Archive for the ‘企業犯罪’ Category

企業が守るべき特定商取引法についての解説①

2024-11-19

今回の記事からは数回に分けて特定商取引法に関しての解説をさせていただきます。
特定商取引法については、これに違反したとして逮捕される例が少なくありません。
また逮捕された場合には、消費者保護の観点から被疑者名や会社名が実名で報道されるケースが一般的に多いです。
ですので経営する会社が特定商取引法違反で報道されることになってしまえば、大きく企業イメージを損なってしまいます
例えば、次に挙げる記事のような事例です。

美容商品の販売契約に関してクーリングオフを説明しなかったとして、大阪府警は19日、名古屋市にある美容関連商品卸売業Xの実質経営者Aさんら男性5人を特定商取引法違反(不実の告知など)容疑で逮捕した。
府警は認否を明らかにしていない。
逮捕容疑は2023年1~3月、同社から仕入れた化粧品を販売できる内容の契約を男女3人と締結。契約解除ができるクーリングオフ制度は適用されないと虚偽の説明をしたり、制度の記載がない契約書を渡したりしたとしている。
契約者は市場価格より安価で商品を同社から入手し、第三者に売って利ざやを得られるとする仕組みだった。(以下略)
(毎日新聞令和6年6月19日付「化粧品転売契約、クーリングオフ説明せず。特商法違反疑い、5人を逮捕」から一部引用,当該報道記事は既に削除済み)

本記事では特定商取引法がどのような法律であるか、またどのような取り引きに関して適用があるのかについて解説させていただきます。
この記事を読んでいただくことで、自社が行っている取引や、行おうとしている取引に特定商取引法の規制対象になるかが分かるかと思います。

1 特定商取引法について

特定商取引法は、正式名称を特定商取引に関する法律といいますが、本記事では「特定商取引法」と省略して記載しています。
特定商取引法は、事業者による違法・悪質な勧誘行為等を防止し、消費者の利益を守ることを目的とする法律です。
具体的には、訪問販売や通信販売等の消費者トラブルを生じやすい取引類型を対象に、事業者が守るべきルールと、クーリング・オフ等の消費者を守るルール等を定めています(消費者庁のHPより引用。https://www.no-trouble.caa.go.jp/what/)
特定商取引法は元々「訪問販売等に関する法律」という名称の法律として施行されており、訪問販売に関する規制を内容としていました。
それが契約類型の多様化に伴って、改正が繰り返されて現行の特定商取引法となっているのです。

2 特定商取引法が規制対象としている取引について

次に特定商取引法が規制対象としている取引に関して解説します。
特定商取引法では7つの契約類型について規制対象としています。
①訪問販売、②訪問購入、③通信販売、④電話勧誘販売、⑤連鎖取引販売、⑥特定継続的役務提供、⑦業務提供誘引取引の7つになります。
それぞれの取引例については、先述の消費者庁のページ(https://www.no-trouble.caa.go.jp/)も参考にしてください。

近年しばしば問題になる取引としては、記事にあったような、ある会社の商品を有償で提供するのでそれを販売して利益を得てくださいというような取引があり、これは⑦の類型にあたります。簡単に言うと「情報商材ビジネス」です。
コロナウイルスの流行やフリマサイトの普及などに伴い自宅で出来る副業として⑦のような取引や事業が増えているといえます。
また継続的にエステを受ける、語学を学ぶといった契約についても、⑥の類型にあたり特定商取引法の規制対象になります。
このように規制対象は当初の訪問販売に限らず非常に広範になっており、これから始めようとしている事業が特定商取引法の規制対象になることは珍しくありません。

次回の記事では、特定商取引法の具体的な規制内容について解説させていただきます。

経営されている業務が特定商取引法の規制対象となるか疑問に思われている方は是非一度あいち刑事事件総合法律事務所にご相談ください。
あいち刑事事件総合法律事務所では、特定商取引法に限らず幅広い分野について、企業の不祥事対策、不祥事対応の業務を行っております。

お問い合わせはこちらからどうぞ。

企業と個人情報保護

2024-11-15

情報通信技術の発達により、企業も大量の情報を扱うようになりました。その中には個人の機微にかかわる重要な情報も含まれます。このような情報は厳重に管理する必要があり、違反があれば処罰も必要です。ここでは、企業の個人情報の保護について解説します。

個人情報保護法

個人情報の保護に関する法律(個人情報保護法)は、「デジタル社会の進展に伴い個人情報の利用が著しく拡大していることに鑑み、個人情報の適正な取扱いに関し、基本理念及び政府による基本方針の作成その他の個人情報の保護に関する施策の基本となる事項を定め、国及び地方公共団体の責務等を明らかにし、個人情報を取り扱う事業者及び行政機関等についてこれらの特性に応じて遵守すべき義務等を定めるとともに、個人情報保護委員会を設置することにより、行政機関等の事務及び事業の適正かつ円滑な運営を図り、並びに個人情報の適正かつ効果的な活用が新たな産業の創出並びに活力ある経済社会及び豊かな国民生活の実現に資するものであることその他の個人情報の有用性に配慮しつつ、個人の権利利益を保護することを目的」としています(第1条)。

個人情報とは、生存する個人に関する情報であって、氏名、生年月日その他の記述等により特定の個人を識別することができるもの(第2条第1項第1号)や個人識別符号(第2条第2項)が含まれるもの(第2条第1項第2号)をいいます。

企業については「第四章 個人情報取扱事業者等の義務等」において定められています。

個人情報データベース等(個人情報保護法第16条第1項・個人情報の保護に関する法律施行令(個人情報保護法施行令)第4条。個人情報を含む情報の集合物であって、特定の個人情報を電子計算機を用いて検索することができるように体系的に構成したものなど)を事業の用に関している企業などは個人情報取扱事業者とされます(個人情報保護法第16条第2項)。

顧客の氏名などを検索すれば出せるようにすれば該当するので、顧客の氏名等の情報をデータとして保存している企業であれば、個人情報取扱事業者に該当するでしょう。

個人情報取扱事業者は、個人情報を取り扱うに当たっては、その利用目的をできる限り特定しなければならず(同法第17条第1項)、あらかじめ本人の同意を得ないで、この利用目的の達成に必要な範囲を超えて、個人情報を取り扱ってはなりません(同法第18条第1項)。
個人情報取扱事業者は、違法又は不当な行為を助長し、又は誘発するおそれがある方法により個人情報を利用してはなりません(同法第19条)。
個人情報取扱事業者は、偽りその他不正の手段により個人情報を取得してはなりません(同法第20条第1項)。

個人情報取扱事業者(法人の場合は、その役員)若しくはその従業者又はこれらであった者が、その業務に関して取り扱った個人情報データベース等(その全部または一部を複製し、又は加工したものを含みます。)を自己若しくは第三者の不正な利益を図る目的で提供し、又は盗用したときは、1年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処されます(個人情報保護法第179条)。

法人の代表者や従業者等がその法人の業務に関して上記のような違反をしたときは、法人も1億円以下の罰金に処されます(個人情報第184条第1項第1号)。

個人情報保護委員会

個人情報保護委員会は、個人情報取扱事業者等やその関係者に対し、個人情報等の取扱いに関し、必要な報告若しくは資料の提出を求め、又はその職員に、当該個人情報取扱事業者等その他の関係者の事務所その他必要な場所に立ち入らせ、個人情報等の取扱いに関し質問をさせ、若しくは帳簿書類その他の物件を検査させることができます(個人情報保護法第46条第1項)。

委員会は、第四章の規定の施行に必要な限度において、個人情報取扱事業者等に対し、個人情報等の取扱いに関し必要な指導及び助言をすることができます(個人情報保護法第47条)。

委員会は、個人情報取扱事業者に違反がある場合、個人の権利利益を保護するため必要があると認めるときは、当該個人情報取扱事業者等に対し、当該違反行為の中止その他違反を是正するために必要な措置をとるべき旨を勧告することができます(個人情報保護法第148条第1項)。

この勧告を受けた個人情報取扱事業者等が正当な理由がなくてその勧告に係る措置をとらなかった場合において個人の重大な権利利益の侵害が切迫していると認めるときは、個人上保護委員会は、当該個人情報取扱事業者等に対し、その勧告に係る措置をとるべきことを命ずることができます(個人情報保護法第148条第2項)。

また、個人情報保護委員会は、一定の違反の場合において個人の重大な権利利益を害する事実があるため緊急に措置をとる必要があると認めるときは、当該個人情報取扱事業者等に対し、当該違反行為の中止その他違反を是正するために必要な措置をとるべきことを命ずることができます(同条第3項)。これらの命令をした場合において、その命令を受けた個人情報取扱事業者等がその命令に違反したときは、その旨を公表することができます(同条第4項)。

これらの命令に違反した場合には、当該違反行為をした者は、1年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処されます(個人情報保護法第178条)。法人の代表者や従業者等がその法人の業務に関しこの違反をしたときは、法人も1億円以下の罰金に処されます(同法第184条第1項第1号)。

個人情報取扱事業者(法人の場合は、その役員)若しくはその従業者又はこれらであった者が、その業務に関して取り扱った個人情報データベース等(その全部または一部を複製し、又は加工したものを含みます。)を自己若しくは第三者の不正な利益を図る目的で提供し、又は盗用したときは、1年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処されます(個人情報保護法第179条)。法人の代表者や従業者等がその法人の業務に関しこの違反をしたときは、法人も1億円以下の罰金に処されます(同法第184条第1項第1号)。

まとめ

以上のように、企業は個人情報の適切な管理が求められます。
個人情報保護について不安のある方は、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所へご相談ください。

お問い合わせはこちらからどうぞ。

【事例紹介】風俗営業法違反での行政処分を放置していた結果逮捕された事例①

2024-10-22

【事例】
東京・歌舞伎町のコンセプトカフェで未成年の従業員に接待させたとして、警視庁は、店の経営者の男Aと店長の女Bの両容疑者を風営法違反(無許可営業)などで逮捕し、26日に発表した。
いずれも容疑を認めているという。
少年育成課によると、両容疑者は共謀して(中略)コンセプトカフェXで、未成年の少女(17)を女性従業員として雇ったうえ、都公安委員会から風俗営業の許可を得ずに、客の30代男性に酒をついだり、話し相手をしたりするなどの接待をさせた疑いがある。
男は、この女性従業員が未成年と知りながら雇っていたといい、「店で未成年を5~6人ほど雇っていた」と供述しているという。
店は(中略)、これまでも無許可の接待行為について行政指導を受けていた。
(朝日新聞DIGITAL 令和6年9月26日「歌舞伎町のコンカフェで無許可接待、従業員に未成年も 警視庁が摘発」より一部抜粋)

今回は風営法違反で逮捕された事例を基に、風営法ではどのような規定があるのか、規定違反に関する行政指導を無視した場合にどうなるかについて解説します。
この記事では風営法の規定について、次回の記事では風営法違反の行政指導の意義や、それを放置することによる影響を解説します。

1 風営法の規定について

風営法は正式名称を「風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律」といいます。
この記事ではこの正式名称ではなく、風営法と略称を用いて解説させていただきます。
風営法では法律名にもある通り、「風俗営業」に関する法律になっています。

そして「風俗営業」については風営法第2条に規定があります。

第二条この法律において「風俗営業」とは、次の各号のいずれかに該当する営業をいう。
一キヤバレー、待合、料理店、カフエーその他設備を設けて客の接待をして客に遊興又は飲食をさせる営業
二喫茶店、バーその他設備を設けて客に飲食をさせる営業で、国家公安委員会規則で定めるところにより計つた営業所内の照度を十ルクス以下として営むもの(前号に該当する営業として営むものを除く。)
三喫茶店、バーその他設備を設けて客に飲食をさせる営業で、他から見通すことが困難であり、かつ、その広さが五平方メートル以下である客席を設けて営むもの
四まあじやん屋、ぱちんこ屋その他設備を設けて客に射幸心をそそるおそれのある遊技をさせる営業
五スロットマシン、テレビゲーム機その他の遊技設備で本来の用途以外の用途として射幸心をそそるおそれのある遊技に用いることができるもの(国家公安委員会規則で定めるものに限る。)を備える店舗その他これに類する区画された施設(旅館業その他の営業の用に供し、又はこれに随伴する施設で政令で定めるものを除く。)において当該遊技設備により客に遊技をさせる営業(前号に該当する営業を除く。)

通常の飲食店との違いでは風営法第2条1号の「客の接待をして客に遊興または飲食をさせる営業」であるかが重要な違いになります。当然「風俗営業」にあたるかは、お店の実態によって判断されます。
したがって表向きは「居酒屋」としていても、実際にはキャバクラのように、女性に接客をさせているようであれば、「風俗営業」を行っていると判断されます。

2 上記事例で問題になった風営法違反

記事の内容からの推測になりますが記事で摘発された店舗については、
①風俗営業の許可を得ずに営業したこと(無許可営業)
②18歳未満のものを雇用していたこと(年少者雇用)
の2点で風営法の規定に違反していたと考えられます。
以下でそれぞれの規定に関して説明させていただきます。

①無許可営業
風営法3条で風俗営業を行う場合は、風俗営業の種別に応じて許可を受けなければならないと定められています。
先ほど説明したように「風俗営業」を行っているかは、お店の業務の実態により判断されます。
実際には「風俗営業」行っているのに、「風俗営業」を行うための許可を取っていない場合(例:飲食店営業の許可しか取っていない)には、無許可営業にあたります。

②年少者使用
「風俗営業」に該当するお店では、18歳未満の者に客の接待をさせることを禁止しています(風営法第22条3号)。
これも先ほどと同様に、表向きは居酒屋のように飲食店を装い、実際には風俗営業にあたるような営業をして、その営業に際して18歳未満の者に接待をさせた場合には、この規定に違反することになります。

このように営業内容が風俗営業にあたるかによって、営業の際に必要な許可や働かせてよい者の年齢規制が変わってきます。
このような店舗を開業される経営者の方や風営法に関して調査や捜査を受けられた経営者、労働者の方は、風営法に詳しいあいち刑事事件総合法律事務所の弁護士に是非一度ご相談ください。
次回の記事では風営法違反が明らかになった場合の手続きの流れや、行政処分を無視してしまった場合の流れについて解説させていただきます。

法律相談のお問い合わせはこちらから

廃棄物処理法の営業許可①

2024-10-01

【事例】
Aさんは、京都市内で産業廃棄物の収集運搬を行う会社であるⅩ社に長年勤めていました。
Aさんは、家庭の事情をきっかけに、それまで勤めていた会社を退職し、地元である滋賀県高島市で、自ら産業廃棄物の収集運搬を行う会社を立ち上げようと考えました。
AさんはX社に勤めていた経験から、役所で手続きが必要だったり、細かなルールが定められていたりするのは知っていましたが、具体的にどのような手続きをすればいいのかまではわかりませんでした。
そこで、Aさんは、今後必要な手続きなどを相談するために、あいち刑事事件総合法律事務所に相談することにしました。
(事例はフィクションです。)

1 はじめに

Aさんが起業しようと考えている産業廃棄物の収集運搬という事業は、廃棄物の処理及び清掃に関する法律(廃掃法や廃棄物処理法と省略して呼ばれることがあります。以下では「廃棄物処理法」といいます。)で規制されています。
この法律は、「廃棄物の排出を抑制し、及び廃棄物の適正な分別、保管、収集、運搬、再生、処分等の処理をし、並びに生活環境を清潔にすることにより、生活環境の保全及び公衆衛生の向上を図ることを目的」としています(廃棄物処理法1条)。

廃棄物処理法は、このような目的から、事業を細分化し、許可ごとに行える事業を分けたうえで、事業を行う会社にはその事業に対応する許可を取ることを求めています。
結論から言えば、Aさんは、少なくとも滋賀県知事から産業廃棄物収集運搬業許可を得る必要があります(廃棄物処理法14条1項本文)。
このような結論に至る前提として、まずは廃棄物処理法が細分化している事業の種類を見ていきます。

2 廃棄物の種類

⑴ 産業廃棄物と一般廃棄物
まず、廃棄物処理法は、誰が出した廃棄物かによって必要な許可を分けています。
それが産業廃棄物と一般廃棄物という区分です。

産業廃棄物は、主には、事業活動にともなって生じた廃棄物のうち、燃え殻、紙くず、廃プラスチック類、金属くず、がれき類、ガラスくず、コンクリートくず、陶磁器くずなど、廃棄物処理法2条4項1号や廃棄物の処理及び清掃に関する法律施行令で定められている一定のものをいいます。

一方の一般廃棄物は、「産業廃棄物以外の廃棄物」と定められています(廃棄物処理法2条2項)。
一般家庭が排出する廃棄物が中心ですが、それ以外にも事業者が排出する廃棄物でも一定のものが含まれます。
例えば、紙くずは、紙や紙加工品の製造業者、新聞業者、出版業者などといった一定の事業を行っている事業者が排出する場合のみ産業廃棄物となりますので(廃棄物の処理及び清掃に関する法律施行令2条1号)、対象外の事業者が排出する紙くずは一般廃棄物となります。

⑵ 特別管理廃棄物
また、誰が出した廃棄物かという区分とは別に、「爆発性、毒性、感染性その他の人の健康又は生活環境に係る被害を生ずるおそれ」があるなど特に注意が必要な廃棄物は、特別管理廃棄物とされています。
つまり、特別管理産業廃棄物(廃棄物処理法2条5項)と特別管理一般廃棄物(廃棄物処理法2条3項)という区分があります。
特別管理産業廃棄物の例としては、一定の廃石綿(アスベスト)、一定の廃酸や廃アルカリなどです(廃棄物の処理及び清掃に関する法律施行令2条の4)。
特別管理一般廃棄物の例としては、病院などから出た感染性廃棄物などです(廃棄物の処理及び清掃に関する法律施行令1条)。

今回は、廃棄物処理法の許可について解説していきました。この続きは今後の記事で解説していきます。

弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所では、刑事事件に関わってきた経験を活かし、そもそも法律に違反しないための対応・アドバイスにも力を入れています。
許認可申請についてアドバイスがほしい、継続的に弁護士からアドバイスを受けたいなどといったご要望の方も、一度、あいち刑事事件総合法律事務所にご相談ください。

お問い合わせはこちらから。

福祉施設の職員による虐待事案について①

2024-09-24

福祉施設の職員による虐待事案について、施設側の不祥事対応の観点から弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が解説します。

近年、施設職員による虐待事案は増加傾向にある

近年、福祉施設の職員による虐待事案は増加傾向にあります。ここでは、そのなかでも虐待事案数の多い高齢者虐待、障害者虐待について、まずその実態からお話します。

高齢者虐待の実態

厚生労働省において実施した令和4年度の高齢者虐待への対応状況に関する調査結果(令和5年12月公表)によると、養護者による高齢者虐待以外の養介護施設従業者等(老人ホーム等で業務に従事する人を指します。)による高齢者虐待は、相談・通報件数2,795件(対前年度405件(16.9%)増)、虐待判断件数856件(対前年度117件(15.8%)増)となっています。養護者による虐待事案が、対前年度と比較して横ばい傾向にあることからしますと、近年、施設職員による虐待事案の増加が目立ちます。

虐待の種別は、身体的虐待(57.6%)が最も多く、心理的虐待(33.0%)、介護等放棄(23.2%)、経済的虐待(3.9%)、性的虐待(3.5%)の順になっています。
虐待の発生要因は、教育・知識・介護技術等に関する問題(56.1%)が最も多く、職員のストレスや感情コントロールの問題(23.0%)、虐待を助長する組織風土や職員間の関係の悪さ、管理体制等(22.5%)の順になっています。

障害者虐待の実態

厚生労働省において実施した令和4年度の障害者虐待への対応状況に関する調査結果(令和5年12月公表)によると、養護者による障害者虐待以外の障害者福祉施設従業者等(障害者支援施設等で業務に従事する人を指します。)による障害者虐待は、相談・通報件数4,104件(対前年度1.28倍)、虐待判断件数956件(対前年度1.37倍)となっています。養護者による虐待事案は前年度と比較して横ばいに近く、障害者虐待についても、近年、施設職員による虐待事案の増加が目立っています。

虐待の種別は、身体的虐待(52%)が最も多く、心理的虐待(46パーセント)、性的虐待(14%)、放棄、放置(10パーセント)、経済的虐待(5パーセント)の順になっています。虐待の発生要因は、教育・知識・介護技術等に関する問題(74%)が最も多く、倫理観や理念の欠如(58%)、職員のストレスや感情コントロールの問題(57%)の順になっています。

福祉施設の職員による虐待事案について、この続きは今後の記事で解説していきます。

最後に

福祉施設の職員による虐待は後で絶ちません。虐待防止の取り組み、あるいは、実際に虐待が疑われる事案が発生した際の対応等については弊社の弁護士にご相談ください。

輸出に係る犯罪―外国為替及び外国貿易法違反

2024-08-06

経済のグローバル化に伴い、企業の外国との取引はさらに増加しました。一方で、外国に輸出した商品が兵器転用され、独裁国家やテロリストに利用され、我が国や国際社会の安全を脅かす可能性も高まっています。このような事態に陥らないよう、対外取引を管理する必要があります。

ここでは、そのための規制のひとつとして、「外国為替及び外国貿易法」について解説します。 外国為替及び外国貿易法 外国為替及び外国貿易法(外為法)は、第1条で「この法律は、外国為替、外国貿易その他の対外取引が自由に行われることを基本とし、対外取引に対し必要最小限の管理又は調整を行うことにより、対外取引の正常な発展並びに我が国又は国際社会の平和及び安全の維持を期し、もつて国際収支の均衡及び通貨の安定を図るとともに我が国経済の健全な発展に寄与することを目的とする。」と定めています。

本邦(第6条第1項第1号)内に主たる事務所を有する法人の代表者等や本邦内に住所を有する人又はその代理人等が、外国においてその人の財産又は業務についてした行為にも適用されます(第5条)。

外為法では、以下の事項が規制されています。
○支払等(第3章。第16条から第19条)
○資本取引等(第4章。第20条から第25条の2)
○対内直接投資等(第5章。第26条から第46条)
○外国貿易(第6章。第47条から第54条)
また、支払等の報告や輸出を業として行う者が輸出等を行うにあたって順守すべき基準等についても定めています。
○報告等(第6章の2。第55条から第55条の9)
○輸出等遵守基準(第6章の3。第55条の10から第55条の12)

輸出についての規制

輸出については、「第6章 外国貿易」にて規制されています。
第47条には「貨物の輸出は、この法律の目的に合致する限り、最少限度の制限の下に、許容されるものとする。」と定め、輸出については最小限とすることを原則としています。
第48条第1項では輸出の許可等について定められており、「国際的な平和及び安全の維持を妨げることとなると認められるものとして政令で定める特定の地域を仕向地とする特定の種類の貨物の輸出をしようとする者は、政令で定めるところにより、経済産業大臣の許可を受けなければならない。」とされています。

この政令として「輸出貿易管理令」が制定されています。同政令の第1条では、別表で定める貨物について、一定の地域へ輸出する際には、経済産業大臣の許可を受けなければならないとしています。
噴霧乾燥器など軍用の細菌製剤の開発、製造若しくは散布に用いられる装置又はその部分品(別表第一、三の二、(二)5の2)など、軍用に用いられるおそれのあるものは、どの地域に輸出するのであっても、許可が必要となります。

そのほかの貨物や地域であっても、別表で定める一定の輸出については、経済産業大臣の承認を受けなければならないとしています(輸出貿易管理令第2条)。 この許可を受けないで輸出貿易管理令で定める貨物の輸出をしたときは、7年以下の懲役若しくは2000万円以下の罰金に処され、又はこれを併科されます。当該違反行為の目的物の価格の5倍が2000万円を超えるときは、罰金は、当該価格の5倍以下となります。(第69条の6第1項第2号)。
核兵器等又はその開発等のために用いられるおそれが特に大きいと認められる貨物を許可なく輸出したときはさらに重くなり、10年以下の懲役若しくは3000万円以下の罰金に処され、又はこれを併科されます。当該違反行為の目的物の価格の5倍が3000万円を超えるときは、罰金は、当該価格の5倍以下になります(第69条の6第2項第2号)。

また、輸出しようとする者に対して、外為法第48条第1項の規定の確実な実施を図るため必要があると認めるときは、他の地域を仕向地として輸出する場合も許可を受ける義務を課することができます(外為法第48条第2項)。
また、国際収支の均衡の維持のため、外国貿易及び国民経済の健全な発展のため、我が国が締結した条約その他の国際約束を誠実に履行するため、国際平和のための国際的な努力に我が国として寄与するため、対抗措置(第10条第1項)を実施するために必要な範囲内で、承認を受ける義務を課することができます(外為法第48条第2項)。

これらの許可を受けないで輸出貿易管理令で定める貨物の輸出をしたときは、5年以下の懲役若しくは1000万円以下の罰金に処され、又はこれを併科されます。当該違反行為の目的物の価格の5倍が1000万円を超えるときは、罰金は、当該価格の5倍以下となります。(第69条の7第1項第3・4号)。

法人の代表者などがこうした違反行為をしたときは、行為者を罰するほか、法人も次の通り罰金刑を科されます(第72条第1項)。
①第69条の6第2項 10億円以下(当該違反行為の目的物の価格の5倍が10億円を超えるときは、当該価格の5倍以下)の罰金刑
②第69条の6第1項 7億円以下(当該違反行為の目的物の価格の5倍が7億円を超えるときは、当該価格の5倍以下)の罰金刑
③第69条の7 5億円以下(当該違反行為の目的物の価格の5倍が5億円を超えるときは、当該価格の5倍以下)の罰金刑

捜査への対応

外為法違反事件などは、国の安全保障にかかわるため、警察や検察も厳しい取り調べを行います。
ときには違法な捜査を行い、裁判所もこれを信用して保釈などを認めない、といった事態に巻き込まれる可能性があります。

「大川原化工機事件」では、噴霧乾燥器が兵器転用が可能になるのに経産省の許可を得ずに輸出したとして、社長や専務、相談役が逮捕・起訴され、検察官の公訴取り消しで刑事事件が終結しました。その間、社長たち長期間保釈も認められず拘束され、相談役の方が亡くなるという、痛ましい事件となりました。

被疑者・被告人には黙秘権があり、また供述調書の訂正申し立てや署名押印拒否の権利もあります。ですが、逮捕され、過酷な取り調べを受ける中で、これらの権利を全うすることは非常に難しいことです。このような事件では接見禁止がつき、家族や会社関係者とも面会できず、精神的にも追い詰められかねません。

こうした事件で疑いをかけられたり、逮捕されたときは、早急に弁護士に依頼してください。頻繁に接見を行い、捜査対応について必要なサポートをします。
万が一違法行為が行われたときは、警察や検察に抗議して違法な捜査をやめさせます。また、弁護士会の支援を求めたり、マスコミに告発するなどして、社会的にも違法捜査を許さない状況に持っていきます。 輸出についてお悩みの方は、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所へご相談ください。

お問い合わせはこちらからどうぞ。

【捜査解説】建設仮勘定を利用した不正事案の捜査

2024-07-09

建設仮勘定を利用した不正事案について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が具体例を交えながら詳しく解説します。

建設仮勘定とは、自社で使用する工場などの建物等の建設のために支払った工事費、材料費、労務費などの支出を、その建物等が完成して資産計上されるまでの間、仮に資産として計上するための勘定科目です。

参考:弥生会計 建設仮勘定とは

この建設仮勘定は、あくまで自社で使用する建物等の建設のための支出に計上される勘定科目ですが、これを悪用すると、費用としてではなく、流動資産として計上できる上、建物等の建設であることから金額が高額となるため、建設仮勘定を不正会計の手段として使用することがよくあります。

例えば、ある不動産会社では、実績をあげるために無理に値引きをした受注や手直し工事等による原価率の悪化を隠ぺいするために、それらの物件を建設仮勘定に振り返るなどの不正経理がなされていたり、ある製造会社では、既に完成して使用されていた倉庫について建設仮勘定から本勘定に振替がなされないまま減価償却がされずにいた、あるいは、土地の購入のための手付金として支出していた金額を仮勘定として計上していたものの、土地購入の相手方は実在せずに書類が偽造されていたものなどの様々な事案があります。

こうしたことから、捜査官としては、建設仮勘定の特性を踏まえ、この勘定科目による不自然な振替などの帳簿操作に目を光らせます。

捜査官は、帳簿捜査により、建設仮勘定の計上に気付くと、まずはその計上についての内訳をよく検討し、自社のものではなく顧客から受注を受けるなどしたものが混入して計上されていないか、自社のものであるとして既に完成して引き渡しを受けているのにこれを本勘定に振り替えず、減価償却費の計上を先送りして資産を過大に計上していないか、そもそも建設仮勘定に計上することが相当でない支出はないか、建物等の建設の工事は実際に存在しているのか、建設仮勘定に係る契約書類等は偽造されたものではないかなどの様々な観点から検討し、証拠を収集保全してきます。

こうした不正経理に関する事案に対応するためには、企業法務のみならず会計等についても高度な専門性・技術性を要し、これらのことに精通した弁護士に依頼することが必要となります。

あいち刑事事件総合法律事務所には、これらのことに精通した弁護士が多数在籍しております。このような事態にいたったときは、是非、弊所にご相談ください。

お問い合わせはこちらからどうぞ

企業と下請法違反

2024-07-04

自動車会社が下請けの会社に不当に価格引き下げを迫っていたことがニュースとなり、問題となっています。この事案は下請法違反とされています。ここでは、下請法について解説します。

下請法の正式名称は下請代金支払遅延等防止法(下請法)といい,「下請代金の支払遅延等を防止することによつて、親事業者の下請事業者に対する取引を公正ならしめるとともに、下請事業者の利益を保護し、もつて国民経済の健全な発達に寄与することを目的」としています(第1条)。

下請法上の定義・適用範囲

下請法の対象となる下請事業は、製造委託、修理委託、情報成果物作成委託及び役務提供委託です(第2条第1項から第4項。これらをまとめて「製造委託等」といいます。第2条第5項)。

下請法の「親事業者」は以下の事業者に該当する者です(第2条第8項)。

一 資本金の額又は出資の総額が三億円を超える法人たる事業者(政府契約の支払遅延防止等に関する法律(昭和二十四年法律第二百五十六号)第十四条に規定する者を除く。)であつて、個人又は資本金の額若しくは出資の総額が三億円以下の法人たる事業者に対し製造委託等(情報成果物作成委託及び役務提供委託にあつては、それぞれ政令で定める情報成果物及び役務に係るものに限る。次号並びに次項第一号及び第二号において同じ。)をするもの
二 資本金の額又は出資の総額が千万円を超え三億円以下の法人たる事業者(政府契約の支払遅延防止等に関する法律第十四条に規定する者を除く。)であつて、個人又は資本金の額若しくは出資の総額が千万円以下の法人たる事業者に対し製造委託等をするもの
三 資本金の額又は出資の総額が五千万円を超える法人たる事業者(政府契約の支払遅延防止等に関する法律第十四条に規定する者を除く。)であつて、個人又は資本金の額若しくは出資の総額が五千万円以下の法人たる事業者に対し情報成果物作成委託又は役務提供委託(それぞれ第一号の政令で定める情報成果物又は役務に係るものを除く。次号並びに次項第三号及び第四号において同じ。)をするもの
四 資本金の額又は出資の総額が千万円を超え五千万円以下の法人たる事業者(政府契約の支払遅延防止等に関する法律第十四条に規定する者を除く。)であつて、個人又は資本金の額若しくは出資の総額が千万円以下の法人たる事業者に対し情報成果物作成委託又は役務提供委託をするもの
また、下請法の「下請事業者」は、次のいずれかに該当する者です。
一 個人又は資本金の額若しくは出資の総額が三億円以下の法人たる事業者であつて、前項第一号に規定する親事業者から製造委託等を受けるもの
二 個人又は資本金の額若しくは出資の総額が千万円以下の法人たる事業者であつて、前項第二号に規定する親事業者から製造委託等を受けるもの
三 個人又は資本金の額若しくは出資の総額が五千万円以下の法人たる事業者であつて、前項第三号に規定する親事業者から情報成果物作成委託又は役務提供委託を受けるもの
四 個人又は資本金の額若しくは出資の総額が千万円以下の法人たる事業者であつて、前項第四号に規定する親事業者から情報成果物作成委託又は役務提供委託を受けるもの

情報成果物作成委託及び役務提供委託の一部については、下請代金支払遅延等防止法施行令(下請法施行令)において下請法の適用対象となる資本金の規模について異なる定めがなされています。
情報成果物ではプログラム(下請法施行令第1条第1項)、役務では①運送、②物品の倉庫における保管、③情報処理、です(下請法施行令第1条第2項)。

まとめますと、下請法が適用されるのは、以下の場合です。

⑴情報成果物がプログラム、役務が運送、物品の倉庫における保管又は情報処理である情報成果物作成委託又は役務提供委託契約については、
①資本金の額又は出資の総額が五千万円を超える法人である事業者が、個人又は資本金の額若しくは出資の総額が五千万円以下の法人である事業者に対し委託する場合
②資本金の額又は出資の総額が千万円を超え五千万円以下の法人である事業者が、個人又は資本金の額若しくは出資の総額が千万円以下の法人たる事業者に対し委託する場合
⑵⑴以外の製造委託、修理委託、情報成果物作成委託及び役務提供委託契約については、
①資本金の額又は出資の総額が三億円を超える法人である事業者が、個人又は資本金の額若しくは出資の総額が三億円以下の法人である事業者に対し委託する場合
②資本金の額又は出資の総額が千万円を超え三億円以下の法人である事業者が、個人又は資本金の額若しくは出資の総額が千万円以下の法人たる事業者に対し委託する場合

下請法上の義務

親事業者は、下請事業者に対し製造委託等をした場合は、直ちに、公正取引委員会規則で定めるところにより下請事業者の給付の内容、下請代金の額、支払期日及び支払方法その他の事項を記載した書面を下請事業者に交付しなければなりません(下請法第3条第1項)。これらの事項のうちその内容が定められないことにつき正当な理由があるものについては、この書面には記載しないこともできますが、親事業者は、当該事項の内容が定められた後直ちに、当該事項を記載した書面を下請事業者に交付しなければなりません(同項但し書き)。
この書面は「3条書面」と呼ばれています。
また、親事業者は、下請事業者に対し製造等委託をした場合は、次の行為をしてはならないとされています(下請法第4条第1項。役務を提供したら委託業務が終了する役務提供委託の場合は、①と④は除きます)。

① 下請事業者の責に帰すべき理由がないのに、下請事業者の給付の受領を拒むこと。
② 下請代金をその支払期日の経過後なお支払わないこと。
③ 下請事業者の責に帰すべき理由がないのに、下請代金の額を減ずること。
④ 下請事業者の責に帰すべき理由がないのに、下請事業者の給付を受領した後、下請事業者にその給付に係る物を引き取らせること。
⑤ 下請事業者の給付の内容と同種又は類似の内容の給付に対し通常支払われる対価に比し著しく低い下請代金の額を不当に定めること。
⑥ 下請事業者の給付の内容を均質にし又はその改善を図るため必要がある場合その他正当な理由がある場合を除き、自己の指定する物を強制して購入させ、又は役務を強制して利用させること。
⑦ 親事業者が第一号若しくは第二号に掲げる行為をしている場合若しくは第三号から前号までに掲げる行為をした場合又は親事業者について次項各号の一に該当する事実があると認められる場合に下請事業者が公正取引委員会又は中小企業庁長官に対しその事実を知らせたことを理由として、取引の数量を減じ、取引を停止し、その他不利益な取扱いをすること。

親事業者は、下請事業者に対し製造委託等をした場合は、「下請代金支払遅延等防止法第5条の書類又は電磁的記録の作成及び保存に関する規則」で定めるところにより、下請事業者の給付、給付の受領(役務提供委託の場合は、下請事業者がした役務を提供する行為の実施)、下請代金の支払その他の事項について記載し又は記録した書類又は電磁的記録を作成し、これを保存しなければなりません(下請法第5条)。
記載又は記録しなければならないのは、商号などの下請事業者を識別できる情報、給付の内容及びその給付を受領する期日、など多岐にわたります。

中小企業庁長官の調査及び請求

中小企業庁長官は、親事業者が第4条に掲げる行為をしたり該当する事実があるかを調査し、その事実があると認めるときは、公正取引委員会に対し、この法律の規定に従い適当な措置をとるべきことを求めることができます(下請法第6条)。

公正取引委員会の勧告

公正取引委員会は、親事業者が第四条に掲げる行為をしていると認めるときは、それぞれの行為に応じて、給付受領や減額した代金額の支払い、等の必要な是正措置をとるべきことを勧告するものとされています(下請法第7条第1項から第3項)。
また、公正取引委員会は、原則として、企業名を出して、違反事実の概要やこの勧告の概要を公表します。

公正取引委員会による下請法勧告一覧

報告及び検査

公正取引委員会は、親事業者の下請事業者に対する製造委託等に関する取引(以下単に「取引」という。)を公正ならしめるため必要があると認めるときは、親事業者若しくは下請事業者に対しその取引に関する報告をさせ、又はその職員に親事業者若しくは下請事業者の事務所若しくは事業所に立ち入り、帳簿書類その他の物件を検査させることができます(下請法第9条第1項)。
中小企業庁長官は、利益を保護するため特に必要があると認めるときは、親事業者若しくは下請事業者に対しその取引に関する報告をさせ、又はその職員に親事業者若しくは下請事業者の事務所若しくは事業所に立ち入り、帳簿書類その他の物件を検査させることができます(同条第2項)。
親事業者又は下請事業者の営む事業を所管する主務大臣は、中小企業庁長官の第六条の規定による調査に協力するため特に必要があると認めるときは、所管事業を営む親事業者若しくは下請事業者に対しその取引に関する報告をさせ、又はその職員にこれらの者の事務所若しくは事業所に立ち入り、帳簿書類その他の物件を検査させることができます(同条第3項)。

下請法違反の罰則

以上のように、下請法では親事業者がしてはいけないことが定められていますが、違反をした場合にすべて刑罰を科されるわけではありません。
3条書面を交付しなかった場合(下請法第10条第1号)、5条に規定する書類若しくは電磁的記録を作成せず、若しくは保存せず、又は虚偽の書類若しくは電磁的記録を作成した場合(第10条第2号)、その違反行為をした親事業者の代表者、代理人、使用人その他の従業者は、50万円以下の罰金に処されます(第10条柱書)。
また、第9条第1項から第3項までの規定による報告をせず、若しくは虚偽の報告をし、又は検査を拒み、妨げ、若しくは忌避した者は、50万円以下の罰金に処されます(第11条)。
法人の代表者などがこれらの違反行為をしたときは、行為者を罰するだけでなく、法人も同じく罰金刑に処されます(第12条)。

社会的制裁

以上のように、受領拒否や代金の減額があったからといって刑事罰を科されるわけではありません。
しかしながら、冒頭の事例のように、下請法違反の行為があったと認定されれば勧告を受けるだけでなくその事実が公表されます。さらにその後報道されて、厳しい社会的批判を受けることになるでしょう。

まとめ

以上のように、下請法には様々な規制があり、違反があれば法的にも社会的にも厳しい制裁があります。下請法についてお悩みの方は、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所へご相談ください。

お問い合わせはこちらからどうぞ。

官製談合で社員に対して捜査を受けた時,社員が官製談合に関わらないために

2024-05-31

【事例】
A社は滋賀県草津市で建設業を営んでいる会社でした。
A社の社員であるBは自身の営業成績を上げようと、プライベートで親交のある滋賀県の職員であるCに対して金銭を渡すことで入札における予定価格を教えてもらっていました。
Bは予定価格を聞いていたことはA社には伏せた上で自身の担当する工事において、Cからの情報を基に予定価格に近接した額で繰り返し入札を行っていました
その結果としてA社はBが担当する工事において立て続けに落札に成功していました。
しかし、落札金額が予定価格と不自然に近接していることから怪しんだ滋賀県警の警察官がBに対して取調べを開始しました。
逮捕されて会社に迷惑をかけるのではと考えたBはA社の社長に対し、これまでの犯行を告白しました。
(事例はフィクションです)

官製談合とは

官製談合とは国や地方自治体などによる事業の発注の際に行われる競争入札において、発注機関側の公務員が入札談合(入札参加者の間で、あらかじめ受注予定者や受注価格等を取り決めるなどすること)に関与して、不公平な形で落札業者が決まるしくみを指します。
具体的な態様として度々問題になるのは、本件の事例のように当該工事における予定価格を漏洩する場合です。
予定価格とは入札が行われる場合に、入札時に地方公共団体側で事前に定められる価格で、この価額を下回らない額のうち最低額を提示した業者が落札することになるので入札において極めて重要な情報になります。

官製談合については2003年に入札談合等関与行為の排除及び防止並びに職員による入札等の公正を害すべき行為の処罰に関する法律(以下通称である「官製談合防止法」といいます)が制定されました。
談合に関わった公務員については官製談合防止法違反で刑事訴追される可能性が高いです。
これに対して、談合に関わった社員等の公務員ではない関係者については、刑法上の公契約等妨害罪(刑法96条の6第2項)に問われる可能性が高いです。
このように自社の社員が官製談合に関わってしまった場合には、刑事事件の被疑者として取り扱われます。
事例のように金品を受け取っていた場合には、贈賄罪(刑法198条)に問われる可能性があります
そして関係者が複数いて当事者間での口裏合わせの危険性が高いことから、官製談合に関する刑事事件は非常に身体拘束のリスクが高い類型の事件になります。

官製談合防止法違反については,こちらで解説しています。

官製談合に社員が関わっていた場合に会社が受ける影響について

①捜査による影響

自社の社員が官製談合に関わっていた場合にはほぼ確実に会社に対して捜査機関の捜索が行われて、工事に関する資料等の関係書類等が広範かつ大量に押収されるおそれがあります。
当然ですが当該社員から証拠隠滅を依頼されても決して応じてはいけません。会社ぐるみでの関与を疑われることになりますし、別途証拠隠滅罪で刑事訴追を受けるおそれもあります。
当該社員が隠れて証拠書類を隠滅しないようにすることも含めて対応する必要があります。
当該社員については先述したように逮捕されて、身体拘束を受ける可能性が高いです。
社員が捜査を受けていることが明らかになった場合には、以上のような捜査の流れに留意して今後の業務体制について見直す必要があります。

②今後の入札における影響

社員による官製談合行為が明らかになったケースの多くでは、当該地方公共団体における工事に関して会社として指名停止処分を受けることになります。
指名停止処分を受ければ、入札による受注機会を失うのみならず、指名停止となった事実と理由が公表されるので会社の信頼が大きく揺らぐことになります。
このように官製談合に社員が関わっていた場合に会社が受ける損失や影響は測り知れないものものですので、普段から会社におけるコンプライアンス教育の徹底と法令が遵守されているかのチェック体制の確立が重要になって来るといえます。

官製談合事件に社員が関与していた場合の事後対応

官製談合は会社に対する周囲からの信頼を失墜させる犯罪であり、入札停止などの重大なペナルティを科される事件になります。
信頼回復のために重要なのは再発防止のための対策になります。
具体的には入札が関係する契約で複数人で対応する体制づくりや、内部通報システムの整備などが有効であると言われています。
あいち刑事事件総合法律事務所には長年刑事事件を中心に扱ってきたことによる刑事事件に対するノウハウと、企業のコンプライアンスに関する専門チームがあります。
是非再発防止や事件に対する者としての対応にお困りの経営者の方はご相談ください。

お問い合わせはこちらから,またはお電話(0120-631-881)までどうぞ。

産地偽装と企業犯罪

2024-05-24

アサリや鰻などの水産物を「日本産」であることや地方産であることを謳いながら、実際は外国産であることが次々に発覚し問題となっています。
このような行為は社会の信用を失い、さらに犯罪となる可能性があります。

産地偽装による問題点や成立しうる犯罪について解説をします。

詐欺罪の成立は困難

人を欺いて財物を交付させた者は、10年以下の懲役に処されます(刑法第246条第1項)。
詐欺罪は、欺罔行為により相手が錯誤に陥りこれに基づいて財物を交付することにより成立します。欺罔行為がなければ商品を買うことはなかったといえるような状況が必要です。取引上の重要事項、例えば、商品の効能について虚偽の事項を伝えて欺罔することなどは、まさにその欺罔行為がなければ商品を買うことはなかったといえる典型例であり、詐欺罪が成立するでしょう。一方で、食品の原料の原産地などは、それが実際とは異なったからといっても効能などには直結しないと考えられています。そのため、原産地を偽っただけでは、詐欺罪の成立は難しいといえます。

詐欺以外の消費者保護法令

このように詐欺的手段で消費者を混乱・誤解させても、詐欺罪により取り締まれない可能性があるため、不正な表示を規制し消費者を保護する法律が多数作られています。

景表法の違反

景表法(不当景品類及び不当表示防止法)は不当な表示を禁止しています。
そのひとつが「商品又は役務の取引に関する事項について一般消費者に誤認されるおそれがある表示であつて、不当に顧客を誘引し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがあると認めて内閣総理大臣が指定するもの」です(景表法第5条第3号)。
この「内閣総理大臣が指定するもの」の中に、「商品の原産国に関する不当な表示」があります。
この違反が行われれば、措置命令(内閣総理大臣が、当該事業者に対し、その行為の差止め若しくはその行為が再び行われることを防止するために必要な事項又はこれらの実施に関連する公示その他必要な事項を命じる)が行われます(景表法第7条第1項)。

景品表示法の違反についてはこちらでも解説しています。

食品表示法違反

食品の原産地などは食品表示基準が定められます(食品表示法第4条第1項第1号)。
これが順守されていないときは、内閣総理大臣又は農林水産大臣(酒類に関しては内閣総理大臣又は財務大臣)は、遵守事項を遵守すべき旨の指示や命令をすることなどができます(食品表示法第6条)。指示や命令をしたときは、その旨を公表しなければなりません(食品表示法第7条)。
食品表示基準において表示されるべきこととされている原産地(原材料の原産地を含む。)について虚偽の表示がされた食品の販売をした者は、2年以下の懲役又は200万円以下の罰金に処されます(食品表示法第19条)。
法人の代表者や従業者等が法人の業務に関してこの違反行為をした場合、法人も1億円以下の罰金刑を科されます(食品表示法第22条第1項第2号)。

不正競争防止法

不正競争防止法は「商品若しくは役務若しくはその広告若しくは取引に用いる書類若しくは通信にその商品の原産地、品質、内容、製造方法、用途若しくは数量若しくはその役務の質、内容、用途若しくは数量について誤認させるような表示をし、又はその表示をした商品を譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸出し、輸入し、若しくは電気通信回線を通じて提供し、若しくはその表示をして役務を提供する行為」を「不正競争」の一つと定めています(不正競争防止法第2条第1項第20号)。
不正の目的をもってこのこの不正競争を行った者は、5年以下の懲役若しくは500万円以下の罰金に処し、又はこれを併科されます(不正競争防止法第21条第2項第1号)。
法人の代表者や従業者等が法人の業務に関してこの違反行為をした場合、法人も3億円以下の罰金刑を科されます(不正競争防止法第22条第1項第3号)。

不正競争防止法違反についてはこちらでも解説しています。

まとめ

このように、産地偽装をすると犯罪になり、企業も責任を問われます。産地偽装でお悩みの方は、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所へご相談ください。

お問い合わせはこちらのフォームから,またはお電話(03-5989-0893)までどうぞ。

« Older Entries

keyboard_arrow_up

0359890893 問い合わせバナー 無料相談・初回接見の流れ