(事例はフィクションです)
Aさんは食品製造会社の開発部門に勤めていました。
Aさんはキャリアアップのために同じ業界内で何度か転職し,食品開発の研究に勤しんでいました。
ある時,Aさんは警視庁三田警察署の警察官から「不正競争防止法違反」の容疑で取り調べを受けることになりました。
過去にAさんが勤めていた会社から「営業秘密を侵害している」と告訴されてしまったのです。
Aさんとその上司は,今後の対応をどうすべきか,専門の弁護士に相談することにしました。
このページの目次
営業秘密とは何か
不正競争防止法は,企業の成長と市場の健全な発展を目的として,各企業が保有している情報を営業秘密として保護しています。
不正競争防止法は,営業秘密を次のように定義しています。
「営業秘密」とは、秘密として管理されている生産方法、販売方法その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であって、公然と知られていないものをいう。
大きく分けて,営業秘密とは
①「秘密」として管理されている情報であること(秘密性)
②事業活動のために有益な情報であること(有益性)
③誰でも知っているような情報ではないこと(非公知性)
を満たす情報を言います。
秘密性があるというのは,企業においてどのように管理されているかによって判断されます。典型的なのは,「極秘資料」や「機密資料」と印字されているものや,金庫の中で保管されているような情報,電子データベース上でパスワード保護がかけられているような情報です。もちろん,企業体の大きさによって,厳重に管理することが難しい場合もありますから,秘密性を満たすかどうかは企業規模も考慮されます。
有益性があるとは文字通り,事業にとって活用できる情報であるかどうかという点です。事業内容によって,どのような情報が活用できるものなのか変わってくるでしょう。
非公知性は,一般的には入手できないような情報であることを言います。たとえば,化学法則として知れ渡っているものや業界雑誌,研究雑誌に掲載されている情報は営業秘密とは言えません。
なお,営業秘密の保護については経済産業省がガイドラインを策定しています。こちらのページからも確認できます。
営業秘密の侵害になるのか?
営業秘密の侵害になるかどうかの判断では,「そもそも営業秘密が何にあたるのか」をよく見なければなりません。
Aさんの事例だと,過去に勤務していた会社から告訴をされているようですが,どのような情報について告訴がなされているのかを慎重に判断しなければなりません。
一般の方が考えるような「営業秘密」と,不正競争防止法上の「営業秘密」には,少なからず隔たりもあります。
実際,令和5年5月31日に東京地方裁判所で判決が言い渡された民事裁判では,営業秘密の侵害が認められないとして請求の一部が却下された事案もあります。
不正競争防止法の営業秘密の侵害に対しては,10年以下の懲役又は1000万円以下の罰金,場合によってはその両方が課されてしまいます。不正競争防止法の営業秘密侵害として取調べを受けている,呼び出しを受けている,という方は,早期に弁護士に相談された方が良いでしょう。
会社としての対応は?
不正競争防止法は,個人だけでなく,法人に対しても罰則を定めています。
法人による秘密の侵害に対しては,最大5億円の罰金が課されてしまいます。
Aさんの事例についても,Aさんが勤めている会社も他社の営業秘密を使っていたとなると,会社も起訴されたり巨額の罰金を課されたりする可能性があります。
また,取調べを受けて刑事責任を問われるのみならず,会社間での民事訴訟も提起される可能性もあります。
外部から営業秘密の侵害を指摘されたり疑われたりしている事案については,直ちに弁護士と相談をして社内調査等の対応方針を打ち合わせる必要があるでしょう。
裁判の結果によっては,金銭的な賠償のみならず,製品の製造の差し止め等のように,営業活動そのものが差し止められてしまう可能性まであります。
自社内での対応の前から,弁護士とよく相談しておく必要があります。
不正競争防止法の事例については,こちらのページでも解説をしています。