後の不祥事隠蔽や証拠隠滅,公立学校の場合だと公文書の改ざん(虚偽公文書作成罪に該当)といった事態も起こり得ます。
なお,体罰は暴行罪や傷害罪に該当し得る明確な犯罪行為です。
こうした多様なリスクに対し,学校法人では日頃からコンプライアンス意識を高め,違法行為を防止する取り組みが求められます。
事例
実際に学校法人の内部で発生した事件の一例を見てみましょう。
例えば,2012年に大阪市の高校で,部活動顧問の教師から体罰を受けた生徒が自殺する痛ましい事件が起きています。
また,東京の有名大学では,元理事長が業務実態のない人物に巨額の報酬を支払い,約1億2000万円の損害を与えた背任事件で逮捕されました。
さらに,2018年には文部科学省の汚職事件を契機に大学の入試不正問題が発覚し,女子受験者を一律に減点していた大学が社会的批判を浴びました。
このほか,教職員によるハラスメントの隠蔽や,学校が重大ないじめ事件を警察に報告せず対処を誤ったケースも数多く報道されています。
近年では,各自治体や学校内で,教員による性暴力の防止のための取り組みも報じられています。
これらの事例は,学校法人でも刑事事件に直結する問題が起こり得ることを示しており,他人事ではないと認識する必要があります。
初動対応の重要性
不祥事や疑いが浮上した際には,初動対応が極めて重要です。
適切な初動措置を取ることで,被害の拡大防止と早期収束につながります。
具体的には,関係者や被害者の安全確保,速やかな事実確認と証拠の確保,関係機関への報告などが初動段階の基本となります。
不正・不祥事対応では「初動対応の巧拙がその後の展開を大きく左右する」とされ,迅速かつ適法な証拠保全や効果的な聞き取り調査を行うことが肝要です。
反対に,対応が遅れたり隠蔽を図ったりすれば,後になって事実が露見した際に組織への批判や処分が一層厳しくなる恐れがあります。
また,被害者の心情を無視した対応は二次被害を招き,将来的に学校法人への訴訟リスクを高める結果にもなりかねません。
こうした観点から,問題が判明した段階で速やかに専門家の助言を仰ぐことが望ましいでしょう。
事実調査と証拠保全
問題発生後は,まず事実関係の徹底した調査が欠かせません。
しかし内部だけで調査を行うと,どうしても客観性を欠いたり,関係者の証言の食い違いを適切に整理できなかったりする危険性があります。
そこで,弁護士のサポートのもと,証拠の保全と関係者からのヒアリング(聞き取り調査)を迅速かつ的確に行うことが重要です。
弁護士は,事案に応じて第三者委員会など外部の調査機関を設置すべきか否かといった判断についてもアドバイスできます。
例えば,教職員による体罰問題や生徒・学生間での暴力事件が生じた場合,迅速な事実確認と被害生徒の保護を弁護士の指導のもとで進めることが望ましいでしょう。
専門家の関与によって,調査の信頼性を確保し,後々の刑事・民事手続にも耐えうる証拠を押さえることが可能になります。

記者会見への対応
重大な不祥事が発覚すれば,報道機関から取材が殺到し,世間の注目を集めることになります。
その際,学校法人として適切な情報開示と謝罪を行うことで,事態の沈静化と信頼回復を図ることが不可欠です。
記者会見では事実関係や再発防止策を説明し,社会に向けて真摯な姿勢を示す必要があります。
とはいえ,会見での発言一つで法的責任に影響したり,説明不足がさらなる批判を招くリスクもあります。近年では,事件報道などに関して学校が会見を開いたところ,「不適切な対応だ」とSNS等で批判の的となり,いわゆる炎上騒動に発展するケースもあります。
そこで,弁護士の助言を受けながら発表内容や表現を精査し,場合によっては想定問答集を準備することも必要です。
マスコミ対応に精通した弁護士が会見に同席し,取材対応の代行や会見の進行支援,代理人としての発言を行うこともあります。
専門家の関与により,事実と誠意に基づいた適切な広報対応が可能となり,学校や関係者への風評被害の拡大を抑えることができるでしょう。
被害者・加害者対応と危機管理マニュアル整備
不祥事の対応では,被害者と加害者(行為者)それぞれへの適切な対処も極めて重要です。
被害に遭った生徒や職員には,心身のケアと適切な補償を行い,二次被害を防ぐ配慮が求められます。弁護士がいれば,被害者への謝罪や補償交渉も法的に適切な形で進められます。
一方,加害行為を行った職員や学生には,懲戒処分や刑事告発を含む厳正な対応が必要で,弁護士は学則や就業規則,法令に照らした処分手続について助言し,関係者への聞き取りを通じて再発防止策を検討します。
また,再発防止のため危機管理マニュアルの整備・見直しも欠かせません。
例えば,いじめ問題については,平時から弁護士の協力を得て調査手順や対応マニュアルを作成しておくことが有効です。
このように弁護士の知見を取り入れることで,組織として被害者と加害者双方に適切に対応し,将来的なリスク削減につなげることができます。
事務所紹介
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所は,刑事事件・少年事件を専門的に取り扱う全国規模の法律事務所です。
全国各地に拠点を構え,重大事件から身近なトラブルまで幅広い刑事案件で豊富な対応実績を有しています。
特に刑事弁護に精通した弁護士が在籍しており,学校・法人運営に関してもコンプライアンス違反の事例が発生した場合に学校や会社への影響を最小限にとどめる解決策を提案できるのが強みです。
弊所では24時間365日相談を受け付けており,初動段階から迅速に対応できる体制を整えています。
刑事事件対応のプロフェッショナルとして,学校法人の危機管理に万全を期す心強いパートナーとして対応します。
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全国展開している事務所だからこそできるネットワークを生かした迅速な対応が可能です。
企業犯罪・不祥事に関するお問い合わせ、ご相談のご予約は24時間365日受け付けております。
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中小ネット通販事業者のための特定商取引法ガイド:広告表示義務とクーリングオフ規定
ネット通販事業者に向けて、特定商取引法の規制、特にクーリングオフに関する規定を解説します。

はじめに
近年はECサイトの発展などで誰にでも簡単にネット通販事業を開始できる時代であるといえます。
しかしながら簡単に始められるといっても、法令に違反した営業をしてしまえば当然営業を継続できなくなる処分を受けるおそれがあり、最悪、刑事罰を受けるおそれもあります。
ネット通販事業においては、特定商取引法の法規制が問題になり、法令を遵守して事業を行うことが重要になります。
今回の記事では実務上問題になりやすい、通販事業者が押さえておくべき広告表示義務とクーリングオフ制度について、その概要と違反時のリスク、実例、そして法令順守のポイントを解説します。
通信販売における広告表示義務とは
通人販売の広告において、どのような事項を表示する義務があるかについて解説します。
特定商取引法では、通信販売(オンライン取引)を行う事業者は広告やウェブサイト上に一定の事項を表示する義務があります。
表示義務を課されている事項については特定商取引法11条に定めがあります。
これは消費者が購入前に必要な情報を得られるようにするためで、表示すべき項目には、商品やサービスの販売価格(送料を含む)、代金の支払時期・方法、商品の引渡時期、申込み期間がある場合はその旨、契約の撤回・解除(返品特約)の条件、事業者の氏名(名称)・住所・電話番号などが含まれます。
これらの情報が広告に不十分だったり不明確だったりすると後々トラブルになりやすいため、法律で明確に表示事項が定められているのです。
広告表示義務に違反した場合のリスク
では広告表示義務に違反した場合にはどのような罰則やリスクが想定されるのでしょうか。
もし広告表示義務を怠ると、特定商取引法違反となり行政上の処分や刑事上の罰則の対象となります。
まず行政措置として、所管官庁(消費者庁や経済産業局等)から業務改善の指示や業務停止命令等の処分を受ける可能性があります。
行政処分については特定商取引法14条1項や特定商取引法15条1項に規定があります。
実際に通信販売の規定に違反すると、事業者は業務の一部または全部の停止を命じられるケースもあります。
さらに一部の悪質な違反は刑事罰の対象となり得ます。
たとえば広告への必要表示を欠落させた場合(広告表示義務違反)は、法律上100万円以下の罰金刑に処される可能性があります。指示に従わず違反行為を継続したような場合には、経営者や担当者個人が6か月以下の懲役刑を科されるリスクも生じます(法人も同様に罰金対象)。
このように表示義務を軽視すると営業停止のみならず刑事罰という重大なリスクがあるため、遵守が欠かせません。
虚偽・誇大広告に関する法規制について
単に表示を怠るだけでなく、事実と異なる内容や誤解を招くような広告表示をすることも特定商取引法で禁止されています。
特定商取引法第12条では、広告に「著しく事実に相違する表示」や「実際のものよりも著しく優良・有利と人を誤認させる表示」を行うことを明確に禁じています。
これは消費者に実態以上に有利な印象を与える誇大な宣伝を防ぐための規定で、いわゆる「不当表示」にあたります。
事業者がこのような虚偽・誇大広告を行った場合、行政当局からの指示や業務停止命令等の処分対象となるほか、100万円以下の罰金が特定商取引法72条で定められており、刑事罰が科されることもあります。
実際、2024年にはある健康食品通販会社が根拠のない「No.1」表示を広告に用いたことが特商法上の誇大広告禁止規定違反と認定され、業務停止命令を受けました。
このように誇大・虚偽な表示は景品表示法のみならず特定商取引法でも規制されており、中小事業者であっても注意が必要です。
クーリングオフ制度の概要(通信販売との関係)
クーリングオフとは、特定商取引法で定められた一定の取引類型において、契約後でも一定期間内であれば無条件で契約を解除できる消費者保護制度です。
典型的には訪問販売・電話勧誘販売・特定継続的役務提供(エステや英会話教室など)・訪問購入では契約書面を受け取ってから8日以内、連鎖販売取引(マルチ商法)や業務提供誘引販売取引では20日以内であれば、消費者は理由を問わず書面で契約解除を通知できます。
通信販売(通信契約)というだけではクーリングオフに関する規定がありません。
つまり、「インターネット通販で商品を購入した」というだけでは、法律上は原則として「冷静に考え直して返品・解約したい」という理由で一方的に契約を解除することはできないのです。
通販サイトで買い物をした後でのキャンセルや返品は、各店舗の定める返品特約や消費者契約法上の取消事由などに頼ることになり、訪問販売のような無条件解約制度は適用されません。
クーリングオフ妨害と刑事罰
もっとも、クーリングオフが認められる取引において、事業者が消費者のクーリングオフ行使を妨げる行為をすると厳しい罰則が科されます。
具体的には、事業者が嘘をついてクーリングオフはできないと思い込ませたり(不実の告知)、必要な情報をわざと伝えなかったり、威圧的な対応で消費者を困惑させたりしてクーリングオフを断念させる行為が該当します。
それ自体が特定商取引法違反であり、法律はこのようなクーリングオフ妨害行為を明確に禁止していて、違反した場合は2年以下の懲役または300万円以下の罰金という重い刑事罰の対象となります。
実際に、「あなたは事業者扱いだからクーリングオフはできない」などと虚偽の説明をして消費者に解約をあきらめさせようとした悪質な業者が摘発され、業務停止命令を受けたケースがあります。
なお、一度でもこうした妨害行為があった場合、法律上はクーリングオフ可能期間が過ぎていても改めて解除できる救済措置(期間の延長)が認められるなど、消費者保護が図られています。
いずれにせよ、クーリングオフを妨げる行為は犯罪行為となり得ることを覚えておかなければなりません。
そのために事業者は、これから始めようとする取引の形態にクーリングオフが認められるかどうかについて、正確に判断する必要があります。
ネット通販事業者において問題になった実際の事例
行政処分、刑事罰が科された事例について紹介します。
「定期購入」について
例えば近年、いわゆる「定期購入商法」と呼ばれる手口(お試し商品から高額な継続課金に移行する通販形態)に対し、消費者庁が積極的に執行を行っています。
2023年9月から2024年4月までのわずか8か月間に、ダイエットコーヒーやサプリメント、電子タバコ等を販売していた複数の通販事業者に対し、最終確認画面での表示義務違反を理由に業務停止命令などの行政処分が合計3件出されました。
いずれも商品申込みの最終画面において分量や価格、支払時期等の必要情報を適切に表示せず、消費者を誤認させたことが問題視されました。
クーリングオフ関連の違反
前述のように電話勧誘で「クーリングオフはできない」と消費者に誤った説明をして契約解除を妨害した業者が摘発され、3か月間の業務停止(取引の一部禁止)処分を受けています。
仮に、ネット販売事業で販売している商品でも、電話勧誘を行っていれば通信販売ではなく電話勧誘販売に該当していると判断される可能性が高いので、この場合クーリングオフができることは適切に情報提供する必要があります。
これらのケースは中小事業者であっても法律違反があれば行政から厳しい措置がとられること、ひいては刑事罰のリスクに直面し得ることを示すものです。
法令順守のためのポイントと対策
最後に、特定商取引法を順守し刑事罰リスクを避けるための実務上のポイントをまとめます。
必要表示事項の徹底
販売価格や送料、支払方法、引渡時期、事業者情報(名称・住所・電話番号)、返品特約の有無など、法定の表示事項は漏れなく広告やサイト上に明記しましょう。
とくに自社サイトには「特定商取引法に基づく表示」ページを用意し、最新の情報を正確に掲載するようにしてください。
虚偽・誇大な宣伝の排除
広告内容は常に事実に基づき、合理的な根拠を確認した上で表示します。
実際よりも有利に見せかける誇大な表現は消費者庁のガイドライン等を参考に避け、誤認を招く表示は禁止されていることを社員にも周知し、自社の広告が誇大広告等にあたらないかは常に確認しましょう。
法改正ルールへの対応
近年の法改正にも注意が必要です。例えば2022年施行の改正特商法では、ECサイトの最終確認画面で「分量」「販売価格」「支払時期」など基本事項を表示することが義務化されました
定期購入サービスなど継続課金型の販売を行っている場合、これらの項目が購入手続き最終画面にきちんと表示されているか確認し、不足があれば早急に是正しましょう。
クーリングオフの明示と適切な対応
通信販売にはクーリングオフ制度が適用されない旨をサイト上で明記し、代わりに返品やキャンセルの条件を分かりやすく案内しておくことが大切です(例:「通信販売にはクーリングオフは適用されません。返品・解約は○日以内にご連絡いただいた場合に限り対応いたします」等)。
訪問販売や電話勧誘販売を行う場合は、契約書面への法定記載事項やクーリングオフの説明を確実に実施し、消費者に誤解を与えないようにしましょう。
万一クーリングオフに関する問い合わせがあった際にも、法律に沿った正しい対応を徹底する必要があります。
社内コンプライアンス体制の整備
特定商取引法や景品表示法など関連法令の改正情報や行政当局から公表されるガイドラインに常に目を配り、必要に応じて自社の表示や勧誘方法をアップデートしましょう。
定期的に自社サイトや広告表現を点検し、問題が見つかれば速やかに改善策を講じてください。
行政から指導や勧告を受けた場合には真摯に受け止め、従わないことで刑事事件化する事態は絶対に避けましょう。
以上のような対策を講じ、適正な広告表示と誠実な販売手続きを心がけることで、法律違反による刑事罰リスクを回避し、消費者からの信頼を高めることができるでしょう。
特定商取引法を順守した健全な通販サイト運営が、中小事業者の長期的なビジネスの発展につながります。
最後に
あいち刑事事件総合法律事務所では、普段から自社の法令遵守に関して確認しアドバイスをさせていただく顧問契約をご準備しています。また初回相談は無料で実施させていただきます。
自社の事業の法令遵守に関してご不安な事業者の方、経営者の方は是非一度あいち刑事事件総合法律事務所にご相談ください。
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産業廃棄物処理業における環境犯罪リスクと違反発覚時の対応策
産業廃棄物処理業(廃棄物処理・リサイクル業界)は、法律によって厳しく規制された業界です。
不法投棄や無許可営業などの法令違反は環境犯罪となり、重大な刑事責任が問われます。
万一、社内で違法な廃棄物処理が行われていた場合、経営陣や従業員にも刑事処分が科される可能性があります。
実際に廃棄物処理法違反は積極的に刑事告発されていると言われており、事態が発覚すれば企業の存続にも関わる深刻な問題となります。
こうしたリスクに備え、法令遵守の体制を整え、違反発覚時は速やかに弁護士へ相談することが不可欠です。
事例

典型的な廃棄物処理法違反としては、不法投棄、無許可での廃棄物処理業営業(無許可営業)、不適正処理などが挙げられます。
例えば産廃処理業者が許可なく廃棄物を収集・運搬・処分をすれば5年以下の拘禁もしくは1,000万円以下の罰金、またはその両方(法人は3億円以下の罰金)に処せられます。
実際に、不法投棄事件では企業に5,000万円の罰金刑、関与した取締役に実刑判決が下された例もあります。
また産廃業者が自社で処理せず無許可の第三者に廃棄物を再委託し、マニフェストに虚偽記載をした事例も発覚しています。
これらの違法行為は近隣住民からの通報や行政の立入検査で明るみになるケースも多く、隠匿は困難です。
違反発覚時の初動対応と弁護士の役割
万が一、自社や社員の違法行為が発覚した場合、まず速やかに違法行為を中止し、事実関係を把握する必要があります。
同時に、警察・環境省・自治体など行政や捜査機関からの調査には適切に対応することが重要です。
行政は不法投棄等を発見すると関連企業に立入検査を行い、書類を徹底精査して他の違反も見つけようとします。
こうした調査段階では、刑事事件に精通した弁護士の助言が重要です。
早期に弁護士を付ければ、取調べ対応の適切なアドバイスを受けられ、虚偽の供述や不利益な対応を避けることに繋がります。
捜査機関への説明方法や対応方針についても弁護士と相談し、企業として誠実に協力しつつ自社の権利を守る初動対応が求められます。
法令遵守のチェック体制とその運用
日常的に法令遵守(コンプライアンス)を徹底する社内体制を構築しておくことが、リスクを未然に防ぐ鍵です。
具体的には、産廃処理業の許可証の範囲内で事業を行っているか、事業範囲の変更時には速やかに許可申請しているかを定期的に確認します。
廃棄物の収集運搬や処分を外部に委託する際は、必ず許可を持つ業者に委託し、書面による契約書と産廃マニフェストを正しく交付・保存しているかチェックする体制を整えます。
専門コンサルタントによる監査では1拠点から100件近い改善事項が見つかることもあり、企業自らは問題に気付いていないケースも少なくありません。
定期的な内部監査や点検を行い、許可手続きや契約書の整備状況、マニフェスト管理など法定事項を漏れなく確認する運用が重要です。
社員教育と内部告発への備え
従業員教育(コンプライアンス研修)の徹底は、環境犯罪リスクを防ぐ基本です。
企業自体に違反の意図がなくても、従業員の誤った判断や知識不足により違法行為が起きる可能性があります。
例えば、法律知識が不十分な社員が無許可の業者に廃棄物処理を依頼してしまったり、本来必要な契約書を作成せず口頭で進めてしまったりすると、結果的に法違反となり得ます。
社員個人が独断で違法行為を行った場合でも、両罰規定により会社も責任を問われ罰金刑を受ける可能性があります。
こうした事態を防ぐため、新入社員研修や定期研修で廃棄物処理法のルール・リスクを周知徹底し、現場でのヒヤリハット事例も共有します。
また、社内には内部通報制度(内部告発窓口)を整備し、不正の兆候を社員が安心して報告できる体制を作ります。
内部通報制度を導入すれば、企業自らが内部の不正を早期発見・対処する自浄作用が働き、コンプライアンス経営の実現につながります。
仮に社員から不正の告発があった場合は、隠蔽せず迅速に事実調査を行い、必要に応じて行政機関へ報告するとともに、再発防止策を講じることが大切です。
弁護士に相談するメリットと実務支援の内容
環境犯罪リスクに直面した際、弁護士に相談することには多くのメリットがあります。
まず刑事事件に強い弁護士であれば、捜査段階から適切な対応策をアドバイスができます。
廃棄物処理法違反で起訴・処罰を避けたい場合、検察官や裁判官に対し違反を深く反省し、更生に努める姿勢を示すことが重要ですが、弁護士はその伝え方を指導したり、代弁したりすることが考えられます。
また、違反再発を防ぐための社内環境整備(再発防止策)についても弁護士と一緒に検討できます。
さらに、企業の平時の取り組みとして、弁護士は社内コンプライアンス体制の強化支援も行うことができます。
例えば、社内規程の整備や契約書のリーガルチェック、適法な産廃処理委託契約書の作成支援なども可能です。
社員向けのコンプライアンス研修の講師を弁護士に依頼し、法律の専門家から直接指導を受けることで社員の法令理解を深めることも効果的です。
このように弁護士を活用することで、違法行為の未然防止から発覚後の危機対応まで包括的なサポートを得ることができます。
事務所紹介
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所は、環境犯罪を含む刑事事件を中心に扱う法律事務所です。
当事務所には刑事弁護に特化した経験豊富な弁護士が多数在籍しており、廃棄物処理法違反などの案件でも集中的かつ的確な対応が可能です。
初回の法律相談は無料で、平日夜間や土日祝日でもご予約・ご相談を受け付けています。
ご依頼があれば、弁護士が迅速に初動対応にあたり、逮捕前後を問わず捜査機関対応や釈放・不起訴に向けた活動をサポートいたします。
企業からのご相談の場合には、違反発覚時の捜査対応はもちろん、社内のコンプライアンス体制整備や再発防止策の策定、従業員研修の実施、契約書のチェック・作成など幅広い法務サービスをご提供いたします。
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所は全国対応可能で、企業の皆様の安心と法令遵守経営を全力で支援いたします。
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宗教法人・NPO法人の不祥事対応:刑事事件発生時に弁護士へ相談する重要性
宗教法人やNPO法人の運営に携わる幹部・代表者にとって、組織の信用を揺るがす不祥事や刑事事件は決して他人事ではありません。寄付金の不正流用や幹部による詐欺、反社会的勢力の介入などの事件は各所で報道されており、ひとたび発覚すれば信者や支援者からの信頼失墜は避けられません。最悪の場合、所轄庁による調査や宗教法人格の剥奪(解散命令)に発展するリスクもあります。こうしたリスクに備え、不祥事発生時には早期に弁護士へ相談し、適切な対処策を講じることが組織存続の鍵となります。
1. 不祥事発生が宗教法人・NPO法人に与える影響
寄付者や信者の善意によって成り立つ宗教法人・NPO法人において、不祥事や刑事事件が発生すると甚大な影響が生じます。まず 社会的信用の喪失 により、寄付金や支援の減少、信者・会員離れが起こります。加えて、法的な制裁や行政処分 の可能性も高まります。例えば、教団内で刑事事件に発展する重大な不正が認められた場合、行政庁が宗教法人法に基づき調査に乗り出し、場合によっては 解散命令 を裁判所に請求することも想定されます。現に、過去にはオウム真理教事件や霊視商法の明覚寺事件で解散命令が出され、最近では刑事事件が認定されないケース(旧統一教会)にも同様の措置が検討されています。このように、不祥事が発覚した際の影響は組織の存続に関わる深刻なものとなるため、迅速かつ適切な対応が不可欠です。
2. 事例

過去に宗教法人やNPO法人で問題となった典型的な不祥事の例をいくつか挙げます。
- 不透明な資金流用: 組織の資金が本来の宗教活動や公益活動に使われず、幹部の私的流用に充てられるケース。例えば信者からの寄付金やお布施が代表者個人の生活費に充当されていた事例があります。
- 寄付金の不正利用: 名目と異なる用途に寄付金を使う、または架空の募金活動で集めた資金を裏金化するケース。会計担当者による組織資金の横領事件も各地で発生しています。
- 宗教法人格の悪用(マネーロンダリング・脱税): 宗教法人は非課税措置など特別な優遇を受けるため、その法人格が犯罪収益の洗浄や脱税に悪用される事件が後を絶ちません。実際に暴力団が休眠状態の宗教法人を買収し、犯罪収益を流す手段として利用した例も報告されています。また、海外の不正資金を国内宗教法人を通じて移動させるマネーロンダリング手法も確認されています。
- 幹部による詐欺事件(高額な祓い料詐取など): カルト的手法で高額な祈祷料や除霊料を信者に支払わせ、実態のない「救済」を装って金銭をだまし取る事件。こうした詐欺的商法は刑事事件となりうるばかりか、被害者の告発次第で組織全体の信用問題に発展します。
- 会計不正: 帳簿の改ざんや二重帳簿の作成、収支報告の虚偽記載などにより、組織の財務状況を不透明にする行為。内部牽制や監査体制が弱い団体では不正を見逃しやすく、不祥事の温床となります。
- 反社会的勢力の介入・ダミー宗教法人の利用: 暴力団などが宗教法人やNPO法人を隠れ蓑に使い、不正な活動や資金洗浄を行うケース。架空の信者名簿で設立認証を受けたと疑われる宗教法人がヤミ金融業を営んで摘発された事件もあります。こうしたケースでは組織自体が犯罪インフラと見なされ、厳しい処分の対象となりえます。
- セクハラ・パワハラ等のスキャンダル隠蔽: 教団内での性的嫌がらせや権力乱用といったハラスメント問題を内部で揉み消そうとした結果、被害者の告発により対外的な大事件に発展することがあります。近年、宗教界でもセクハラ・パワハラの訴訟が相次いでおり、ある宗教法人では資金不正の問題に加えて性被害訴訟やパワハラ問題が同時発生する例も報告されています。不祥事を隠蔽しようとすれば一層世間の批判を招き、組織の存続が危ぶまれる結果となります。
3. 弁護士に相談することの重要性
上述のような問題が発覚した際、速やかに弁護士へ相談することは極めて重要 です。その理由は大きく分けて二つあります。
第一に、法的に的確な初動対応を取るためです。不正や犯罪の疑いが出た場合、証拠保全や被害拡大防止、関係者への聞き取りなど初期対応を誤れば後の責任追及や再発防止策に支障が出ます。弁護士であれば客観的な立場から法律に則った適切なアドバイスが可能であり、早期に相談することで事態の悪化を防げます。
第二に、外部への説明責任と信用回復という観点です。不祥事対応では、被害者や信者への謝罪・補償、所轄官庁や捜査機関への報告など様々な場面で専門知識が求められます。弁護士に相談しながら進めることで法令に沿った誠実な対応が担保され、組織の透明性を示すことができます。特に宗教法人やNPO法人に詳しい弁護士であれば、宗教法人法や特定非営利活動促進法(NPO法)等の規制に精通しており、事態収拾と再発防止に向けた総合的な支援が受けられるでしょう。
4. 内部調査と是正措置の立案
不祥事が起きた際には、まず 内部調査 を徹底して行い事実関係を明らかにする必要があります。弁護士はこの内部調査の過程で中立的な調査者として関与し、調査の精度や信憑性を高めるうえで大いに役立ちます。例えば資金流用事件であれば、弁護士が関連資料の精査や関係者ヒアリングを主導し、不正の全容解明と証拠の確保を行います。
また、セクハラ問題などデリケートな事案では、被害申告者・加害者双方から適正に事実を聴取し、公平な判断を下すためにも弁護士の同席や助言が有効です。調査結果が判明した後は、是正措置(改善策)の立案に移ります。不正があった場合の責任者の処分、被害者への補償、組織のガバナンス改革など、再発防止と信頼回復のための具体策を弁護士とともに検討します。
法令に違反する行為があれば然るべき届出や是正報告を行政機関へ行う必要がありますし、場合によっては被害者との示談交渉や刑事告発の判断も迫られます。これら一連の対応を専門家の助言なしに適切に進めることは難しく、弁護士の関与が組織防衛の要となります。
5. 法令順守体制の強化と会計透明性の確保

宗教法人法やNPO法といった関係法令の順守は、平時から整備しておくべき組織運営の基本です。不祥事を機に組織のコンプライアンス体制を見直すことも重要でしょう。弁護士はこれら特殊法人に関する法律やガイドラインを踏まえ、規程類の整備や役員の法的責任範囲の確認など法令順守体制強化をサポートします。
また、多くの宗教法人では法律上、営利企業のような厳格な監査義務がないため、内部牽制が働きにくい面があります。弁護士や公認会計士と連携し会計の透明性を確保する仕組みづくり(複数人による出納チェック、定期的な外部監査導入など)を講じれば、不正の抑止効果が高まります。実際、内部統制が不十分で「性善説」に頼った運営では不正の温床になりやすいことが指摘されており、健全な内部牽制は関係者自身を守る手段でもあります。弁護士の助言のもと、法律に沿った適正な会計管理と情報開示を徹底することで、信者・支援者からの信頼回復につなげることができます。
6. ハラスメント対策と当局調査への対応
昨今、宗教法人や公益法人におけるハラスメント問題も社会的に大きな関心を集めています。教団内部でセクハラ・パワハラが発生した場合、その対応を誤ると深刻なスキャンダルに発展しかねません。弁護士はハラスメントの防止規程策定や相談窓口の設置運営について助言し、万一問題が起きた場合には第三者調査委員会の設置など適切な対処をサポートします。
被害者対応においてはプライバシー保護や人権尊重の観点が不可欠であり、法律の専門家による慎重な進行管理が望まれます。内部での隠蔽は禁物であり、弁護士の関与のもと事実関係を公正に調査し再発防止策を講じることが、ひいては組織の名誉を守ることにつながるでしょう。
さらに、不祥事の程度によっては 所轄庁や捜査当局から調査を受ける局面 も考えられます。宗教法人の場合、文化庁や都道府県からの「質問権」に基づく調査や、悪質な違法行為に対する解散命令請求が現実に起こりえます。こうした当局対応に際しても、弁護士のサポートは不可欠です。当局への報告書作成やヒアリングへの同席、提出書類の精査など、法令に沿った適切な手続きを踏むことで、最悪の事態(法人格剥奪や刑事処分)を回避できる可能性があります。行政との交渉や是正計画の提出も、専門知識なしでは太刀打ちできません。弁護士とともに誠意ある対応策を講じることで、当局からの信頼を得て事態の沈静化を図ることが重要です。
7. 事務所紹介
当事務所では、宗教法人やNPO法人における不祥事対応やコンプライアンス支援に豊富な実績を有する弁護士チームが皆様の相談を承っております。内部調査の実施から是正措置の立案、宗教法人法・NPO法に基づく法令順守体制の整備、さらにはハラスメント防止策の導入支援や所轄庁対応まで、ワンストップで専門的なリーガルサービスをご提供可能です。組織の理念と社会的信用を守るためには、問題が起きてからの対応はもちろん、平時からの予防法務も欠かせません。当事務所の弁護士は顧問契約による継続的なサポートにも対応しており、日常的なご相談から緊急時の対応まで伴走いたします。宗教法人・NPO法人特有の事情に精通した専門家の力をぜひお役立てください。不祥事や刑事事件への適切な対応にお困りの際は、どうぞお気軽に当事務所へご相談ください。
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