Archive for the ‘不祥事・危機管理’ Category
不祥事発生時における広報対応の留意点について②
企業内部で不祥事が発生した場合における広報対応の留意点について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が解説します。
そもそも広報とは
広報とは、企業が社会の人々に向けて企業の情報を発信することです。
不祥事が発生した場合の広報対応
企業内で不祥事が発生したとき、特にそれが犯罪に関わるときには、新聞報道されたり、インターネット上で掲載されるなどして、不特定多数の人々に知られてしまう場合があります。その際、企業側に取材がなされ、時には、記者会見を実施する必要が生じるかもしれません。メディアからの取材依頼は広報が担当します。
今回は、企業内部で不祥事が発生した場合における広報対応(危機管理広報)の基本的な手順について解説します。
事実関係の調査
不祥事が外部に発覚した直後に、企業の役員(経営陣)が現場の知る不祥事の内容をきちんと把握できていなかった場合、ときとして、役員がメディアに対し、事実と異なる情報発信をしてしまうことがあります。このような事態になるのを回避するため、企業としては、不祥事の情報に接した際には、早期に事実関係の調査を行い、事実を正確に把握する必要があります。
事実関係がわからなければ対応しようがないのであり、何を広報すればよいのかすら判断することができません。広報対応を行う場合、事実関係を調査し、事実を正確に把握することがまずもって最優先といえます。
その場合、当該不祥事に関連する事実関係に詳しいが、当該不祥事に関係していない第三者的立場の人物を責任者として事実関係の調査、確認にあたるようにする必要があります。また、事実関係の確定に専門的・技術的な知識、知見が必要と思われる場合には、弁護士等その分野の専門家の起用を検討すべきです。
参考報道:ブックオフ 従業員の現金不正取得などの疑いで特別調査委設置 NHK
対応方針の検討、決定
調査の結果、事実関係が確認できたら、確認した事実関係を書類にまとめて、次に今後の方針を検討し決定します。この書類をポジションペーパーと呼び、ここには事実関係に加えて今後の対応も記載することが重要です。この点、不祥事発生後にどこまで素早く対応方針を決定できるか、この迅速性が世間からの評価を大きく分けます。時機に遅れた広報は、世間の不信、不安を招くものであり、とにかく初動が大切といえます。
窓口の一本化
企業の役員としては、情報の収集に努めるとともに、広報に対応する窓口を一本化し、対応の責任者を決めて、広報対応をその責任者だけに行わせる必要があります。
広報対応の窓口が一本化されておらず様々な窓口が広報対応を行うと、企業内外からの問い合わせについて情報が集約できず、対応方針等回答内容が異なってしまう可能性があり、企業内外に混乱が広がりかねません。窓口の一本化によって、情報を集約し統一的な対応を行っていくことにより、混乱を防ぎます。
次回に続きます。
最後に
企業不祥事発生時に事実関係の調査を実施している際、関係者の間で相互に話が食い違うこともあり、その場合には、客観的な証拠や中立的な第三者の供述等に基づいて、真実が何かを確定する必要があります。
このような客観的な証拠の分析や第三者からのヒアリングなどによって適正な事実認定を行うことは、事実関係の調査について経験豊富な弁護士が行うことが適任です。あいち刑事事件総合法律事務所には企業法務の経験豊富な弁護士が多数在籍しています。企業不祥事に関してお困りの際は、あいち刑事事件総合法律事務所までご相談ください。
お問い合わせはこちらからどうぞ。
契約書の重要性②
【事例】
Aさんは、山口県下関市で飲食業を営む会社であるⅩ社の従業員です。
Ⅹ社では、来年度からインターネットでの通販を利用して自社のレトルト食品を日本全国に販売することを目指しています。
しかし、Ⅹ社は、これまで自社店舗での販売と地元の小売店への販売しかしていませんでした。
そこで、このような事業拡大にともなって生じる課題に対応するために、Ⅹ社では法務部門を新設することになりました。
そして、Aさんが新設される法務部門の責任者となりました。
X社の法務部門では、事業拡大の際に様々な業者と取り交す契約書のチェックも業務となっています。
しかし、Aさんは弁護士資格を有しているわけではありませんし、他の社員も弁護士資格は有していません。
また、X社にはこれまで顧問弁護士もいませんでした。
そこで、Aさんは、今後予想される契約書チェック業務に対応するために、あいち刑事事件総合法律事務所に相談することにしました。
(事例はフィクションです。)
1 はじめに
前回の記事では、そもそも契約とはなにか、契約書にしておくことに重要性についてみてきました。
今回は、契約の基本的な内容についてみていきます。
2 任意規定・強行規定
前回の記事でも解説したとおり、契約というのは、2人以上の当事者が、権利や義務に関する合意を結ぶことをいいます。
それでは、当事者が合意さえできれば、どのような内容であっても契約は成立するのでしょうか。
答えはもちろん違います。
民法には、「法律行為の当事者が法令中の公の秩序に関しない規定と異なる意思を表示したときは、その意思に従う」という規定を置いています(民法第91条)。
この裏返しとして、「法令中の公の秩序に関」する規定と異なる内容は契約に盛り込むことはできません。
このような「法令中の公の秩序に関」する規定のことを強行規定、「法令中の公の秩序に関しない規定」のことを任意規定といいます。
ここで、少し発展的な解説です。
強行規定と似て非なる概念として、取締規定というものがあります。
取締規定というのは、その名のとおり、国民に対してある行為を制限し、又は禁止することを定める規定です。その多くは、違反すると刑罰などの制裁が定められています。
強行規定と取締規定の違いは、仮に契約の規定が取締規定に違反する内容だったとしても、(もちろん刑罰などの制裁は受けることになりますが、)必ずしも無効となるわけではない点にあります。
具体例としては、公安員会の許可を受けていないのに、自身が風俗営業を営むという契約を締結した場合、風俗営業法の罰則を受けるのは当然ですが、契約自体は無効にならないということです。
いずれにしても、法律に違反するような契約は結ぶべきでないというのは当然です。
3 私的自治の原則
ここまでみてきたとおり、強行規定に反さない限り、私人間の取引では、当事者間が合意することによって自由に決めることができます。
これを私的自治の原則といいます。
契約を締結する場合には、この私的自治の原則のもと、いかに自分たちにとって有利な条件で合意できるかどうかというのがポイントになります。
今回は、任意規定や強行規定、私的自治の原則といった契約の基本的な原則、ルールについて解説していきました。この続きは今後の記事で解説していきます。
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所では、刑事事件に関わってきた経験を活かし、そもそも会社内でのトラブルを回避するための対応・アドバイスにも力を入れています。
一般の方の契約トラブルに関しては,政府も広報に力を入れているほど,契約に関するトラブルは深刻な場合があります。
政府広報オンライン https://www.gov-online.go.jp/useful/article/201803/3.html
契約書の確認をしてほしい、継続的に弁護士からアドバイスを受けたいなどといったご要望の方も、一度、あいち刑事事件総合法律事務所にご相談ください。
社内調査が必要になる場合
社内調査はどのような場合に行われるかについて、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が解説します。
そもそも社内調査とは何か
社内調査とは、一般に、企業内で業務に関し、社員による違法行為や不適切な行為が行われた場合、あるいはその疑いが生じた場合に、企業が主催者となって実施する調査のことをいいます。
社内調査の対象となる行為とは
この社内調査の対象となる社員による違法行為や不適切な行為(以下、まとめて「不正行為」と呼びます。)にはさまざまな種類があります。
まず、違法行為とは、法令に違反する行為のことをいいます、たとえば、インサイダー取引、粉飾決算などの金融商品取引法違反、営業秘密の侵害等の不正競争防止法違反、詐欺、横領、背任、窃盗等の財産犯があります。これらの違法行為は、その社員は刑事責任を問われますし、法令に両罰規定があれば、企業自身も刑事責任を問われることになります。また、金融商品取引法などのように、行政処分を受ける場合もあります。
次に、「不適切な行為」とは、法令には違反している行為ではないが、会社の就業規則やその他規程類に違反する行為、社会通念上不適切と考えられる行為など、会社として何らかの対処を検討とする必要がある行為のことをいいます。たとえば、社員の情報漏洩、パワ―ハラスメント、セクシャルハラスメント、外部に向けた不適切発言などの行為があります。
社内調査が行われる場合
これら不正行為について、企業は、日頃の内部監査、内部通報、外部からの情報提供等を端緒として、社員の不正行為の存在を知り、あるいは、その疑いを抱いた場合に,社内調査を開始することになります。
社内調査は、企業内の不正行為に対して①再発防止のための原因究明や②不正行為に関与した関係者の処分③株主等外部の関係者への説明のために行われ、社内調査により、不正行為に関する証拠を収集し、不正行為の全容を解明していきます。
そして、企業は、社内調査の結果を踏まえて、不正行為に関与した社員に対して社内処分を行ったり、損害賠償等の民事責任の追及や、告訴・告発等の刑事責任の追及を行うなどの措置をとることになります。
すなわち、社内調査は、不正行為の発覚を契機にして、企業が不正行為に対する自浄能力を発揮し、新しい体制を構築するための調査ともいえます。
最後に
社員による企業内の不正行為が発覚した場合には、認定された事実関係を基にしてその後の対応を決していくことになりますので、事実関係を正確に認定することが極めて重要です。
このような事実関係の正確な認定は、事実関係の調査について豊富な経験をもつ弁護士が行うことが適任です。
さらに、両罰規定のある犯罪については、企業自体が被疑者・被告人とされ得るため、企業としては、早期に弁護士に刑事弁護を依頼し、不祥事によって企業が受ける被害を最小限にとどめることが肝要といえます。
社内調査に関してご心配なことや不十分に感じることがある方は,弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所までご相談ください。お問い合わせはこちらからどうぞ。
企業と不正アクセス
企業情報がますます重要になる中、企業としては、自社の従業員等が他社に不正アクセスしないように注意する必要があります。
一方で、企業自身も、自社の情報が不正アクセスをされないようにする必要があります。
不正アクセスに対する十分な対策をせず、顧客の秘密情報などが漏れた場合、企業が責任を負わなければならない可能性があります。
不正アクセスとは
不正アクセス行為の禁止等に関する法律(不正アクセス禁止法)は、不正アクセス行為を禁止しています(同法第1条)。
この法律において「不正アクセス」とは、次のいずれかに該当する行為と定められています(同法第2条第4項)。
①アクセス制御機能を有する特定電子計算機に電気通信回線を通じて当該アクセス制御機能に係る他人の識別符号を入力して当該特定電子計算機を作動させ、当該アクセス制御機能により制限されている特定利用をし得る状態にさせる行為(当該アクセス制御機能を付加したアクセス管理者がするもの及び当該アクセス管理者又は当該識別符号に係る利用権者の承諾を得てするものを除く。)
②アクセス制御機能を有する特定電子計算機に電気通信回線を通じて当該アクセス制御機能による特定利用の制限を免れることができる情報(識別符号であるものを除く。)又は指令を入力して当該特定電子計算機を作動させ、その制限されている特定利用をし得る状態にさせる行為(当該アクセス制御機能を付加したアクセス管理者がするもの及び当該アクセス管理者の承諾を得てするものを除く。次号において同じ。)
③電気通信回線を介して接続された他の特定電子計算機が有するアクセス制御機能によりその特定利用を制限されている特定電子計算機に電気通信回線を通じてその制限を免れることができる情報又は指令を入力して当該特定電子計算機を作動させ、その制限されている特定利用をし得る状態にさせる行為
典型的なのがIDとパスワードを入力してアクセスできるところに、許可なく他人のIDとパスワードを入力してアクセスする場合です。
なお、パスワードは「識別符号」(同法第2条第2項)のうちの「当該アクセス管理者によってその内容をみだりに第三者に知らせてはならないものとされている符号」(同項第1号)に当たりますが、パスワードだけでは意味がないので、IDが「その他の符号」として、IDとパスワードで「次のいずれかに該当する符号とその他の符号を組み合わせたもの」として「識別符号」に当たります。
何人も、不正アクセス行為をしてはなりません(不正アクセス禁止法第3条)。
これに違反すれば、3年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処されます(同法第11条)。 不正アクセス行為の用に供する目的で他人の識別符号を取得すること(同法第4条)や、業務その他正当な理由による場合でなく他人の識別符号をアクセス管理者や利用権者以外の者に提供すること(同法第5条)、不正アクセス行為の用に供する目的で不正取得された他人の識別符号を保管すること(同法第6条)、アクセス管理者になりすましたりアクセス管理者と誤認させて識別符号の入力を要求すること(同法第7条)も、禁止されています。
これらの違反行為をすれば、1年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処されます(同法第12条第1号乃至第4号)。
また、不正アクセスを行い相手方に損害を発生させれば行為者自身が相手方に対し損害を賠償する責任を負います(民法第709条)。また、自社の従業員が自社の事業の執行に関して行えば、企業自身もこれにより発生した損害を賠償しなければなりません(民法第715条第1項)。
不正アクセスの防止のために
自社が不正アクセスを受けた場合、自社が被害者となります。一方で、企業が不正アクセスの防止のために必要な措置をとっておらず、これにより顧客の秘密情報が漏洩するなどの被害が発生した場合、企業自身の社会的信用を失い、また企業が顧客に生じた損害を賠償しなければならない事態になりえます。
企業自身も不必要なサービスを排除したり、アカウントを厳重に管理し、ファイアウオールなどの侵入防止体制を導入するなど、不正アクセスを防止する手段を講じる必要があります。
参考 総務省:不正アクセスによる被害と対策
まとめ
このように、自社の従業員が不正アクセスをしないようにするとともに、自社も不正アクセスを受けないようにする必要があります。 不正アクセスでお悩みの方は、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所へご相談ください。
企業が産業廃棄物を不法投棄するとどのような処分を受けるのか
【事例】
茨城県内で産業廃棄物約2トンを捨てたとして、茨城県警が1日、同県A市の70歳代の男2人を廃棄物処理法違反(不法投棄)容疑で逮捕したことが、捜査関係者への取材で分かった。 県内では近年、山中への大量投棄ではなく、平地の田畑などに少量の産廃を捨て去る手口が横行しており、県や県警が「ゲリラ的不法投棄」と呼んで警戒を強めていた。
(読売新聞オンライン 令和5年6月1日「田畑や駐車場に突然がれきの山が…産業廃棄物物の「ゲリラ投棄」で70代の男2人を逮捕」より引用)
廃棄物処理法について
事例のような不法投棄については、廃棄物の処理及び清掃に関する法律(以下通称である「廃棄物処理法」といいます。)で規制されています。
廃棄物処理法における廃棄物には大きく分けて産業廃棄物と一般廃棄物があり、両者の区別は環境に対する影響の大きさの違いから量刑上重要な意味を持ちます。
区別は以下の通りです。
●産業廃棄物
事業活動に伴って生じた廃棄物のうち、燃え殻、汚泥、廃油、廃酸、廃アルカリ、廃プラスチック類、その他政令で定める廃棄物に加え、輸入された廃棄物と携帯廃棄物。
●一般廃棄物
産業廃棄物以外の廃棄物。
そして廃棄物を不法に投棄した場合については刑事罰が定められており、法定刑は「5年以下の懲役もしくは1000万円以下の罰金、または併科」です(廃棄物処理法16条、25条1項14号)。
また、廃棄物処理法には両罰規定があるので法人が不法投棄をしていた場合には、法人にも罰金刑が科されます。 法定刑は「3億円以下の罰金」です(廃棄物処理法26条6号)。
企業が不法投棄をしていた場合に負う責任
1 刑事上の責任
上記のように不法投棄をした場合には刑事罰が定められており、捜査を受けて刑事罰を受ける可能性があります。 不法投棄の態様や、行政指導に対する対応が悪質であると判断された場合には、不法投棄を主導した者が逮捕されるケースもあります。
態様が悪質と判断されるケースとしては複数回投棄をしていること、有毒物質を出すなど廃棄物が周辺の環境に与える影響が大きいこと、複数回行政指導を受けているにもかかわらずそれを無視しているなどの事情があるケースが考えられます。
そして刑事罰については初犯であれば罰金刑となるケースが多いですが、先述した悪質性が高い事案や廃棄物の量が1トンを超えるようなケースでは正式起訴されて執行猶予付きの判決を受けるケースや実刑判決を受けるケースもあります。
刑事処分の軽減のためには捜査段階から悪質性が高くない事情や原状回復を行っているなどの有利に働く事情を主張していく必要があります。 仮に執行猶予付きであれ経営者が懲役刑を受けることは、役員資格を失う、代表者名義で取得している行政上の許認可の取消事由になるなど企業の経営に与える影響が大きいことが考えられます。
2 民事上の責任
民事上の責任としては、不法投棄をした場所が私有地である場合にはその所有者から、公有地である場合については公共団体から損害賠償請求をされる可能性があります。
損害賠償の主な内容としては不法投棄がされた場所の原状回復費用になります。 先述したように原状回復の有無は刑事処分の判断においても重視されるので、被害者が明らかになった場合は早期に賠償や示談の交渉を始めることが望ましいといえます。
企業として不法投棄に対する事前の対策と発生後の対応について
1 事前の対策
事前の対策として特に建設業や解体業など多くの廃棄物が出ることが予想される業種については事前の対策を検討してもよいかもしれません。 社員や関連業者に対する指導やコンプライアンス対策を徹底し自社が関係することろで不法投棄が発生しないように対策することが求められます。
2 事後の対応
不法投棄の発覚については、いきなり警察が介入する場合だけでなく、行政側からの指導が入るケースもあります。 もし不法投棄について行政側からの指導が入った場合については原状回復など適切な対応を行って調査に対して再犯防止策を取っていることなどを説明するなど適切な対応をすることで刑事事件となり刑罰を受けることを避けられる可能性もあります。
仮に刑事事件化して、企業の経営者が逮捕された場合については早期に身柄解放するべく検察官や裁判官と交渉する必要があります。一度起訴されれば刑事処分を受けることになるので身柄解放だけでなく刑事処分に対する検察官に対する交渉も早期に始める必要があります。
刑事処分を受けるとしてもより経営への影響の少ない罰金刑でとどまるように、原状回復や再犯防止策の徹底など有利な事情を集め主張していく必要があります。
最後に
あいち刑事事件総合法律事務所では刑事事件、少年事件を数多く扱ってきており廃棄物処理法違反事件でも不起訴や正式裁判の回避(略式罰金)など被疑者の方にとって有利な処分を獲得した経験もございます。
また企業の経営の面でも、企業ホームチームがコンプライアンス対策や再犯防止策の策定など不法投棄事案の発生の防止や再犯防止の徹底をサポートさせていただきます。 今後の再犯防止策の徹底は刑事処分でより有利な判断を得るためにも有利な事情になります。 不法投棄などの廃棄物処理法違反事件についてご心配な方は、まずはあいち刑事事件総合法律事務所の無料相談(専用ダイヤル03−5989−0893)をご利用ください。
不正経理等企業内部の不正行為
企業内あるいは外部との取引において、水増し請求をしたり不正経理をしたりして、横領等を隠蔽したり、差額分を着服したり相手方からキックバックを受けたりすることがあります。このような不正行為は長期間にわたって続けられることが多く、被害は甚大になることが多々あります。
不正経理行為に対して成立する犯罪や、その予防について解説します。
詐欺・電子計算機使用詐欺
実際に行ってもいない出張の交通費を会社に請求したりすることなどが考えられます。このような行為は詐欺罪に当たり、10年以下の懲役に処されます(刑法第246条第1項)。
虚偽の費用や給与金額を入力して給与振り込みをさせるなど、自然人の担当者に虚偽の情報を伝えるのではなく、虚偽の情報をコンピューターに入力して利益を得た場合、電子計算機使用詐欺罪が成立します。法定刑は詐欺罪と同じ、10年以下の懲役です(刑法第246条の2)。
業務上横領・窃盗
会社内の備品を勝手に売却したりすることが考えられます。自分が管理担当者であるなど、業務上自己の支配下に置いているといえる場合は業務上横領罪(刑法第253条)、そうでない場合は窃盗罪が成立します(刑法第235条)。
背任罪
他人のためにその事務を処理する者が、自己若しくは第三者の利益を図り又は本人に損害を加える目的で、その任務に背く行為をし、本人に財産上の損害を加えたときは、5年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処されます(刑法第247条)。知り合いに便宜を図るため、通常であれば融資しないような案件で融資を行うような場合が考えられます。
取締役等が行えば、特別背任罪が成立し、10年以下の懲役または1000万円以下の罰金、又はこれを併科される(会社法第960条)という、非常に重い刑を科されます。
前述の業務上横領罪等に該当すれば、より重いこれらの罪の刑が成立します。背任罪とこれらの犯罪のいずれが成立するかは、具体的な事案により判断されますが、犯罪の種類ごとに判断はある程度類型化されています。例えば、業務上横領罪か背任罪かについては、自己の名義・計算で行えば業務上横領罪、本人つまり会社の名義・計算で行えば背任罪となるとされています。
第三者への対応
水増し請求など第三者がかかわる場合、自社は他社にとって加害者となりえます。取引先に水増し請求をして実際に行った業務より多くの代金を支払わせた場合、取引先を被害者とする詐欺罪に当たります。これに続いて、自社には実際に行った業務分の代金が支払われたと報告して、差額分を着服することが考えられます。このようなことをすれば自社に対する業務上横領が成立します。また、取引先で不正を行った者について成立する犯罪の共犯(刑法第60条以下)となる可能性もあります。
社内調査
以上のような不正行為は、他にチェックする人がいなかったり、複数名がチェックすることになっていても形骸化している状況を利用して行われます。その結果、誰も気が付くことなく、長期間にわたって続けられることが多いです。メンバーの異動があっても、「今までこういう風にやってきたから」などと言われて、特に疑問に思うことなく受け入れてしまい、不正が行われ続けてしまうことも多く見受けられます。
このような不正が発覚したとしても、既に長期間行われていて、被害金額が膨大になっている可能性があります。また、時間の経過により、資料も散逸していて、被害金額を特定することが困難なこともあります。
責任追及
不法な行為によって自社が損害を受けた場合、損害賠償を請求できます(民法第709条)。
取締役や監査役等の役員等に当たる者が、その任務を怠ったときは、株式会社に対し、これによった損害を賠償する責任を負います(会社法第423条第1項)。第三者に対し賠償責任を負う場合もあります。
基本的には、不法行為をした者自身が当該第三者に損害賠償責任を負います。役員等であれば、その職務を行うについて悪意又は重大な過失があったときは、これによって第三者に生じた損害を賠償する責任を負います(会社法第429条第1項)。第三者の損害についての故意ではなく、職務上の注意義務ついて悪意又は重過失があれば該当します。
また、従業員などの被用者がその事業の執行について第三者に損害を加えた場合、企業も、その損害を賠償する責任を負います(民法第715条第1項)。
時効
被害金額を特定できたとしても、不正が長期間行われていた場合、初期に行われた不正行為については、時効にかかっている可能性があります。
民事責任については、不法行為に基づく損害賠償請求権は、被害者側が損害及び加害者を知った時から3年間行使しないとき、又は不法行為の時から20年間行使しないときは、時効により消滅します(民法第724条)。
取締役の任務懈怠責任等不法行為以外の責任の場合は、他の債権と同じく債権者が権利を行使することができることを知った時から5年間、権利を行使することができる時から10年間行使しないときは、時効により消滅します(民法第166条第1項)。
刑事責任については、刑の種類により時効の期間が異なります(刑事訴訟法第250条)。電子計算機使用詐欺罪や業務上横領罪の場合は、10年以下の懲役ですので、7年経過すれば、時効により消滅します(刑事訴訟法第250条第2項第4号)。時効より前の不正行為については、刑事処分を求められなくなります。
不正防止のために
以上のように、不正経理が行われれば、自社に多大な損失をもたらすだけでなく、自社が加害者となり、責任を負うことになりかねません。
このような事態を防ぐために、企業内におけるコンプライアンス体制を整備しておく必要があります。
内部通報制度を整備するなどして、不正の報告をするハードルを下げることなども重要です。
企業犯罪の防止についてお悩みの方は、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所へご相談ください。
契約書の重要性①
【事例】
Aさんは、山口県下関市で飲食業を営む会社であるⅩ社の従業員です。
Ⅹ社では、来年度からインターネットでの通販を利用して自社のレトルト食品を日本全国に販売することを目指しています。しかし、Ⅹ社は、これまで自社店舗での販売と地元の小売店への販売しかしていませんでした。そこで、このような事業拡大にともなって生じる課題に対応するために、Ⅹ社では法務部門を新設することになりました。
そして、Aさんが新設される法務部門の責任者となりました。
X社の法務部門では、事業拡大の際に様々な業者と取り交す契約書のチェックも業務となっています。
しかし、Aさんは弁護士資格を有しているわけではありませんし、他の社員も弁護士資格は有していません。
また、X社にはこれまで顧問弁護士もいませんでした。そこで、Aさんは、今後予想される契約書チェック業務に対応するために、あいち刑事事件総合法律事務所に相談することにしました。
(事例はフィクションです。)
1 はじめに
契約書の内容を確認することの重要性を考える大前提として、今回はそもそも契約とはなにかというところからみていきましょう。
2 契約とは
契約というのは、2人以上の当事者が、権利や義務に関する合意を結ぶことをいいます。
当事者には、生身の人間(自然人ということもあります。)に限らず、会社などといった法人もなることができます。
また、契約は、“合意を結ぶこと”であるというのもポイントです。
つまり、どのような契約であっても、契約書などといった書類を取り交す必要があるというわけではありません。
口頭で合意している場合であっても、契約は成立することになります。
その一方で、例えば保証契約については、書面で取り交す必要があるというのが法律で定められています(民法446条2項)。
「契約書」と一言でいっても解釈が難しい場合があります。例えば,税金の関係上「契約書」の扱いについては国税庁が通達を出しています。
3 契約書の重要性
それでは、保証契約のように書面で取り交す必要がある場合を除き、契約書を取り交わさなくてもいいのでしょうか。
もちろん契約書があるに越したことはありません。
まず、契約書があると、お互いの合意の内容が明確になりますから、将来的に契約内容を巡ってトラブルになる可能性を下げることができます。
また、仮にトラブルに発展して裁判となった場合には、契約書がその裁判の中で強力な証拠となる可能性もあります。
さらに、契約が潜在的に抱えているリスクをコントロールする手段ともなりえます。
例えば、契約した段階では財務状況に何ら問題のない会社であったとしても、何かのきっかけで急速に財務状況が悪化してしまい、支払いが滞ってしまう可能性もあります。
また、取引の相手方が、裏では反社会勢力と繋がりがあるのに、それを隠しているかもしれません。
他にも、取引の中で開示した情報を他社にもらされてしまうおそれ、継続的な取引でないと自社に利益が生じない場合に短期間で解約されてしまうおそれなども考えられます。
このようにリスクとしては多種多様なものが考えられますし、自社がどのようなリスを抱えていて、そのリスクがどの程度の大きさなのかも会社ごとに様々です。
そのようなリスクを回避したり、リスクが顕在化した場合の影響を減少させたりする条項を契約書の中に盛り込むことで、リスクのコントロールが可能になります。
まとめ
今回は、契約や契約書について解説していきました。この続きは今後の記事で解説していきます。
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所では、刑事事件に関わってきた経験を活かし、そもそも会社内でのトラブルを回避するための対応・アドバイスにも力を入れています。
契約書の確認をしてほしい、継続的に弁護士からアドバイスを受けたいなどといったご要望の方も、一度、あいち刑事事件総合法律事務所にご相談ください。
お問い合わせはこちらからどうぞ。
SNSでの迷惑行為への企業の対応
飲食店内で容器を舐めるような迷惑行為の様子を撮影してネットに上げるといった事件が続発し、社会問題となっています。このような迷惑行為の存在自体お店のイメージを下げることになりますが、企業が適切に対応していないとして、企業が責められ、社会的信用を失うことになりかねません。さらに、自社の従業員やアルバイトが、調理に使う具材にいたずらをするなどの迷惑行為の様子を撮影してネットに上げる、いわゆるバイトテロをしてしまえば、企業の社会的信用はさらに下がりかねません。
迷惑行為に対して成立する罪
いかに「いたずら」「悪ふざけ」と思っていたとしても,刑罰法令に抵触する場合には犯罪が成立します。
いわゆるバイトテロに対しては,以下のような刑法犯の成立があり得ます。
業務妨害罪
冒頭にあげた迷惑行為については、偽計業務妨害罪(刑法第233条)又は威力業務妨害罪(刑法第234条)が成立する可能性があります。
威力業務妨害罪の「威力を用いて」とは、人の意思を制圧する勢力を用いることをいいます。偽計業務妨害罪の「偽計を用いて」とは、人を欺き、あるいは、人の錯誤・不知を利用したり、人を誘惑したり、計略や策略を用いるなど、「威力」以外の不正な手段を言うとされています。
「威力」と「偽計」のいずれに該当するかを判断するにあたっては、行為の態様又は結果のいずれかが目に見えるものであれば「威力」に、目に見えないものであれば「偽計」になるとするのが一般的です。迷惑行為の様子をネットに上げることで、多くの人の目にさらされ、店舗内でそのような行為が行われているとか、自分が使った容器もそのようにされているのではないかと多くの人が不安に陥り意思が制圧されるといえます。したがって、「威力を用いて」に該当すると考えられます。
そして、迷惑行為がネットに上げられると、ネットで情報がさらに拡散し、利用者が不安に思って店に来なくなる可能性があります。また、調味料の容器を舐められたのであれば店内のすべての容器を入れ替えなければならないなど、迷惑行為に関係する備品を撤去するなどの対応が必要となり、通常の業務さえもできなくなります。これは業務の円滑かつ平穏な遂行そのものを妨害する行為であり、「業務を妨害した」といえます。
偽計業務妨害罪,威力業務妨害罪に対しては3年以下の懲役又は50万円以下の罰金が科されます。
器物損壊罪
迷惑行為に当たり、容器に手を付けるようなことをすれば、器物損壊罪(刑法第261条)が成立する可能性があります。
「他人の物を損壊」とは、物の効用を害することとされています。飲食店の容器を舐めるなどすれば、その容器はもはや客に提供することができなくなります。これは物の効用を害するに当たるといえ、器物損壊罪に該当する可能性があります。
器物損壊罪に対しては3年以下の懲役又は30万円以下の罰金が科されます。
迷惑行為への対応
迷惑行為が行われても、インターネットのような多くの人々が目にする場所に上げる手段がない時代であれば、迷惑行為をした者に個別に対応すれば済みました。しかしながら、多くの人々の目にさらされる現在では、適切とされる対応を取らなければ、企業自身が加害者かのように扱われかねません。
加害者への対応
加害者に対する企業の対応としては、民事責任の追及として、加害者への不法行為に基づく損害賠償請求が考えられます(民法第709条)。
加害者が未成年者(18歳に満たない者。第4条)で自己の行為の責任を弁識するに足りる知能を備えていなかった場合、監督義務者である保護者に請求することになります(民法第712条・第714条第1項)。
ただし、これは12歳前後までの年齢で問題になることであり、高校生などアルバイトをするような年齢では自己の行為の責任を弁識するに足りる知能を備えていなかったとされることはまずありません。監督義務者に請求できない場合、本人に請求することになります。
損害については、不法行為と因果関係があるものについて認められます。例えば、容器を舐められたのであれば、店内のすべての容器を取り換えたり、消毒するなどの対策をする費用が生じます。このような、加害者の行為により生じた費用については損害といえ、損害賠償請求をすることが可能です。
一方で、このような加害者の行為により株価が下がり、企業が大きな打撃を受けたなどしばしば主張されます。しかしながら、企業の株価は市場の状況など様々な要素の影響を受けます。加害者の行為が原因で株価が下がりそれによりどれだけの損害が生じたかを証明するのは難しいでしょう。
企業としては、民事責任のほか、刑事責任を追及するため、威力業務妨害罪や器物損壊罪などで被害届や告訴をすることが考えられます。
社会への対応
迷惑行為により、社会の人々も、その企業の店舗を利用しても安全なのか不信感を抱いてしまいます。時宜にかなった広報や会見を行うことにより、この不安を解消する必要があります。とくにネット上では犯人に重い代償を払わせるべきだという声が大きくなりがちですが、前述のようにそのようなことはできないこともあります。企業としては、自社が行った対応やその理由について丁寧に説明し、一人でも多くの人々の納得できるようにするべきです。
まとめ
このように、SNSでの迷惑行為については、企業は様々な事情を考慮して対応していく必要があります。
SNSでの迷惑行為について不安な方は、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所へご相談ください。
取締役等に対する贈賄罪、収賄罪について賄賂が問題になるのは公務員だけではないの?
【事例】
A社の取締役であるXさんは、下請け業者のB社のYさんから、自分を優遇してもらうことをお願いされて100万円の金銭を受け取りました。
そしてXさんはYさんが自宅を購入するための資金に困った際に、A社名義でYさんにとって非常に有利な条件で多額の融資をしていました。
取締役がお金を受け取っても収賄罪が成立するの?
以前の記事では公務員に対する贈収賄罪や官製談合防止法違反の対応について解説しました。
しかし、取締役などの会社役員であっても職務に関して金品を受け取るなどした場合に刑事責任を負う可能性があることはあまり知られていないかもしれません。
確かに刑法上の贈賄罪や、収賄罪は主体や客体が公務員に限定されています。
したがって事例のようなケースでも刑法上の収賄罪は成立しません。
但し会社法には、取締役などの会社役員について贈収賄の規定があり刑事罰も規定されています。以下に条文を紹介します。
会社法第967条(取締役の贈収賄)
1 次に掲げる者が、その職務に関し、不正の請託を受けて、財産上の利益を収受し、又はその要求若しくは約束をしたときは、5年以下の懲役又は500万円以下の罰金に処する。
一 第960条第1項各号又は第2項各号に掲げる者
二 第961条に規定する者
三 会計監査人又は第346条第4項の規定により選任された一時会計監査人の職務を行うべき者
2 前項の利益を供与し、又はその申込み若しくは約束をした者は、3年以下の懲役又は300万円以下の罰金に処する。
この条文にある会社法960条、961条に掲げる者には取締役や監査役などの会社役員が含まれます(詳しくは会社法960条、961条をご確認ください)。
ではこの条文の規定する内容について、刑法上の贈収賄罪との違いはあるでしょうか。
会社法の贈収賄と刑法上の贈収賄との比較
では比較するために刑法上の収賄罪の条文を以下にあげます。
刑法第197条
公務員が、その職務に関し、賄賂を収受し、又はその要求若しくは約束をしたときは、五年以下の懲役に処する。
この場合において、請託を受けたときは、七年以下の懲役に処する。
まず、公務員を規定する刑法の場合は「その職務に関し」とのみ規定があります。
請託、すなわち何か具体的なお願いをされた場合については罪を重くする事情であり(この場合より法定刑の重い受託収賄罪が成立します)、請託をされていなくて収賄罪は成立します。
これに対して、会社法の規定では、「その職務に関し、不正の請託を受けて」というように規定されています。
すなわち取締役に収賄罪が成立するのは、不正な請託、本件でいえば不正な条件でお金を貸してほしいなどというお願いがあった場合になります。
また渡すものについても規定が異なっています。
刑法上の収賄罪については「賄賂」と規定されているのに対して、会社法上の収賄罪については「財産上の利益」と規定されています。
刑法上の「賄賂」については、判例上「賄賂の目的物は、有形無形を問わず、人の需要・欲望を満たすに足りる一切の利益を含む」とされており、財産上の利益に限定していません。
したがって、会社法上の「財産上の利益」とは刑法上の「賄賂」より対象を限定しているといえます。
以上のように刑法上の贈収賄と会社法上の贈収賄では成立する範囲について違いがあります。
今回の記事では取締役が会社の職務に関して金品を受け取った場合にも収賄罪が成立する場合があること、刑法上の収賄罪との成立範囲の違いについて解説しました。
次回の記事では事例のようなケースが明らかになった場合に、会社が取るべき対応について解説させていただきます。
社内調査におけるヒヤリングの留意点③
社内調査におけるヒヤリングの留意点について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が解説します。
そもそも社内調査とは何か
社内調査とは、一般に、企業内で業務に関し、社員による違法行為や不適切な行為(以下、まとめて「不正行為」と呼びます。)が行われた場合、あるいはその疑いが生じた場合に、企業が主催者となって実施する調査のことをいいます。
社内調査におけるヒヤリングの意味
社内調査のためには、事案に関連する資料を当該部署から収集し、確認をするほか、最も重要なものとして、社員に対するヒヤリングの実施があります。
企業で不正行為が行われ、またその疑いがある場合に、事実関係を解明するため、事情を知っている関係者のヒヤリングを実施することは必要不可欠です。
今回は、企業が、不正行為を行った疑いのある社員(嫌疑者)に対するヒヤリングを実施する際の留意点について解説します。
嫌疑者に対するヒヤリングの持つ意味
社内調査は、不正行為の事実関係を解明し、不正を行った者を突き止め、この者に対する各種処分等を通じて、企業が自浄能力を発揮し、新たな体制を整える基礎をつくるために実施されるものです。
したがって、事案に関連する資料の分析や関係者に対するヒヤリング等から不正行為を行った疑いのある社員(嫌疑者)が特定された場合、嫌疑者が最終的に不正を行ったことを自白してくれれば、社内調査の目的はほぼ達成されたといえます。
しかし、前々回でお話ししたように、企業による社内調査では、刑事事件の捜査で認められているような強制的な調査権限が与えられているわけではありませんし、時間的な制約がある場合もありますから、社内調査にはそもそも限界があります。この点が社内調査の難しいところです。
嫌疑者に対するヒヤリングを行う際の留意点
まず最初に、嫌疑者に対するヒヤリングでは、最初は、手の内を見せずに、相手の言うことを否定せずに自由に話をさせることが効果的な場合が多いといえます。
この方法であれば、嫌疑者が真相を語っていない場合、証言に矛盾が出てくることも多く、事後に客観的な証拠と照らし合わせて追及することで自白に導けることがあります。
また、ヒヤリングをする側も結論ありきで話をしないこと、すなわち、思い込みは禁物です。他の証拠から不正行為の事実関係を推測し解明していくことは重要ですが、ヒヤリングの最初から結論ありきで質問した場合、せっかく嫌疑者が正直に真相を語ろうとしているのに、反発心が生じてかえって口を閉ざしてしまうなど、弊害が起きる場合があります。
思い込みが強すぎますと、それに合致する都合のよい証拠しか目に入らなくなるおそれがあり、真相を見誤ることにもなりかねません。
次に、嫌疑者は精神的に非常に不安定になっている場合も多く、嫌疑者を精神的に威圧するなど、精神的に追い込むことはNGです。あくまで冷静に証拠に基づき論理的に自白を導くことが基本です。「素直に認めないとクビにするぞ(あるいは、刑事告訴するぞ)。」などと圧力をかけて供述を引き出すことは企業の社内調査として行ってはいけないことであり、そのような手法によって嫌疑者が仮に自白したとしても証言の信用性に疑義が生じることになります。他方、嫌疑者が虚偽の弁解を繰り返し続ける場合には、虚偽の弁解を続けることは情状が悪くなること、事実関係を正直に話せば懲戒解雇は免れる可能性があることなどを指摘し、正直に供述し事実を認めるよう促すことは必要かつ有効です。
最後に
社内調査をする際には、人証(関係者へのヒアリングなど)と物証(事案に関連する資料)の両方を調べることが必要となり、必要に応じて外部の専門家を利用することも考えられます。
事実を明らかにするためには、どれだけ証拠を集められるかが重要です。調査に慣れている弁護士に依頼して、社内の担当者と一緒に進めていくのがベストといえるでしょう。
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