企業と業務上過失致死傷事件

企業は従業員を使用して活動を広げ、より多くの利益を得ることができます。
その活動の中には、人の生命・健康にかかわるものもあります。こうした状況下では、企業は従業員や企業の体制について監督し、被害が生じないようにする必要があります。
これを怠り、被害が生じた場合、その責任を負わなければなりません。
事業活動の中で従業員が怪我や死亡した場合に,企業が刑事責任を負う代表的な事例として,業務上過失致傷事件が挙げられます。

参考報道:日本経済新聞 東京・八重洲の作業事故、業過致死傷容疑視野に捜査

業務上過失致死傷

故意ではなく過失により人を死傷させた場合、過失傷害罪(刑法第209条)又は過失致死罪(刑法第210条)が成立します。
さらに、業務上必要な注意を怠り、よって、人を死傷させた場合は、業務上過失致死傷罪が成立します(刑法第211条前段)。法定刑は、5年以下の懲役若しくは禁錮又は100万円以下の罰金です。

過失とは、注意義務違反であり、法益侵害の結果の発生を予期し回避できたにもかかわらずこれを怠ったことをいいます。

業務上過失致死傷罪の「業務」とは、本来人が社会生活上の地位に基づき反復継続して行う行為であって、かつ、その行為は他人の生命身体等に危害を加えるおそれのあるものをいいます(最高裁第二小法廷昭和33年4月18日判決)。

なお、この判例では、この行為の目的がこれにより収入を得るものかその他の欲望を充たすためかどうかは問わないと判示されており、仕事の目的に限らず娯楽目的でも該当するとされています。
「業務上の過失」とは、この業務上の注意義務違反をいいます。

企業の責任

業務上過失致死傷罪には両罰規定がありません。業務上過失致傷罪は個人の犯罪で、店長等安全管理に責任を負っていた者が処罰を受けることになりますが、企業そのものは処罰されません。
また、現場が重大事故を起こしたとしても、会社役員が現場で生じる問題まで予見して対応するのは困難であり、その責任を負うことになるのは稀となります。

JR福知山線で列車が脱線転覆して乗客106名が死亡し、493名が負傷した事故において、工事やダイヤ改正により運転士が制限速度に近い速度で運転する危険性が高まり、運転士が適切な制動措置を取らないまま曲線に侵入し脱線転覆事故が発生する危険性を予見でき自動列車停止装置(ATS)を整備するよう指示するべき業務上の注意義務があったのにこれを怠り、事故が起きたとして、鉄道会社の歴代社長が強制的に起訴されました。

裁判は最高裁まで進みましたが、最高裁は、事故以前にはATSの整備は法令でも義務付けられておらず、他の鉄道会社も採用していなかったこと、曲線へのATSの整備は鉄道本部長の判断に委ねられており、代表取締役が個別の曲線の危険性に関する情報に接する機会は乏しかったこと、組織内において事故現場の事故発生の危険性が高いと認識されていた事情もうかがわれないなどとして、歴代社長らにおいて、鉄道本部長に対しATSを事故現場に整備するよう指示すべき業務上の注意義務があったということはできないとしました(最高裁第二小法廷平成29年6月12日決定)。

このように、重大事故が起きたからとって、直ちに社長などの役員が刑事責任を負うとまでは言い難いでしょう。

刑事以外の責任

しかしながら、このような重大な事故を招いたこと自体、組織としての安全配慮を怠っていたのではないかと非難されます。事故について社会に説明し、再発防止の手段を尽くさなければ、会社が社会的制裁を受けることになります。
また、従業員等の被用者がその事業の執行の執行に関して第三者に損害を与えた場合、使用者たる企業が賠償責任を負います(民法第715条第1項)。

まとめ

以上のように、業務上の過失により人を死傷させても、企業は刑事責任を負いませんし、役員が責任を負うことも稀です。

しかしながら、企業は社会的責任や民事責任を負うことになりますので、企業は人名や財産に危害を与えることがないように組織内体制を整備することが必要不可欠となります。
役員や従業員が業務上過失致死傷罪に問われた場合や、企業犯罪抑止のためにどのように体制を整備すればよいかお悩みの方は、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所へご相談ください。

弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所は,刑事事件を専門に扱う法律事務所です。業務上過失致傷事件についてご不安なことがある方,事業において従業員の安全について法的リスクにご懸念がある方は,弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所東京支部までご連絡ください。

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