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1 事例
建設会社A社の部長職を務めるXさんは、甲県が発注する予定の工事を受注したいと考え、その工事の入札に関して、担当者であるYさんに、便宜を図って欲しいと依頼をし、現金10万円の交付のほか、飲食接待を行った結果、Yさんから、入札に関する情報を教えてもらいました。
2 贈賄とは
刑法198条は、「第197条から第197条の4までに規定する賄賂を供与し、又はその申込み若しくは約束をした者は、3年以下の懲役または250万円以下の罰金に処する」としています。
そして、刑法197条から197条の4まで、収賄、すなわち、公務員が、その職務に関し、職務行為と対価関係にある利益を受け取る行為などを処罰の対象としています。
事例において、Yさんが、担当する工事の入札業務に関して、Xさんから、現金等を受け取った上で、Xさんの便宜を図っていることから、加重収賄罪(197条の3)という犯罪が成立します。
一方で、Xさんは、Yさんに対し現金等を与えていることから、先ほど説明した贈賄罪が成立します。
3 会社に生ずる責任
先ほど説明したような贈賄行為によっては、Xさんのみが刑事責任を問われ、A社自身が刑事責任を問われることはありません。
もっとも、注意すべきなのは、贈賄行為によっては、行為者だけではなく、法人も刑事責任を問われる場合があります。
たとえば、不正競争防止法という法律では、「何人も、外国公務員等に対し、国際的な商取引に関して営業上の不正の利益を得るために、その外国公務員等に、その職務に関する行為をさせ若しくはさせないこと、又はその地位を利用して他の外国公務員等にその職務に関する行為をさせ若しくはさせないようにあっせんをさせることを目的として、金銭その他の利益を供与し、又はその申込み若しくは約束をしてはならない。」とされ(同法18条1項)、これに違反した場合、その行為者は、5年以下の懲役もしくは5000万円以下の罰金(または罰金を併科)とされている(同法21条2項7号)にとどまらず、「法人の代表者又は法人若しくは人の代理人、使用人その他の従業者が、その法人又は人の業務に関し、次の各号に掲げる規定の違反行為をしたときは、行為者を罰するほか、その法人に対して」、5億円以下の罰金を科すとされています(同法22条1項2号)。
このように、会社に所属する者が一定の贈賄行為を行ってしまった場合、会社自身も刑事責任を問われる場合があります。
また、たとえば、Xさんが逮捕され、その実名や、A社の従業員であることが報道されてしまうと、会社が刑事責任を問われるかどうかにかかわらず、会社に対する信用に影響し、取引先との関係にも影響が出ることが考えられます。
仮に、会社自身が刑事責任を問われる場合には、そうした影響はより大きなものとなることが予想されます。
4 会社における対応・弁護活動
会社の従業員が、贈賄行為をしたことによって、警察沙汰になってしまった場合、まず、事件関係者から事情聴取するなどして、贈賄罪に該当するかどうか、さらには、会社自身も刑事責任を問われるかどうかを、慎重に検討する必要があります。
その上で、たとえば、その贈賄行為が、会社とは無関係であると考えられる場合には、そうしたことを、捜査機関や裁判所に対し、主張していくことになります。
また、会社の従業員による贈賄行為が報道された場合には、社会や取引先への説明を、どのような形で、どのタイミングで行うかも考える必要があります。
以上のように、会社の従業員が贈賄行為を行ってしまった場合、会社としても、様々な面での対応が求められることになり、そこには弁護士のサポートの必要性が高いと思われるものも含まれます。