【事例】
子会社に関する未公表情報を基に太陽光パネル製造会社X社の株をインサイダー取引したとして、金融商品取引法違反容疑でX社の元執行役員のAさんが逮捕された事件で、情報が公表された直後に同社株が急激に上昇していたことが16日、分かった。
関係者への取材で、Aさんが以前勤務していた金融サービス会社の株式でもインサイダー取引をしたとして、金融庁から課徴金納付命令を受けていたことも判明した。
東京地検特捜部は、Aさんが株価上昇を見越して買い付けを進め、公表後に売却して利益を得た可能性があるとみて捜査している。
(共同通信令和6年5月16日 「子会社の情報公表後、株価急上昇 インサイダー取引、特捜部捜査」より一部引用)
参考報道 インサイダー疑いの東証元社員を告発 監視委、裁判官も
1 インサイダー取引規制の趣旨について
前回の記事ではインサイダー取引で社員が逮捕された場合の会社への不利益や、インサイダー取引にあたる行為の要件について解説しました。
今回の記事ではまずインサイダー取引の要件のうち、インサイダー取引の主体となる「会社関係者」の範囲について説明します。
その説明の前にインサイダー取引が禁止されている趣旨について解説させていただきます。
非公表の重要事実を知っている「会社関係者」などは、重要事実が公表された場合に、株価が上昇するか下落するかについてある程度予想することができます。
したがって重要事実の公表によって一般の投資家が知る前に会社の株式を売買した場合には確実に儲けることができることになります。
このような取引は一般の投資家に比べて内部者に特別に有利となりますので、投資家の間で不平等が生じ、証券市場への信頼を害することになり、市場の公正を守るためにインサイダー取引が規制されているのです。
2 インサイダー取引の主体について
インサイダー取引の主体にとなるものについては3種類の規定があります。
①会社関係者(金融商品取引法166条1項)、②公開買付者等関係者(同法第167条第1項)、③第一次情報受領者(同法第166条第3項、第167条第3項)の3種類です。
以下それぞれの類型に関して詳しく解説させていただきます。
「会社関係者」に当該上場会社の会社役員や管理借についている者だけでなく、役職のない従業員も含まれます。問題となる事実を知っていた場合には役職の有無は問いません。
すなわち重要な秘密情報が社内で漏洩してそれをたまたま知ってしまった従業員もインサイダー取引の主体になり得ます。
その他に「会社関係者」に該当する者については、
・役員、代理人、使用人その他の従業員で、重要な事実を知っている者
・帳簿閲覧権(議決権の3%以上の株式)を有する株主で、その未公表の重要事実を知っていた者
・上場会社等に対して法令に基づく権限を有し(許認可権を有する官庁の公務員等)、その未公表の重要事実を知っていた者
・取引先やその役員などで、その未公表の重要事実を知っていた者
・上記のいずれかに該当しなくなってから、1年以内の者
という規程があります。
②公開買付者等関係者に該当する者とは簡単に言えば、株式の公開買い付けを予定している場合にその情報を知り得る立場にいる者を指します。
具体的には公開買付者等と次のような関係にあるものが該当します。その関係性は上記の「会社関係者」と同一です。
・役員、代理人、使用人その他の従業員で、重要な事実を知っている者
・帳簿閲覧権(議決権の3%以上の株式)を有する株主で、その未公表の重要事実を知っていた者
公開買付者等に対する法令に基づく権限を有し、その未公表の重要事実を知っていた者
取引先やその役員などで、その未公表の重要事実を知っていた者
公開買付を受ける会社(被公開買付会社)やその役員等で、公開買付者等からの伝達でその事実を知った者
上記のいずれかに該当しなくなってから、6か月以内の者
③第1次情報受領者とは、①または②に該当する者から情報を受け取った者を指します。
ここで注意が必要なのは、この第1次情報受領者から情報を受け取った者については、「第2次情報受領者」と呼ばれ、インサイダー取引規制の対象ではなくなります。
なぜならば、受け取った情報の情報源がインサイダー取引の規制対象になる者からの情報であることを認識していないからです。
上記事案のAさんは以前勤務していたの株式でとあるので、①のうち従業員として「会社関係者」にあたるとされたのでしょう。
仮に子会社の情報について知っており、株式の取引をしたのが退職してから1年以内であれば、金融商品取引法166条1項の「上記のいずれかに該当しなくなってから、1年以内の者」に該当しインサイダー取引の規制対象となります。
このように,金融商品取引法は特に複雑な規定であり,一般の方にはとても分かりにくいものになっています。不安なことがある方は一度,弁護士にご相談ください。
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