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飲食店等で源泉徴収漏れが発覚した場合の法的リスクと刑事責任

2025-09-16

はじめに

飲食店等の経営者にとって、従業員の給与やその他の報酬から所定の源泉所得税額を天引きして納税する「源泉徴収」(従業員等に対する給与等の支払に当たり所定の源泉所得税額を天引きした上、これを国に納付する所得税法上の義務:以下同じ)は、従業員等に対する給与等の支払事務の一環として行われている基本的な事業経理ないし税務上の事務処理です。

しかし、うっかり源泉徴収漏れが生じた場合、その影響はかなり深刻です。事業者等に課されている法律上の徴収義務であるだけに、単なる経理処理上のミスでは済まされず、追徴課税と延滞税の賦課が行われることはもちろん、税務当局から悪質だと見做された場合には刑事責任まで問われるリスクもあります。

本記事では、飲食業界等でまま見受けられる源泉徴収漏れの事態を基に、税務調査開始から刑事告発に至るまでの流れ、法人の代表者等の事業者(源泉徴収義務者)又はその命を受けた経理担当者等の刑事責任の概要、そして、刑事事件に強い弁護士に早期に相談・依頼する必要性について、専門的な見地から丁寧に解説します。

事態の深刻さについて正しく理解された上、万一にも源泉徴収漏れが生じている場合には迅速且つ適切な対応に努めるべく参考にしてください。

1.飲食業界等で頻発する源泉徴収漏れの事例

飲食店等では、アルバイト従業員等に対する給与等の支払について源泉所得税の徴収漏れが生じやすいと言われています。例えば、事業者1人又は家族経営の小規模飲食店でアルバイトに対する給与の支払に当たり手渡ししており、源泉所得税の天引きをしていないケース、また、「パート職員・学生アルバイトに対するパート代等の支払についてまで源泉徴収をする必要はない。」と誤解して源泉所得税が徴収漏れとなっているケースが多々見受けられます。

また、飲食店等で日払い・現金払いで従業員にパート賃金等を支払うこともありますが、その際に帳簿類の記帳が的確に行われておらず、その結果として源泉徴収漏れが生ずるケースも見受けられます。さらに、店舗で調理補助等を行うフリーランスや個人事業主に対する支払を外注費として経理処理している場合に、本来は雇用主として源泉徴収義務があるにもかかわらず、従業員に対する給与の支払ではないので源泉徴収義務はないとの誤解の下に源泉徴収漏れが生ずるケースも報告されています。

こうしたケースは、特に飲食業界等ではままあることのようですが、他の業種も含め、税務当局から源泉徴収漏れで所得税法違反(ないしは意図的な脱税)との指摘を受ければ「知らなかった」では済まされない重大な問題となります。

このほか、従業員に賄い(無料の食事)を提供する場合、その経済的価値が給与の一部(みなし給与)に該当するとされて課税対象となる場合もあります(注:税務上の取扱いの詳細については税理士又は税務当局に確認することが必要です。)。

このように、業界の慣行を背景に又は事業者等の認識の甘さなどから源泉徴収漏れが生ずる例は少なくありません。平素から日々的確な経理処理及び税務上の処理を心がけ、源泉徴収漏れが生じないように注意を払うことが必要であり且つ大切です。

2.源泉徴収漏れの発覚と税務調査の流れ

源泉徴収漏れが発覚する端緒としては、税務署の定期的な税務調査の外、従業員・取引先からの通報等により特別に実施された税務調査による場合もあります。

税務署は、法人及び個人事業者に対する税務調査の際には従業員等に対する給与等の支払につき源泉徴収漏れはないかどうかという観点からも帳簿類のチェックを行いますので、税務調査で源泉徴収漏れが見逃されることは殆どないと言って良いと思われます。

また、最近では、国税庁のウェブサイトに誰でも脱税や徴収漏れについて通報することができるフォームが公開されていますので、そのような通報を基に税務調査が行われる場合もあるようです。

税務調査で源泉徴収漏れを指摘された場合の一般的な流れについて説明します。

ア 指摘と追徴課税の通知

税務調査で源泉徴収漏れの指摘があった場合、源泉徴収の対象となる給与等の支払額を確定し、これに係る源泉所得税額を算出して納付するよう求められます。不納付となっていた源泉所得税額が確定すれば、これに伴い生ずる延滞税や各種の加算税の額も確定され、追徴課税されることになります。

イ 修正申告と納付

事業者(源泉徴収義務者)は、適正な源泉徴収税額について修正申告を行うとともに、速やかに本来の納税額(差額分)を納付します。

源泉徴収義務者は、法律上の源泉徴収・納付義務を負っている訳ですから、従業員等に対する給与等の支払に当たり実際に源泉徴収を行っていなかったという場合であっても、算定される本来の源泉徴収税額を納付する義務がありますので、事業者側で負担してでも不足分の源泉徴収税額を納付しなければなりません。

ただ、その際には、源泉徴収漏れとなっていた税額分を従業員から改めて徴収するのか否かについても検討事項となります。会社が後から従業員に負担を求める場合、所得税法第222条に基づきその後の支払給与から天引き控除することもできるものの、従業員との信頼関係に配慮して会社負担とするケースもあります。

しかし、会社負担とした場合、その追加納付に係る源泉徴収税額は従業員に対する手当とみなされますので、その分につき発生する源泉所得税についても再計算の上、再度、源泉所得税額の修正納付をする必要があります。

ウ 追徴課税(加算税・延滞税)の納付

源泉徴収漏れというのは、本来納付すべき税額に不足が生じている事態ですので、その不足税額分については延滞税及び加算税(不納付加算税)が課されます。

延滞税は納付遅延日数に応じて年利換算で算出される利息的な税金であり、本税の完納まで日々発生しますし、加えて、不適切な納税事務処理に対するペナルティである不納付加算税(原則として本税の額の10%)も課されるのです。

ただし、税務調査で税額が確定する前に自主的に不足分の税額を納付していれば、不納付加算税が5%に軽減される場合もあります。

 エ 重加算税の賦課の可能性

仮に、税務調査の結果、源泉徴収漏れが故意による隠蔽(いんぺい)又は仮装工作によるものと判断された場合、通常の加算税に代えて重加算税が賦課されます。重加算税は、不納付加算税を賦課する代わりに、本来納めるべき税額の35%もの高率で賦課される懲罰的な税金です。
税務調査から是正指導・追徴課税までには、事案によって数ヶ月から1年程度の期間を要する場合もあります。そして、その過程では、源泉徴収義務者たる事業者等に多額の追徴税の賦課追加的な経理・税務上の事務処理という大きな負担がのしかかります。

例えば、岡山県真庭市で発生した事案では、源泉徴収漏れとなっていた約535万円の税額について延滞税及び不納付加算税の計約68万8,100円(約税額の13%)が賦課されたと報じられていますが、実際には、これらの追加的な納税に係る事業者側の事務量の負担というのも相当なものとなっている筈です。

とはいえ、上記のように金銭的なペナルティ及び事務量の負担は相当重いものになるものの、税務当局の指摘に基づく一般的な納付税額の過少の事態は、本来の納税額の追加納付とこれに係る各種加算税の納付の手続を経て終結します。しかし、特に悪質な態様であると判断され且つ納付不足の税額が多額に上る場合には、税務調査とその結果に基づく(重加算税を含む)各種の加算税等の賦課という税務上の課税処分に止まらず、雑税事件としての刑事告発(脱税罪としての立件)という次のステージに進むことになります。

3.加算税・重加算税にとどまらない刑事告発の可能性

源泉徴収漏れが偶発的なミスではなく、意図的・継続的であり、不納付額も多額に上る悪質な脱税行為であると判断された場合、税務当局はその案件を検察庁に対し刑事告発することになります。

刑事告発の基準については、明確な形では公表されていませんが、実務的な感覚としては「隠蔽・仮装の意図があったか」、「補脱税額が多額に上るか」、「脱税期間が長期に亘るか」などが事態の悪質性を認定する上での判断要素とされます。

ですので、一般に、法人税や所得税で補脱税額1億円以上の所得隠しの事案の場合には刑事告発の対象となると言われていますが、補脱税額が数千万円程度であっても、悪質な所得隠しの事案に当たると判断されて刑事告発に至った例もあります。

飲食店等における源泉徴収漏れの場合、法人税等の巨額脱税事案(源泉徴収漏れを含む。)に比べれば補脱税額が比較的少額に止まる場合が多いものと思われますが、組織的・常習的な給与支払について秘匿するとか、源泉徴収を全く行わずに給与等の支払を行っていたような場合であって、補脱税額もある程度の金額に上る場合には、刑事事件に発展する可能性もないとは言えないでしょう。

刑事告発された場合、当該案件は国税局の査察部(マルサ)の調査を経た後に検察庁に送致され、事業者側(代表者ないし経営者、経理関係者等)は脱税事件の被疑者として取調べを受けることになります。

刑事告発された脱税事件については、起訴率及び有罪判決率が非常に高いと言われており、つまり、税務当局に刑事告発された場合には、代表者ないし経営者等に前科の付く可能性が極めて高いということになります。

なお、刑事事件化した場合の罪名としては、源泉徴収漏れの事態が生じた態様により、大きく分けて次の二つになるものと考えられます。

  • 不納付犯(所得税法第240条)

事業者等が給与等の支払に当たり源泉徴収を行っていたものの、それを国に故意に納付していなかった場合に成立します。

例えば、事業者に於いて支払給与等から天引きしていた源泉所得税を納税せずに、他の用途に使い込んでしまった結果として滞納しているようなケースです。

この不納付犯の法定刑は、10年以下の懲役又は200万円以下の罰金(又は併科)という重いもので、刑法犯に匹敵する厳罰となっていますが、罪質の実態として一種の業務上横領に近いものであるとの評価に基づくものとも思われます。

  • 不徴収犯(所得税法第242条 等)

本来源泉徴収すべき所得税額を最初から徴収していなかった場合に成立します。例えば、給与等の支払等を行いながら、一切の源泉徴収を行っていなかったケースなどが該当します。不徴収犯も刑事罰の対象で、場合によっては不納付犯と同様に拘禁刑が科される可能性もあります。不徴収それ自体は税の徴収を妨げる行為(租税秩序犯)ですが、特に悪質な脱税と判断されるような場合には刑事訴追される場合もあるということです。

事業者の責任としては、法人代表者のみならず、経理担当者の刑事責任についても注意が必要です。

源泉徴収漏れは、源泉徴収義務者(事業者・代表者等)の当該徴収義務違反ですので、例えば、社長自ら「バイトの給与は帳簿に載せるな」と指示していたような場合に社長個人が刑事責任を負うことになるのは当然ですが、2019年に発覚した「青汁王子」の脱税事件では、社長のみならず、脱税に関与した従業員や取引先の役員までが法人税法違反事件の幇助犯として逮捕されています。

また、両罰規定により事業者(法人)に対して罰金刑が科される場合もあります。このように、源泉徴収漏れが故意の脱税であって悪質な所得隠しであると判断される場合には、いわば会社ぐるみで刑事処分を受けるリスクが生じるのです。

4.過去の摘発事例から見る源泉徴収漏れの深刻さ

飲食業等における源泉徴収漏れそれ自体がクローズアップされた報道事例は多くないようですが、次のような事案に意図的・継続的な源泉徴収漏れなどが含まれる場合には、業種等の相違に拘わらず、事業者(経営者等)が源泉聴取漏れに係る所得税法違反としても刑事告発される恐れがあるように思われます。

  • 乗馬クラブ運営会社の刑事告発の例(無申告): 2018年に乗馬クラブの運営会社が2年間にわたり確定申告を行わず、約2,673万円(金額は消費税等)を脱税したとして刑事告発された事例。

この事例では無申告の悪質性が問われ、千葉地検特別刑事部が強制捜査に動いたものですが、補脱税額が3,000万円に達していないような事案でも、意図的・組織的に納税義務を果たさない悪質性から刑事告発されたものと考えられます。

  • 解体工事業者の脱税事件(8800万円の所得隠し): 2011年には茨城県の解体工事業者が2年間で約8,791万円の所得隠しを行い、悪質性が高い事案であると判断されて、刑事告発された事例。

このように、悪質な税逃れは業種や金額に関係なく刑事告発される可能性があります。飲食店等における源泉徴収漏れも、意図的・継続的に「従業員に払った給与を帳簿に記載していなかった」、「現金支給していた給与等に係る源泉徴収を行っていなかった」などの事例があれば、刑事事件に発展するリスクはあります。

刑事事件となれば、報道等により社会的信用は失墜し、営業継続も困難になるでしょう。税務当局も、従来、飲食業界の無申告ないし源泉徴収漏れ事案には注目しています。

国税庁の発表によれば、令和5年度中に全国で告発された脱税事件は総額89億円、1件あたり平均約0.88億円(8800万円)とされています。刑事告発された事件の逋脱税額は数千万円台から1億円前後のものが中心ですが、中小規模事業者の事件も少なくなく、また、逋脱税額だけの刑事告発の有無が定まっている訳でもありません。

中小規模の飲食店等においても、経営者(源泉徴収義務者)は危機感を以てリスク管理を徹底する必要があります

5.刑事事件に強い弁護士の役割と対応例

万一源泉徴収漏れが税務当局から指摘を受け、刑事処分の可能性が出てきた場合、弁護士(特に、刑事事件に強い弁護士)はどのような役割を果たすのかについて解説します。

先ず強調したいのは、刑事事件化される芽を摘むべく、早い段階から弁護士が関与することが極めて重要だという点です。

具体的には、税務調査の段階で「これは悪質な事案だ」と判断されると国税局の査察部に引き継がれますが、この段階から弁護士が刑事告発の回避を意識して防御活動を行うことが可能であり大切です。

刑事事件に強い弁護士であれば、税務調査の段階でも査察官等との応対についても適時適切なアドバイスを行い、必要に応じて修正申告、追加納税等について迅速に対応することにより「刑事告発までは不要」と判断してもらえるよう働きかけることになります。

実際、刑事事件の経験豊富な刑事弁護士であれば、重加算税の賦課又は刑事告発の検討段階で税務当局と交渉しますので、相談者に有利な状況を作り出すことも期待できます。

また、税務当局が刑事告発し、検察による捜査に移行する場合には、刑事事件で弁護人を務める弁護士は大きな役割を果たすことができます。

主な対応例として次のとおりです。

  • 任意の事情聴取への同行・対応指導

事業者等(代表者、経営者等)が検察から事情聴取(任意の取調べ)を求められた場合、刑事弁護士は適切な取調べ対応のために事前打合せを行います。また、必要に応じて弁護士が検察官の取調べに同行し、取調べ中の相談者(取調べを中断・中座した相談者から)随時の相談を受けることにより、不当な誘導その他の違法・不適切な取調べが行われないよう注意を払うとともに、適時のアドバイスをすることが可能です。

特に税務案件では複雑な事実関係についての詳細な説明が求められることから、何処までどのような説明をするのかなどについて戸惑うことが多い筈です。ですので、専門的な知識を有する刑事弁護士から適時のサポートを受けることは、孤立無援のような状況下に置かれる取調べにおいて心強い支えとなる筈です。

  • 身柄拘束の回避

刑事告発された後、逮捕状が発布されることも考えられます。しかし、刑事弁護士が付いていれば、検察官に対し、在宅捜査で十分であることを主張し、逮捕の必要性が乏しいことを示す資料を提出するなどして、逮捕・勾留を回避する可能性を高めることも可能となります。実際に、弁護士の迅速な働きかけにより、脱税事件の被疑者とされる本人が自主的に出頭し、取調べにも誠実に対応することで逮捕が見送りとなったという例も報告されています。

  • 不起訴処分・起訴猶予の獲得

刑事弁護士は、検察官に対し、依頼者が深く反省し、既に追徴税については完納していること、有効な再発防止策を講じている点などを詳細に説明することを通じて不起訴処分(正式な刑事裁判を求める「起訴」を行わないという処分)を求めます。

特に、初犯で補脱税額が比較的少額に止まるケースでは、不起訴処分(起訴猶予)となる可能性があることから、刑事弁護士の適切な弁護活動が起訴猶予という結果を招来する大きな要因となる場合が少なくない筈です。

  • 起訴後の減刑・執行猶予獲得

 仮に起訴され刑事裁判(公判)が行われる場合には、刑事弁護士は公判で情状酌量の余地を強く訴えます。例えば、脱税額については、全額修正申告の上で納付済みであること、家族や従業員の生活がかかっており事業を存続させる社会的な必要性があること、公判で再発防止について誓約していることなどを指摘し、執行猶予付き有罪判決(又は罰金刑の判決)に止めるよう尽力します。

法人の代表者等が脱税犯として起訴された場合、実刑判決を受けて服役することとなれば事業の継続が困難になることから、執行猶予月の有罪判決に止めてもらうことには大きな意義があります。

  • 将来への助言と再発防止策

刑事弁護士は、その場しのぎ的に量刑の軽減のためだけに弁護活動をするのではではなく、発将来を見据えた再発防止のための弁護活動を行います。例えば、税理士とも連携しながら経理体制の改善(複数人によるチェック体制の構築、クラウド会計の導入等)について助言し、将来に亘り同様の事態の発生を防止するための態勢構築について提案し、サポートします。

以上のように、悪質な脱税事案であるとして刑事告発されて刑事事件化する可能性もあることを踏まえると、源泉徴収漏れを税務当局に指摘された場合、かかる事態を回避すべく早い段階で刑事弁護士の関与を求め、サポートを受けることが有効です。

6.弁護士に相談・依頼するタイミングとメリット

「自分の店で源泉徴収漏れがあったのかも知れない」、「税務調査が長引いており、所得隠し等の脱税を疑われているかも知れない」などと感じたら、迷わず刑事弁護士に早めに相談すべきでしょう。

刑事事件を専門的に取扱う弁護士(刑事弁護士)であれば、過去の経験値等を踏まえ、現在相談者が直面している状況について客観的に分析し、今後執り得る最善の対応策を提案してアドバイスすることになります。

ですので、相談のタイミングが早ければ早いほど、相談者の不安が減少するばかりでなく、選択肢も広がり、重大なリスクの発生(最悪の場合には有罪の実刑判決)を軽減させる余地も大きくなります。

具体的なメリットとしては、次のような点が挙げられます。 

  • 刑事告発又は強制捜査の回避

刑事弁護士が早期に活動することで、刑事告発等を回避することが期待できます。

即ち、「悪質性の程度は高くなく、修正申告と追加納税等も済ませ、経理及び税務の事務処理体制の改善・整備により事業自体の改善により将来の再犯防止も見込まれる」などと主張して当局の理解を得られれば、刑事告発又は逮捕等の強制捜査に発展することを回避することを期待できます。

令和5年度に刑事裁判に至った脱税事件189件中、無罪になったのはわずか7.6%(国側敗訴率)というデータがあり、そもそも刑事事件に発展させないことが何よりも重要であることが分かります。

また、③社会的信用の回復ということを期待することができます。

即ち、刑事弁護士が早期の問題解決に動くならば、その過程で「社長逮捕」、「脱税で起訴」といった報道が行われることを回避できる可能性も高まり、取引先や顧客の信用失墜を最小限にとどめることを期待することができます。

特に、飲食店等では地域の評判が大切でしょうから、社会的な耳目を集める前段階での解決を少しでも図る努力が大切です。

税務調査、査察、捜査等のプレッシャーで追い詰められ、孤立無援のような状況下に置かれている事業者にとって、刑事弁護士の存在は大きな精神的な支えともなります。深い反省の上での事業の立て直しにも注力しやすくなるでしょう。

  • 税理士との連携支援

税務に強い弁護士の事務所は、税理士等と連携して対応することも可能です。実際、修正申告の手続、過去帳簿の記帳整理などは税理士の仕事になりますが、その段取りも含め刑事弁護士が調整します。

結果として、最悪の事態に発展することの回避を目指しつつ、税理士等とも連携し、指摘に係る税務上の不適切な事態の改善等を図ることができます。

税理士は税務の専門家ですが、刑事事件化の過程における弁護活動としての当局との交渉等は弁護士の職域です。

7.早めの相談が危機管理のリスク最小化の鍵

源泉徴収漏れはどの事業者の方にも起こり得るミスですが、源泉徴収漏れを指摘され、その納付漏れ又は逋脱税額が多額に上る場合には、その時から刑事事件化の回避という危機管理が始まります

そして、対応が遅れれば遅れるほど、税務当局の態度も硬化するでしょうし、刑事告発のリスクも高まり、信用問題が生じて来る可能性もあります。

飲食店の経営者の方々その他従業員等に対する源泉徴収義務者である皆様には、日頃から的確で適切な経理事務及び税務処理を行うことはもとより、万一問題が生じた場合には信頼できる専門家に相談されることをお勧めします。

特に、刑事事件に強く、検察当局等との折衝経験等の豊富な弁護士(刑事弁護士)であれば、刑事告発され、逮捕・勾留等を伴う強制捜査が行われ、更には起訴されて刑事裁判が始まることの回避等に向けて全力でサポートします。

初動対応一つでその後の展開が大きく変わるというのが刑事事件の特徴であり、当初から迅速且つ適切に対応すれば重大なリスクも最小限に抑えることも可能です。

中国の中小企業向けセミナー(ウェブ)を協催しました

2025-06-18

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2025年6月18日(現地時間,於:蘇州)に,当事務所に所属する弁護士足立直矢(東京支部)が,「上海段和段(苏州)律师事务所 ダン・リーク法律事務所蘇州オフィス パートナー 中国弁護士 崔 暁瑜」と共同で,中国の中小企業向けのセミナーを実施しました(日本語で実施,通訳:崔弁護士)。

足立弁護士は「日本向け越境 EC 事業における法的問題点」という題目で,関税法,消費税法,景品表示法等を解説し,実務上の問題点を指摘しました。

現地会場に加えてウェビナーでも実施し,多数の企業・事業主の方にご参加いただきました。
セミナー終了後,会場参加者から日本の法制度について多数の質問,お問い合わせも頂きました。

弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所では,企業・事業主向けの法解説やセミナー等も行っています。

お問い合わせはこちらからどうぞ。

中小企業が知っておくべき商標法の基本と実践ポイント

2025-05-22

中小企業の経営者が知っておくべき商標法について,弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が解説します。

商標法の基本(定義と商標登録の意義)

商標とは何か: 商標は、事業者が自社の取り扱う商品・サービスを他社と区別するために使用するネーミングやマーク(識別標識)のことです。
たとえば商品名、ロゴマーク、サービス名、スローガンなどが商標に該当します。商標を見れば「誰の提供する商品・サービスか」が分かり、長年の営業努力によって培われた信用やブランドイメージ**がその商標に蓄積されます。そのため商標は「無言のセールスマン」とも呼ばれ、商品・サービスの顔として重要な役割を果たします。

商標法の目的: 日本の商標法では、「商標を保護することにより、商標の使用者の業務上の信用の維持を図り、もって産業の発達に寄与し、あわせて需要者の利益を保護する」ことが目的と定められています。つまり商標の保護を通じて企業の信用を守り、市場の健全な発展と消費者保護につなげる法律です。

商標権と登録の意義: 商標を財産として守るには、特許庁に出願して商標登録を受ける必要があります。商標登録によって発生する商標権は、指定した商品・サービス分野において登録商標を独占的に使用できる権利です。他社は権利者の許可なく同一または紛らわしい商標を使用することが禁止されるため、自社ブランドを模倣や混同から守る強力な手段となります。登録した商標は、自社商品・サービスの出所表示品質保証のシンボルとなり、安心感を与えることで需要者(顧客)の利益にも資します。

商標登録の企業メリット

商標登録には、中小企業にとって次のようなメリットがあります。

  • 独占的なブランド使用権: 登録商標は指定商品・役務の範囲で自社だけが独占的に使用できます。これにより他社との差別化が明確になり、ブランドを長期的に育てる土台となります。第三者による類似名称・ロゴの使用や横取り登録も防げるため、安心してブランド戦略を展開できます。
  • ブランド価値の向上と信用力アップ: 商標は企業の信用や評判と結びついており、登録商標を有すること自体が対外的な信用力向上につながります。知名度の高い商標を持っていれば、銀行からの融資が受けやすくなったり、大口取引の獲得につながったりするケースもあり、企業価値や競争力を高める効果があります​。また、自社のブランドを公式に保護していることは取引先や消費者への信頼感にも寄与します。
  • ライセンスによる収益機会: 商標権者は自社商標を第三者に使用許諾(ライセンス)することも可能で、その対価としてライセンス料収入を得ることができます。例えばヒット商品名やキャラクター名を商標登録しておけば、関連グッズ展開などで他社に使用させる際に収益を得ることもできます。このように商標は新たなビジネス機会の創出にもつながり得ます。

以上のように、商標を登録し権利化しておくことはブランド保護と活用の両面で大きなメリットがあるため、中小企業にとっても非常に重要です。

中小企業にとって特に重要な商標リスク

一方で、商標について十分な対策を取らないと中小企業は思わぬリスクにさらされます。「知らなかった」「うっかり」では済まない重大な商標トラブルになりかねません。特に注意すべきリスクは以下のとおりです。

  • 無登録のまま使用するリスク(先願主義による商標の横取り): 自社の商品名やサービス名を商標登録せずに使い続けていると、他社に先にその名称で商標登録をされてしまい、自社がその名前を使えなくなるおそれがあります。日本の商標制度は「先願主義」(登録した早い者勝ち)を採用しており、最初に出願した者に権利が与えられます。たとえ自社が先にその名前を使っていても、有名ブランドとして広く認知されている等の例外的事情がない限り、後から出願した他社に商標権を取得される可能性があります。
    もし自社の看板商品・サービスの名称が突然使えなくなれば、商品回収やブランドの変更を余儀なくされ、大きな手間とコストが発生します。長年愛用してくれた顧客や新規の顧客に対して「盗用」を疑われかねない等混乱を生じさせ、評判や信用の失墜にもつながりかねません。こうした事態を防ぐため、重要な名称やロゴはできるだけ早期に商標出願することが肝心です。
  • 他社商標の侵害リスク(知らずに他人の権利を侵す危険): 新商品・新サービスの名前やデザインを決める際に、十分な調査をせずに決めてしまうと、既に他社が商標登録していた名称やロゴと偶然衝突してしまうことがあります。そのまま使用を続けると、権利者である他社から「商標権侵害だ」と警告され、使用差止めや損害賠償を請求される可能性があります。実際、商標法違反が認められると、商品の販売停止や看板の撤去など厳しい措置を求められ、高額の賠償金支払いを命じられることもあります。中小企業にとって、せっかく軌道に乗せたブランド名を捨てたり、多額の賠償金を支払う事態は事業継続を揺るがす深刻な打撃となります
    「うちは小さいから大丈夫」「知らなかった」では済まされず、故意でなくとも侵害は侵害です。第三者の商標を無断で使っていないか、類似の名前が既に登録されていないかを事前にしっかり確認することが重要です。
  • 類似商標による混同リスク: 自社では全く別のつもりでも、他社の有名ブランドによく似た名称やロゴを使ってしまうと、消費者に「関連会社かな?」「真似しているのでは?」と混同を招く恐れがあります。商標法では登録商標と紛らわしい類似商標の使用も侵害となり得るため,意図せず他社ブランドの信用にタダ乗りする形になるとトラブルになります。反対に、自社が商標登録していないと他社に似た名前を付けられてブランドイメージを損なわれるリスクもあります。いずれにせよ、「少し似ているくらいなら平気」という油断は禁物です。

以上のように、中小企業であったとしても、商標への理解不足は事業全体に対するリスクが高く、商標権の重要性を認識し早めに対策を打つことが必要不可欠です。

商標法違反時のペナルティ(損害賠償・差止め等)

万が一商標権の侵害など商標法違反をしてしまった場合、中小企業は次のような深刻なペナルティに直面します​。

  • 差止請求・業務停止: 商標権者は侵害者に対し差止請求(使用停止)を求めることができます(商標法36条)。裁判所から差止め命令が出れば、対象となった商標の使用は禁止されます。具体的には商品の販売停止、製造中止、在庫回収・廃棄などを強いられ、事業の継続が困難になる恐れがあります。看板や包装資材の変更など多大なコストも発生します。
  • 損害賠償: 商標権者は侵害によって被った損害の賠償を請求できます(民法709条)。その額はケースによりますが、数百万円~数千万円規模の高額賠償を命じられる可能性もあります​。中小企業にとって何百万もの予期せぬ支出は資金繰りを逼迫させ、最悪の場合倒産の危機につながります​。賠償金だけでなく、訴訟対応の費用や時間的ロスも大きな負担です。
  • 信用失墜: 商標トラブルが表沙汰になると、「他社のブランドに便乗しようとしたのではないか」「知的財産を軽視している企業だ」といった負のイメージが広まりかねません。顧客や取引先からの信用を損ない、信頼回復のために長い時間とコストがかかるでしょう。企業ブランドに傷が付くこと自体が大きな損害です。
  • 刑事罰(悪質な場合): 商標権侵害は基本的に民事上の問題ですが、意図的かつ悪質な侵害行為(例えば偽ブランド品の大量販売など)の場合、刑事罰が科されることもあります​。商標法違反の刑事罰は10年以下の懲役若しくは1000万円以下の罰金(法人は3億円以下の罰金)と定められており、実際に摘発・起訴された事例もあります。中小企業でも悪質と判断されれば、経営者や担当者が刑事責任を問われ社会的信用を失墜するリスクがあります。

このように商標法に違反すると法的・経営的ダメージは計り知れません。「うちは大丈夫」と高をくくらず、違反を起こさないよう日頃から注意を払いましょう。また、万一トラブルになった場合は早急に専門家に相談し適切に対処することが肝要です。

商標権を守るために中小企業が取るべき具体策

中小企業が自社の商標権をしっかり守り、商標トラブルを防ぐために取るべき具体的な対策をまとめます。

  • 事前の商標調査を徹底する: 新商品名・サービス名やロゴを考案したら、正式に使用開始する前に必ず商標調査を行いましょう。特許情報プラットフォーム(J-PlatPat)等で類似の登録商標がないか検索したり、専門家に先行商標の調査を依頼します。既に同じような名称が登録出願されていれば、名称変更や使用見送りを検討すべきです。事前調査を怠ると後から撤退を余儀なくされるリスクが高まります。
  • 早期の商標出願・登録: 使用予定のブランドが見つかったら、できるだけ早く商標出願手続を行いましょう。特に新製品・新サービスをリリースするタイミングでは先願主義の原則を念頭に、初動での権利確保が重要です。出願の際は、自社の商品・サービスに適した区分を選定し、必要に応じて複数区分で出願することも検討します(専門家の助言が有用です)。商標登録により公式な権利を得ておくことで、後々の紛争予防につながります。
  • 継続的な権利維持と更新手続: 商標権は取得して終わりではなく、権利維持の管理も大切です。日本では商標登録後10年ごとに更新手続きを行えば権利を半永久的に存続できます。更新期限を忘れて失効しないよう、社内で期限管理を徹底しましょう。また、継続して商標を使用していないと不使用取消制度により権利を失う可能性もあるため、登録した商標はきちんと使用を続けることもポイントです。自社の事業内容が変わった場合は、新たな商標登録や不要になった権利の整理も検討します。
  • 社内教育とルール整備: 商標権を守るには従業員一人ひとりの意識向上も欠かせません。定期的に知的財産に関する社内研修を行い、「他社の商標を勝手に使ってはいけない」「商品名を決めるときは必ず確認する」といった基本ルールを周知徹底しましょう。特にマーケティング部門や商品企画部門には商標法の基礎知識を教え、企画段階で法務チェックを通すフローを確立することが望ましいです。過去の商標トラブル事例を教材にコンプライアンス教育をするのも効果的です。
  • 商標管理と監視: 自社が取得した商標権については、権利内容(指定商品・役務の範囲など)を把握し、ロゴ変更や新ブランド立ち上げ時に漏れなく権利化するよう管理します。また、自社ブランドと紛らわしい商標が他社に出願・登録されていないか、官報公報や商標情報を定期的にチェックすると安心です。他社による権利侵害の兆候があれば早期に対応でき、場合によっては異議申立てや無効審判で自社権利を防衛することも可能です。

以上のような対策を講じることで、「攻め」と「守り」の両面から商標に万全を期すことができます。商標は中小企業にとって貴重な経営資源ですから、手間を惜しまずしっかり管理しましょう。

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【事例解説】インサイダー取引について② インサイダー取引の主体

2025-01-14

【事例】
子会社に関する未公表情報を基に太陽光パネル製造会社X社の株をインサイダー取引したとして、金融商品取引法違反容疑でX社の元執行役員のAさんが逮捕された事件で、情報が公表された直後に同社株が急激に上昇していたことが16日、分かった。
関係者への取材で、Aさんが以前勤務していた金融サービス会社の株式でもインサイダー取引をしたとして、金融庁から課徴金納付命令を受けていたことも判明した。
東京地検特捜部は、Aさんが株価上昇を見越して買い付けを進め、公表後に売却して利益を得た可能性があるとみて捜査している。
(共同通信令和6年5月16日 「子会社の情報公表後、株価急上昇 インサイダー取引、特捜部捜査」より一部引用)

参考報道 インサイダー疑いの東証元社員を告発 監視委、裁判官も

1 インサイダー取引規制の趣旨について

前回の記事ではインサイダー取引で社員が逮捕された場合の会社への不利益や、インサイダー取引にあたる行為の要件について解説しました。

今回の記事ではまずインサイダー取引の要件のうち、インサイダー取引の主体となる「会社関係者」の範囲について説明します。
その説明の前にインサイダー取引が禁止されている趣旨について解説させていただきます。
非公表の重要事実を知っている「会社関係者」などは、重要事実が公表された場合に、株価が上昇するか下落するかについてある程度予想することができます。
したがって重要事実の公表によって一般の投資家が知る前に会社の株式を売買した場合には確実に儲けることができることになります。
このような取引は一般の投資家に比べて内部者に特別に有利となりますので、投資家の間で不平等が生じ、証券市場への信頼を害することになり、市場の公正を守るためにインサイダー取引が規制されているのです。

2 インサイダー取引の主体について

インサイダー取引の主体にとなるものについては3種類の規定があります。
①会社関係者(金融商品取引法166条1項)、②公開買付者等関係者(同法第167条第1項)、③第一次情報受領者(同法第166条第3項、第167条第3項)の3種類です。
以下それぞれの類型に関して詳しく解説させていただきます。

「会社関係者」に当該上場会社の会社役員や管理借についている者だけでなく、役職のない従業員も含まれます。問題となる事実を知っていた場合には役職の有無は問いません。
すなわち重要な秘密情報が社内で漏洩してそれをたまたま知ってしまった従業員もインサイダー取引の主体になり得ます。
その他に「会社関係者」に該当する者については、
・役員、代理人、使用人その他の従業員で、重要な事実を知っている者
・帳簿閲覧権(議決権の3%以上の株式)を有する株主で、その未公表の重要事実を知っていた者
・上場会社等に対して法令に基づく権限を有し(許認可権を有する官庁の公務員等)、その未公表の重要事実を知っていた者
・取引先やその役員などで、その未公表の重要事実を知っていた者
・上記のいずれかに該当しなくなってから、1年以内の者
という規程があります。

②公開買付者等関係者に該当する者とは簡単に言えば、株式の公開買い付けを予定している場合にその情報を知り得る立場にいる者を指します。
具体的には公開買付者等と次のような関係にあるものが該当します。その関係性は上記の「会社関係者」と同一です。
・役員、代理人、使用人その他の従業員で、重要な事実を知っている者
・帳簿閲覧権(議決権の3%以上の株式)を有する株主で、その未公表の重要事実を知っていた者
公開買付者等に対する法令に基づく権限を有し、その未公表の重要事実を知っていた者
取引先やその役員などで、その未公表の重要事実を知っていた者
公開買付を受ける会社(被公開買付会社)やその役員等で、公開買付者等からの伝達でその事実を知った者
上記のいずれかに該当しなくなってから、6か月以内の者

③第1次情報受領者とは、①または②に該当する者から情報を受け取った者を指します。
ここで注意が必要なのは、この第1次情報受領者から情報を受け取った者については、「第2次情報受領者」と呼ばれ、インサイダー取引規制の対象ではなくなります。
なぜならば、受け取った情報の情報源がインサイダー取引の規制対象になる者からの情報であることを認識していないからです。

上記事案のAさんは以前勤務していたの株式でとあるので、①のうち従業員として「会社関係者」にあたるとされたのでしょう。
仮に子会社の情報について知っており、株式の取引をしたのが退職してから1年以内であれば、金融商品取引法166条1項の「上記のいずれかに該当しなくなってから、1年以内の者」に該当しインサイダー取引の規制対象となります。

このように,金融商品取引法は特に複雑な規定であり,一般の方にはとても分かりにくいものになっています。不安なことがある方は一度,弁護士にご相談ください。

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【事件解説】封印破棄事件について詳しく解説

2024-04-02

封印破棄について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が具体例を交えながら詳しく解説します。

事件の概要

(以下の事例はフィクションです)
甲は、ある印刷会社のA社の代表取締役であり、同社が複数の印刷機械類についてそれぞれ担保を付して、融資を受けて購入していましたが、経営不振から、同融資について返済不能の状態に陥り、債務者に使用を許す執行官保管としての占有移転禁止の仮処分が執行されていました。
しかし,甲は,同仮処分の執行直前に,仮処分の対象となる印刷機械類の一部を売却処分していたり、執行官の貼付した封印を毀損したりしていました。そうした行動が債権者に知れるところとなり、甲は、債権者から、刑事告発も辞さないとの通知を受けました。
さて、甲にはどんな刑事責任が生ずるでしょうか

まず、担保が付されいる動産を勝手に転売した場合ですが、これは担保の性質によって変わってきます。債権者が当該動産について所有権を留保しているような場合に、その動産を占有して使用している債務者が勝手に転売したとなると、横領罪(刑法第252条)が成立する可能性があります。要するに,他人から預かっていただけの物を勝手に処分してしまったということになるからです。
所有権も債務者に移すタイプの譲渡担保の場合であれば、背任罪(刑法第247条)が成立する可能性もあります。
その他に考えられるところとしては、封印等破棄罪(刑法第96条)でしょうか・・・。

それでは,A社の事例のように「占有移転禁止」という仮処分を受けた状態の場合はどのようになるのでしょうか。

封印等破棄罪とは・・・

過去,有名芸能人が強制執行妨害目的財産損壊罪などで懲役刑の判決を受けたという事件もありました。強制執行という場面は,私人間での対立が非常に強まる場面の一つであるといえます。

封印等破棄罪も,強制執行妨害罪そのものではありませんが,これに類する犯罪の一種です。封印等破棄罪とは、公務員が施した封印若しくは差押えの表示を損壊し、又はその他の方法によりその封印若しくは差押えの表示に係る命令若しくは処分を無効にすることです。

ここでいう公務員とは、国又は地方公共団体の職員等であり、本事案における裁判所の執行官も、当然に本罪の公務員に該当します。

また、封印若しくは差押えの表示とは、民事執行法上の動産の仮差押えや仮処分も含まれます。
本事案のような動産についての占有移転禁止の仮処分の場合、執行官保管による場合と債務者保管による場合などがありますが、執行官保管では保管場所までの運搬や保管料などの費用がかさむこともあることなどから、実務的には、債務者使用を許す占有移転禁止の仮処分になることがよくあります。
その場合、誰の目から見てもわかるように、裁判所の執行官によって、印刷機器類に公示書なるものが貼付されて、その占有を第三者に移転することが禁止されるのです。付箋のようなものを貼って「勝手に持ち主を変更してはいけませんよ」と表示しておくのです。
この公示書に、これを損壊などすると刑事罰に処されることがあるとの記載もありますし、わざわざ裁判所から執行官が出向いて、法令に基づき、そのような処分をするわけですから、常識的に考えても何らかの罪にはなりそうというのはお分かりかと思います。

しかし、債務者としては、「こんなことまでされて・・・!」と怒りに任せて、エイや!と破ってしまうこともあるかもしれません。どうせ、駐車違反で貼り紙されるのと大して変わらないだろうし、罰金くらいはらってやるよと軽い気持ちだったのかもしれません。

封印等は基材に対する刑罰

実は封印等破棄罪は、犯罪としては重いものになっています。

封印等破棄罪の法定刑は、3年以下の懲役若しくは250万円以下の罰金又はその併科です。
平成23年の改正以前は、2年以下の懲役又は20万円以下の罰金でしたが、同改正・施行以降、法定刑、中でも罰金刑が大幅に引き上げられただけでなく、懲役と罰金を併科できるようになりました。

これは、公務員による封印・差押えの表示によって達成されるべき公務の効力を、より一層保護していかなければならないという社会的な要請の現れということができるでしょう。

封印等破棄罪だけでなく、民事事件の権利を公権力によって強制的に実現していく過程を妨害していくことについては、とても重い刑事責任が課せられる可能性があります。
思い余ってやった、感情的になってやったでは済まされず、本事案のように会社のトップや役員がこうした行為に及んだ場合、最悪のケースでは、逮捕・勾留といった身柄拘束を受け、会社の運営そのものに致命的なダメージを及ぼすおそれさえあります。
こうした事態にいたった場合には、少しでも早く弁護士に相談し、事態の収拾を図るようにすべきでしょう。

弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所は,刑事事件を専門に扱うバックグラウンドを持った法律事務所です。封印等破棄事件でご家族や会社の方が警察に逮捕されてしまった方,ご不安なことがある方やご心配なことがある方は,弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所までご連絡ください。

逮捕され身柄が拘束されている場合には,最短当日に弁護士を警察署まで派遣する「初回接見サービス」(有料)をご提供しています。24時間365日受付中の弊所フリーダイヤル(0120-631-881)までご相談ください。HPからの方は,こちらからお問い合わせください

不祥事を起こした社員の退社を求めることができるのか②

2024-03-29

【事例】
Aさんは、福岡市早良区で、輸送用機械の部品を製造している会社、X社を営んでいます。
X社は、常時20人の従業員を雇っています。
Bさんは、このX社の従業員で、営業の仕事をしています。
ある土曜日の夜、Bさんは、休みだったので友人と福岡市内の繁華街にお酒を飲みに行っていました。
休みではあったのですが、ちょうどよいからと、BさんはX社のロゴの入ったジャンバーを羽織って出かけていました。
そして、Bさんはお酒を飲み過ぎてしまい、隣でお酒を飲んでいた男性客Cさんと口論になってしまいます。
怒りを抑えられなかったBさんは、Cさんの顔面を殴り、地面に倒れたCさんに馬乗りになって何度も殴り続けました。
その様子を見た店員が警察に通報し、駆けつけた警察官はBさんを現行犯逮捕しました。
この際、たまたまお店に居合わせた別の客であるDさんは、BさんがCさんに馬乗りになって殴り続けている様子を、Bさんの背中側から動画撮影し、SNS上にアップロードしてしまいました。
もちろん、この動画には、Bさんが着ていたジャンバーにあしらわれたX社のロゴが映っています。

翌朝、Bさんの名前やX社の名前こそ伏せられていたものの、Bさんが事件を起こしたというニュースが新聞で報道されてしました。
Bさんが出勤しておらず、報道で流れた情報がBさんと一致していたことから、この事件の犯人がBさんと察しがついたAさんは、Bさんの家族を問い詰め、Bさんが傷害事件で逮捕されているという事情を把握しました。
また、X社の取引先であるY社からは、DさんがアップロードしたSNSを見たとして会社に連絡が来てしまいました。

会社への影響を考えたAさんは、Bさんを解雇したいと考え、解雇しても問題がないのか、もしも問題があるのなら、今後の似たような事態に対応するにはどうしておけばいいのかを、あいち刑事事件総合法律事務所に相談することにしました。
(事例はフィクションです)

はじめに

以前の記事で、解雇権の濫用や解雇予告といった会社が従業員を解雇するためのルールについて解説をしてきました。

今回は、そのルールの1つである就業規則への記載に関連して、そもそも就業規則とは何なのか、どのような手続きで定めるのかといった点について解説していきます。

就業規則とは

就業規則とは、労働者(従業員)の労働条件や待遇の基準などをはっきりと定めて、会社と従業員との間でトラブルが生じないように定める規則です。

会社(使用者)は、「常時十人以上の労働者を使用する」のであれば、法律で定められた事項を盛り込んだ就業規則を作成しなければなりません(労働基準法89条柱書前段)。
そして、作成した就業規則は、所轄の労働基準監督署長に提出しなければならず、法律で定められた事項を変更した場合も提出しなければなりません(労働基準法89条柱書前段、後段)。

就業規則の作成手続き

就業規則は、会社と従業員との間のトラブルを防止するためのものですから、会社側が一方的に定めることはできません。

会社(使用者)が、就業規則を作成したり、変更したりした場合、「労働者の過半数で組織する労働組合がある場合」には労働組合に対して、そのような労働組合がない場合には「労働者の過半数を代表する者」に対して、「意見を聴かなければならない」とされています(労働基準法90条1項)。
なお、後者の「労働者の過半数を代表する者」は、①労働時間等に関する規定が適用外となる「監督若しくは管理の地位にある者」(労働基準法41条2号)ではなく、かつ、②「法に規定する協定等をする者を選出することを明らかにして実施される投票、挙手等の方法による手続により選出された者であつて、使用者の意向に基づき選出されたものでないこと」が条件となります(労働基準法施行規則6条の2第1項)。

また、このように定められた就業規則は、従業員に周知されなければなりません(労働基準法106条1項)。

このように、従業員が不祥事を行い、会社としてその従業員を解雇したいと思っても、解雇できるのかが就業規則の記載によって変わってくることがあります。
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所では、刑事事件に関わってきた経験を活かし、会社内で不祥事が起こった場合の対応・アドバイスにも力を入れています。
今回のケースで従業員を解雇できるのか、現在の就業規則の規定で十分なのかなどについてアドバイスをご希望の方は、一度、あいち刑事事件総合法律事務所にご相談ください。

【提携団体紹介】技術・情報保護に強い日本カウンターインテリジェンス協会

2024-02-17

弊所は一般社団法人日本カウンターインテリジェンス協会との業務上の提携を行っています。

日本カウンターインテリジェンス協会は、企業に対する諜報活動やサイバー攻撃、不正行為等に関する企業の危機意識を醸成し、”公正な社会・安心な社会”を実現するための活動をおこなっています。民間不正調査で多くの不正調査に携わり、企業や”人”の健全性に関するリスクデューデリジェンスや経済安全保障観点でのリスクコンサルティングを行ってきた元捜査官や国際政治学者などの各分野の専門家を擁し、企業実務に即した不正調査やリスクマネジメントに強みがあります

刑事事件の豊富な経験がバックグラウンドにある弊所と,企業の社内調査活動やサイバー攻撃対策に強い日本カウンターインテリジェンス協会が協力し,お互いの経験や知識を活用することで,相乗的により高度な企業犯罪対策,不祥事対応を提供できるものと確信しております。

提携団体リンクhttps://www.japancia.com/※外部サイトへ遷移します。

企業犯罪,不祥事対応,リスクマネジメント体制の構築についてご相談ごとのある方,事業主の方はお気兼ねなくお問い合わせください。

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