企業内の不正(従業員・役員による不正、両罰規定)

企業内で、従業員・役員による不正行為が発生した場合に起きること

近年、企業での不祥事が後を絶ちません。

とりわけ、企業内で、横領、詐欺、背任等の犯罪行為が起きた場合、その不祥事によって企業の信用・信頼が損なわれ、それに加えてマスコミ対応等を誤ると企業が受ける損害は極めて大きなものになります。

では、企業内において従業員・役員による不正行為が判明した場合、どのように対応すればよいのでしょうか。

発覚の端緒

対応の仕方を検討する前提として、不正行為が発覚する端緒について説明します。

不祥事(不正行為)は、大きく分けて、企業内部から発覚する場合と、企業の外部から発覚する場合があります。

企業内部から発覚する場合としては、不正関与者による自己申告、内部通報のほか、内部監査部門の監査等による発覚があり、企業の外部から発覚する場合としては、マスコミ報道、捜査機関による捜査等による発覚があります。

初期調査

 企業内において不正行為が発覚した場合、その初動対応は極めて重要であり、すみやかに調査に着手する必要があります。

不祥事に関する情報を得ていながら、調査を先延ばしにしたり、何とか正当化できないかという点に腐心して調査に着手せず、事態を悪化させた企業も少なくなく、このことは企業にとって致命傷ともなり得ます。

また、現在のようなネット社会での情報の拡散する速さを勘案すると、端緒を得た時点から当該情報が公になるまでの時間は極めて短いものと想定する必要もあります。

初期段階の調査としては、不祥事に関する徹底した情報管理を行うとともに、隠滅されるおそれのある証拠を保全することが重要です。

不正行為者は、不利な証拠を隠滅したり、口裏合わせを行うなどのおそれがあるため、文書、パソコンやスマートフォン等を直ちに確保し、関係者の口裏合わせに先んじて供述内容を録取する等により、証拠を保全する必要があります。

そして、不正行為者に対して出社を許すことは、物的証拠の隠滅や口裏合わせなどを招くおそれがありますので、不正行為者に対しては自宅待機命令を出すことも考慮しなくてはなりません。

本格調査の実施

次に、初期調査によって事案の概要をつかんだら、本格調査に入ります。

調査の進め方としては、まず客観的な証拠によって動かしがたい事実を把握し、かかる動かしがたい事実を踏まえた上で、関係者からのヒアリングを行うのが通常です。

不祥事に係る事実関係の調査においては、関係する文書を検証することがまずもって基本であり、このような書証としては、会計書類、契約書類(注文書、請書、納品書等)、メール文書、帳簿、取引記録メモ、業務引き継ぎ書等があげられます。

また、現在は、業務書類の多くが、パソコンを用いて作成され、また業務上の連絡も、パソコンやスマートフォンを通じて行われるため、客観的証拠の中でも電磁的記録(電子データ)の重要性も極めて高く、いわゆるデジタル調査(デジタルフォレンジック)を実施することも重要です。

この場合、企業が迅速かつ的確な対応をとるためには、デジタルフォレンジックの専門家に調査を委託することも考えなければなりません。

次に、客観的な証拠によって動かしがたい事実を把握した後は、関係者からヒアリングを実施します。これによって、不正行為について更に正確な事実認定を行っていきます。

なお、役員が関与していないことが明らかな不正行為であれば、顧問弁護士による調査で足りることもありますが、役員の関与が疑われるような不正行為などは、外部の弁護士等に中立的・第三者的な観点からの調査を依頼することが望ましいものと考えられます。

調査結果に基づく対応

調査の結果、認定された事実に基づいて、不正行為者がどのような法的責任(刑事・民事・行政)を負うのかを評価します。

そのほか、被疑者とされるのは、原則は不正行為に関与した従業員、役員個人ですが、従業員、役員が個人責任を問われるだけでなく、法人自体が刑事責任(罰金刑)を受ける場合があります。

両罰規定のある犯罪(たとえば、不正競争防止法等の知的財産関連法、独占禁止法、各種の業法、税法など)については、企業自体が被疑者・被告人とされ得ることに十分注意する必要があります。

加えて、不正行為者の不正行為が懲戒事由に該当する場合には、不正行為者に対する懲戒処分を決する必要もあります。

その上で、不正行為が行われた原因を分析し、具体的な再発防止策を策定して、損なわれた企業の社会的評価を回復させていくことになります。

不正行為がマスコミ等によって既に公になっていたり、社会的影響が大きかったりする場合には、企業として調査結果を積極的に公表することも考える必要があるでしょう。

総括

従業員・役員による企業内の不正行為が発覚した場合には、認定された事実関係を基にしてその後の対応を決していくことになりますので、事実関係を正確に認定することが極めて重要です。

このような事実関係の正確な認定は、事実関係の調査について豊富な経験をもつ弁護士が行うことが適任です。

さらに、両罰規定のある犯罪については、企業自体が被疑者・被告人とされ得るため、企業としては、早期に弁護士に刑事弁護を依頼し、不祥事によって企業が受ける被害を最小限にとどめることが肝要といえます。

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