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1 はじめに
ねずみ講とは、会員が下位の会員を勧誘し、さらにその会員が下位の会員を勧誘していき、ねずみ算的に加入者を増やしていくビジネスモデルのことです。
勧誘が成功すれば紹介料や手数料が手に入り、加入者が増えれば増えるほど収入が増えるというものです。
例えば、最初の会員が5人を新たに勧誘して加入させ、その5人がさらにそれぞれ5人ずつ新たに勧誘して加入させ、さらにその者たちも5人ずつ勧誘して加入させ…というような形です。
少し考えれば分かると思いますが、このようなビジネスモデルはすぐに破綻してしまいます。
人口には限りがあるため、先ほどの5人ずつの例だと、12代目で日本の人口を超過します。
また、下位になればなるほど、新規勧誘も困難となります。
そこで、ねずみ講は「無限連鎖講の防止に関する法律」でそもそも禁止されています。
ここでは、無限連鎖講の防止に関する法律を概観するとともに、関連法として「預託等取引に関する法律」についてもみていきます。
2 無限連鎖講の防止に関する法律
無限連鎖講の防止に関する法律は、全部で7条しかない非常にシンプルな法律です。
まずは、無限連鎖講の定義を確認しておきましょう。
無限連鎖講の定義
第2条 この法律において「無限連鎖講」とは、金品(財産権を表彰する証券又は証書を含む。以下この条において同じ。)を出えんする加入者が無限に増加するものであるとして、先に加入した者が先順位者、以下これに連鎖して段階的に二以上の倍率をもつて増加する後続の加入者がそれぞれの段階に応じた後順位者となり、順次先順位者が後順位者の出えんする金品から自己の出えんした金品の価額又は数量を上回る価額又は数量の金品を受領することを内容とする金品の配当組織をいう。
先ほどの例のように、1人が5人ずつ勧誘していくような場合が「無限連鎖講」に該当します。
また、金品授受も要件となっています。
例えば、加入の際に1万円を払ったとしましょう。
その加入者(=先順位者)が5人の勧誘に成功すれば、5万円が手に入るため、加入時に払った1万円を差し引いても4万円の利益が出ることになります。
これが「順次先順位者が後順位者の出えんする金品から自己の出えんした金品の価額又は数量を上回る価額又は数量の金品を受領すること」になります。
そして、このような無限連鎖講は明確に禁止されています。
第3条 何人も、無限連鎖講を開設し、若しくは運営し、無限連鎖講に加入し、若しくは加入することを勧誘し、又はこれらの行為を助長する行為をしてはならない。
無限連鎖講を開設することはもちろんのこと、加入することや勧誘することも禁止されています。さらに、無限連鎖講を開設等した場合には厳しい罰則も設けられています。
第5条 無限連鎖講を開設し、又は運営した者は、3年以下の懲役若しくは300万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
第6条 業として無限連鎖講に加入することを勧誘した者は、1年以下の懲役又は30万円以下の罰金に処する。
第7条 無限連鎖講に加入することを勧誘した者は、20万円以下の罰金に処する。
- 無限連鎖講の開設者、運営者は3年以下の懲役若しくは300万円以下の罰金又は併科
- 業として加入勧誘した者は1年以下の懲役又は30万円以下の罰金
- 加入勧誘した者は20万円以下の罰金
となっています。
単に加入したのみの場合は違法ではありますが、処罰の対象外となっていることがポイントです。
また、法人処罰規定がなく、処罰対象は個人だけです。
3 預託等取引に関する法律
上に書いたように、ねずみ講は無限連鎖講の防止に関する法律で全面的に禁止されています。
そこで、別の方法でねずみ講まがいのことをする場合があります。
例えば、実際には商品が存在しないにもかかわらず、後順位者に商品購入を勧誘し、商品を購入させ、「商品は渡さずに先順位者が預かっておく」や「先順位者に貸し出す」という形態をとるようなものです。
後順位者は商品代金を支払うことになりますが、賃料などを先順位者から受け取ることができるということになり、賃料収入が商品代金を上回れば利益が出ることになります。
この場合、無限連鎖講防止に関する法律で禁止される「無限連鎖講」には該当しなくなります。
そこで、そのようなビジネス形態をも規制しているのが「預託等取引に関する法律」です。
まずはこちらも条文を確認しておきましょう。
第2条 この法律において「預託等取引」とは、次に掲げる取引をいう。
一 当事者の一方が相手方に対して、内閣府令で定める期間以上の期間にわたり物品の預託(預託を受けた物品の返還に代えて金銭その他これに代替する物品を給付する場合を含む。)を受けること(信託の引受けに該当するものを除く。)及び当該預託に関し財産上の利益を供与することを約し、又は物品の預託を受けること(信託の引受けに該当するものを除く。)及び当該内閣府令で定める期間以上の期間の経過後一定の価格(一定の方法により定められる価格を含む。)により当該物品を買い取ることを約し、相手方がこれに応じて当該物品を預託することを約する取引
二 当事者の一方が相手方に対して、次に掲げる権利(以下「特定権利」という。)を前号の内閣府令で定める期間以上の期間管理すること(信託によるものを除き、当該期間の経過後当該特定権利に代えて金銭その他これに代替する物品を給付する場合を含む。)及び当該管理に関し財産上の利益を供与することを約し、又は特定権利を管理すること(信託によるものを除く。)及び当該内閣府令で定める期間以上の期間の経過後一定の価格(一定の方法により定められる価格を含む。)により当該特定権利を買い取ることを約し、相手方がこれに応じて当該特定権利を管理させることを約する取引
イ 施設の利用に関する権利であって政令で定めるもの
ロ 物品の利用に関する権利、引渡請求権その他これに類する権利
2 この法律において「預託等取引業者」とは、預託等取引に基づき物品の預託を受けること又は特定権利を管理すること(当該預託等取引の対象とする当該物品又は特定権利を販売することを含む。)を業として行う者(他の法律の規定でこれにより預託等取引の公正及び預託等取引に係る預託者が受けることのある損害の防止が確保されるものの適用を受ける者として政令で定めるものを除く。)をいう。
3 この法律において「勧誘者」とは、預託等取引業者が預託等取引について勧誘(当該預託等取引の対象とする物品又は特定権利の販売に関する勧誘を含む。以下同じ。)を行わせる者をいう。
4 この法律において「預託者」とは、預託等取引業者と預託等取引に係る契約(以下「預託等取引契約」という。)を締結した者をいう。
第9条 預託等取引業者等は、預託等取引業者又は密接関係者(預託等取引契約の対象とする物品又は特定権利の販売を行う者その他の預託等取引業者と密接な関係を有する者として内閣府令で定める者をいう。以下同じ。)が販売しようとする物品又は特定権利に係る売買契約(当該物品又は特定権利を預託等取引契約の対象とする売買契約に限る。以下同じ。)の締結及び当該物品又は特定権利を対象とする預託等取引契約の締結又は更新については、当該物品又は特定権利の種類ごとに、当該預託等取引業者若しくは密接関係者が当該売買契約を締結し、又は当該預託等取引業者が当該預託等取引契約を締結し、若しくは更新することにより、顧客の財産上の利益が不当に侵害されるおそれのないことにつき、あらかじめ、内閣総理大臣の確認を受けなければ、その勧誘等(勧誘又は広告その他これに類似するものとして内閣府令で定める行為をいう。以下同じ。)をしてはならない。預託等取引業者又は密接関係者が既に販売した物品又は特定権利を対象とする預託等取引契約の締結又は更新に係る勧誘等についても、同様とする。
2 前項の確認は、一年ごとにその更新を受けなければ、その期間の経過によって、その効力を失う。
3 前項の更新の申請があった場合において、同項の期間(以下「確認の有効期間」という。)の満了の日までにその申請に対する処分がされないときは、従前の確認は、確認の有効期間の満了後もその処分がされるまでの間は、なおその効力を有する。
4 前項の場合において、確認の更新がされたときは、その確認の有効期間は、従前の確認の有効期間の満了の日の翌日から起算するものとする。
5 内閣総理大臣は、第一項の確認又はその更新に際し、顧客の財産上の利益の侵害を防止するために必要な条件を付することができる。この場合において、その条件は、当該確認又はその更新を受けた者に不当な義務を課するものであってはならない。
第2条が預託等取引の定義規定になります。
そして、第9条1項により、預託等取引業者が勧誘等をする場合には、内閣総理大臣の確認が必要となります。
内閣総理大臣の確認を受けずに勧誘等を行った場合には、非常に厳しい罰則が規定されています。
第32条 次の各号のいずれかに該当する場合には、当該違反行為をした者は、5年以下の懲役若しくは500万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
一 第9条第1項の規定に違反して、同項の確認を受けないで勧誘等を行ったとき。
第38条 法人の代表者若しくは管理人又は法人若しくは人の代理人、使用人その他の従業者が、その法人又は人の業務に関して、次の各号に掲げる規定の違反行為をしたときは、行為者を罰するほか、その法人に対して当該各号に定める罰金刑を、その人に対して各本条の罰金刑を科する。
一 第32条 5億円以下の罰金
内閣総理大臣の確認を受けずに勧誘等をした場合には、5年以下の懲役若しくは500万円以下の罰金又は併科となり、無限連鎖講の防止に関する法律に比して重い罰則となっています。
また、法人処罰規定もあり、法人に対しては5億円以下という大きな罰金が科されます。
4 ねずみ講と事業者の対応
まず、ねずみ講(無限連鎖講)は法律で明確に禁止されているため、もしねずみ講を事業として行っているのであれば、直ちに廃止しなければなりません。
廃止した場合には、各加入者に金銭返還等の問題も生じます。
いま行っている事業が無限連鎖講に該当するのか、該当した場合にどのような対応をすべきなのかは弁護士から的確なアドバイスを受ける必要性が高いです。
また、無限連鎖講には該当しなかったとしても、預託等取引に関する法律の規制を受けていないか、受けているとして内閣総理大臣の確認を受けているか、確認を受けるためには具体的にどのようにすればいいのか等、法的な問題は山積です。
もし無限連連鎖講に該当してしまったり、預託等取引に関する法律違反となってしまった場合には、厳しい処罰を受けるだけではなく、報道等により社会的・経済的信用性を大きく損なう可能性も高くなります。
ねずみ講やいわゆるマルチ商法などは昨今非常に厳しい規制を受けていますので、きちんと弁護士に相談し、法律違反がないように万全を期す必要が高いでしょう。