不祥事を起こした社員の退社を求めることができるのか④

【事例】(事例はフィクションです)
Aさんは、福岡市早良区で、輸送用機械の部品を製造している会社、X社を営んでいます。
X社は、常時20人の従業員を雇っています。
Bさんは、このX社の従業員で、営業の仕事をしています。ある土曜日の夜、Bさんは、休みだったので友人と福岡市内の繁華街にお酒を飲みに行っていました。休みではあったのですが、ちょうどよいからと、BさんはX社のロゴの入ったジャンバーを羽織って出かけていました。
そして、Bさんはお酒を飲み過ぎてしまい、隣でお酒を飲んでいた男性客Cさんと口論になってしまいます。怒りを抑えられなかったBさんは、Cさんの顔面を殴り、地面に倒れたCさんに馬乗りになって何度も殴り続けました。
その様子を見た店員が警察に通報し、駆けつけた警察官はBさんを現行犯逮捕しました。
この際、たまたまお店に居合わせた別の客であるDさんは、BさんがCさんに馬乗りになって殴り続けている様子を、Bさんの背中側から動画撮影し、SNS上にアップロードしてしまいました。
もちろん、この動画には、Bさんが着ていたジャンバーにあしらわれたX社のロゴが映っています。

翌朝、Bさんの名前やX社の名前こそ伏せられていたものの、Bさんが事件を起こしたというニュースが新聞で報道されてしました。
Bさんが出勤しておらず、報道で流れた情報がBさんと一致していたことから、この事件の犯人がBさんと察しがついたAさんは、Bさんの家族を問い詰め、Bさんが傷害事件で逮捕されているという事情を把握しました。
また、X社の取引先であるY社からは、DさんがアップロードしたSNSを見たとして会社に連絡が来てしまいました。
会社への影響を考えたAさんは、Bさんを解雇したいと考え、解雇しても問題がないのか、もしも問題があるのなら、今後の似たような事態に対応するにはどうしておけばいいのかを、あいち刑事事件総合法律事務所に相談することにしました。

1 はじめに

これまで,解雇権の濫用や解雇予告、就業規則への記載といった会社が従業員を解雇するためのルール、そもそも就業規則とは何なのかといった点について解説してきました。


今回は、それらを元に、X社がBさんを解雇できるのか、解雇以外にBさんにX社をやめてもらう方法があるのかについて解説していきます。

2 解雇予告について

解雇に合理的な理由があるとしても、一定の場合を除き、従業員をすぐに解雇することができないというのが法律のルールです(労働基準法20条1項)。

そのため、Bさんの場合は、このルールの例外、具体的には「労働者の責に帰すべき事由に基いて解雇する場合」に該当するのではないかという点が問題となります。

Bさんの場合は、Bさん自身が傷害事件を起こしていますから、この点はクリアすると判断されることが多いでしょう。

3 就業規則の記載と解雇権の濫用

⑴ 就業規則
就業規則には、どのような場合に解雇となるかという点も含めて、退職に関する事項を定めなければなりません(労働基準法89条3号)。

⑵ 解雇権の濫用
また、労働契約法には、「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする」と定められています(労働契約法16条)。

⑶ Bさんの場合
Bさんの場合、勤務時間中に傷害事件を起こしたわけではありません。
また、Bさんの名前や会社名が報道されているわけでもありません。
この点は、Bさんの懲戒解雇を否定したり、解雇の相当性を否定したりする方向にはたらく事情でしょう。

その一方で、SNS上にアップロードされた動画から、この傷害事件の犯人はX社の従業員だと思われてしまう状況が生じています。
また、それを見た取引先のY社から、X社に実際に問い合わせがきており、会社の悪い風聞がまさに広まってしまってもいます。
これらは、Bさんの懲戒解雇を肯定し、解雇が相当だと判断させる方向にはたらく事情だと言えます。

このような事情から、Bさんを解雇することが、社会の常識と照らし合わせて、相当といえるのかが判断されることになります。

4 退職勧奨

X社としては、Bさんを一方的に解雇にする事情があるとして解雇したとしても、今後、Bさんから解雇が不当なものだと争われるかもしれません。
また、そもそも一方的に解雇するだけの事情があるといえるのか不安に感じる場合もあるでしょう。

それでもBさんに会社をやめてほしいと考えるのであれば、退職勧奨をして、Bさんの自由意思でそれに応じてもらうという選択肢もあります。

このように、従業員が不祥事を行い、会社としてその従業員を解雇したいと思っても、法律のルールをクリアする必要があります。
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所では、刑事事件に関わってきた経験を活かし、会社内で不祥事が起こった場合の対応・アドバイスにも力を入れています。

今回のケースで従業員を解雇できるのか、現在の就業規則の規定で十分なのかなどについてアドバイスをご希望の方は、一度、あいち刑事事件総合法律事務所にご相談ください。

こちらからお問い合わせいただけます。

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