Archive for the ‘不祥事・危機管理’ Category

押収された会社所有のパソコンを返してもらえる? 押収物の還付請求について

2024-04-23

事例

A社は派遣業を営んでいました。A社では社員に対してパソコンを貸与しており、その中には派遣先の企業や登録者のデータが保存されていました。
A社の社員であるBさんは、通勤中の電車内でスマホを使用して盗撮を行っており、撮影したデータをあろうことか会社で貸与していたパソコンに保存していました。
Bさんは、ある日盗撮をしていた現場で現行犯逮捕されてしまいました。
その後Bさんが盗撮していた動画を会社で貸与されたパソコンに保存していたことを自白したため、A社に捜索が入りBさんに貸与していたパソコンを盗撮事件の証拠品として押収していきました。
Bさんは、その後勾留されずに在宅捜査に切り替わりましたが、それから2か月たっても証拠品であるパソコンは返却されないままでした。
A社の代表は、このままパソコンが返されなければ業務に支障が出るとして、あいち刑事事件総合法律事務所の弁護士に対応を相談しました。
(事例はフィクションです)

証拠品の返還を求める手続について

刑事事件があった場合に、証拠として物品を押収(捜査機関の手元に置いておくこと)することについては刑事訴訟法に根拠が書かれています。
そして、押収された証拠品の返還を求める手続きについても刑事訴訟法に規定があります。
このような押収された証拠品の返還を求める請求のことを、証拠品の還付請求と言います。還付請求に関する根拠条文は以下の通りです。

刑事訴訟法第123条
1項 押収物で留置の必要がないものは、被告事件の終結を待たないで、決定でこれを還付しなければならない。
2項 押収物は、所有者、所持者、保管者又は差出人の請求により、決定で仮にこれを還付することができる。
3項 押収物が第110条の2の規定により電磁的記録を移転し、又は移転させた上差し押さえた記録媒体で留置の必要がないものである場合において、差押えを受けた者と当該記録媒体の所有者、所持者又は保管者とが異なるときは、被告事件の終結を待たないで、決定で、当該差押えを受けた者に対し、当該記録媒体を交付し、又は当該電磁的記録の複写を許さなければならない。
第222条
 …第118条から第124条までの規定は、検察官、検察事務官又は司法警察職員が…する押収又は捜索について…これを準用する。ただし、司法巡査は、第122条から第124条までに規定する処分をすることができない。

刑事訴訟法123条は被告事件すなわち起訴された件に関する証拠品の還付請求について定めた条文ですが、刑事訴訟法222条で押収または捜索について準用していますので、捜査中に押収された証拠品についても123条の規定は適用されます
そこで、還付請求が認められるかどうかにつき問題になるのが123条1項の「留置の必要がないもの」の解釈になります。
捜査機関は実際は捜査が進んで返せる状況にあるにもかかわらず、事件の処分が出た時に返せばいいやという感じで積極的に還付をしてくれない場合があります。
還付請求においては、留置の必要がないことについて説得的に主張することが重要になります。

事例における刑事弁護や物の押収に関する弁護人としての主張など、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所では刑事事件に精通した弁護士がアドバイス差し上げられます。
刑事事件に関連してお困りの方は、こちらからお問い合わせください

留置の必要があるかの判断について

本件のような捜査中の場合には、まだ刑事処分をどうするか決めていない状況なので、留置の必要がないことを主張することは容易ではありません
証拠品を当事者に返すことで証拠の隠滅や改ざんを行われ捜査に支障が出るおそれがあると考えられるためです。
たとえば本件のように、犯罪に関するデータを保存したパソコンについては、一定期間が経過したことでデータの確認作業や移動は終わっているはずであり、本人に返還したとしても改ざんや証拠隠滅の恐れはないと主張することが考えられます。
また今回のようなケースでは盗撮された被害者の保護の観点から警察が返還を渋る可能性もあるので、当該盗撮データについては、速やかに任意での削除に応じる代わりにパソコンの返却を求めるように交渉することも考えられます。

警察や検察が証拠品の還付を拒否した場合の対応について

警察や検察は還付請求に対して応じる義務はないので、「捜査中だから返せない」などと単純な回答により返還を拒否することがほとんどかと思います。
この場合には裁判所に対して申立てを行うことが考えられます。
具体的には、警察や検察が還付請求を拒否したこと(還付請求に対する却下処分)に対して準抗告を申し立てることになります。
今回の事例では被疑者ではないが、所有物の押収を受けたA社が準抗告を申し立てることができるか問題になり得ますが、これは最高裁で肯定されています(最高裁平成15年6月30日決定https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=50072)。
仮にこの申立てが認められれば、裁判所から捜査機関に対して還付するように命じられるので、証拠品はA社のもとに返還されることになります。
準抗告では留置の必要がなくなっていることを、捜査の経過などから丁寧に主張していく必要があります。

現代では事業の遂行においてパソコンやスマートフォンの使用は必須であり、これが一定期間返還されないことは会社経営の根幹を揺るがす事態になりかねません。
今回の事例のような状況に陥らないためにも、会社や会社の従業員らが刑事事件の当事者とならないように対策することは重要です。
ですがもし刑事事件に関与してしまい、会社のパソコンやスマートフォンが押収される事態になった場合には、捜査機関や裁判所に対し上記で解説したような適切な対応を早期に行っていく必要があります。
弊所では顧問契約を準備させていただいております。平時からの企業のコンプライアンス対策から、緊急時の捜査機関への対応まで、刑事事件に精通したあいち刑事事件に是非お任せください。

コンプライアンス意識の周知と教育の重要性

2024-04-19

現代社会において、企業犯罪や社員の不祥事が頻繁に発生しています。これらの問題を未然に防ぐためには、企業におけるコンプライアンス教育が極めて重要です。
コンプライアンスとは、法令遵守のみならず、倫理観や社会的規範に基づいた公正・公平な業務遂行を意味します。本記事では、コンプライアンス教育の重要性について、事例を交えながら解説します。

事例

コンプライアンス違反が企業に与える影響は甚大です。例えば、ある企業でのデータ漏洩事故は、顧客の信頼を大きく損ね、最終的には株価の大幅な下落につながりました。
コンプライアンス違反のリスクが単に法的な問題に留まらず、企業のブランド価値や経済的な損失に直結することが理解できます。また、社会的信用の失墜は、従業員のモラル低下や優秀な人材の流出を引き起こす可能性があり、企業の持続可能な成長を脅かす要因となり得ます。

この事例を踏まえ、次にコンプライアンス教育の必要性について詳しく解説していきます。

コンプラインス教育の必要性

現代社会では、情報の拡散速度が格段に速くなっています。
特にSNSの普及により、企業の不祥事や犯罪が発生した際、その情報が瞬時に広まり、企業の評判を大きく損なうことがあります。
このような背景から、コンプライアンス教育の重要性は年々高まっています。

企業が社会的責任を果たし、信頼を維持するためには、従業員一人ひとりが法令を遵守し、倫理的な判断ができるようになることが不可欠です。
そのためには、新入社員の初期研修から始まり、定期的な研修を通じて、コンプライアンスの知識と意識を高めることが求められます。
また、研修は単に法令やルールを暗記するのではなく、実際の事例をもとにしたディスカッションやワークショップを取り入れることで、より実践的な理解を深めることが重要です。

コンプライアンス教育を通じて、従業員が自らの行動が企業に与える影響を深く理解し、正しい判断ができるようになること。
これが、現代社会における企業が持続的に成長し、社会から信頼されるための基盤となります。

ご不安事やコンプライアンス体制についてご心配事のある方は,こちらからお問い合わせください。

コンプライアンス違反のリスク

コンプライアンス違反が企業に及ぼすリスクは計り知れません。
最も直接的な影響は、法的制裁や罰金などの財務的損失です。
しかし、それ以上に深刻なのが、企業の信用失墜による長期的な影響です。

一度失われた信頼を取り戻すことは非常に困難であり、不祥事が公になれば、顧客離れや不買運動に発展することもあります。
また、社内においても、不祥事によるモラルの低下や、優秀な人材の流出が起こる可能性があります。
これらはすべて、企業の持続可能な成長を著しく阻害する要因となり得ます。

さらに、コンプライアンス違反は、企業の社会的責任(CSR)に対する評価を下げることにも繋がります。
現代の消費者は、製品やサービスの品質だけでなく、企業が社会に対してどのような影響を与えているかにも敏感です。
そのため、コンプライアンス違反は、企業のブランドイメージに長期的な損害を与えることになります。

このように、コンプライアンス違反は、ただちに修復が困難な多方面にわたるリスクを企業にもたらします。
従って、企業はコンプライアンス教育を通じて、これらのリスクを最小限に抑える努力を怠ることができません。

コンプライアンス研修の実施方法

コンプライアンス研修の実施方法は、その対象となる従業員の役職や経験に応じて異なります。
新入社員には、社会人基礎としてのコンプライアンスの理解を深めるための研修が必要です。
一方で、役員や管理職には、リーダーとしての責任と役割に焦点を当てた研修が求められます。

研修の内容は、法令遵守だけに留まらず、企業倫理や社会的責任についてもカバーする必要があります。
また、実際の事例を用いたグループディスカッションやロールプレイングなど、参加者が積極的に関わることのできるプログラムを取り入れることが効果的です。

研修は、ただ情報を提供するだけではなく、参加者がコンプライアンスの重要性を自ら認識し、日常業務において正しい判断ができるようになることを目指すべきです。
そのためには、研修の内容を定期的に更新し、最新の法令や社会情勢に即した情報を提供することが重要です。

さらに、研修の効果を最大化するためには、研修後のフォローアップが欠かせません。
研修で学んだ内容を実務にどのように活かしているか、定期的なフィードバックや追加研修を通じて確認することで、コンプライアンス教育の持続的な改善を図ることができます。

コンプライアンス研修は、単なる義務遂行ではなく、企業文化の一部として根付かせることが最終的な目標です。従業員がコンプライアンスを自然と意識し、日々の業務に反映させることができるような研修プログラムの構築が求められます。

専門家によるアドバイスの重要性

コンプライアンス教育を成功させるためには、専門家によるアドバイスが不可欠です。
弁護士やコンプライアンス専門家は、法律の専門知識を持ち、企業が直面するリスクを正確に評価することができます。
彼らの知見を活用することで、企業は実効性のあるコンプライアンスプログラムを構築し、運用することが可能になります。

専門家によるリスク評価
専門家は、企業の業種や規模、過去の事例などを踏まえた上で、具体的なリスクを評価し、対策を提案します。
このプロセスを通じて、企業は潜在的な問題を事前に特定し、適切な予防策を講じることができます。

カスタマイズされた研修プログラムの開発
専門家は、企業の特定のニーズに応じた研修プログラムを開発することができます。
法律や規制の変更に迅速に対応し、最新の情報を研修に反映させることが可能です。

継続的なサポートとアップデート
コンプライアンスは一度きりの取り組みではなく、継続的な努力が必要です。
専門家は、定期的なレビューとアップデートを通じて、企業のコンプライアンスプログラムが常に最新の状態を保つようサポートします。

従業員への信頼性の高い情報提供
専門家による研修は、従業員に対して信頼性の高い情報を提供します。
法律や規制に関する正確な解釈を学ぶことで、従業員は自信を持って業務に取り組むことができます。

専門家によるアドバイスとサポートを受けることで、企業はコンプライアンス違反のリスクを最小限に抑え、社会的責任を果たすことができます。
コンプライアンス教育は、単に法律を遵守すること以上の意味を持ち、企業文化の根幹を形成するものです。
専門家の知見を活用することで、企業は持続可能な成長と社会からの信頼を築くことができます。

コンプライアンスの相談は弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所へ

コンプライアンスに関する課題は、企業運営において避けて通れない重要な要素です。
不確実な法的環境の中で、適切なコンプライアンス体制を構築・維持することは、企業にとって大きな挑戦となります。
このような状況において、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所は、刑事事件について豊富な経験と専門知識を持つ弁護士による確かなサポートを提供します。

私たちは、コンプライアンス違反によるリスクを最小限に抑えるための戦略的アドバイス、法律相談を通じて、企業の皆様を全面的にサポートいたします。
また、不祥事が発生した際の対応策や、事後のリスク管理に関しても、専門的な視点から具体的なソリューションを提案します。

コンプライアンスは、単に法律を遵守すること以上の価値を企業にもたらします。
企業文化としてのコンプライアンスを根付かせることで、社会からの信頼を獲得し、持続可能な成長を実現することができます。
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所は、その過程で企業の皆様を強力にバックアップします。

コンプライアンスに関するご相談がございましたら、ぜひ弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所までお気軽にお問い合わせください。
私たちは、企業の皆様が直面するあらゆる課題に対して、最適な解決策をご提案いたします。

こちらからお問い合わせください。

企業の贈収賄事件-東京オリンピックの贈収賄事件を基に

2024-04-16

企業が公務員に賄賂を贈ってしまった事件について解説。

東京オリンピックにおける贈収賄事件など、贈収賄が大きな問題となっています。
ここでは、企業のかかわる贈収賄事件について解説します。

贈賄
収賄、受託収賄および事前収賄(刑法第197条)、第三者供賄(同法第197条の2)、加重収賄および事後収賄(同法第197条の3)、あっせん収賄(同法第197条の4)の罪において規定する賄賂を供与し、又はその申込み若しくは約束をした者は、3年以下の懲役又は250万円以下の罰金に処されます(刑法第198条)。

賄賂とは

「賄賂」とは、公務員の職務行為と対価関係にある利益を言います。この対価関係は、職務行為に対するものであれば足り、個々の職務行為と賄賂との間に対価関係のあることは必要とされていません(昭和33年9月30日最高裁第三小法廷判決)。職務に関するものであれば、交付時期や利益の多寡にかかわらず、賄賂となります。
賄賂の内容は金銭に限られず、人の欲望や需要を満たす一切の利益が含まれます。判例では、芸妓の演芸や、酒食の饗応、異性間の情交、公私の職務等の有利な地位の保証、株式の取得の利益、など、様々なものが賄賂と認定されています。このような利益を公務員に提供すれば公務員の職務の公正は害され、あるいは公務員の職務の公正に対する社会の信頼は損なわれてしまうため、処罰する必要があります。

東京オリンピックの贈収賄事件においても、会社の代表取締役であった者が、みなし公務員である組織委員会の元理事に賄賂を供与したとして起訴され、有罪判決を受けています(東京地裁令和5年7月12日判決)が、この事件では、元理事が、被告人が代表取締役を勤める会社との間のコンサルティング契約に基づき毎月のコンサルティングフィーを支払うという形で賄賂の供与がされていたと認められました。

「職務に関し」たといえるか

前述のとおり、賄賂は職務行為と対価関係にある必要がありますので、職務とは無関係な利益の提供は賄賂には当たりません。東京オリンピックの汚職事件で参考人として聴取を受けた元総理大臣は贈賄で有罪判決を受けた被告人の属する会社から現金の提供を受けたという報道がありましたが、これは病気に対する見舞金の可能性もあると言われていました。
また、単なる社交儀礼上の贈答は「賄賂」にあたりません。
東京オリンピック組織委員会元理事は、コンサル契約に基づいてコンサル料が支払われたもので賄賂ではないと主張しているとのことですが、これまでの収支はどうであったか、コンサル依頼があったとしてもそれ自体職務に関係するものか、依頼があった後の活動実態はどうだったか、などを考慮して、賄賂かどうかが判断されるでしょう。

収賄罪の成立の可能性

これまで贈賄罪について解説してきましたが、公務員でない会社の役員・従業員だからといって、収賄罪が成立しないとは限りません。公務員と共謀して賄賂を収受したと認められれば、収賄の共犯者として、収賄罪により処罰されます。

例えば、贈賄側の企業と交渉をしたり、公務員の代わりに賄賂を受け取って公務員から分け前をもらうような場合です。この場合、公務員に協力した者自身には公務員という身分がなくても、共犯となります(刑法第60条第1項)。東京オリンピックの贈収賄事件においても、会社の代表取締役であった者が、元理事と共謀の上、元理事の職務に関し賄賂を収受したとして、有罪判決を受けています(東京地裁令和5年7月4日判決)。

企業の責任

以上は、実際に贈収賄に加担した個人に成立する犯罪の問題です。
贈賄罪は特別法のような両罰規定がないため、企業は責任を問われません。
一方で、こうした案件では、企業の経営者が状況を把握したうえで指示をしていたと認められるでしょう。そうすると、単に個人の暴走ではなく、企業として行ったものとみなされ、強い社会的非難にさらされるでしょう。
また、会社の代表役員等が贈賄の容疑により、逮捕され、又は逮捕を経ないで起訴される等した場合、官公庁から公共事業の入札等で指名停止措置を受けることがあります。各省庁や各地方公共団体が、指名停止について基準を定めています。
・参考
国土交通省「工事請負契約に係る指名停止等の措置要領」
https://www.mlit.go.jp/common/001067886.pdf

まとめ

このように、企業が公務員に対し利益を供与すると、贈収賄に該当し、重大な事態に陥る可能性があります。自社の行っていることが贈賄等に当たらないかお悩みの方は、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所へご相談ください。

お電話の方は0120-631-881から,HPの方はこちらからお問い合わせください。

企業におけるメール監査の有用性について

2024-04-09

事例はフィクションです。

A社の従業員Bさんは、連日残業を行っているのに、残業代を支給されていないとして、A社に対し、残業代を請求してきました。Bさんは、長時間労働を行っていたことの証拠として、業務で自分が送受信したメールの内容を印刷した書面をA社に提出してきています。

メール監査について、あいち刑事事件総合法律事務所が解説します。
メール監査とは、企業が、従業員の電子メールに対する調査を行うことです。

平時からのメール監査の有用性

不祥事が発生した企業では、その事後対応として、従業員の電子メールに対する調査が行われることがあります。日々の業務の中で飛び交うメールの内容を分析することは、それによって行われた情報伝達の内容について明確に特定する形で立証できる重要な手段だからです。

事例のように、長時間労働が問題となった場面では、業務メールの送受信は、労働時間の重要な証拠であり、本当にそれだけ長い時間働いていたのかは、メールを見れば調査できます。

もっとも、こうしたメール調査が有効なのは、不祥事が行った後とは限りません。
企業秘密などの大切な情報の漏洩も、メールによって起こることが多いといえます。そのため、従業員のメールを平時から調査しておけば、情報漏洩を未然に防ぎ、いざ起こったときには速やかに事後対応をすることができます。

また、事例の場合には、平時からメールを調査していれば、長時間労働を行っている従業員を早期に発見でき、未然に対処することも可能となります。
そのほか、目的は各企業によって異なるものの、平時からメールを調査する目的としては、業務と無関係のメールのやりとりがないか、不適切な取引を行っていないか、などについて早期に発見し対処できるようにすることがあげられます。
実際に、不祥事の予防・早期発見にために、内部監査の一環としてメール監査を実施している企業も多くあります。

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メール監査を行う場合の注意点

以上のように、企業が平時からメール監査を行うことは、不祥事を未然に防止する意味でも有用ですが、メール監査をおこなうことが従業員らのプライバシーの侵害にならないか、注意する必要があります。
従業員が個人的に使用している機器については、原則、本人の同意がない限り内容を確認することはできませんし、企業が貸与した機器についても、従業員には一定の範囲でプライバシーが認められますので、その必要性が認められるときに、相当な手段・態様で実施する必要があります(調査等の必要性を欠いたり、調査の態様等が社会的に許容しうる限度を超えていると認められる場合には不法行為を構成することがあるとした裁判例として、東京地判平成14・2・26労判825号50頁があります)。
そこで、電子メ―ルに対する調査を行うためには、就業規則等にあらかじめ企業が貸与した機器の調査の要件や手続等について規定しておき、周知しておくことが望ましいといえます。メール監査の存在を予め明記しておくことにより、従業員のプライバシーへの期待が減殺され、メール監査が許容されやすくなるからです。
メール監査を企業が行おうとする場合には、メール監査の必要性、その範囲・態様の相当性等について弁護士等専門家に相談しておくことが必要でしょう。
企業内のコンプライアンス体制の構築,設計についてご相談のある方は,こちらからお問い合わせください。刑事事件を専門に扱う弁護士が対応いたします。

企業と業務上過失致死傷事件

2024-04-05

企業は従業員を使用して活動を広げ、より多くの利益を得ることができます。
その活動の中には、人の生命・健康にかかわるものもあります。こうした状況下では、企業は従業員や企業の体制について監督し、被害が生じないようにする必要があります。
これを怠り、被害が生じた場合、その責任を負わなければなりません。
事業活動の中で従業員が怪我や死亡した場合に,企業が刑事責任を負う代表的な事例として,業務上過失致傷事件が挙げられます。

参考報道:日本経済新聞 東京・八重洲の作業事故、業過致死傷容疑視野に捜査

業務上過失致死傷

故意ではなく過失により人を死傷させた場合、過失傷害罪(刑法第209条)又は過失致死罪(刑法第210条)が成立します。
さらに、業務上必要な注意を怠り、よって、人を死傷させた場合は、業務上過失致死傷罪が成立します(刑法第211条前段)。法定刑は、5年以下の懲役若しくは禁錮又は100万円以下の罰金です。

過失とは、注意義務違反であり、法益侵害の結果の発生を予期し回避できたにもかかわらずこれを怠ったことをいいます。

業務上過失致死傷罪の「業務」とは、本来人が社会生活上の地位に基づき反復継続して行う行為であって、かつ、その行為は他人の生命身体等に危害を加えるおそれのあるものをいいます(最高裁第二小法廷昭和33年4月18日判決)。

なお、この判例では、この行為の目的がこれにより収入を得るものかその他の欲望を充たすためかどうかは問わないと判示されており、仕事の目的に限らず娯楽目的でも該当するとされています。
「業務上の過失」とは、この業務上の注意義務違反をいいます。

企業の責任

業務上過失致死傷罪には両罰規定がありません。業務上過失致傷罪は個人の犯罪で、店長等安全管理に責任を負っていた者が処罰を受けることになりますが、企業そのものは処罰されません。
また、現場が重大事故を起こしたとしても、会社役員が現場で生じる問題まで予見して対応するのは困難であり、その責任を負うことになるのは稀となります。

JR福知山線で列車が脱線転覆して乗客106名が死亡し、493名が負傷した事故において、工事やダイヤ改正により運転士が制限速度に近い速度で運転する危険性が高まり、運転士が適切な制動措置を取らないまま曲線に侵入し脱線転覆事故が発生する危険性を予見でき自動列車停止装置(ATS)を整備するよう指示するべき業務上の注意義務があったのにこれを怠り、事故が起きたとして、鉄道会社の歴代社長が強制的に起訴されました。

裁判は最高裁まで進みましたが、最高裁は、事故以前にはATSの整備は法令でも義務付けられておらず、他の鉄道会社も採用していなかったこと、曲線へのATSの整備は鉄道本部長の判断に委ねられており、代表取締役が個別の曲線の危険性に関する情報に接する機会は乏しかったこと、組織内において事故現場の事故発生の危険性が高いと認識されていた事情もうかがわれないなどとして、歴代社長らにおいて、鉄道本部長に対しATSを事故現場に整備するよう指示すべき業務上の注意義務があったということはできないとしました(最高裁第二小法廷平成29年6月12日決定)。

このように、重大事故が起きたからとって、直ちに社長などの役員が刑事責任を負うとまでは言い難いでしょう。

刑事以外の責任

しかしながら、このような重大な事故を招いたこと自体、組織としての安全配慮を怠っていたのではないかと非難されます。事故について社会に説明し、再発防止の手段を尽くさなければ、会社が社会的制裁を受けることになります。
また、従業員等の被用者がその事業の執行の執行に関して第三者に損害を与えた場合、使用者たる企業が賠償責任を負います(民法第715条第1項)。

まとめ

以上のように、業務上の過失により人を死傷させても、企業は刑事責任を負いませんし、役員が責任を負うことも稀です。

しかしながら、企業は社会的責任や民事責任を負うことになりますので、企業は人名や財産に危害を与えることがないように組織内体制を整備することが必要不可欠となります。
役員や従業員が業務上過失致死傷罪に問われた場合や、企業犯罪抑止のためにどのように体制を整備すればよいかお悩みの方は、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所へご相談ください。

弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所は,刑事事件を専門に扱う法律事務所です。業務上過失致傷事件についてご不安なことがある方,事業において従業員の安全について法的リスクにご懸念がある方は,弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所東京支部までご連絡ください。

お問い合わせについてHPの方はこちらのお問い合わせから,お電話の方は24時間365日受付中の弊所フリーダイヤル(0120-631-881)までご相談ください。

不祥事を起こした社員の退社を求めることができるのか③

2024-04-03

関連記事として,不祥事を起こした社員の退職についてはこちらもご覧ください。

【事例】
Aさんは、福岡市早良区で、輸送用機械の部品を製造している会社、X社を営んでいます。
X社は、常時20人の従業員を雇っています。
Bさんは、このX社の従業員で、営業の仕事をしています。
ある土曜日の夜、Bさんは、休みだったので友人と福岡市内の繁華街にお酒を飲みに行っていました。
休みではあったのですが、ちょうどよいからと、BさんはX社のロゴの入ったジャンバーを羽織って出かけていました。
そして、Bさんはお酒を飲み過ぎてしまい、隣でお酒を飲んでいた男性客Cさんと口論になってしまいます。
怒りを抑えられなかったBさんは、Cさんの顔面を殴り、地面に倒れたCさんに馬乗りになって何度も殴り続けました。
その様子を見た店員が警察に通報し、駆けつけた警察官はBさんを現行犯逮捕しました。
この際、たまたまお店に居合わせた別の客であるDさんは、BさんがCさんに馬乗りになって殴り続けている様子を、Bさんの背中側から動画撮影し、SNS上にアップロードしてしまいました。
もちろん、この動画には、Bさんが着ていたジャンバーにあしらわれたX社のロゴが映っています。

翌朝、Bさんの名前やX社の名前こそ伏せられていたものの、Bさんが事件を起こしたというニュースが新聞で報道されてしました。
Bさんが出勤しておらず、報道で流れた情報がBさんと一致していたことから、この事件の犯人がBさんと察しがついたAさんは、Bさんの家族を問い詰め、Bさんが傷害事件で逮捕されているという事情を把握しました。
また、X社の取引先であるY社からは、DさんがアップロードしたSNSを見たとして会社に連絡が来てしまいました。

会社への影響を考えたAさんは、Bさんを解雇したいと考え、解雇しても問題がないのか、もしも問題があるのなら、今後の似たような事態に対応するにはどうしておけばいいのかを、あいち刑事事件総合法律事務所に相談することにしました。
(事例はフィクションです)

1 はじめに

以前の記事で、解雇権の濫用や解雇予告、就業規則への記載といった会社が従業員を解雇するためのルールについて解説をしてきました。
そして、そのルールの1つである就業規則への記載に関連して、そもそも就業規則とは何なのか、どのような手続きで定めるのかといった点について解説をしてきました。
今回は、その就業規則に定めるべき内容について解説していきます。

2 就業規則の内容

また、就業規則の作成にあたっては、労働時間や賃金の関係、退職に関する事項については、絶対に定めなければなりません(労働基準法89条)。この退職に関する事項には、どのような場合に解雇となるかということも含まれています(労働基準法89条3号かっこ書)。

より具体的には、会社として懲戒解雇を含めた懲戒処分の種類を定めたうえで、どのような場合に懲戒処分の対象になるかという形で定められることが多いでしょう。

例えば、①「犯罪に該当する行為を行い、会社の信用を傷つけた場合」という規定を設けたり、②「会社の業務中に犯罪に該当する行為を行った場合」という規定と「それに準ずる行為を行って会社の利益を害した場合」という規定の両方を設けたりすることが考えられます。

そして、Bさんの場合に解雇になるのかは、
①私生活上で犯罪行為に及んでしまった場合に解雇となるのか
②そのことが報道された場合に解雇になるのか
③第三者のSNSへの投稿によっても解雇になるのか
などについて、就業規則から読み取れるのかどうかが問題となります。

このように、従業員が不祥事を行い、会社としてその従業員を解雇したいと思っても、解雇できるのかが就業規則の記載によって変わってくることがあります。
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所では、刑事事件に関わってきた経験を活かし、会社内で不祥事が起こった場合の対応・アドバイスにも力を入れています。
こちらからお問い合わせいただけます。
今回のケースで従業員を解雇できるのか、現在の就業規則の規定で十分なのかなどについてアドバイスをご希望の方は、一度、あいち刑事事件総合法律事務所にご相談ください。

誤嚥事故の裁判例紹介

2024-03-26

【事例】
A社は介護施設事業を行っており複数の老人介護施設を運営・管理していました。
A社が運営・管理を行っている施設の1つであるB園において、この度誤嚥事故が発生し、利用者の1人であるCさんが亡くなってしまいました。
A社が原因を調査したところ、B園では、被害者であるCさんの嚥下能力に問題があることを把握しながら漫然とのどに詰まりやすいお餅を出していたこと及び食事の際に職員がCさんの様子をよく確認していなかったことが明らかになりました。
またA社では、誤嚥のおそれのある場合の対応についてマニュアルなどが整備されておらず職員個人の判断に任せられていたことも明らかになりました。
事故後Cさんのご遺族からは責任の所在を明らかにしてしかるべき賠償をするように求められています。
A社の代表は今後の見通しについてあいち刑事事件総合法律事務所に相談しました。
(事例はフィクションです)

以前の記事では、誤嚥事故が発生した場合の刑事責任の可能性や、誤嚥事故が発生した場合の対処法について解説させていただきました。
以前の記事についてはこちらからご覧ください。
今回の記事では、施設側、施設を管理する事業者側の賠償責任について裁判例を紹介しながら詳しく解説させていただきます。

誤嚥事故により事業者が負う賠償責任

誤嚥事故によって事業者側が負う可能性のある責任としては、民事上の損害賠償支払い義務があります。
介護サービスを提供するにあたって、介護事業者は利用者に対する安全配慮義務を負い、事故の危険を予見できる状況において事故結果回避のための措置を取らなければこうした義務を尽くさなかったとされます。
そして、事故が安全配慮義務を尽くさなかったことが原因で起こったとき、介護事業者が利用者に生じた損害についての賠償責任を負います(民法第415条)。
また、安全配慮義務を怠った行為が介護を担当する従業員の過失と評価されて不法行為(民法第709条)が成立し、その使用者である事業者が使用者責任に基づく損害賠償責任を負うことにもあります(民法第715条)。
以下では、事業者に対する賠償義務が肯定された例と否定された例を紹介します。

誤嚥事故において事業者の賠償責任が肯定された裁判例(熊本地方裁判所平成30年2月19日判決)

事案の概要
AさんはB社が運営していた特別養護老人ホームを利用していた。
Aさんは施設作成の治療計画書に「誤嚥性肺炎に注意が必要」との記載があった。
Aさんは食事中にBの職員が目を離していた隙に誤嚥による肺炎を発症し、緊急搬送されたものの低酸素脳症を発症し後遺障害が残った。

裁判所の判断
裁判所では次のような事実を認定した上で、事業者側であるB社の損害賠償義務を肯定した。
すなわち、B社が運営していた事業所では本件事故当時、Aさんが誤嚥を起こしやすいという事実を把握していた。
そして食事中にAさんがしゃっくりをするなど誤嚥の危険があったことを認識しながら漫然と食事を継続させていた。
最終的には食事終了時にAさんの口の中に食物が残っていないことを確認することなく部屋に戻していた。
このような食事介助の態様は誤嚥を引き起こす危険の大きい不適切なものである。
したがって、B社の履行補助者である職員は上記義務を履行しなかったものといわざるを得ず、B社には、本件入所契約上の義務違反が認められる。

誤嚥事故において事業者の賠償責任が否定された裁判例(津地方裁判所令和3年9月1日判決)

事案の概要
Aさんは要介護認定1の認定を受けてB施設でデイサービスを利用していた。
Aさんは施設においてデイサービスを利用する15人と一緒に昼食を取っていたところ、口腔内に食物を含んだ状態で心肺停止状態になってしまった。
Aさんはすぐに緊急搬送されましたが低酸素脳症により死亡した。

裁判所の判断
裁判所は事業者側の過失の有無について次のような説明をし、過失を認定せず損害賠償義務を否定しました。
B施設側の体制は常時目を離さないような体制とはいえなかったが、食堂の状況等から利用客に異常がないかを定期的に確認することはできたといえ、もし明らかな異常があれば視覚的・聴覚的に察知できる体制は構築出来ていたといえる。
そして施設側には食事中に条一全体の見守りをするまでの体制の構築義務はない。
またAさんには誤嚥傷害の存在は認められず誤嚥のおそれが高いとまではいえなかった。
異常発見後の対応についても過失を認めるほどに遅れたとはいえない。
よってB施設側に過失は認められない。

まとめ

裁判例を2例あげさせていただきましたが、この判断が分かれた理由は何だったのでしょうか。
それぞれの裁判例は事例に対する判断ではありますがポイントとしては2点あったと思われます。
1点目は、被害者の方が誤嚥を起こす危険性が高いことを事前に予見できたかどうかです。
前者のケースでは治療計画書などから重度の障害があり誤嚥を起こしやすいことが明らかになっていました。
この場合では誤嚥事故が起こる危険性が高いと事前に認識できるので、食事中に求められる注意義務の程度が厳しく判断された可能性があります。
実際に利用される方が誤嚥事故を起こすリスクの高さや、それに応じた職員の配置や出す食事の内容については慎重に判断するべき点です。
担当医などと協議の上必要な措置を取っていく必要があります。

2点目は事故が起きた際の状況が誤嚥をしたと疑うべき状況であったかどうかです。
前者のケースでは、しゃっくりなど誤嚥の疑いのある症状があったにもかかわらず食事を続けさせ、口腔内の確認をしていないことを注意義務違反、すなわち過失であったと認定しています。
施設側としては、誤嚥の疑いがある場合の症状を事前に職員に対し周知させ、そのような疑いがある場合の対処を事前に研修する、マニュアル化しておくなどの対応が求められると考えられます。
参考 食品による窒息事故

あいち刑事事件総合法律事務所ではこれまで過失の認定について問題のある件も豊富に扱ってきました。過失の判断が問題になるケースに備えて、ひいては事例のような悲惨な事故が発生することがないように事前の対策は非常に重要になります。
誤嚥事故の発生防止、そして万が一誤嚥事故が発生してしまったとしても施設側に責任が追及されるリスクが低くなるような事前対応を是非ご相談ください。

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お正月のお餅を詰まらせて利用者の方が亡くなった業務上過失致死事件|施設を運営する法人はどのような責任を負う?

2024-03-19

【事例】
A社は介護施設事業を行っており複数の老人介護施設を運営・管理していました。
A社が運営・管理を行っている施設の1つであるB園において、この度誤嚥事故が発生し、利用者の1人であるCさんが亡くなってしまいました。
A社が原因を調査したところ、B園では、被害者であるCさんの嚥下能力に問題があることを把握しながら漫然とのどに詰まりやすいお餅を出していたこと及び食事の際に職員がCさんの様子をよく確認していなかったことが明らかになりました。
またA社では、誤嚥のおそれのある場合の対応についてマニュアルなどが整備されておらず職員個人の判断に任せられていたことも明らかになりました。
事故後Cさんのご遺族からは責任の所在を明らかにしてしかるべき賠償をするように求められています。
A社の代表は今後とるべき対応や手続きの流れをあいち刑事事件総合法律事務所に相談しました。
(事例はフィクションです)

誤嚥事故について

誤嚥事故とは事例で挙げたように、誤って喉に食べ物などを詰まらせてしまう事故のことをいいます。
特に嚥下能力が加齢に伴って低下する高齢者が誤嚥を起こすケースが多く、また年末年始には毎年全国で餅を積まれせて緊急搬送されるケースが多く報道されています。
参考 食品による窒息事故
誤嚥事故が発生した場合には民事事件、刑事事件の双方で問題になる可能性があります。

民事事件は主に事故によって生じた損害賠償の問題になります。
誤嚥事故で施設側の過失が認められるかどうかについては、法律的にも難しい点で裁判で争点になることも多いです。
誤嚥事故に関する裁判例については次回の記事で紹介します。
刑事事件としては業務上過失致死傷罪の成立が問題になるケースがあります。
介護中の誤嚥事故について施設側や対応した従業員不注意の程度が大きいケースや悪質なケースでは刑事事件の対象となることもあります。
刑事事件については業務上過失致死傷罪が成立するかが問題となります。

誤嚥事故と業務上過失致死傷事件について

次に誤嚥事故の際に問題になりうる業務上過失致死傷罪について解説していきます。
業務上過失致死傷罪については刑法211条に定めがあります。

刑法211条(業務上過失致死傷等)
業務上必要な注意を怠り,よって人を死傷させた者は,5年以下の懲役若しくは禁錮又は100万円以下の罰金に処する。 重大な過失により人を死傷させた者も,同様とする。

誤嚥事故で業務上過失致死傷罪が成立するかどうかについて、問題となる点については大きく分けて2点があります。
1点目は、誤嚥事故が発生したことについて「業務上必要な注意を怠った」といえるか、すなわち過失があるかという点です。
2点目は、被害者の方が負傷した又は亡くなったことと、1点目の過失との間に因果関係があったのかどうかという点です。
因果関係についてもう少し分かりやすく説明しますと、誤嚥事故が起きたことが原因になって被害者の方に負傷結果や死亡結果が発生したかということです。
例えば被害者の方が死亡したことが、誤嚥以外の理由例えば心臓発作によるものであれば、誤嚥と死亡結果との因果関係は否定されます。

施設側として特に問題になるのは1点目の過失が認められるかどうかです。
施設で実際に利用者を介護する職員に注意義務が認められるのは当然ですが、施設の管理者に求められる注意義務もあります。
例えば施設の管理者としては、誤嚥防止のためにマニュアルを作成し職員に指導を行う、誤嚥がないかしっかりと確認するために十分な職員の配置を行うなどが一般的に義務付けられているといえます。
これを怠った結果、誤嚥事故が発生した場合には施設を管理。運営する立場の法人の責任者に業務上過失致死傷罪が成立する可能性があります。

誤嚥事故が起きてしまった場合に求められる施設側の対応

①事実調査

誤嚥事故が発生してしまった場合には、まず社内で原因の究明を行うために丁寧な調査を行う必要があります。
当事者がどのような対応をしていたのか、マニュアルはどうなっていたのか、事故を目撃していたのは誰かなど事故の原因を究明するための調査を行う必要があります。
調査は事故後なるべく早い段階で行う必要があります。
そして可能であれば、調査は職員のみで行うのではなく、弁護士などの第三者も入れて置こうなう方がその後の調査結果の説明や刑事事件の捜査への対応も考慮すれば望ましいといえます。
これは調査の透明性や公正さを確保するためです。

②被害者側への対応

誤嚥事故による被害が発生した場合には、その当事者や関係者の方にしかるべき対応をとることが必要になります。
施設側に明らかに過失がある場合には早期に賠償などの交渉を行って事態の深刻化を避けるべきであるといえます。
賠償を行うべき事案かどうか、賠償額はいくらが妥当かについては法律的に高度な問題を孕みます。
これについても施設の関係者のみで行うのではなく弁護士などの法律の専門家に相談して間に立ってもらうことが望ましいといえます。
特に被害者の方が亡くなっている場合については、ご遺族の被害感情が峻烈であることが予想されますので当事者同士で対応すれば感情的になり問題が深刻化することが予想されます。
示談交渉に精通した弁護士に依頼することをおすすめします。

③再発防止策の策定

誤嚥事故が発生してしまった場合、特に亡くなった方が出るなど結果が重大である場合には、事故が報道される場合もあります。
報道される場合には施設名が実名で報道されることもしばしばあります。
そうなってしまった場合には、信頼回復のために再発防止策を策定する必要があります。
実効的な再発防止策については、先述した事実調査の結果を基に、介護に関する専門的見地に加え、過失判断などの法律的見地に基づいて策定することが望ましいです。

今回は残念ながら誤嚥事故が発生してしまったケースに即して、誤嚥事故で問題になる点や誤嚥事故後の対応について解説してきました。
当然ですが、事故が起こらないようにするため、万が一の事故の場合にも施設側が負うリスクを低減するためには事前の対策が重要です。
事前の対策の準備としては、過去の裁判例も踏まえて、施設として普段から十分な注意義務を果たしておく態勢を維持しておくことが重要です。
そこで別の記事では、誤嚥事故に関する裁判例については改めて解説させていただきます。

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労働者の労働環境とその違反に対する企業の責任

2024-03-15

企業は労働者に対する安全配慮義務を負っています。一方で、企業と労働者の力関係の差を解消するため、憲法は労働者の権利を保障しており、労働基準法などでも労働者の権利を保障しています。この違反が甚だしい場合、犯罪となることもあります。

参考:パワハラや長時間労働など、働く上での悩みについて、無料で相談を受け付ける「全国一斉集中労働相談ホットライン」を実施https://news.yahoo.co.jp/articles/f185669740bb357a4787d8f32c39666a49ed912d

ここでは、企業が労働者の権利を保障しなかった場合に成立する犯罪について解説します。

長時間労働

使用者は、労働者に、休憩時間を除き一週間について40時間を超えて、労働させてはなりません(労働基準法第32条第1項)。また、使用者は、一週間の各日については、労働者に、休憩時間を除き一日について8時間を超えて労働させてはなりません(同条第2項)。休憩についても、使用者は、労働時間が6時間を超える場合においては少くとも45分、8時間を超える場合においては少くとも1時間の休憩時間を労働時間の途中に与えなければなりません(同法第34条第1項)。また、使用者は、労働者に対して、毎週少くとも一回の休日を与えなければなりません(同法第35条第1項)。これらに違反した場合、6月以下の懲役又は30万円以下の罰金に処されます(労働基準法第119条第1号・第32条)。もっとも、労働時間と休日に関しては、労働組合や労働者の代表と書面により協定(36協定)を交わし届け出すれば、その協定で定める範囲内であれば労働時間を延長し、又は休日に労働させることができます(同法第36条第1項)。この協定で定める範囲内であれば法律違反ではなく、刑罰も課されません。
これらの労働基準法などに違反した代理人や従業者が罪に問われた場合、事業主も同様の罰金刑を科されます(労働基準法第121条第1項)。

パワハラ

労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する(パワハラ防止法)では、「労働に関し、その政策全般にわたり、必要な施策を総合的に講ずることにより、労働市場の機能が適切に発揮され、労働者の多様な事情に応じた雇用の安定及び職業生活の充実並びに労働生産性の向上を促進して、労働者がその有する能力を有効に発揮することができるようにし、これを通じて、労働者の職業の安定と経済的社会的地位の向上とを図るとともに、経済及び社会の発展並びに完全雇用の達成に資することを目的」としています(第1条第1項)。この法律の「第9章 職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して事業主の講ずべき措置等」において、雇用管理上の措置等について定めています(第30条の2)。同条第1項では「事業主は、職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であつて、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものによりその雇用する労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。」と定めています。
この違反そのものについては、罰則は定められていません。
しかしながら、企業はこのような措置義務を負っているのですから、悪質なパワハラを放置していて、結果従業員が死亡した場合は、業務上過失致死罪(刑法第211条)に問われる可能性があります。

そもそも労働者か

以上のように、労働者に対しては労働時間や休日の確保、労働環境保護のための措置が必要であり、企業がこれに反すれば、最悪刑罰を科されます。
一方で、これらは労働者に対するもので、業務委託契約の受託者など、企業の外部の者には適用されません。
しかしながら、形式的には「業務委託」であっても、その実態が「労働者」であれば、その者は「労働者」として保護され、長時間労働などがあれば企業が責任を負うことになります。労働者であるかどうかは、指揮監督のもとで労務の提供をしていたかどうかを重視して判断されます(平成17年6月3日最高裁第二小法廷判決等)。

おわりに

以上のように、労働者の労働環境について、企業は注意する必要があります。
労働法違反防止のためのコンプライアンス整備、内部通報窓口の設置・運用など、企業の不正防止にお悩みの方は、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所へご相談ください。
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営業部門の不正行為を防止するためには?

2024-03-12

(事例はフィクションです)

健康器具を扱うA社では、最近ヒット商品があり、売上高が大きく伸びていて、A社の営業マンであつたBさんも他の営業マン同様に売り上げ伸ばしていた。Bさんは、もともと競馬好きなど遊興費に金を使うことが多かったが、売り上げ増と相まって、更に遊興費が増え、そのうち売掛金を回収した金の一部を遊興費に充てるようになった。最近になって、税務調査が入り、取引先への反面調査の結果、売掛金残高について、取引先が把握している残高との間に差異が認められた。そこで、Bさんに問いただしたところ、Bさんは、約500万円の遊興費への使いこみを認めた。

中小企業において、集金した売掛金を着服することはよくみられる事例です。
そこで、今回は、営業部門に関する不正事例として、今回は売掛金の一部を入金せずに私的に使い込んだ事例を取り上げ、営業担当者の横領行為を事前に防止する手段についてあいち刑事事件総合法律事務所が解説します。

Bさんには何罪が成立するか

Bさんについては、業務上売掛金の一部を横領していますので、業務上横領罪が成立します。

不正を事前に防止する施策

チェック体制の整備

営業担当者が集金も行う場合、売掛金の回収までの取引の全てをその営業担当者が管理することになり、不正の温床になる危険が高まります。本件のように、会社の売上げが全体的に大きく伸びているときには、売上金の回収に係る不正を全体の数字から発見することはますます困難になります。
そこで、営業担当者の横領行為を事前に防止するためには、そもそも売掛金の状況に日頃から目を光らせておくことが重要です。たとえば、社内の経理担当者が日頃から各営業担当者の売掛金に目を光らせておけば、特定の営業担当者のみ異常に高い売掛金(未回収の売掛金)を抱えているという事実が見えてきて、着服の事実を疑うことが可能になります。この点、売掛金の管理は、1人の担当者ではなく、複数の担当者の目に触れる体制を整えておくことも重要です。

売掛金の相手先に、定期的に残高確認を行うこと

売掛金の相手先は、代金を支払う立場ですので、いつ支払ったか、いくら支払ったか(残高がいくらか)等について、正確に答えてくれるのが通常です。そのため、中間期末時や決算期末時に相手先に残高確認を行うことは大変有効であり、営業担当者が回収金の着服をしにくくなります。

連番で領収書を管理すること

営業担当者が売掛金を現金で回収する際には、必ず領収書を発行します。
領収書については市販のものではなく、自社独自の領収書を使用し、かつ、連番を打つことが重要です。横領が行われる場合、その事実を隠蔽するため当該営業担当者が、自作の領収書を作成して取引先に渡していることも多いからです。
このように領収書を管理するだけでも、回収金の着服は相当程度防げると思われます。

最後に、Bさんは今後どうなるか

Bさんについては、横領しているため、会社としては懲戒解雇が検討されることになります。着服金額の回収が容易にすすまないなどの場合には、捜査機関に対して刑事告訴するか否かも検討することになるでしょう。

また,ある程度の規模の事業者内での不祥事の場合には,第三者委員会を設置して調査を行うこともあります。
参考:30代男性職員が約9200万円横領で JAおちいまばりが第三者委員会を設置【愛媛

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