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営業秘密の侵害とは何か

2024-01-26

(事例はフィクションです)
Aさんは食品製造会社の開発部門に勤めていました。
Aさんはキャリアアップのために同じ業界内で何度か転職し,食品開発の研究に勤しんでいました。
ある時,Aさんは警視庁三田警察署の警察官から「不正競争防止法違反」の容疑で取り調べを受けることになりました。
過去にAさんが勤めていた会社から「営業秘密を侵害している」と告訴されてしまったのです。
Aさんとその上司は,今後の対応をどうすべきか,専門の弁護士に相談することにしました。

営業秘密とは何か

不正競争防止法は,企業の成長と市場の健全な発展を目的として,各企業が保有している情報を営業秘密として保護しています。
不正競争防止法は,営業秘密を次のように定義しています。
 「営業秘密」とは、秘密として管理されている生産方法、販売方法その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であって、公然と知られていないものをいう。
大きく分けて,営業秘密とは
①「秘密」として管理されている情報であること(秘密性)
②事業活動のために有益な情報であること(有益性)
③誰でも知っているような情報ではないこと(非公知性)
を満たす情報を言います。
秘密性があるというのは,企業においてどのように管理されているかによって判断されます。典型的なのは,「極秘資料」や「機密資料」と印字されているものや,金庫の中で保管されているような情報,電子データベース上でパスワード保護がかけられているような情報です。もちろん,企業体の大きさによって,厳重に管理することが難しい場合もありますから,秘密性を満たすかどうかは企業規模も考慮されます。
有益性があるとは文字通り,事業にとって活用できる情報であるかどうかという点です。事業内容によって,どのような情報が活用できるものなのか変わってくるでしょう。
非公知性は,一般的には入手できないような情報であることを言います。たとえば,化学法則として知れ渡っているものや業界雑誌,研究雑誌に掲載されている情報は営業秘密とは言えません。

なお,営業秘密の保護については経済産業省がガイドラインを策定しています。こちらのページからも確認できます。

営業秘密の侵害になるのか?

営業秘密の侵害になるかどうかの判断では,「そもそも営業秘密が何にあたるのか」をよく見なければなりません。
Aさんの事例だと,過去に勤務していた会社から告訴をされているようですが,どのような情報について告訴がなされているのかを慎重に判断しなければなりません。
一般の方が考えるような「営業秘密」と,不正競争防止法上の「営業秘密」には,少なからず隔たりもあります。
実際,令和5年5月31日に東京地方裁判所で判決が言い渡された民事裁判では,営業秘密の侵害が認められないとして請求の一部が却下された事案もあります。
不正競争防止法の営業秘密の侵害に対しては,10年以下の懲役又は1000万円以下の罰金,場合によってはその両方が課されてしまいます。不正競争防止法の営業秘密侵害として取調べを受けている,呼び出しを受けている,という方は,早期に弁護士に相談された方が良いでしょう。

会社としての対応は?

不正競争防止法は,個人だけでなく,法人に対しても罰則を定めています。
法人による秘密の侵害に対しては,最大5億円の罰金が課されてしまいます。
Aさんの事例についても,Aさんが勤めている会社も他社の営業秘密を使っていたとなると,会社も起訴されたり巨額の罰金を課されたりする可能性があります。
また,取調べを受けて刑事責任を問われるのみならず,会社間での民事訴訟も提起される可能性もあります。
外部から営業秘密の侵害を指摘されたり疑われたりしている事案については,直ちに弁護士と相談をして社内調査等の対応方針を打ち合わせる必要があるでしょう。
裁判の結果によっては,金銭的な賠償のみならず,製品の製造の差し止め等のように,営業活動そのものが差し止められてしまう可能性まであります。
自社内での対応の前から,弁護士とよく相談しておく必要があります。

不正競争防止法の事例については,こちらのページでも解説をしています。

インサイダー取引とは?どのようなきっかけで発覚する可能性があるのか

2024-01-24

(事例はフィクションです)
Xさんは,元勤め先である一部上場株式会社Y社の元同僚から,同社が株式分割を決定した旨や株式分割に先立つ時期の通期個別決算における売上実績が好調である旨の各重要事実について事前に聞き,これを株式取引に利用しようと考えました。Aさんは,両事実が発表される5日前に,同社株式3000株を単価5000円で指値買注文をし,その15日後に同株式1500株を単価1万円で成行売注文をして,1500万円の利益を出しました。
Xさんは,自分の取引行為がインサイダー取引に該当するのではないかと不安に思うようになりました。

インサイダー取引とは?

インサイダー取引とは,金融商品取引法166条に違反する会社関係者による取引で,行為者に対しては5年以下の懲役もしくは500万円以下の罰金,又はその両方が科せられます(同法197条の2)。金融商品取引法166条は,会社関係者が企業の業務に関する重要事実を知って取引することを禁止しています。
関係者の取引を無制限に許していると,内部事情を知っている人が不公正な取引による不正な利益を得てしまうため,規制されています。

「重要事実」の内容についても法令によって列挙されています。その中には,株式の分割も含まれています。
株式分割は,増資を伴わず,発行済みの株式を分割するだけなので,各株主の分割株式数×株価の財産的価値は,分割前のそれと何ら変わりません。業績好調時に,分割前の配当が維持されたままの分割であれば,株式数の増加により実質増配になりますし,株価の単価が下がるため流動性が増すことになります。また,業績好調時に出来高が上がれば,結果として株価を引き上げる重要な結果となり得るので,こうした事実を重要事実として,「株式分割する予定であること」を公表前に知った者の取引が規制されており,まさにインサイダー取引規制の構成要件としては,格となる要素ということができます。

どのようなに発覚するのか

さて、このようなケースは、どのような経緯で発覚するものなのでしょうか。
例えば,冒頭の事例とは異なりますが,犯則嫌疑者が,10年前にY社の株を1000株持っており,この約10年間全く動きがなかったにもかかわらず,Y社において上場廃止基準に抵触する見込みが生じ,その公表の数日前に,証券口座を保有している証券会社に電話をかけ,全ての持ち株を値下がり前に売りつけたような場合,これ自体,実行行為たる取引行為であるとともに,重要事実の知情性がうかがわれせる事実となります。

冒頭の事例でも,結局,株式分割に加え,業績好調の事実の公表直前に,これまで動きのなかった持ち株について突然,1500万円の大金で買い注文を出し,公表後まもなく,取得株式の半分を売りつけて倍額の利益を得ているわけですから,同じことが言えます。
株価急変の原因となる事実の発生と取引の多寡や頻度の関係を調整して曖昧にすれば、より巧妙な取引になりうるわけですが、実際には、重要事実を知ってから判断にあまり時間に余裕がなかったり、安全パイだと思って集中投資をしていたため株価急落の情報に接して狼狽したりすることも少なくなくありません。

いすれにしても、証券取引等監視委員会は、こうした事実に常にアンテナをはっており、これらが調査の端緒となって、その後、取引行為の経緯,取引高,取引状況,利得の程度等が仔細に調査分析されて、最終的には、インサイダー取引の全容が明らかにされていくわけです。
なお,東京証券取引所グループおよび大阪証券取引所をまとめる日本取引所グループHPにも,インサイダー取引の概要が挙げられています。
監視委員会の調査が入った、質問顛末書をつくられた、あるいは強制調査を受けたなどというときは、一刻も早く弁護士に相談した方がいいでしょう。

インサイダー取引をはじめとした金融商品取引法違反についてはこちらのページでも解説をしています。

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