Archive for the ‘不祥事・危機管理’ Category
民泊サービスを始めるための注意点③

民泊サービスを始める場合の法律上の注意点に関し弁護士が解説します③
【事例】
Aさんは京都市内で不動産業を営んでいるX社の代表取締役を務めていました。
Aさんは近年京都市内を訪れる観光客が増えていることに目を付けて、自社が保有する空き物件を活用し民泊事業を開始しようと考えました。
しかし、Aさんは民泊業を行うためにどのような設備や手続が必要か分かりませんでしたので民泊サービスの許認可関係に強い弁護士に法律相談をしました。
(事例はフィクションです)
前回の記事では民泊業を営む場合に旅館業法上の許可が必要な場合について解説させていただきました。
今回の記事では旅館業法上の許可を取得する場合の流れについて解説させていただきます。
1 許可取得までの流れの概説
旅館業法に基づく許可を受けるためには、民泊サービスを行う予定の施設が所在する都道府県(保健所を設置する市、特別区を含む)の保健所にて申請を行う必要があります。
例えば事例のケースでいえば、京都市内の施設で申請をしようとしているので、京都市保健所(京都市が設置している保健所)が申請先になります。
そしてその流れを大まかに言えば、
①事前相談→②許可申請→③施設検査→④許可という流れになっています。
許可決定を受けて、初めて営業を開始することができるようになります。
2 各段階についての解説
(1)事前相談について
事前相談については、許可申請を行う前に事前相談を求めている自治体が多いようです。
申請を開始する前に都道府県の旅館業法担当窓口に一度確認してみてください。
相談にあたっては、施設の所在地、施設の図面、建築基準法や消防法への適合状況が確認されることがあるようです。
事前の準備について自信がない場合については専門家に相談して準備を進める方がよいかもしれません。
(2)許可申請について
許可申請にあたっては、①許可申請書と②営業施設の図面の提出と手数料の支払いが求められます。
①、②の他にも都道府県が条例で定める書類が別途必要になる場合がありますので、この点も事前相談で確認しておくことをおすすめします。
(3)施設検査について
施設検査においては、対象の施設が構造設備基準に適合していることを確認するために行われます。
検査の方法としては保健所職員等による立ち入り検査が行われます。構造基準が満たしていることが確認されるまでは許可を取得することができません。
構造設備基準については許可を申請する営業種別によっても異なります。
例えば以前の記事で紹介した、簡易宿所営業では延べ床面積が33㎡以上であること(宿泊者数が10に以下の場合は例外あり)、入浴設備があること(周辺の施設の状況によっては例外あり)などの基準が設けられています。
詳しくは旅館業法に詳しい専門家にご相談ください。
(4)許可と営業開始
許可を得る事ができれば営業を開始することができます。
地域や申請時期によっても変わるかもしれませんが、申請から許可までの標準的な機関は数週間程度と言われています。
3 許可申請の際には旅館業法に精通した弁護士にご相談ください
以上のように許可申請を行う場合には地方公共団体とのやり取りもありますし法的要件に適合しているかの判断も必要になります。
許可申請がスムーズに認められるかはその後の営業にも大きくかかわることですし、旅館業法に精通した弁護士に一度ご相談下さい。

元裁判官、元検察官、元会計検査院の官房審議官など企業案件の知識・経験の豊富な弁護士が、企業犯罪・不祥事対応等のコンプライアンス事案に対応します。
全国展開している事務所だからこそできるネットワークを生かした迅速な対応が可能です。
企業犯罪・不祥事に関するお問い合わせ、ご相談のご予約は24時間365日受け付けております。
企業犯罪・不祥事が起きてしまった場合の対応にお困りの方、予防法務も含めたコンプライアンス体制の構築・見直しをお考えの経営者の方は、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所に一度ご相談ください。
施術所の開設手続き③

【事例】
Aさんは、一念発起して、自宅のある奈良県天理市内で、資格を取得して鍼灸整骨院を開業しようと考えました。
Aさんは、鍼灸整骨院を開業するのには資格がいるというのは分かっていましたし、資格取得のために通い始めた学校も卒業が近付いてきました。
また、患者として鍼灸整骨院に通っていた経験から、健康保険も使える場面もあるようだということも知っていました。
しかし、具体的にどのような手続きをする必要があるのかまでは分かっていませんでした。
そこで、Aさんは、今後必要な手続きなどを相談するために、あいち刑事事件総合法律事務所に相談することにしました。
(事例はフィクションです。)
1 はじめに
前回の記事では、鍼灸整骨院を開業するにあたって、必要となる届出などについて解説してきました。
今回は届出や構造設備に関する規律を担保するための罰則規定や立ち入り調査等に関する規定についてみていきます。
2 届出や設備を整えなかった場合の罰則規定
前回までの記事でも解説しましたが、柔道整復師については柔道整復師法が、はり師やきゅう師についてはあん摩マツサージ指圧師、はり師、きゆう師等に関する法律(以下では、各資格の頭文字をとって「あはき法」といいます。)が、業務に関する規律を規定しています。
そして、それらの規律を担保するために、違反した場合に課される刑事罰についても定めています。
⑴ 無免許、免許の不正取得
まず、柔道整復師でもないのに、「業として柔道整復」を行った場合(医師である場合は除きます。)、50万円以下の罰金に処されます(柔道整復師法29条1項1号)。
また、「虚偽又は不正の事実に基づいて」柔道整復師の免許を受けた場合も同様に処罰されます(柔道整復師法29条1項3号)。
はり師やきゅう師でもないのに、業としてはりやきゅうをした場合も(こちらも意思である場合は除きます。)、50万円以下の罰金に処されます(あはき法13条の7第1項1号)。
また、「虚偽又は不正の事実に基づいて」はり師やきゅう師の免許を受けた場合も同様に処罰されます(あはき法13条の7第1項2号)。
⑵ 届出の懈怠、虚偽の届出
また、施術所を開設したのに10日以内にその届出をしなかった場合や、施術所の休止や廃止をしたのに10日以内にその届出をしなかった場合は、30万円以下の罰金に処されます(柔道整復師については柔道整復師法30条6号、19条1項、2項。はり師やきゅう師についてはあはき法13条の8第5号、9条の2第1項、2項。)。
それぞれの届出の際に、虚偽の届出をした場合も同様に処罰されます。
しかも、この処罰規定は、違反をした個人に対してだけではなく、法人に対しても適用されます(柔道整復師法32条、あはき法14条)。
例えば、複数の柔道整復師やはり師、きゅう師を雇い、会社として施術所を運営していた場合に、その代表者が虚偽の届出をしていたことから、柔道整復師法やあはき法で処罰されるとします。
このような場合に、法人の代表者だけではなく、施術所を運営している会社も処罰されることがあるのです。
続いて、都道府県知事による報告聴取、立入検査、行政命令などの規定についてみていきます。
3 報告及び検査
柔道整復師については柔道整復師法が、はり師やきゅう師についてはあん摩マツサージ指圧師、はり師、きゆう師等に関する法律(以下では、各資格の頭文字をとって「あはき法」といいます。)が、業務に関する規律を規定しています。
それぞれの法律では、それらの規律を担保するための規定、都道府県知事の権限を定めた規定についても定めています。
⑴ 報告・検査
まず、都道府県知事は、必要があれば、施術所の開設者や柔道整復師、はり師、きゅう師といった人々に、必要な報告を求めることができます(柔道整復師法21条1項、あはき法10条1項)。
万が一、求められた報告をしなかったり、虚偽の報告をしたりした場合には、それだけで30万円以下の罰金に処されることになります(柔道整復師法30条7号、あはき法13条の8第6号)。
また、職員に施術所の立入検査をさせることもできます(柔道整復師法21条、あはき法10条1項)。
万が一、この検査を拒んだり、妨げたり、忌避したりした場合にも、それだけで30万円以下の罰金に処されることになります(柔道整復師法30条7号、あはき法13条の8第6号)。
⑵ 行政命令
都道府県知事が報告を求めたり、立入検査をしたりした結果、施術所の構造設備が法律の基準(柔道整復師法20条1項、あはき法9条の5第1項)に適合していなかったり、法律で求められている衛生上の措置(柔道整復師法20条2項、あはき法9条の5第2項)が講じられていなかったりしたとします。
この場合には、期間を定めて、施術所の使用制限や使用禁止といったことを命令することもできますし、施術所の構造設備を改善するように命令したり、衛生上の措置を講じるように命令したりすることもできます(柔道整復師法22条、あはき法11条2項)。
万が一、この命令に違反した場合にも、30万円以下の罰金に処されることがあります(柔道整復師法30条4号、あはき法13条の8第7号)。
⑶ 両罰規定
報告や立入検査に関する刑事罰についても、行政命令の違反に関する刑事罰についても、両罰規定が定められています(柔道整復師法32条、あはき法14条)。
両罰規定というのは、違反した個人だけではなく、法人も処罰することができる規定です。
今回は、柔道整復師法やあはき法の規律を担保するための規定のうち、都道府県知事による報告聴取、立入検査、行政命令などの規定について解説していきました。この続きは今後の記事で解説していきます。
まとめ
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所では、刑事事件に関わってきた経験を活かし、そもそも法律に違反しないための対応・アドバイスにも力を入れています。
許認可申請についてアドバイスがほしい、継続的に弁護士からアドバイスを受けたいなどといったご要望の方も、一度、あいち刑事事件総合法律事務所にご相談ください。

元裁判官、元検察官、元会計検査院の官房審議官など企業案件の知識・経験の豊富な弁護士が、企業犯罪・不祥事対応等のコンプライアンス事案に対応します。
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企業犯罪・不祥事に関するお問い合わせ、ご相談のご予約は24時間365日受け付けております。
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訪問販売で特定商取引法違反した場合の刑罰リスク徹底解説 -前編

○はじめに
訪問販売は消費者に直接アプローチできる有効な販売手法ですが、その反面、不適切な勧誘行為によるトラブルも起こりやすいため法律で厳しく規制されています。
とりわけ特定商取引法は、訪問販売での悪質な勧誘を禁止し、違反した事業者には行政処分や刑事罰が科される仕組みを整えています。万一法令に違反すれば、業務停止命令などで事業の継続自体が困難になるリスクだけでなく、罰金や懲役刑といった刑罰もあります。
本記事では、中小企業経営者や訪問販売事業者の方々に向けて、特定商取引法における訪問販売の定義から禁止行為の具体例、違反時の刑事責任と行政処分、実際の摘発事例、経営への影響、そしてコンプライアンスの対策までを総合的に解説します。最後に、違反リスクへの対応策として弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所のサポート内容も紹介しますので、リスク管理にお役立てください。
○特定商取引法における訪問販売の定義と対象範囲
まず「訪問販売」とは何かを確認しましょう。特定商取引法第2条1項で定義が定められており、訪問販売を事業者(販売業者や役務提供事業者)が、自らの営業所以外の場所(例:消費者の自宅)で契約の申込みや契約締結を行う取引などをいいます。
典型的にはセールススタッフが家庭を戸別訪問して商品やサービスの契約を結ぶケースですが、それだけではありません。
特定商取引法上の訪問販売にはキャッチセールスやアポイントメントセールスと呼ばれる手法も含まれます。
例えば、街頭で通行人に声をかけ営業所等に同行させて契約させる行為(キャッチセールス)や、電話・SNS等で「景品が当たりました」「特別に選ばれました」などと宣伝して店舗に呼び出し契約させる行為(アポイントメントセールス)も、契約自体は店舗で結んだとしても訪問販売に該当します。
また、一時的に借りたホテルの一室や喫茶店で商品を展示・販売する場合でも、その会場の状況が常設店舗に準じないようなものであれば訪問販売に該当します。このように消費者にとって不意打ち性の高い勧誘は広く「訪問販売」として法律の規制対象となります。
要するに、店舗や事務所から離れた場所で行われる対面勧誘販売が訪問販売に該当します。
特定商取引法の訪問販売規制は、原則としてすべての商品・サービスおよび特定権利(会員権など一定の権利)に適用されます。
したがって、住宅リフォームから健康食品の販売、さらには権利性商品(例:クラブの会員権や塾の受講権)まで、業として反復継続的に消費者に対して行う勧誘販売であれば基本的に特定商取引法のルールに従わねばなりません。事業者は「自分の販売形態が訪問販売に該当するか」慎重に見極め、該当する場合は同法の規制を遵守する必要があります。
○訪問販売で禁止されている行為の具体例
次に、特定商取引法が訪問販売でどのような勧誘行為を禁止しているかを具体的に見ていきます。同法第6条では、消費者に不当な契約をさせたり契約解除を妨げたりする以下のような行為を明確に禁止しています。
代表的な禁止行為の例は以下のとおりです。
•不実告知(虚偽・誇大な説明): 商品・サービスの内容や価格など重要な事実について、事実と異なることを告げる行為。たとえば「この浄水器をつければ病気にならない」など根拠のない効果をうたったり、「本日限り半額」などとウソの割引情報を伝えて契約を急がせることが該当します。事実に反する説明で消費者を誤認させ契約させることは厳禁です。
•重要事項の不告知: 消費者に契約させる際に、本来知らせるべき重要な事実を意図的に告げない行為。典型例は、契約後でも一定期間内なら無条件で解約できる「クーリング・オフ」の制度をわざと説明しないケースです。他にも、追加料金や解約制限など不利な条件を隠して契約させる行為が該当しえます。重要なポイントを黙っているのも違法な勧誘に該当しうるのです。
•威迫・困惑(脅しや執拗な勧誘): 契約をさせるため、あるいは消費者による申込み撤回や契約解除(クーリング・オフ)を妨げるために、相手を威圧したり心理的に追い詰めたりする行為です。大声で怒鳴って契約を迫る、長時間居座って消費者を疲弊させ判断力を鈍らせる、契約を断ろうとする相手に「違約金を支払え」などと脅す――こうした威嚇的・困惑的な勧誘は法律で禁止されています。消費者が不安や恐怖で正しい判断ができない状況を意図的に作り出す行為は違法です。
•再勧誘・迷惑勧誘: 消費者が一度「契約しません」「申し込みを撤回します」と意思表示したにもかかわらず、執拗に勧誘を続ける行為も禁止されています。特定商取引法第3条の2第2項により、訪問販売業者は相手方が契約しない意思を示したら、それ以上その契約の勧誘をしてはならないと定められています。例えば「もう結構です」と断られたのに別の日に再訪問したり、電話を繰り返し掛けたりするのは再勧誘の禁止規定に抵触します。また、相手から退出要請があったのに居座り続ける(不退去)ことも問題です。消費者の意思に反するしつこい勧誘は違法です。
•目的隠匿の誘引(キャッチセールス・アポ電勧誘): 販売目的を告げずに人を誘い出し、公共の場所以外で契約を勧誘する行為も禁止されています。例えば「アンケート調査です」「無料でプレゼントを配っています」などと営業目的を隠して人を呼び止め、営業所ではない場所に連れて行ってから商品を売り込む手口がこれに当たります。前述したキャッチセールスやアポイントメントセールスで、誘い出した消費者を密室や人目につかない場所で勧誘するような場合が典型例です。正体を隠しておびき出し、その場で初めて契約を迫るようなやり方は法律違反となります。
以上が主な禁止行為の例となります。
これら以外にも、訪問販売では契約時に事業者情報や契約条件を書面で交付する義務(第4条・第5条)や、契約後一定期間の無条件解約を認めるクーリング・オフ制度(第9条)など消費者保護のルールがあります。これらの義務を怠ること自体も違法行為です。たとえば契約書面を渡さない、書面に虚偽の内容を記載する、といった行為も処罰の対象になります。事業者は法律で何が禁じられているかを正確に理解し、絶対にそれらの不適切な勧誘を行わないよう社内で徹底する必要があります。
○違反行為に科される刑事罰と行政処分
特定商取引法に違反した場合、事業者や関係者には行政上の処分と刑事上の罰則の双方が科される可能性があります。ここでは訪問販売で禁止行為等に違反した際の主な処分と刑罰を解説します。
- 行政処分: 特定商取引法に基づく行政処分には段階があり、違反の程度に応じて次のような措置がとられます。
•業務改善の指示(指示処分): 主務大臣は、違反を確認した事業者に対してまず違反行為をやめ、再発防止策を講じること等の是正指示を出すことができます(第7条1項)。これは行政上の是正勧告にあたり、法的拘束力があります。改善指示を受けた事業者は速やかに社内体制を見直し、違反を解消しなければなりません。
•業務停止命令: 違反が重大または悪質な場合、あるいは指示に従わない場合には、一定期間その業務の全部または一部の停止を命じられます(第8条)。例えば「令和○年○月○日から○月○日までの間、訪問販売業務のうち●●に関する事項を停止すること」といった内容です。業務停止命令を受けると、その間は指定された営業活動を一切行えなくなるため、事業継続に深刻な影響が生じます。行政処分としては重い部類で、違反行為が反復継続され消費者被害が拡大しているようなケースなどで発動されます。
•業務禁止命令(役員の関与禁止命令): さらに悪質な場合、法人の代表者や担当役員個人に対し、一定期間その訪問販売業務を新たに開始することを禁ずる業務禁止命令が発令されることもあります(第8条の2)。これは業務停止命令を出された法人の代表者などが、別名義で同じ事業を行って業務停止命令が無意味なものにならないように行う処分です。
また、こうした行政処分が下された場合、主務官庁のホームページやプレスリリースで社名や違反内容が公表されます。公的に名前が公表されることで社会的信用失墜というさらなるペナルティも科される仕組みです。 - 刑事罰: 行政処分にとどまらず、特定商取引法違反行為の一部は刑事罰(懲役刑・罰金刑)の対象にもなっています。警察などの捜査機関が悪質な事件と判断すれば、関係者が逮捕・送検され刑事裁判で裁かれる可能性があります。主な刑事罰の規定は以下のとおりです。
•禁止行為違反に対する罰則: 第6条に定められた上記のような禁止行為(虚偽説明、威迫困惑、目的隠し勧誘等)に違反した者は、3年以下の懲役または300万円以下の罰金(もしくはその両方)が科されます。
たとえば訪問販売で嘘の説明をして契約させた営業員や、そのような手法を指示した経営者は、この規定により刑事罰を受ける可能性があります。
•書面交付義務違反に対する罰則: 契約時の書面交付義務(第4条1項・第5条1項、2項)を怠ったり、交付書面に虚偽の記載をした場合も処罰対象です。
これに違反した者には6月以下の懲役または100万円以下の罰金(または両方)が科されます。実際、クーリングオフの書面を渡さなかったリフォーム業者の社長がこの容疑で逮捕されたと報道された例があります。書面を出さないと「手続きミス」程度に思われがちですが、立派な犯罪行為なのです。
•行政処分違反に対する罰則: 発令された業務停止命令や禁止命令に違反して営業を続けた場合も、極めて悪質とみなされ厳罰に処されます。
具体的には、主務大臣の命令に違反した者は3年以下の懲役または300万円以下の罰金(または両方)に処せられます(第70条第3号)。例えば業務停止中にも関わらず密かに勧誘を続けていたような場合、刑事事件として逮捕された事例もあります。行政処分に背く行為は非常に悪質だとみられ、特に重い罰則が用意されています。
以上のように個人に科される刑罰だけでなく、事業主体である法人自体も処罰の対象となり得ます。特定商取引法には両罰規定があり、違反行為を行った従業員や代表者本人の処罰に加えて、その使用者である法人にも罰金刑が科されます。たとえば社員が訪問販売で違法な勧誘を行った場合、企業には1億円以下の罰金が科される可能性があります。
また、業務停止命令違反のようなより重大なケースでは法人に対し最大3億円以下の罰金という非常に高額な制裁が科されます。中小企業にとって数億円の罰金は経営を揺るがしかねない巨額であり、法人としての刑事責任も極めて重いことがわかります。
さらに、訪問販売での悪質商法は場合によって詐欺罪(刑法246条)や強要罪(刑法223条)といった一般刑法で裁かれることもあります。たとえば嘘を並べ立てて高齢者に高額な契約を結ばせ巨額の代金を騙し取った場合には、特商法違反のみならず詐欺罪が適用されてより重い刑罰(10年以下の懲役など)に問われる可能性もあります。
このように特定商取引法違反は刑事事件化しやすく、企業経営者や社員にとって逮捕・起訴や前科といったリスクをはらんでいることを肝に銘じる必要があります。
○実際の違反事例(企業や経営者の摘発ケース)
特定商取引法違反で訪問販売業者や経営者が摘発された実例は後を絶ちません。ここではいくつか具体的なケースを紹介します。いずれも法律違反により逮捕や処分に至った事例であり、読者の皆様の教訓としてください。
•住宅リフォーム「点検商法」でクーリングオフ不告知の摘発: 2024年から2025年にかけ、関西地方で屋根修理の訪問点検で消費者の不安をあおり、屋根工事契約の訪問販売を行っていたリフォーム会社の社長や社員、アルバイト4名が、契約時にクーリングオフが可能なことを説明しなかったなどの疑いで逮捕されたという報道がされています。この事件では、アルバイト50人以上をSNSで集めて戸別訪問させる大がかりな手口であったとも報道されています。
•高齢者に対するアポイントメントセールスの摘発: 古典的な手口ですが、高齢者を狙った訪問販売の違法勧誘も各地で摘発されています。たとえば2009年には神奈川県の訪問販売会社の実質経営者ら6人が、「店のオープン記念で商品を無料配布します」と嘘を言って74歳の女性を民家に呼び出し、実際には家庭用温熱治療器を約26万円で売りつけた容疑で逮捕されたと報道されています。この事件では、商品は仕入れ値3万3千円ほどのもので、12月から翌9月までの間に約1000人の高齢者に同様の手口で販売し、総額2億4千万円もの売上を上げていたとも報道されています。これは典型的なアポイントメントセールス(目的隠匿勧誘)の悪質事例で、消費者の善意(無料配布にあやかりたい気持ち)につけ込んだものです。
•業務停止命令に違反して勧誘を続けた摘発: 違反を繰り返した業者には行政処分が下されますが、それを無視すれば刑事事件となります。2023年には、過去に特商法違反で業務禁止命令を受けていた訪問販売会社の関係者2名が、業務禁止命令中にもかかわらずセミナーで勧誘を続けていたとして逮捕されたと報道されています。この事件では、全国で1000億円以上を集めていたとみられるとも報道されていて、行政処分を無視した悪質業者に対する摘発の典型例といえます。
これらの事例からも分かるとおり、特定商取引法違反は実名報道を伴う摘発案件となり得ます。一度このように摘発されてしまうと、経営者個人はもちろん会社の名前も報道で広く知られてしまい、信用失墜は避けられません。違法な勧誘は「自分だけは大丈夫」と思わず、社会の監視の目に晒されているという自覚を持つことが肝要です。
○弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所によるサポート
特定商取引法に関するリスク対応について不安がある企業や、残念ながら違反行為を指摘されてしまった事業者の方は、早めに法律の専門家である弁護士へ相談することをおすすめします。
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所は、企業の刑事事件やコンプライアンス支援を扱う法律事務所であり、特定商取引法を含めた特別法違反の刑事事件に関する豊富な知見と実績を有しています。
当事務所では、訪問販売や通信販売など特定商取引法が関係するビジネスを営む企業に対し、法令遵守のためのアドバイスや社内体制整備のサポートを提供しています。具体的には、貴社の契約書類や勧誘マニュアルが法律の要件を満たしているかをチェックし、必要な修正点を提案いたします。また、営業担当者向けのコンプライアンス研修の実施、万が一トラブルが発生した際の社内調査の支援なども可能です。顧問契約による継続サポートによって、定期的に取引内容の適法性を確認しリスクを未然に防ぐ体制構築をお手伝いいたします。
当事務所へのご相談は初回無料で承っており、電話やウェブ面談にも対応しています。特定商取引法の適用範囲に自社の営業が該当するか判断に迷っている経営者の方、あるいは違反を指摘されお困りの方は、お一人で悩まずにぜひ一度弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所にご相談ください。私たちは全国に拠点を持ち、迅速かつ丁寧に対応いたします。法令順守と企業防衛に向けた法律の専門家として、皆様の事業が安心・安全に継続できるよう全力でサポートいたします。
以上、特定商取引法が規制する範囲や具体的な事例などについて解説しました。健全な事業運営のためには法律遵守が不可欠であり、違反した際の代償は企業にとってあまりにも大きいものです。本記事の内容を踏まえ、ぜひ適切なコンプライアンス体制を整えていただければ幸いです。万一トラブルに直面した際には早めに専門家に相談し、被害の拡大を防ぐようにしてください。法を守った誠実な訪問販売で、消費者から信頼される健全なビジネスを築いていきましょう。
お問い合わせはこちらからどうぞ。

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民泊サービスを始めるための注意点①

民泊サービスを始める場合の法律上の注意点に関して弁護士が解説します。
【事例】
Aさんは京都市内で不動産業を営んでいるX社の代表取締役を務めていました。
Aさんは近年京都市内を訪れる観光客が増えていることに目を付けて、自社が保有する空き物件を活用し民泊事業を開始しようと考えました。
しかし、Aさんは民泊業を行うためにどのような設備や手続が必要か分かりませんでしたので民泊サービスの許認可関係に強い弁護士に法律相談をしました。
(事例はフィクションです)
1 民泊サービスと近年の法改正について
民泊(サービス)については明確な定義はありませんが、住宅(戸建て住宅やマンションなどの共同住宅)の全部または一部を活用して旅行者等に宿泊サービスを提供することを指すと言われています。
事例で挙げたように、民泊サービスは海外旅行者の増加に伴って近年注目されているビジネスの一つです。そして、平成30年6月15日より民泊サービスの普及を背景に、新たな民泊サービスの枠組みを定めた住宅宿泊事業法が施行されました。
この法律は住宅宿泊事業者としての届け出を行えば住宅で宿泊サービスを行う事ができるようになり、住居を持つものであれば一定の条件の下,以前より容易に民泊サービスが提供できるようになりました。
しかしながら、住宅宿泊事業者法の枠組みで行える民泊事業については、年間の実施制限などの規制があり営業の内容等次第では従前どおりの手続きを経る必要があるので注意が必要です。
仮に本来受けるべき許可を得ずに営業をしてしまえば、刑事罰を科される可能性もあります。
改正法による住宅宿泊事業者法の対象なる事業については別の記事で改めて詳しく解説させていただきます。
2 旅館業法に基づく許可について
先程説明した民泊事業を行う際に必要な手続きとしては、旅館業法に基づいて許可を受けることになります。
旅館業法の許可にはいくつかの種別がありますが、住宅を利用して民泊サービスを行う場合には「簡易宿所営業」で許可を取得するのが通常です。
旅館業法には簡易宿所営業の他にホテル営業、旅館営業、下宿営業があります。カプセルホテルも施設の構造にもよりますが「簡易宿所営業」に分類されることが多いです。
3 簡易宿所営業の許可を取得する場合の構造設備の基準
では簡易宿所営業を許可する場合には、施設がどのような基準を満たしていることが必要でしょうか。
簡易宿所営業における構造の基準については旅館業法施行令第1条第2項に定めがあります。
なおか簡易宿所の許可基準は平成28年4月に基準が緩和されており、このことからも政府は民泊サービスを普及させて海外旅行者の受け皿になることを期待していることが窺えます。
以下に基準を挙げておきます。
一 客室の延床面積は、三十三平方メートル(法第三条第一項の許可の申請に当たつて宿泊者の数を十人未満とする場合には、三・三平方メートルに当該宿泊者の数を乗じて得た面積)以上であること。
二 階層式寝台を有する場合には、上段と下段の間隔は、おおむね一メートル以上であること。
三 適当な換気、採光、照明、防湿及び排水の設備を有すること。
四 当該施設に近接して公衆浴場がある等入浴に支障をきたさないと認められる場合を除き、宿泊者の需要を満たすことができる規模の入浴設備を有すること。
五 宿泊者の需要を満たすことができる適当な規模の洗面設備を有すること。
六 適当な数の便所を有すること。
七 その他都道府県が条例で定める構造設備の基準に適合すること。
X社が保有する物件の設備が上記の条件を満たす場合には簡易宿所営業の許可を受けて民泊サービスを営むことが可能になります。
しかしながら設備が条件を満たしていても、必要な許可を取得しないまま民泊サービスを提供してしまえば、無許可営業として刑事罰の対象になってしまいます。
次回の記事では旅館業法上の許可が必要なのはどのような場合なのかについて解説させていただきます。

元裁判官、元検察官、元会計検査院の官房審議官など企業案件の知識・経験の豊富な弁護士が、企業犯罪・不祥事対応等のコンプライアンス事案に対応します。
全国展開している事務所だからこそできるネットワークを生かした迅速な対応が可能です。
企業犯罪・不祥事に関するお問い合わせ、ご相談のご予約は24時間365日受け付けております。
企業犯罪・不祥事が起きてしまった場合の対応にお困りの方、予防法務も含めたコンプライアンス体制の構築・見直しをお考えの経営者の方は、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所に一度ご相談ください。
企業における営業秘密の情報漏洩③

企業において営業秘密の情報漏洩があった場合について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が解説します。
営業秘密として不正競争防止法上の保護を受けるためには
「営業秘密」とは、秘密として管理されている生産方法、販売方法その他の事業活動に有用な技術上または営業上の情報であって、公然と知られていないものをいいます(不正競争防止法2条6項)。
すなわち、同法上の営業秘密は次の3つの要件を満たす必要があります。
- 秘密として管理されている情報であること
- 有用な情報であること
- 公然と知られていない情報であること
の3要件です。
今回は、この中で、最も問題となることの多い①秘密管理性の要件について解説します。
②情報の有用性,③情報の非公知性について前回の記事でも触れていますので併せてご確認ください。
秘密管理性の要件について
秘密管理性の要件について、経済産業省が出している「営業秘密管理指針」には、
秘密管理性要件の趣旨は、企業が秘密として管理しようとする対象(情報の範囲)が従業員等に対して明確化されることによって、従業員や取引相手先(以下、「従業員等」という。)の予見可能性、ひいては、経済活動の安定性を確保することにあるとされ、続いて、必要な秘密管理措置の程度として、秘密管理性要件が満たされるためには、営業秘密保有企業の秘密管理意思が秘密管理措置によって従業員等に対して明確に示され、当該秘密管理意思に対する従業員等の認識可能性が確保される必要がある
とされています。
営業秘密は、情報という無形のもので、占有によって保有者を明らかにすることができませんし、秘密であるところに価値が存在するため、公示にもなじみません。また、その保有携帯も様々です。そのため、営業秘密として保護を受けるためには、秘密に管理しようとする意思があっただけでは足りません。従業員等から認識可能な程度に客観的に秘密として管理されている状態にあったことが必要です。
この点、秘密管理性要件は、従来、①情報にアクセスできる者が制限されていること(アクセス制限)、②情報にアクセスした者に当該情報が営業秘密であることが認識できるようにされていること(認識可能性)の2つが判断の要素になると説明されてきました。しかしながら、現在では、両者は秘密管理性の有無を判断する重要なファクターであるが、それぞれ別個独立した要件ではなく、「アクセス制限」は、「認識可能性」を担保する一つの手段であると考えられ、したがって、情報にアクセスした者が秘密であると認識できる(「認識可能性」を満たす)場合に、十分なアクセス制限がないことを根拠に秘密管理性が否定されることはないとされています(同営業秘密管理指針6頁)。
参考となる裁判例として、「不正競争防止法2条6項が保護されるべき営業秘密に秘密管理性を要件とした趣旨は、・・・その保有者が主観的に秘密にしておく意思を有しているだけでなく、当該情報にアクセスした従業員や外部者に、当該情報が秘密であることが十分に認識できるようにされていることが重要であり、・・・可能な限り高度なアクセス制限をすることは、独立した要件ではな」いとした東京高判平成29年3月21日があります。
次回は、営業秘密の情報漏洩があった場合の不正競争防止法の罰則について、具体的に解説していきます。

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顧客情報保護のための体制と関連法令 後編

弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が営業秘密の保護,特に中小企業における顧客情報の保護に必要な態勢の構築や関連法令を解説します。前後編の後編として,具体的な対策,企業が抱える課題について深堀します。
営業秘密・顧客情報を守るための社内体制と具体的対策
営業秘密を確実に保護するには、日頃から企業内で計画的な情報管理体制を構築し、多方面から対策を講じておくことが不可欠です。中小企業の場合、大企業ほど大掛かりな設備投資は難しくても、工夫次第で最低限必要な安全策を講じることが可能です。以下に、実務上とるべき具体的措置を整理します。
1 秘密情報管理ルールの整備(就業規則への明記)
社内規程として秘密情報の定義や管理方法、禁止事項を定めましょう。就業規則に「どの情報が営業秘密に当たるか」「営業秘密を扱う際の遵守事項」「営業秘密を漏えい・不正利用した場合の懲戒処分」等を明文化し、全従業員に周知します。これにより社員は何が秘密かを認識しやすくなり、うっかり漏えいのリスクも減らせます。また社内研修を定期的に実施し、営業秘密の重要性と守秘義務について継続的に教育することも大切です。
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所では社内研修についてもご相談いただけます。
2 従業員や関係者との秘密保持契約(NDA)の締結
従業員を雇用する際や取引先と機密情報を共有する際には、必ず秘密保持契約NDA: Non-Disclosure Agreement を結びます。契約によって守秘義務を明確に認識させ、情報を外部に漏らさない旨の誓約を得ることは、現在では基本中の基本と言えます。特に社員とのNDAは「退職後も守秘義務が続く」ことを明記できるため、不正競争防止法上の義務と相まって抑止力になります。取引先や外部委託先についても、契約段階で必要な秘密保持条項を盛り込み、営業秘密や顧客データを渡す場合は目的外利用禁止や再提供禁止を取り決めておきましょう。
参考 秘密保持契約とは?(外部サイトにリンクします)
3 アクセス権管理と物理的・技術的なセキュリティ措置
秘密情報へのアクセスは「知る必要がある人」だけに限定します。社内で営業秘密を管理する際は、それが営業秘密であることを明示し(ファイルや資料に「社外秘」「Confidential」など表示)、紙媒体であれば鍵付き棚に保管、電子データならパスワードや暗号化でロックするなど厳重に管理します。さらに共有フォルダやシステム上のアクセス権限を設定し、一部の限られた担当者のみが当該情報に触れられるようにすることで、万一社内に不正者がいても被害を最小限にとどめられます。物理的にはオフィスへの入退室管理や機密エリアへの立入制限、技術的にはファイアウォールやウイルス対策ソフトの導入、USB等外部記録媒体への書き出し制御(必要に応じて禁止措置)も講じましょう。また、重要データはバックアップを取りつつ外部ネットワークから切り離した安全な場所に保管するなど、サイバー攻撃による破損・消失への備えも必要です。
4 人的対策と退職・転職時の対応
ヒューマンエラーや内部不正を防ぐため、人の面からの対策も欠かせません。日頃から従業員に対し情報管理の倫理教育を行い、機密情報を扱う際は注意深く行動する企業文化を育てます。また従業員の退職時には、会社貸与PCやデバイスの速やかな回収、私物へのデータコピーがないかの確認、メールやクラウドストレージの利用履歴チェックなどを行い、不正な持ち出しが無いことを確認します。必要に応じて退職者に秘密保持契約書の再確認や念書を書いてもらい、退職後も守秘義務が続くことを念押しすることも有効です。昨今はテレワーク等で社外から社内データにアクセスする機会も増えていますが、自宅作業時のルール(画面を他人に見られない、デバイス紛失時の報告等)も定めておき、社内外を問わず情報管理体制に隙が生じないようにしましょう。
以上のような対策を講じておけば、不正競争防止法上の「秘密管理性」の要件も概ね満たすことが期待できます。ポイントは、単一の施策だけで安心せず多層的な防御策を組み合わせることです。特に中小企業では人員や予算に限りがありますが、社員一人ひとりの意識向上と簡易なルー_ルの徹底からでも十分効果は現れます。自社の状況に合わせて無理のない範囲から着手し、徐々に管理レベルを高めていくことが重要です。
情報漏えいのリスクと中小企業が直面する課題
どれだけ対策を尽くしても、情報漏えいのリスクをゼロにすることは困難だといわれます。企業が備えるべき脅威は大きく分けて内部不正・外部攻撃・人的ミスの3種類に大別できます。
近年特に増加傾向にあるのが社員や元社員による内部不正型の漏えいです。例えば退職直前に社内データを持ち出して転職先で不正利用するといったケースや、社内権限を悪用して顧客情報を盗み出し名簿業者へ売却する事件が発生しています。実際に、ある不動産会社では元従業員が在職中に顧客情報を社外のサーバーへアップロードし、転職先でダウンロードして利用していたことが発覚し、不正競争防止法違反容疑で逮捕されています。また別の事例では、システム管理者権限を持つ元派遣社員が10年以上にわたり取引先自治体等の個人情報合計900万件以上を不正に持ち出し名簿業者に売り渡していたことが明るみに出ました。この事件では管理体制の不備が指摘され、会社は行政指導を受ける事態となり、元社員も不正競争防止法違反で起訴されています。内部犯行は一度起これば被害範囲が極めて広くなりやすく、中小企業にとっても他人事ではありません。
一方、外部からのサイバー攻撃(マルウェア感染やランサムウェアによるデータ暗号化など)による情報漏えいリスクも高まっています。実際に国内でも、ランサムウェア攻撃により顧客データが流出しかけた協同組合や、病院の電子カルテが閲覧不能になる被害が報告されています。中小企業だから狙われないという保証はなく、むしろ大企業より防御が手薄な中小企業が標的にされる傾向すら指摘されています。
加えて、従業員のうっかりミス(PCやUSBメモリの紛失、メールの誤送信、クラウド設定ミスによる公開など)も情報漏えい原因の一定割合を占めます。例えば自治体業務の委託企業で、契約社員が申請者の個人情報を付箋に書き写して持ち出すという単純な方法で不正入手していた例もありました。このように、多様な経路で漏えいは発生し得るため、技術面・人の意識両面から網羅的な対策が必要です。
中小企業が直面する課題としては、まずリソース不足による情報セキュリティ対策の遅れが挙げられます。
実際、ある調査では中小企業の多数が営業秘密の持ち出し制御策を「特に何もしていない」と回答しており、その割合は製造業で84.1%、非製造業で78.6%にも上りました。この背景には、「自社のような小規模企業が狙われるわけがない」「うちは扱う情報もたいしたことがない」といった誤った思い込みや、専門知識を持つ人材の不足、予算確保の難しさなどがあると考えられます。
また、「何を営業秘密として指定すべきか」「どう管理すれば法の保護が受けられるか」が分からず、結果的に無防備な状態になってしまっているケースも少なくありません。さらに、情報漏えい発生後の対応体制(インシデント対応計画や報告手順)が整備されていない企業も多く、いざという時に適切な被害拡大防止・法令報告ができないリスクもあります。中小企業こそ日常的かつ継続的な対策が必要ですが、現実には場当たり的な対応にとどまっている場合が多いのが課題と言えるでしょう。
近年は行政も中小企業向けの支援策を強化しています。経済産業省や情報機構では営業秘密管理指針や中小企業向けハンドブックの提供、独立行政法人INPITによる「営業秘密110番」のような相談窓口整備、またサイバー保険の普及など、企業支援の取り組みが進んでいます。自社だけで難しい部分はこうした支援も活用しながら、まずは「自社のどの情報が営業秘密か」を把握して必要な管理策を講じることから始めるのが現実的です。
情報漏えいは一度起きれば長年にわたる法的紛争に発展することもあります(例:2014年発覚の大規模漏えい事件で、2023年になって企業に賠償命令が下りました)。平時から備えを万全にし、万一トラブルが生じた場合にも迅速に対応できるよう体制を整えておくことが、これからの中小企業経営に求められています。
まとめ
顧客情報をはじめとする営業秘密の漏えい防止は、中小企業にとって避けて通れない重要課題です。不正競争防止法上の営業秘密として法的に守るためには、秘密情報を自ら適切に管理することが大前提になります。そのため、関連法令(不正競争防止法や個人情報保護法)を正しく理解し、自社に合った社内体制やルールを構築しておくことが不可欠です。具体策として、社内規程の整備、従業員や取引先との契約、アクセス制御や暗号化などの技術的対策、従業員教育と意識向上といった多角的なアプローチで情報を守りましょう。
特に人的要因による漏えいリスクは軽視できないため、「人」「技術」「制度」のバランスが取れた対策が重要です。昨今の法改正動向や判例からもわかるように、情報管理における企業責任は一段と重くなっています。自社の営業秘密を守ることは、自社の価値と信用を守ることに他なりません。日々の業務の中で機密情報を大切に扱い、万全の備えで企業の発展と顧客の信頼を守っていきましょう。

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顧客情報保護のための体制と関連法令 前編

弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が営業秘密の保護,特に中小企業における顧客情報の保護に必要な態勢の構築や関連法令を解説します。
中小企業にとって、自社の営業秘密(顧客リストや技術ノウハウなどの秘密情報)を適切に保護することは、競争力維持や信頼確保の面で極めて重要です。万一これらの情報が漏えいすれば、経済的損失や法的リスクにとどまらず、企業の信用失墜といった深刻な被害につながります。
本記事では前後編の2部で解説を行い、営業秘密の定義や法的保護の要件を確認し、不正競争防止法や個人情報保護法といった関連法令について解説します。その上で、企業が実務上講じるべき具体的な対策や、情報漏えいリスクの実態と中小企業が直面する課題について、最新の事例や法改正動向を交えてわかりやすく説明します。
本記事は前編として,関係する法令について解説します。
営業秘密の定義と保護の重要性
まず営業秘密とは何かを正しく理解しましょう。不正競争防止法では営業秘密を、「秘密として管理されている生産方法、販売方法その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であって、公然と知られていないもの」と定義しています(同法2条6項)。
要するに、以下の3つの要件を全て満たす情報が営業秘密となります。
秘密管理性: 当該情報が秘密として適切に管理されていること
有用性: 事業活動にとって有用な技術上または営業上の情報であること
非公知性: 世間一般にまだ知られていない情報であること
これらの要件を満たす情報であれば、顧客情報、製品製造やサービス提供に関するノウハウ、取引先リスト、原価・仕入情報、財務データなど、企業が保有する様々な情報が営業秘密として法の保護対象になりえます。
特に中小企業にとっては、競合他社に渡れば不利益となる顧客名簿や価格戦略情報などは典型的な営業秘密と言えます。営業秘密を守ることは、自社のビジネス上の優位性を維持し、取引先や顧客からの信頼を損ねないためにも欠かせません。逆に一度漏えいすれば、先述のように金銭的損害だけでなく信用失墜といった致命的な打撃を受けかねないため、万全の管理が求められるのです。
営業秘密の保護に関わる法制度
営業秘密を取り巻く主な法制度として、日本では不正競争防止法による保護と、顧客情報が個人データである場合の個人情報の保護に関する法律(個人情報保護法)による規制の二本柱があります。それぞれのポイントを押さえておきましょう。
不正競争防止法による営業秘密の保護
不正競争防止法は営業秘密の不正取得や漏えいに対して強力な保護策を定めています。同法上、営業秘密に該当する情報について、正当な権限なく取得・使用・開示する行為は「不正競争」として禁止されます。
他者の営業秘密を侵害した者には、被害企業からの差止請求(利用や開示の停止要求)や損害賠償請求を受ける民事上の責任に加え、場合によっては刑事罰(罰金刑や懲役刑)の対象にもなり得ます。
実際に、不正競争防止法違反(営業秘密漏えい)で元社員や競合他社が逮捕・起訴される事例も増えており、法的リスクは非常に大きいと言えます。
また、不正競争防止法は営業秘密を扱う従業員に対し秘密保持義務を課している点も重要です。
この義務は在職中の社員だけでなく、退職後の元社員にも及びます。そのため、たとえ退職後であっても在職中に知り得た営業秘密を漏らした場合、元従業員は同法違反として処罰対象となることがあります。近年では、元社員が競合他社へ転職する際に前職の営業秘密(例:顧客リストや技術資料)を持ち出すケースが後を絶たず、不正競争防止法違反で逮捕・有罪判決となった例もあります(※後述の具体事例参照)。企業としては、従業員との契約や就業規則を通じて秘密保持義務を明示するとともに、退職時にも改めて守秘義務を周知することが欠かせません。
個人情報の保護に関する法律(個人情報保護法)等の関連法令
営業秘密の内容に個人の情報(氏名や連絡先等)が含まれる場合、その取り扱いには個人情報保護法も関係してきます。顧客名簿や会員データは典型的に個人情報に当たるため、中小企業であっても同法を遵守した管理が必要です。
個人情報保護法では、事業者に対し取り扱う個人データの安全管理のために必要かつ適切な措置を講じる義務(第20条)が課されています。具体的には、組織的安全管理措置(責任者の設置や社内規程の整備)、人的安全管理措置(従業員への教育・監督)、物理的・技術的安全管理措置(施錠やアクセス制御、暗号化等)を講じて、個人データが漏えい・流出しないよう対策を取らねばなりません。
また、従業員による個人データの不正持ち出し防止のための監督義務(第21条)や、外部に業務委託する場合の委託先監督義務(第22条)も定められています。
2022年4月の法改正により、個人情報の漏えい時のルールも一段と厳格化されました。従来は努力義務にとどまっていた漏えい発生時の報告・通知が義務化され、一定規模の個人データ漏えい等が生じた場合には速やかに個人情報保護委員会への報告と本人通知を行う必要があります。違反した際の罰則も強化されており、重大な漏えい事故を起こして報告を怠った場合には行政処分や罰金のリスクもあります。つまり、中小企業であっても顧客の個人情報が含まれる営業秘密については、単に秘密として管理すれば良いだけでなく、個人情報保護法に基づく適法かつ安全な取り扱い(必要な同意の取得、目的範囲内での利用、安全管理措置の実施、漏えい時の適切な対応等)を総合的に行うことが求められるのです。
まとめ
本記事では情報保護のための関係法令について解説しました。
次の記事では具体的な個人情報保護のための方策,実際に漏えいしてしまった場合の各リスクについて詳しく解説していきます。
社内の情報保護規定,体制の構築について関心のある方は,弊所では無料相談も実施しております。お気兼ねなくお問い合わせください。

元裁判官、元検察官、元会計検査院の官房審議官など企業案件の知識・経験の豊富な弁護士が、企業犯罪・不祥事対応等のコンプライアンス事案に対応します。
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捜査関係事項照会が届いたら
(事例)
Aさんは、名古屋市で古物関係のお店を経営しています。ある日、Aさんのお店に、警察署から封筒が届きました。その封筒には「捜査関係事項照会書」と書いてある書類が入っており、Aさんのお店でBさんという人と取引をしたことがあるならば、その取引の履歴が解る書類を郵送して欲しいということが書いています。
さて、Aさんは、どう対応したものでしょうか。

今回は、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が「捜査関係事項照会」について解説します。
「捜査関係事項照会」とはなにか
まず捜査関係事項照会とは何でしょうか。
捜査関係事項照会は、噛み砕いていうと、警察署や検察庁のような捜査機関が役所や企業に対して、捜査に必要な情報を提供してほしいとお願いすることです。刑事訴訟法上、「捜査については、公務所又は公私の団体に照会して必要な事項の報告を求めることができる。」とされています(刑事訴訟法197条2項)。
今回のAさんとBさんの例で言うと、例えば、Bさんが何かを盗んでおり、その被害品がAさんのお店で売られた可能性があるため、Bさんの素性や取引履歴を教えて欲しいという理由から、捜査関係事項照会が送られてきた可能性があります。もっとも、古物商に対する照会であれば、警察は、書面で照会をかけるよりも、電話したり突然お店を訪れたりして尋ねることの方が多いかもしれません。
捜査関係事項照会がそのような情報提供の依頼だと解った上で、受けた側の経営者や事務担当者にとって大切なのは、その情報提供に応じる必要があるのかどうかということでしょう。
実際にはどう対応すべきか?
結論から言うと、捜査関係事項照会に対しては、原則として回答の義務を負うものの、回答しなかったからといって罰を受けるものではないということです。
まず回答義務について、例えば「条解刑事訴訟法」4版(弘文堂)374頁に「報告を求められた公務所・団体は、原則として報告すべき義務を負う」とされています。
しかし、正当な理由があれば回答を拒否することができます。例えば、当事務所は、愛知県内のとある警察署から捜査関係事項照会を受けたことがありますが、守秘義務を理由として拒否したことがあります。その後、警察署とはその件で何も問題を生じていません。
そういった正当な理由がなく拒否したり無視したりした場合は、どうでしょう。まず前提として、拒否したり無視したりしたからといって、それだけで刑罰を受けるなど不利益を被ることはありません。ただ、警察としては、捜査関係事項照会に答えてくれないのであれば、裁判所から捜索差押令状を取得した上で、乗り込んでくるという手段をとるかもしれません。令状がある捜査は、極めて例外的なよほどの事情がないと拒否できません。
また今回のAさんとBさんの例でいうと、例えば「えっ!Bさんって警察に疑われているの!!守ってあげないと。」などと思ったAさんがわざとBさんとの取引履歴を処分するようなことがあると、証拠隠滅などの犯罪で刑罰を受ける可能性があります。
以上のとおり、捜査関係事項照会に対しては、正当な理由があれば拒否できますし、拒否したり無視したりしてもそれだけで不利益を被ることはないものの回答義務自体はどうもあるようだと思ってください。
もう一点、意識しておいてもらいたいことがあります。それは、捜査関係事項照会に応じて、捜査機関に提供した書類は、捜査機関以外の人にもみられる可能性があるということです。
具体的な例で説明をします。今回のAさんとBさんの例でいうと、Bさんが窃盗の罪で起訴された、つまり裁判にかけられたとします。刑事裁判では、捜査機関は、一定の証拠を弁護士や被告人(今回の例でいうとBさん)に開示する必要があります。そうすると、Aさんが捜査機関に提供した文書がBさんにも見られる可能性があるということです。
実際問題として、Aさんが捜査機関に情報提供したからといって、AさんがBさんに対して損害賠償責任を負うリスクは低いと思われます。なぜなら、捜査関係事項照会は、法律に根拠のある手続だからです。居酒屋で偶然知り合った知らない人にお客さんの情報を漏洩してしまったというような話では個人情報の不適切管理が原因で責任追及をされても仕方ないでしょうが、捜査関係事項照会は、そういったものとは訳が違うのです。そのため、基本的には、捜査関係事項照会に応じたことを理由として責任を負う可能性は低いでしょう。
ただ、捜査関係事項照会に応じて提供した情報は、捜査機関以外の人にもみられる可能性があることは、自分が提供した情報の使い道としてしっかり把握しておくようにしてください。
当事務所に所属する弁護士(令和6年6月10日現在)の経験に次のようなものがあります。
検察官から開示された証拠の中に、愛知県内のとある金融機関が捜査機関に提供した書類が入っていました。その内容がよく解らなかったので、その金融機関に問い合わせをしました。すると、金融機関の担当者は、「なんでそんなもの持っているのですか!!」と尋ねてきました。そのような質問をされた弁護士は、「自分が提供した書類がどう使われるかも解らずに提供するなんて、この金融機関の個人情報に対する意識は大丈夫なのか?」と心配になったそうです。
捜査関係事項照会を受けて対応に困っている方は、ぜひ顧問弁護士にご相談ください。弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所では、企業の顧問業務を扱っております。
お問い合わせはこちらからどうぞ。

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ステルスマーケティング規制と行政指導・行政処分①

【事例1】
Xさんはスポーツジムやエステサロンを展開するA社の代表取締役を務めていました。
AさんはSNSを通じた顧客獲得に関心を持っていました。
そして令和6年頃からSNS上のインフルエンサーに依頼して自社のスポーツジムやエステサロンをおすすめする記事を投稿してもらっていました。
そのうちXさんは、PR案件であることを明示すれば顧客が信じないと考え、投稿された記事についてPR案件という表示を行わずに自社のサイトでお客様の声として自社のサイトにアップしていました。
この投稿が問題ではないかという声が社内であがりXさんは刑事事件や行政処分の対応に詳しいあいち刑事事件総合法律事務所の弁護士に相談しました。
(事例はフィクションです)
1 ステルスマーケティングについて
みなさんは「ステルスマーケティング」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。略称として「ステマ」と言われることも多いです。
ステルスマーケティングとは、簡単に言えば広告であるにもかかわらず、広告であることを隠すことをいうとされています。
現代では、消費者が口コミサイトやSNSでの情報や評判を基に商品やサービスを選択することが一般的になっています。
これは消費者が、企業などの広告ではなく純然たる第三者の声であれば、その情報や評判には誇大や誇張がなく信用に足りると考えることが前提となっています。
しかしその情報や評判が、企業などが広告目的で第三者の声を装って情報発信をしてしまえば消費者が第三者からの情報や評判と誤解して選択をしてしまうことになってしまい安心して商品やサービスを選択することができなくなってしまいます。
そこで広告であるにもかかわらず広告であることを隠して行う「ステルスマーケティング」の問題が近年大きくなって、法改正によって規制されるようになりました。
2 ステルスマーケティングに対する規制
ステルスマーケティングに関する規制は、令和5年10月1日に施行された不当景品類及び不当表示防止法(以下「景品表示法」といいます。)により規制されることになりました。
景品表示法第5条3項には以下の条文があります。
第五条 事業者は、自己の供給する商品又は役務の取引について、次の各号のいずれかに該当する表示をしてはならない。
(中略)
3 前二号に掲げるもののほか、商品又は役務の取引に関する事項について一般消費者に誤認されるおそれがある表示であつて、不当に顧客を誘引し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがあると認めて内閣総理大臣が指定するもの
この「内閣総理大臣が指定するもの」について、令和5年10月1日から
「事業者が自己の供給する商品又は役務の取引について行う表示であって、一般消費者が当該表示であることを判別することが困難であると認められるもの 」
が明記されることになりました。
この要件についての解説は詳しくは次回の記事で行いますが、一言で言えば、事業者が行う広告で、消費者から見て事業者が行う広告とは分からないものになります。
消費者庁のページでも様々な場合について法律に違反するかの解説がありますのでそちらのページ(https://www.caa.go.jp/policies/policy/representation/fair_labeling/stealth_marketing/)も参考にしてください。
この改正によって事業者は自社で行うPR活動についてこの規制に違反しないようにしっかりとPR戦略を見直し対応していくことが求められます。
自社のPR活動に不安を持たれている経営者の方は是非一度景品表示法などの広告規制に詳しいあいち刑事事件総合法律事務所にご相談ください。

元裁判官、元検察官、元会計検査院の官房審議官など企業案件の知識・経験の豊富な弁護士が、企業犯罪・不祥事対応等のコンプライアンス事案に対応します。
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企業における営業秘密の情報漏洩

企業において営業秘密の情報漏洩があった場合について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が解説します。
いわゆる営業秘密の保護の必要性、重要性
企業の内部で保持されているノウハウや顧客情報などの秘密情報は、企業外に漏洩されると複製やさらなる流出の危険を生じることになり、これまで当該情報を構築するために企業がせっかく投じてきた努力、コストが無駄になってしまいます。また、顧客情報が企業外に漏洩されると、顧客からの信頼も失いかねません。
このように秘密情報の漏洩により、企業は多大な損失を被る可能性があります。そのため、秘密情報の漏洩を防止するため、企業としては事前の対策を講じることが極めて重要となります。
この点、秘密情報が不正競争防止法上の「営業秘密」に該当する場合には、同法に基づく様々な保護の対象になり、万一漏洩が起きた場合にも、同法に基づく対応策を講じることが可能になります。
したがって、秘密情報の管理を検討する場合には、同法の内容を意識することも極めて重要です。
営業秘密として不正競争防止法上の保護を受けるためには
「営業秘密」とは、秘密として管理されている生産方法、販売方法その他の事業活動に有用な技術上または営業上の情報であって、公然と知られていないものをいいます(不正競争防止法2条6項)。
企業の方で、主観的に「この情報は営業秘密だ」と考えたとしても、それだけで、不正競争防止法で保護される営業秘密になるわけではありません。同法上の営業秘密は次の3つの要件を満たす必要があります。
- 秘密として管理されている情報であること
当該情報が秘密として管理されている必要があります。これは秘密に管理しようとする意思があったというだけでは足りず、客観的に秘密として扱われている必要があります。
- 有用な情報であること
当該情報が技術上又は営業上有用な情報であることが必要です。
- 公然と知られていない情報であること
当該情報が一般的には知られておらず、又は容易に知ることができないことが必要です。既に公になっている情報については、保護の必要性が欠けるからです。
企業が「営業秘密」として保護したいと考えている情報のほとんどは、②有用性と③非公知性の要件は満たします。
最も問題になるのは、①の秘密管理性の要件です。
この点、詳しく内容を説明しているものとして経済産業省が出している「営業秘密管理指針」があります。同指針も参照にしながら、この3つの要件該当性等について今後の記事で解説していきます。
営業秘密保護について,お問い合わせはこちらからどうぞ。

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