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1 事例
A社に所属するXさんは、女子更衣室に、カメラを設置し、同じくA社の従業員であるYさんの下着姿を盗撮しました。
2 (前提として)性的姿態撮影等処罰法違反・撮影罪、迷惑防止条例違反
盗撮行為については、性的な姿態を撮影する行為等の処罰及び押収物に記録された性的な姿態の影像に係る電磁的記録の消去等に関する法律(以下、「性的姿態撮影等処罰法」といいます。)や、各都道府県が定める迷惑防止条例違反にて規制されています。
なお、性的姿態撮影等処罰法は、令和5年7月13日以降に行われた盗撮行為について適用があり、同月12日以前に行われたものについては、迷惑防止条例違反にて処罰の対象とされます。
性的姿態撮影等処罰法2条1号は、正当な理由がないのに、ひそかに、「性的姿態等」を撮影する行為を、原則として、3年以下の懲役(拘禁刑)又は300万円以下の罰金に処するとしています。
「性的姿態等」とは、①人の性的な部位(性器もしくは肛門もしくはこれらの周辺部、臀部または胸部)または人が身に着けている下着(通常衣服で覆われており、かつ、性的な部位を覆うのに用いられるものに限られます。)のうち現に性的な部位を直接もしくは間接に覆っている部分、②わいせつな行為または性交等がされている間における人の姿態をいいます。
XさんがYさんの下着姿を盗撮した行為は、この性的姿態撮影等処罰法違反の罪に該当し、3年以下の懲役(拘禁刑)または300万円以下の罰金の範囲で刑事責任を問われることが考えられます。
事例とは異なり、Xさんが、執務室にて、Yさんの足を盗撮していたという場合には、「性的姿態等」を盗撮したとはいえず、迷惑防止条例違反として刑事責任を問われる可能性があります(法定刑は、東京の場合、1年以下の懲役または100万円以下の罰金)。
また、盗撮は犯罪行為であるため、Xさんは、Yさんに対し、慰謝料を支払わなければならないという民事責任(損害賠償責任)を負うことになります。
3 会社に生ずる責任
盗撮は、あくまでもXさんが行ったものです。そこで、先ほど説明したような刑事責任を、A社が問われることはありません。
しかし、民事責任については、A社にも生ずる場合があります。
たとえば、XさんがYさんに対して継続的に盗撮を行っていた疑いがあり、上司もYさんから相談を受けていたにもかかわらず、何らの措置を講じなかったり、事後的に適切な対応を取らなかったりするとA社自身が民事責任を負うことになる可能性があります。
さらに、たとえば、Xさんが、Yさんに対して行った盗撮行為にて、Xさんが逮捕され、Xさんの実名や、XさんがA社の従業員であることが報道されてしまうと、会社の信用にも関わり、取引先への影響などが生ずることも考えられます。
4 会社における対応
会社が、従業員の盗撮行為を把握した際には、まず、当事者から事実関係を確認するなどの対応をする必要がありますが、その際にも、たとえば、被害者のプライバシーに配慮するなど適切な対応が求められます。
また、盗撮行為を行った従業員にどのような法的責任が生ずるのか、また、会社が法的責任を負う可能性があるのか、それを踏まえて、会社として、どのような対応をする必要があるのか、慎重に対応する必要があります。
報道のリスクといった事実上の影響に関しても、どれほどのリスクがあるのか、回避できる可能性があるのかなどを踏まえて、対応していく必要があります。
さらには、盗撮行為を行った従業員について、懲戒処分をすべきなのか、仮に、懲戒処分をするとしてもどのような処分をするべきなのかといった点について、被害者にも配慮しつつ、今後の再犯防止の観点なども踏まえて適切に対応していく必要があります。
会社にて盗撮が起きてしまった場合において、会社としては、以上のように、様々な対応をする必要があり、適切に対応していくのであれば、弁護士のサポートが必要になってくることが考えられます。