企業と下請法違反

自動車会社が下請けの会社に不当に価格引き下げを迫っていたことがニュースとなり、問題となっています。この事案は下請法違反とされています。ここでは、下請法について解説します。

下請法の正式名称は下請代金支払遅延等防止法(下請法)といい,「下請代金の支払遅延等を防止することによつて、親事業者の下請事業者に対する取引を公正ならしめるとともに、下請事業者の利益を保護し、もつて国民経済の健全な発達に寄与することを目的」としています(第1条)。

下請法上の定義・適用範囲

下請法の対象となる下請事業は、製造委託、修理委託、情報成果物作成委託及び役務提供委託です(第2条第1項から第4項。これらをまとめて「製造委託等」といいます。第2条第5項)。

下請法の「親事業者」は以下の事業者に該当する者です(第2条第8項)。

一 資本金の額又は出資の総額が三億円を超える法人たる事業者(政府契約の支払遅延防止等に関する法律(昭和二十四年法律第二百五十六号)第十四条に規定する者を除く。)であつて、個人又は資本金の額若しくは出資の総額が三億円以下の法人たる事業者に対し製造委託等(情報成果物作成委託及び役務提供委託にあつては、それぞれ政令で定める情報成果物及び役務に係るものに限る。次号並びに次項第一号及び第二号において同じ。)をするもの
二 資本金の額又は出資の総額が千万円を超え三億円以下の法人たる事業者(政府契約の支払遅延防止等に関する法律第十四条に規定する者を除く。)であつて、個人又は資本金の額若しくは出資の総額が千万円以下の法人たる事業者に対し製造委託等をするもの
三 資本金の額又は出資の総額が五千万円を超える法人たる事業者(政府契約の支払遅延防止等に関する法律第十四条に規定する者を除く。)であつて、個人又は資本金の額若しくは出資の総額が五千万円以下の法人たる事業者に対し情報成果物作成委託又は役務提供委託(それぞれ第一号の政令で定める情報成果物又は役務に係るものを除く。次号並びに次項第三号及び第四号において同じ。)をするもの
四 資本金の額又は出資の総額が千万円を超え五千万円以下の法人たる事業者(政府契約の支払遅延防止等に関する法律第十四条に規定する者を除く。)であつて、個人又は資本金の額若しくは出資の総額が千万円以下の法人たる事業者に対し情報成果物作成委託又は役務提供委託をするもの
また、下請法の「下請事業者」は、次のいずれかに該当する者です。
一 個人又は資本金の額若しくは出資の総額が三億円以下の法人たる事業者であつて、前項第一号に規定する親事業者から製造委託等を受けるもの
二 個人又は資本金の額若しくは出資の総額が千万円以下の法人たる事業者であつて、前項第二号に規定する親事業者から製造委託等を受けるもの
三 個人又は資本金の額若しくは出資の総額が五千万円以下の法人たる事業者であつて、前項第三号に規定する親事業者から情報成果物作成委託又は役務提供委託を受けるもの
四 個人又は資本金の額若しくは出資の総額が千万円以下の法人たる事業者であつて、前項第四号に規定する親事業者から情報成果物作成委託又は役務提供委託を受けるもの

情報成果物作成委託及び役務提供委託の一部については、下請代金支払遅延等防止法施行令(下請法施行令)において下請法の適用対象となる資本金の規模について異なる定めがなされています。
情報成果物ではプログラム(下請法施行令第1条第1項)、役務では①運送、②物品の倉庫における保管、③情報処理、です(下請法施行令第1条第2項)。

まとめますと、下請法が適用されるのは、以下の場合です。

⑴情報成果物がプログラム、役務が運送、物品の倉庫における保管又は情報処理である情報成果物作成委託又は役務提供委託契約については、
①資本金の額又は出資の総額が五千万円を超える法人である事業者が、個人又は資本金の額若しくは出資の総額が五千万円以下の法人である事業者に対し委託する場合
②資本金の額又は出資の総額が千万円を超え五千万円以下の法人である事業者が、個人又は資本金の額若しくは出資の総額が千万円以下の法人たる事業者に対し委託する場合
⑵⑴以外の製造委託、修理委託、情報成果物作成委託及び役務提供委託契約については、
①資本金の額又は出資の総額が三億円を超える法人である事業者が、個人又は資本金の額若しくは出資の総額が三億円以下の法人である事業者に対し委託する場合
②資本金の額又は出資の総額が千万円を超え三億円以下の法人である事業者が、個人又は資本金の額若しくは出資の総額が千万円以下の法人たる事業者に対し委託する場合

下請法上の義務

親事業者は、下請事業者に対し製造委託等をした場合は、直ちに、公正取引委員会規則で定めるところにより下請事業者の給付の内容、下請代金の額、支払期日及び支払方法その他の事項を記載した書面を下請事業者に交付しなければなりません(下請法第3条第1項)。これらの事項のうちその内容が定められないことにつき正当な理由があるものについては、この書面には記載しないこともできますが、親事業者は、当該事項の内容が定められた後直ちに、当該事項を記載した書面を下請事業者に交付しなければなりません(同項但し書き)。
この書面は「3条書面」と呼ばれています。
また、親事業者は、下請事業者に対し製造等委託をした場合は、次の行為をしてはならないとされています(下請法第4条第1項。役務を提供したら委託業務が終了する役務提供委託の場合は、①と④は除きます)。

① 下請事業者の責に帰すべき理由がないのに、下請事業者の給付の受領を拒むこと。
② 下請代金をその支払期日の経過後なお支払わないこと。
③ 下請事業者の責に帰すべき理由がないのに、下請代金の額を減ずること。
④ 下請事業者の責に帰すべき理由がないのに、下請事業者の給付を受領した後、下請事業者にその給付に係る物を引き取らせること。
⑤ 下請事業者の給付の内容と同種又は類似の内容の給付に対し通常支払われる対価に比し著しく低い下請代金の額を不当に定めること。
⑥ 下請事業者の給付の内容を均質にし又はその改善を図るため必要がある場合その他正当な理由がある場合を除き、自己の指定する物を強制して購入させ、又は役務を強制して利用させること。
⑦ 親事業者が第一号若しくは第二号に掲げる行為をしている場合若しくは第三号から前号までに掲げる行為をした場合又は親事業者について次項各号の一に該当する事実があると認められる場合に下請事業者が公正取引委員会又は中小企業庁長官に対しその事実を知らせたことを理由として、取引の数量を減じ、取引を停止し、その他不利益な取扱いをすること。

親事業者は、下請事業者に対し製造委託等をした場合は、「下請代金支払遅延等防止法第5条の書類又は電磁的記録の作成及び保存に関する規則」で定めるところにより、下請事業者の給付、給付の受領(役務提供委託の場合は、下請事業者がした役務を提供する行為の実施)、下請代金の支払その他の事項について記載し又は記録した書類又は電磁的記録を作成し、これを保存しなければなりません(下請法第5条)。
記載又は記録しなければならないのは、商号などの下請事業者を識別できる情報、給付の内容及びその給付を受領する期日、など多岐にわたります。

中小企業庁長官の調査及び請求

中小企業庁長官は、親事業者が第4条に掲げる行為をしたり該当する事実があるかを調査し、その事実があると認めるときは、公正取引委員会に対し、この法律の規定に従い適当な措置をとるべきことを求めることができます(下請法第6条)。

公正取引委員会の勧告

公正取引委員会は、親事業者が第四条に掲げる行為をしていると認めるときは、それぞれの行為に応じて、給付受領や減額した代金額の支払い、等の必要な是正措置をとるべきことを勧告するものとされています(下請法第7条第1項から第3項)。
また、公正取引委員会は、原則として、企業名を出して、違反事実の概要やこの勧告の概要を公表します。

公正取引委員会による下請法勧告一覧

報告及び検査

公正取引委員会は、親事業者の下請事業者に対する製造委託等に関する取引(以下単に「取引」という。)を公正ならしめるため必要があると認めるときは、親事業者若しくは下請事業者に対しその取引に関する報告をさせ、又はその職員に親事業者若しくは下請事業者の事務所若しくは事業所に立ち入り、帳簿書類その他の物件を検査させることができます(下請法第9条第1項)。
中小企業庁長官は、利益を保護するため特に必要があると認めるときは、親事業者若しくは下請事業者に対しその取引に関する報告をさせ、又はその職員に親事業者若しくは下請事業者の事務所若しくは事業所に立ち入り、帳簿書類その他の物件を検査させることができます(同条第2項)。
親事業者又は下請事業者の営む事業を所管する主務大臣は、中小企業庁長官の第六条の規定による調査に協力するため特に必要があると認めるときは、所管事業を営む親事業者若しくは下請事業者に対しその取引に関する報告をさせ、又はその職員にこれらの者の事務所若しくは事業所に立ち入り、帳簿書類その他の物件を検査させることができます(同条第3項)。

下請法違反の罰則

以上のように、下請法では親事業者がしてはいけないことが定められていますが、違反をした場合にすべて刑罰を科されるわけではありません。
3条書面を交付しなかった場合(下請法第10条第1号)、5条に規定する書類若しくは電磁的記録を作成せず、若しくは保存せず、又は虚偽の書類若しくは電磁的記録を作成した場合(第10条第2号)、その違反行為をした親事業者の代表者、代理人、使用人その他の従業者は、50万円以下の罰金に処されます(第10条柱書)。
また、第9条第1項から第3項までの規定による報告をせず、若しくは虚偽の報告をし、又は検査を拒み、妨げ、若しくは忌避した者は、50万円以下の罰金に処されます(第11条)。
法人の代表者などがこれらの違反行為をしたときは、行為者を罰するだけでなく、法人も同じく罰金刑に処されます(第12条)。

社会的制裁

以上のように、受領拒否や代金の減額があったからといって刑事罰を科されるわけではありません。
しかしながら、冒頭の事例のように、下請法違反の行為があったと認定されれば勧告を受けるだけでなくその事実が公表されます。さらにその後報道されて、厳しい社会的批判を受けることになるでしょう。

まとめ

以上のように、下請法には様々な規制があり、違反があれば法的にも社会的にも厳しい制裁があります。下請法についてお悩みの方は、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所へご相談ください。

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