Archive for the ‘不祥事・危機管理’ Category
お正月のお餅を詰まらせて利用者の方が亡くなった業務上過失致死事件|施設を運営する法人はどのような責任を負う?
【事例】
A社は介護施設事業を行っており複数の老人介護施設を運営・管理していました。
A社が運営・管理を行っている施設の1つであるB園において、この度誤嚥事故が発生し、利用者の1人であるCさんが亡くなってしまいました。
A社が原因を調査したところ、B園では、被害者であるCさんの嚥下能力に問題があることを把握しながら漫然とのどに詰まりやすいお餅を出していたこと及び食事の際に職員がCさんの様子をよく確認していなかったことが明らかになりました。
またA社では、誤嚥のおそれのある場合の対応についてマニュアルなどが整備されておらず職員個人の判断に任せられていたことも明らかになりました。
事故後Cさんのご遺族からは責任の所在を明らかにしてしかるべき賠償をするように求められています。
A社の代表は今後とるべき対応や手続きの流れをあいち刑事事件総合法律事務所に相談しました。
(事例はフィクションです)
誤嚥事故について
誤嚥事故とは事例で挙げたように、誤って喉に食べ物などを詰まらせてしまう事故のことをいいます。
特に嚥下能力が加齢に伴って低下する高齢者が誤嚥を起こすケースが多く、また年末年始には毎年全国で餅を積まれせて緊急搬送されるケースが多く報道されています。
参考 食品による窒息事故
誤嚥事故が発生した場合には民事事件、刑事事件の双方で問題になる可能性があります。
民事事件は主に事故によって生じた損害賠償の問題になります。
誤嚥事故で施設側の過失が認められるかどうかについては、法律的にも難しい点で裁判で争点になることも多いです。
誤嚥事故に関する裁判例については次回の記事で紹介します。
刑事事件としては業務上過失致死傷罪の成立が問題になるケースがあります。
介護中の誤嚥事故について施設側や対応した従業員不注意の程度が大きいケースや悪質なケースでは刑事事件の対象となることもあります。
刑事事件については業務上過失致死傷罪が成立するかが問題となります。
誤嚥事故と業務上過失致死傷事件について
次に誤嚥事故の際に問題になりうる業務上過失致死傷罪について解説していきます。
業務上過失致死傷罪については刑法211条に定めがあります。
刑法211条(業務上過失致死傷等)
業務上必要な注意を怠り,よって人を死傷させた者は,5年以下の懲役若しくは禁錮又は100万円以下の罰金に処する。 重大な過失により人を死傷させた者も,同様とする。
誤嚥事故で業務上過失致死傷罪が成立するかどうかについて、問題となる点については大きく分けて2点があります。
1点目は、誤嚥事故が発生したことについて「業務上必要な注意を怠った」といえるか、すなわち過失があるかという点です。
2点目は、被害者の方が負傷した又は亡くなったことと、1点目の過失との間に因果関係があったのかどうかという点です。
因果関係についてもう少し分かりやすく説明しますと、誤嚥事故が起きたことが原因になって被害者の方に負傷結果や死亡結果が発生したかということです。
例えば被害者の方が死亡したことが、誤嚥以外の理由例えば心臓発作によるものであれば、誤嚥と死亡結果との因果関係は否定されます。
施設側として特に問題になるのは1点目の過失が認められるかどうかです。
施設で実際に利用者を介護する職員に注意義務が認められるのは当然ですが、施設の管理者に求められる注意義務もあります。
例えば施設の管理者としては、誤嚥防止のためにマニュアルを作成し職員に指導を行う、誤嚥がないかしっかりと確認するために十分な職員の配置を行うなどが一般的に義務付けられているといえます。
これを怠った結果、誤嚥事故が発生した場合には施設を管理。運営する立場の法人の責任者に業務上過失致死傷罪が成立する可能性があります。
誤嚥事故が起きてしまった場合に求められる施設側の対応
①事実調査
誤嚥事故が発生してしまった場合には、まず社内で原因の究明を行うために丁寧な調査を行う必要があります。
当事者がどのような対応をしていたのか、マニュアルはどうなっていたのか、事故を目撃していたのは誰かなど事故の原因を究明するための調査を行う必要があります。
調査は事故後なるべく早い段階で行う必要があります。
そして可能であれば、調査は職員のみで行うのではなく、弁護士などの第三者も入れて置こうなう方がその後の調査結果の説明や刑事事件の捜査への対応も考慮すれば望ましいといえます。
これは調査の透明性や公正さを確保するためです。
②被害者側への対応
誤嚥事故による被害が発生した場合には、その当事者や関係者の方にしかるべき対応をとることが必要になります。
施設側に明らかに過失がある場合には早期に賠償などの交渉を行って事態の深刻化を避けるべきであるといえます。
賠償を行うべき事案かどうか、賠償額はいくらが妥当かについては法律的に高度な問題を孕みます。
これについても施設の関係者のみで行うのではなく弁護士などの法律の専門家に相談して間に立ってもらうことが望ましいといえます。
特に被害者の方が亡くなっている場合については、ご遺族の被害感情が峻烈であることが予想されますので当事者同士で対応すれば感情的になり問題が深刻化することが予想されます。
示談交渉に精通した弁護士に依頼することをおすすめします。
③再発防止策の策定
誤嚥事故が発生してしまった場合、特に亡くなった方が出るなど結果が重大である場合には、事故が報道される場合もあります。
報道される場合には施設名が実名で報道されることもしばしばあります。
そうなってしまった場合には、信頼回復のために再発防止策を策定する必要があります。
実効的な再発防止策については、先述した事実調査の結果を基に、介護に関する専門的見地に加え、過失判断などの法律的見地に基づいて策定することが望ましいです。
今回は残念ながら誤嚥事故が発生してしまったケースに即して、誤嚥事故で問題になる点や誤嚥事故後の対応について解説してきました。
当然ですが、事故が起こらないようにするため、万が一の事故の場合にも施設側が負うリスクを低減するためには事前の対策が重要です。
事前の対策の準備としては、過去の裁判例も踏まえて、施設として普段から十分な注意義務を果たしておく態勢を維持しておくことが重要です。
そこで別の記事では、誤嚥事故に関する裁判例については改めて解説させていただきます。
労働者の労働環境とその違反に対する企業の責任
企業は労働者に対する安全配慮義務を負っています。一方で、企業と労働者の力関係の差を解消するため、憲法は労働者の権利を保障しており、労働基準法などでも労働者の権利を保障しています。この違反が甚だしい場合、犯罪となることもあります。
参考:パワハラや長時間労働など、働く上での悩みについて、無料で相談を受け付ける「全国一斉集中労働相談ホットライン」を実施https://news.yahoo.co.jp/articles/f185669740bb357a4787d8f32c39666a49ed912d
ここでは、企業が労働者の権利を保障しなかった場合に成立する犯罪について解説します。
長時間労働
使用者は、労働者に、休憩時間を除き一週間について40時間を超えて、労働させてはなりません(労働基準法第32条第1項)。また、使用者は、一週間の各日については、労働者に、休憩時間を除き一日について8時間を超えて労働させてはなりません(同条第2項)。休憩についても、使用者は、労働時間が6時間を超える場合においては少くとも45分、8時間を超える場合においては少くとも1時間の休憩時間を労働時間の途中に与えなければなりません(同法第34条第1項)。また、使用者は、労働者に対して、毎週少くとも一回の休日を与えなければなりません(同法第35条第1項)。これらに違反した場合、6月以下の懲役又は30万円以下の罰金に処されます(労働基準法第119条第1号・第32条)。もっとも、労働時間と休日に関しては、労働組合や労働者の代表と書面により協定(36協定)を交わし届け出すれば、その協定で定める範囲内であれば労働時間を延長し、又は休日に労働させることができます(同法第36条第1項)。この協定で定める範囲内であれば法律違反ではなく、刑罰も課されません。
これらの労働基準法などに違反した代理人や従業者が罪に問われた場合、事業主も同様の罰金刑を科されます(労働基準法第121条第1項)。
パワハラ
労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する(パワハラ防止法)では、「労働に関し、その政策全般にわたり、必要な施策を総合的に講ずることにより、労働市場の機能が適切に発揮され、労働者の多様な事情に応じた雇用の安定及び職業生活の充実並びに労働生産性の向上を促進して、労働者がその有する能力を有効に発揮することができるようにし、これを通じて、労働者の職業の安定と経済的社会的地位の向上とを図るとともに、経済及び社会の発展並びに完全雇用の達成に資することを目的」としています(第1条第1項)。この法律の「第9章 職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して事業主の講ずべき措置等」において、雇用管理上の措置等について定めています(第30条の2)。同条第1項では「事業主は、職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であつて、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものによりその雇用する労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。」と定めています。
この違反そのものについては、罰則は定められていません。
しかしながら、企業はこのような措置義務を負っているのですから、悪質なパワハラを放置していて、結果従業員が死亡した場合は、業務上過失致死罪(刑法第211条)に問われる可能性があります。
そもそも労働者か
以上のように、労働者に対しては労働時間や休日の確保、労働環境保護のための措置が必要であり、企業がこれに反すれば、最悪刑罰を科されます。
一方で、これらは労働者に対するもので、業務委託契約の受託者など、企業の外部の者には適用されません。
しかしながら、形式的には「業務委託」であっても、その実態が「労働者」であれば、その者は「労働者」として保護され、長時間労働などがあれば企業が責任を負うことになります。労働者であるかどうかは、指揮監督のもとで労務の提供をしていたかどうかを重視して判断されます(平成17年6月3日最高裁第二小法廷判決等)。
おわりに
以上のように、労働者の労働環境について、企業は注意する必要があります。
労働法違反防止のためのコンプライアンス整備、内部通報窓口の設置・運用など、企業の不正防止にお悩みの方は、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所へご相談ください。
HPの方はお問い合わせからどうぞ。
お電話の方は03-5989-0893までお問い合わせください。
営業部門の不正行為を防止するためには?
(事例はフィクションです)
健康器具を扱うA社では、最近ヒット商品があり、売上高が大きく伸びていて、A社の営業マンであつたBさんも他の営業マン同様に売り上げ伸ばしていた。Bさんは、もともと競馬好きなど遊興費に金を使うことが多かったが、売り上げ増と相まって、更に遊興費が増え、そのうち売掛金を回収した金の一部を遊興費に充てるようになった。最近になって、税務調査が入り、取引先への反面調査の結果、売掛金残高について、取引先が把握している残高との間に差異が認められた。そこで、Bさんに問いただしたところ、Bさんは、約500万円の遊興費への使いこみを認めた。
中小企業において、集金した売掛金を着服することはよくみられる事例です。
そこで、今回は、営業部門に関する不正事例として、今回は売掛金の一部を入金せずに私的に使い込んだ事例を取り上げ、営業担当者の横領行為を事前に防止する手段についてあいち刑事事件総合法律事務所が解説します。
Bさんには何罪が成立するか
Bさんについては、業務上売掛金の一部を横領していますので、業務上横領罪が成立します。
不正を事前に防止する施策
チェック体制の整備
営業担当者が集金も行う場合、売掛金の回収までの取引の全てをその営業担当者が管理することになり、不正の温床になる危険が高まります。本件のように、会社の売上げが全体的に大きく伸びているときには、売上金の回収に係る不正を全体の数字から発見することはますます困難になります。
そこで、営業担当者の横領行為を事前に防止するためには、そもそも売掛金の状況に日頃から目を光らせておくことが重要です。たとえば、社内の経理担当者が日頃から各営業担当者の売掛金に目を光らせておけば、特定の営業担当者のみ異常に高い売掛金(未回収の売掛金)を抱えているという事実が見えてきて、着服の事実を疑うことが可能になります。この点、売掛金の管理は、1人の担当者ではなく、複数の担当者の目に触れる体制を整えておくことも重要です。
売掛金の相手先に、定期的に残高確認を行うこと
売掛金の相手先は、代金を支払う立場ですので、いつ支払ったか、いくら支払ったか(残高がいくらか)等について、正確に答えてくれるのが通常です。そのため、中間期末時や決算期末時に相手先に残高確認を行うことは大変有効であり、営業担当者が回収金の着服をしにくくなります。
連番で領収書を管理すること
営業担当者が売掛金を現金で回収する際には、必ず領収書を発行します。
領収書については市販のものではなく、自社独自の領収書を使用し、かつ、連番を打つことが重要です。横領が行われる場合、その事実を隠蔽するため当該営業担当者が、自作の領収書を作成して取引先に渡していることも多いからです。
このように領収書を管理するだけでも、回収金の着服は相当程度防げると思われます。
最後に、Bさんは今後どうなるか
Bさんについては、横領しているため、会社としては懲戒解雇が検討されることになります。着服金額の回収が容易にすすまないなどの場合には、捜査機関に対して刑事告訴するか否かも検討することになるでしょう。
また,ある程度の規模の事業者内での不祥事の場合には,第三者委員会を設置して調査を行うこともあります。
参考:30代男性職員が約9200万円横領で JAおちいまばりが第三者委員会を設置【愛媛】
不祥事を起こした社員に退職を求めることができるのか①
【事例】(解説のためのフィクションです)
Aさんは、福岡市早良区で、輸送用機械の部品を製造している会社、X社を営んでいます。
X社は、常時20人の従業員を雇っています。
Bさんは、このX社の従業員で、営業の仕事をしています。
ある土曜日の夜、Bさんは、休みだったので友人と福岡市内の繁華街にお酒を飲みに行っていました。
休みではあったのですが、ちょうどよいからと、BさんはX社のロゴの入ったジャンバーを羽織って出かけていました。そして、Bさんはお酒を飲み過ぎてしまい、隣でお酒を飲んでいた男性客Cさんと口論になってしまいます。
怒りを抑えられなかったBさんは、Cさんの顔面を殴り、地面に倒れたCさんに馬乗りになって何度も殴り続けました。その様子を見た店員が警察に通報し、駆けつけた警察官はBさんを現行犯逮捕しました。
この際、たまたまお店に居合わせた別の客であるDさんは、BさんがCさんに馬乗りになって殴り続けている様子を、Bさんの背中側から動画撮影し、SNS上にアップロードしてしまいました。
もちろん、この動画には、Bさんが着ていたジャンバーにあしらわれたX社のロゴが映っています。
翌朝、Bさんの名前やX社の名前こそ伏せられていたものの、Bさんが事件を起こしたというニュースが新聞で報道されてしました。Bさんが出勤しておらず、報道で流れた情報がBさんと一致していたことから、この事件の犯人がBさんと察しがついたAさんは、Bさんの家族を問い詰め、Bさんが傷害事件で逮捕されているという事情を把握しました。
また、X社の取引先であるY社からは、DさんがアップロードしたSNSを見たとして会社に連絡が来てしまいました。
会社への影響を考えたAさんは、Bさんを解雇したいと考え、解雇しても問題がないのか、もしも問題があるのなら、今後の似たような事態に対応するにはどうしておけばいいのかを、あいち刑事事件総合法律事務所に相談することにしました。
解雇権の行使と,その濫用
まずは,会社による解雇を行うための手続きや関連する労働関連法規について取り上げます。
端的に言って、会社にとって従業員を解雇するハードルは高いといえます。
労働契約法には、「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする」と定められています(労働契約法16条)。
参考:労働契約法
つまり、会社側(使用者側)は、従業員をいつでも自由にやめさせるということはできず、社会の常識と照らし合わせて、解雇が相当だといえるような理由がなければ、やめさせることはできません。
解雇予告
また、解雇に合理的な理由があるとしても、一定の場合を除き、従業員をすぐに解雇することはできません。
労働基準法には、会社側(使用者)が従業員を解雇する場合は、「少くとも三十日前にその予告をしなければならない。三十日前に予告をしない使用者は、三十日分以上の平均賃金を支払わなければならない」とされています(労働基準法20条1項本文)。
つまり、30日以上前に解雇にすると従業員に伝えるか、30日を待たずに辞めさせたいのであれば、その代わりに30日分以上の給料を支払うかしなければ(このお金のことを「解雇予告手当」といいます。)、従業員をやめさせることはできないのです。
もっとも、「天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となつた場合」や「労働者の責に帰すべき事由に基いて解雇する場合」は除くとされています(労働基準法20条1項ただし書)。
就業規則への記載
ある一定規模以上の会社は,就業規則を定めねばならず(労働基準法89条柱書前段)、就業規則の中に解雇事由も定めねばなりません(労働基準法89条3号かっこ書)。会社としてルールを定めるのであれば,その内容が周知されていなければならないからです。この点については、また別の記事で解説します。
このように、従業員が不祥事を行い、会社としてその従業員を解雇したいと思っても、解雇するのは法律上のルールをクリアする必要があります。
また、法律上のルールをクリアするためにも、会社として事前に行っておくべきこともあります。
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所では、刑事事件に関わってきた経験を活かし、会社内で不祥事が起こった場合の対応・アドバイスにも力を入れています。
会社としての不祥事対応へのアドバイスをご希望の方は、一度、あいち刑事事件総合法律事務所にご相談ください。
従業員の横領を未然に防ぐには?不祥事の再発防止策
(事例はフィクションです)
雑貨店の経営をしていたAさんは、レジのお金や商品の在庫の数を整理するための記録をつけていました。あまりに業務が多い場合にはついつい記録を忘れてしまったり、どこかで計算ミスが起きてしまったもののどこから間違っているのか解らなかったりする場合もあります。
ある時、従業員のBが、商品の売上金1万円を着服していることが解りました。着服の方法は、商品が返品されていないのに返品されたことにして、売上記録を勝手に抹消し、売上金1万円をお客さんに返したことにして実際には自分の財布に入れていたというものです。
その他に帳簿が合わないことが度々あったため、Aさんは、Bさんの着服問題について弁護士に依頼し、経理関係の書類の不備に四苦八苦しながらも、ひと段落といきました。
とはいえ、また同じようなことが起こると困るのでAさんは、今後の再発防止等のために何かできないか考えています。
この事例をもとに、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所であれば、どのようなサポートをAさんにして差し上げられるか、解説します。
なお、Bさんのような従業員の着服問題への対応については、以下の記事も併せてご覧ください。
不祥事の再発防止策
一旦従業員の犯罪行為が発覚したら、再発防止策を取ることは色々な点で有益です。そして、一見すると再発防止策を取ることは簡単なように思えます。
Aさんの事例の場合、経理関係の書類に記録漏れや計算ミスがあったことも着服を発見困難にしていた原因の一つと言えるでしょう。ですから、「経理関係の書類にミスがないよう徹底する」ことは再発防止に有効ですが、そうは言っても、どうすればミスがないようにできるか、ミスがないようにする案を思いついても、それを継続的に実行できるかは別問題です。
犯罪心理学では、従業員の横領といった不正が行われる要因として「不正を働く機会」「不正を働く動機・プレッシャー」「不正を働く姿勢・正当化」があるとされています(不正のトライアングル)。
もしAさんから継続的な顧問の依頼を受けた場合、弁護士としては、不正のトライアングルをもとにAさんの会社の問題点を指摘しつつ、現実的な解決策を考えていくことになります。
例えば、今まではBさんだけがお金の管理をしている状況だったという場合には二人以上の経理担当者を置くようにすることで、経理ミスの可能性を低減させたり、Bさんがお金を着服してもバレないような体制を解消したりするよう、現実的で実行可能なアドバイスをすることになるでしょう。どのようなアドバイスをするかは、会社の状況をじっくり見て、どこに問題があるか、どこをどう変えたら解決できるか一緒に考えていくことになるでしょう。
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所には、簿記の資格を有する弁護士はもちろん、経理関係の業務や会社運営の顧問に精通した弁護士が在籍しており、一定のクオリティを持ったアドバイスをさせていただきます。
こういった専門的な弁護士や実績のある弁護士のサポートをご希望の場合には、ぜひ弊所に一度ご相談ください。
パワハラ行為による民事的,刑事的責任
事例はフィクションです。
A社の営業部長Bさんの部下であるCさんは最近元気がありません。そこで、社長がCさんに声をかけると、Cさんは、「B部長からは、いつも意地悪をされたり、暴言を吐かれ、ときには大声で怒鳴り散らされるなどのパワハラを受けている。A部長の下ではもう働きたくない。」と言ってきました。
パワハラとは
パワハラとは、2012年1月に公表された、政府の「職場いじめ・嫌がらせ問題に関する円卓会議ワーキング・グループ」の報告書によれば、「同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為をいう。」とされています。
パワハラについては、一般的には民事の損害賠償請求の形で落ち着くことが多いのですが、刑事事件に発展する場合もあります。
すなわち、相手に対して、殴る、蹴るなどの暴力行為を伴うものであれば、暴行罪に当たることは当然ですが、傷害罪における傷害行為は、人の生理的機能に対して障害を与えればよいとされています。人の生理的機能に対して障害を与えれば、それが肉体的なものではなく、精神的なものであっても、傷害罪が成立しうることになるのです。
例えば、何度も大きな声で怒鳴る、執拗にねちねちと小言を言うなどの行為により、部下が精神障害を起こして診断書が提出されれば、上司が傷害罪に問われるおそれもあります。
事例のBさんの行為も、Cさんから診断書が提出されれば傷害罪に問われる可能性がありますので注意が必要です。
パワハラ・セクハラについてはこちらでも解説をしています。
会社としてどう対処すべきか
加害者に対する処分
A社は、パワハラの事実が確認できた場合には、加害者に対する懲戒処分を検討することになります。懲戒処分を科す場合には就業規則に則って対応をしなければなりません。就業規則に沿わない処分や不当に重い処分をしてしまうと、裁判で無効と判断されることもあります。
会社に生じる責任について
パワハラは、あくまでも会社に所属する個人が行うものです。そこで、すでに説明したような刑事責任を、所属先であるA社が問われることはありません。
しかし、民事責任については、A社にも生ずる場合があります。
たとえば、事例のパワハラの事例で、Bさんが、会社における仕事を行うに際して(法律上は「事業の執行について」といいます。)、パワハラ行為を行っている場合、A社も、Cさんに生じた損害を賠償する責任(使用者責任といいます。)を負う場合があります。
また、A社でパワハラがあった場合において、事前に、相談できる職場環境を整えたり、事後的に、パワハラ被害の申告があったにもかかわらず、これを放置し、何ら調査を行わなければ、A社自身が民事責任を負うことになる可能性があります。
さらに、会社にてパワハラがあった場合において、たとえば、事例におけるBさんが傷害罪で逮捕され、Bさんの実名や、BさんがA社の従業員であることが報道されてしまうと、会社の信用にも関わり、取引先への影響などが生ずる可能性があります。
以上のように、会社内でパワハラ行為があったことが発覚した場合、様々な対応をする必要があり、適切に対応していくのであれば、弁護士のサポートが必要になってくることが考えられます。早期に弁護士に相談した方がよいでしょう。
食中毒騒ぎが起きた場合に会社や経営者は刑事罰を受ける可能性があるの?
【事例】
A社は京都府上京区において、お弁当を製造する店舗を営んでいました。
今月になって、A社が製造するお弁当を食べた消費者数十名が嘔吐や腹痛などの症状を訴えて入院するという事態がSNSを中心に広まりました。
そこで、京都市の保健所がA社に立ち入り検査を行ったところ、A社のお弁当の製造過程に食中毒の原因があったと断定しました。
A社では以前から経費削減のために消費期限を徒過した腐りかけの肉や魚などをお弁当に使用するということが常態化していたということでした。
A社の代表取締役であるBさんは保健所の担当者から刑事事件になる可能性があると言われました。
あわてたBさんは、刑事事件に精通したあいち刑事事件総合法律事務所の弁護士に相談をしました。
食中毒騒ぎによる会社への深刻な影響
最近某洋菓子による食中毒問題が報道やネット上で大きな問題となっています。
現在ではSNSの発達により誰でも情報発信を行うことができるので、食中毒は大きな社会問題に発展しやすい状況になっています。
飲食業に携わる企業にとっては食中毒騒ぎは会社のイメージに深刻な影響を与えますので、対策に十分に留意する必要があることは大前提になっています。
ところで食中毒が発生した場合には、営業停止などの行政処分や、被害者からの損害賠償請求などの民事事件の問題になるというイメージを多くの方が抱いているのではないでしょうか。
しかしながら食中毒騒ぎが発生した場合にはその原因となった企業や企業の経営者が刑事責任を負う場合もあります。
数年前に大きく問題となった、焼き肉店で生肉を使用した商品による集団食中毒が発生し、それが原因で死亡者も出た事件では、焼き肉店を運営する会社に業務上過失致死傷罪の容疑で家宅捜索が入ったことが大きく報道されています。
その後、同容疑で同社の経営者らが業務上過失致死傷罪の容疑で書類送検されたと報道されました(結果は不起訴だったようです)。
このように、大規模な食中毒事件が発生した場合、刑事事件化して大々的に報道される場合があります。
仮に会社の代表取締役が刑事事件により禁錮以上の刑に処せられた場合には、取締役の地位を失い経営に影響が出ることも予想されます。
また、会社としても食品衛生法違反によって刑事罰を受ける場合が規定されています。
以下では、食中毒騒ぎによって会社や経営者が刑事罰に問われる場合にはどのような場合があるのか、またそれを防止するために、早期にできる対応にはどのようなものがあるのかを解説していきます。
食中毒騒ぎで予想される刑事罰
①食品衛生法違反
食中毒が起きた際に問題となる法律として最初に思い浮かぶのが食品衛生法なのではないでしょうか。
食品衛生法6条には次のような規定があります。
食品衛生法6条
次に掲げる食品又は添加物は、これを販売し(不特定又は多数の者に授与する販売以外の場合を含む。以下同じ。)、又は販売の用に供するために、採取し、製造し、輸入し、加工し、使用し、調理し、貯蔵し、若しくは陳列してはならない。
1 腐敗し、若しくは変敗したもの又は未熟であるもの。
ただし、一般に人の健康を損なうおそれがなく飲食に適すると認められているものは、この限りでない。
2 有毒な、若しくは有害な物質が含まれ、若しくは付着し、又はこれらの疑いがあるもの。
ただし、人の健康を損なうおそれがない場合として厚生労働大臣が定める場合においては、この限りでない。
3 病原微生物により汚染され、又はその疑いがあり、人の健康を損なうおそれがあるもの。
4 不潔、異物の混入又は添加その他の事由により、人の健康を損なうおそれがあるもの。
本件の事例のケースでは、消費期限の徒過した食品を使用していたということであり、食品衛生法6条1項の規定に違反していることが明らかです。
そして食品衛生法6条に違反する行為をしていた場合には、「3年以下の懲役又は300万円以下の罰金」に処せられることになります(食品衛生法81条1項1号)。
また法人の業務として違反行為がなされていた場合には、法人に「1億円以下の罰金刑」が科される場合があります(食品衛生法88条1号)。
先ほどの事案でも、消費期限を徒過していた食品を使用することが常態化していたようですから、法人としても食品衛生法違反により刑事罰を受ける可能性があるといえます。
また,刑事罰とは別に行政による処分(指導や違反事例としての公表,各都道府県HPや厚労省HP上で公表される)があり得ます。
食品衛生法についてはこちらのページでも解説しています。
②業務上過失致死傷罪
食中毒が発生した場合には、問題の責任者が業務上過失致死傷罪に問われる場合もあります。
業務上致死傷罪は刑法211条に規定があります。
刑法211条
業務上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた者は、5年以下の懲役若しくは禁錮又は100万円以下の罰金に処する。
重大な過失により人を死傷させた者も、同様とする。
この刑法211条の前段が、業務上過失致死傷罪と呼ばれる犯罪の規定です(後段は重過失致死傷罪という犯罪です。)。
業務上過失致死傷罪の「過失」とは簡単に言えば、「不注意」と言い換えることができます。
食中毒の事例であれば、食品を扱う者として当然気を付けなければならないことへの注意を怠っていれば過失があると判断されます。
本件の事例であれば、お弁当を製造する業者として消費期限と徒過していない衛生面に問題のない食品を使用することは当然の責務であるといえるので、それを怠っていた場合、過失が認められる可能性は高いといえます。
なお業務上過失致死傷罪に法人を処罰する規定(両罰規定)はないので、同罪により法人が処罰されることはありません。
食中毒騒ぎで刑事事件化を防ぐためには
先ほど見たように会社の管理体制の問題で食中毒騒ぎが起きた場合には、法人や経営陣が刑事罰を受ける可能性があることを説明させていただきました。
その一方で、報道される食中毒事件の多くは営業停止などの行政処分を科されるのみで、刑事事件まで発展していることは少ないように思います。
当然問題の規模や悪質性によるところもあるでしょうが、事後的な対策により刑事事件になるリスクを下げることはできるでしょうか。
以下では食中毒騒ぎが発生した場合に事後的に取りうる対策を紹介させていただきます。
①被害者に対する示談交渉
食中毒問題では、実際に食品を口にした被害者の方がいます。
被害者の方は苦しい食中毒の症状で苦しんでおられますし、最悪の場合死に至るケースもあります。
まずはこの被害者の方に対して、真摯に謝罪をして誠実に被害の賠償を行う必要があります。
謝罪や賠償の交渉を行う場合、当事者が直接行えば感情的になり却ってトラブルを大きくする可能性がありますので第三者である弁護士が間に立って交渉を進めていくことをおすすめします。
仮に賠償の要求があるにもかかわらず、被害者からの連絡を無視するなど誠実な対応を行っていない場合には、悪質性が高いと判断され刑事事件化するリスクが高くなるといえます。
②再発防止策の策定
食中毒騒ぎが確認された場合、まずはこれ以上問題が拡大しないことに全力を注ぐべきです。
問題の責任があることを認めずに、営業停止処分が下されているにもかかわらず営業を継続してしまえば、営業禁止処分の違反として別途食品衛生法違反(営業の禁止)が成立します。
こうなれば刑事罰の対象になるほか、行為の悪質性が高いとして責任者が逮捕されてしまう事態に発展することもあります。
ですのでまずは、科された行政処分には誠実に従ってください。
その上で、再発防止策を企業内で策定し、同様の事態が起こる可能性がないことを理解してもらう必要があります。
このような再犯防止策を策定する際には、内部の人間だけではなく第三者である弁護士も関与することでより客観性のある対策の策定が可能性になります。
以上のように、食中毒騒ぎが発生してしまった場合、問題の鎮静化を図るために早期に弁護士に相談し、対応を依頼することは非常に有用です。
是非早い段階で、刑事事件に精通したあいち刑事事件総合法律事務所の弁護士にご相談ください。
横領の被害申告
(事例はフィクションです)
雑貨店を経営しているAさんのお店では、レジのお金や商品の在庫の数を整理するための記録をつけておりますが、あまりに業務が多い場合にはついつい記録を忘れてしまったり、どこかで計算ミスが起きてしまったもののどこから間違っているのか解らなかったりする場合もあります。
従業員のBは、商品の売上金1万円を着服していることが解りました。着服の方法は、商品が返品されていないのに返品されたことにして、売上記録を勝手に抹消し、売上金1万円をお客さんに返したことにして実際には自分の財布に入れていたというものです。
Aさんは、とりあえずその1万円は返してもらいましたが、実際にはもっと着服をしているのではないかと疑っています。しかし、レジのお金や商品の在庫の記録が不正確なこともあるので、どうやって過去の着服を突き止めることができるのか、全く解りません。そこで弁護士に相談することを考えています。
この事例をもとに、弁護士が、どのようなサポートをAさんにして差し上げられるか、解説します。
弁護活動の内容
今回の事例のような着服は、よくある方法です。同じような被害にあった経営者の方も少なくないのではないでしょうか。
参考:レジ金窃取事案における窃盗と業務上横領の違いについて
もし、このような相談を受けた場合の対応としては、まずAさんから会社の経理関係の書類を預かって、お金の流れを追っていくことになります。いつからの経理関係書類をお預かりするかは、弁護士とAさんで相談して決めることになるでしょう。
そして、余罪が疑われるポイントを探していくことになります。例えば、異常に返品の数が多いような場合です。また、少なくともこの時期の記録は正確だと言える根拠があれば、在庫の数とレジのお金が合わないと言いやすくなってきます。これら経理関係書類のチェックは、大変に根気のいる作業なので、会計に精通した弁護士と細かく根気強く打合せをしていくことが大事です。
そして一定の証拠が揃った段階で、警察に被害届や告訴状、つまりBさんに対する捜査や処罰を求める書類を提出することになります。一般の方が告訴状を準備するのは一苦労なので、書類の作成技術の高い弁護士に依頼するメリットも大きいです。
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所の強み
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所には、簿記の資格を有する弁護士はもちろん、会計検査院や検察庁で勤務した経験がある弁護士が在籍しています。また、犯人側の立場から、お金の流れを徹底的に追っていったことが決め手となって、無罪判決を獲得した弁護士も在籍しています。
こういった専門的な弁護士や実績のある弁護士のサポートをご希望の場合には、ぜひ弊所に一度ご相談ください。
ご相談はこちらからも問い合わせ可能です。
従業員の薬物所持が疑われる場合の誤った会社の対応
【事例】
Aさんは、もともと警察官をしていましたが、現在は通信事業を営むX社のコンプライアンス部で課長の職に就いています。
ある日、Aさんは、Ⅹ社の従業員であるBさんが、日常的に違法薬物を使っているらしいという噂を耳にしました。
そこで、Aさんは、X社の規定に則り、Bさんに対して聴き取り調査を行うことにしました。
Bさんは聴き取りで、日常的に大麻を使用していた事実を認め、会社にあるBさんの机の引出しに隠して所持していた大麻をAさんに提出しました。
Aさんは、警察官をしていた経験から、Aさんが提出したのが実際に大麻の可能性が高いと考えました。
しかし、Aさんは、X社の株主総会が1月後と間近に迫っていたこともあり、警察に大麻を提出したらX社に捜索差押え(いわゆる家宅捜索)が入ったり、Bさんが逮捕されたりして、その事実が報道されてしまうのではないかということを心配しました。
そのため、警察への提出は株主総会後にし、それまでは自分が大麻を厳重に保管する方がいいのではないかと、Bさんから提出を受けた大麻を直ぐに警察に提出することを躊躇してしまいました。
Aさんは、X社の上司とも相談して、どのように対応すべきかをあいち刑事事件総合法律事務所に相談することにしました。
(事例はフィクションです)
Bさんに成立する犯罪
Aさんの見立て通り、Bさんが提出したのが違法な大麻だったとします。
違法な大麻を所持していたBさんは、「大麻を、みだりに、所持」したということになりますから、大麻取締法違反となり、「営利の目的」などがなく、有罪となれば5年以下の懲役という刑罰を受ける可能性があります(大麻取締法24条の2第1項)。
また、一般論としては、大麻取締法違反のように薬物事件が疑われる場合、被疑者(いわゆる容疑者)の捜査は、逮捕などをしてされることが多いといえます。そして、薬物を隠していた場所に対しては、捜索差押え(いわゆる家宅捜索)が行われる可能性が高いといえます。
そのため、Aさんが懸念していたとおり、警察がBさんに大麻取締法違反の疑いがあるとして捜査を開始した場合、Bさんが逮捕されたり、X社のBさんの机について捜索差押え(いわゆる家宅捜索)が行われたりする可能性は充分にあるでしょう。
どの対応が間違えていたのか?
しかし、Bさんが提出した大麻を、Aさんが保管することには大きな問題があります。
場合によっては、Aさん自身が罪に問われる可能性もあります。
⑴ 大麻取締法違反
まず、元警察官とはいえ、X社の株主総会が終わるまでの期間中、AさんがBさんから提出を受けた大麻を保管・所持して良い理由はありません。そうすると、Bさんから大麻の提出を受けてから、株主総会が終わって警察に提出するまでの約1カ月間、これは大麻の可能性が高いと思いながら、大麻を所持していたわけですから、保管していたAさん自身が大麻取締法違反として捜査を受け、処罰される可能性があります。
大麻の単純所持事案については,弊所解説記事もご覧ください。
⑵ 証拠隠滅罪
少し事情が変わって、Bさんに大麻を売ったCさんが警察に逮捕され、その捜査の過程で大麻を買った人物としてBさんが浮上し、警察からX社に問い合わせがあったとします。
それにもかかわらず、Aさんが何かと理由をつけて、Bさんから提出を受けた大麻を提出しなかったり、隠したりしたとします。
この場合のAさんの行為は、Bさんという「他人の刑事事件に関する」大麻という「証拠を隠滅」したといえますから、証拠隠滅罪に問われる可能性があります(刑法104条)。
従業員が犯罪行為によって逮捕,検挙されてしまった場合の対応についてはこちらもご覧ください。
このように、従業員が不祥事を行い、会社のためと思ってした行為であっても、許されない行為はありますし、場合によっては犯罪に当たってしまう可能性もあります。
そのような事態を回避するためには、刑事事件の視点から対応を考えることも重要です。
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所では、刑事事件に関わってきた経験を活かし、会社内で不祥事が起こった場合の対応・アドバイスにも力を入れています。
会社としての不祥事対応へのアドバイスをご希望の方は、一度、あいち刑事事件総合法律事務所にご相談ください。
会社内で発生した業務上横領事件への対応 加害者を刑事告訴をするべきですか?
【事例】
X社は製造業を営んでいる会社です。
X社の製造部の部長であるAさんは1年前から、管理を任されていた社内の物品を勝手に持ち出してフリマサイトで売却し金銭を得ていました。
最近になって物品の在庫と実際の数が合わないことに気付いたX社が調査をしたところ、Aさんの横領が発覚しました。
Aさんはこれまで転売により300万円の利益を得たこと、遊興費などでそのお金は費消してしまったこと、被害金額についてはこれから何とか分割して返していくから「刑事告訴だけはやめてほしい」と懇願してきました。
X社の担当者は、今後どのように対応するべきかあいち刑事事件総合法律事務所の弁護士に相談しました。
(事例はフィクションです)
今回は、上記の事例を用いて、自社で業務上横領事件が発生したことが明らかになった場合の対応についてあいち刑事事件総合法律事務所が解説します。
刑事告訴について
刑事告訴とは、警察や検察などの捜査機関に対して、刑事事件が発生したことを申告し、事件を捜査し、犯人を処罰することを求めることをいいます。
本件の事例において、刑事告訴をする場合には、「告訴状」をX社の所在する地域を管轄する警察署に提出することが通常です。
告訴状には、犯罪を構成する事実を記載する必要があります。
例えば事例のような業務上横領事件であれば、「いつ」「誰が」「どこで」「何を(時価総額もあれば望ましい)」「どのように横領した」という事実を特定して行うことが通常です。
また告訴の際には後述するように、犯罪が成立したことを立証するための証拠を可能な限り添付することで警察が告訴を受理し動いてくれる可能性が格段に高くなるといえます。
告訴を受理してもらい捜査を円滑に行うためには,事前の調査が重要
刑事告訴が受理された後は、取調べなどの捜査が行われることになります。
事件の内容や証拠の内容によっては加害者が逮捕されるリスクもあります。
事例のケースでは業務上横領による被害金額が100万円を超えているため実刑となる可能性もあるので、被害を立証するだけの証拠があれば逮捕される可能性の高い事件であるといえます。
そして捜査が進んで、最終的には検察官が証拠や加害者の言い分なども確認した上で起訴するか不起訴が決められます。
起訴された事件については裁判所で審理され、判決が出されて、判決が確定すれば刑事事件としては終了になります。
横領事件において刑事告訴をする場合のポイントは何か
個人的な利益の着服や物品の横流しといった横領事件は,企業内での不祥事として最たるものです。
刑事事件のうち,知能犯の中で見ても,詐欺・偽造につぐ認知件数があります。
参考:警察庁令和4年度版統計
①客観的な証拠の収集を行う
刑事告訴して実際に警察が動くためには、被害や犯行を裏付ける客観的な証拠が必要になります。
本件の事例であれば、
・保管していた物品の管理に関する記録
・Aさんが横領したこと及びその日時を裏付ける社内の防犯カメラ映像
・Aさんが被害品を転売したことを示す販売履歴等の記録や入出金履歴
・被害金額の使用に関する履歴
などが客観証拠として考えられます。
実際の被害事例において犯行を基礎づける証拠の判断には,専門的な知識と刑事事件に対する豊富な経験が必要になります。
また証拠は早期に確保しなければ、加害者による隠滅の恐れもあります。
したがって被害が発覚した場合にはなるべく早く、刑事事件に強い弁護士に相談されることをおすすめします。
②加害者本人に対する聴き取りを丁寧に行い、書面化しておく
加害者本人からの聴き取りも証拠収集の一環として重要な意味を持ちます。
客観的な証拠だけで立証が不十分な場合には、加害者が認めていることをもって証拠を補完する場合があります。
また事実を認めている場合や、賠償に関して応じる旨の話をしている場合には、それを上申書や誓約書といった形で残しておくことも重要になります。
この場合に、会社の担当者のみで聴き取りや書面の作成の指示を行えば、後から圧力をかけられて、無理やり誤った内容の書面を作成させられたと言われ、トラブルが複雑化する可能性もあります。
第三者の立場である弁護士などの専門家を入れて聴き取り調査を行うことが、トラブルの円満な解決には必要であるといえます。
社内調査活動についてはこちらのページでも解説をしています。
③警察の担当者と綿密に連携する
刑事告訴が受理されたと言ってもそれだけで安心してはいけません。
証拠の収集が不十分であったり、警察の方で優先順位が低くなったりすれば捜査が遅々として進まないこともあります。
弁護士が会社の窓口になって証拠の収集状況や取調べ状況についてこまめに確認し、必要であれば証拠の提出や作成などに協力することで捜査がスムーズに進むことにつながります。
刑事告訴を行うかどうかの判断
刑事告訴を行うことによるメリットには次のようなものが挙げられます。
・加害者に対し捜査機関による厳しい捜査が行われ、証拠の収集も容易になる
・会社の他の従業員に対し示しがつく
・警察が介入したことが加害者に対する圧力になり、賠償をする動機付けになる
その反面刑事告訴を行うことによるデメリットには次のようなものがあります。
・捜査協力をするために、会社が捜索の対象になるなど負担がかかる場合がある
・他の従業員にも事件が知れて話が大きくなるおそれがある
・加害者が逮捕された際に会社の名前が出る可能性がある
・逮捕や実刑判決により加害者の収入の当てがなくなり、却って賠償に支障が出る場合がある
刑事告訴を行うか、加害者への聴取を行った上で当事者間の賠償だけの問題とするのかについては社の方針も含め、以上のメリットとデメリットを慎重に検討し判断する必要があるかと思います。
当然、その判断の前提には証拠を収集し、関係者からの聴き取りを行って被害の全容の把握をすることも重要になります。
刑事事件に精通した弁護士であれば、豊富な経験を基に綿密に調査を行い、会社にとってどのようにすることが最善なのかアドバイスさせていただくことができます。
業務上横領が発覚した際の対応や事件の調査、またその後の刑事告訴に関する相談は、刑事事件に精通し、企業で起きた刑事事件の対応にも強いあいち刑事事件総合法律事務所に是非ご相談ください。