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1 はじめに
会社を経営するうえで社会から会社に対する信用は非常に重要です。現代はSNSが発達しており情報がすぐに伝達される時代になっていますので、一度悪い噂が広まればすぐに会社の信用は地に堕ち経営にも多大な影響が出てしまいます。
また最近ではSNSでの動画公開を目的とした業務妨害事件も起きて社会問題となっています。
このように基本的に企業は信用棄損や業務妨害が問題となる事件においては被害者となる場合がほとんどで加害者側になることはあまり想定されていないと思います。
しかしながら、競合他社との競争戦略が行きすれば信用棄損や業務妨害の要件にあたる場合もありますし、従業員が誤った判断をして信用棄損や業務妨害に当たる行為を行ってしまう場合もあります。
そのような事態が起こることがないように以下では、信用棄損や業務妨害の要件を確認した上で、これらの事件に対する対応について説明させていただきます。
2 信用棄損罪と業務妨害罪の要件
信用棄損罪と業務妨害罪については刑法233条及び234条に定めがあります。
以下に条文をあげます。
刑法233条
虚偽の風説を流布し、又は偽計を用いて、人の信用を毀損し、又はその業務を妨害した者は、3年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する
刑法234条
威力を用いて人の業務を妨害した者も、前条の例による
この条文のうち刑法233条の前段で定める罪を「信用棄損罪」といいます。そして業務妨害については刑法234条で定める罪を「威力業務妨害罪」といい、刑法233条後段で定める業務妨害を威力業務妨害罪と区別するために「偽計業務妨害罪」といいます。
次に条文上の要件について説明します。
まず「偽計を用いて」というのは、人を欺き誘惑する、人の錯誤や不知を利用することを意味します。つまり、相手をだます、虚偽の情報を流すなどの方法を用いる行為が「偽計」とされるのです。
よく事件になる例としていたずら電話を多数回かける、行くつもりがないのに大人数での予約を入れるなどがあります。
これに対して「威力を用いて」とは、相手の意思を制圧する程度の強い威勢を示すことをいいます。
よく事件になる例としては店内で大声を出して暴れる、爆破予告のメールを送るなどがあります。
最後に、犯罪の結果である「信用を棄損した」「業務を妨害した」の要件を説明します。信用を棄損したという要件を満たすためには客観的に見て人や会社の社会的信用を低下させる恐れがあれば足りるとされており、実際に信用が低下することまでは求められません。
「業務を妨害した」という件についても、妨害のおそれがあれば足り、実際に業務が妨害された結果の発生までは必要ではありません。
3 不正競争防止法上の信用棄損行為について
次に信用棄損罪に関して、不正競争防止法上の信用棄損行為について解説します。
不正競争防止法第2条第1項21号は、「競争関係にある他人の営業上の信用を害する虚偽の事実を告知し、又は流布する行為」を信用毀損行為とし、不正競争行為に該当するものとして禁止しています。
信用棄損罪が刑法で規定されているので、不正競争防止法では信用棄損行為について刑罰は設けられていません。
しかしながら、不正競争防止法にある信用棄損項に該当すると判断されれば、損害額の算定や信頼回復措置の義務付けなどで不正競争防止法の適用があるので民事上の紛争では非常に重要な意味を持ちます。
不正競争防止法上の信用棄損行為にあたるには刑法上の信用棄損罪の要件に加えて、被害者との間に「競争関係」があることが必要になります。
競争関係とは、現実に商品販売上の具体的な競争関係にあることまでは要求されず、公正な競争秩序を維持する必要性との観点から、同種の商品を扱うような業務関係にあればよいとされており、比較的広く解釈されています。
4 会社の従業員が競合他社に信用棄損事件や業務妨害事件を起こした場合
もちろん従業員が個人的な恨みや動機から会社とは無関係の企業や官公庁などに対し信用棄損行為、業務妨害行為を行った場合には会社が責任を負うことはありません。
しかしながら、例えば競合他社との比較広告に虚偽の内容を記載してしまったようなケースでは、記載したこと自体で刑事責任が問われる可能性があることに加えて、不正競争防止法上の信用棄損行為の問題にもなり、法人で行われていたことであれば、法人が差し止め請求や損害賠償請求の当事者になることが考えられます。
したがって、そのような指摘を受けた場合、事実が発覚した場合には早急に事実関係を調査し、必要があれば原因の除去や被害者に対する賠償などの交渉を始めることが早期解決のために重要になります。
事態が大きくなれば、自社の信頼にも関わりますので、弁護士に相談することが望ましいといえます。
5 会社が信用棄損事件や業務妨害事件の被害に遭った場合
会社がこれらの事件の被害者になってしまった場合には、発信者情報開示などを行い加害者を特定すること、刑事事件の証拠を収集して捜査機関に刑事告訴すること、民事訴訟等を提起して当該投稿や記載の差し止めを求める、事件により被った被害について賠償請求を行うなどの対応が考えられます。