Archive for the ‘不祥事・危機管理’ Category
福祉施設の職員による虐待事案について③
福祉施設の職員による虐待事案について、施設側の不祥事対応の観点から弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が解説します。
施設職員による虐待発生時、施設が負うリスク
市町村は虐待の通報を受けると当該施設に対して必要な調査を行います。そして、施設に対し虐待が判明すると改善を求める行政指導を行います。指導を行ったにもかかわらず、改善がみられない場合には、法令に基づき改善命令が下されたり、最悪指定取り消しという厳しい行政処分が下される可能性があります。加えて事件が報道されることによって、施設の信用が損なわれてしまうというリスクもあります。
施設職員による虐待が発生した場合における施設の対応
たとえば、施設内で職員から高齢者に対する虐待行為が行われている可能性がることが判明した場合、施設側は今後どのように対応すべきでしょうか。
① 施設内での聞き取り調査及び記録
高齢者本人やその家族、職員らから施設内における虐待の相談を受けた場合、担当の責任者へ報告した上で、施設長にも報告することが求められます。
その後、聴き取りが可能な場合には被害者である高齢者本人、加害者の職員、その他の職員への聴き取りを行って事実確認を行い、虐待事実をきちんと把握することがまずもって重要です。その際、被害者に外傷が見られた場合には、写真を撮影させていただくなど証拠の保全に努めるべきです。
また、施設内で調査を行った場合、調査を行った経緯や結果については記録として残しておくことが必要です。
② 市町村に対する通報
高齢者虐待防止法は、養介護施設従業者等に対して、自らが業務に従事する養介護施設又は養介護事業において、高齢者虐待を受けたと思われる高齢者を発見した場合は、速やかに市町村に通報しなければならないと定めています(法21条1項)。
ここで注意すべきことは、施設内における聴き取り調査の結果、確実に虐待があったと判断できる場合だけでなく、「虐待を受けたと思われる」時点、すなわち虐待の疑いが払しょくできない場合であっても速やかに通報しなければならないとされている点です。
虐待の事実を隠蔽した場合、後からその事実が発覚してしまうと、行政処分の判断が厳しくなるなど、結局、施設側にとってかえって不利になってしまいます。虐待の隠蔽は絶対に避けるべきでしょう。
次回は、虐待事実の把握の仕方、すなわち、虐待の有無の調査の仕方について掘り下げて解説します。
最後に
施設内で虐待行為が行われている可能性が判明した場合には、調査によって虐待の有無を明確にすること、事実関係を正確に認定することが極めて重要です。しかしながら、施設自らが事実確認の調査を行うことは簡単なことではありません。事実確認の調査を行い、事実関係を正確に認定するには、事実関係の調査について豊富な経験を持つ弁護士が行うことが適任といえます。
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契約書の重要性⑥ 押印がないと無効?
【事例】
Aさんは、山口県下関市で飲食業を営む会社であるⅩ社の従業員です。
Ⅹ社では、来年度からインターネットでの通販を利用して自社のレトルト食品を日本全国に販売することを目指しています。
しかし、Ⅹ社は、これまで自社店舗での販売と地元の小売店への販売しかしていませんでした。
そこで、このような事業拡大にともなって生じる課題に対応するために、Ⅹ社では法務部門を新設することになりました。
そして、Aさんが新設される法務部門の責任者となりました。
X社の法務部門では、事業拡大の際に様々な業者と取り交す契約書のチェックも業務となっています。
しかし、Aさんは弁護士資格を有しているわけではありませんし、他の社員も弁護士資格は有していません。
また、X社にはこれまで顧問弁護士もいませんでした。
そこで、Aさんは、今後予想される契約書チェック業務に対応するために、あいち刑事事件総合法律事務所に相談することにしました。
(事例はフィクションです。)
1 はじめに
前回の記事では、契約書の押印についてみてきました。
今回は、契約書に押印があるということの法律的な意味について深掘りしていきます。
2 文章の成立の真正
契約が成立して契約書を取り交わし、契約のとおりに契約の内容が完遂できれば問題になることはあまりありません。
しかし、何かトラブルがあった場合に、当事者の間で争いが生じ、契約書どおりに契約が成立したかどうかが問題になることがあります。
そのように争いが生じた結果、民事裁判になったとしましょう。
このような民事裁判で契約書を証拠として提出する場合、「成立が真正であることを証明しなければならない」とされています(民事訴訟法228条1項)。
このように文書が真正に成立したものだと証明する必要が出てくることがあります。
この場面で、“二段の推定”と呼ばれる方法を使って証明することができます。
この二段の推定の場面で、契約書の押印が重要な意味を持ってきます。
3 二段の推定
まず、民事訴訟法228条4項には、「私文書は、本人又はその代理人の署名又は押印があるときは、真正に成立したものと推定する」という規定があります。
そして、この「本人又はその代理人の署名又は押印があるとき」というのは、この「署名又は押印」が「本人又はその代理人」の意思に基づいてされたといえる必要があります。
つまり、「本人又はその代理人」の意思に基づいてされた押印があれば、この民事訴訟法228条4項に基づいて、文書が真正に成立したものと推定されます。
これは二段の推定のうちの二段目の推定です。
そこで次に問題となるのは、その押印が「本人又はその代理人」の意思に基づいてされたのかどうかです。
しかし、日本の社会においては、印鑑は大切に保管するものですから、本人の印鑑を他人が勝手に使用するなどということは、通常はありえません。
そのため、反証がない限り、本人の印鑑で押印されていれば、それは本人の意思に基づいて押印されたのだと推定できるというのが判例の考えです。
これが一段目の推定です。
以上から、本人の印鑑による押印があれば、それは本人の意思に基づいた押印だと推定され、そのことと民事訴訟法228条4項により、文書全体が真正に成立したものだと推定されることになります。
ところで,なぜこのような規定が置かれているのでしょう。
文書が真正に成立したものだと証明するのは必ずしも容易ではありません。
嘘をついてでも裁判に勝ちたいと考える者は「その契約書にサインをしたのは自分ではない」と平気で主張することがあるからです。
しかし、契約書に相手の署名や押印がされているのに、それだけでは真正に成立したのだといえないのでは違和感があるのではないでしょうか。
その問題を解決するのがこの二段の推定なのです。
今回は、契約書に押印があることの持つ意味、特に二段の推定について解説していきました。この続きは今後の記事で解説していきます。
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所では、刑事事件に関わってきた経験を活かし、そもそも会社内でのトラブルを回避するための対応・アドバイスにも力を入れています。
契約書の確認をしてほしい、継続的に弁護士からアドバイスを受けたいなどといったご要望の方も、一度、あいち刑事事件総合法律事務所にご相談ください。
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第三者委員会について③
第三者委員会について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が解説します。
そもそも第三者委員会とは何か
日本弁護士連合会が公表した「企業不祥事における第三者委員会ガイドライン」(以下「ガイドライン」という。)では、第三者委員会について、「企業や組織(以下、「企業等」という)において、犯罪行為、法令違反、社会的非難を招くような不正・不適切な行為等(以下、「不祥事」という)が発生した場合及び発生が疑われる場合において、企業等から独立した委員のみをもって構成され、徹底した調査を実施した上で、専門家としての知見と経験に基づいて原因を分析し、必要に応じて具体的な再発防止策等を提言するタイプの委員会」と定義しています。
第三者委員会の活動の内容とは
ガイドラインでは以下の行為が第三者委員会の活動とされています(ガイドライン1、2頁・第三者委員会の活動)。
1.不祥事に関連する事実の調査、認定、評価
第三者委員会は、企業等において、不祥事が発生した場合において、調査を実施し、事実認定を行い、これを評価して原因を分析する。
(1)調査対象とする事実(調査スコープ)
第三者委員会の調査対象は、第一次的には不祥事を構成する事実関係であるが、それに止まらず、不祥事の経緯、動機、背景及び類似案件の存否、さらに当該不祥事を生じさせた内部統制、コンプライアンス、ガバナンス上の問題点、企業風土等にも及ぶ。
(2)事実認定
調査に基づく事実認定の権限は第三者委員会のみに属する。
第三者委員会は、証拠に基づいた客観的な事実認定を行う。
(3)事実の評価、原因分析
第三者委員会は、認定された事実の評価を行い、不祥事の原因を分析する。
事実の評価と原因分析は、法的責任の観点に限定されず、自主規制機関の規則やガイドライン、企業の社会的責任(CSR)、企業倫理等の観点から行われる。
2.説明責任
第三者委員会は、不祥事を起こした企業等が、企業の社会的責任(CSR)の観点から、ステークホルダーに対する説明責任を果たす目的で設置する委員会である。
3.提言
第三者委員会は、調査結果に基づいて、再発防止策等の提言を行う。
ガイドラインでは、第三者委員会は、すべてのステークホルダーのために調査を実施し、その結果をステークホルダーに公表することで、最終的には企業等の信頼と持続可能性を回復することを目的とする、とされています(ガイドライン1頁・基本原則)。
そのため、第三者委員会は、関係者の法的責任を問うというよりも、原因の究明及び再発防止策の策定等の点に主眼を置き、これを関係者に公表することを主とする方がよいと考えられます。とりわけ、不祥事が発生した企業において、今後、安定的な経営を行っていくためには、再発防止策の策定は、企業にとって極めて重要な問題といえます。
なお、第三者委員会の調査は、法的な強制力をもたない任意調査であるため、企業は、全面的に協力することが不可欠です。
第三者委員会について、この続きは今後の記事で解説していきます。
最後に
第三者委員会のメンバーを構成するときに弁護士がその主要なメンバーとなるのが通常です。それは弁護士は、その職務上、事実調査や法的な判断などを日頃から業務として行っているので、調査が正確に行われる蓋然性が高いということにあります。
企業で不祥事が発生し、第三者委員会設置を考えておられる、あるいは、不祥事が起きていなくても、不祥事の事前の回避を真剣に考えておられる企業経営者等の方は、早めに弁護士にご相談ください。
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企業側のハラスメント対応② ハラスメントが発覚した場合に企業側がとるべき対応
(事例)
X社に勤めるAさんは同じ部署の後輩女性であるBさんに対して好意を抱き、①たびたびBさんの体に触れる、②一緒に食事に行かなければ人事評価を下げると脅して食事に無理やり連れて行くなどの行為をしていました。
BさんはX社のセクハラ相談窓口に上記の被害を相談しました。X社の労務担当者としてはどのような対応をとるべきでしょうか。
1 ハラスメントに対応するために会社におくべき体制
まずは会社のあるべき体制として、本件X社が置いていたセクハラ相談窓口のように内部でハラスメントが発生し場合に備えて職場でのハラスメントに対する内部通報システムを設けておくことが望ましいといえます。
なぜならば会社にそのような体制があれば問題が大きくなる前に早期に発覚し、適切かつ迅速に対応することが可能になるからです。
当然問題によっては外部の機関にも相談することが適切な場合もありますが、ハラスメントの問題が大きくなる前に自社内で解決することができれば会社の評判等への影響も少なく、また当事者にとっても被害が浅いうちに適切に対応してもらえることで、その後も会社に残りやすくなるなど穏便な解決を図りやすいといえます。
厚生労働省も,各種ハラスメントに関しては対策マニュアルを策定して公表しています。
しかしながらそのような体制を敷いていたとしても通報があった際に不適切な対応をとってしまっては本末転倒となってしまいます。そこで次に、通報があった場合の対応や、不適切な対応をした場合の会社の責任について解説させていただきます。
2 会社側の対応で会社が負う可能性のある責任
前回の記事ではハラスメントの加害者が刑事責任を負う可能性がある場合について解説しました。
本件の事例では、①の行為について暴行罪や不同意わいせつ罪の成立が考えられます。②については強要罪が成立する可能性があり、刑事処罰の対象となる可能性が高い事例であると言えます。
加害者の行為が刑事処罰の対象となるとしても会社側、経営者側が刑事責任を負う場合は稀になります(ハラスメントを苦に被害者が精神障害を負った場合や自殺した場合に業務上過失致死傷罪の責任を負う可能性はあります)。
その一方で不適切な対応をとった場合には民事上の善管注意義務や安全配慮義務に違反したとして会社側が損害賠償責任を負う可能性はあります。
代表的な例を挙げると、事例のように通報があって被害を把握しながら事態を放置した場合などです。
他にもセクハラ被害を通報した被害者に対して逆に「セクハラを受けたのはお前のせいだ」などと会社側がセクシャルハラスメントに該当するような言動をした場合には、会社が不法行為をしたとして損害賠償責任を負ってしまう可能性もあります。
このように会社に責任がある場合は金銭的負担が発生することはもちろん、会社側が不適切な対応をとったことが世間に公表されることで企業イメージが大きく損なわれかねません。それだけ被害を認識した会社の対応には責任やリスクが伴いますので特に慎重な対応が求められるのです。
3 ハラスメントが発覚した場合の対応
(1) 内部調査
まずは通報のあった事例について関係者や当事者からの聴き取りなど通じた内部調査を行うことが重要になります。
特にハラスメントの被害者からの聴取は慎重に行う必要があります。
聴き取りが不適切であれば会社に対する信頼を害し外部機関へ相談することも検討するでしょうし、先述のように対応や言動に不適切なものがあればそれ自体新たなハラスメントになり、会社側も責任を負うリスクがあります。
(2) 当事者への懲戒処分
内部調査の結果ハラスメントの事実が確認できた場合には当事者に対する懲戒処分も検討されるべきです。
懲戒処分を下すことが適当なのか、下すとしてもどのような処分とするべきなのかは法的に専門的な判断が必要になります。
不適切な処分を下してしまえば後の紛争のリスクもあります。反対に処分が軽すぎれば被害者側からの反発も予定されます。
ハラスメントがあった場合の処分の有無や処分内容に関してはハラスメントなどの不祥事対応に詳しい弁護士に相談されることお勧めします。
(3)捜査機関への被害申告
被害者の処罰感情が高い場合、事例が重大な場合、内部調査のみでは事実関係がはっきりせず専門的な捜査が必要な場合などが警察などの捜査期間に申告を検討するべき要素になります。
ただし、捜査期間への申告は操作能力の点などで大変頼もしい反面当事者や会社への負担は大きくなるなどリスクもある選択になります。
当該事情に応じて捜査機関への申告が妥当かは慎重に判断するべきです。
当該ハラスメントが刑法上の犯罪にあたるかは法律的に慎重な判断が求められ、その後の対応にも大きくかかわりますので、是非刑事事件を専門に扱う弁護士に相談されることをおすすめします。
契約書の重要性⑤ 印鑑の意味・種類を解説
【事例】
Aさんは、山口県下関市で飲食業を営む会社であるⅩ社の従業員です。
Ⅹ社では、来年度からインターネットでの通販を利用して自社のレトルト食品を日本全国に販売することを目指しています。
しかし、Ⅹ社は、これまで自社店舗での販売と地元の小売店への販売しかしていませんでした。
そこで、このような事業拡大にともなって生じる課題に対応するために、Ⅹ社では法務部門を新設することになりました。
そして、Aさんが新設される法務部門の責任者となりました。
X社の法務部門では、事業拡大の際に様々な業者と取り交す契約書のチェックも業務となっています。
しかし、Aさんは弁護士資格を有しているわけではありませんし、他の社員も弁護士資格は有していません。
また、X社にはこれまで顧問弁護士もいませんでした。
そこで、Aさんは、今後予想される契約書チェック業務に対応するために、あいち刑事事件総合法律事務所に相談することにしました。
(事例はフィクションです。)
1 はじめに
前回の記事では、契約が誰と誰の間で締結されたものなのか(契約の当事者が誰なのか)や署名の重要性についてみてきました。
今回は、契約書の押印について深掘りしていきます。
2 印鑑の種類
実印や認印という言葉を聞いたことがあると思います。
まずはそれらがどのようなものかをみていきましょう。
実印というのは、法務局や市区町村長などに事前に届出をしていて、印鑑証明書の交付を受けられるようにしてある印鑑のことをいいます。
つまり、例えば手彫りの印鑑であったとしても、届出をしていなければ実印ではありません。
その一方で、認印というのは、実印とは違って、事前に届出等をしていない印鑑のことです。
100円ショップや文具店で購入できるような、機械で大量生産している安価な印鑑(いわゆる三文判)だけが認印というわけではありません。
逆に言うと、いわゆる三文判であったとしても、実印として登録すること自体は可能です。
もっとも、いわゆる三文判は複製やなりすましが容易ですから、三文判を実印とすることはリスクが高くなってしまいますので、お勧めはしません。
押印というのは非常に重要なもので,法務省もHP上でQ&Aを公開しています。
3 契約書で押印する場面
⑴ 契約印
契約印とは、契約を締結する際に押す印鑑のことです。
特に会社の場合、契約を締結すると、多くのお金が動いたり、権利義務が生じたりするわけですから、実印(代表取締役印など)を使う方が望ましいでしょう。
もっとも、認印ではいけない、契約が無効になってしまうなどといったことはありません。
⑵ 契印
契印というのは、契約書が2ページ以上にわたる場合に、ページを見開きにして、前のページと後のページとにまたがる部分に印鑑を押すことです。
このようにする理由は、後日ページを差し替えるなどして改ざんされるのを防止するためです。
このような目的で行うものですから、契約当事者双方が押すのが望ましいです。
また、通常は契約印と同じ印鑑を使うことになります。
⑶ 消印
契約書には収入印紙を添付しなければならない場合があります。
その場合には、添付された収入印紙彩紋と契約書の紙にまたがるように押印します(印紙税法8条2項、印紙税法施行令5条)。
この消印は、当事者のどちらかが押せば足りますし、契約印と異なる印鑑を使っても構いません。
今回は、契約書の押印について解説していきました。この続きは今後の記事で解説していきます。
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所では、刑事事件に関わってきた経験を活かし、そもそも会社内でのトラブルを回避するための対応・アドバイスにも力を入れています。
契約書の確認をしてほしい、継続的に弁護士からアドバイスを受けたいなどといったご要望の方も、一度、あいち刑事事件総合法律事務所にご相談ください。
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不祥事発生時における広報対応の留意点について④
企業内部で不祥事が発生した場合における広報対応の留意点について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が解説します。
そもそも広報とは
広報とは、企業が社会の人々に向けて企業の情報を発信することです。
不祥事が発生した場合の広報対応
企業内で不祥事が発生したとき、特にそれが犯罪に関わるときには、新聞報道されたり、インターネット上で掲載されるなどして、不特定多数の人々に知られてしまう場合があります。その際、企業側に取材がなされ、時には、記者会見を実施する必要が生じるかもしれません。メディアからの取材依頼は広報が担当します。
前回までに、企業内部で不祥事が発生した場合における広報対応(危機管理広報)の重要性やその基本的な手順について解説しました。今回は、実際に危機管理広報を行う場合にどのような態度で臨むべきかなど、特に注意する点について解説します。
誠実な対応とは
企業で不祥事が発生した場合、何よりも重要なことは、誠実に対応することです。
企業によっては、積極的な広報活動を行わず、放置し、世間から忘れられるのを待つという方針を選択する場合があります。しかし、このような対応をとると、企業が不祥事に対する説明も行わずに逃げたという印象を与える危険性があり、企業の社会的信用が更に低下する可能性があります。
事態を軽くみて忘却を待つという不誠実な対応は、世間の印象を悪くする可能性が高い一方、積極的な広報活動を行うことによって誠実かつ真摯な説明をした企業については、長い目でみれば、企業の社会的信用を回復し、また従前以上に向上させることも不可能ではありません。
広報は早く行う
企業で不祥事が発生した場合、広報は可能な限り迅速に行うべきです。
もし広報が遅くなってしまうと、憶測によるデマが流れて世間に誤った情報が広がってしまい、いわゆる風評被害に遭う可能性があります。とりわけSNSやネット掲示板を利用して、誰でも情報が発信できるようになった今、誤った情報もあっという間に広がる可能性があります。
そうなると、企業に対して寄せられた批判的な情報が事実でなければ、企業は被害者といえますから、事実とは異なる情報が拡散されている旨を記載した声明文を速やかに出さなければならなくなるなど、作業が増えて、正確な情報開示が更に遅れる可能性があります。
対応の遅れは世間を不安にし、世間の印象を悪くするため、広報はできるだけ早く行うことが重要です。
弁護士など専門家に相談する
企業での不祥事発生時における広報について、対外的に開示する文書の内容や記者会見で説明する内容については、弁護士などの専門家に事前にチェックを受けることも重要です。このようにして外部に出る情報については、消費者、株主等が訴訟を提起する場合の証拠となりうるからです。
また広報を行う場合、リスクマネジメントの専門家などからの助言が必要となる場合もあるでしょう。
福祉施設の職員による虐待事案について②
福祉施設の職員による虐待事案について、施設側の不祥事対応の観点から弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が解説します。
施設職員による虐待事案は、刑事事件になり得る
前回、解説しましたように、虐待の種別として種々のものがありますが、なかでも責任が重大で、施設として最も起こしてはならない虐待事案として、刑事罰相当の虐待事案があります。
身体的虐待
高齢者等に対して、叩く、蹴るなどの暴行を加えれば暴行罪、それによって怪我をさせれば傷害罪となります。また、最悪、死なせてしまった場合、傷害の故意しかなければ傷害致死罪、殺すことの故意が認められれば殺人罪になります。
介護的放棄
介護の放棄は、保護責任者遺棄罪、不保護罪に該当し得ます。保護責任者遺棄罪に該当する行為には、「遺棄」と「不保護」があり、ここで「遺棄」とは、被害者を移動させること、すなわち置き去りにすることであり、「不保護」とは、場所的な隔離を伴わずに、生存に必要な保護をしないことです。
性的虐待
高齢者等に、同意しない意思を形成し、表明し、若しくは全うすることが困難な状態のもとでわいせつな行為をすれば不同意わいせつ罪、また、同様の状態のもとで性交等をすれば、不同意性交等罪になります。
経済的虐待
高齢者等の財産を勝手に処分して利益を得た場合、物について加害者が占有していれば横領罪、被害者が占有していれば窃盗罪になります。
具体例
施設職員による刑事罰相当の事件といえば、平成26年に起きた川崎市の有料老人ホームでの連続転落死事件が有名です。この事件は、介護付有料老人ホームの職員であった被告人が、約2か月間に、3回にわたって、同施設の夜勤業務に従事している際に、入居者ら3名をそれぞれベランダからその身体を抱えてフェンスを乗り越えさせ、施設裏庭に転落させて殺害したという事件であり、被告人は地方裁判所において死刑を宣告されました(令和5年5月11日付けで死刑が確定)。
虐待をすれば逮捕されるのか
虐待行為は、既に述べましたように、刑法の各犯罪に該当し得ます。
しかし、虐待をすればすぐに逮捕されるかと言えば、必ずしもそうではありません。
もちろん、当該虐待行為が、刑法の条文の犯罪に本当に該当するか否かについては厳格に判断されますし、虐待の程度が軽い場合には、たとえ実際に犯罪に該当したとしても、逮捕までされず、在宅捜査ということもあります。
福祉施設の職員による虐待事案について、この続きは今後の記事で解説していきます。
最後に
福祉施設の職員による虐待は後を絶たず、近年増加傾向にあります。虐待防止の取り組み、あるいは、実際に虐待が疑われる事案が発生した際の対応等については、刑事事件について豊富な経験を持つ弊社の弁護士にご相談ください。
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第三者委員会について②
第三者委員会について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が解説します。
そもそも第三者委員会とは何か
日本弁護士連合会が公表した「企業不祥事における第三者委員会ガイドライン」(以下「ガイドライン」という。)では、第三者委員会について、「企業や組織(以下、「企業等」という)において、犯罪行為、法令違反、社会的非難を招くような不正・不適切な行為等(以下、「不祥事」という)が発生した場合及び発生が疑われる場合において、企業等から独立した委員のみをもって構成され、徹底した調査を実施した上で、専門家としての知見と経験に基づいて原因を分析し、必要に応じて具体的な再発防止策等を提言するタイプの委員会」と定義しています。
第三者委員会の委員の構成はどうすべきか
ガイドラインによれば、第三者委員会は、不祥事の経緯、動機、背景、不祥事を生じさせた内部統制、コンプライアンス、ガバナンス上の問題点、企業風土等を調査対象とし、証拠に基づいた客観的な事実認定、認定された事実の評価を行い、不祥事の原因を分析し、再発防止策を提言するものとされています。
第三者委員会にそのような役割が期待されていることに鑑みると、委員には少なくともこのような活動を行うための専門的知見を有する弁護士を入れておくべきです。委員となる弁護士は、当該事案に関連する法令の素養があることに加えて、内部統制・コンプラインアイス・ガバナンス等、企業組織論に精通した者(後記のように対象企業の顧問弁護士を除く。)でなければなりません。
不祥事の内容によって、公認会計士、学者、その他の有識者を委員に含めることもあります。
また、ガイドラインによると、委員の人数は3名以上を原則とするとされています。第三者委員会は複数の専門家が、その専門的知見を背景に互いに議論し結論を導き出していくものであり、委員が1名などということは想定されず、これまで設置された第三者委員会では、3~5名の委員で構成される委員会が多いです。
独立性・中立性が要求される第三者委員会の場合、企業等と利害関係を有する顧問弁護士や企業内関係者を委員とするのは妥当ではなく、弁護士であれば外部の弁護士を委員とすべきです。
調査担当弁護士とは
企業の不祥事は、その事案の性質や調査期間等にもよりますが、第三者委員会の委員自身が直接全ての事実調査を行うことは時間的・物理的に不可能な場合も多いといえます。
そこで、ガイドラインによると、第三者委員会は、調査担当弁護士を選任できるとされ、調査担当弁護士は、第三者委員会に直属して調査活動を行うとされています。調査担当弁護士は、法曹の基本的能力である事情聴取能力、証拠評価能力、事実認定能力等を十分に備えた者でなければなりません。
第三者委員会について、この続きは今後の記事で解説していきます。
最後に
第三者委員会のメンバーを構成するときに弁護士がその主要なメンバーとなるのが通常であるのは、その職務上、事実調査や法的な判断などを日頃から業務として行っているので、調査が正確に行われる蓋然性が高いということにあります。
企業で不祥事が発生し、第三者委員会設置を考えておられる、あるいは、不祥事が起きていなくても、不祥事の事前の回避を真剣に考えておられる企業経営者等の方は、早めに弁護士にご相談ください。
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第三者委員会について①
第三者委員会について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が解説します。
そもそも第三者委員会とは何か
日本弁護士連合会が2010年7月15日に公表した「企業不祥事における第三者委員会ガイドライン」(同年12月17日改定。以下「ガイドライン」という。)では、第三者委員会について、「企業や組織(以下、「企業等」という)において、犯罪行為、法令違反、社会的非難を招くような不正・不適切な行為等(以下、「不祥事」という)が発生した場合及び発生が疑われる場合において、企業等から独立した委員のみをもって構成され、徹底した調査を実施した上で、専門家としての知見と経験に基づいて原因を分析し、必要に応じて具体的な再発防止策等を提言するタイプの委員会」と定義しています。
どういう場合に、企業は、第三者委員会を設置すべきなのか
企業で不祥事が発生した場合、第三者委員会を設置するか否かは、各企業の判断であり、また、不祥事が発生した場合に、必ず何らかの調査委員会を設置しなければならないわけでもありません。どのような不祥事が発生した場合に第三者委員会を設置すべきなのか、その基準についてガイドラインには何ら述べられていません。
もっとも、そのほか、第三者委員会について述べるものとして、日本取引所自主規制法人が2016年2月24日に公表した「上場会社における不祥事対応のプリンシプル」(以下「プリンシプル」という。)があり、それによると、以下の5つの場面において、調査の客観性・中立性・専門性を確保するため、第三者委員会の設置が有力な選択肢となるとしています。
・内部統制の有効性に相当の疑義が生じている場合
・経営陣の信頼性に相当の疑義が生じている場合
・当該企業の企業価値の毀損度合いが大きい場合
・複雑な事案である場合
・社会的影響が重大な事案である場合
第三者委員会は、企業内部の経営者や従業員などを中心に構成した内部調査委員会と異なり、企業とは利害関係を持たない企業とは独立した委員のみをもって構成されます。そのため、内部調査委員会よりも独立性・中立性を確保しやすく、調査の客観性を担保できることがメリットとしてあげられます。
その一方、プリンシプルは、「第三者委員会という形式をもって、安易で不十分な調査に、客観性・中立性の装いを持たせるような事態を招かないように留意する。」と述べており、いわゆる「名ばかり第三者委員会」とならないよう釘を刺していることにも注意が必要です。
ステークホルダーとは、取引先、株主、従業員、顧客等、企業と利害関係にある者全般を指す言葉ですが、不祥事に関心を示すステークホルダーが多く、不祥事の内容がマスコミを通じて大々的に報道されているような事例では、企業が自ら調査を行う内部調査委員会の調査では信用されない危険性があります。このような事例では、調査に透明性を確保すべく、第三者委員会を設置することが望ましいといえるでしょう。
第三者委員会について、この続きは今後の記事で解説していきます。
日本版DBSとは
令和6年6月、日本版DBSの法律が成立したことを伝える報道が出ました。
この制度は、教育関係者など児童生徒と関わる仕事と密接に関連します。学校や学習塾の経営者や幹部の方々、学校などの教員を目指している方、性犯罪の前科を有する方には、とても大きな影響を持つ制度が誕生しました。
この日本版DBSとは一体何なのか。どのような仕組みなのか。連載していきます。
本ブログは、令和6年6月24日の情報を元に作成されています。日本版DBSにより現に対応を迫られている方や不利益を被っている方は、この制度に詳しい弊所の弁護士にお問い合わせください。
日本版DBSの根拠法は、「こども性暴力防止法」という法律になる見込みです。
そもそもDBSとは何でしょうか
「日本版」という言葉があるように元々DBSは外国の制度です。
”子どもを守る”「日本版DBS」法案決定https://www.nhk.or.jp/politics/articles/feature/106604.html
イギリスには、子供と接する職場で働く人に性犯罪歴がないかどうかを確認する権限がある機関として、前歴開示及び前歴者就業制限機構、通称DBSがあります。
これと同様のシステムを日本でも作ろうというのが日本版DBSです。
日本版DBSのシステムを噛み砕いて説明すると、「子供と関わる一定の職場は、入社しようとする人に性犯罪の前科があるかどうか、確認しなさい」と命じるようなものです。
では、その確認をすべき一定の職場とはどんなものでしょうか。学校や学習塾です。学校は、確認をする義務がありますが、学習塾は任意というように、細かな違いはあります。
性犯罪とは何でしょうか。性犯罪といえば、例えば痴漢やレイプや児童ポルノが典型例です。これは、日本版DBSで確認される性犯罪にあたります。ストーカーや下着泥棒はどうでしょうか。これは対象外です。ストーカーや下着窃盗は、性犯罪に近い要素もあるといえばある気もしますし、性犯罪というほどではないのでないかといえばそのような気もします。このようなものは日本版DBSの対象にならないようです。
性犯罪を犯してしまった人の中には、「自分は成人している相手を性の対象として見ているのであって、児童生徒なんかに欲情しない!なぜ性犯罪前科があるだけで十把一絡げにされるんだ!」と思う方もいるかもしれません。
このブログを作成している頃に、女性保育士が保育園に通う男児の首を切りつけた事件が発生しました。これは性犯罪ではないのですが、まさに子供に直接的な加害行為をしているのですから、児童生徒を性の対象としない人に比べてずっと、子供と切り離す必要が大きいように思われます。
性犯罪という要素だけで十把一絡げに日本版DBSの対象とすることによって、児童生徒に対する危険が低いのに性犯罪前科のためだけに登録される人もいれば、現に子供に重大な加害行為を加えたのに性犯罪でないというだけで登録されない人もいるわけです。この日本版DBSについて、非常に大きな問題があるとの議論があることは間違いないので、今後、その問題を踏まえて制度変更があるかもしれません。
しかし発足当初の状況としては、「児童・生徒みたいな人は自分の性の対象でない」という話は通用しないわけです。
なお、性犯罪に限らず本当は前科があるのに、履歴書に前科があることを書かないなどその前科を隠して入社した場合にどのような問題が生じるかは、別の記事で説明します。
前科とは何か
これは有罪の裁判を受けた記録です。ですから、罰金刑、執行猶予、刑務所で服役といった刑罰を受けたことがある場合には前科にあたります。他方、痴漢で逮捕されたけど冤罪だったとか示談をして起訴猶予になったという場合は、前科にあたりませんから、日本版DBSで確認される情報とは異なることになります。
前科情報はいつまで登録されるのでしょうか。これは刑の重さによって変わっています。罰金刑の前科は執行終了から10年、刑務所など罰金より重たい前科は執行終了や裁判の確定から20年となっています。
このように日本版DBSは、一定の事業者が従業員の性犯罪の前科を確認するよう求めるシステムです。事業者だけでなく、就職希望者や現に前科のある人には、大きく関わってくる制度なので、この制度により問題を抱えている方は、弊所の詳しい弁護士までお問い合わせください。