企業経営者が知っておくべき「司法取引」について①

1 はじめに

平成28年に行われた刑事訴訟法の改正によって日本でも司法取引と呼ばれる制度が平成30年6月より導入されています。
司法取引で対象となる犯罪には企業経営とも密接にかかわる犯罪も含まれていますので、企業経営を行う者にとっても重要な制度であるといえます。
今回は司法取引制度の概要や、企業経営者としてどのような点に留意して対応するべきか、具体的な事例を用いて解説させていただきます。

参考 令和2年版犯罪白書 司法合意制度

2 司法取引制度の概要

日本で導入された司法取引制度は検察官と被疑者・被告人およびその弁護人が協議し、被疑者または被告人が「他人」の刑事事件の捜査・公判に協力するのと引換えに、自分の事件を不起訴または軽い求刑にしてもらうことなどを合意するという制度です。
この制度に関しては刑事訴訟法350条の2~350条の15に根拠があります。

日本で導入された司法取引制度の特徴を簡単に挙げるならば
・他人の犯罪の証明に対する協力を内容とすること(自分のした犯罪に対する自白などの協力には後述する見返りは得られません)
・見返りとしては自身の事件について不起訴や、求刑を軽くしてもらえる(罰金を求刑するないしは実刑判決を求刑しないなど)ことが規定されていること
・取引の相手方は検察官であり、警察官は取引の相手方にならないこと
・弁護人の関与が必須であること
という点です。日本で導入された司法取引制度はアメリカの制度を参考にして導入されたものですが、上記の点が日本で導入された司法取引制度の特徴になります。

3 司法取引の対象となる犯罪類型

司法取引の対象となる犯罪類型は多岐にわたりますが企業に密接に関連する犯罪や法令違反の一部を挙げると
・贈収賄などの公務員関連犯罪
・詐欺、横領、背任などの財産犯
・談合などの規制する独占禁止法違反
・インサイダー取引などの規制する金融商品取引法違反
・企業秘密の漏洩などを規制する不正競争防止法違反
・特許法違反
などがあります。
ご覧いただいて分かるように企業経営や取引に関して発生する刑事事件については基本的に司法取引制度の対象事件になると考えていただいて差支えないかと思います。

このように近年導入された司法取引は企業を経営する者にとって密接にかかわる制度にも拘らず、認知度はまだまだ高いとはいえません。
そして捜査対象となった場合に、安易に捜査機関からの誘いに応じて協力を申し出ることは自身のメリットになるばかりでなく、自分で自分の首を絞めることにもなりかねません。
そこで次回の記事では司法取引制度の利用方法やその注意点について詳しく解説させていただきます。

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