風営法違反をきっかけとした捜査

事例

(取り上げる事例はフィクションです)

某県某市で、店舗を構えて複数の個室を設けて性的なサービスを行うお店を夫婦で経営していた夫のAさんと妻のBさんがいました。このように店舗などの個室で性的サービスを行う営業は、善良な一般国民の道義観念に反し、社会に悪影響を及ぼしたり、青少年の健全な育成に障害をもたらすおそれがあることから、「風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律」、いわゆる「風営法」によって様々な規制がなされています。

Aさん達の経営する風俗店は、風俗営業の中でも「店舗型性風俗特殊営業」と言われる営業形態であり、風俗営業の中でも、特に社会への様々な悪影響がもたらされるおそれがあり、官公庁や学校などがある場所から一定距離の地域では、この店舗型性風俗特殊営業をすること自体が禁止されています。

AさんとBさんは、禁止地域で店舗型性風俗特殊営業を営んでいたことから、ある日、突然、多数の警察官がお店に乗り込んできて、いきなり「『風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律違反』により、裁判所から捜索差押許可状が発付されています。これから、お店の中を捜索します!」と言われ、裁判所から発付された令状を示されて、怒涛の如く捜索が開始されました。お店の受付には妻のBさんだけがいて、もうどうすることもできません。捜索開始から10分ほどしたところで、夫のAさんが受付の交代のためにやってきたところ、警察の捜索が入っていたことを知りビックリです。

その後、AさんとBさんは逮捕されました。弁護を受任したC先生は、直ちに初回接見に行き、Aさんの話を聞いたところ、AさんもBさんも初犯であったこと、営業を始めて3か月程度と期間が比較的短かったこと、禁止地域であることの認識がやや希薄であったこと、事実を認めて、もう廃業するとしていたことなどから、略式起訴による罰金で終結するだろうとの見通しを持ちました。
一方、他方で、共犯者にBさんがいること、事件関係者が多数であることから、勾留が認められ、接見禁止がつくであろうこと、勾留延長はやむを得ないが延長満期で罰金の処分となり釈放されるであろう見込みなどを説明しました。
ところが・・・

風営法違反事件についてはこちらのページでも解説しています。

禁止地域営業は、ただの入り口事件・・・?

C先生は、本件の延長満期2日前に、担当検事に処分見込みを確認したところ、担当検事は「本件については処分保留で再逮捕します。」というではありませんか。
再逮捕のネタはいわゆる「バテイ」でした。「バテイ」というのは、馬の蹄(ひづめ)のことではなく、業界用語で、売春防止法違反の「売春を行う場()所を提供(テイ)することを業とすること」です。
風営法の禁止地域営業は、法定刑が2年以下の懲役又は200万円以下の罰金又はその併科ですが、売春防止法違反としての場所提供罪の法定刑は、7年以下の懲役及び30万円以下の罰金と各段に重くなります(罰金が30万円と軽く見えますが、刑の重さの比較は懲役の長さが基準になります。)。

警察の本当の狙いはバテイにあったのであり、禁止地域営業は入口事件に過ぎなかったのです。
入口事件というのは、捜査を始めるきっかけとなる事件のことです。警察は、捜査をする当たって、必要に応じて検事に事前相談をして、入念な捜査計画を立てて動きだしますが、まずは、証拠の明白な手堅い事件で捜索差押えをかけるとともに被疑者らの身柄を拘束し、本丸の捜査のためのお膳立てをするのであり、そのお膳立てが入口事件なわけです。

この種の事件での警察の捜査は、まず、風営法違反の疑いで捜査を始めます。
具体的には、店舗周辺で張込をし、店舗から出てきた一般客に声をかけて店舗内でどにような性的サービスを受けたのかを聞き取りします。通常、こうした客は、警察だと聞いてとても驚きます、そして、このようなお店に行っていることが家族や職場にバレはしないかと心配するなどしていることから、これらの狼狽した状態に乗じて警察はうまく聴き取りをするわけです。この聴き取りの早い段階で店舗の女性従業員と客との間に性交渉があったことが情報として出てくることもあります。これらの客の聴き取りを何人か行い、営業実態がある程度把握できたところで、本件店舗と関係場所など複数の捜索差押許可状のほか、被疑者らの逮捕状の発付を得て、私服刑事が乗り込み「令状執行、逮捕」となるわけです。

rf: 各種業法の違反に対する罰則

この事件の顛末は・・・?

この事件では、結局、売春防止法違反(場所の提供)で再逮捕・再勾留となりましたが、弁護士Cがバテイの勾留状謄本の交付を受けたところ、ある事実に気が付きました。

なんと、禁止地域営業の逮捕勾留の日時場所と、バテイの日時場所が全く同じだったのです。逮捕勾留というのは、身柄拘束の期間が法律で厳しく制限されています。同じ事実で何度も再逮捕・再勾留ができたのでは、身柄拘束は永遠に続き、法律が身柄拘束期間を厳しく制限していることに意味がなくなります。

もっとも、この事件では、性的サービスと性交渉という行為に違いはありますが、やっていることにほとんど変わりがない上に日時場所が同じというのは、やはりおかしいと考えたC弁護士、直ちに勾留に対する準抗告の準備をするとともに、担当検事に抗議をしました。すると、準抗告の判断が出る前に、検事が被疑者らを釈放したのです。本件の実態としても、店舗で働いていた女性達が自分達の小遣い稼ぎに、AさんやBさんの認識が薄いところで勝手に売春をしていたことが判明し、その後、在宅事件となったバテイに関しては、嫌疑不十分で不起訴となり、風営法違反のみで罰金の処分でおわりました。

このように個人事業主として風俗営業に携わると刑事事件としてもさまざまなリスクを負うことがあります。こうしたリスクが現実化した場合は、この事例でもわかるように、事業に関する法規制のみならず、刑事手続にも精通した弁護士の関与を欠かすことはできません。こうした事態に陥った場合には、少しでも早く刑事事件を専門とする弁護士に相談した方がよいでしょう。

keyboard_arrow_up

0359890893 問い合わせバナー 無料相談・初回接見の流れ