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1 過労死とは
近年では過労死による企業と過労死された方の遺族の方とのトラブルが報道でも取り上げられるなどして大きな社会問題となっています。当然ながら企業には過労死という悲惨な結果を招かないようにする社会的責任を負っています。
過労死(かろうし)とは、過度な長時間労働や残業を強いられた結果、「脳疾患」や「心不全」などによる急激な体調の悪化に伴う突然死のことを言い、過労死等防止対策推進法第2条では、業務上における『脳血管疾患・心臓疾患による死亡、精神障害を原因とする自殺、死亡には至らないが、脳血管疾患・心臓疾患、精神障害』と定義されています。
またこの定義に該当しないとしても、過重労働や職場でのパワハラが原因で、自殺される従業員の方もいます。このような場合も広い意味では会社の労働が原因となった労働災害といえるでしょう。
以下では過労死が発生してしまった場合に会社が負う可能性のある責任と、その場合の対応、そして一番重要なことですがそのような悲惨な結果を招かないためにどのような対策が考えられるか説明させていただきます。
2 従業員が過労死した場合に会社が負う責任
(1)刑事責任について
過労死は長時間の残業によって引き起こされるものであることは先述しました。近年の働き方改革において、残業時間については以下の規制がされています(従業員との間に36協定を結んでいる場合の規制)。
- 残業は年720時間以内
- 残業と休日労働の合計が月100時間未満
- 残業が月45時間を超えてもよいのは年間6ヶ月まで
- 2~6ヶ月の平均残業時間(休日出勤含む)がすべて80時間以内であること
上記の規制に違反した場合には会社の使用者が労働基準法違反となり刑事罰を受ける可能性があります。残業時間規制の違反については「6か月以下の懲役または50万円以下の罰金」という刑罰が規定されています。
また長時間残業を認識しながら敢えて放置していた、体調の異変に気付きながら長時間労働を強いていたなどの悪質な事情がある場合には、従業員が死亡したことに対して責任者が業務上過失致死罪(刑法211条)に問われる場合もあります。
会社の責任者が業務上過失致死罪で有罪判決を受けた場合には、許認可等にも影響が出てしまう可能性もあり、まさに過労死を防止することは会社の存続にも関わる問題なのです。
(2)民事上の責任について
企業は従業員が安全に業務を行うことができるように環境を整えておく安全配慮義務があります。これは業務上過失致死傷罪のページで挙げたような事故が起こらないようにする義務の他に、過重労働とならないように監督する義務も含まれていると解釈されています。
仮に過労死が起こってしまった場合に、当該従業員が基準を超える長時間労働が常態化しているという事実があれば、会社に安全配慮義務違反が認められる可能性が高いといえます。
そして安全配慮義務違反が認定されれば、会社はご遺族に対して損害賠償を支払う義務が発生します。残念ながら死亡するに至ってしまったケースでは損害賠償の額も1億円を超える賠償が認められるケースもあり、会社の経営基盤を揺るがしてしまう場合もあります。
過労死の場合に限らず過重労働が原因で自殺をしてしまったケース、パワハラによる半強制的な長時間労働を苦にしてうつ病を発症してしまったケースでも会社の安全配慮義務違反を認定し、損害賠償の支払いが認められたケースがあります。
悲惨な結果や重い責任を回避するためにも労働環境には細心の注意を払う必要があります。
3 過労死に対する対応
(1)社内調査
従業員の方が過労死された可能性がある場合には、まずは徹底した社内調査が必要になります。
過労死の基準となる労働時間は超えていなかったのか、労働環境は適切なものであったのか、まずはしっかりとした調査を行い、亡くなってしまった原因を究明することが重要になります。
社内の調査には事後的に隠ぺいを疑われないように専門知識のある第三者を入れて調査することが望ましいといえます。
(2)ご遺族の方への対応
もし過労死という悲惨な結果が発生してしまった場合は、遺されてしまったご遺族の方に誠心誠意対応することが必要になります。
被害感情は厳しいことが予想されますが、しっかりと謝罪や賠償の対応をすることで事態の深刻化を防ぐことが大切になってきます。
(3)労務環境の整備
そして2度と過労死という悲惨な事態が起きないように労務環境の整備を行うことが重要になります。
具体的には時間外労働に関するルールを整備して、その潜脱が起こらないようなチェック体制を確立すること、従業員の健康管理をこまめに行う、第三者による監視の目をつけることなどが対策として考えられます。
会社の内部機関だけでは難しい場合は弁護士などの専門家に依頼してアドバイスを受けることも有益になります。