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民泊サービスを始めるための注意点②
民泊サービスを始める場合の法律上の注意点に関し弁護士が解説します②
【事例】
Aさんは京都市内で不動産業を営んでいるX社の代表取締役を務めていました。
Aさんは近年京都市内を訪れる観光客が増えていることに目を付けて、自社が保有する空き物件を活用し民泊事業を開始しようと考えました。
しかし、Aさんは民泊業を行うためにどのような設備や手続が必要か分かりませんでしたので民泊サービスの許認可関係に強い弁護士に法律相談をしました。
(事例はフィクションです)
前回の記事では民泊業を行う場合に旅館業法上の営業形態について解説しました。
今回の記事では旅館業法上の許可が必要になる場合はどのような場合であるかについて解説をさせていただきます。
1 旅館業法の許可が必要な場合について
旅館業法では旅館業を営業する場合には、旅館業法に基づく営業許可を受けなければならないと定められています。では旅館業を営業するとはどのようなものを指すのでしょうか。
旅館業法では旅館業について「宿泊料を受けて人を宿泊させる営業」と定義されています。
この定義は①宿泊料を受けて、②宿泊させる、③営業の3つの要素に分ける事ができます。
3つの要素について順に解説させていただきます。
①「宿泊料」について
宿泊料を受けているかについて料金の名目は問わず、寝具や部屋の使用料とみなされるかを実質的に判断されます。
例えば古民家などで「日本文化の体験費用」という名目で費用を払ってもらっていたとしても、実質的にはその古民家に泊まらせており寝食の代金として徴収していることが明らかな場合には宿泊料を受けているとみなされます。
②「宿泊」について
宿泊とは寝具を使用して施設を利用することとされています。
つまりベッドや布団などを用いて泊まらせる場合には、宿泊させる場合に該当するといえます。
③「営業」について
営業とは、「不特定多数の人」を対象に「反復継続」して事業として行なうこととされています。
例えば、ネットで繰り返し不特定多数を集客して有料で部屋を貸すような場合は営業にあたります。
民泊によくあるような海外のサイトと連携して集客をする場合もこれに該当します。
反対に友達に対して何日か部屋を貸すような場合には、仮にお金を貰っていたとしても特定の者を対象としており、反復することも予定されていないので「営業」には該当せず特段の許可は不要です。
Aさんは、自社の物件を使用して利用者に宿泊料を払ってもらって継続的に民泊を営むことを計画していると思われますので、原則として旅館業法上の許可が必要になると思われます。
2 許可をせずに営業をした場合にはどうなるのか
では旅館業法の許可が必要なAさんのケースのような場合に許可をせずに営業を行った場合にはどうなるのでしょうか。
旅館業法10条には次のような定めがあります。
旅館業法第10条 次の各号のいずれかに該当する者は、六月以下の拘禁刑若しくは百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
一 第三条第一項の規定に違反して同項の規定による許可を受けないで旅館業を営んだ者
条文の通り無許可営業には「6月以下の拘禁刑若しくは100万円以下の罰金」という刑事罰が定められています。
実際に無許可で旅館業を営んだことで逮捕され報道されてしまったケースもあります。
社名や会社代表の実名が報道されてしまえば、社会からの信頼を失い経営基盤が大きく揺らいでしまいます。
無許可営業を知らずに行ってしまうことがないように、これから行おうとする民泊サービスには許可が必要かどうかについて、許認可関係に詳しい弁護士に是非一度ご相談ください。

元裁判官、元検察官、元会計検査院の官房審議官など企業案件の知識・経験の豊富な弁護士が、企業犯罪・不祥事対応等のコンプライアンス事案に対応します。
全国展開している事務所だからこそできるネットワークを生かした迅速な対応が可能です。
企業犯罪・不祥事に関するお問い合わせ、ご相談のご予約は24時間365日受け付けております。
企業犯罪・不祥事が起きてしまった場合の対応にお困りの方、予防法務も含めたコンプライアンス体制の構築・見直しをお考えの経営者の方は、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所に一度ご相談ください。
民泊サービスを始めるための注意点①

民泊サービスを始める場合の法律上の注意点に関して弁護士が解説します。
【事例】
Aさんは京都市内で不動産業を営んでいるX社の代表取締役を務めていました。
Aさんは近年京都市内を訪れる観光客が増えていることに目を付けて、自社が保有する空き物件を活用し民泊事業を開始しようと考えました。
しかし、Aさんは民泊業を行うためにどのような設備や手続が必要か分かりませんでしたので民泊サービスの許認可関係に強い弁護士に法律相談をしました。
(事例はフィクションです)
1 民泊サービスと近年の法改正について
民泊(サービス)については明確な定義はありませんが、住宅(戸建て住宅やマンションなどの共同住宅)の全部または一部を活用して旅行者等に宿泊サービスを提供することを指すと言われています。
事例で挙げたように、民泊サービスは海外旅行者の増加に伴って近年注目されているビジネスの一つです。そして、平成30年6月15日より民泊サービスの普及を背景に、新たな民泊サービスの枠組みを定めた住宅宿泊事業法が施行されました。
この法律は住宅宿泊事業者としての届け出を行えば住宅で宿泊サービスを行う事ができるようになり、住居を持つものであれば一定の条件の下,以前より容易に民泊サービスが提供できるようになりました。
しかしながら、住宅宿泊事業者法の枠組みで行える民泊事業については、年間の実施制限などの規制があり営業の内容等次第では従前どおりの手続きを経る必要があるので注意が必要です。
仮に本来受けるべき許可を得ずに営業をしてしまえば、刑事罰を科される可能性もあります。
改正法による住宅宿泊事業者法の対象なる事業については別の記事で改めて詳しく解説させていただきます。
2 旅館業法に基づく許可について
先程説明した民泊事業を行う際に必要な手続きとしては、旅館業法に基づいて許可を受けることになります。
旅館業法の許可にはいくつかの種別がありますが、住宅を利用して民泊サービスを行う場合には「簡易宿所営業」で許可を取得するのが通常です。
旅館業法には簡易宿所営業の他にホテル営業、旅館営業、下宿営業があります。カプセルホテルも施設の構造にもよりますが「簡易宿所営業」に分類されることが多いです。
3 簡易宿所営業の許可を取得する場合の構造設備の基準
では簡易宿所営業を許可する場合には、施設がどのような基準を満たしていることが必要でしょうか。
簡易宿所営業における構造の基準については旅館業法施行令第1条第2項に定めがあります。
なおか簡易宿所の許可基準は平成28年4月に基準が緩和されており、このことからも政府は民泊サービスを普及させて海外旅行者の受け皿になることを期待していることが窺えます。
以下に基準を挙げておきます。
一 客室の延床面積は、三十三平方メートル(法第三条第一項の許可の申請に当たつて宿泊者の数を十人未満とする場合には、三・三平方メートルに当該宿泊者の数を乗じて得た面積)以上であること。
二 階層式寝台を有する場合には、上段と下段の間隔は、おおむね一メートル以上であること。
三 適当な換気、採光、照明、防湿及び排水の設備を有すること。
四 当該施設に近接して公衆浴場がある等入浴に支障をきたさないと認められる場合を除き、宿泊者の需要を満たすことができる規模の入浴設備を有すること。
五 宿泊者の需要を満たすことができる適当な規模の洗面設備を有すること。
六 適当な数の便所を有すること。
七 その他都道府県が条例で定める構造設備の基準に適合すること。
X社が保有する物件の設備が上記の条件を満たす場合には簡易宿所営業の許可を受けて民泊サービスを営むことが可能になります。
しかしながら設備が条件を満たしていても、必要な許可を取得しないまま民泊サービスを提供してしまえば、無許可営業として刑事罰の対象になってしまいます。
次回の記事では旅館業法上の許可が必要なのはどのような場合なのかについて解説させていただきます。

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企業における営業秘密の情報漏洩③

企業において営業秘密の情報漏洩があった場合について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が解説します。
営業秘密として不正競争防止法上の保護を受けるためには
「営業秘密」とは、秘密として管理されている生産方法、販売方法その他の事業活動に有用な技術上または営業上の情報であって、公然と知られていないものをいいます(不正競争防止法2条6項)。
すなわち、同法上の営業秘密は次の3つの要件を満たす必要があります。
- 秘密として管理されている情報であること
- 有用な情報であること
- 公然と知られていない情報であること
の3要件です。
今回は、この中で、最も問題となることの多い①秘密管理性の要件について解説します。
②情報の有用性,③情報の非公知性について前回の記事でも触れていますので併せてご確認ください。
秘密管理性の要件について
秘密管理性の要件について、経済産業省が出している「営業秘密管理指針」には、
秘密管理性要件の趣旨は、企業が秘密として管理しようとする対象(情報の範囲)が従業員等に対して明確化されることによって、従業員や取引相手先(以下、「従業員等」という。)の予見可能性、ひいては、経済活動の安定性を確保することにあるとされ、続いて、必要な秘密管理措置の程度として、秘密管理性要件が満たされるためには、営業秘密保有企業の秘密管理意思が秘密管理措置によって従業員等に対して明確に示され、当該秘密管理意思に対する従業員等の認識可能性が確保される必要がある
とされています。
営業秘密は、情報という無形のもので、占有によって保有者を明らかにすることができませんし、秘密であるところに価値が存在するため、公示にもなじみません。また、その保有携帯も様々です。そのため、営業秘密として保護を受けるためには、秘密に管理しようとする意思があっただけでは足りません。従業員等から認識可能な程度に客観的に秘密として管理されている状態にあったことが必要です。
この点、秘密管理性要件は、従来、①情報にアクセスできる者が制限されていること(アクセス制限)、②情報にアクセスした者に当該情報が営業秘密であることが認識できるようにされていること(認識可能性)の2つが判断の要素になると説明されてきました。しかしながら、現在では、両者は秘密管理性の有無を判断する重要なファクターであるが、それぞれ別個独立した要件ではなく、「アクセス制限」は、「認識可能性」を担保する一つの手段であると考えられ、したがって、情報にアクセスした者が秘密であると認識できる(「認識可能性」を満たす)場合に、十分なアクセス制限がないことを根拠に秘密管理性が否定されることはないとされています(同営業秘密管理指針6頁)。
参考となる裁判例として、「不正競争防止法2条6項が保護されるべき営業秘密に秘密管理性を要件とした趣旨は、・・・その保有者が主観的に秘密にしておく意思を有しているだけでなく、当該情報にアクセスした従業員や外部者に、当該情報が秘密であることが十分に認識できるようにされていることが重要であり、・・・可能な限り高度なアクセス制限をすることは、独立した要件ではな」いとした東京高判平成29年3月21日があります。
次回は、営業秘密の情報漏洩があった場合の不正競争防止法の罰則について、具体的に解説していきます。

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施術所の開設手続き②

【事例】
Aさんは、一念発起して、自宅のある奈良県天理市内で、資格を取得して鍼灸整骨院を開業しようと考えました。
Aさんは、鍼灸整骨院を開業するのには資格がいるというのは分かっていましたし、資格取得のために通い始めた学校も卒業が近付いてきました。
また、患者として鍼灸整骨院に通っていた経験から、健康保険も使える場面もあるようだということも知っていました。
しかし、具体的にどのような手続きをする必要があるのかまでは分かっていませんでした。
そこで、Aさんは、今後必要な手続きなどを相談するために、あいち刑事事件総合法律事務所に相談することにしました。
(事例はフィクションです。)
1 はじめに
前回の記事では、鍼灸整骨院を開業するにあたって、必要となる準備について解説してきました。
そして、必要となる資格、具体的には、柔道整復師、はり師、きゅう師の資格について解説してきました。
今回は資格取得後に必要となる届出についてみていきます。
2 必要となる届出
前回の記事でも解説しましたが、柔道整復師については柔道整復師法が、はり師やきゅう師についてはあん摩マツサージ指圧師、はり師、きゆう師等に関する法律(以下では、各資格の頭文字をとって「あはき法」といいます。)が、業務に関する規律も規定しています。
まず、柔道整復師が柔道整復の業務を行う場所のことを施術所といい(柔道整復師法2条2項)、はり師やきゅう師についても、業務を行う場所のことを施術所と呼ぶことを前提に規定がされています(あはき法9条の2第1項等)。
この施術所を開設した場合、開設してから10日以内に、施術所の所在地の保健所に届出をする必要があります(柔道整復師法19条1項前段、あはき法9条の2第1項前段)。
この届出の際に必要となるのは、柔道整復師の場合、業務に従事する柔道整復師の氏名(柔道整復師法19条1項前段、同法施行規則17条5号)、施術所の場所(柔道整復師法19条1項前段、同法施行規則17条4号)のほか、開設者の氏名と住所、開設年月日、施術所の名称、施術所の構造設備の概要と平面図(柔道整復師法19条1項前段、同法施行規則17条1号から3号、6号)が必要となります。
はり師やきゅう師の場合、基本的には柔道整復師と同じような内容が必要となるほか(あはき法9条の2第1項前段、同法施行規則22条1号から4号、7号)、開業するのがはり師なのかきゅう師なのかといった業務の種類(あはき法施行規則22条5号)、業務に従事する施術者の目が見えない場合はその旨(同施行規則22条6号)が必要となります。
また、こういった届出事項に変更が生じた場合にも、10日以内に、施術所の所在地の保健所に届出をする必要があります(柔道整復師法19条1項後段、あはき法9条の2第1項後段)。
更には、施術所を休止や廃止にしたとき(柔道整復師法19条2項前段、あはき法9条の2第2項前段)、休止した施術所を再開するとき(柔道整復師法19条2項後段、あはき法9条の2第2項後段)も同様に10日以内の届出が必要となります。
3 構造設備に関する規律
施術所は、どのような場所でも開けるわけではありません。
構造設備に関する基準や衛生上必要な措置に関する基準も定められています(柔道整復師法20条、あはき法9条の5)。
今回は、柔道整復師やはり師、きゅう師として施術所を開設するのに必要な届出について解説していきました。この続きは今後の記事で解説していきます。
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所では、刑事事件に関わってきた経験を活かし、そもそも法律に違反しないための対応・アドバイスにも力を入れています。
許認可申請についてアドバイスがほしい、継続的に弁護士からアドバイスを受けたいなどといったご要望の方も、一度、あいち刑事事件総合法律事務所にご相談ください。

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顧客情報保護のための体制と関連法令 後編

弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が営業秘密の保護,特に中小企業における顧客情報の保護に必要な態勢の構築や関連法令を解説します。前後編の後編として,具体的な対策,企業が抱える課題について深堀します。
営業秘密・顧客情報を守るための社内体制と具体的対策
営業秘密を確実に保護するには、日頃から企業内で計画的な情報管理体制を構築し、多方面から対策を講じておくことが不可欠です。中小企業の場合、大企業ほど大掛かりな設備投資は難しくても、工夫次第で最低限必要な安全策を講じることが可能です。以下に、実務上とるべき具体的措置を整理します。
1 秘密情報管理ルールの整備(就業規則への明記)
社内規程として秘密情報の定義や管理方法、禁止事項を定めましょう。就業規則に「どの情報が営業秘密に当たるか」「営業秘密を扱う際の遵守事項」「営業秘密を漏えい・不正利用した場合の懲戒処分」等を明文化し、全従業員に周知します。これにより社員は何が秘密かを認識しやすくなり、うっかり漏えいのリスクも減らせます。また社内研修を定期的に実施し、営業秘密の重要性と守秘義務について継続的に教育することも大切です。
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所では社内研修についてもご相談いただけます。
2 従業員や関係者との秘密保持契約(NDA)の締結
従業員を雇用する際や取引先と機密情報を共有する際には、必ず秘密保持契約NDA: Non-Disclosure Agreement を結びます。契約によって守秘義務を明確に認識させ、情報を外部に漏らさない旨の誓約を得ることは、現在では基本中の基本と言えます。特に社員とのNDAは「退職後も守秘義務が続く」ことを明記できるため、不正競争防止法上の義務と相まって抑止力になります。取引先や外部委託先についても、契約段階で必要な秘密保持条項を盛り込み、営業秘密や顧客データを渡す場合は目的外利用禁止や再提供禁止を取り決めておきましょう。
参考 秘密保持契約とは?(外部サイトにリンクします)
3 アクセス権管理と物理的・技術的なセキュリティ措置
秘密情報へのアクセスは「知る必要がある人」だけに限定します。社内で営業秘密を管理する際は、それが営業秘密であることを明示し(ファイルや資料に「社外秘」「Confidential」など表示)、紙媒体であれば鍵付き棚に保管、電子データならパスワードや暗号化でロックするなど厳重に管理します。さらに共有フォルダやシステム上のアクセス権限を設定し、一部の限られた担当者のみが当該情報に触れられるようにすることで、万一社内に不正者がいても被害を最小限にとどめられます。物理的にはオフィスへの入退室管理や機密エリアへの立入制限、技術的にはファイアウォールやウイルス対策ソフトの導入、USB等外部記録媒体への書き出し制御(必要に応じて禁止措置)も講じましょう。また、重要データはバックアップを取りつつ外部ネットワークから切り離した安全な場所に保管するなど、サイバー攻撃による破損・消失への備えも必要です。
4 人的対策と退職・転職時の対応
ヒューマンエラーや内部不正を防ぐため、人の面からの対策も欠かせません。日頃から従業員に対し情報管理の倫理教育を行い、機密情報を扱う際は注意深く行動する企業文化を育てます。また従業員の退職時には、会社貸与PCやデバイスの速やかな回収、私物へのデータコピーがないかの確認、メールやクラウドストレージの利用履歴チェックなどを行い、不正な持ち出しが無いことを確認します。必要に応じて退職者に秘密保持契約書の再確認や念書を書いてもらい、退職後も守秘義務が続くことを念押しすることも有効です。昨今はテレワーク等で社外から社内データにアクセスする機会も増えていますが、自宅作業時のルール(画面を他人に見られない、デバイス紛失時の報告等)も定めておき、社内外を問わず情報管理体制に隙が生じないようにしましょう。
以上のような対策を講じておけば、不正競争防止法上の「秘密管理性」の要件も概ね満たすことが期待できます。ポイントは、単一の施策だけで安心せず多層的な防御策を組み合わせることです。特に中小企業では人員や予算に限りがありますが、社員一人ひとりの意識向上と簡易なルー_ルの徹底からでも十分効果は現れます。自社の状況に合わせて無理のない範囲から着手し、徐々に管理レベルを高めていくことが重要です。
情報漏えいのリスクと中小企業が直面する課題
どれだけ対策を尽くしても、情報漏えいのリスクをゼロにすることは困難だといわれます。企業が備えるべき脅威は大きく分けて内部不正・外部攻撃・人的ミスの3種類に大別できます。
近年特に増加傾向にあるのが社員や元社員による内部不正型の漏えいです。例えば退職直前に社内データを持ち出して転職先で不正利用するといったケースや、社内権限を悪用して顧客情報を盗み出し名簿業者へ売却する事件が発生しています。実際に、ある不動産会社では元従業員が在職中に顧客情報を社外のサーバーへアップロードし、転職先でダウンロードして利用していたことが発覚し、不正競争防止法違反容疑で逮捕されています。また別の事例では、システム管理者権限を持つ元派遣社員が10年以上にわたり取引先自治体等の個人情報合計900万件以上を不正に持ち出し名簿業者に売り渡していたことが明るみに出ました。この事件では管理体制の不備が指摘され、会社は行政指導を受ける事態となり、元社員も不正競争防止法違反で起訴されています。内部犯行は一度起これば被害範囲が極めて広くなりやすく、中小企業にとっても他人事ではありません。
一方、外部からのサイバー攻撃(マルウェア感染やランサムウェアによるデータ暗号化など)による情報漏えいリスクも高まっています。実際に国内でも、ランサムウェア攻撃により顧客データが流出しかけた協同組合や、病院の電子カルテが閲覧不能になる被害が報告されています。中小企業だから狙われないという保証はなく、むしろ大企業より防御が手薄な中小企業が標的にされる傾向すら指摘されています。
加えて、従業員のうっかりミス(PCやUSBメモリの紛失、メールの誤送信、クラウド設定ミスによる公開など)も情報漏えい原因の一定割合を占めます。例えば自治体業務の委託企業で、契約社員が申請者の個人情報を付箋に書き写して持ち出すという単純な方法で不正入手していた例もありました。このように、多様な経路で漏えいは発生し得るため、技術面・人の意識両面から網羅的な対策が必要です。
中小企業が直面する課題としては、まずリソース不足による情報セキュリティ対策の遅れが挙げられます。
実際、ある調査では中小企業の多数が営業秘密の持ち出し制御策を「特に何もしていない」と回答しており、その割合は製造業で84.1%、非製造業で78.6%にも上りました。この背景には、「自社のような小規模企業が狙われるわけがない」「うちは扱う情報もたいしたことがない」といった誤った思い込みや、専門知識を持つ人材の不足、予算確保の難しさなどがあると考えられます。
また、「何を営業秘密として指定すべきか」「どう管理すれば法の保護が受けられるか」が分からず、結果的に無防備な状態になってしまっているケースも少なくありません。さらに、情報漏えい発生後の対応体制(インシデント対応計画や報告手順)が整備されていない企業も多く、いざという時に適切な被害拡大防止・法令報告ができないリスクもあります。中小企業こそ日常的かつ継続的な対策が必要ですが、現実には場当たり的な対応にとどまっている場合が多いのが課題と言えるでしょう。
近年は行政も中小企業向けの支援策を強化しています。経済産業省や情報機構では営業秘密管理指針や中小企業向けハンドブックの提供、独立行政法人INPITによる「営業秘密110番」のような相談窓口整備、またサイバー保険の普及など、企業支援の取り組みが進んでいます。自社だけで難しい部分はこうした支援も活用しながら、まずは「自社のどの情報が営業秘密か」を把握して必要な管理策を講じることから始めるのが現実的です。
情報漏えいは一度起きれば長年にわたる法的紛争に発展することもあります(例:2014年発覚の大規模漏えい事件で、2023年になって企業に賠償命令が下りました)。平時から備えを万全にし、万一トラブルが生じた場合にも迅速に対応できるよう体制を整えておくことが、これからの中小企業経営に求められています。
まとめ
顧客情報をはじめとする営業秘密の漏えい防止は、中小企業にとって避けて通れない重要課題です。不正競争防止法上の営業秘密として法的に守るためには、秘密情報を自ら適切に管理することが大前提になります。そのため、関連法令(不正競争防止法や個人情報保護法)を正しく理解し、自社に合った社内体制やルールを構築しておくことが不可欠です。具体策として、社内規程の整備、従業員や取引先との契約、アクセス制御や暗号化などの技術的対策、従業員教育と意識向上といった多角的なアプローチで情報を守りましょう。
特に人的要因による漏えいリスクは軽視できないため、「人」「技術」「制度」のバランスが取れた対策が重要です。昨今の法改正動向や判例からもわかるように、情報管理における企業責任は一段と重くなっています。自社の営業秘密を守ることは、自社の価値と信用を守ることに他なりません。日々の業務の中で機密情報を大切に扱い、万全の備えで企業の発展と顧客の信頼を守っていきましょう。

元裁判官、元検察官、元会計検査院の官房審議官など企業案件の知識・経験の豊富な弁護士が、企業犯罪・不祥事対応等のコンプライアンス事案に対応します。
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顧客情報保護のための体制と関連法令 前編

弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が営業秘密の保護,特に中小企業における顧客情報の保護に必要な態勢の構築や関連法令を解説します。
中小企業にとって、自社の営業秘密(顧客リストや技術ノウハウなどの秘密情報)を適切に保護することは、競争力維持や信頼確保の面で極めて重要です。万一これらの情報が漏えいすれば、経済的損失や法的リスクにとどまらず、企業の信用失墜といった深刻な被害につながります。
本記事では前後編の2部で解説を行い、営業秘密の定義や法的保護の要件を確認し、不正競争防止法や個人情報保護法といった関連法令について解説します。その上で、企業が実務上講じるべき具体的な対策や、情報漏えいリスクの実態と中小企業が直面する課題について、最新の事例や法改正動向を交えてわかりやすく説明します。
本記事は前編として,関係する法令について解説します。
営業秘密の定義と保護の重要性
まず営業秘密とは何かを正しく理解しましょう。不正競争防止法では営業秘密を、「秘密として管理されている生産方法、販売方法その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であって、公然と知られていないもの」と定義しています(同法2条6項)。
要するに、以下の3つの要件を全て満たす情報が営業秘密となります。
秘密管理性: 当該情報が秘密として適切に管理されていること
有用性: 事業活動にとって有用な技術上または営業上の情報であること
非公知性: 世間一般にまだ知られていない情報であること
これらの要件を満たす情報であれば、顧客情報、製品製造やサービス提供に関するノウハウ、取引先リスト、原価・仕入情報、財務データなど、企業が保有する様々な情報が営業秘密として法の保護対象になりえます。
特に中小企業にとっては、競合他社に渡れば不利益となる顧客名簿や価格戦略情報などは典型的な営業秘密と言えます。営業秘密を守ることは、自社のビジネス上の優位性を維持し、取引先や顧客からの信頼を損ねないためにも欠かせません。逆に一度漏えいすれば、先述のように金銭的損害だけでなく信用失墜といった致命的な打撃を受けかねないため、万全の管理が求められるのです。
営業秘密の保護に関わる法制度
営業秘密を取り巻く主な法制度として、日本では不正競争防止法による保護と、顧客情報が個人データである場合の個人情報の保護に関する法律(個人情報保護法)による規制の二本柱があります。それぞれのポイントを押さえておきましょう。
不正競争防止法による営業秘密の保護
不正競争防止法は営業秘密の不正取得や漏えいに対して強力な保護策を定めています。同法上、営業秘密に該当する情報について、正当な権限なく取得・使用・開示する行為は「不正競争」として禁止されます。
他者の営業秘密を侵害した者には、被害企業からの差止請求(利用や開示の停止要求)や損害賠償請求を受ける民事上の責任に加え、場合によっては刑事罰(罰金刑や懲役刑)の対象にもなり得ます。
実際に、不正競争防止法違反(営業秘密漏えい)で元社員や競合他社が逮捕・起訴される事例も増えており、法的リスクは非常に大きいと言えます。
また、不正競争防止法は営業秘密を扱う従業員に対し秘密保持義務を課している点も重要です。
この義務は在職中の社員だけでなく、退職後の元社員にも及びます。そのため、たとえ退職後であっても在職中に知り得た営業秘密を漏らした場合、元従業員は同法違反として処罰対象となることがあります。近年では、元社員が競合他社へ転職する際に前職の営業秘密(例:顧客リストや技術資料)を持ち出すケースが後を絶たず、不正競争防止法違反で逮捕・有罪判決となった例もあります(※後述の具体事例参照)。企業としては、従業員との契約や就業規則を通じて秘密保持義務を明示するとともに、退職時にも改めて守秘義務を周知することが欠かせません。
個人情報の保護に関する法律(個人情報保護法)等の関連法令
営業秘密の内容に個人の情報(氏名や連絡先等)が含まれる場合、その取り扱いには個人情報保護法も関係してきます。顧客名簿や会員データは典型的に個人情報に当たるため、中小企業であっても同法を遵守した管理が必要です。
個人情報保護法では、事業者に対し取り扱う個人データの安全管理のために必要かつ適切な措置を講じる義務(第20条)が課されています。具体的には、組織的安全管理措置(責任者の設置や社内規程の整備)、人的安全管理措置(従業員への教育・監督)、物理的・技術的安全管理措置(施錠やアクセス制御、暗号化等)を講じて、個人データが漏えい・流出しないよう対策を取らねばなりません。
また、従業員による個人データの不正持ち出し防止のための監督義務(第21条)や、外部に業務委託する場合の委託先監督義務(第22条)も定められています。
2022年4月の法改正により、個人情報の漏えい時のルールも一段と厳格化されました。従来は努力義務にとどまっていた漏えい発生時の報告・通知が義務化され、一定規模の個人データ漏えい等が生じた場合には速やかに個人情報保護委員会への報告と本人通知を行う必要があります。違反した際の罰則も強化されており、重大な漏えい事故を起こして報告を怠った場合には行政処分や罰金のリスクもあります。つまり、中小企業であっても顧客の個人情報が含まれる営業秘密については、単に秘密として管理すれば良いだけでなく、個人情報保護法に基づく適法かつ安全な取り扱い(必要な同意の取得、目的範囲内での利用、安全管理措置の実施、漏えい時の適切な対応等)を総合的に行うことが求められるのです。
まとめ
本記事では情報保護のための関係法令について解説しました。
次の記事では具体的な個人情報保護のための方策,実際に漏えいしてしまった場合の各リスクについて詳しく解説していきます。
社内の情報保護規定,体制の構築について関心のある方は,弊所では無料相談も実施しております。お気兼ねなくお問い合わせください。

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捜査関係事項照会が届いたら
(事例)
Aさんは、名古屋市で古物関係のお店を経営しています。ある日、Aさんのお店に、警察署から封筒が届きました。その封筒には「捜査関係事項照会書」と書いてある書類が入っており、Aさんのお店でBさんという人と取引をしたことがあるならば、その取引の履歴が解る書類を郵送して欲しいということが書いています。
さて、Aさんは、どう対応したものでしょうか。

今回は、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が「捜査関係事項照会」について解説します。
「捜査関係事項照会」とはなにか
まず捜査関係事項照会とは何でしょうか。
捜査関係事項照会は、噛み砕いていうと、警察署や検察庁のような捜査機関が役所や企業に対して、捜査に必要な情報を提供してほしいとお願いすることです。刑事訴訟法上、「捜査については、公務所又は公私の団体に照会して必要な事項の報告を求めることができる。」とされています(刑事訴訟法197条2項)。
今回のAさんとBさんの例で言うと、例えば、Bさんが何かを盗んでおり、その被害品がAさんのお店で売られた可能性があるため、Bさんの素性や取引履歴を教えて欲しいという理由から、捜査関係事項照会が送られてきた可能性があります。もっとも、古物商に対する照会であれば、警察は、書面で照会をかけるよりも、電話したり突然お店を訪れたりして尋ねることの方が多いかもしれません。
捜査関係事項照会がそのような情報提供の依頼だと解った上で、受けた側の経営者や事務担当者にとって大切なのは、その情報提供に応じる必要があるのかどうかということでしょう。
実際にはどう対応すべきか?
結論から言うと、捜査関係事項照会に対しては、原則として回答の義務を負うものの、回答しなかったからといって罰を受けるものではないということです。
まず回答義務について、例えば「条解刑事訴訟法」4版(弘文堂)374頁に「報告を求められた公務所・団体は、原則として報告すべき義務を負う」とされています。
しかし、正当な理由があれば回答を拒否することができます。例えば、当事務所は、愛知県内のとある警察署から捜査関係事項照会を受けたことがありますが、守秘義務を理由として拒否したことがあります。その後、警察署とはその件で何も問題を生じていません。
そういった正当な理由がなく拒否したり無視したりした場合は、どうでしょう。まず前提として、拒否したり無視したりしたからといって、それだけで刑罰を受けるなど不利益を被ることはありません。ただ、警察としては、捜査関係事項照会に答えてくれないのであれば、裁判所から捜索差押令状を取得した上で、乗り込んでくるという手段をとるかもしれません。令状がある捜査は、極めて例外的なよほどの事情がないと拒否できません。
また今回のAさんとBさんの例でいうと、例えば「えっ!Bさんって警察に疑われているの!!守ってあげないと。」などと思ったAさんがわざとBさんとの取引履歴を処分するようなことがあると、証拠隠滅などの犯罪で刑罰を受ける可能性があります。
以上のとおり、捜査関係事項照会に対しては、正当な理由があれば拒否できますし、拒否したり無視したりしてもそれだけで不利益を被ることはないものの回答義務自体はどうもあるようだと思ってください。
もう一点、意識しておいてもらいたいことがあります。それは、捜査関係事項照会に応じて、捜査機関に提供した書類は、捜査機関以外の人にもみられる可能性があるということです。
具体的な例で説明をします。今回のAさんとBさんの例でいうと、Bさんが窃盗の罪で起訴された、つまり裁判にかけられたとします。刑事裁判では、捜査機関は、一定の証拠を弁護士や被告人(今回の例でいうとBさん)に開示する必要があります。そうすると、Aさんが捜査機関に提供した文書がBさんにも見られる可能性があるということです。
実際問題として、Aさんが捜査機関に情報提供したからといって、AさんがBさんに対して損害賠償責任を負うリスクは低いと思われます。なぜなら、捜査関係事項照会は、法律に根拠のある手続だからです。居酒屋で偶然知り合った知らない人にお客さんの情報を漏洩してしまったというような話では個人情報の不適切管理が原因で責任追及をされても仕方ないでしょうが、捜査関係事項照会は、そういったものとは訳が違うのです。そのため、基本的には、捜査関係事項照会に応じたことを理由として責任を負う可能性は低いでしょう。
ただ、捜査関係事項照会に応じて提供した情報は、捜査機関以外の人にもみられる可能性があることは、自分が提供した情報の使い道としてしっかり把握しておくようにしてください。
当事務所に所属する弁護士(令和6年6月10日現在)の経験に次のようなものがあります。
検察官から開示された証拠の中に、愛知県内のとある金融機関が捜査機関に提供した書類が入っていました。その内容がよく解らなかったので、その金融機関に問い合わせをしました。すると、金融機関の担当者は、「なんでそんなもの持っているのですか!!」と尋ねてきました。そのような質問をされた弁護士は、「自分が提供した書類がどう使われるかも解らずに提供するなんて、この金融機関の個人情報に対する意識は大丈夫なのか?」と心配になったそうです。
捜査関係事項照会を受けて対応に困っている方は、ぜひ顧問弁護士にご相談ください。弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所では、企業の顧問業務を扱っております。
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企業における営業秘密の情報漏洩②

企業において営業秘密の情報漏洩があった場合について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が解説します。
営業秘密として不正競争防止法上の保護を受けるためには
「営業秘密」とは、秘密として管理されている生産方法、販売方法その他の事業活動に有用な技術上または営業上の情報であって、公然と知られていないものをいいます(不正競争防止法2条6項)。
すなわち、同法上の営業秘密は次の3つの要件を満たす必要があります。
- 秘密として管理されている情報であること
- 有用な情報であること
- 公然と知られていない情報であること
の3要件です。
今回は、この中で、比較的問題になることが少ない②有用性と③非公知性の要件について解説します。
有用性の要件について
有用性の要件について、経済産業省が出している「営業秘密管理指針」には、「有用性」が認められるためには、その情報が客観的にみて、事業活動にとって有用であることが必要である。その一方、企業の反社会的な行為などの公序良俗に反する内容の情報は、「有用性」が認められないとされています。
「有用性」の要件は、公序良俗に反する内容の情報(脱税や有害物質の垂れ流し等の反社会的な情報)など、秘密として法律上保護されることに正当な利益が乏しい情報を営業秘密から除外した上で、広い意味で商業的価値が認められる情報を保護することに主眼があります。したがって、秘密管理性、非公知性の要件を満たしている情報は、有用性が認められることが通常であり、また、現に事業活動に使用・利用されていることを要するものでもありません。過去に失敗した研究データや、製品の欠陥情報等のいわゆるネガティブ・インフォメーションにも有用性は認められます。
非公知性の要件について
同じく経済産業省が出している「営業秘密管理指針」によると、「非公知性」が認められるためには、公然と知られていない状態であることが必要であり、同状態とは、当該営業秘密が一般的に知られた状態になっていない状態、又は容易に知ることができない状態であるとされています。具体的には、当該情報が合理的な努力の範囲内で入手可能な刊行物に記載されていない、公開情報や一般に入手可能な商品等から容易に推測・分析されない等、保有者の管理下以外では一般的に入手できない状態のことです。
この点、当該情報が実は外国の刊行物に過去に記載されていたような状況であっても、当該情報の管理地においてその事実が知られておらず、その取得に時間的・資金的に相当のコストを要する場合には、非公知性はなお認められます。要するに、通常合理的な努力の範囲内では当該情報が入手できない状態を意味するといえます。
参考となる裁判例として、仮にリバースエンジニアリングによって営業秘密である技術情報に近い情報を得ようとすれば、専門家により、多額の費用をかけ、長期間にわたって分析することが必要であるものと推認されることを理由に、非公知性を肯定した大阪高判平成15年2月27日があります。
次回は、最も問題のなることの多い①秘密管理性の要件について解説していきます。
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ステルスマーケティング規制と行政指導・行政処分①

【事例1】
Xさんはスポーツジムやエステサロンを展開するA社の代表取締役を務めていました。
AさんはSNSを通じた顧客獲得に関心を持っていました。
そして令和6年頃からSNS上のインフルエンサーに依頼して自社のスポーツジムやエステサロンをおすすめする記事を投稿してもらっていました。
そのうちXさんは、PR案件であることを明示すれば顧客が信じないと考え、投稿された記事についてPR案件という表示を行わずに自社のサイトでお客様の声として自社のサイトにアップしていました。
この投稿が問題ではないかという声が社内であがりXさんは刑事事件や行政処分の対応に詳しいあいち刑事事件総合法律事務所の弁護士に相談しました。
(事例はフィクションです)
1 ステルスマーケティングについて
みなさんは「ステルスマーケティング」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。略称として「ステマ」と言われることも多いです。
ステルスマーケティングとは、簡単に言えば広告であるにもかかわらず、広告であることを隠すことをいうとされています。
現代では、消費者が口コミサイトやSNSでの情報や評判を基に商品やサービスを選択することが一般的になっています。
これは消費者が、企業などの広告ではなく純然たる第三者の声であれば、その情報や評判には誇大や誇張がなく信用に足りると考えることが前提となっています。
しかしその情報や評判が、企業などが広告目的で第三者の声を装って情報発信をしてしまえば消費者が第三者からの情報や評判と誤解して選択をしてしまうことになってしまい安心して商品やサービスを選択することができなくなってしまいます。
そこで広告であるにもかかわらず広告であることを隠して行う「ステルスマーケティング」の問題が近年大きくなって、法改正によって規制されるようになりました。
2 ステルスマーケティングに対する規制
ステルスマーケティングに関する規制は、令和5年10月1日に施行された不当景品類及び不当表示防止法(以下「景品表示法」といいます。)により規制されることになりました。
景品表示法第5条3項には以下の条文があります。
第五条 事業者は、自己の供給する商品又は役務の取引について、次の各号のいずれかに該当する表示をしてはならない。
(中略)
3 前二号に掲げるもののほか、商品又は役務の取引に関する事項について一般消費者に誤認されるおそれがある表示であつて、不当に顧客を誘引し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがあると認めて内閣総理大臣が指定するもの
この「内閣総理大臣が指定するもの」について、令和5年10月1日から
「事業者が自己の供給する商品又は役務の取引について行う表示であって、一般消費者が当該表示であることを判別することが困難であると認められるもの 」
が明記されることになりました。
この要件についての解説は詳しくは次回の記事で行いますが、一言で言えば、事業者が行う広告で、消費者から見て事業者が行う広告とは分からないものになります。
消費者庁のページでも様々な場合について法律に違反するかの解説がありますのでそちらのページ(https://www.caa.go.jp/policies/policy/representation/fair_labeling/stealth_marketing/)も参考にしてください。
この改正によって事業者は自社で行うPR活動についてこの規制に違反しないようにしっかりとPR戦略を見直し対応していくことが求められます。
自社のPR活動に不安を持たれている経営者の方は是非一度景品表示法などの広告規制に詳しいあいち刑事事件総合法律事務所にご相談ください。

元裁判官、元検察官、元会計検査院の官房審議官など企業案件の知識・経験の豊富な弁護士が、企業犯罪・不祥事対応等のコンプライアンス事案に対応します。
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企業における営業秘密の情報漏洩

企業において営業秘密の情報漏洩があった場合について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が解説します。
いわゆる営業秘密の保護の必要性、重要性
企業の内部で保持されているノウハウや顧客情報などの秘密情報は、企業外に漏洩されると複製やさらなる流出の危険を生じることになり、これまで当該情報を構築するために企業がせっかく投じてきた努力、コストが無駄になってしまいます。また、顧客情報が企業外に漏洩されると、顧客からの信頼も失いかねません。
このように秘密情報の漏洩により、企業は多大な損失を被る可能性があります。そのため、秘密情報の漏洩を防止するため、企業としては事前の対策を講じることが極めて重要となります。
この点、秘密情報が不正競争防止法上の「営業秘密」に該当する場合には、同法に基づく様々な保護の対象になり、万一漏洩が起きた場合にも、同法に基づく対応策を講じることが可能になります。
したがって、秘密情報の管理を検討する場合には、同法の内容を意識することも極めて重要です。
営業秘密として不正競争防止法上の保護を受けるためには
「営業秘密」とは、秘密として管理されている生産方法、販売方法その他の事業活動に有用な技術上または営業上の情報であって、公然と知られていないものをいいます(不正競争防止法2条6項)。
企業の方で、主観的に「この情報は営業秘密だ」と考えたとしても、それだけで、不正競争防止法で保護される営業秘密になるわけではありません。同法上の営業秘密は次の3つの要件を満たす必要があります。
- 秘密として管理されている情報であること
当該情報が秘密として管理されている必要があります。これは秘密に管理しようとする意思があったというだけでは足りず、客観的に秘密として扱われている必要があります。
- 有用な情報であること
当該情報が技術上又は営業上有用な情報であることが必要です。
- 公然と知られていない情報であること
当該情報が一般的には知られておらず、又は容易に知ることができないことが必要です。既に公になっている情報については、保護の必要性が欠けるからです。
企業が「営業秘密」として保護したいと考えている情報のほとんどは、②有用性と③非公知性の要件は満たします。
最も問題になるのは、①の秘密管理性の要件です。
この点、詳しく内容を説明しているものとして経済産業省が出している「営業秘密管理指針」があります。同指針も参照にしながら、この3つの要件該当性等について今後の記事で解説していきます。
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