経済のグローバル化に伴い、企業の外国との取引はさらに増加しました。一方で、外国に輸出した商品が兵器転用され、独裁国家やテロリストに利用され、我が国や国際社会の安全を脅かす可能性も高まっています。このような事態に陥らないよう、対外取引を管理する必要があります。
ここでは、そのための規制のひとつとして、「外国為替及び外国貿易法」について解説します。 外国為替及び外国貿易法 外国為替及び外国貿易法(外為法)は、第1条で「この法律は、外国為替、外国貿易その他の対外取引が自由に行われることを基本とし、対外取引に対し必要最小限の管理又は調整を行うことにより、対外取引の正常な発展並びに我が国又は国際社会の平和及び安全の維持を期し、もつて国際収支の均衡及び通貨の安定を図るとともに我が国経済の健全な発展に寄与することを目的とする。」と定めています。
本邦(第6条第1項第1号)内に主たる事務所を有する法人の代表者等や本邦内に住所を有する人又はその代理人等が、外国においてその人の財産又は業務についてした行為にも適用されます(第5条)。
外為法では、以下の事項が規制されています。
○支払等(第3章。第16条から第19条)
○資本取引等(第4章。第20条から第25条の2)
○対内直接投資等(第5章。第26条から第46条)
○外国貿易(第6章。第47条から第54条)
また、支払等の報告や輸出を業として行う者が輸出等を行うにあたって順守すべき基準等についても定めています。
○報告等(第6章の2。第55条から第55条の9)
○輸出等遵守基準(第6章の3。第55条の10から第55条の12)
輸出についての規制
輸出については、「第6章 外国貿易」にて規制されています。
第47条には「貨物の輸出は、この法律の目的に合致する限り、最少限度の制限の下に、許容されるものとする。」と定め、輸出については最小限とすることを原則としています。
第48条第1項では輸出の許可等について定められており、「国際的な平和及び安全の維持を妨げることとなると認められるものとして政令で定める特定の地域を仕向地とする特定の種類の貨物の輸出をしようとする者は、政令で定めるところにより、経済産業大臣の許可を受けなければならない。」とされています。
この政令として「輸出貿易管理令」が制定されています。同政令の第1条では、別表で定める貨物について、一定の地域へ輸出する際には、経済産業大臣の許可を受けなければならないとしています。
噴霧乾燥器など軍用の細菌製剤の開発、製造若しくは散布に用いられる装置又はその部分品(別表第一、三の二、(二)5の2)など、軍用に用いられるおそれのあるものは、どの地域に輸出するのであっても、許可が必要となります。
そのほかの貨物や地域であっても、別表で定める一定の輸出については、経済産業大臣の承認を受けなければならないとしています(輸出貿易管理令第2条)。 この許可を受けないで輸出貿易管理令で定める貨物の輸出をしたときは、7年以下の懲役若しくは2000万円以下の罰金に処され、又はこれを併科されます。当該違反行為の目的物の価格の5倍が2000万円を超えるときは、罰金は、当該価格の5倍以下となります。(第69条の6第1項第2号)。
核兵器等又はその開発等のために用いられるおそれが特に大きいと認められる貨物を許可なく輸出したときはさらに重くなり、10年以下の懲役若しくは3000万円以下の罰金に処され、又はこれを併科されます。当該違反行為の目的物の価格の5倍が3000万円を超えるときは、罰金は、当該価格の5倍以下になります(第69条の6第2項第2号)。
また、輸出しようとする者に対して、外為法第48条第1項の規定の確実な実施を図るため必要があると認めるときは、他の地域を仕向地として輸出する場合も許可を受ける義務を課することができます(外為法第48条第2項)。
また、国際収支の均衡の維持のため、外国貿易及び国民経済の健全な発展のため、我が国が締結した条約その他の国際約束を誠実に履行するため、国際平和のための国際的な努力に我が国として寄与するため、対抗措置(第10条第1項)を実施するために必要な範囲内で、承認を受ける義務を課することができます(外為法第48条第2項)。
これらの許可を受けないで輸出貿易管理令で定める貨物の輸出をしたときは、5年以下の懲役若しくは1000万円以下の罰金に処され、又はこれを併科されます。当該違反行為の目的物の価格の5倍が1000万円を超えるときは、罰金は、当該価格の5倍以下となります。(第69条の7第1項第3・4号)。
法人の代表者などがこうした違反行為をしたときは、行為者を罰するほか、法人も次の通り罰金刑を科されます(第72条第1項)。
①第69条の6第2項 10億円以下(当該違反行為の目的物の価格の5倍が10億円を超えるときは、当該価格の5倍以下)の罰金刑
②第69条の6第1項 7億円以下(当該違反行為の目的物の価格の5倍が7億円を超えるときは、当該価格の5倍以下)の罰金刑
③第69条の7 5億円以下(当該違反行為の目的物の価格の5倍が5億円を超えるときは、当該価格の5倍以下)の罰金刑
捜査への対応
外為法違反事件などは、国の安全保障にかかわるため、警察や検察も厳しい取り調べを行います。
ときには違法な捜査を行い、裁判所もこれを信用して保釈などを認めない、といった事態に巻き込まれる可能性があります。
「大川原化工機事件」では、噴霧乾燥器が兵器転用が可能になるのに経産省の許可を得ずに輸出したとして、社長や専務、相談役が逮捕・起訴され、検察官の公訴取り消しで刑事事件が終結しました。その間、社長たち長期間保釈も認められず拘束され、相談役の方が亡くなるという、痛ましい事件となりました。
被疑者・被告人には黙秘権があり、また供述調書の訂正申し立てや署名押印拒否の権利もあります。ですが、逮捕され、過酷な取り調べを受ける中で、これらの権利を全うすることは非常に難しいことです。このような事件では接見禁止がつき、家族や会社関係者とも面会できず、精神的にも追い詰められかねません。
こうした事件で疑いをかけられたり、逮捕されたときは、早急に弁護士に依頼してください。頻繁に接見を行い、捜査対応について必要なサポートをします。
万が一違法行為が行われたときは、警察や検察に抗議して違法な捜査をやめさせます。また、弁護士会の支援を求めたり、マスコミに告発するなどして、社会的にも違法捜査を許さない状況に持っていきます。 輸出についてお悩みの方は、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所へご相談ください。