労働トラブルにおいては、民事で問題になるだけでなく、刑事でも犯罪として処罰される場合があります。
以下、主な労働関係の犯罪を解説したいと思います。
このページの目次
労働基準法違反
強制労働の禁止
使用者は、暴行、脅迫、監禁その他精神又は身体の自由を不当に拘束する手段によって、労働者の意思に反して労働を強制してはなりません(第5条)。
1年以上10年以下の懲役又は20万円以上300万円以下の罰金に処されることになります(第117条・第5条)。
中間搾取の排除
何人も、法律に基いて許される場合の外、業として他人の就業に介入して利益を得てはなりません(第6条)。
1年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処されることになります(第118条第1項・第6条)。
最低年齢
使用者は、行政官庁の許可を受けた場合等を除き、児童が満15歳に達した日以後の最初の3月31日が終了するまで、これを使用してはなりません(第56条第1項)。
1年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処されることになります(第118条第1項・第56条1項)。
他にも、均等待遇、男女同一賃金の原則、公民権行使の保障、賠償予定の禁止、前借金相殺の禁止、強制貯金、解雇制限、解雇の予告、労働時間、休憩、休日、時間外及び休日の労働、時間外、休日及び深夜の割増賃金、年次有給休暇、深夜業、危険有害業務の就業制限、産前産後、育児時間、療養補償、休業補償、障害補償、遺族補償、葬祭料、寄宿舎生活の自治、寄宿舎の設備及び安全衛生、監督機関に対する申告、等に関する規定に反した場合に刑罰が定められております(第119条第1号)。
この法律の違反行為をした者が、当該事業の労働者に関する事項について、事業主のために行為した代理人、使用人その他の従業者である場合においては、事業主に対しても罰金刑を科されることになります(第121条第1項本文)。
ただし、事業主が違反の防止に必要な措置をした場合においては、罰金刑を科されることにはなりません(第121条第1項但書)。
事業主が違反の計画を知りその防止に必要な措置を講じなかった場合、違反行為を知り、その是正に必要な措置を講じなかった場合又は違反を教唆した場合においては、事業主も行為者として罰せられます(第121条第2項)。
労働安全衛生法違反
労働安全衛生法は、労働基準法と相まって、労働災害の防止のための危害防止基準の確立、責任体制の明確化及び自主的活動の促進の措置を講ずる等その防止に関する総合的計画的な対策を推進することにより職場における労働者の安全と健康を確保するとともに、快適な職場環境の形成を促進することを目的としております(第1条)。
贈収賄
製造時等検査、性能検査、個別検定又は型式検定の特定業務に従事する登録製造時等検査機関、登録性能検査機関、登録個別検定機関又は登録型式検定機関等の特定機関の役員又は職員が、その職務に関して、賄賂を収受し、要求し、又は約束する、ということをしてはなりません。
5年以下の懲役に処されます(第155条の3第1項)。
これによって不正の行為をし、又は相当の行為をしない、ということをすれば、さらに重い罪となり、7年以下の懲役に処されます(同項)。
特定業務に従事する特定機関の役員又は職員になろうとする者が、就任後担当すべき職務に関し、請託を受けて賄賂を収受し、要求し、又は約束したときは、役員又は職員になった場合において、犯罪が成立します。
特定業務に従事する特定機関の役員又は職員であった者が、その在職中に請託を受けて、職務上不正の行為をしたこと又は相当の行為をしなかったことに関して、賄賂を収受し、要求し、又は約束してはなりません。
いずれも、5年以下の懲役に処されることになります(第155条の3第2項・第3項)。
犯人が収受した賄賂は、没収もしくはその価額を追徴となります(第155条の3第4項)。
以上の場合の相手方として、賄賂を供与し、又はその申込み若しくは約束をした者にも、犯罪が成立し、3年以下の懲役又は250万円以下の罰金に処されることになります(第155条の4第1項)。
製造等の禁止
黄りんマッチ、ベンジジン、ベンジジンを含有する製剤その他の労働者に重度の健康障害を生ずる物で、政令で定めるものは、製造し、輸入し、譲渡し、提供し、又は使用してはなりません(第55条本文)。
3年以下の懲役又は300万円以下の罰金に処されます(第116条)。
ただし、試験研究のため製造し、輸入し、又は使用する場合で、政令で定める要件に該当するときは、処罰されません(第55条但書)。
他にも、製造の許可、個別検定、型式検定、秘密保持義務、等に関する規定に反した場合に刑罰が定められております(第117条)。
法人の代表者又は法人若しくは人の代理人、使用人その他の従業者が、その法人又は人の業務に関して、一定の違反行為をしたときは、行為者を罰するほか、その法人又は人に対しても罰金刑を科されます(第122条)。
最低賃金法違反
最低賃金法は、賃金の低廉な労働者について、賃金の最低額を保障することにより、労働条件の改善を図り、もって、労働者の生活の安定、労働力の質的向上及び事業の公正な競争の確保に資するとともに、国民経済の健全な発展に寄与することを目的としております(第1条)。
監督機関に対する申告
労働者は、事業場にこの法律又はこれに基づく命令の規定に違反する事実があるときは、その事実を都道府県労働局長、労働基準監督署長又は労働基準監督官に申告して是正のため適当な措置をとるように求めることができます(第34条第1項)が、使用者は、この申告をしたことを理由として、労働者に対し、解雇その他不利益な取扱いをしてはなりません(同条第2項)。
6月以下の懲役又は30万円以下の罰金となります(第39条)。
最低賃金の効力
使用者は、最低賃金の適用を受ける労働者に対し、その最低賃金額以上の賃金を支払わなければなりません(第4条第1項)。
50万円以下の罰金となります(第40条)。
法人の代表者又は法人若しくは人の代理人、使用人その他の従業者が、その法人又は人の業務に関して、一定の違反行為をしたときは、行為者を罰するほか、その法人又は人に対しても罰金刑を科されることになります(第42条)。
職業安定法違反
職業安定法は、労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律と相まって、公共に奉仕する公共職業安定所その他の職業安定機関が関係行政庁又は関係団体の協力を得て職業紹介事業等を行うこと、職業安定機関以外の者の行う職業紹介事業等が労働力の需要供給の適正かつ円滑な調整に果たすべき役割に鑑みその適正な運営を確保すること等により、各人にその有する能力に適合する職業に就く機会を与え、及び産業に必要な労働力を充足し、もって職業の安定を図るとともに、経済及び社会の発展に寄与することを目的としております(第1条)。
暴行、脅迫、監禁その他精神又は身体の自由を不当に拘束する手段によって、職業紹介、労働者の募集若しくは労働者の供給を行い、又はこれらに従事したり(第63条第1号)公衆衛生又は公衆道徳上有害な業務に就かせる目的で、職業紹介、労働者の募集、募集情報等提供若しくは労働者の供給を行い、又はこれらに従事した(第63条第2号)場合、1年以上10年以下の懲役又は20万円以上300万円以下の罰金に処されることになります(第63条)。
他にも、有料職業紹介事業の許可、許可の有効期間の更新、無料職業紹介事業の許可、委託募集の許可、労働者供給事業の許可、事業の停止の命令、名義貸しの禁止、取扱職業の範囲、事業の廃止の命令、等に関する規定に反した場合に刑罰が定められております(第64条等)。
法人の代表者又は法人若しくは人の代理人、使用人その他の従業者が、その法人又は人の業務に関して、違反行為をしたときは、行為者を罰するほか、その法人又は人に対しても罰金刑を科されることになります(第67条)。
過労死
刑法の業務上過失致死罪の成立が問題となります。
業務上必要な注意を怠り、よって人を死亡させた者は、5年以下の懲役若しくは禁錮又は100万円以下の罰金に処されます(刑法第211条)。
重大な過失により人を死亡させた者も、同様に処罰されます。
また、労働基準法の労働時間に関する規制に反した場合は、6か月以下の懲役又は30万円以下の罰金に処される可能性があります(労働基準法第119条第1号・第32条)。