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1 詐欺とは
まずは刑法第246条で規定されている詐欺罪の要件について簡単に確認させていただきます。
詐欺罪とは一言でいえば相手方をだまし、相手方が騙されているのに乗じて財産を交付させる犯罪です。
- 相手方をだます行為があること
- 相手方が騙された状態(錯誤)に陥ること
- それにより財産を交付すること
が要件になります。
2 従業員が詐欺事件を起こした場合に会社が負う責任について
詐欺罪の刑事罰については刑法第246条1項において「10年以下の懲役刑に処する」と定めがあります(刑法第246条1項)。
当然ですがこれは詐欺を行った個人に科される刑罰であるので、仮に自社の社員が会社の名前を出して詐欺行為を働いたとしても会社自身に罰金などの刑事罰が科されるわけではありません。
しかしながら従業員が会社の名前を出して詐欺行為を働く場合もあります。その場合、会社に対して被害弁償を求められる可能性もあります。したがって会社にとっても詐欺事件が無関係なわけではありません。
以下では対応等について、具体的な事例を用いて解説させていただきます。
事例
投資コンサル業を営むA社に勤務するBさんが、顧客のCさんに対して、実際には投資の実態がないにもかかわらず「必ず儲かる投資先があるから」と言って、1000万円を騙し取るという事件が発生しました。Cさんからの被害の申し出を受けて捜査が始まり、Bさんは詐欺罪の容疑で逮捕されました。
CさんはBさんから被害弁償を受けようとしましたが、既に騙し取ったお金を費消してしまったので、A社に対して、BさんはA社の従業員であるから代わりに被害金の弁償をしてほしいという請求がありました。
もちろん会社ぐるみで事例のような勧誘を行っているのであれば、指示を出していたA社の経営者も詐欺罪の共犯となりますし、A社自体も当然に損害賠償を支払う責任を負うと考えられます。
一方で実際に多いのは、会社は全く知らなかったが従業員が会社の名を勝手に借りて、事例のような詐欺事件を起こすケースになります。このような場合でも賠償金を支払う義務が会社にあるのでしょうか。
結論から言いますと、会社は使用者責任に基づいて損害賠償を支払う義務がある可能性があります。
この事例で支払う義務があるか問題になるのは、民法715条に定めのある使用者責任に基づく損害賠償支払い義務がA社に対して認められるかです。
使用者責任については民法715条に定めがあり、要件を簡単に言えば、
- 両者に使用関係があること
- 被用者が第三者に加害行為をしたこと
- 加害行為に不法行為責任が認められること
- 加害行為が事業の執行についてなされたこと
- 使用者に免責事由がないこと
ということになります。
特にA社が責任を負うかにおいて重要なのは④と⑤の要件になります。
④の要件は比較的広く解釈されているので注意が必要です。今回の投資の勧誘がA社の顧客に対すもので、BさんがA社の投資商品であるという趣旨の説明をしていれば要件を満たす可能性があります。
⑤の要件として、A社が「被用者の選任や監督に関して相当の注意をしていた」または「相当の注意をしたとしても損害が生じるのは避けられなかった」ということを立証すれば、賠償責任を負わないことになります。
この要件は会社側で立証する必要があるので立証のハードルは低くありません。
3 従業員の起こす詐欺事件に対する対策と対応
それでは先述したような事例に対してどのような対策と対応が考えられるでしょうか、事前に取りうる対策と実際に事例のような事件が発生した場合に取るべき対応はどのようなものがあるでしょうか。
(1)事前の対策
事前の予防策としてまず挙げられるのは、従業員に対する指導と、事件が起こらないようにするための体制の確立です。
例えば顧客対応に対し出来る限り複数名であたり、事例のような個人的な対応ができないようにすることが考えられます。
また賠償の責任を負った場合に備えて損害賠償保険に加入することも、被害を最低限に抑えるための事前の対策といえます。
事前にしっかりと要望策を講じていることから、先述した使用者責任の免責事由にあたると判断されたケースもあります。
(2)事後の対応
実際に事例のような詐欺事件が発生して、会社側も損害賠償責任を負う可能性が高いと判断した場合には、被害者の方との示談を締結することが望ましいといえます。
またそのような詐欺事件が発生してしまった原因をしっかりと調査して再発防止のための体制を確立することも、会社の信用回復のために重要になります。
4 会社が被害者となった場合の対応
会社が詐欺事件の被害者となった場合には、証拠を収集して捜査機関に被害届を出す、加害者に対して民事訴訟等を提起して賠償を請求する、詐欺事件の被害に遭った経緯を調査し再発防止に向けた体制を確立するなどの対応が考えられます。